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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B41N |
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管理番号 | 1079438 |
審判番号 | 不服2002-17135 |
総通号数 | 44 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1994-02-01 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-09-05 |
確定日 | 2003-07-11 |
事件の表示 | 平成 4年特許願第200474号「平版印刷版用支持体の製造方法及び支持体を用いた感光性平版印刷版の製造方法」拒絶査定に対する審判事件[平成6年2月1日出願公開、特開平6-24166]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成4年7月3日の出願であって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。 「アルミニウム板の表面を中心線平均粗さRaが0.4〜1.0μmとなるように機械的に粗面化して起伏を形成する第1工程と、 0.5乃至30g/m2の範囲で前記起伏上の全面に、機械的に粗面化した際に形成された尖った凹凸を化学的にエッチングする第2工程と、 10乃至60A/dm2の陽極時電流密度、200乃至600クーロン/dm2の陽極時電気量で酸性水溶液中において平均開孔径0.2乃至5μm且つ3×106乃至9×108個/cm2以上のピットを前記起伏上の全面に渡って形成する交流電解粗面化を行う第3工程と、 塩基によって前記ピットを角のないなだらかな形状にするように0.1乃至10g/m2の範囲で化学的にエッチングを行う第4工程と、 陽極酸化処理して陽極酸化被膜を形成させる第5工程とを含有する平版印刷版用支持体の製造方法であって、 前記第2工程では、前記起伏上の全面に形成された尖った凹凸を、プラトー形状とならない範囲で、角のないなだらかな形状にすることを特徴とする平版印刷版用支持体の製造方法。」 2.引用例 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された各刊行物とその記載事項は次のとおりである(記載中「・・・」は中略を示す)。 (1)特開昭56-47041号公報(以下、「引用例1」という) 1-a.「ポジ型感光性平版印刷版の製造方法」(発明の名称) 1-b.「本発明に用いるアルミニウム板には、純アルミニウム及びアルミニウム合金が含まれる。アルミニウム合金としては種々のものが使用でき」(2頁右下欄5〜7行) 1-c.「本発明の好ましい態様においては・・・アルミニウム板の表面を機械的に粗面化され・・・機械的な粗面化は、ボールグレイニング、ワイヤーグレイニング、ブラシグレイニングなどの種々の方法で行なうことができるが、工業的には、ブラシグレイニング法が好ましい。ブラシグレイニング法の詳細については、特公昭51-46003号公報(または米国特許第3,891,516号明細書)および特公昭50-40047号公報に記載され・・・平版印刷版用支持体の中心線平均あらさ(Ra)が0.4〜1.0μとなる様に施されることが好ましい。」(3頁左上欄1〜13行) 1-d.「次いで、・・・化学的エツチング処理は、機械的粗面化されたアルミニウム板の表面に食い込んだ研磨剤、アルミニウム屑などを取り除く作用を有し、その後に施される電機化学的な粗面化をより均一に、しかも効果的に達成させることができる。かかる化学的エツチング方法の詳細は、米国特許第3,834,998号明細書に記され・・・具体的には酸または塩基の水溶液へ浸漬する方法である。・・・塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、第三燐酸ナトリウム、第三燐酸カリウム、アルミン酸ナトリウム、・・・炭酸ナトリウムなどが含まれる。・・・塩基の水溶液を使用する方がエツチング速度が早いので好ましい。化学的エツチングは、これらの酸またはアルカリの0.05〜40重量%水溶液を用い40°C〜100°Cの液温において5〜300秒処理するのが一般的である。」(3頁左上欄15行〜右上欄16行) 1-e.「引続き硝酸電解液中で粗面化処理がなされる。・・・使用される交番波形電流とは・・・正弦波の単相交流および正弦波の三相交流・・・などの交番波形電流も含まれる。・・・陽極時電気量(QA)が陰極時電気量(QC)よりも大となるように・・・米国特許第4,087,341号明細書に記載されているような、陽極時電圧が陰極時電圧よりも大となるような電圧で・・・アルミニウム板に交番波形電流を流す方法が好ましい。・・・第1図(a)は正弦波・・・を用いた交番波形電圧であり・・・電流密度は約10アンペア/dm2から約100アンペア/dm2、より好ましくは10〜80アンペア/dm2であり、電気量は約100クーロン/dm2から約30000クーロン/dm2、より好ましくは100〜18000クーロン/dm2の範囲から選ばれる。・・・なお、前記のような機械的粗面化を施したアルミニウム板の場合には加えられる電気量の上限は低くなり、より具体的には、200クーロン/dm2〜4000クーロン/dm2の範囲が好ましい。」(3頁左下欄3行〜4頁左上欄5行) 1-f.「このように電解粗面化処理された表面にはスマツトが生成するためそれを除去するために、アルカリにより軽度にエツチングされる。・・・アルカリエツチングに用いるエツチング剤は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、第三りん酸ナトリウム、第三りん酸カリウム、アルミン酸ソーダ、・・・炭酸ナトリウムが用いられ、0.5〜40重量%水溶液を用い20〜80°Cの温度において1〜60秒処理するのが一般的であり、アルカリによる表面の溶解量は0.1〜4g/m2にするのが好ましく、・・・溶解量が4g/m2になると耐刷性の低下が著しい。」(4頁左上欄14行〜左下欄11行) 1-g.「陽極酸化処理は、この分野で従来より行なわれている方法で行なうことができ・・・アルミニウム支持体表面に陽極酸化皮膜を形成させることができる。」(4頁左下欄18行〜右下欄5行) 等が図面と共に記載されている。 また、図面第1図(a)のVAとVCがそれぞれ陽極時電気量QAと陰極時電気量QCに対応する陽極時電圧と陰極時電圧であることは明らかである。 (2)特公昭62-25117号公報(以下、「引用例2」という) 2-a.「平版印刷版用支持体及びその製造方法」(発明の名称) 2-b.「砂目立て処理した際に生じる不溶解性物質(例えば研磨剤残渣、アルミ研削屑、ブラシ破片等)により・・・支障をもたらし・・・欠点があった。そのため、砂目立て処理した後、中間処理を行い・・・中間処理方法としては・・・化学的エツチング法及び・・・電気化学的エツチング法が知られている。」(2頁3欄6〜22行) 2-c.「本発明の目的は・・・親水性と保水性のよい・・・耐刷性の向上した・・・平版印刷版用支持体およびその製造方法を提供することにある。・・・アルミニウム支持体の表面を例えば2000〜5000倍に拡大した場合に観察されるような微小な凹凸面の形状が上記の如き性能を有する平版印刷版用支持体を得る上で非常に大きな影響を及ぼすことを見い出し、本発明をなすに至つた」(2頁3欄37行〜4欄8行) 2-d.「以下、本発明を添付の図面を用いて詳細に説明する。第1図aは、機械的な砂目立て法であるブラシグレイニングにより砂目立てしたアルミニウム板の表面・・・写真であり、・・・第1図bに示されているように、・・・比較的周期の長い波を第1次構造、周期の短い波を第2次構造とすると・・・第1次構造の上に・・・第2次構造が重畳され・・・第2次構造の凹部の貫通方向が直線的ではなく、2次元的もしくは3次元的に入り組んだ複雑なものとなっている。このような複雑な第2次構造を有する点が機械的に砂目立てされたアルミニウム板の表面に共通している粗面構造における大きな特徴となっている。・・・複雑な粗面構造であるが故に・・・種々の欠点がある。」(2頁4欄22行〜3頁5欄2行) 2-e.「第2図aは、機械的に砂目立てしたのち、化学的にエツチングした・・・写真であり、第2図bに示されているように・・・第2次構造が実質的に消失しており、主として第1次構造より構成されているなだらかな起伏をもつた形状(以下、プラトーと記す。)となっている。・・・陽極酸化処理を施したのちにおいても白色度の高い表面が得られ、非画像部に汚れが発生することの少ない・・・しかし・・・第2次構造が消失してしまつている為に・・・画像部が支持体表面から脱落し易く・・・耐刷力が低下してしまう」(3頁5欄3〜20行) 2-f.「第3図aは、機械的に砂目立てし、化学的にエツチングしたのち、電解処理を施した・・・写真であり、・・・第3図aおよびbから明らかな如く・・・新しい第2次構造が形成され・・・プラトー面に対して貫通方向がほぼ垂直なピツトであり、・・・均一に散在し・・・プラトーが残存する程度の密度に存在している・・・陽極酸化処理した場合においても白色度の高い表面を与え・・・画像部が印刷中に脱落することがなく・・・高い耐刷力を有し・・・非画像部に汚れが発生することの少ない平版印刷版が得られる・・・ピツトは、孔径が3μ以下のものが適当であり、その密度は2×107〜9×107個/cm2程度が好ましい。」(3頁5欄21行〜6欄16行) 2-g.「砂目は後に述べる化学的エツチングにより平滑化される微細構造(第2次構造)と、化学的エツチングで破壊されない粗面(第1次構造)とより成り・・・酸又はアルカリにより化学的にエツチングされる。・・・アルカリ剤は、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、アルミン酸ソーダ、・・・燐酸ソーダ、水酸化カリウム・・・等を用い・・・Alの溶解量が5〜20g/m2となるような条件が好ましい。」(4頁7欄6〜24行) 2-h.「引き続いて電解処理が施され・・・酸性水溶液中で・・・20A/dm2以上の陽極時電流密度で交番波形電流を加えて、200クーロン/dm2以下の陽極時電気量で電解される。・・・第4図・・・aは正弦波・・・の電圧波形である。・・・孔径(ピツト径)は0.1μ〜20μ、孔の密度は2×107〜9×107個/cm2の砂目を任意に作製できる。・・・ピツトの孔径は前述の如く3μ以下となるようにすることが好ましい。・・・70〜200クーロン/dm2が好ましく、200クーロン/dm2より多くなると、非画像部が汚れにくい特性が低下する。・・・陽極時電流密度は20A/dm2以上、好ましくは25〜70A/dm2であることが必要である。・・・20A/dm2より低くかつ・・・200クーロン/dm2以下の条件では充分な耐刷性、保水性、微小網点の再現性を確保することがむずかしい。」(4頁7欄33行〜5頁9欄6行) 2-i.「電解粗面化処理されたアルミニウム板の表面にはスマツトが生じるので、このスマツトを取り除く為に・・・酸またはアルカリの水溶液と・・・浸漬処理などの方法で接触させ・・・アルカリとしては、先に説明した機械的な粗面化ののちに施し得る化学的エツチング処理の場合と同様のものを使用することができ・・・アルカリエツチする」(5頁9欄13〜27行) 2-j.「陽極酸化処理は、この分野で従来より行なわれている方法で行なうことができ・・・アルミニウム支持体表面に陽極酸化皮膜を形成させる」(5頁9欄28〜34行) 等が図面と共に記載されている。 また、図面第1図(b)の記載からみて、上記記載事項2-d,e,gにおける第2次構造は第1次構造の起伏上の全面に形成された尖った凹凸である。 3.対比 (1)引用例1に記載された発明 上記記載事項1-c、1-d、1-e、1-f、1-gにより示された各工程はそれぞれ本願発明の第1、第2、第3、第4、第5の工程に対応し、また、記載事項1-cの機械的粗面化により表面には当然に起伏が形成され、記載事項1-eの数値が示された電流密度と電気量が陽極時についてのものであることは明らかであり、記載事項1-fのアルカリは塩基である。 してみると、引用例1には、上記記載事項1-a〜gを含む明細書及び図面の記載からみて、次の発明(以下、「引用発明1」という)が記載されている。 「アルミニウム板の表面を中心線平均粗さRaが0.4〜1.0μmとなるように機械的に粗面化して起伏を形成する第1工程と、 前記起伏上の全面を化学的にエッチングする第2工程と、 10乃至100A/dm2、好ましくは10乃至80A/dm2の陽極時電流密度、100乃至30000クーロン/dm2、好ましくは100乃至18000クーロン/dm2、さらに上限が低くなる例では200乃至4000クーロン/dm2の陽極時電気量で酸性水溶液中において前記起伏上の全面に渡って交流電解粗面化を行う第3工程と、 塩基によって0.1乃至4g/m2の範囲で化学的にエッチングを行う第4工程と、 陽極酸化処理して陽極酸化被膜を形成させる第5工程とを含有する平版印刷版用支持体の製造方法。」 (2)引用例2に記載された発明 上記記載事項2-d、2-e及び2-g、2-f及び2-h、2-i、2-jにより示された各工程はそれぞれ本願発明の第1、第2、第3、第4、第5の工程に対応し、また、記載事項2-hの交番波形電流に交流が含まれることは明らかであり、記載事項2-iのアルカリは記載事項2-gのアルカリと同様のものであるから塩基である。 してみると、引用例2には、上記記載事項2-a〜jを含む明細書及び図面の記載からみて、次の発明(以下、「引用発明2」という)が記載されている。 「アルミニウム板の表面を機械的に粗面化して起伏を形成する第1工程と、 5乃至20g/m2の範囲で前記起伏上の全面に、機械的に粗面化した際に形成された尖った凹凸を化学的にエッチングする第2工程と、 20A/dm2以上、好ましくは25乃至70A/dm2の陽極時電流密度、200クーロン/dm2以下、好ましくは70乃至200クーロン/dm2の陽極時電気量で酸性水溶液中において平均開孔径0.1乃至20μm、好ましくは3μm以下且つ2×107乃至9×107個/cm2程度のピットを前記起伏上の全面に渡って形成する交流電解粗面化を行う第3工程と、 塩基によって化学的にエッチングを行う第4工程と、 陽極酸化処理して陽極酸化被膜を形成させる第5工程とを含有する平版印刷版用支持体の製造方法。」 (3)本願発明と引用発明1の対比 本願発明(前者)と引用発明1(後者)とは、第1工程における中心線平均粗さRaの範囲が一致し、第3工程における陽極時電流密度と陽極時電気量、及び第4工程におけるエッチング量において重なる範囲を有することから、「アルミニウム板の表面を中心線平均粗さRaが0.4〜1.0μmとなるように機械的に粗面化して起伏を形成する第1工程と、前記起伏上の全面を化学的にエッチングする第2工程と、10乃至60A/dm2の陽極時電流密度、200乃至600クーロン/dm2の陽極時電気量で酸性水溶液中において前記起伏上の全面に渡って交流電解粗面化を行う第3工程と、塩基によって0.1乃至10g/m2の範囲で化学的にエッチングを行う第4工程と、陽極酸化処理して陽極酸化被膜を形成させる第5工程とを含有する平版印刷版用支持体の製造方法。」において一致し、次の点で相違する。 <相違点1>第1工程の機械的粗面化により、前者は起伏上の全面に尖った凹凸が形成されているのに対して、後者は定かでない点。 <相違点2>第2工程において、前者は尖った凹凸をプラトー形状とならない範囲で角のないなだらかな形状にするように0.5乃至30g/m2の範囲でエッチングするのに対して、後者は定かでない点。 <相違点3>第3工程において、前者が、平均開孔径0.2乃至5μm且つ3×106乃至9×108個/cm2以上のピットを起伏上の全面に渡って形成するのに対して、後者はピットの形成自体定かでない点。 <相違点4>第4工程において、前者がピットを角のないなだらかな形状にするのに対して、後者はピットの形成自体定かでない点。 4.当審の判断 相違点1について検討するに、引用発明1の第1工程における機械的粗面化は、好ましくは特公昭51-46003号公報(又は米国特許第3,891,516号明細書)及び特公昭50-40047号公報に記載されているブラシグレイニング法により施されるものであるが(記載事項1-c等参照)、これは、本願発明の第1工程における機械的粗面化が、好ましくは特公昭51-46003号公報(又は米国特許第3,891,516号明細書)及び特公昭50-40047号公報に記載されているブラシグレイン方法により施されること(本願明細書段落0009参照)と符合するものである。 また、引用発明2の第1工程に関して、引用例2に、ブラシグレイニングによる機械的粗面化により起伏上の全面に尖った凹凸が形成されることがアルミニウム板の表面に共通した特徴である旨記載されている(記載事項2-d及び第1図b等参照)。 これらのことに加え、引用発明1のアルミニウム板は、純アルミニウムや種々のアルミニウム合金を用いてよいから(記載事項1-b等参照)、本願発明におけるアルミニウム板と差異があるわけではないこと、及び本願発明と引用発明1の中心線平均粗さRaが一致していることを勘案すると、引用発明1においても起伏上の全面に尖った凹凸が本願発明と同様に形成されていると認められるから、相違点1は実質的な相違点とはいえない。 相違点2について検討するに、引用発明1の第2工程における化学的エッチングは、機械的粗面化されたアルミニウム板の表面に食い込んだ研磨剤やアルミニウム屑などを取り除いて、その後に施される電機化学的な粗面化をより均一且つ効果的に達成させるためのものであり、具体的には米国特許第3,834,998号明細書に記載された酸又は塩基の水溶液へ浸漬する方法であって、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、第三燐酸ナトリウム、第三燐酸カリウム、アルミン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの塩基の0.05〜40重量%水溶液を用い40°C〜100°Cの液温において5〜300秒処理するものであるが(記載事項1-d参照)、これは、本願発明の第2工程における化学的エッチングが、機械的粗面化されたアルミニウム板の表面に食い込んだ研磨剤やアルミニウム屑などを取り除いて、その後に施される電気化学的な粗面化をより均一且つ効果的に達成させるためのものであり、具体的には米国特許第3,834,998号明細書に記載された酸又は塩基の水溶液へ浸漬する方法であって、好ましくは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、第三燐酸ナトリウム、第三燐酸カリウム、アルミン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムなどの塩基の0.05〜40重量%水溶液を用い40°C〜100°Cの液温において5〜300秒処理するものであること(本願明細書段落0012,0013参照)と符合するものである。 ところで、第2工程における化学的エッチングを際限なく進めていけば、起伏上の尖った凹凸が角のないなだらかな形状となり、ついにはなだらかとなった凹凸が消失してなだらかな起伏即ちプラトー形状となり、最終的にはプラトーまでも消失することは明らかであるが、プラトーまで消失すれば第1工程の意味がなくなり、かつ、引用発明1における第2工程の化学的エッチングの目的は、上述したように、その後の電機化学的な粗面化をより均一且つ効果的に達成するために、第1工程で機械的粗面化されたアルミニウム板の表面に食い込んだ研磨剤やアルミニウム屑などを取り除ければよいのであるから、起伏上の尖った凹凸がその間にある研磨剤やアルミニウム屑などが容易に取り除かれるであろう角のないなだらかな形状となるところまで化学的エッチングを行うことは容易に想起できることである。 その際、エッチング量は当然に決めておかなければならない設計事項であるが、上述したように、本願発明と引用発明1は、用いられるアルミニウム板や第1工程に差異があるわけではなく、第1工程に引き続く第2工程における化学的エッチングの目的、方法、塩基、処理条件等においても差異がないものであるから、引用発明1における上記の際のエッチング量が本願発明における0.5乃至30g/m2の範囲以外しか採り得ないとは考え難い。 さらにいえば、引用発明2の第2工程に係る引用例2の記載に5乃至20g/m2の範囲が示され(記載事項2-g等参照)、この範囲が尖った凹凸の消失に係る範囲であるとしても(記載事項2-e等参照)、引用発明1における上記の際のエッチング量が引用例2記載の上記範囲とかけ離れたものになるとは考え難く、少なくとも引用例2の記載からでも5g/m2以下の近接した値は想起できることから、本願発明における0.5乃至30g/m2の範囲内の値が当業者にとって予想もできないものであるとはいえない。 したがって、相違点2は当業者が容易になし得たものである。 請求人は、審判請求書において、本願出願当初明細書の段落0012に記載されていた「微小な尖った凹凸を消失させるか又は角のないなだらかな形状にする」を審判請求書の補正時に「微小な尖った凹凸を角のないなだらかな形状にする」と補正し、本願発明においてこの点を限定してあることには、本願明細書の段落0005に「プラトーを形成するため比表面積が小さくなり、保水性が悪く、湿し水を大量に出さなければならず高品質の印刷物を得ることができない。」と記載されていることから、逆にいえば、プラトー形状としないことで、比表面積が大きくなり、保水性が増し、湿し水が少量で済み、高品質の印刷物を得られるという格別の効果を奏する意味がある旨主張している。 しかし、引用発明1の第2工程においては、上述したように、第1工程で機械的粗面化されたアルミニウム板の表面に食い込んだ研磨剤やアルミニウム屑などを取り除ければよいのであって、起伏上の尖った凹凸を完全に消失させてプラトー形状となるまで化学的エッチングを行う必要はないのであるから、この主張は理由がなく採用できない。 なお、引用例2において起伏上の尖った凹凸を消失させてプラトー形状としていることは、研磨剤やアルミニウム屑などを取り除くためもあるが(記載事項2-b参照)、さらに、アルミニウム支持体の表面を例えば2000〜5000倍に拡大して観察してみると(記載事項2-c参照)、起伏上の尖った凹凸の凹部の貫通方向が直線的でなく入り組んだ複雑なものであって種々の欠点を有しているところ、化学的エッチングによりプラトー形状にしておけば、電解処理により形成されたピットがプラトー面に対してほぼ垂直の貫通方向となると共に均一に散在するなどして好ましいという新たな観点でなされているのであり(記載事項2-d〜f参照)、引用発明1が引用例2記載の該新たな観点に拘束されなければならないとする理由はないから、引用例2の存在が引用発明1の第2工程において起伏上の尖った凹凸を角のないなだらかな形状となるところまで化学的にエッチングすることの阻害要因になるわけではない。 相違点3について検討するに、引用発明1の第3工程は、その交流電解粗面化方法に米国特許第4,087,341号明細書に記載されているような方法が採用されるのであるが(記載事項1-e参照)、これは、本願発明の第3工程における交流電解粗面化方法に米国特許第4,087,341号明細書に記載されている方法が採用されること(本願明細書段落0015参照)と符合し、かつ、引用発明2の第3工程に係る引用例2の記載(記載事項2-f,h等参照)からみて、ピットを形成するためのものであることは明らかである。 ところで、引用例2には、平均開孔径0.1乃至20μm、好ましくは3μm以下で、2×107乃至9×107個/cm2程度のピットを起伏上の全面に渡って形成することが記載され(記載事項2-f,h等参照)、そのピットの平均開孔径と密度の範囲は本願発明の第3工程におけるピットの平均開孔径0.2乃至5μmと密度3×106乃至9×108個/cm2の範囲と重なる範囲を有するものである。 引用発明2においてピットの平均開孔径と密度の範囲を上記の如く定める目的は、その後の陽極酸化処理においても白色度の高い表面を与え、画像部の脱落を防止して高い耐刷力を得るためなどであるが(記載事項2-f等参照)、これらのことは引用発明1においても当然に考慮されるべき設計的事項であるから、引用発明1の第3工程において形成されるピットの平均開孔径と密度として引用発明2における上記範囲を採用することは当業者ならば容易に想起し得ることである。 したがって、相違点3は当業者が容易になし得たものである。 相違点4について検討するに、化学的エッチングを進めていく過程では、角張った部分などは真っ先にエッチングされてなだらかになっていくのは明らかであることに加え、ピットが消失するまでエッチングすれば第3工程でピットを形成した意味がなくなるから、ピットを角のないなだらかな形状にするようにエッチングすることは当然のことであって、相違点4は実質的な相違点とはいえない。 そして、上記相違点1乃至4に係る構成を備えた本願発明の作用効果にも格別のものは認められない。 5.むすび したがって、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2003-03-11 |
結審通知日 | 2003-04-01 |
審決日 | 2003-05-06 |
出願番号 | 特願平4-200474 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B41N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 中澤 俊彦 |
特許庁審判長 |
小沢 和英 |
特許庁審判官 |
砂川 克 番場 得造 |
発明の名称 | 平版印刷版用支持体の製造方法及び支持体を用いた感光性平版印刷版の製造方法 |
代理人 | 小山 有 |