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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C03C 審判 全部申し立て 2項進歩性 C03C 審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C03C |
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管理番号 | 1079562 |
異議申立番号 | 異議2001-72717 |
総通号数 | 44 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1994-04-19 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-10-03 |
確定日 | 2003-04-16 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3152679号「光学ガラス」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3152679号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.本件の経緯 本件特許第3152679号は、平成3年4月16日の出願であって、平成13年1月26日(公報発行平成13年4月3日)に設定登録され、平成13年10月3日にホーヤ株式会社から特許異議の申立を受けたものであって、その後平成14年2月8日(発送日平成14年2月26日)付で取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年4月22日に訂正請求がなされ、平成14年12月11日(発送日平成15年1月7日)付で訂正拒絶理由通知がなされ、それに対し平成15年3月3日付で特許意見書が提出されたものである。 2.訂正拒絶理由の検討 平成14年12月11日付訂正拒絶理由の概要は、平成14年4月22日の訂正請求のうち訂正事項b及び訂正事項cにおける「MgO 4%未満、MgO+CaO 5%未満」は、本件特許明細書に記載されておらず、また、当該訂正事項が本件出願の時点において技術常識であるとも認められないので、上記訂正事項b及び訂正事項cを含む訂正は、願書に添付した明細書の範囲内においてした訂正ではなく、改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合しないというものである。 しかしながら、本特許権者が平成15年3月3日付特許意見書で主張するように、上記訂正は、先行技術としての頒布刊行物である引用文献1及び引用文献2に記載された事項のみを当該請求項に記載した事項から除外することを明示するものであり、しかも、上記各頒布刊行物記載の発明に対して本件発明が進歩性を有さないとする証拠も見当たらないから、いわゆる「除くクレーム」と認められる。 したがって、上記訂正事項は、新規事項の追加に該当せず、願書に添付した明細書の範囲内においてしたものである。 3.平成14年4月22日付の訂正請求の要旨 (1)訂正事項a:本件明細書中特許請求の範囲の請求項1の 「重量%で、 SiO2 40〜70%、 B2O3 0〜5%、 Al2O3 0〜15%、 ただしB2O3+Al2O3 0.5%以上、 TiO2 2〜20%、 ZrO2 0〜5%、 Nb2O5 0〜4%、 WO3 0〜5%、 Na2O 9〜40% Na2O+K2O 18<〜40% および MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜10% の範囲の各成分を含有し、 かつ、 80%透過波長が370〜385nmの範囲にあり、 屈折率(Nd) 約1.50〜1.65、 アッベ数(νd) 約35〜55 の範囲の光学恒数を有することを特徴とする光学ガラス。」を 「重量%で、 SiO2 40〜70%、 B2O3 0〜5%、 Al2O3 0〜15%、 ただしB2O3+Al2O3 0.5%以上、 TiO2 2〜20%、 ZrO2 0〜5%、 Nb2O5 0〜4%、 WO3 0〜5%、 Na2O 10.3〜35.8% Na2O+K2O 18<〜40% および MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜10% の範囲(ただし、MgO 4%未満、MgO+CaO 5%未満)の各成分を含有し、 かつ、 80%透過波長が370〜385nmの範囲にあり、 屈折率(Nd) 約1.50〜1.65、 アッベ数(νd) 約35〜55 の範囲の光学恒数を有することを特徴とする光学ガラス。」と訂正する。 (2)訂正事項b:本件明細書中発明の詳細な説明の段落【0005】の「Na2O 9〜40%」(特許公報第3欄39行)を「Na2O 10.3〜35.8%」と訂正し、「MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜10%の範囲の各成分を含有し」(特許公報第3欄42〜43行)を「MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜10%の範囲(ただし、MgO 4%未満、MgO+CaO 5%未満)の各成分を含有し」と訂正する。 4.訂正の適否についての検討 (1)上記訂正事項aは、 訂正事項a-1.「Na2O 9〜40%」を「Na2O 10.3〜35.8%」とする訂正 訂正事項a-2.「MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜10%の範囲の各成分を含有し」を「MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜10%の範囲(ただし、MgO 4%未満、MgO+CaO 5%未満)の各成分を含有し」とする訂正 に細分することができる。 訂正事項a-1は、Na2Oの組成範囲を9〜40%から10.3〜35.8%に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当する。 訂正事項a-2は、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOの組成範囲0〜10%という限定にさらにMgO 4%未満、MgO+CaO 5%未満という限定を付け加えるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当する。 したがって、訂正事項aは特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当する。 そして、Na2Oの組成範囲が10.3〜35.8%であることは、本件明細書の段落【0009】の【表1】に記載された事項であり、MgO 4%未満、MgO+CaO 5%未満という限定は、本異議事件における取消理由通知で引用された先行技術文献に記載された発明と重複する構成部分を排除する、いわゆる「除くクレーム」と認められるから、いずれも新規事項の追加に該当しない。 (2)上記訂正事項bは、発明の詳細な説明の記載を、訂正事項aによって訂正された特許請求の範囲の記載と整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当し、新規事項の追加に該当しない。 また、上記訂正事項aおよびbは、いずれも実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。 したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第3項の規定により準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。 5.特許異議申立人の主張の概要 特許異議申立人は、下記甲第1ないし8号証を提出し、訂正前の本件請求項1ないし2に係る発明は、甲第2、4号証の内容を参酌すれば、甲第1ないし3号証に記載された発明であり(理由1)、また、甲第5及び6号証記載の周知技術を参酌すれば、本件の審査経過において引用された引用文献1〜6に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり(理由2)、また、本件の平成12年7月28日付手続補正書による補正は要旨を変更するものであるから、本件特許出願は上記手続補正書を提出した平成12年7月28日となるから、甲第7及び8号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである(理由3)から、特許法第29条第1項第3号ないし特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、さらに、本件特許請求の範囲における「約」は、発明の内容を不明瞭とするものであるから、本件特許出願は特許法第36条に規定する要件をみたしておらず(理由4)、訂正前の本件請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第1項第2ないし4号の規定により取り消されるべきものである旨主張している。 甲第1号証:米国特許第4119760号明細書 甲第2号証:実験成績証明書1 甲第3号証:特公昭34-5128号公報 甲第4号証:実験成績証明書2 甲第5号証:「新訂硝子」上巻、第42頁、産業図書株式会社、昭和32年1月15日 甲第6号証:「Handbook of Glass Properties」第233頁、ACADEMIC PRESS,INC.1986年発行 甲第7号証:特開平6-107427号公報(本件出願の公開公報) 甲第8号証:特開昭63-265840号公報 6.特許異議申立人の主張についての検討 6-1.理由4について 本件特許明細書には、「【産業上の利用分野】本発明は、屈折率(Nd)約1.50〜1.65、アッベ数(νd)約35〜55の範囲の光学恒数を示し、また優れた耐失透性を有するPbOフリーのSiO2-B2O3および/またはAl2O3-TiO2-Na2Oおよび/またはK2O系組成の光学ガラスに関する。【従来の技術】従来、上記光学恒数を有するガラスとしては、PbO含有珪酸塩系ガラスが良く知られている。」(特許公報第1頁2欄11行〜第2頁3欄4行)と記載されているように、本件発明における屈折率やアッベ数自体は従来より知られた光学恒数であり、本件発明は、特定の成分組成を採用することにより、PbOフリーの光学ガラスを提供するものであるから、上記屈折率やアッベ数に「約」が付されていたからといって直ちに本件発明の内容が不明瞭とはいえない。 6-2.理由3について 異議申立人は、平成12年7月28日付手続補正書による補正のうち、「Na2O 9〜40%」及び「Na2O+K2O 18<」を付け加える補正は、出願当初の明細書に記載がなく、明細書の要旨を変更するものであるから、その出願日は手続補正書が提出された平成12年7月28日とすべき旨主張しているが、本件発明は、上記のとおり訂正が認められ、Na2Oの組成範囲は出願当初の明細書に記載される実施例の「10.3〜35.8%」となり、一方、「Na2O+K2O」の範囲を「18<」としたのは、本件の審査過程において拒絶の理由として通知された先行技術の構成を排除するために設けられたものと認められ、いわゆる「除くクレーム」であるから、新規事項の追加に該当しない。 したがって、異議申立人の本件の出願日を平成12年7月28日とすべき旨の主張は認めることができず、該出願日であることを前提とする異議申立人の理由3は、関連する証拠(甲第7及び8号証)の内容を検討するまでもなく採用することができない。 6-3.理由1及び2について (1)本件発明の認定 本件発明は、上記のとおり訂正が認められるから、平成14年4月22日付訂正請求書に添付された明細書の請求項1ないし2に記載された事項により特定された次のとおりのものである(以下「本件発明1」ないし「本件発明2」という)。 「【請求項1】重量%で、 SiO2 40〜70%、 B2O3 0〜5%、 Al2O3 0〜15%、 ただしB2O3+Al2O3 0.5%以上、 TiO2 2〜20%、 ZrO2 0〜5%、 Nb2O5 0〜4%、 WO3 0〜5%、 Na2O 10.3〜35.8% Na2O+K2O 18<〜40% および MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜10% の範囲(ただし、MgO 4%未満、MgO+CaO 5%未満)の各成分を含有し、 かつ、 80%透過波長が370〜385nmの範囲にあり、 屈折率(Nd) 約1.50〜1.65、 アッベ数(νd) 約35〜55 の範囲の光学恒数を有することを特徴とする光学ガラス。 【請求項2】液相温度が820〜860℃であることを特徴とする、請求項1記載の光学ガラス。」 (2)各証拠に記載された発明 ア.甲第1号証(米国特許第4119760号明細書) ア-1.「本発明は、強化ガラス製品、例えば・・・眼鏡レンズ・・・の製造に適用できる。」(第21欄24〜37行) ア-2.「MgOは化学的強化後の製品強度を高める。」(第14欄39〜40行) ア-3.「酸化物基準重量で、以下の組成から成るアルカリ金属-ジルコニアアルミノシリケート硝子: 組成 重量パーセント SiO2 52-58 Na2O 10-19 K2O 0-10 Na2O+K2O 17-23 Al2O3 9-13 ZrO2 2-4.5 Al2O3+ZrO2 12-17 CaO 0-5 MgO 4-6 TiO2 0-7 TiO2+MgO+CaO 4-14 イ.甲第2号証(実験成績証明書1) イ-1.「米国特許第4119760号公報に記載のExample1、Example2の2つのガラスの屈折率、アッベ数、80%透過波長、液相温度を表1に示す。 Example1 Example2 屈折率nd 1.5310 1.5455 アッベ数νd 54.0 50.6 80%透過波長 372nm 374nm 液相温度 認められず 認められず」(実験結果の欄) ウ.甲第3号証(特公昭34-5128号公報) ウ-1.「本発明は、比較的高い屈折率を有する一群のガラス、特に密度が2.7g/cm3以下にして屈折率が1.56以上の軽量な眼炎用クラウンガラスに関するものである。」(第1頁左欄2〜4行) ウ-2.「本発明ガラスは次の組成を有する。 第1表 成分 適当範囲(重量部) 好ましい範囲(重量部) SiO2 50〜70% 58〜64% 全アルカリ 10〜20 12.5〜17.5 (Na2O) 0〜20 0〜17.5 (K2O) 0〜18 0〜15.5 (Li2O) 0〜5 0〜5 CaO及びMgO又 5〜20 7.5〜14 はそのいずれか TiO2 5〜20 5〜9 B2O3 0〜10 0 Al2O3 0〜3 0 Sb2O5及びAs2O5又 0〜2 0〜2 はそのいずれか 」(第1頁左欄15〜31行) ウ-3.「2価金属の酸化物即ちCaO及びMgOは化学的安定性に好ましい。・・・ガラスの化学的安定性からいって最低約5%成可く7.5%より小ならざる量でそれらのいずれか又はその混合物を要する。」 エ.甲第4号証(実験成績証明書2) エ-1.「特公昭34-5128号公報、第3表、III&Vガラスの屈折率、アッベ数、80%透過波長を表1に示す。 表1 III&Vガラス 屈折率nd 1.5614 アッベ数νd 47.9 80%透過波長 383nm」(実験結果の欄) エ.甲第5号証(「新訂硝子」上巻、第42頁、産業図書株式会社、昭和32年1月15日) エ-1.「Na2O-SiO2系の平行を示した第3.7図においてNa2Oを加えることによって、熔融曲線は温度軸に対し急傾斜をなし、Na2Oが25%のときに約1000℃の融点降下がある。これはNa2Oが強力な融解力を有していることを示しており、ガラスをその原料から熔融するときのガラス化反応は、この作用から始まるのである。」(第42頁6〜10行) オ.甲第6号証(「Handbook of Glass Properties」第233頁、ACADEMIC PRESS,INC.1986年発行) オ-1.第233頁の「TABLE9.6」には、Na2O-SiO2系ガラスにおいて、Na2Oの含有量を15〜50モル%に変化させたときの900,1000,1100,1200,1300,1400,1500℃におけるガラスの粘度の実測値が記載され、いずれの温度においてもNa2Oの含有量が多くなるにつれて粘度が低下する傾向が示されている。 (3)対比・判断 甲第1号証に記載される発明と本件発明1とを対比すると、MgOの組成範囲が、甲第1号証では4〜6%であるのに対し本件発明では4%未満である点で相違する。 そして、記載ア-2からみて、甲第1号証記載のガラスはMgOを必須の構成とするものと認められるから、甲第1号証は本件発明の構成要件のうちMgOの組成を4%未満とすることを示唆していない。 したがって、本件発明1は、甲第1号証記載のガラスの性状が甲第2号証に示されるとおりであったとしても、甲第1号証記載の発明ということはできない。 甲第3号証に記載される発明と本件発明1とを対比すると、MgO+CaOの組成範囲が、甲第1号証では5〜20%であるのに対し本件発明では5%未満である点で相違する。 そして、記載イ-3からみて、甲第3号証記載のガラスはMgO,CaOのいずれか又はその混合物を必須の構成とするものと認められるから、甲第1号証は本件発明の構成要件のうちMgO+CaOの組成を5%未満とすることを示唆していない。 したがって、本件発明1は、甲第3号証記載のガラスの性状が甲第4号証に示されるとおりであったとしても、甲第3号証記載の発明ということはできない。 記載エ-1ないし記載オ-1からみて、甲第5及び6号証には、Na2Oの組成割合が多ければ多いほど熔融性が向上することが開示されていると云えるが、これらの刊行物にはNa2O以外の成分を本件発明1に組成範囲とすることを示唆する記載はない。 本件発明1は、請求項1で規定する組成成分を特定の範囲とすることにより「Na2OおよびK2Oの各成分は、ガラスの溶融性を向上するが、比較的多量を含有することにより意外にも耐失透性を維持しつつ、所望の光学恒数を得ることができる」(特許公報第2頁4欄24〜27行)という明細書記載の効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、甲第5及び6号証記載の発明と本件の審査過程で通知された引用文献1ないし6を組合せることにより、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 さらに、本件発明2は本件発明1を引用する発明であるから、 本件発明1が甲第1ないし3号証記載の発明といえず、甲第5又は6記載の発明及び上記刊行物1ないし6記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない以上、本件発明2も、甲第1ないし3号証記載の発明といえず、甲第5又は6記載の発明及び上記刊行物1ないし6記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 7.結び 以上のとおりであるから、本件請求項1ないし2に係る特許は、特許異議申立の理由および証拠によっては取り消すことができない。 また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 光学ガラス (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】重量%で、SiO2 40〜70%、B2O3 0〜5%、Al2O3 0〜15%、ただしB2O3+Al2O3 0.5%以上、TiO2 2〜20%、ZrO2 0〜5%、Nb2O5 0〜4%、WO3 0〜5%、Na2O 10.3〜35.8%、Na2O+K2O 18<〜40%、およびMgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜10%の範囲(ただし、MgO 4%未満、MgO+CaO 5%未満)の各成分を含有し、かつ、80%透過波長が370〜385nmの範囲にあり、屈折率(Nd)約1.50〜1.65、アッベ数(νd)約35〜55の範囲の光学恒数を有することを特徴とする光学ガラス。 【請求項2】液相温度が820〜860℃であることを特徴とする、請求項1記載の光学ガラス。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、屈折率(Nd)約1.50〜1.65、アッベ数(νd)約35〜55の範囲の光学恒数を示し、また優れた耐失透性を有するPbOフリーのSiO2-B2O3および/またはAl2O3-TiO2-Na2Oおよび/またはK2O系組成の光学ガラスに関する。 【0002】 【従来の技術】従来、上記光学恒数を有するガラスとしては、PbO含有珪酸塩系ガラスが良く知られている。しかし、ガラスの製造過程等における公害問題に対処するため、有害なPbO成分を含まず、これに代ってTiO2を含有するガラスが種々検討されてきている。例えば、独乙国特許第973350号公報には、TiO2、弗素含有珪酸塩系ガラスが開示されており、また特開昭54-105119号公報には、SiO2-TiO2-K2O-BPO4および/またはAl(PO3)3系ガラスが開示されているが、これらのガラスはいずれも失透に対する安定性や光線透過性が不十分であり、また前者のガラスは、溶融の際、弗素成分の揮発により均質化しにくい。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記所定の光学恒数を有し、かつ、前記従来の技術にみられる諸欠点を総合的に解消した光学ガラスを提供することを目的とする 【0004】 【課題を解決するための手段】本発明者等は、前記目的を達成するため、鋭意試験研究を重ねた結果、特定組成範囲のSiO2-B2O3および/またはAl2O3-TiO2-Na2Oおよび/またはK2O系のガラスにおいて、前記光学恒数を維持しつつ、耐失透性と光線透過性が改善された量産可能な所期のガラスが得られることをみいだし、本発明をなすに至った。 【0005】本発明にかかる光学ガラスの特徴は、重量%で、SiO2 40〜70%、B2O3 0〜5%、Al2O3 0〜15%、ただしB2O3+Al2O3 0.5%以上、TiO2 2〜20%、ZrO2 0〜5%、Nb2O5 0〜4%、WO3 0〜5%、Na2O 10.3〜35.8%、Na2O+K2O 18<〜40%、およびMgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜10%(ただし、MgO 4%未満、MgO+CaO 5%未満)の範囲の各成分を含有し、かつ、80%透過波長が370〜385nmの範囲にあり、屈折率(Nd)約1.50〜1.65、アッベ数(νd)約35〜55の範囲の光学恒数を有することにある。 また、請求項2に記載の発明にかかる光学ガラスは、液相温度が820〜860℃であることを特徴とする。 【0006】上記各成分の組成範囲を限定した理由は、つぎのとおりである。すなわち、SiO2は、ガラス形成成分として有効であるが、その量が40%未満であると、ガラスの光線透過性および化学的耐久性が悪化し、また70%を超えるとガラスの溶融が困難となる。B2O3成分は、ガラスの溶融性や耐失透性の改善および光学恒数の調整に有効であるが、その量が5%を超えると化学的耐久性の劣化や着色を招きやすい。Al2O3成分は、ガラスの耐失透性と化学的耐久性の改善および光学恒数の調整に有効であるが、その量が15%を超えるとガラスの溶融性や耐失透性が悪くなる。ただし、B2O3とAl2O3成分の1種または2種の合計量は、ガラスの耐失透性改善のため0.5%以上必要である。TiO2成分は、ガラスに高分散性を与えるのに有効な成分である。しかし、TiO2の量が2%未満では所要の光学恒数が得にくく、また20%を超えるとガラスが著しく着色したり、失透傾向が増大したりする。ZrO2成分は、ガラスの化学的耐久性向上のため、溶融性を悪化させない範囲5%まで添加し得る。Nb2O5成分は、耐失透性および光線透過性の改良に有効であるが、その量が4%を超えると、所望の光学恒数を得難くなる。WO3成分は、ガラスに高分散性を与えるのに有効な成分であるが、5%を超えると失透傾向が増大する。 【0007】Na2OおよびK2Oの各成分は、ガラスの溶融性を向上するが、比較的多量を含有することにより意外にも耐失透性を維持しつつ、所望の光学恒数を得ることができることをみいだされた成分であり、それらの1種または2種の合計量は、15%以上必要である。しかし、それらの成分の合計量が40%を超えると、ガラスの化学的耐久性が悪化する。MgO、CaO、SrO、BaOおよびZnOの各成分は、耐失透性改善のため添加し得るが、これらの1種または2種以上の成分の合計量は、所望の光学恒数維持のため10%までとする。さらに本発明のガラスには、必要に応じその他の成分、例えば、As2O3およびSb2O3の各成分を清澄剤として1%程度まで、Li2Oを5%程度まで、Rb2OおよびCs2Oの1種または2種合計を10%程度まで、およびSnOを2%程度まで添加してもさしつかえない。 【0008】 【実施例】つぎに本発明の光学ガラスの実施例について説明する。表1は、本発明の光学ガラスの実施組成例(No.1〜No.12)および従来のガラスの比較組成例(No.AおよびNo.B)を、これらのガラスの屈折率(Nd)、アッベ数(νd)、液相温度(℃)の測定試験結果および80%光線透過波長(T80(nm))とともに示したものである。 【0009】 【表1】 【0010】表記のガラスは、通常の光学ガラス原料を用いて調合および混合し、白金ルツボを使用して溶融し、撹拌均質化した後、ブロック形状に成形し徐冷して得た。表1において、液相温度の測定試験結果は、上記方法で得られたガラス試料を粉砕後、白金板上にのせ、温度傾斜炉に30分間保持して、失透状況を顕微鏡で観察して求めたものであり、また、80%光線透過波長は、10m/m厚さに両面研磨したガラス試料を分光光度計により測定したものである表1にみられるように、従来のガラスの比較例No.AおよびNo.Bは、液相温度が高いのに対し、実施例のガラスは、いずれも液相温度が低く、耐失透性が改善されている。また、比較例No.Aのガラスに比べ、これとほぼ同等の光学恒数を示す本実施例No.1〜3のガラスは、80%透過波長が短波長側へシフトしており、また比較例No.Bのガラスに比べ、これとほぼ同等の光学恒数を示す本実施例のガラスNo.4〜7も同様のシフトがみられ、着色性が改善されている。さらに、本実施例の他のガラスも同様に着色性が改善されている。 【0011】 【発明の効果】以上述べたとおり、本発明の光学ガラスは、特定組成範囲のSiO2-B2O3および/またはAl2O3-TiO2-Na2Oおよび/またはK2O系ガラスであるから、屈折率(Nd)が約1.50〜1.65およびアッベ数(νd)約35〜55の光学恒数を有し、有害なPbO成分を含有せず、しかも従来のガラスに比べて耐失透性および光線透過性に優れており、また量産性にも優れている。 【表1】 |
訂正の要旨 |
特許第3152679号発明の明細書を請求書に添付された訂正明細書のとおりに、すなわち下記のとおりに訂正する。 a.特許請求の範囲請求項1「Na2O 9〜40%」を「Na2O 10.3〜35.8%」に訂正する。 b.特許請求の範囲請求項1「MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜10%の範囲」と「の各成分」の間に「(ただし、MgO 4%未満、MgO+CaO 5%未満)」を挿入する。 c.明細書段落【0005】第4行(特許第3152679号公報(以下「公報」という)第3欄第39行)「Na2O 9〜40%」を「Na2O 10.3〜35.8%」に訂正し、同段落第5行〜第6行(公報第3欄第42行〜第43行)「MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 0〜10%の範囲」と「の各成分」の間に「(ただし、MgO 4%未満、MgO+CaO 5%未満)」を挿入する。 |
異議決定日 | 2003-03-24 |
出願番号 | 特願平3-176274 |
審決分類 |
P
1
651・
534-
YA
(C03C)
P 1 651・ 121- YA (C03C) P 1 651・ 113- YA (C03C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 前田 仁志 |
特許庁審判長 |
石井 良夫 |
特許庁審判官 |
岡田 和加子 山田 充 |
登録日 | 2001-01-26 |
登録番号 | 特許第3152679号(P3152679) |
権利者 | 株式会社オハラ |
発明の名称 | 光学ガラス |
代理人 | 坂本 徹 |
代理人 | 原田 卓治 |
代理人 | 坂本 徹 |
代理人 | 中村 静男 |
代理人 | 原田 卓治 |