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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G09F
管理番号 1079631
異議申立番号 異議2002-71484  
総通号数 44 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-06-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-06-17 
確定日 2003-04-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3239096号「疑似接着情報記録用シート」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3239096号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3239096号の請求項1に係る発明についての出願は、平成9年11月28日に出願され、平成13年10月5日に設定登録され、その後、特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年1月6日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
・訂正事項a.
請求項1の記載
「基材表面に通常では接着せず、一定条件が付与されると接着可能になり、接着後剥離可能な疑似接着剤層が設けられ、その疑似接着剤層上に情報記録が行われる情報記録用シートであって、
前記疑似接着剤層は、接着剤基剤100重量部に対して微粒子充填剤が100〜300重量部配合され、
前記基材は、古紙100%の再生紙であり、
前記再生紙中の脱墨剤の含有量が50ppm以下であることを特徴とする疑似接着情報記録用シート。」を、
「基材表面に通常では接着せず、一定条件が付与されると接着可能になり、接着後剥離可能な疑似接着剤層が設けられ、その疑似接着剤層上に情報記録が行われる情報記録用シートであって、
前記疑似接着剤層には、接着剤基剤100重量部に対して微粒子充填剤が100〜300重量部配合され、
前記基材は、古紙100%の再生紙であり、
前記再生紙中の脱墨剤の含有量が50ppm以下であり、
透気度がJISP-8117に準拠して100秒以上700秒以下であることを特徴とする疑似接着情報記録用シート。」と訂正する。
・訂正事項b.
発明の詳細な説明の段落【0009】の記載
「【課題を解決するための手段】
上記課題を解決した本発明の請求項1記載の発明は、基材表面に通常では接着せず、一定条件が付与されると接着可能になり、接着後剥離可能な疑似接着剤層が設けられ、その疑似接着剤層にプリントが行われる情報記録用シートであって、 前記基材は、全原料中に古紙を20%〜100%を含有して抄紙した再生紙であることを特徴とする疑似接着情報記録用シートである。」を
「【課題を解決するための手段】
上記課題を解決した本発明の請求項1記載の発明は、基材表面に通常では接着せず、一定条件が付与されると接着可能になり、接着後剥離可能な疑似接着剤層が設けられ、その疑似接着剤層上に情報記録が行われる情報記録用シートであって、
前記疑似接着剤層は、接着剤基剤100重量部に対して微粒子充填剤が100〜300重量部配合され、
前記基材は、古紙100%の再生紙であり、
前記再生紙中の脱墨剤の含有量が50ppm以下であり、
透気度がJISP-8117に準拠して100秒以上700秒以下であることを特徴とする疑似接着情報記録用シートである。」と訂正する。
・訂正事項c.
発明の詳細な説明の段落【0010】の記載「請求項2記載の発明は、前記再生紙中の脱墨剤の含有量が50ppm以下である請求項1記載の疑似接着情報記録用シートである。」を削除する。
・訂正事項d.
発明の詳細な説明の段落【0011】の記載
「 【課題を解決するための手段】
上記課題を解決した本発明の請求項1記載の発明は、
【請求項1】基材表面に通常では接着せず、一定条件が付与されると接着可能になり、接着後剥離可能な疑似接着剤層が設けられ、その疑似接着剤層上に情報記録が行われる情報記録用シートであって、前記疑似接着剤層は、接着剤基剤100重量部に対して微粒子充填剤が100〜300重量部配合され、前記基材は、古紙100%の再生紙であり、前記再生紙中の脱墨剤の含有量が50ppm以下であることを特徴とする疑似接着情報記録用シート。」を削除する。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存非
上記訂正事項a.の内、「前記疑似接着剤層は、接着剤基剤100重量部に対して微粒子充填剤が100〜300重量部配合され、」を「前記疑似接着剤層には、接着剤基剤100重量部に対して微粒子充填剤が100〜300重量部配合され、」と訂正した部分については、日本語として「層は、」が誤りであり「層には、」が正しいことは明らかであるから、誤記の訂正を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。また、訂正事項a.の内、「透気度がJISP-8117に準拠して100秒以上700秒以下である」という発明特定事項を追加した部分については、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、訂正前の明細書の段落【0027】に記載されていた事項であるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものではない。
上記訂正事項b.は、発明の詳細な説明の記載を訂正後の請求項1の記載に合致させるために記載を訂正したものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
上記訂正事項c.及びd.は、発明の詳細な説明の記載を訂正後の請求項1の記載に合致させるために記載を削除するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない
(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び第3項で準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
(1)訂正後の請求項1に係る発明
上記のとおり、訂正が認められるから、本件請求項1に係る発明は、その訂正後の特許請求の範囲に記載された次の事項により特定されるものである。
「基材表面に通常では接着せず、一定条件が付与されると接着可能になり、接着後剥離可能な疑似接着剤層が設けられ、その疑似接着剤層上に情報記録が行われる情報記録用シートであって、
前記疑似接着剤層には、接着剤基剤100重量部に対して微粒子充填剤が100〜300重量部配合され、
前記基材は、古紙100%の再生紙であり、
前記再生紙中の脱墨剤の含有量が50ppm以下であり、
透気度がJISP-8117に準拠して100秒以上700秒以下であることを特徴とする疑似接着情報記録用シート。」

(2)取消理由通知の概要
当審が通知した取消理由の概要は、本件請求項1に係る発明は、次の刊行物1)〜6)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
1)特開平6-40187号公報
2)特開平9-39378号公報
3)「平成4年度再生紙利用による印刷適性向上のためのトータルシステム開発に関する調査研究」社団法人日本印刷産業連合会発行(平成5年5月)、第12〜13頁及び巻末資料
4)特開昭57-128346号
5)紙パルプ技術便覧第5版、紙パルプ技術協会発行(1992年1月)、第151〜152頁脱墨剤の項
6)紙パ技協誌第48巻1号(1994年1月)第123頁

(3)刊行物記載事項
上記刊行物2には、「圧着記録用紙および折り畳み圧着記録用紙の製造方法」に関し、次の記載が認められる。
・記載2-1
「【請求項1】通常状態では粘着性、接着性ともに示さず加圧時に接着性を示す感圧接着層を支持体の少なくとも片面に有し、加圧時の接着が接着後に剥離可能である圧着記録用紙において、該感圧接着層が第4級アンモニウム基を有するカチオン性化合物を該感圧接着層の固形分重量の1〜50重量%含有することを特徴とする圧着記録用紙。」(特許請求の範囲の項)
・記載2-2
「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、インクジェット記録が可能な圧着記録用紙に関するものである。ここで圧着記録用紙とは、通常状態では粘着性、接着性ともに示さず加圧時に接着性を示し、加圧接着後に剥離可能な感圧接着層を有する記録用紙のことである。
【0002】
【従来の技術】
近年、圧着用紙を用いた2つ折りはがきや3つ折りはがきの用途が拡大している。これらの圧着用紙は、支持体に通常状態では粘着性、接着性ともに示さず加圧時に接着性を示す感圧接着塗液を塗布して感圧接着層を形成させ、用紙を折り畳むことにより感圧接着層同士を対面させた状態で圧力により接着させるものであり、加圧時の接着は接着後に剥離可能にもできるし、剥離不能なまでに接着することも可能である。はがきの親展通信内容(暗証番号、会員番号、請求金額、預金残高など)は剥離可能な感圧接着面に印字し、圧力により貼合せた後、受取人が剥離することにより内容を確認できる。」(発明の詳細な説明の項)
・記載2-3
「【0014】
本発明に用いられる原紙は、木材パルプと顔料を主成分として構成される。木材パルプとしては、LBKP、NBKPなどの化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGPなどの機械パルプ、DIPなどの古紙パルプなどのパルプを含み、必要に応じて従来公知の顔料やバインダーおよびサイズ剤や定着剤、歩留まり向上剤、カチオン化剤、紙力増強剤などの各種添加剤を1種以上用いて混合し、長網抄紙機、円網抄紙機、ツインワイヤ抄紙機などの各種装置で支持体の製造が可能であり、酸性、中性、アルカリ性で抄造できる。」(発明の詳細な説明の項)
・記載2-4
「【0023】
本発明の感圧性接着剤に用いられる接着剤ベースポリマーとしては、天然ゴム、変性天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムなどの合成ゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル酸エステル樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂などが溶液あるいはエマルジョンの形で用いられ、さらに接着性を制御する目的で、シリカ、カオリン、クレー、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、メラミン樹脂粒子、ベンゾグアナミン樹脂粒子、澱粉粒子などを併用することができる。」(発明の詳細な説明の項)
・記載2-5
「【0039】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、実施例において示す「部」および「%」は、特に明示しない限り重量部および重量%を示す。
【0040】
<予備操作>原紙は、LBKP(濾水度400mlcsf)70部とNBKP(濾水度450mlcsf)30部からなる木材パルプ100部に対して、軽質炭酸カルシウム/重質炭酸カルシウム/タルクの比率が30/35/35の顔料25部、市販アルキルケテンダイマー0.10部、市販カチオン系アクリルアミド0.03部、市販カチオン化澱粉1.0部、硫酸バンド0.5部を調製後、長網抄紙機を用いて坪量40g/m2で抄造した。
【0041】
実施例1-A
原紙に、以下の組成の感圧接着剤1Aを塗工量が8g/m2となるようにエアナイフで塗工、乾燥させて実施例1-Aの圧着記録用紙を得た。
<感圧接着剤1A>
アクリル酸エステル系エマルジョン(日本合成ゴム株式会社製、AE-923)
乾燥重量60部
合成非晶質シリカ(徳山曹達製、ファンシールX37B)
乾燥重量50部
でんぷん粒子(平均粒径20μm)
乾燥重量50部
ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド
乾燥重量40部

200部」(発明の詳細な説明の項)
・記載2-6
「【0065】
実施例7
上記実施例および比較例で得られた圧着記録用紙に、市販のカラーインクジェットプリンター(MJ-700V2C、エプソン製)にてインクジェット記録した後で、インクジェット記録した感圧接着層を内側にして感圧接着層同士を対面させて折り畳み、圧着ローラーを通過させて圧着一体化させ折り畳み圧着記録用紙を得た。実施例および比較例で設けた感圧接着層は、普通の状態ではタック性を示さず、圧着記録用紙をインクジェットプリンターに導入して印字記録を行っても、紙送り、印字ヘッドなどに何等障害を起こす事なく印字記録を行うことができた。
【0066】
実施例8
上記実施例および比較例で得られた圧着記録用紙に、市販のカラーインクジェットプリンター(MJ-700V2C、エプソン製)にてインクジェット記録した後で、市販の高周波装置にて500W、10秒間の乾燥を行った。その後で、インクジェット記録した感圧接着層を内側にして感圧接着層同士を対面させて折り畳み、圧着ローラーを通過させて圧着一体化させ折り畳み圧着記録用紙を得た。実施例および比較例で設けた感圧接着層は、普通の状態ではタック性を示さず、圧着記録用紙をインクジェットプリンターに導入して印字記録を行っても、紙送り、印字ヘッドなどに何等障害を起こす事なく印字記録を行うことができた。」(発明の詳細な説明の項)
上記刊行物2の各記載を総合すると、上記刊行物2には、
「支持体の表面に通常では接着性を示さず、加圧されると接着性を示し、接着後剥離可能な感圧接着剤層が設けられ、その感圧接着剤層上に情報の印字が行われる情報記録紙であって、
前記感圧接着剤層には、接着剤基剤100重量部に対して微粒子粉末が167重量部併用され、
前記支持体は、DIPパルプから作られる紙である情報記録紙」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

上記刊行物4には、「電子複写用及びフォーム用紙」に関し、次の記載が認められる。
・記載4-1
「脱墨古紙パルプを30%以上配合した紙に、導電剤を含有させることを特徴とする電子複写用及びフォーム用紙」(特許請求の範囲の項)
・記載4-2
「新聞古紙を再生古紙パルプとするためには、・・(略)・・パルプ繊維を水中に分散させたスラリーを作る。こうして得られたスラリー中のパルプ繊維にはインキ中に含まれるカーボンを主体とする各種の有機顔料(以下カーボン類という。)が付着しているため・・白色度・・は20〜40%と非常に低いものである。従って、記録、複写用紙として一定の白色度を要求される用紙へそのまま利用することはできない。 そこで、再生古紙パルプを利用するため、前記パルプスラリー中のパルプ繊維とカーボン類とを分離する必要がある。この工程を脱墨工程といい、脱墨処理されたパルプをDIPといい、白色度は50〜60%となる。 脱墨工程ではアルカリの存在下でスラリーを機械的にもみほぐしながら、パルプ繊維からカーボン類を引きはなした後、フローテーション方式或は洗浄方式によりパルプ繊維とカーボン類を分離する操作が行われる。この場合分離効率を向上させ、より白色度の高いDIPをつくるため脱墨剤が使用される。 脱墨剤は一般にノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤等が必要に応じ一定割合で添加される。 更にDIPの白色度を上げるために、脱墨工程の後に過酸化水素や塩素系の漂白剤で漂白処理をされると白色度70%以上の晒DIPの製造が可能である。 こうして得られたDIPを電子複写及びフォーム用紙に利用するにあたりバージンパルプに対してある一定割合以上DIPを配合した場合、上質紙、中質紙を問わずバージンパルプを主体としてDIPを配合せずに製造した用紙より優れた特性を与えることができた。」(公報第2頁右上欄第2行〜左下欄第18行)
・記載4-3
「実施例1 第1表の実施例1の欄に示す通り、NBKP(白色度86%)10%、LBKP(白色度85%)10%、DIP(白色度73%)80%を配合して抄紙し、・・(略)・・電子複写用及びフォーム用紙を得た。・・(略)・・実施例2〜5 実施例1と同様にして、DIP配合率30〜70%のもの及び高収率パルプTMP(白色度68%)、GP(白色度55%)を併用した例について実験を行なった結果を第1表に示す。」(公報第3頁右下欄(明細書第10頁に相当)第6行〜第20行)
・記載4-4
「5.補正の内容 ・・(略)・・(2)同第10頁第16行の「実施例2〜5」を「実施例2〜6」に補正する。 (3)同第10頁第17〜18行の「DIP配合率30〜70%」を「DIP配合率30〜100%」と補正する。・・(略)・・(6)同第12頁の第1表実施例の表中、実施例1の次に下記の実施例2を加入する。」(公報第5頁右上欄第15行〜左下欄末行)
また、公報第5頁右下欄の表には、実施例2として、DIPの配合率が100%の実施例が記載されている。

上記刊行物5には、古紙パルプ製造に関して次の記載がある。
・記載5-1
「5.3.2 有機薬品 (1)脱墨剤 界面活性剤で適当な表面活性を持ち,1)インキのビヒクルを湿潤させ,2)インキ層の中へ脱インキ薬品を浸透させ,3)パルプ繊維からインキを剥離させた後,4)離脱したインキが粗大に凝集するのを防ぎ,5)繊維への再付着を防止するなど,高pH領域でも安定して作用し,パルプに残留しないことが求められる。」(第151頁下から13行目〜下から7行目)

(4)対比・判断
本件発明と引用発明とを対比する。引用発明における「支持体」は、その機能から見て本件発明における「基材」に相当する。また、引用発明における「接着性を示す」及び「接着性を示さず」は、本件発明における「接着可能」及び「接着せず」にそれぞれ相当し、引用発明における「加圧されると接着」は、「一定条件が付与されると接着」ということができ、引用発明における「感圧接着剤層」も剥離可能であるから、本件発明における「疑似接着剤層」に相当する。さらに、引用発明における「DIPパルプから作られる紙」は、「再生紙」に他ならず、引用発明における「紙」は、「シート」と呼ぶことができるものであることが明らかであるから、引用発明における「通常では接着性を示さず、加圧されると接着性を示し、接着後剥離可能な感圧接着剤層」が設けられた「情報記録紙」は、本件発明における「通常では接着せず、一定条件が付与されると接着可能になり、接着後剥離可能な疑似接着剤層」が設けられた「疑似接着情報記録用シート」ということができ、本件発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
・一致点
両者とも、
「基材表面に通常では接着せず、一定条件が付与されると接着可能になり、接着後剥離可能な疑似接着剤層が設けられ、その疑似接着剤層上に情報記録が行われる情報記録用シートであって、
前記疑似接着剤層には、接着剤基剤100重量部に対して微粒子充填剤が167重量部配合され、
基材が再生紙である疑似接着情報記録用シート」である点。
・相違点1
本件発明においては、基材が「古紙100%の再生紙」であるのに対し、引用発明では、古紙100%の再生紙かどうか明らかでない点。
・相違点2
本件発明においては、「前記再生紙中の脱墨剤の含有量が50ppm以下である」のに対し、引用発明では脱墨剤の含有量が明らかでない点。
・相違点3
本件発明においては、「透気度がJISP-8117に準拠して100秒以上700秒以下である」のに対し、引用発明においては、透気度が明らかでない点。

以下、各相違点について検討する。
・相違点1について
古紙100%の再生紙自体は上記刊行物4に記載されているように周知のものであり、引用発明が再生紙を用いるものである以上、上記周知の古紙100%の再生紙を採用しようとすることは当業者が適宜なし得ることであり、それによる効果も格別のものと認めることはできないから、この相違点1は当業者が容易に想到し得る程度のことである。
・相違点2について
上記刊行物5に記載されているように、再生紙の原料であるDIPパルプにおける脱墨剤含有量並びに再生紙における脱墨剤含有量をできるだけ低くすることは周知の技術的課題であって、引用発明の疑似接着記録シートの基材となる再生紙であっても同様にその脱墨剤含量を少なくしようとすることは当業者ならばまず考慮することというべきである。そして、できるだけ低い含量として「50ppm以下」という目標値(50ppmの数値に臨界的意義は認められない。)を選択することは当業者が適宜行い得ることである。
・相違点3について
透気度がプリント時の適性に影響を与えること及び所定の記録方式(本件明細書の段落【0028】には、電子写真記録方式、ドットプリンター記録方式、インクジェット記録方式が上げられている。)に応じて最適な透気度とする必要があることは周知である(後記<周知技術文献>参照。)かかる周知技術からすると、記録方式に関して限定がない本件発明において「透気度がJISP-8117に準拠して100秒以上700秒以下」とした点には、単に目標値を定めたという以外に格別の技術的意義を認めることができない。そして、目標値を定めることは、当業者が適宜行い得る程度のことであり、それによる作用効果についても、本件明細書全体の記載を検討しても格別のものとは認められない。なお、本件明細書の段落【0027】には、この限定により、疑似接着時の接着性が向上するとあるが、透気度との因果関係が明らかでなく、定量的な効果を示すデータもないため、この効果に関してもやはり格別なものとは言えない。また、特許異議意見書において特許権者は透気度を100秒以上にすることにより、基材の吸湿を防ぐことができる旨主張しているが、「透気度は基材の選択と疑似接着剤塗膜の厚み等の調整」に依存して決るものと考えられ、基材の選択だけで透気度が定まるわけではないから、透気度の調整によって基材の吸湿が防止できる旨の特許権者の主張はにわかに信ずることができないものあり、採用できない。

上記のとおり、相違点1〜3は、いずれも当業者が容易に想到し得ることであり、本件発明を全体としてみても、その効果が、引用発明及び各引用例に記載された発明からみて格別であるともいえない。

<周知技術文献>
a.特開平8-176526号公報
段落【0008】には、電子写真方式の場合、真空ロールとの関係で透気度がある程度以上必要であることが、記載されている。また、段落【0047】には、100〜200秒を○と評価することも記載されている。また、【表1】【表2】には、透気度が100〜300秒の実例も示されている。
b.特開平9-11669号公報
段落【0006】には、インクジェット方式の場合、塗膜層(本件発明における疑似接着剤層に相当。)にインクが浸透しないようにする必要のあるため、透気度を低く押える必要のあることが記載されている。また、【図7】には、透気度が650秒、115秒、470秒の例も示されている。

4.むすび
したがって、本件発明は、上記刊行物2に記載された発明にこの出願前周知の技術的事項を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明についての特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
疑似接着情報記録用シート
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】基材表面に通常では接着せず、一定条件が付与されると接着可能になり、接着後剥離可能な疑似接着剤層が設けられ、その疑似接着剤層上に情報記録が行われる情報記録用シートであって、
前記疑似接着剤層には、接着剤基剤100重量部に対して微粒子充填剤が100〜300重量部配合され、
前記基材は、古紙100%の再生紙であり、
前記再生紙中の脱墨剤の含有量が50ppm以下であり、
透気度がJISP-8117に準拠して100秒以上700秒以下であることを特徴とする疑似接着情報記録用シート。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、重ね合わせ面に対して圧力などの一定の条件を加えると疑似接着剤層を介して接着するが必要時に容易に剥離できる機能を有する疑似接着情報記録用シート。
【0002】
【従来の技術】
従来より、疑似接着情報記録用シートは、物品にその情報、容量、品質、価格などを表示する配送伝票用途に、郵送物に貼付する宛名表示ラベルに、或いは書類整理などのために用いる事務用ラベル等に広く用いられている。
【0003】
そして、この種の情報記録用シートに情報を記録するに際しては、ドットプリンター方式、タイプリボン方式、感熱記録方式、電子写真記録方式などが行われている。
【0004】
一方、記録した情報は重ね合わせ状態で見えないことが必要である。したがって、この隠蔽性の確保のために、基材紙としてバージンパルブに填料を配合したり、印刷面または情報記録用面の裏面に隠蔽用印刷を行うことが知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
前記の隠蔽用印刷を行う場合、工程が増すためコスト高となるばかりでなく、見栄えが悪い。この観点で、填料を配合することにより隠蔽性を高めることが有効であり、従来、専らこの方法により隠蔽性を高めることが行われてきた。
【0006】
しかし、疑似接着情報記録用シートとして要求される特性として、受取人が情報記録面を見るために剥離するとき、疑似接着剤層または記録面と基材紙との界面で剥離を生じたり、基材紙自体が破れることを防止することがある。
【0007】
このためには、填料の配合量を制限する必要がある。そこで、填料の配合量に制限があることに鑑み、米坪を上げると、郵便法で定められた重量を超えてしまうことがある。
【0008】
したがって、本充明の課題は、隠蔽性(不透明度)に優れ、かつ、紙質強度が高いなどのきわめて有利な特性を備える疑似接着情報記録用シートを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決した本発明の請求項1記載の発明は、基材表面に通常では接着せず、一定条件が付与されると接着可能になり、接着後剥離可能な疑似接着剤層が設けられ、その疑似接着剤層上に情報記録が行われる情報記録用シートであって、
前記疑似接着剤層には、接着剤基剤100重量部に対して微粒子充填剤が100〜300重量部配合され、
前記基材は、古紙100%の再生紙であり、
前記再生紙中の脱墨剤の含有量が50ppm以下であり、
透気度がJISP-8117に準拠して100秒以上700秒以下であることを特徴とする疑似接着情報記録用シートである。
【0010】
【0011】
【0012】
【0013】
しかるに、本発明に従って、疑似接着情報記録用シートの基材を、古紙を全原料として抄紙した甫生紙とすると、予期しない次記のとおりの多くの利点があることが判った。
【0014】
(1)不透明度が高く、したがって隠蔽性に優れたシートとなる。すなわち、いわゆるオフィス古紙、白物古紙を原料とすると、LBKP以外にチラシや雑誌などに由来する機械パルプが混入するために、嵩が増し、繊維長分布が平坦なカーブを描き、地合が向上する。
【0015】
(2)この繊維長分布カーブの平坦性と地合の向上との関連で、元来、その古紙が含有していた填料により填料配合量が少なくとも、不透明度が高く、情報の隠蔽性に優れたものが得られる。
【0016】
(3)紙の剛度(剥離時の破断防止と相関する)が高まる。
【0017】
(4)サイズ効果が高く、トナーやインクの定着性に優れ、疑似接着剤層または記録面と基材紙との界面で剥離を生じることがない。
【0018】
(5)基材紙の寸法安定性に優れる。
【0019】
他方、再生紙を使用する場合、脱墨剤が混入する。脱墨剤としては、代表的には脂肪酸系の界面活性剤や高級アルコール誘導体があり、近年は、後者の高級アルコール誘導体が汎用されており、本発明の再生紙についてもこれを由来とすることができる。
【0020】
本発明者らは、再生紙に脱墨剤が所定量以上、混入していると、印刷適性(トナーやインクなどの定着性)が悪いことを知見した。このためには、再生紙中の脱墨剤の含有量が50ppm以下であることが望ましい。
【0021】
脱墨剤の含有量は、TOC(トータル・オーガニック・カーボン)分析やガスマス分析によって測定される。高級アルコール誘導体は、エチレンオキサイドおよびポリピレンオキサイドを含有するので、これらの総量が50ppm以下であることが望ましい。
【0022】
かかる基材としての再生紙に対して、疑似接着剤層が形成される。この接着剤基剤としては従来用いられている通常の感圧接着剤でよいが、特にあげれば天然ゴムラテックス、合成樹脂と天然ゴムラテックスのブレンド品が耐ブロッキング、耐熱性、耐磨耗性の点で好適である。疑似接着剤層には、接着剤に対して非親和性を示す微粒子充填剤を配合してなるものが用いられる。
【0023】
微粒子充填剤としては、シリカ、炭酸カルシウム、小麦デンプン、カオリン、タルク、酸化チタン、セルロースパウダーが用いられ、これら材料は、単独でも複数を組み合わせてもよい。上述した微粒子充填剤は、接着剤基剤100重量部に対して微粒子充填剤を50〜300重量部、最も好ましくは、100〜250重量部の割合で配合することが好ましい。
【0024】
また、疑似接着剤層表面を不定形に連続する1〜50μの凹凸になる組み合わせが好ましい。不連続な凹凸を形成することで、疑似接着後の剥離性が向上する。
【0025】
疑似接着剤層中には、必要により、酸化防止剤、紫外線吸収剤、粘着付与剤、滑剤、耐ブロッキング防止剤、トナー定着剤などを含有させることができる。
【0026】
また、基材の表面性の調整、力レンダーによる平滑化処理により疑似接着剤層塗布面の平滑度をJISP-8119に準拠して10〜30好ましくは15〜25秒に調整することが好ましい。
【0027】
透気度は基材の選択と疑似接着剤塗膜の厚み等の調整でJISP-8117に準拠して、100秒以上700秒以下にすることで、疑似接着時の接着性が向上する。
【0028】
疑似接着剤層に対して情報記録が行われる。この情報記録には、電子写真記録、インクジェット記録、ドットプリンター記録などの適宜方式で行うことができる。
【0029】
情報記録された後のシートは、シーラーなどにより加圧などに一定の条件で情報記録面が重ね合わせられた後、発送に供せられる。
【0030】
(実施例)
本発明に従って、基材として、古紙を、少なくとも20%以上全原料中に含有させて抄紙した再生紙を使用して疑似接着情報記録用シートを得たところ、前述の(1)〜(5)を示すものとなった。全原料が占紙であるとき、特に(1))〜(5)を示す特長が顕著にあらわれた。
【0031】
また、特に再生紙中の脱墨剤の育有量が50ppm以下としたものは、印刷適性、特に電子写真記録方式におけるトナーの定着性に優れたものとなった。
【0032】
【発明の効果】
以上のとおり、本発明によれば、隠蔽性(不透明度)に優れ、かつ、紙質強度が高いなどのきわめて有利な特性を備える疑似接着情報記録用シートを得ることができる。
 
訂正の要旨 1)訂正事項 a
特許請求の範囲の請求項1記載の欄に係る記載
「基材表面に通常では接着せず、一定条件が付与されると接着可能になり、接着後剥離可能な疑似接着剤層が設けられ、その疑似接着剤層上に情報記録が行われる情報記録用シートであって、
前記疑似接着剤層は、接着剤基剤100重量部に対して微粒子充填剤が100〜300重量部配合され、
前記基材は、古紙100%の再生紙であり、
前記再生紙中の脱墨剤の含有量が50ppm以下であることを特徴とする疑似接着情報記録用シート。」
を、
「基材表面に通常では接着せず、一定条件が付与されると接着可能になり、接着後剥離可能な疑似接着剤層が設けられ、その疑似接着剤層上に情報記録が行われる情報記録用シートであって、
前記疑似接着剤層には、接着剤基剤100重量部に対して微粒子充填剤が100〜300重量部配合され、
前記基材は、古紙100%の再生紙であり、
前記再生紙中の脱墨剤の含有量が50ppm以下であり、
透気度がJISP-8117に準拠して100秒以上700秒以下であることを特徴とする疑似接着情報記録用シート。」
と訂正をする。
2)訂正事項 b
訂正前明細書、段落【0009】の記載(特許公報第3欄第22行〜第29行の記載)
「【課題を解決するための手段】上記課題を解決した本発明の請求項1記載の発明は、基材表面に通常では接着せず、一定条件が付与されると接着可能になり、接着後剥離可能な疑似接着剤層が設けられ、その疑似接着剤層にプリントが行われる情報記録用シートであって、前記基材は、全原料中に古紙を20%〜100%を含有して抄紙した再生紙であることを特徴とする疑似接着情報記録用シートである。」
を、
「【課題を解決するための手段】上記課題を解決した本発明の請求項1記載の発明は、基材表面に通常では接着せず、一定条件が付与されると接着可能になり、接着後剥離可能な疑似接着剤層が設けられ、その疑似接着剤層上に情報記録が行われる情報記録用シートであって、
前記疑似接着剤層には、接着剤基剤100重量部に対して微粒子充填剤が100〜300重量部配合され、
前記基材は、古紙100%の再生紙であり、
前記再生紙中の脱墨剤の含有量が50ppm以下であり、
透気度がJISP-8117に準拠して100秒以上700秒以下であることを特徴とする疑似接着情報記録用シートである。」
と訂正をする。
3)訂正事項 c
特許明細書、段落【0010】の記載(特許公報第3欄第30行〜第32行の記載)「請求項2記載の発明は、前記再生紙中の脱墨剤の含有量が50ppm以下である請求項1記載の疑似接着情報記録用シートである。」
を削除する、訂正をする。
4)訂正事項 d
特許明細書、段落【0011】の記載(特許公報第3欄第34行〜44行の記載)
「【課題を解決するための手段】上記課題を解決した本発明の請求項1記載の発明は、
【請求項1】基材表面に通常では接着せず、一定条件が付与されると接着可能になり、接着後剥離可能な疑似接着剤層が設けられ、その疑似接着剤層に情報記録が行われる情報記録用シートであって、前記疑似接着剤層は、接着剤基剤100重量部に対して微粒子充填剤が100〜300重量部配合され、前記基材は、古紙100%の再生紙であり、前記再生紙中の脱墨剤の含有量が50ppm以下であることを特徴とする疑似接着情報記録用シート。」
を削除する、訂正をする。
異議決定日 2003-02-24 
出願番号 特願平9-328062
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (G09F)
最終処分 取消  
前審関与審査官 竹之内 秀明柿崎 拓  
特許庁審判長 梅田 幸秀
特許庁審判官 門前 浩一
平上 悦司
登録日 2001-10-05 
登録番号 特許第3239096号(P3239096)
権利者 大王製紙株式会社
発明の名称 疑似接着情報記録用シート  
代理人 西舘 和之  
代理人 永井 義久  
代理人 鶴田 準一  
代理人 樋口 外治  
代理人 永井 義久  
代理人 石田 敬  
代理人 西山 雅也  

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