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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B66B
管理番号 1079519
異議申立番号 異議2000-74180  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2000-11-18 
確定日 2003-04-07 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3045890号「車いす用踏段付エスカレータ」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3045890号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3045890号の請求項1ないし請求項3に係る発明についての出願は、平成5年3月17日に特許出願され、平成12年3月17にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、西本志より請求項1ないし請求項3に係る発明の特許について特許異議の申立てがなされ、平成13年2月1日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成13年4月17日に特許明細書を訂正しようとする訂正請求書及び特許異議意見書が提出されたものである。

II.訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
特許権者の求める訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の記載について、「・・・前記操作部を前記欄干部の踏段走行方向に沿って・・・」とあるのを、「・・・前記操作部を前記欄干部の内側の踏段走行方向に沿って・・・」と訂正する。

(2)訂正事項b
発明の詳細な説明の段落0009の記載について、「・・・操作部を欄干部の踏段走行方向に沿って・・・」とあるのを、「・・・操作部を前記欄干部の内側の踏段走行方向に沿って・・・」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
(1)訂正事項aについて
この訂正は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲における「操作部」の配設構成を限定しようとする訂正であり、願書に添付した明細書の「欄干部2には、鎖17で駆動される無端状の移動手摺2aとスカートガード2bの間に欄干パネル2cが取り付けられ、この欄干パネル2cには、内側(踏段9側)に車いす運転停止ボタンスイッチ3が踏段走行方向に沿った3個所にほぼ等間隔に取り付けられている。この車いす運転停止ボタンスイッチ3には、キースイッチからなる再起動スイッチ4が隣接してそれぞれ取り付けられている。したがって、運転停止ボタンスイッチ3とキースイッチからなる再起動スイッチ4とを有する操作部は、欄干部2の踏段走行方向に沿って間隔をおいた複数個所に設けられていることになる。」(本件特許公報第5欄第10〜20行参照)の記載に基づく訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項bについて
この訂正は、上記訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立てについての判断
1.本件の請求項1ないし請求項3に係る発明
上記II.で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1ないし請求項3に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 車いす運転モード時にのみ動作する運転停止スイッチと、車いす運転モードにおける停止状態から再起動させる再起動スイッチとを有する操作部を欄干部に設けた車いす用踏段付エスカレータにおいて、前記操作部を前記欄干部の内側の踏段走行方向に沿って間隔をおいた複数個所に設け、前記各操作部の運転停止スイッチをボタンスイッチで構成するとともに、再起動スイッチをキースイッチで構成したことを特徴とする車いす用踏段付エスカレータ。
【請求項2】 前記再起動スイッチの動作信号によって起動されて当該エスカレータを駆動する動力回路にタイマを介在させたことを特徴とする請求項1に記載の車いす用踏段付エスカレータ。
【請求項3】 前記再起動スイッチの動作信号によって当該エスカレータの再起動を乗客に認知させる視覚認知手段又は聴覚認知手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の車いす用踏段付エスカレータ。」

2.当審で通知した取消理由で引用した刊行物
刊行物1:特開昭60-19681号公報(異議申立人が甲第1号証として提示)
刊行物2:特開平4-16494号公報(異議申立人が甲第2号証として提示)
刊行物3:実願昭61-22878号(実開昭62-136483号)のマイクロフィルム(異議申立人が甲第3号証として提示)

3.刊行物に記載された発明
(1)刊行物1には、以下の事項が記載されている。
A.「この発明は、車椅子使用者等も利用可能なマンコンベアに関し、特に車椅子使用者が乗っている時のマンコンベアの非常停止及び起動操作を容易にしたマンコンベアに関するものである。」(第1頁右下欄第2〜5行)
B.「5は多数連続して主枠1内を長手方向に循環走行される一般ステップで、このステップ列の任意個所には車椅子用の大形ステップ6が組込まれている。」(第2頁右上欄第14〜17行)
C.「これら各帯スイッチ13,14は車椅子使用者がエスカレータを利用する運転モード時に機能する」(第2頁左下欄第16〜18行)
D.「17,18は上記右及び左側欄干2の内側上部にそのほぼ全長に亘り配設したエスカレータ非常停止用の帯スイッチで、この各帯スイッチ17,18は車椅子使用者の利用運転モード時にのみ機能する」(第2頁右下欄第1〜5行)
E.「車椅子8が傾いて欄干2に接触したり、あるいは車椅子8が大形ステップ6から外れて下のステップに車椅子諸共転落するなどの危険な事態が生じた場合は、介助者9は車椅子使用者7が欄干2の内側に配設されている非常停止用帯スイッチ17又は18にタッチし押圧する。すると、帯スイッチを構成する接片19,20が互いに接触し、これにより停止指令が与えられる。」(第3頁右下欄第12〜20行)
F.「また、非常停止後、車椅子使用者の体勢が整ってからエスカレータを再起動させる場合でも、車椅子使用者が乗っている位置から手を伸ばして欄干2上の上昇又は下降の運転起動用帯スイッチ13又は14を押せば良いので、その再起動も容易になし得る。」(第4頁右上欄第6〜11行)
G.「第8図はこの発明の第2の実施例を示すもので、欄干2の甲板2a上にその長手方向に沿って配置される上昇及び下降の運転起動用帯スイッチを甲板2a(又は手摺フレーム)ごとに分割し、この分割した上昇及び下降の運転起動用帯スイッチ13a,13b,…及び14a,14b,…をエレベータの長手方向に継ぎ合される甲板2a毎に一線をなすよう配置する。」(第4頁左下欄第5〜12行)
H.「また、右及び左側欄干2の内側に配設される非常停止用の帯スイッチを甲板2a(又は手摺フレーム)毎に分割し、この分割した各帯スイッチ17a,17b,…及び18a,18b,…を甲板2aごとに一線をなすよう配設したものである。」(第4頁左下欄第14〜19行)
I.「第10図はこの発明の第4の実施例を示すもので、左右の欄干2の内側に配設される非常停止用帯スイッチを第8図の場合と同様に甲板2a毎に分割し、そして該分割した帯スイッチ17a,17b,…及び18a,18b,…を甲板2a毎に配設するとともに、上昇及び下降運転起動用スイッチを単品の押釦スイッチ30,31により構成し、この各押釦スイッチ30及び31を右側及び左側欄干2の甲板2aに所定間隔(例えば40cm以下)で一線に配設したものである。」(第4頁右下欄第17〜第5頁左上欄6行)
J.「また、上昇及び下降運転起動用のスイッチは、欄干の内側に非常停止用スイッチを離して設けることも可能である。」(第5頁左上欄第13〜15行)(なお、「・・・運転起動用のスイッチは、欄干の内側に非常停止用スイッチを離して設ける・・・」は、「・・・運転起動用のスイッチは、欄干の内側に非常停止用スイッチと離して設ける・・・」の誤りとみられる。)

以上の記載、及び第1図ないし第10図からみて、刊行物1には、
「欄干2の内側に設けた車椅子使用者の利用運転モード時にのみ動作する非常停止用帯スイッチ17a,17b,…,18a,18b,…と、欄干2の甲板上に設けた車椅子使用者の利用運転モードにおける停止状態から再起動させる運転起動用帯スイッチ13a,13b,…,14a,14b,…とを有する操作部を設けた車椅子用大形ステップ6付きマンコンベアにおいて、前記操作部を前記欄干の踏段走行方向に沿って間隔をおいた複数個所に設けてなる車椅子用大形ステップ6付きマンコンベア。」の発明が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2には、以下の事項が記載されている。
K.「本発明はエスカレータや動く歩道等の如く乗客をステップ上に乗せて運ぶマンコンベアに関し」(第1頁左下欄第20行〜同右下欄第1行)
L.「起動用スイッチ8と停止用スイッチ9は専用キーを差し込んで所定の方向に回すことで動作し」(第2頁左上欄第6〜8行)
M.「このステップ起動・停止用の運転操作盤23は、第2図に示す如く、従来一般のものと同様に、下側から順にステップの起動用スイッチ28、停止用スイッチ29、非常停止用スイッチ30が設けられ、起動用スイッチ28と停止用スイッチ29は専用キーを差し込んで所定の方向に回すことで動作し、非常停止スイッチ30は乱用を避けるためにキャップ31とプロテクター32により覆われ、そのプロテクター32を押し破ることで動作するようになっている。」(第3頁右上欄第8〜17行)

(3)刊行物3には、以下の事項が記載されている。
N.「移動手摺と、この移動手摺を支持する欄干と、起動を警告する警報装置を備えた乗客コンベアにおいて、前記欄干に、前記装置を鳴らすと点燈あるいは点滅する警告燈を設け、一方この警告燈が点燈あるいは点滅している間は、乗客コンベアの起動を阻止する阻止装置を備えたことを特徴とする乗客コンベアの安全装置。」(実用新案登録請求の範囲)
O.「本考案は、乗客コンベアの安全装置に関するものである。」(第1頁第14〜15行)
P.「従来の乗客コンベアにおいては、この乗客コンベアの起動を行う場合、キースイッチを操作することにより、警報を鳴らして第三者に対し注意を喚起するようにしていた。」(第1頁第17〜20行)
Q.「本考案の目的は、聴覚だけではなく、視覚にも作用し、第三者に対し十分に注意を喚起することができ、さらに安全を確保できるものを提供するにある。」(第2頁第7〜10行)
R.「第3図は、乗客コンベアの警報回路である。同図において、ST,SBは、上方,下方のキースイッチ、BZT,BZBは上方,下方の警報ブザー、T1、T2はタイマー、LT,LBは上方,下方の警告燈、Xはリレー、Mはモータである。」(第3頁第17行〜第4頁第1行)
S.「上方のキースイッチSTを投入すると、下方の警報ブザーが鳴り、タイマーT1が励磁され、T1が閉路し、下方の警告燈LBが一定時間点燈する。この間、リレーXが励磁され、Xbが開路し、モータMは起動しない。一方、下方のキースイッチSBを投入すると、上方の警報ブザーBZTが鳴り、タイマーT2が励磁され、T2が閉路し、上方の警告燈LTが一定時間点燈する。この間、リレーXが励磁され、Xbが開路し、モータMは起動しない。このように、警告燈LT,LBが点燈するため、起動時は聴覚と視覚による喚起がなされ、より安全に起動動作を行うことができる。(第4頁第3〜14行)

4.対比・判断
4-1.本件発明1について
(1)本件発明1と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明の「非常停止用帯スイッチ17a,17b,…,18a,18b,…」、「運転起動用帯スイッチ13a,13b,…,14a,14b,…」、「欄干2」、「車椅子用大形ステップ6付きマンコンベア」は、それぞれその機能からみて、本件発明1の「運転停止スイッチ」、「再起動スイッチ」、「欄干部」、「車いす用踏段付エスカレータ」に相当するものと認められるので、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。

〈一致点〉
車いす運転モード時にのみ動作する運転停止スイッチと、車いす運転モードにおける停止状態から再起動させる再起動スイッチとを有する操作部を欄干部に設けた車いす用踏段付エスカレータにおいて、前記操作部を前記欄干部の踏段走行方向に沿って間隔をおいた複数個所に設けてなる車いす用踏段付エスカレータ。

〈相違点〉
イ.本件発明1は、運転停止スイッチと再起動スイッチとを有する操作部を「欄干部の内側」に設けているのに対し、刊行物1に記載された発明は、操作部の運転停止スイッチは「欄干部の内側」に設けているものの、操作部の再起動スイッチは「欄干部の甲板上」に設けており、操作部を全体として「欄干部の内側」に設けていない点。
ロ.操作部の運転停止スイッチについて、本件発明1は、「ボタンスイッチ」で構成しているのに対し、刊行物1に記載された発明は、「帯スイッチ」で構成している点。
ハ.操作部の再起動スイッチについて、本件発明1は、「キースイッチ」で構成しているのに対し、刊行物1に記載された発明は、「帯スイッチ」で構成している点。

(2)そこで、上記相違点について検討する。
〈相違点イについて〉
刊行物1には、運転停止スイッチを欄干部の内側に配設するとともに、再起動スイッチを欄干の内側に運転停止スイッチと離して設けることも可能である旨示唆されている(上記3.(1)J.参照)、すなわち、操作部を全体として欄干部の内側に設ける点も示唆されていることから、相違点イに係る本件発明1の構成は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たところと認められる。

〈相違点ロについて〉
エスカレータの運転停止スイッチとして「ボタンスイッチ」を用いることは、刊行物2(上記3.(2)M.参照)にも記載されているように従来周知の技術的事項であると認められる以上、刊行物1に記載の、タッチし押圧することでスイッチとして機能する運転停止スイッチとして、「帯スイッチ」に代えて「ボタンスイッチ」を用いる点に技術的困難性は認められない。
してみると、相違点ロに係る本件発明1の構成は、刊行物1に記載された発明に上記周知の技術的事項を適用して当業者が容易に想到できたものと認められる。

〈相違点ハについて〉
エスカレータの起動用スイッチとして「キースイッチ」を用いることは、刊行物2(上記3.(2)L.M.参照)にも記載されているように従来周知の技術的事項であると認められる。また、スイッチとしてキースイッチを採用することで、スイッチの誤作動防止を図り得るのは自明であり、この周知の技術的事項を刊行物1に記載された発明における「再起動スイッチ」として適用できない特段の事情は見当たらない。
してみると、相違点ハに係る本件発明1の構成は、刊行物1に記載された発明に上記周知の技術的事項を適用して当業者が容易に想到できたものと認められる。

そして、本件発明1の奏する作用効果は、刊行物1に記載された発明及び上記周知の技術的事項から当業者であれば予測することができる程度のものであって格別なものとはいえない。

(3)したがって、本件発明1は、刊行物1に記載された発明及び上記周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-2.本件発明2について
本件発明2と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、上記相違点イ、ロ、ハに加えて、
ニ.本件発明2は、「再起動スイッチの動作信号によって起動されて当該エスカレータを駆動する動力回路にタイマを介在」させているのに対して、刊行物1に記載された発明は、それを備えていない点、
で相違しており、その他の点で一致している。
しかしながら、刊行物3には、乗客コンベアを起動させるに際して、乗客コンベアの起動を安全に行わせるために、キースイッチの操作後、一定時間エスカレータが起動されないように構成する点、すなわち、「キースイッチ投入後、タイマーを介してモータの駆動を一定時間遅らせる」という発明が記載されている。そして、刊行物3に記載された発明も、エスカレータ起動時の安全装置に関する技術分野に属するものであるから、同刊行物3に記載された発明を、刊行物1に記載の発明におけるエスカレータ起動時の安全装置として、すなわち、再起動スイッチを操作し、エスカレータを再起動させる時の安全装置として適用する点に、格別の困難性は認められない。
してみると、相違点ニに係る本件発明2の構成は、刊行物1に記載された発明に上記刊行物3に記載された発明を適用して当業者が容易に想到できたものと認められる。
そして、本件発明2の奏する作用効果は、刊行物1、刊行物3に記載された発明及び上記周知の技術的事項(上記4-1.(2)参照)から当業者であれば予測することができる程度のものであって格別なものとはいえない。
したがって、本件発明2は、刊行物1、刊行物3に記載の発明、及び上記周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4-3.本件発明3について
本件発明3と刊行物1に記載された発明とを対比すると、両者は、上記相違点イ、ロ、ハに加えて、
ホ.本件発明3は、「再起動スイッチの動作信号によって当該エスカレータの再起動を乗客に認知させる視覚認知手段又は聴覚認知手段」を備えているのに対して、刊行物1に記載された発明は、それを備えていない点、
で相違しており、その他の点で一致している。
しかしながら、刊行物3には、乗客コンベアを起動させるに際して、乗客コンベアの起動を安全に行わせるために、キースイッチの操作後、警報ブザーを鳴らし、警告燈を点燈させる点、すなわち、「キースイッチ投入後、聴覚認知手段及び視覚認知手段を用いて、第3者に乗客コンベヤの起動を認知させる」という発明が記載されている。そして、刊行物3に記載された発明も、エスカレータ起動時の安全装置に関する技術分野に属するものであるから、同刊行物3に記載された発明を、刊行物1に記載の発明におけるエスカレータ起動時の安全装置として、すなわち、再起動スイッチを操作し、エスカレータを再起動させる時の安全装置として適用する点に、格別の困難性は認められない。
してみると、相違点ホに係る本件発明3の構成は、刊行物1に記載された発明に上記刊行物3に記載された発明を適用して当業者が容易に想到できたものと認められる。
そして、本件発明3の奏する作用効果は、刊行物1、刊行物3に記載された発明及び上記周知の技術的事項(上記4-1.(2)参照)から当業者であれば予測することができる程度のものであって格別なものとはいえない。
したがって、本件発明3は、刊行物1、刊行物3に記載の発明、及び上記周知の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

5.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし本件発明3は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1ないし本件発明3についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
車いす用踏段付エスカレータ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 車いす運転モード時にのみ動作する運転停止スイッチと、車いす運転モードにおける停止状態から再起動させる再起動スイッチとを有する操作部を欄干部に設けた車いす用踏段付エスカレータにおいて、前記操作部を前記欄干部の内側の踏段走行方向に沿って間隔をおいた複数箇所に設け、前記各操作部の運転停止スイッチをボタンスイッチで構成するとともに、再起動スイッチをキースイッチで構成したことを特徴とする車いす用踏段付エスカレータ。
【請求項2】 前記再起動スイッチの動作信号によって起動されて当該エスカレータを駆動する動力回路にタイマを介在させたことを特徴とする請求項1に記載の車いす用踏段付エスカレータ。
【請求項3】 前記再起動スイッチの動作信号によって当該エスカレータの再起動を乗客に認知させる視覚認知手段又は聴覚認知手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の車いす用踏段付エスカレータ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、車いす用踏段付エスカレータに関する。
【0002】
【従来の技術】周知のように、通常のエスカレータでは、各踏段の奥行き方向の幅が限られているために、車いすを利用した身障者にとっては、不便である。そのため、最近は、無端状の鎖に連続して連結された複数の踏段のうち、特定の踏段がこのエスカレータの上端又は下端の乗降板の位置と面一となったときに、上下の一対の踏段が同一高さになるようにして車いす用踏段を構成し、車いすの利用者の利用を便利にした車いす用踏段付エスカレータが採用されている(例えば、特公昭64-1396号公報参照)。
【0003】この車いす用踏段付エスカレータでは、このエスカレータが設置されたビルの係員がキースイッチを操作して通常運転モードから車いすモードに切り換えると、特定の踏段が乗降板に近づくに従い減速されるとともに、特定の可動踏板が同一高さに並んで車いす用踏段となり、車いすの利用者がその車いす用踏段に容易に乗り込むことができるように考慮されている。
【0004】このような車いす用踏段付エスカレータでは、車いすを利用した身障者が乗り込むときに車いす運転モードに切り換えるためのキースイッチのほかに、さらに、この車いす運転モードのときだけ作動させる運転停止ボタンスイッチと、この運転停止ボタンスイッチの操作による運転停止状態のエスカレータを再起動させる再起動ボタンスイッチとを有する操作部が欄干に設けられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、このように考慮され構成された車いす用踏段付エスカレータにおいては、車いすの利用者とともにこのエスカレータに乗り込んだ一般の利用者が、車いす運転モードの停止中に誤って再起動ボタンスイッチを操作すると、このエスカレータが起動するので、この予期しない起動によって不意を衝かれた一般乗客のなかには、転倒する者が出るおそれがある。また、乗客が持っている小荷物などが再起動ボタンスイッチに触れたときにも同様に起動するおそれがある。
【0006】そのため、一般乗客の手の届かない場所に再起動ボタンスイッチを取り付けることも考えられるが、すると、車いすの利用者とともにこのエスカレータに乗っている係員が操作するための時間がかかるだけでなく、係員が車いす利用者から離れた状態で起動することになるので、車いすの利用者にとっては不安があり、車いすの利用者を考慮したこの車いす用踏段付エスカレータの特長を損う。
【0007】なお、運転停止ボタンスイッチに触れたときにも停止するが、この場合には、起動時と比べると乗客の対応は容易であり、さらに、この運転停止ボタンスイッチは非常停止として操作しなければならないときもあるので、欄干に設けるのはやむを得ない。
【0008】そこで、本発明の目的は、運転停止スイッチの操作性を損うことなく、再起動スイッチに対する乗客の誤操作による起動を防ぎ、更に安全性を上げることのできる車いす用踏段付エスカレータを得ることである。
【0009】【課題を解決するための手段】請求項1に記載の発明は、車いす運転モード時にのみ動作する運転停止スイッチと、車いす運転モードにおける停止状態から再起動させる再起動スイッチとを有する操作部を欄干部に設けた車いす用踏段付エスカレータにおいて、操作部を前記欄干部の内側の踏段走行方向に沿って間隔をおいた複数箇所に設けるとともに、運転停止スイッチをボタンスイッチで構成し、再起動スイッチをキースイッチで構成したことを特徴とする。
【0010】また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の車いす用踏段付エスカレータにおいて、再起動スイッチの動作信号によって起動されて当該エスカレータを駆動する動力回路にタイマを介在させたことを特徴とする。
【0011】さらに、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の車いす用踏段付エスカレータにおいて、再起動スイッチの動作信号によって当該エスカレータの再起動を乗客に認知させる視覚認知手段又は聴覚認知手段を設けたことを特徴とする。
【0012】
【作用】請求項1に記載の発明においては、運転停止スイッチの操作性を損うことなく、再起動スイッチの誤操作を防止することが可能となる。
【0013】請求項2に記載の発明においては、運転停止スイッチの操作性を損うことなく、再起動スイッチの誤操作を防止することが可能となり、しかも再起動スイッチの操作後、所定の時間を経てエスカレータを起動することができる。
【0014】請求項3に記載の発明においては、運転停止スイッチの操作性を損うことなく、再起動スイッチの誤操作を防止することが可能となり、さらに乗客は、視覚認知手段又は聴覚認知手段によって再起動を認知することができる。
【0015】
【実施例】以下、本発明の車いす用踏段付エスカレータの一実施例を図面を参照して説明する。図1は、本発明の車いす用踏段付エスカレータを示す右側面図である。
【0016】図1において、図示しない建物の上下の階に亘って固定されたトラス1には、このトラス1の図1において上部右端に縦に固定された電動機10に連結された減速機11が取り付けられている。この減速機11の図1において左側には、駆動軸16が紙面直交方向に設けられ、図示しない軸受で支承されている。
【0017】この駆動軸16には、駆動用の大小のスプロケット13A,13Bが嵌挿され、このうち大径のスプロケット13Aには、無端状の駆動鎖12,14の片側が巻装され、このうち、駆動鎖12の他側は、減速機11に取り付けられた小径のスプロケットに巻装されている。
【0018】一方、駆動鎖14には、踏段9が連続して取り付けられ、駆動鎖14の他端は、図1に示す減速機11や駆動軸16が取り付けられた階床の下側の階床に設けられたスプロケット13Cに巻装されている。複数の踏段9のうち、特定の踏段は、隣接する踏段がこのエスカレータの上端又は下端の乗降板15の位置と面一になったときに同一高さとなるように昇降して車いす用踏段が構成できるようになっている。
【0019】トラス1の上方には、欄干部2が立設され、この欄干部2の外周には無端状の移動手摺2aが巻装されている。欄干部2の下部と踏段9の側面との間には、この踏段9の側面と僅かな間隙を介して、スカートガード2bが取り付けられている。
【0020】欄干部2には、鎖17で駆動される無端状の移動手摺2aとスカートガード2bの間に欄干パネル2cが取り付けられ、この欄干パネル2cには、内側(踏段9側)に車いす運転停止ボタンスイッチ3が踏段走行方向に沿った3個所にほぼ等間隔に取り付けられている。この車いす運転停止ボタンスイッチ3には、キースイッチからなる再起動スイッチ4が隣接してそれぞれ取り付けられている。したがって運転停止ボタンスイッチ3とキースイッチからなる再起動スイッチ4とを有する操作部は、欄干部2の踏段走行方向に沿って間隔をおいた複数箇所に設けられていることになる。
【0021】さらに、欄干パネル2cの内部には、スピーカ19が点線で示すように取り付けられ、このスピーカ19と前述した再起動スイッチ4は、図2の制御ブロック図に示すように接続されている。
【0022】図2において、再起動スイッチ4の接点4aは、この車いす用踏段付エスカレータの制御部5の起動回路に接続され、この制御部5にはオートアナウンス装置6が接続され、このオートアナウンス装置6の出力線は、上述したスピーカ19に接続されている。また、制御部5には、タイマ8を介して電動機10を駆動する動力部7が接続されている。
【0023】このように構成された車いす用踏段付エスカレータにおいては、減速機11に連結された電動機10が駆動されることで、減速機11が駆動され、この減速機11に駆動鎖12を介して連結された駆動軸16が駆動される。すると、この駆動軸16に嵌挿されたスプロケット13A,13Bが駆動され、これらのスプロケット13A,13Bに巻装された駆動鎖14が駆動されて、踏段9が駆動され、同時に移動手摺2aも駆動されて通常運転モードに入る。
【0024】一方、通常運転モードから車いす運転モードに切り換えるには、係員が図示しない切換スイッチ(キースイッチ)を操作する。すると、特定の踏段が乗降板に近付くにしたがい減速されるとともに、同一高さに並んで車いす用踏段が構成され、車いす運転モードに入る。車いす運転モードで運転しているときにエスカレータを非常停止する場合には、運転停止ボタンスイッチ3を押すことによって行われる。そして車いす運転停止ボタンスイッチ3の操作によって停止している場合に、万一、このエスカレータ4に触れても、単に触れただけではこの再起動スイッチは作動せず、このエスカレータは駆動されないので、一般の乗客や車いすの乗客の転倒のおそれを解消することができる。
【0025】この停止中のエスカレータを再起動するときには、このエスカレータを管理する係員だけが携帯しているキーにより再起動スイッチ4を操作することによって、係員が起動することができ、乗客の状況を見て安全を確認して操作できる。
【0026】また、図2において、係員のキー操作によって再起動スイッチ4がオンすると、このオン信号が入力された制御部5は、オートアナウンス装置6によってスピーカ19から、このエスカレータの乗客に対して、このエスカレータが再起動する旨のアナウンスを行う。一方、制御部5の駆動信号は、タイマ8を介してアナウンスよりやや遅れて動力部7を駆動することで、キー操作から駆動までの時間的余裕を持たせることができる。
【0027】したがって、このように構成された車いす用踏段付エスカレータにおいては、車いす運転モードで運転しているときに位置する運転停止ボタンスイッチ3を操作すればよく、運転停止ボタンスイッチの操作性は損なわれない。また、車いす運転モードで停止中のちきに、このエスカレータに乗り込んだ幼児などのいたずらで再起動スイッチ4が操作されることはなく、予期しない起動による乗客の転倒を防ぐことができる。
【0028】また、再起動スイッチ4をを操作すると、乗客に注意を喚起するアナウンスが行われ、しかも再起動スイッチ4の操作後、エスカレータの駆動までに時間があることから、係員によるキーの抜き取り作業も余裕を持ってッ確実に行うことができ、キーの抜き取りのために係員が転倒するおそれも防止できる。したがって、車いす利用者や他の乗客のみならず、係員に対しても安全な車いす用踏段付エスカレータを提供することができる。
【0029】なお、上記実施例において、再起動するためにエスカレータの乗客に対して報知する手段をスピーカによる聴覚認知手段のときで説明したが、エスカレータの上部に発光ダイオードやLEDでその旨を表示するようにしてもよく、また、この視覚認知手段と上記聴覚認知手段を併用してもよい。
【0030】
【発明の効果】以上、請求項1に記載の発明によれば、車いす運転モード時にのみ動作する運転停止スイッチと、車いす運転モードにおける停止状態から再起動させる再起動スイッチとを有する操作部を欄干部に設けた車いす用踏段付エスカレータにおいて、操作部を欄干部の複数箇所に設け、また運転停止スイッチをボタンスイッチとし、再起動スイッチをキースイッチとすることで、運転停止スイッチの操作性を損うことなく、乗客による再起動スイッチの操作を不能としたので乗客の誤操作による転倒を防ぎ、安全性を上げることのできる車いす用踏段付エスカレータを得ることができる。
【0031】また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において再起動スイッチの動作信号によって起動される動力回路にタイマを介在させることで、乗客による再起動スイッチの操作を不能とするとともに、再起動スイッチの操作後所定の時間を経て起動するようにしたので、乗客および係員の転倒を防ぎ、安全性を上げることのできる車いす用踏段付エスカレータを得ることができる。
【0032】さらに、請求項3に記載の発明によれば、請求項1い記載の発明において、再起動スイッチの動作信号によって車いす用踏段付エスカレータの再起動を乗客に認知させる視覚認知手段又は聴覚認知手段を設けることで、乗客による再起動スイッチの操作を不能とするとともに、乗客に対して再起動を知らせるようにしたので、乗客の誤操作による起動や不意の起動による転倒を防ぎ、安全性を上げることのできる車いす用踏段付エスカレータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の車いす用踏段付エスカレータの一実施例を示す側面図。
【図2】本発明の車いす用踏段付エスカレータの一実施例を示すブロック図。
【符号の説明】
1…トラス、2…欄干部、3…運転停止ボタンスイッチ、4…再起動スイッチ、5…制御部、6…オートアナウンス装置、7…動力部、8…タイマ、9…踏段、10…電動機、11…減速機、12,14,17…駆動鎖、13A,13B,13C…スプロケット、19…スピーカ。
 
訂正の要旨 1.特許第3045890号発明の明細書中、特許請求の範囲の請求項1の「・・・前記操作部を前記欄干部の踏段走行方向に沿って・・・」とあるのを、特許請求の範囲の減縮を目的として、「・・・前記操作部を前記欄干部の内側の踏段走行方向に沿って・・・」と訂正する。
2.特許第3045890号発明の明細書中、発明の詳細な説明の段落0009の「・・・操作部を欄干部の踏段走行方向に沿って・・・」とあるのを、明りようでない記載の釈明を目的として、「・・・操作部を前記欄干部の内側の踏段走行方向に沿って・・・」と訂正する。
異議決定日 2001-05-24 
出願番号 特願平5-57021
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (B66B)
最終処分 取消  
前審関与審査官 大内 俊彦  
特許庁審判長 西野 健二
特許庁審判官 清田 栄章
氏原 康宏
登録日 2000-03-17 
登録番号 特許第3045890号(P3045890)
権利者 株式会社東芝
発明の名称 車いす用踏段付エスカレータ  
代理人 竹花 喜久男  
代理人 大胡 典夫  
代理人 大胡 典夫  
代理人 宇治 弘  
代理人 宇治 弘  
代理人 竹花 喜久男  

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