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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1079289
審判番号 不服2001-4063  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-01-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-03-15 
確定日 2003-07-03 
事件の表示 平成 3年特許願第169643号「薄膜トランジスタ及びその製造方法」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年 1月29日出願公開、特開平 5- 21796]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続きの経緯・本願発明
本願は、平成3年7月10日の出願であって、その請求項に係る発明は、平成12年7月6日付及び平成13年4月9日付の各手続補正書で補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1から3に記載されたとおりの「薄膜トランジスタ」であると認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「基板上には薄膜トランジスタのソース・ドレイン領域と、前記ソース・ドレイン領域の間に形成されたチャネル領域と、前記チャネル領域にゲート絶縁膜を介して対向配置されたゲート電極と、前記ソース領域に接続されたソース配線と、前記ドレイン領域に接続されたドレイン配線とを有する薄膜トランジスタであって、
前記ソース・ドレイン領域及びチャネル領域の膜厚は500Å以下であり、
前記ソース配線及びドレイン配線は金属ナイトライドからなるバリアメタルとアルミニウムを有する多層構造からなることを特徴とする薄膜トランジスタ。」

2.引用例
これに対して、原査定において拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開昭59-31041号公報(以下、「引用例」という。)には、次のとおり記載されている。
(1)「絶縁基板上に形成された半導体膜を用いて、いわゆる薄膜半導体装置を製作するに際し、絶縁膜を介してコンタクト・ホールを通して電極配線との接続を行なうコンタクト部に於て、半導体層と電極との間に銅、クロム、チタン等の金属層を形成することを特徴とする薄膜半導体装置。」(特許請求の範囲第1項)
(2)「第2図は本発明・・・薄膜半導体装置の断面図である。石英からなる絶縁基板11の一主表面にはP型多結晶シリコン薄膜12、該P型多結晶シリコン薄膜12にリンを拡散して形成したソース拡散領域13、ドレイン拡散領域14が形成され、該ソース・ドレイン拡散領域13、14にはさまれた半導体基板13の表面には・・・ゲート絶縁膜15、多結晶シリコンからなるゲート電極16が形成され、MOS FETを構成する。」(第2頁左上欄第6-15行)(「半導体基板13」は、「多結晶シリコン薄膜12」の誤記である。)
(3)「MOS FET上には酸化シリコン膜からなる層間絶縁膜17が形成された後、コンタクト・ホールが形成され、下地多結晶シリコン層による配線層と2層目の電極配線層との接続がなされる訳であるが、この場合例えばコンタクト・ホール部を通して無電解銅メッキにより銅層18を形成後、ITO膜による電極配線層19をスパッタ蒸着後のホトリソグラフィー及びエッチング処理により形成する。
尚、電極配線19はITOに限らずアルミニウム等他の金属による配線でも良く、且つ層間金属層18はコンタクト・ホール内にとどまらずコンタクト・ホール外にはみ出して形成されても良い。」(第2頁左上欄第15行-同頁右上欄第7行)
(4)「本発明によると下地薄膜半導体層と上部電極配線層との間に他の金属層をはさんで形成することにより、例えば下地半導体層がシリコンで、上部電極配線層がITOの場合に、ITOが下地シリコン層からシリコンを吸収して配線抵抗あるいは接触抵抗を増大させるのを、中間に形成した銅等のシリコンと相互拡散を起こし難い金層をはさむことにより、配線抵抗あるいは接触抵抗の小さな電極配線の接続が可能となる効果がある。」(第2頁右上欄第8行-同欄第17行)(なお、引用例の記載において「電極配線19」と「電極配線層19」の両者が使用されているが、以後は、構成要素「19」を「電極配線」と記載する。)
よって、引用例には、
絶縁基板上に形成された薄膜半導体装置において、前記薄膜半導体装置は、ソース拡散領域・ドレイン拡散領域と、ソース拡散領域とドレイン拡散領域との間に位置する多結晶シリコン薄膜と、前記多結晶シリコン薄膜上に形成されたゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、前記ソース拡散領域及び前記ドレイン拡散領域にコンタクト・ホール部でそれぞれ接続された電極配線とを備えるものであって、
前記電極配線はアルミニウム等の金属配線からなると共に、コンタクト・ホール部で、チタン等の金属層とアルミニウム等の金属配線との多層からなることを特徴とする薄膜半導体装置が記載されている。

3.対比
本願発明と引用例に記載された発明(以下「引用発明」という)を対比すると、
引用発明の「薄膜半導体装置」、「ソース・ドレイン拡散領域」、「ソース拡散領域とドレイン拡散領域との間に位置する多結晶シリコン薄膜」、「多結晶シリコン薄膜上に形成されたゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極」は、それぞれ、本願発明の、「薄膜トランジスタ」、「ソース・ドレイン領域」、「チャネル領域」、「チャネル領域にゲート絶縁膜を介して対向配置されたゲート電極」に相当し、
引用発明の「電極配線」は、ソース拡散領域とドレイン拡散領域とにそれぞれ接続しているので、配線であることにおいて、本願発明の「ソース配線」及び「ドレイン配線」に相当するから、
両者は、
「基板上には薄膜トランジスタのソース・ドレイン領域と、前記ソース・ドレイン領域の間に形成されたチャネル領域と、前記チャネル領域にゲート絶縁膜を介して対向配置されたゲート電極と、前記ソース領域に接続された配線と、前記ドレイン領域に接続された配線とを有する薄膜トランジスタ。」である点で一致し、
以下の点で相違する。
(1)相違点1
本願発明においては、「前記ソース・ドレイン領域及びチャネル領域の膜厚は500Å以下」であるのに対して、引例発明では、「ソース・ドレイン領域」及び「チャネル領域」に相当する「多結晶シリコン薄層」の膜厚が記載されていない点。
(2)相違点2
本願発明では、「前記ソース領域に接続されたソース配線と、前記ドレイン領域に接続されたドレイン配線」とを備えているのに対して、引用発明では、「前記ソース拡散領域及び前記ドレイン拡散領域にコンタクト・ホール部でそれぞれ接続された電極配線」を備えた点。
(3)相違点3
本願発明では、「前記ソース配線及びドレイン配線は金属ナイトライドからなるバリアメタルとアルミニウムを有する多層構造」を備えているの対して、引例発明では、「前記電極配線はアルミニウム等の金属配線からなると共に、コンタクト・ホール部で、チタン等の金属層とアルミニウム等の金属配線との多層からなる」点。

4.当審の判断
上記相違点について、以下で検討する。
(1)相違点1について
引用例には、薄膜トランジスタのソース・ドレイン領域及び、チャネル領域に対応する「多結晶シリコン薄膜」の膜厚が500Å以下である点は記載されていない。しかしながら、チャネル領域の膜厚が1000Å程度以下の薄膜トランジスタにおいて、チャネル領域の膜厚を薄く形成するほど、オフ時のリーク電流が減少し、オン時の電流が大きいこと即ち、薄膜トランジスタの特性が改善できること、及び薄膜トランジスタのチャネル領域の膜厚を500Å程度以下とすることは本願出願当時周知の技術的事項であり(必要とあれば、例えば、特開平1-100970号公報、特開昭61-85868号公報、特開昭60-136262号公報等参照のこと)、また、薄膜トランジスタにおいて、ソース・ドレイン領域とチャネル領域とを構成する半導体薄膜を同時に同一工程で形成することは通常行われており、ソース・ドレイン領域の膜厚とチャネル領域の膜厚とを同等とすることは慣用手段に過ぎないので、ソース・ドレイン領域及びチャネル領域の膜厚を500Å以下とすることは、当業者が必要に応じて適宜設定し得る程度の技術的事項に過ぎない。

(2)相違点2について
引用発明における、電極配線は、ソース拡散領域またはドレイン拡散領域のそれぞれにコンタクト・ホール部で接続されており、一方、本願発明においてもソース配線及びドレイン配線は、それぞれソース領域及びドレイン領域に接続されており、引用発明の電極配線が、本願発明のソース配線及びドレイン配線に相当することは明らかであるので、実質的な相違点ではない。

(3)相違点3について
引用例に、コンタクト・ホール部に銅層18を形成した後、電極配線19を形成すること及び、銅、チタン等の金属層からなる層間金属層18はコンタクト・ホール内にとどまらずコンタクト・ホール外にはみ出して形成しても良いことが記載されていると共に、電極配線を複数の金属層で構成することは、半導体分野において従来より周知の技術的事項に過ぎないので、引用発明において、コンタクト・ホール部に接続された電極配線を、コンタクト・ホール部のみでなく、コンタクト・ホール部からの延長部分においても、複数の金属層からなる金属配線で構成することは、当業者が薄膜半導体装置の構成の検討において当然考慮する技術的事項であること、
引用例には、電極配線として機能する金属層が下地シリコン層からシリコンを吸収して配線抵抗あるいは接触抵抗を増大させること、及び、金属層と下地シリコン層との中間に形成した銅等のシリコンと相互拡散を起こし難い金属層をはさむことにより、配線抵抗あるいは接触抵抗の小さな電極配線の接続が可能となる効果があることが記載されている(第2頁右上欄第10行-同欄第17行)ことから、引用例に記載される「銅、クロム、チタン等の金属層」が、バリアメタルとして機能することは明らかであること、
そもそもバリアメタルは、金属層相互の接触部における合金反応やシリコンの金属配線への拡散を抑制するための金属層であり、また、引用例にも記載されているように、薄膜半導体装置(薄膜トランジスタ)においても、バリアメタルを金属層相互の接続部に介在させることにより、下地シリコン層(ソース・ドレイン領域のシリコン薄層)の膜厚減少または、金属配線との接触抵抗の増大を抑制することができることは、出願当時において広く知られた技術的事項であること、
シリコン基板と金属配線との接続部において、バリアメタルとして窒化チタン層を用いることは、本願出願当時周知の技術的事項であること(必要とあれば、例えば、特開平1-233726号公報、特開昭63-175420号公報等参照のこと)、
バリアメタルは、下地シリコン層が、シリコン薄膜であるか、シリコン基板であるか否かにかかわらず、バリアメタルとしては同等の機能を奏するものであること、及び、
チタンナイトライドが金属ナイトライドであることが自明であること、
これらの技術的事項を参酌すると、引用例に記載される、コンタクト・ホール部に形成されたバリアメタルとアルミニウムとの多層金属層を従来周知の多層金属配線の如く、コンタクト・ホール部のみでなく、ソース配線・ドレイン配線全体に渡り形成することに何ら阻害となる要因はないので、引用例に記載される電極配線(ソース配線及びドレイン配線)がアルミニウム等の金属配線からなると共に、コンタクト・ホール部で、チタン等の金属層とアルミニウム等の金属配線との多層からなるものにおいて、バリアメタルとして、チタン等の金属層に代えて、本願出願当時周知のバリアメタルである、窒化チタン(チタンナイトライド)を用いることにより、ソース配線及びドレイン配線をチタンナイトライドとアルミニウムからなる多層構造、即ち、ソース配線及びドレイン配線を金属ナイトライドとアルミニウムからなる多層構造とすることは、当業者が容易になし得た技術的事項にすぎないものと認められる。
よって、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願は、請求項2乃至3に係る発明について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、結論のとおりに審決する。
 
審理終結日 2003-04-24 
結審通知日 2003-04-30 
審決日 2003-05-22 
出願番号 特願平3-169643
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 河本 充雄  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 朽名 一夫
河合 章
発明の名称 薄膜トランジスタ及びその製造方法  
代理人 上柳 雅誉  

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