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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K
管理番号 1079408
審判番号 不服2000-19089  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-07-20 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-11-30 
確定日 2003-07-09 
事件の表示 平成 3年特許願第345840号「差動調整式前後輪駆動力配分制御装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年 7月20日出願公開、特開平 5-178114]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯の概要・本願発明1
本願は、平成3年12月27日の出願であって、その請求項1ないし3に係る発明は、平成11年3月26日付け、平成12年6月16日付け及び平成12年12月28日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以後、「本願発明1」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】前輪側と後輪側との間の差動状態を調整することで前輪及び後輪への駆動力配分を制御する差動調整式前後輪トルク配分制御装置において、
各車輪の回転速度を検出する車輪速検出手段と、
車体速度を検出又は算出する車体速検出手段と、
上記の車輪速検出手段からの車輪速情報と車体速検出手段からの車体速情報とに基づいて上記の各車輪がスリップ状態であるときに上記車輪速値と上記車体速値との差が大きいほど差動制限量が大きくなるように制御する制御手段とが設けられている
ことを特徴とする、差動調整式前後輪駆動力配分制御装置。」

2.引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶理由に引用した刊行物A(特開昭63-103736号公報)には、差動装置や四輪駆動車のトランスファ装置等の動力分割装置に用いられ、差動制限トルクや駆動力配分トルクを可変にする車両用駆動系クラッチ制御装置に関して、下記の事項ア〜オが図面とともに記載されている。
ア;「本発明の解決手段を、第1図に示すクレーム概念図により述べると、エンジン駆動力を前後または左右の駆動輪1,2に分配伝達する動力分割装置3と、該動力分割装置3の駆動入力部と駆動出力部との間に設けられ、外部からのクラッチ締結力により伝達トルクを発生させる駆動系クラッチ手段4と、車両状態を検出する検出手段5からの入力信号に基づきクラッチ締結力を増減させる制御信号を出力するクラッチ制御手段6と、を備えた車両用駆動系クラッチ制御装置において、前記クラッチ制御手段6を、駆動輪1,2がスリップ状態である時には車速が低い程クラッチ締結力を高める制御を行なう手段とした。」(第2頁右上欄7行〜19行)

イ;「多板摩擦クラッチ手段11は、前記差動装置10の駆動入力部と駆動出力部との間に設けられ、外部油圧によるクラッチ締結力が付与され、差動制限トルクを発生する手段である。」(第3頁左上欄7行〜10行)

ウ;「尚、第6図に示す制御電流値i*の立ち上り特性を前後輪の回転速度差ΔNとクラッチ締結圧P(目標圧)との関係であらわすと、第7図に示すようになり、各特性は、回転速度差ΔNが大きくなる程クラッチ締結圧Pが高まり、また、車速VがV1→V2→V3と大きくなる程圧力レベルが低い特性を示す。」(第5頁左上欄7行〜13行)

エ;「例えば、実施例では、差動制限クラッチ制御装置の例を示したが、特開昭61-157437号に示される様な四輪駆動車の駆動力を前後輪に分配するトランスファ装置の駆動力配分比を変更するトランスファクラッチにも適用できる。
尚、四輪駆動車に適用した場合には、低摩擦計数路での発進性や走破性が高められると共に、発進後に所定の車速に達したらクラッチ締結力を下げることで、4輪ドリフトが防止される。」(第5頁左下欄5行〜13行)

オ;「また、実施例では駆動輪のスリップ状態を前後輪の回転速度差ΔNにより判断する例を示したが、加速度V(原文では上に・有り)により間接的に判断しても、左右輪の回転速度差や車体速度と駆動輪速度からスリップ状態を把握するようにしてもよいということは言うまでもない。」(第5頁左下欄19行〜右下欄4行)

3.対比・判断
上記刊行物Aに記載された記載事項ア〜オからみて、刊行物Aに記載された発明の車両用駆動系クラッチ制御装置(差動調整式トルク配分制御装置)は、四輪駆動車の駆動力を前後輪に分配するトランスファ装置の駆動力配分比を変更するトランスファクラッチ(差動調整式前後輪トルク配分制御装置)に適用できるものであって、車速(車体速)を直接的に検出或いは間接的算出する手段を備えていることは当業者であれば自明の事項にすぎないものであるから、本願発明1の用語を使用して本願発明1と刊行物Aに記載された発明を対比すると、両者は、「前輪側と後輪側との間の差動状態を調整することで前輪及び後輪への駆動力配分を制御する差動調整式前後輪トルク配分制御装置において、各車輪の回転速度を検出する車輪速検出手段と、車体速度を検出又は算出する車体速検出手段と、各車輪がスリップ状態であるときにスリップ状態が大きいほど差動制限量が大きくなるように制御する制御手段とが設けられている差動調整式前後輪駆動力配分制御装置。」で一致しており、下記の点で相違している。

相違点;本願発明1では、車輪速検出手段からの車輪速情報と車体速検出手段からの車体速情報とに基づいて各車輪がスリップ状態であるときに上記車輪速値と上記車体速値との差が大きいほど差動制限量が大きくなるように制御する制御手段が設けられているのに対して、刊行物Aに記載された発明では、前輪(非駆動輪)の車輪速検出手段からの車輪速情報と後輪(駆動輪)の車輪速検出手段からの車輪速情報とに基づいて各車輪がスリップ状態であるときに上記前後輪の車輪速の差が大きいほどクラッチ締結圧(差動制限量)が高く(大きく)なるように制御する制御手段が設けられている点。

上記相違点について検討するに、刊行物Aに記載された発明において、駆動輪のスリップ状態を判断するために前輪(非駆動輪)の車輪速を検出することの技術的意義は、本願発明1の「車体速」に相当する速度として前輪(非駆動輪)の車輪速を検出することにあることは、前輪(非駆動輪)と後輪(駆動輪)の速度差から車輪のスリップ状態を判断していることからみて当業者であれば自明のことである。
そして、上記記載事項エ、オからも理解されるように、前後輪に駆動力トルクが配分される四輪駆動車では、四輪とも駆動輪となることから、スリップ状態を判断するためには、本願出願前当業者において普通に採用されている車体速度(車体速値)と駆動輪速度(車輪速値)からスリップ状態を把握する手段を採用しなければならないことは、当業者であれば容易に理解できることである。
そうすると、差動調整式前後輪駆動力配分装置を備えた四輪駆動車のような車両では、各車輪のスリップ状態を判断するために、刊行物Aに記載されたような前輪(非駆動輪)の車輪速値に代えて、本願発明1のように検出又は算出した車体速値を採用して各車輪のスリップ状態を判断することは、刊行物1に記載された事項を知り得た当業者であれば容易に想到することができる程度の事項であると認める。
また、本願発明1による効果について検討しても、刊行物Aに記載された発明から当業者であれば予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。

ところで、請求人は、審判請求書中で概略、「引用例1(刊行物A)の第5頁左下欄第19行〜右下欄第4行の記載(記載事項オ)は単にスリップ状態の把握方法を例示したものであって、スリップ状態を把握した後に差動制限量をどのように制御するかに関して示唆するものではない。つまり、引用例1(刊行物A)には、車体速が大きいほど差動制限量が小さくなるように制御すること以外には何ら開示されていない。」旨主張している。
しかしながら、刊行物A(引用例1)の記載事項ウからも理解されるように、前後輪の回転速度差ΔN(本願発明1の「車輪速値と車体速値との差」に相当)とクラッチ締結圧P(差動制限量)との関係は、第7図に示すように回転速度差ΔNが大きくなる程(車輪速値と車体速値との差が大きいほど)クラッチ締結圧Pが高まる(差動制限量を大きくする)ように制御することが記載されているものであって、スリップ状態を把握した後に差動制限量を本願発明1と同様に制御することが具体的に記載されているものである。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

4.むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項2,3に係る発明について検討するまでもなく、本願発明1(本願の請求項1に係る発明)は、刊行物Aに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-05-07 
結審通知日 2003-05-13 
審決日 2003-05-26 
出願番号 特願平3-345840
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田々井 正吾藤井 新也  
特許庁審判長 村本 佳史
特許庁審判官 内田 博之
前田 幸雄
発明の名称 差動調整式前後輪駆動力配分制御装置  
代理人 真田 有  

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