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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C09D |
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管理番号 | 1079552 |
異議申立番号 | 異議2000-74471 |
総通号数 | 44 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1999-02-16 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-12-19 |
確定日 | 2003-05-12 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3053081号「防汚コーティング材用共重合体」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3053081号の請求項1に係る特許を維持する。 |
理由 |
(I)手続きの経緯 本件特許第3053081号の請求項1に係る発明は、昭和61年8月28日の特許出願(特願昭61-202514号、以下、「親出願」という。)の一部に係る発明であるとされ、平成6年10月24日に新たな特許出願(特願平6-258168号、以下、「子出願」という。)とされ、さらに、当該子出願から平成10年4月27日に新たな特許出願とされたものであって、平成12年4月7日に特許権の設定登録がされたものであるところ、当該請求項1に係る発明の特許について、石原庸男(以下、「申立人1」という。)および川渕啓(以下、「申立人2」という。)から、特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、訂正請求(後日、取り下げ)がなされ、訂正拒絶理由通知がなされ、再度の取消理由通知に対して、その指定期間内である平成15年4月3日に訂正請求がなされたものである。 (II-2)訂正請求について (II-2-1)訂正事項 (あ)特許請求の範囲の請求項1の「R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる1価の炭化水素基を示す」および「単量体とを重合させて得られる重合度が190を超えないスズを含有しない共重合体」を、「R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる1価の炭化水素基で、うち少なくとも1個は炭素数4以上の1価の炭化水素基を示す」および「単量体とを重合させて得られる重合度が50ないし190のスズを含有しない共重合体」と訂正する。 (い)明細書の段落番号0013中の「R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる1価の炭化水素基を示す」および「単量体とを重合させて得られる重合度が190を超えないスズを含有しない共重合体」を、「R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる1価の炭化水素基で、うち少なくとも1個は炭素数4以上の1価の炭化水素基を示す」および「単量体とを重合させて得られる重合度が50ないし190のスズを含有しない共重合体」と訂正する。 (う)明細書の段落番号0014中の「重合度が190を超えない程度に」を、「重合度が50ないし190に」と訂正する。 (II-2-2)訂正事項の検討 (A)訂正事項(あ)について: 「R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる1価の炭化水素基を示す」を「R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる1価の炭化水素基で、うち少なくとも1個は炭素数4以上の1価の炭化水素基を示す」とする訂正(以下、「訂正事項1」という。)は、本件の願書に添付した明細書の段落番号0016に記載されていることからみて、本件の願書に添付した明細書に記載された範囲内の訂正であり、特許請求の範囲を減縮するものであり、「重合度が190を超えないスズを含有しない共重合体」を「重合度が50ないし190のスズを含有しない共重合体」とする訂正(以下、「訂正事項2」という。)は、本件の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の「重合度が190を超えない」との記載および段落番号0032〜0034、0037〜0040の、重合度50未満である共重合体溶液H-1を用いたものが塗膜の消耗度および水棲生物の付着性において劣る旨の記載からみて、本件の願書に添付した明細書に実質上記載されたといえる範囲内のものであり、特許請求の範囲を減縮するものである。 そして、訂正事項1および2は、ともに、訂正前の特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものでない。 したがって、訂正事項(あ)に係る訂正は、本件の願書に添付した明細書に記載された範囲内のものであり、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 (B)訂正事項(い)、(う)について: いずれの訂正事項も、前記した訂正事項(あ)と整合させるための訂正であるから、明りょうでない記載の釈明に該当するものであり、訂正事項(あ)について前記したのと同様の理由により、願書に添付した明細書に記載した範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 (C)適用される法律について: 訂正事項1は、前記子出願および前記親出願の出願時の特許請求の範囲に記載された事項に訂正することを内容とするものであり、訂正事項2は、前記親出願および前記子出願の出願時の明細書の次の記載からみて、当該明細書に実質上記載されていたといえる内容に訂正することを内容とするものである。 すなわち、「本発明に用いられる共重合体は、・・・単量体とを重合度50〜10000程度に重合させることによって得られる。」との記載[特開昭63-57675号公報(前記親出願の公開公報、下記の甲第1号証)の3頁左上欄14〜18行および特開平7ー150076号公報(前記子出願の公開公報、下記の甲第2号証)の段落番号0011参照]、および重合度190程度以下の共重合体溶液を実施例とする記載[特開昭63-57675号公報の4頁右下欄1行以降の実施例の記載、特開平7ー150076号公報の段落番号0022以降の実施例の記載、および、前記子出願の特許公報である特許第2833493号公報(下記の甲第3号証)の実施例の重合度に係る記載参照。なお、前記実施例の重合度が190程度以下であることについては、申立人1も、その特許異議申立書4頁18〜26行において、重合度は測定条件により変化する旨を主張しており、前記実施例の重合度に係る記載が誤りであるとはしていない。]。 また、訂正後の請求項1に記載された発明は、防汚コーティング材用共重合体に係るものであり、親出願および子出願に係る防汚コーティング材の発明と異なるものである。 してみると、訂正後の本件出願は、前記親出願および子出願に包含される発明であり、前記親出願および子出願に係る発明と異なる発明を新たな特許出願としたものに該当し、特許法第44条第2項の規定により前記親出願の時に特許出願がなされたものと認められる。 したがって、前記訂正に対しては、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書および同条第2項の規定が適用される。 (D)訂正に対するむすび 上記訂正は、本件の願書に添付した明細書に記載された範囲内のものであり、かつ、特許請求の範囲の減縮および明りょうでない記載の釈明に該当するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 したがって、前記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書および同条第2項の規定に適合するものであり、適法なものとして認める。 (III)特許異議の申立てについて (III-1)本件発明 本件の特許請求の範囲に記載された発明(以下、「本件発明」という。)は、前記訂正後の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものである。 (III-2)特許異議の申立ての理由 申立人1は、訂正前の本件出願は、前記親出願および子出願に記載された「R2、R3、R4のうち少なくとも1個は炭素数4以上の1価の炭化水素基を示す」という特定事項を欠く発明に係るものであるうえに、前記親出願および子出願に記載のない「重合度が50ないし190」という事項を特定事項とする発明に係るものであるから、前記親出願および子出願の一部を適法に新たな特許出願としたものでなく、その出願日は親出願の出願日とみなされるべきでない(以下、「申立人の前提」という)として、甲第5、6号証および前記親出願の出願日より後に頒布された甲第1〜4号証を提示し、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第3、5、6号証を参考にすると、甲第1、2、4号証に記載された発明であり特許を受けることができないものであると主張する。 また、申立人2は、申立人1の甲第1号証と同一の甲第1号証を提示して、申立人1と同様の前記申立人の前提のもとに、訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり特許を受けることができないものであると主張する。 なお、申立人1が提示した刊行物は、次のとおりである。 甲第1号証:特開昭63-57675号公報(親出願の公開公報) 甲第2号証:特開平7-150076号公報(子出願の公開公報) 甲第3号証:特許第2833493号公報(子出願の特許公報) 甲第4号証:特開平3-31372号公報 甲第5号証:「新高分子文庫7 塗料用合成樹脂入門」株式会社高分子刊行会(昭59ー12ー10)p.86〜89 甲第6号証:「化学大辞典」株式会社東京化学同人発行「平均重合度」の項 (III-3)検討 前記(II-2-2)の(C)において示したとおりの理由により、本件の訂正後の本件発明の出願日は、前記親出願の出願日である昭和61年8月28日と認める。 してみると、申立人1、2の主張は、前記申立人の前提において誤りである。 したがって、申立人1、2の主張は採用することができない。 (III-4)特許異議の申立てに対するむすび 以上のとおりであるから、申立人1、2の特許異議の申立ての理由および証拠によっては、本件発明の特許が拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるとすることはできない。 また、他に本件発明の特許が拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるとする理由を発見しない。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 防汚コーティング材用共重合体 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 下記一般式 (式中、R1は水素原子またはメチル基、R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる1価の炭化水素基で、うち少なくとも1個は炭素数4以上の1価の炭化水素基を示す)で表される少なくとも1種の不飽和トリオルガノシリル単量体と、(メタ)アクリル系およびビニル系化合物から選ばれる少なくとも1種の有機単量体とを重合させて得られる重合度が50ないし190のスズを含有しない共重合体からなる防汚コーティング材用共重合体。 【請求項2】 R2、R3、R4がいずれもがブチル基である請求項1記載の防汚コーティング材用共重合体。 【請求項3】 R2、R3、R4のうち2個がメチル基で、残余が炭素数6以上のアルキル基である請求項1記載の防汚コーティング材用共重合体。 【請求項4】 共重合体の単量体のうち不飽和トリオルガノシリル単量体の量が10〜95重量%である請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載の防汚コーティング材用共重合体。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、水中構築物、漁網、船底等への水棲生物の付着を阻止するための防汚コーティング材として有用な共重合体に関する。 【0002】 【従来の技術】 水中構築物、漁網、船底をはじめ水中で長時間使用する物品には、使用中に水棲生物が付着、繁殖して外観を損ねるばかりでなく、その機能に悪影響を与えることがある。 【0003】 船底の場合においては、水棲生物の付着が船全体の表面粗度の増加につながり、さらには船速が低下するとともに燃費が増大する。またこのためドックでの修復時間が長くなり運航効率が著しく低下する。このほか、バクテリア類の繁殖により水中構築物の腐敗、物性の劣化が起こって著しく寿命が低下する等の莫大な被害を生ずる。 【0004】 従来より、このような被害を回避するために使用される防汚剤としては、有機塩素系化合物、亜酸化銅、有機スズ化合物等が知られている。 【0005】 有機スズ化合物や亜酸化銅のような重金属を含有する生理活性物質は、特に優れた防汚効果を有し、漁網や船底用の塗料に必須の成分と考えられている。例えば米国特許第3,167,473号明細書には、有機スズ化合物を用いた防汚処理剤のなかで「ポリマータイプ」といわれているものが記載されている。この防汚処理剤は、共重合体の側鎖に有機スズ含有基を有し、微アルカリ性の海水中で加水分解されて有機スズ化合物を放出し、防汚効果を発揮すると同時に、加水分解された共重合体自身も水溶化して海水中に溶解してゆくため、樹脂残渣層を残すことなく、常に活性な表面を保つことができる。 【0006】 また、特開昭60-231771号公報には、含有する有機スズ化合物や亜酸化銅等の生理活性物質の溶出性を促進させる目的で、これに併用する有機含有共重合体の単量体の一部として、加水分解性のシリル(メタ)アクリレート、例えばトリブチルシリルアクリレートやトリフェニルシリル(メタ)アクリレートを用いる方法が記載されている。 【0007】 しかしながら、これらの防汚処理剤は保存安定性が悪く、特に亜酸化銅を併用した場合には数日の内にゲル化してしまうというため問題があった。しかもこれらの防汚処理剤は、重金属や加水分解性の有機スズ含有基を含有するため、毒性が高く、特に有機スズ化合物は刺激性が強く、皮膚に触れると炎症を起こす等、安全衛生面で問題があるのみならず、海水中への流出による海洋汚染、奇形魚の発生、生態濃縮による人体への蓄積性等、重大な問題を抱えていた。 【0008】 【発明が解決しようとする課題】 上述したような問題に対処するものとして、例えば特表昭60-500452号公報には、有機スズ含有共重合体を用いることなく、防汚効果を示す船底塗料が記載されている。この船底塗料は毒物および自己研磨型ポリマーより構成されており、該ポリマー単量体としてはトリス(4-メチル-2-ペントキシ)シリルアクリレートのような加水分解性のシリル(メタ)アクリレートが記載されている。 【0009】 しかしながらこの船底塗料において、自己研磨ポリマーは、毒物供給系(delivery system)として働くのみで、これ自身には防汚性能はないため、毒物成分が必須のものである。この船底塗料においても、毒物によって付着した水棲生物を殺すという防汚を果たす基本的な原理は、従来の防汚処理剤と変わっておらず、重大な環境問題を回避することはできなかった。しかも毒物として亜酸化銅を使用した場合には、保全安定性が悪く、数日の内にゲル化してしまうという問題もあった。 【0010】 さらに、ここに挙げられているトリス(4-メチル-2-ペントキシ)シリルアクリレートは、ケイ素原子とアルコキシ基結合の間およびケイ素原子とエステル結合の間の2種類の結合がいずれも加水分解性をもつので、加水分解による共重合体の水への溶解度の制御が困難になるという問題もあった。 【0011】 【発明の目的】 本発明は、有機スズ含有重合体を含まず、海洋の生態系に悪影響を与えることのない防汚コーティング材用共重合体を提供することを目的とする。 【0012】 【課題を解決するための手段と作用】 本発明者らは、下記特定の式で規定される共重合体の自己研磨性に注目し、これを用いたコーティング材は、毒物の併用がなくとも優れた防汚性を有し、しかも保存安定性の良好な共重合体を見出して本発明をなすに至った。 【0013】 すなわち本発明の防汚コーティング材用共重合体は、下記一般式で表される共重合体側鎖のシリル基が加水分解によって放出され、次いで共重合体自身も水溶化する自己研磨作用のみで防汚性を発揮するものであり、 一般式: (式中、R1は水素原子またはメチル基、R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる1価の炭化水素基で、うち少なくとも1個は炭素数4以上の1価の炭化水素基を示す)で表される少なくとも1種の不飽和トリオルガノシリル単量体と、(メタ)アクリル系およびビニル系化合物から選ばれる少なくとも1種の有機単量体とを重合させて得られる重合度が50ないし190の共重合体からなることを特徴としている。 【0014】 本発明に用いられる共重合体は、本発明において特徴的な成分であり、トリオルガノシリル基のケイ素原子に結合した有機基を選択することによって適度の加水分解性を示し、水中で徐々に加水分解して親水性を増すため、水に対して制御された溶解特性を示す。このような共重合体は、1種または2種以上のトリオルガノシリル単量体と、1種または2種以上の有機単量体とを重合度が50ないし190に重合させることによって得られる。 【0015】 不飽和トリオルガノシリル単量体と有機単量体との構成比は、特に限定されるものではないが、好ましくは不飽和トリオルガノシリル単量体の量が10〜95重量%、さらに好ましくは20〜70重量%の範囲である。不飽和トリオルガノシリル単量体の量を上記の範囲とすることで、特に良好な加水分解速度と塗膜特性とが得られ、良好な防汚力を長期間にわたって持続することができる。 【0016】 共重合体の一方の出発原料である不飽和トリオルガノシリル単量体において、R1は水素原子またはメチル基であり、R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜18の独立した1価の炭化水素基で、直鎖状または分岐状のアルキル基、シクロアルキル基およびフェニル基から選ばれるものである。このアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ミリスチル基、ステアリル基等が例示され、シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が例示される。 適度な加水分解性を持ち、そのことによってコーティング材の水に対する徐溶性を制御するには、R2、R3、R4のうち少なくとも1個が炭素数4以上のものであることが好ましい。 【0017】 このような不飽和トリオルガノシリル単量体としては、ジメチルブチルシリルアクリレート、ジメチルヘキシルシリルアクリレート、ジメチルオクチルシリルアクリレート、ジメチルデシルシリルアクリレート、ジメチルドデシルシリルアクリレート、ジメチルシクロヘキシルシリルアクリレート、ジメチルフェニルシリルアクリレート、ジメチルジブチルシリルアクリレート、エチルジブチルシリルアクリレート、ジブチルヘキシルシリルアクリレート、ジブチルフェニルシリルアクリレート、トリブチルシリルアクリレート、トリフェニルシリルアクリレート等;およびこれらに対応するメタクリレートが例示される。 【0018】 これらのうち、加水分解速度が遅く、合成の容易なことと、造膜性の良いことでは、ジメチルヘキシルシリル(メタ)アクリレート、ジメチルデシルシリル(メタ)アクリレートのような、R2、R3、R4のうち2個がメチル基で残余が炭素数6以上の長鎖アルキル基であるものが優れているが、水中で制御された加水分解速度を持ち、適度の徐溶性を得るためには、トリブチルシリル(メタ)アクリレートが好ましい。 【0019】 共重合体の他方の出発原料である有機単量体は、(メタ)アクリル系およびビニル系化合物から選ばれるものである。この(メタ)アクリル系化合物としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート(以上のアルキル基は直鎖でも分岐状でもよい)、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、ジメチルアミノエチルアクリレート、アクリルアミド、アクリルニトリル等;およびこれらに対応するメタクリル化合物が例示され、ビニル系化合物としては、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルメチルエーテル、ビニルプロピルエーテル、ビニルイソブチルエーテル、ビニルピロリドリン等が例示される。 【0020】 重合は、例えば有機溶剤の存在下で不飽和トリオルガノシリル単量体と有機単量体とを混合し、重合開始剤を用いて行われる。 【0021】 有機溶剤は、重合の制御と反応中のゲルの形成防止のためのものであり、ベンゼン、トルエン、キシレンのような炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチルのようなエステル系溶剤;メタノール、エタノールのようなアルコール系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンのようなケトン系溶剤;およびジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドのような非プロトン系極性溶剤が例示される。 【0022】 有機溶剤の量は、単量体の合計100重量部に対して20〜1000重量部が好ましく、さらに好ましくは50〜500重量部である。有機溶剤の量を上記範囲とすることにより、特に良好な反応の制御性や製造工程の簡易化が図れる。 【0023】 重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルパーベンゾエート、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等の有機過酸化物およびアゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物が例示される。重合開始剤の量は単量体の合計量100重量部に対して0.01〜10重量部が一般的である。重合条件は特に限定されないが、窒素気流中で行うことが好ましく、また一般に重合開始剤が有機過酸化物の場合には60〜120℃、アゾ化合物の場合には45〜100℃の温度で行われる。 【0024】 本発明の上記特定の共重合体を用いたコーティング材は、前述の共重合体単独か必要に応じて顔料、有機溶剤、揺変剤等を配合することによって得られる。防汚処理の対象が水中構築物、漁網、船底等と多岐にわたるため、配合割合は特に限定できないが、共重合体の配合量を上記の範囲とすることにより、特に良好な塗膜形成性と作業性が得られる。 【0025】 顔料としては、べんがら、チタン白、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウムのような海水不活性顔料や、酸化亜鉛、酸化カルシウムのような海水反応性顔料が例示されれ1種でも2種以上の併用でも差し支えない。有機溶剤としては、前述した共重合体を得るための重合工程で用いたものと同様なものが用いられる。揺変材としては、ベントナイト、酸化ポリエチレンおよびアミド化合物が例示される。 【0026】 【実施例】 以下、本発明を実施例および比較例によって説明する。なお、以下の実施例中の部は重量部を示す。 【0027】 <共重合体の合成> 冷却器、攪拌器および温度計を備えた反応器にキシレン300部を仕込み、これにジメチルヘキシルシリルメタクリレート120部、メチルメタクリレート180部、およびアゾビスイソブチロニトリル2部を加え、80℃で8時間加熱攪拌することによって重合を行った。室温に冷却後、酢酸エチル66部を追加して淡黄色透明の共重合体溶液V-1を得た。V-1の25℃における粘度は480cP、固形分濃度は44.8%であった。 【0028】 V-1と重合後の有機溶剤の追加を行わない以外は同様にして、表1に示す有機溶剤、単量体および反応開始剤から、淡黄色透明共重合体溶液V-2〜V-7を得た。得られた共重合体溶液の粘度と固形分濃度は表1に示す通りである。 なお、表中の配合量を示す数字は部を表す(以下同じ)。 【0029】 また、低重合度の共重合体(H-1)および高重合度の共重合体(H-2)を以下のように合成した。まず、冷却器、攪拌器および温度計を備えた反応容器にキシレン300部を仕込み、これにトリブチルシリルメタクリレート144部、メチルメタクリレート156部、n-オクチルメルカプタン6部およびアゾビスイソブチロニトリル6部を加え、95℃で8時間加熱撹拌することによって重合を行った後、室温に冷却して無色透明の低重合度共重合体溶液H-1を得た。 H-1の25℃における粘度は48cP,固形分濃度は47.4%であった。 【0030】 さらに、冷却器、攪拌器および温度計を備えた反応容器にキシレン300部を仕込み、これにトリブチルシリルメタクリレート144部、メチルメタクリレート156部およびアゾビスイソブチロニトリル0.6部を加え、80℃で8時間加熱撹拌することによって重合を行った後、室温に冷却して無色透明の高重合度共重合体溶液H-2を得た。H-2の25℃における粘度は1760cP,固形分濃度は49.9%であった。各単量体の仕込み量と共重合体収量とから実質的に全量の各単量体が重合していることを確認した。 【0031】 また、表1には上記各共重合体のGPC法(カラム:東洋ソー(株)製、商品名TSK-GEL G4000HXL-G2000HXL、溶媒:テトラヒドロフラン、ポリスチレン換算)により求めた数平均分子量(Mn)、およびGPC法により求めたMnと共重合体合成時の単量体の仕込み組成から計算した重合度を併せて示す。 【0032】 【0033】 <実施例1〜10、参考例1〜2、比較例1〜4および比較例6〜7> 以上のようにして得た共重合体溶液を用いて、防汚性コーティング材を表2に示す配合により調製した。 また、比較例1および2として、亜酸化銅とトリブチルスズメタクリレートとメチルメタクリレートとの共重合体からなる表3に示すワニスAおよびBを用いた防汚塗料を表4に示す配合により調製した。さらに比較例3および4として、従来型の亜酸化銅を用いた防汚塗料を表4に示す配合により調製した。 またさらに、参考例1〜2として、共重合体溶液H-1を用いて、表2に示す配合により防汚性コーティング材を調製した。また、比較例6〜7として、共重合体溶液H-2を用いて、表2に示す配合により防汚性コーティング材を調製した。 【0034】 【0035】 【0036】 以上のように調製した各防汚性コーティング材と防汚塗料とを用いて、下記の要領で塗膜の消耗度と水棲生物の付着性の試験を行った。 【0037】 <塗膜の消耗度> 実施例1〜10、参考例1〜2、比較例1〜4および比較例6〜7の各防汚性コーティング材と防汚塗料を、それぞれ70×150×2mmの硬質塩化ビニル板に、乾燥膜厚が100μmになるようにアプリケーターで塗布し、海水中に設置した回転ドラムに取付け、周速10ノットで回転させて1か月間の消耗膜厚を測定した。その結果を表5に示す。 【0038】 <水棲生物の付着性▲1▼> 実施例1〜10、参考例1〜2、比較例1〜4および比較例6〜7の各防汚性コーティング材と防汚塗料を、それぞれ防錆塗料を塗布した100×300×3mm銅板に、乾燥膜厚が150〜200μmになるように塗布して試料を作製した。これらの試料と比較例5として無処理の試料とをそれぞれ広島湾宮島沖の海中に沈め、6か月ごとに水棲生物の付着面積を調べた。各々の試料の付着面積を百分率で表6に示す。 【0039】 【0040】 【0041】 <水棲生物の付着性▲2▼> 実施例1および5と比較例1および4の各防汚性コーティング材と防汚塗料を、それぞれ50×50cmのポリ塩化ビニル樹脂製フレームに取り付けた、網目の大きさが7節のポリエステル製の漁網に浸漬塗布して試料を作製した。これらの試料と比較例5として無処理の試料とをそれぞれ富山湾の海中に沈め、2か月ごとに水棲生物の付着状態を調べた。その結果を表7に示す。 【0042】 各試験結果が示すように、本発明の共重合体を用いた防汚性コーティング材は、長期にわたって安定した防汚性を発揮する。 【0043】 【発明の効果】 本発明の防汚性コーティング材用共重合体は、側鎖のトリオルガノシリル基が加水分解して親水性を増し、水中で制御された溶解性、すなわち自己研磨性を示すので、環境に影響を及ぼす有機スズ化合物や有機スズ含有共重合体を用いることなく優れた防汚効果を発揮することができる。 したがって、本発明の防汚性コーティング材用共重合体は、水中構築物、漁網、船底等の水棲生物の付着による汚染を防止するのに有効である。 |
訂正の要旨 |
a.特許請求の範囲の請求項1における一般式の説明「(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる1価の炭化水素基である。」を、『(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる1価の炭化水素基で、うち少なくとも1個は炭素数4以上の1価の炭化水素基を示す)』と訂正する。 b.特許明細書の段落【0013】における一般式の説明「(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる1価の炭化水素基である。」を、『(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2、R3、R4はそれぞれ炭素数1〜18のアルキル基、シクロアルキル基およびフェニル基からなる群より選ばれる1価の炭化水素基で、うち少なくとも1個は炭素数4以上の1価の炭化水素基を示す)』に訂正する。 c.特許請求の範囲の請求項1における「重合度が190を超えない」を 「重合度が50ないし190の」と訂正する。 d.特許明細書の段落【0013】の「重合度が190を超えない」を、 「重合度が50ないし190の」と訂正する。 e.特許明細書の段落【0014】の「重合度が190を超えない程度に」を、「重合度が50ないし190に」と訂正する。 |
異議決定日 | 2003-04-16 |
出願番号 | 特願平10-116616 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YA
(C09D)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 石井 あき子、近藤 政克 |
特許庁審判長 |
雨宮 弘治 |
特許庁審判官 |
後藤 圭次 佐藤 修 |
登録日 | 2000-04-07 |
登録番号 | 特許第3053081号(P3053081) |
権利者 | 中国塗料株式会社 ジーイー東芝シリコーン株式会社 |
発明の名称 | 防汚コーティング材用共重合体 |
代理人 | 庄子 幸男 |
代理人 | 庄子 幸男 |
代理人 | 庄子 幸男 |