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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08G
管理番号 1079524
異議申立番号 異議2002-72046  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-07-05 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-08-07 
確定日 2003-04-18 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3255376号「エポキシ樹脂組成物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3255376号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3255376号は、平成4年12月18日に特許出願された特願平4-339263号の出願に係り、平成13年11月30日に設定登録されたものであって、その後、特許異議申立人加藤巨奈江により特許異議の申立てがなされ、平成14年10月17日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年12月26日に、訂正の請求がなされるとともに、特許異議意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否について
(1)訂正の内容
平成14年12月26日付けの本件訂正の請求における訂正の内容は、下記訂正事項a〜cに示すとおりである。
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1における
「(B)式(2)及び/または式(3)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤とトリフェニルホスフィンとを予め加熱溶融されてなる溶融混合物及び」との記載を、
「(B)式(2)及び/または式(3)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤とトリフェニルホスフィンとを予め加熱溶融されてなる溶融混合物とフェノールノボラック樹脂硬化剤とからなる硬化剤及び」と訂正する。
訂正事項b
本件明細書の段落番号【0010】の
「(B)式(2)及び/または式(3)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤とトリフェニルホスフィンとを予め加熱溶融されてなる溶融混合物及び」との記載を、
「(B)式(2)及び/または式(3)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤とトリフェニルホスフィンとを予め加熱溶融されてなる溶融混合物とフェノールノボラック樹脂硬化剤とからなる硬化剤及び」と訂正する。
訂正事項c
本件明細書の段落番号【0021】の
「この溶融混合物はフェノールノボラック樹脂硬化剤と併用してもよい。」との記載を、
「本発明に用いる硬化剤は、この溶融混合物とフェノールノボラック樹脂硬化剤とを併用する。」と訂正する。

(2)訂正の適否の判断
上記訂正事項aは、(B)成分である「式(2)及び/または式(3)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤とトリフェニルホスフィンとを予め加熱溶融されてなる溶融混合物」に「フェノールノボラック樹脂硬化剤」を併用することにより、当該(B)成分を限定するものであるから、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当するものである。しかも、そのことは、本件明細書の段落番号【0021】〜【0023】、同段落番号【0034】及び同段落番号【0038】の【表1】に記載されていることであるから、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
そして、上記訂正事項b〜cは、特許請求の範囲の減縮を目的とする上記訂正事項aの訂正に伴うものであり、減縮された特許請求の範囲と明細書の記載を整合させるための、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものであり、しかも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
本件特許第3255376号の訂正後の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正に係る訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】(A)式(1)で示されるエポキシ樹脂
【化1】

(式中のR1〜R8は水素、ハロゲン、アルキル基の中から選択される同一もしくは異なる原子または基)を総エポキシ樹脂量に対して50〜100重量%含むエポキシ樹脂、
(B)式(2)及び/または式(3)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤とトリフェニルホスフィンとを予め加熱溶融されてなる溶融混合物とフェノールノボラック樹脂硬化剤とからなる硬化剤及び
【化2】

(式中のRはパラキシリレン、nの値は1〜5)
【化3】

(式中のRはジシクロペンタジエン、テルペン類、シクロペンタジエン、シクロヘキサノンの各々の水素の2個を除いた残基の中から選択され、nの値は0〜4)
(C)無機充填材を必須成分とすることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。」

4.取消理由の概要
当審が通知した取消理由の概要は、本件発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、取り消すべきものであるというものである。
[刊行物]
刊行物1:特開平3-207714号公報(特許異議申立人加藤巨奈江の
甲第1号証)
刊行物2:特開昭60-163917号公報(同甲第2号証)
刊行物3:特開昭56-59841号公報(同甲第3号証)
刊行物4:特開平4-318056号公報

5.刊行物1〜2、4の記載事項
刊行物1には、「(1)エポキシ樹脂の一部または全部として式(I):

で示されるビフェニル型エポキシ樹脂を含有し、硬化剤として式(II):

(式中、nは正の整数)で示されるα,α’-ジメトキシパラキシレン結合フェノール樹脂を含有する半導体封止用エポキシ樹脂組成物。」(特許請求の範囲)についての発明が記載され、「本発明は、かかる問題を解決するためになされたもので、高いガラス転移温度を有し、高温強度が高く、リードフレームや素子との接着力が大きく、低熱膨張性で発生応力が小さく、低吸湿性でハンダ浴に浸漬したき(下線部は、「したとき」の誤記と認める。)の水の膨張により発生する応力も小さく、耐ヒートショック性が高く、高温保存安定性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物をうることを目的とする。」(2頁左下欄3〜10行)、「前記ビフェニル型エポキシ樹脂の配合割合は、本発明の組成物に配合されるエポキシ樹脂中60%(重量%、以下同様)以上、さらには65%以上が好ましい。該割合が60%未満ではとくに接着強度が低下し、熱膨張率が増加し、実装時のハンダ浸漬に対する耐ヒートショック性が低下し、実用性が低下する。」(2頁右下欄下から4行〜3頁左上欄3行)、「前記硬化促進剤としては、従来から触媒として使用されているものをとくに制限なく使用することができる。その具体例としては、たとえばトリフェニルホスフィン、・・・などがあげられる。硬化促進剤の配合割合は本発明の組成物中0.10〜1.0%程度で充分である。」(3頁右上欄19行〜左下欄14行)、「前記充填剤としては、たとえば結晶性シリカ粉、石英ガラス粉などがあげられる。充填剤の配合割合は本発明の組成物中60〜85%が好ましい。」(3頁左下欄15〜17行)、そして、「ガラス転移温度が高く、高温強度が高く、吸湿率が小さく、接着力が大きく、耐ヒートショック性と高温保存時の重量減少が少ない高温保存安定性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物をうることができる。」(5頁左上欄下から7〜2行)と記載されている。

刊行物2には、「1.平均分子量300〜2000のノボラック型フェノール樹脂とトリフェニルホスフィンとを前記ノボラック型フェノール樹脂の軟化点以上の温度で加熱処理した硬化剤を配合したことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
2.ノボラック型フェノール樹脂がフェノールノボラック又はクレゾールノボラックである特許請求の範囲第1項記載のエポキシ樹脂組成物。」(特許請求の範囲第1項〜第2項)についての発明が記載され、「〔産業上の利用分野〕 本発明は速硬化性にしてかつ電気特性が良好で耐湿性にすぐれたエポキシ樹脂組成物に関する。」(1頁右下欄12〜14行)、「予め加熱溶融した前記ノボラック型フェノール樹脂を撹拌しながらその中にトリフェニルホスフィンを徐々に添加していく。この場合加熱溶融されたノボラック型フェノール樹脂の温度は、85℃以上とすることが好ましい。この理由はトリフェニルホスフィンの融点が81〜82℃でありノボラック型フェノール樹脂中に完全溶融させるためである。加熱処理終点の目安としては、・・・ノボラック型フェノール樹脂に白色粉末のトリフェニルホスフィンを加えて加熱すると、当初白濁もしくは黄かっ色の状態を呈しているが時間とともに次第に透明度を増して、最後には黄かっ色もしくは茶かっ色もしくは赤かっ色の透明となりこの点をもって終了とするのが好ましい。従って加熱処理時間は量、撹拌効率、加熱温度によって異なるため一義的には決定できない。 本発明において必要なことは、ノボラック型フェノール樹脂とトリフェニルホスフィンが加熱処理によって互いに完全溶融し透明になることであり、不透明な場合あるいは懸濁状態の場合、本発明の効果を得ることができない。加熱処理した硬化剤は、例えばステンレスバットなどに取り出してそのまま冷却すれば樹脂板が得られるため、前記透明性の判定については容易に可能である。ノボラック型フェノール樹脂とトリフェニルホスフィンを加熱処理して得られる透明なエポキシ樹脂用硬化剤が、加熱処理をしない場合に比べて後述する硬化性、耐湿性、電気特性において良好な結果を得ることができる理由は現在のところ理論的に明確にはなっていないがノボラック型フェノール樹脂とトリフェニルホスフィンとの間にある種の変化を起こしそれが良好な結果と結びついていると考えられる。」(2頁右下欄1行〜3頁左上欄17行)、「本発明によって得られるエポキシ樹脂用硬化剤は、既に公知のエポキシ樹脂の総てに適用することができる。」(3頁左上欄18〜20行)、そして、「本発明ではノボラック型フェノール樹脂とトリフェニルホスフィンを加熱処理したものを用いるが、硬化剤として用いられるノボラック型フェノール樹脂は全量トリフェニルホスフィンと加熱処理する必要はなく一部はノボラック型フェノール樹脂単独でエポキシ樹脂中に配合させる。」(3頁右上欄5〜11行)と記載されている。

刊行物4には、「【請求項1】(A)エポキシ樹脂
(B)下記一般式〔化1〕で表されるフェノール類又はフェノール類のノボラック化合物
(C)無機充填剤
を主成分とすることを特徴するエポシキ樹脂組成物。

(一般式中、R1、R2は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜5のアルキル基である。)
・・・
【請求項5】エポキシ樹脂組成物が半導体封止用である請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。」(特許請求の範囲第1項及び第5項)についての発明が記載され、「本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化剤として、上述の一般式〔化1〕で表されるフェノール類または該フェノール類のノボラック化合物を含有することを特徴としている。これら特定のフェノール類または該フェノール類のノボラック化合物の添加量としては、エポキシ樹脂のエポキシ当量を1とした場合に、フェノール性水酸基当量の比率で1:0.1〜1.5の範囲が好ましい。そして添加量が0.1未満では、半田耐熱性と基材との密着性が低下する。また1.5を越えると金型との離型性が悪くなり流動性にも支障をきたす場合もある。そしてエポキシ樹脂組成物に占める全硬化剤を100%とした場合は、本発明の硬化剤が10%以上を含有することが好ましい。含有量が10%未満では、得られるエポキシ樹脂組成物の半田耐熱性と密着性の向上効果が不十分なためである。また、目的とする用途によっては、これら特定のフェノール類または該フェノール類のノボラック化合物の添加量が多すぎると、金型から離型しにくくなったり、成形時の流動性に支障をきたす場合があるので、さらに好ましい該フェノール類または該フェノール類のノボラック化合物の添加量は、エポキシ樹脂組成物に占める全硬化剤を100%とした場合、その20〜100%の範囲である。」(段落番号【0018】)、「なお、硬化剤を併用する場合の硬化剤としては、他のフェノール類や多価フェノール類、酸無水物やアミン類、ジシアンジアミド、ポリスルフィドなどが挙げられる。さらに具体的なフェノール類としては、フェノールノボラック樹脂やクレゾールノボラック樹脂、・・・などが挙げられる。」(段落番号【0019】)、「本発明のエポキシ樹脂組成物で使用するエポキシ樹脂としては、・・・ビスフェノールA型エポキシ樹脂、4,4’-ビス(2”,3”-エポキシプロポキシ)-3,3’,5,5’-ビフェニルなどのビフェニル骨格のエポキシ樹脂、・・・などがある。」(同段落番号【0020】)、「本発明においては、硬化反応を促進させるために、硬化促進剤を用いることができる。硬化促進剤としては、・・・トリフェニルホスフィン、・・・などの有機ホスフィン類などが挙げられる。」(同段落番号【0023】)と記載されている。

6.対比・判断
本件発明と刊行物1に記載された発明を比較すると、両者は、(A)式(1)で示されるエポキシ樹脂

(式中のR1〜R4はメチル基、R5〜R8は水素)を総エポキシ樹脂量に対して60〜100重量%含むエポキシ樹脂、(B)式(2)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤とトリフェニルホスフィン及び【化2】

(式中のRはパラキシリレン、nの値は2〜5)
(C)無機充填材を必須成分とすることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物である点で一致し、(B)成分について、以下の点で相違している。
i)本件発明は、式(2)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤とトリフェニルホスフィンとを予め加熱溶融されてなる溶融混合物としているのに対して、刊行物1には、前記フェノール樹脂硬化剤とトリフェニルホスフィンとを予め加熱溶融することについて特に記載されていない点。
ii)本件発明は、さらに、前記溶融混合物にフェノールノボラック樹脂硬化剤を併用するのに対して、刊行物1には、フェノールノボラック樹脂硬化剤を併用する点について記載されていない点。

そこで、上記相違点i)及びii)について検討する。
相違点i)について
刊行物2には、平均分子量300〜2000のノボラック型フェノール樹脂とトリフェニルホスフィンとを前記ノボラック型フェノール樹脂の軟化点以上の温度で加熱処理した硬化剤が記載されており、当該硬化剤は既に公知のエポキシ樹脂の総てに適用することができること、ノボラック型フェノール樹脂とトリフェニルホスフィンを加熱処理して得られる透明なエポキシ樹脂用硬化剤が、加熱処理をしない場合に比べて硬化性、耐湿性、電気特性において良好な結果を得ることができる理由は現在のところ理論的に明確にはなっていないがノボラック型フェノール樹脂とトリフェニルホスフィンとの間にある種の変化を起こしそれが良好な結果と結びついていると考えられるということが示されている。
すなわち、刊行物2には、硬化剤であるノボラック型フェノール樹脂とトリフェニルホスフィンを加熱処理したものは、予め加熱処理をしない場合に比べて硬化性、耐湿性、電気特性において良好な結果を得ることを示していると認められる。
そうすると、同じフェノール樹脂硬化剤である刊行物2に記載されたノボラック型フェノール樹脂に代えて、上記(2)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤とトリフェニルホスフィンを組み合わせた刊行物1の硬化剤についても予め加熱溶融し、溶融混合物とすることに何ら技術的困難性を認めることはできない。
相違点ii)について
刊行物4には、硬化剤を併用する場合の硬化剤としては、他のフェノール類や多価フェノール類、酸無水物やアミン類、ジシアンジアミド、ポリスルフィドなどをあげ、さらに具体的なフェノール類としてフェノールノボラック樹脂やクレゾールノボラック樹脂を用いることが記載されているから、上記相違点i)で検討したように上記(2)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤とトリフェニルホスフィンを予め加熱溶融した溶融混合物を得ることに何ら技術的困難性がない以上、更にフェノールノボラック樹脂を併用することは、当業者が通常行う技術的事項に過ぎない。
そして、効果の点についても、刊行物1、2及び4に記載された発明から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって、本件発明は、刊行物1、2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、特許権者は、平成14年12月26日付け特許異議意見書において刊行物1、2及び4には、「バリが発生しやすい、離型性が劣る、他の硬化剤と併用する場合に成型品表面に未反応成分による白色斑点が存在する」等の問題点を解消する点については一切記載されていないから、本件発明は当業者が容易に発明できたものではないと主張する。
しかしながら、刊行物2には、「本発明において必要なことは、ノボラック型フェノール樹脂とトリフェニルホスフィンが加熱処理によって互いに完全溶融し透明になることであり、不透明な場合あるいは懸濁状態の場合、本発明の効果を得ることができない。」ことが記載されており、また、刊行物4には、本願発明のもう一方の式(3)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤ではあるが、離型性について記載されている。また、バリの発生が少ない、外観が悪くならない等の成形性に関する特性は、半導体封止用エポキシ樹脂に求められる特性として当該技術分野で広く知られているもの(必要なら、新保正樹編「エポキシ樹脂ハンドブック」、昭和62年12月25日、日刊工業社発行、465〜466頁「2.2.1成形性」を参照)であるから、刊行物1、2及び4に明記されていなくても、当業者であれば、当然これらの効果についても考慮すべきものと認められ、本件発明が上記刊行物1、2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本件発明はこれらの効果を単に確認したに過ぎず、上記特許権者の主張は採用できない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、刊行物1、2及び4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エポキシ樹脂組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (A)式(1)で示されるエポキシ樹脂
【化1】

(式中のR1〜R8は水素、ハロゲン、アルキル基の中から選択される同一もしくは異なる原子または基)
を総エポキシ樹脂量に対して50〜100重量%含むエポキシ樹脂、
(B)式(2)及び/または式(3)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤とトリフェニルホスフィンとを予め加熱溶融されてなる溶融混合物とフェノールノボラック樹脂硬化剤とからなる硬化剤及び
【化2】

(式中のRはパラキシリレン、nの値は1〜5)
【化3】

(式中のRはジシクロペンタジエン、テルペン類、シクロペンタジエン、シクロヘキサノンの各々の水素の2個を除いた残基の中から選択され、nの値は0〜4)
(C)無機充填材を必須成分とすることを特徴とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、半導体デバイスの表面実装化における耐半田ストレス性に優れた半導体封止用エポキシ樹脂組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ダイオード、トランジスタ、集積回路等の電子部品を熱硬化性樹脂で封止しているが、特に集積回路では耐熱性、耐湿性に優れたオルソクレゾールノボラックエポキシ樹脂をノボラック型フェノール樹脂で硬化させたエポキシ樹脂組成物が用いられている。
ところが近年、集積回路の高集積化に伴いチップがだんだん大型化し、かつパッケージは従来のDIPタイプから表面実装化された小型、薄型のフラットパッケージ、SOP,SOJ,PLCCに変わってきている。
即ち大型チップを小型で薄いパッケージに封入することになり、応力によりクラック発生、これらのクラックによる耐湿性の低下等の問題が大きくクローズアップされてきている。特に半田付けの工程において急激に200℃以上の高温にさらされることによりパッケージの割れや樹脂とチップの剥離により耐湿性が劣化してしまうといった問題点がでてきている。従ってこれらの大型チップを封止するのに適した、信頼性の高い封止用樹脂組成物の開発が望まれてきている。
【0003】
これらの問題を解決するためにエポキシ樹脂として式(1)で示されるエポキシ樹脂の使用(特開昭64-65116号公報)が
【0004】
【化4】

(式中のR1〜R8は水素、ハロゲン、アルキル基の中から選択される同一もしくは異なる原子または基)
【0005】
検討されてきた。式(1)で示されるエポキシ樹脂の使用によりレジン系の低粘度化が図られ、従って溶融シリカ粉末を更に多く配合することにより組成物の成形後の低熱膨張化及び低吸水化により耐半田ストレス性の向上が図られた。ただし、溶融シリカ粉末を多く配合することによる弾性率の増加も一方の弊害であり、更なる耐半田ストレス性の向上が必要である。
この問題を解決するために近年、式(2)、式(3)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤の使用が検討されてきている。しかしながら、式(2)、式(3)で示されるフェノール樹脂硬化剤はエポキシ樹脂との反応性に劣り、ゲルタイムが長い、バリが発生しやすい、熱時硬度が低い、離型性が劣る、成形品表面に未反応成分による白色斑点が存在する等の問題があり、改良の必要があった。
【0006】
これらの問題を解決する手段として、硬化促進剤の添加量の増加があるが、一般に硬化促進剤の添加量を増加させると、硬化性は促進され上記の問題は解決されるが、それに伴いエポキシ樹脂組成物の耐湿性が低下する。従って、硬化促進剤の添加量を可能な限り少なくし、かつ硬化性を上げる手段の開発が必要となってきた。この手段としてノボラック型フェノール樹脂と硬化促進剤の溶融が提案されている(特開昭61-4253号公報)。しかしながら、式(2)、式(3)の可撓性フェノール樹脂硬化剤を併用したエポキシ樹脂組成物では充分な硬化性の改良に至らず、更に改良が必要となってきている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は半田付け工程における急激な温度変化による熱ストレスを受けたときの耐クラック性に非常に優れ、かつ耐湿性、成形時の反応性の違いから生じるバリ、白色斑点、離型性等の諸問題の改良されたエポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、(A)式(1)で示されるエポキシ樹脂
【0009】
【化5】

(式中のR1〜R8は水素、ハロゲン、アルキル基の中から選択される同一もしくは異なる原子または基)
【0010】
を総エポキシ樹脂量に対して50〜100重量%含むエポキシ樹脂、(B)式(2)及び/または式(3)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤とトリフェニルホスフィンとを予め加熱溶融されてなる溶融混合物とフェノールノボラック樹脂硬化剤とからなる硬化剤及び
【0011】
【化6】

(式中のRはパラキシリレン、nの値は1〜5)
【0012】
【化7】

(式中のRはジシクロペンタジエン、テルペン類、シクロペンタジエン、シクロヘキサノンの各々の水素の2個を除いた残基の中から選択され、nの値は0〜4)
【0013】
(C)無機充填材
を必須成分とする半導体封止用エポキシ樹脂組成物である。
【0014】
本発明に用いる式(1)の構造で示されるビフェニル型エポキシ樹脂は1分子中に2個のエポキシ基を有する2官能性エポキシ樹脂で、従来の多官能性エポキシ樹脂に比べ溶融粘度が低く、トランスファー成形時の流動性に優れる。従って組成物の溶融シリカ粉末を多く配合することができ、低熱膨張化及び低吸水化が図られ、耐半田ストレス性に優れるエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0015】
このビフェニル型エポキシ樹脂の使用量は、これを調節することにより耐半田ストレス性を最大限に引き出すことができる。耐半田ストレス性の効果を出すためには、式(1)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂を総エポキシ樹脂量の50重量%以上、好ましくは70重量%以上使用するのが望ましい。50重量%未満だと低熱膨張化及び低吸水性が得られず、耐半田ストレス性が不充分である。更に式中のR1〜R4はメチル基、R5〜R8は水素原子が好ましい。
【0016】
式(1)で示されるビフェニル型エポキシ樹脂以外に他のエポキシ樹脂を併用する場合、用いるエポキシ樹脂とはエポキシ基を有するポリマー全般をいう。例えばビスフェノール型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂及びアルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の3官能型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂等のことをいう。
【0017】
本発明に用いる溶融混合物は式(2)及び/または式(3)の可撓性フェノール樹脂硬化剤とトリフェニルホスフィンからなる。
式(2)及び式(3)の構造で示されるフェノール樹脂硬化剤は分子構造中に比較的柔軟な構造を有する可撓性フェノール樹脂硬化剤であり、フェノールノボラック樹脂硬化剤に比べ半田処理温度近辺での弾性率の低下とリードフレーム及び半導体チップとの密着力を向上せしめことができる。従って半田付け時の発生応力の低下と、それに伴なう半導体チップ等との剥離不良の防止に有効である。
【0018】
更に式(2)中のRはパラキシリレンで、nの値は1〜5である。nが5を越えるとトランスファー成形時での流動性が低下し、成形性が劣る傾向がある。また式(3)中のRはジシクロペンタジエン、テルペン類、シクロペンタジエン、シクロヘキサノンの各々の水素の2個を除いた残基で、これらの中ではテルペン類の水素の2個を除いた残基が好ましい。nの値は0〜4である。nが4を越えるとトランスファー成形時での流動性が低下し、成形性が劣る傾向がある。
【0019】
本発明に用いるトリフェニルホスフィンはエポキシ基と水酸基との反応を促進するものである。トリフェニルホスフィンの添加量は、樹脂組成物中に0.1〜0.5重量%であることが好ましい。
【0020】
本発明の特徴は、式(2)及び/または式(3)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤にトリフェニルホスフィンを予め溶融混合した溶融混合物を用いることである。可撓性フェノール樹脂硬化剤とトリフェニルホスフィンの溶融混合手順は、例えば以下のようなものであるが、これに限定されるものではない。予め加熱溶融させた可撓性フェノール樹脂硬化剤を撹拌しながら、徐々にトリフェニルホスフィンを添加し溶融混合物を得る。この際溶融混合温度は可撓性フェノール樹脂硬化剤の軟化点及びトリフェニルホスフィンの融点を越える温度で行うことが好ましい。溶融混合時間は、特に限定するものではないが溶融混合系が透明になってから、30分間程度であれば通常充分である。
【0021】
本発明に用いる硬化剤は、この溶融混合物とフェノールノボラック樹脂硬化剤とを併用する。併用するフェノールノボラック樹脂硬化剤は、フェノール類とホルムアルデヒド等のアルデヒド源との重縮合反応により合成される1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する通常の樹脂、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂である。
【0022】
この溶融混合物の量を調節することにより、耐半田ストレス性を最大限に引き出すことができる。耐半田ストレス性の効果を引き出すためには、溶融混合物中の式(2)及び/または式(3)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤を総フェノール樹脂硬化剤量に対して30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上使用するのが望ましい。使用量が30重量%未満だと低弾性及びリードフレーム、半導体チップとの密着力が不充分で耐半田ストレス性の向上が望めない。
【0023】
フェノールノボラック樹脂硬化剤に比べて、エポキシ樹脂との反応速度が遅い可撓性フェノール樹脂硬化剤にトリフェニルホスフィンを溶融混合して得られる溶融混合物を用いることにより、フェノールノボラック樹脂硬化剤と同等の反応速度を得ることができる。これによりフェノールノボラック樹脂と併用しても、反応速度の差による硬化後のエポキシ樹脂組成物中の未反応の可撓性フェノール樹脂硬化剤の残留を防ぐことができ、成形品表面に未反応成分による白色斑点の存在、熱時硬度が低下等の諸問題を解決することができる。
溶融混合物の使用として、別々に製造した2種以上の溶融混合物をエポキシ樹脂組成物の製造時に用いてもよい。
【0024】
本発明で用いる無機充填材としては、溶融シリカ粉末、球状シリカ粉末、結晶シリカ粉末、2次凝集シリカ粉末、多孔質シリカ粉末、2次凝集シリカ粉末または多孔質シリカ粉末を粉砕したシリカ粉末、アルミナ等が挙げられ、特に溶融シリカ粉末、球状シリカ粉末、及び溶融シリカ粉末と球状シリカ粉末との混合物が好ましい。また無機充填材の配合量としては耐半田ストレス性と成形性のバランスから組成物総量に対して70〜90重量%が好ましい。
【0025】
本発明の封止用エポキシ樹脂組成物はエポキシ樹脂、可撓性フェノール硬化剤とトリフェニルホスフィンとの溶融混合物および無機充填材を必須成分とするが、これ以外に必要に応じて、シランカップリング剤、ブロム化エポキシ樹脂、三酸化アンチモン、ヘキサブロムベンゼン等の難燃剤、カーボンブラック、ベンガラ等の着色剤、天然ワックス、合成ワックス等の離型剤及びシリコーンオイル、ゴム等の低応力添加剤等の種々の添加剤を適宜配合しても差し支えがない。
【0026】
また、本発明の封止用エポキシ樹脂組成物を成形材料として製造するには、エポキシ樹脂、溶融混合物、無機充填材、その他の添加剤をミキサー等によって充分に均一に混合した後、さらに熱ロール又はニーダー等で溶融混練し、冷却後粉砕して成形材料とすることができる。これらの成形材料は電子部品あるいは電気部品の封止、被覆、絶縁等に適用することができる。
【0027】
溶融混合物の製造例
溶融混合物1
式(4)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤(軟化点75℃、水酸基当量175g/eq、nが1から4の混合物であり、重量割合でn=1が20、n=2が40、n=3が30、n=4が10)600重量部とトリフェニルホスフィン20重量部を120℃で5分間溶融混合した(以下溶融混合Aとする)。
【0028】
【化8】

【0029】
溶融混合物2
式(5)で示される可撓性フェノール樹脂硬化剤(軟化点120℃、水酸基当量17g/eq、nが0から3の混合物であり、重量割合でn=0が10、n=1が40、n=2が30、n=3が20)600重量部とトリフェニルホスフィン20重量部を170℃で5分間溶融混合した(以下溶融混合Bとする)。
【0030】
【化9】

【0031】
溶融混合物3フェノールノボラック樹脂硬化剤(軟化点105℃、水酸基当量104g/eq)600重量部に、トリフェニルホスフィン60重量部を120℃で5分間溶融混合した(以下溶融混合物Cとする)。
【0032】
【実施例】
以下本発明を実施例で具体的に説明する。
実施例1
下記組成物
式(6)で示されるエポキシ樹脂(軟化点107℃、エポキシ当量190g/eq)
12重量部
【0033】
【化10】

【0034】
溶融混合物A 6.2重量部
フェノールノボラック樹脂硬化剤(軟化点105℃、水酸基当量104g/eq)
2重量部
溶融シリカ粉末 78.8重量部
カーボンブラック 0.5重量部
カルナバワックス 0.5重量部
を、ミキサーで常温で混合し、70〜100℃で2軸ロールにより混練し、冷却後粉砕した成形材料とした。
得られた成形材料を、タブレット化し、低圧トランスファー成形機にて175℃、70kg/cm2、120秒の条件で半田クラック試験用として6×6mmのチップを52pパッケージに封止し、また半田耐湿性試験用として3×6mmのチップを16pSOPパッケージに封止した。
封止したテスト用素子について下記の半田クラック試験及び半田耐湿性試験を行った。評価結果を表1に示す。
【0035】
評価試験
半田クラック試験:封止したテスト用素子を85℃、85%RHの環境下で48Hr及び72Hr処理し、その後260℃の半田槽に10秒間浸漬後、顕微鏡で外部クラックを観察した。
半田耐湿性試験:封止したテスト用素子を85℃、85%RHの環境下で72Hr処理し、その後260℃の半田槽に10秒間浸漬後、プレッシャークッカー試験(125℃、100%RH)を行い回路のオープン不良を測定した。
成形性試験:175℃、70Kg/cm2でトランスファー成形機を用いて、16pDIPを成形し、離型10秒後にバコール硬度を測定した。得られた成形品により、ベンド、バリ、離型性、外観のチェックを行った。
ゲルタイム:175℃の熱板上で測定した。
【0036】
実施例2、3
表1の処方に従って配合し、実施例1と同様にして成形材料を得た。この成形材料で試験用の封止した成形品を得、この成形品を用いて実施例1と同様に半田クラック試験及び半田耐湿性試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0037】
比較例1〜4
表1の処方に従って配合し、実施例1と同様にして成形材料を得た。比較例1、3、4に用いる可撓性フェノール樹脂硬化剤は式(4)で示されるものである(軟化点75℃、水酸基当量175g/eq、nが1から4の混合物であり、重量割合でn=1が20、n=2が40、n=3が30、n=4が10)。比較例1、3、4に用いる可撓性フェノール樹脂硬化剤は式(5)で示されるものである(軟化点120℃、水酸基当量17g/eq、nが0から3の混合物であり、重量割合でn=0が10、n=1が40、n=2が30、n=3が20)。この成形材料で試験用の封止した成形品を得、この成形品を用いて実施例1と同様に半田クラック試験及び半田耐湿性試験を行った。試験結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【発明の効果】
本発明に従うと従来技術では得ることのできなかった可撓性フェノール樹脂硬化剤及びエポキシ樹脂よりなる組成物の成形性、硬化性の改良が達成でき、半田付け工程における急激な温度変化による熱ストレスを受けた時の耐クラック性に非常に優れ、更に耐湿性が良好なことから電子、電気部品の封止用、被覆用、絶縁用等に用いた場合、特に表面実装パッケージに搭載された高集積大型チップICにおいて信頼性が非常に必要とする製品について好適である。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-02-28 
出願番号 特願平4-339263
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C08G)
最終処分 取消  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 佐々木 秀次
中島 次一
登録日 2001-11-30 
登録番号 特許第3255376号(P3255376)
権利者 住友ベークライト株式会社
発明の名称 エポキシ樹脂組成物  

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