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審決分類 審判 全部無効 1項2号公然実施 無効としない E21B
審判 全部無効 発明者同一 無効としない E21B
審判 全部無効 2項進歩性 無効としない E21B
管理番号 1080773
審判番号 審判1999-35335  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-01-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 1999-07-05 
確定日 2003-07-15 
事件の表示 上記当事者間の特許第2599846号発明「掘削工具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1 経緯

本件特許第2599846号は、平成3年7月26日に出願され(特願平3-209977号)、平成9年1月9日に特許登録され、平成11年7月5日に鉱研工業株式会社より無効審判が請求され、平成11年10月25日付で審判事件答弁書が提出され、平成12年6月26日付で審判事件弁駁書が提出され、平成13年3月30日付で被請求人へ審尋がなされ、平成13年6月8日付けで被請求人より回答書が提出された。

2 当事者の主張の概要

(1)請求人は、「特許第2599846号発明の請求項1〜8に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める」ことを請求の趣旨とし、甲第1号証の1ないし甲第5号証を提出して、本件特許の請求項1ないし8係る発明(以下、本件発明1ないし8といい、これら発明をまとめて本件発明という。)についての特許を無効とすべき理由として概ね次のように主張する。
(ア)無効理由1:
本件発明は、甲第1号証の1ないし甲第1号証の7に示すように、その出願前に公然と実施された発明であり、特許法第29条第1項第2号の規定に該当する。
(イ)無効理由2:
本件発明1ないし8は、いずれも甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定に該当する。
(ウ)無効理由3:
本件発明1ないし8は、いずれも本件特許出願の日前に出願され、特許公報の発行されたものの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明(甲第5号証参照)と同一であって、発明者及び出願人は同一でないから、特許法第29条の2の規定に該当する。

(2)一方、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める」ことを答弁の趣旨として、概ね次のように主張する。
(ア)無効理由1に対して:
請求人が所有する特許(本件特許ではない)の侵害であるという主張に対する抗弁として、被請求人には当該特許については先使用権があることをいったまでであり、本件特許出願前に本件発明を公然実施していたことを述べたものではない。
(イ)無効理由2に対して:
本件発明1ないし8は、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
(ウ)無効理由3に対して:
甲第5号証に記載された発明は、本件発明1ないし8と同一ではない。

3 本件発明の認定

本件発明1ないし8は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次のとおりのものと認められる。
【請求項1】ハンマの衝撃力およびハンマシリンダの回転力を受けるデバイスの底面に、少なくとも3個以上の軸穴を、該デバイスの中心からずらしてかつ周方向に等角度置きに設け、それら軸穴にブロック軸を回転自在に嵌入し、該ブロック軸の先端部に、略扇状をなしかつ先端面にビットが植設されたブロックを、それぞれ左右の側端面を対向させてしかもそれらブロックの円弧部が全体で略円を形成するように設け、上記デバイスが掘削方向に回転した際に、掘削孔底部との掘削抵抗によりブロックが自転して該ブロックの一方の側端面と円弧部の交差部分が上記デバイスの外周面より所定の掘削量分だけ突出し、かつその際に各ブロックの両側端面が隣合うブロックの側端面に当接するとともに、各ブロックの側端面の延長線の交点が掘削回転中心と一致するように、上記ブロックに対するブロック軸の相対位置を設定していることを特徴とする掘削工具。
【請求項2】デバイスとその外側の掘削パイプとの間に、掘削屑排出溝とデバイスの外周に一体的に設けられた芯出し用の突起とを、周方向に交互に配置したことを特徴とする請求項1記載の掘削工具。
【請求項3】デバイスの中心に、軸方向に延びる排気孔を形成するとともに、上記ブロック軸に軸方向に延びて上記ブロックの先端面に開口する貫通孔を形成し、上記軸穴の深さをブロック軸の長さより深く設定し、上記デバイスに上記排気孔と軸穴とを連通する連通孔を形成したことを特徴とする請求項1記載の掘削工具。
【請求項4】ブロックの先端面に、貫通孔の開口縁から掘削屑排出溝側に向けて延びる凹溝を形成したことを特徴とする請求項3記載の掘削工具。
【請求項5】デバイスの中心に軸方向に延びる排気孔を形成するとともに、この排気孔をデバイスの底面に達し開口する空気孔に横孔を介して連通させ、さらに上記デバイスの外周面に掘削屑排出溝を形成し、かつ上記デバイスの底面に、掘削屑排出溝と空気孔とに連通する切欠部を設けたことを特徴とする請求項1記載の掘削工具。
【請求項6】ブロックの一方の側端面と先端面との交差部分にこれらの面のそれぞれに対して傾斜した傾斜面を設け、該傾斜面に、この面に対してほぼ垂直にビットの一部を植設したことを特徴とする請求項1記載の掘削工具。
【請求項7】ブロックの外周を異なる半径の円弧で形成するとともに、デバイスが掘削方向に回転した際に、このデバイスの外周面より突出する側のブロックの外周の半径を、突出しない側のブロックの外周の半径より大きく設定したことを特徴とする請求項1記載の掘削工具。
【請求項8】ブロックの先端面が、ブロック軸側に位置して当該ブロック軸に直交する平面と、これら平面の円弧状の稜線からデバイスの外周側に向けて下り勾配に傾斜する第1の傾斜面と、これら第1の傾斜面の外側の円弧状の稜線からデバイスの外周側に向けて下り勾配に傾斜する第2の傾斜面とを具備し、しかも、上記第1傾斜面と第2傾斜面との間には段差が設けられていることを特徴とする請求項1記載の掘削工具。

4 無効理由の検討

4-1 無効理由1について

(1)請求人は、本件発明は、甲第1号証の1ないし甲第1号証の7に示すように、その出願前に公然と実施された発明であり、特許法第29条第1項第2号の規定に該当する旨主張する。
そこで検討するに、
甲第1号証の1は、本件無効審判の請求人である鉱研工業株式会社(以下、鉱研という。)が、同被請求人である三菱マテリアル株式会社(以下、三菱という。)へ宛てた平成9年7月25日付けの書簡、
甲第1号証の2は、三菱が鉱研へ宛てた平成9年8月26日付けの書簡、
甲第1号証の3は、三菱が鉱研へ宛てた平成9年10月6日付けの書簡であって、「TOOL NAME DIA BIT TOOL NO. DHD112SPZ630R」の図面及び90.05.10を受注日付とし三菱金属株式会社ナゴヤシテン宛の「DHD112SPZ630R」の注文書(控)が添付されており、
甲第1号証の4は、鉱研が三菱に宛てた平成9年10月29日付けの書簡、
甲第1号証の5は、三菱が鉱研へ宛てた平成9年11月12日付けの書簡、
甲第1号証の6は、鉱研が三菱に宛てた平成9年11月19日付けの書簡、
甲第1号証の7は、三菱が鉱研へ宛てた平成9年12月24日付けの書簡
であって、特に甲第1号証の3は、三菱の小原知的財産部長が鉱研の塩月特許管理部長にあてた書簡であって、三菱製「スーパーメックスビット」の3ピースビットは、鉱研所有の特許第2574705号の特許出願日(当審注:平成2年6月6日)以前より実施している旨記載され、添付資料として三菱金属株式会社(注:三菱マテリアル株式会社の改称前の名称)と印刷された「TOOL NAME DIA BIT TOOL NO. DHD112SPZ630R」の図面及び90.05.10を受注日付とし三菱金属株式会社ナゴヤシテン宛の「DHD112SPZ630R」の注文書(控)が添付されている。
上記三菱金属株式会社製の「DHD112SPZ630R」は、甲第1号証の3でいう「スーパーメックスビット」のことと推認されるが、被請求人である三菱は、答弁書において「審判請求人が所有する特許(本件特許ではない)の侵害であるという主張に対して、その抗弁として被請求人には当該特許に対する先使用権があるということを言ったまでであり、本件特許の出願日前に本件特許発明(当審注:三菱金属株式会社製の「DHD112SPZ630R」に係る発明のことと思われる)を公然実施していたということを述べているのではない。」と主張しており、請求人は、平成12年6月26日付けの弁駁書において、三菱の上記主張に対して何ら反論していない。そして、請求人の提出した証拠をみても、三菱金属株式会社製の「TOOL NAME DIA BIT TOOL NO. DHD112SPZ630R」または「スーパーメックスビット」と呼ばれるものが本件特許出願前に公然と実施されていたことを窺わせる記載は認められない。
したがって、仮に甲第1号証の3に添付された三菱金属株式会社製の「TOOL NAME DIA BIT TOOL NO. DHD112SPZ630R」が「スーパーメックスビット」と呼ばれ、その構造が、本件発明1ないし8と同じ構成を有するものであって、本件特許出願前の1990年5月10日に販売されていたとしても、当該「TOOL NAME DIA BIT TOOL NO. DHD112SPZ630R」または「スーパーメックスビット」が本件特許出願前に公然と実施されていたとは認められない。
よって、本件発明は、特許法第29条第1項第2号の規定に該当するとすることはできない。

4-2 無効理由2について

(1)請求人は、本件発明1ないし8は、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたものである旨主張するので検討する。
甲第2号証ないし甲第4号証は、本件特許出願前に頒布された刊行物であって、各刊行物には、以下の技術的事項が記載されていると認められる。

(2)甲第2号証ないし甲第4号証に記載された技術的事項
(2-1)甲第2号証(特開昭59-76391号公報)
昭和58年2月23日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲には、
「(1)回転且つ軸方向に移動可能なドリルロッドと、ドリルロッド先端部に取付けられたエアハンマと、を有する空圧打撃式拡孔掘削装置に於いて、エアハンマ本体先端部に軸方向摺動自在に支持されエアハンマから打撃力を受けるビット支持部と、ビット支持部の先端部にドリルロッドの回転中心と偏心した位置に軸方向の移動を拘束されて枢支されると共にドリルロッドを回転すると掘削孔底面抵抗によりドリルロッド回転方向と逆方向に回転して拡縮し、各々同一面を保ってビット支持部と共に軸方向に移動する複数のビットと、ビット支持部に形成されビットの突起部を規制してビットを拡径位置若しくは縮径位置に保持するストッパ部と、を有してなる空圧打撃式拡孔掘削装置。
(2)ビットはビット支持部に着脱自在に支持されている特許請求の範囲第1項の空圧打撃式拡孔掘削装置。
(3)ビットは拡径時の外周面が掘削孔の半径と同一半径の円弧形状で構成されている特許請求の範囲第1項の空圧打撃式拡孔掘削装置。
(4)ビットが欠円形状に構成されている特許請求の範囲第1項の空圧打撃式拡孔掘削装置。
(5)回転且つ軸方向に移動可能なドリルロッドと、ドリルロッド先端部に取付けられたエアハンマと、を有する空圧打撃式拡孔掘削装置に於いて、エアハンマ本体先端部に軸方向摺動自在に支持されエアハンマから打撃力を受けるビット支持部と、ビツト支持部の先端部にドリルロッドの回転中心と偏心した位置に軸方向の移動を拘束されて枢支されると共に各々同一面を保つてビット支持部と共に軸方向に移動する複数のビットと、ビット支持部に形成されビットの突起部を規制してビットを拡径位置若しくは縮径位置に保持するストッパ部とから成り、ビット支持部のストッパ部とビットの突起部との間の空間部には着脱自在なスペーサが配置されることを特徴とする空圧打撃式拡孔掘削装置。」
と記載されており、明細書の発明の詳細な説明及び図面の第1図ないし第3図を参酌すると、
「ハンマの衝撃力およびハンマシリンダの回転力を受けるビット支持部の底面に、3個の軸穴を、ビット支持部の中心からずらしてかつ周方向に等角度置きに設け、それら軸穴にビット軸を回転自在に嵌入し、該ビット軸の先端部に、第5図に示すように半径の異なる円弧及び直線を連続的に組み合わせた形状であって先端面に多数のメタルチップ44が埋め込まれたビット16が各々設けられ、それらビットのABの円弧部は拡径掘削状態において円の一部を形成するように設けられ、該ビットが掘削方向に回転した際に、掘削孔底部との掘削抵抗によりビットがビット軸を中心に回動(自転)して該ビットの直線状の一方の面と円弧部の交差部分がビット支持部の外周面より所定の掘削量分だけ突出するように、上記ビットに対するビット支持部の相対位置を設定していることを特徴とする掘削工具。」
が記載されていると認められる。
(2-2)甲第3号証(特開昭63-11789号公報)
特許情求の範囲には、
「1.ハンマ-の衝撃力及びハンマーシンリダーの回転力を受けるデバイスの底面に取り付けられて回転し、土砂等を掘削するビット装置を有する掘削装置において、前記デバイスの底面に2個の軸穴を点対称の位置に設け、ビット装置は、底面形伏が前記デバイスの径とほぼ同径の略半円形をなす2個のブロックに形成し、該2個のブロック上面に各々軸を立設すると共に、2個のブロックをその直状端面を適宜な間隔をもって対向させて前記軸を前記軸穴に抜け止めして回動自在に嵌入し、前記軸位置を、前記デバイスが掘削方向に回転した際に、前記両ブロックの各々一方の端部が共にデバイスの外周面より所定の掘削量分だけ突出し、且つその際に両ブロックの直状端面が互いに接触するようデバイスの中心から偏心してなることを特徴とする掘削装置。」
と記載されており、明細書の発明の詳細な説明及び図面の第1図、第2図を参酌すると、
「ハンマの衝撃力およびハンマーシリンダーの回転力を受けるデバイス12の底面に、2個の軸穴を、該デバイスの中心に対し点対称の位置に設け、それら軸穴に偏心軸16を回転自在に嵌入し、該偏心軸の先端部に、略半円形状をなしかつ先端面にビット36が植設されたビット装置を、第2図に示す縮径状態において、それぞれ直線部の面を対向させてしかもそれらビット装置の円弧部が全体で略円を形成するように設け、上記ビット装置が掘削方向に回転した際に、掘削孔底部との掘削抵抗によりビット装置が回転(自転)して該ビット装置の直線の面と円弧部の交差部分が上記ビット装置の外周面より所定の掘削量分だけ突出するように、上記ビット装置に対する偏心軸の相対位置を設定していることを特徴とする掘削工具。」
が記載されていると認められる。
(2-3)甲第4号証(特開昭63-219792号公報)
特許請求の範囲には、
「1.ハンマーの衝撃力およびハンマーシリンダーの回転力を受けるデバイスの底面に穿設された軸穴に、上面に軸を立設されると共に、該軸を前記軸穴に挿入して取り付けられて回転し、土砂等を掘削するビット装置を有する掘削装置において、前記軸の外周に凹溝を設け、前記デバイスの側面には前記軸が前記軸穴に挿入した際に前記凹溝に対応した位置に前記軸穴と連絡する透孔を設け、該透孔から抜け止め用のピンを先端が前記凹溝に嵌入することで前記ビット装置を前記デバイスに取り付けたことを特徴とする掘削装置。」
と記載されており、明細書の発明の詳細な説明及び図面の第1図、第2図を参酌すると、
「ハンマの衝撃力およびハンマーシリンダーの回転力を受けるデバイス12の底面に、2個の軸穴13aを、該デバイスの中心からずらしてかつ点対称の位置に設け、それら軸穴に軸11aを回転自在に嵌入し、該軸の先端部に、略半円形状をなしかつ先端面にビット36が植設されたビット装置を、それぞれ直線部の面を対向させて設け、上記ビット装置が掘削方向に回転した際に、掘削孔底部との掘削抵抗によりビット装置が回転(自転)して該ビット装置の直線の面と円弧部の交差部分が上記ビット装置の外周面より所定の掘削量分だけ突出するように、上記ビット装置に対する軸の相対位置を設定していることを特徴とする掘削工具。」
が記載されていると認められる。

(3)判断
(3-1)本件発明1について
(ア)本件発明1と甲第2号証に記載されたものとを対比すると、甲第2号証に記載されたものの「ビット支持部」、「ビット軸」、「ビット」、「メタルチップ」は、本件発明1の「デバイス」、「ブロック軸」、「ブロック」、「ビット」に相当するから、両者は次の点で一致し、相違していると認められる。
一致点:
「ハンマの衝撃力およびハンマシリンダの回転力を受けるデバイスの底面に、少なくとも3個以上の軸穴を、該デバイスの中心からずらしてかつ周方向に等角度置きに設け、それら軸穴にブロック軸を回転自在に嵌入し、該ブロック軸の先端部に、先端面にビットが植設されたブロックを、それらブロックの円弧部が略円を形成するように設け、上記デバイスが掘削方向に回転した際に、掘削孔底部との掘削抵抗によりブロックが自転して該ブロックの一方の側端面と円弧部の交差部分が上記デバイスの外周面より所定の掘削量分だけ突出するように、上記ブロックに対するブロック軸の相対位置を設定していることを特徴とする掘削工具。」
相違点1:
本件発明1のブロックは、略扇状をなし、それぞれ左右の側端面を対向させてしかもそれらブロックの円弧部が全体で略円を形成するように設けられているのに対し、甲第2号証に記載されたビットは、それぞれ左右の側端面を対向させておらず、また、ビットの円弧部が全体で略円を形成するように設けられていない点、
相違点2:
本件発明1のブロックは、デバイスが掘削方向に回転した際に、各ブロックの両側端面が隣合うブロックの側端面に当接するとともに、各ブロックの側端面の延長線の交点が掘削回転中心と一致するようになっているのに対し、甲第2号証に記載されたビットは、ビット支持部が掘削方向に回転した際に、各ビットの両側端面が隣合うビットの側端面に当接せず、また、各ビットの側端面の延長線の交点が掘削回転中心と一致するようにはなっていない点。
(イ)相違点について
本件発明1の上記相違点1、2に係る構成は、いずれも請求人提出の甲第3号証、甲第4号証には記載されていない構成であって、また、掘削工具の技術分野において周知の技術的事項でもなく、さらに、本件発明1は、上記相違点1、2に係る構成としたことによって、
「掘削時において個々のブロックは、左右の側端面が隣合うブロックの側端面にそれぞれ当接しており該ブロックに固定されているブロック軸が軸穴に嵌入されていることと合わせると、3点で支持されることとなる。したがって、ブロックに対して強固な固定が行え、掘削中にガタツキが生じにくく、良好な掘削が行える。」(明細書段落番号0019)、「上記ブロック11a,11b,11cが自転するとき、各ブロックの側端面12a,12bが隣合うブロックの側端面12b,12aに当接し、これが互いにストッパの機能を果たして、各ブロックのそれ以上の自転を規制するとともに、各ブロックの側端面12a,12bの延長線の交点が掘削回転中心と一致する。この状態でブロック11a,11b,11cがデバイス2の回転力をうけて上記外周刃A等により地中を掘削する。」(段落番号0044)、「上記ブロックは3個設けられているので、一つのブロックに対し一個生じる外周刃Aも当然に3個となり、しかもそれら外周刃Aは周方向に等間隔置きに配される。このため、バランスのよい掘削が行え、たとえ不均質地盤であっても孔曲がりが生じにくい。」(段落番号0045)、「掘削時において個々のブロック11a,11b,11cは、上記したように左右の側端面12a,12bが隣合うブロックの側端面12b,12aにそれぞれ当接しており、該ブロックに固定されているブロック軸3a,3b,3cが軸穴2a,2b,2cに嵌入支持されていることと相俟って、当該ブロック11a,11b,11cは3点で支持されることとなる。したがって、個々のブロック11a,11b,11cの固定が強固となり、掘削中にがた付きが生じにくく良好な掘削が行える。」(段落番号0046)という明細書記載の作用効果を奏することが期待できる。
(ウ)したがって、本件発明1は、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることはできない。
(3-2)本件発明2ないし8について
本件発明2、3及び5ないし8は本件発明1を引用し、本件発明4は、本件発明1を引用した本件発明3をさらに引用して、構成を技術的に限定したものであるから、本件発明1について、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることができない以上、本件発明2ないし8についても、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

(4)まとめ
以上のように、本件発明1ないし8は、請求人提出の甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものとすることはできないので、いずれも、特許法第29条第2項に該当するものではない。

4-3 無効理由3について

(1)請求人は、本件発明1ないし8は、いずれも本件特許出願の日前に出願され、特許公報の発行されたものの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明(甲第5号証(特開平4-41891号公報)参照)と同一であって、発明者及び出願人は同一でないから、特許法第29条の2の規定に該当する旨主張するので、以下検討する。

(2)先願発明
本件特許出願の日前の平成2年6月6日に、発明者を梅本保博、竹内久雄とし、出願人を鉱研工業株式会社として出願された特願平2-147963号の願書に最初に添付した明細書又は図面には次の技術的事項が記載されていると認められる。(以下、平成2年6月6日出願に係る出願を先願という。記載事項は甲第5号証(特開平4-41891号公報)参照のこと)
(ア)特許請求の範囲
「(1)ドリルロッドの先端に着脱可能に装着されるビットであって、該ビットは、ケースとビット本体とを具備し、前記ケ-スは、ドリルロッドに着脱可能に取り付けられ、軸対称に穿設された複数の円孔を有し、前記ビット本体は、軸対称に分割され、前面チップが植設された複数の分割体と、該分割体の背面の偏心位置に突出し、前記円孔に回動自在に嵌入する枢軸より成ることを特徴とするリトラクトビット。」
(イ)作用の項
「ビットが所定の方向に回転すると、各分割体は地盤との摩擦抵抗によって枢軸を中心としてそれぞれ一定方向に回動し、ビット全体としてその最大径を拡大した形状となる。ビットが反対方向に回転すると、各分割体は土との摩擦抵抗によって上記と反対方向に回動し、ビット全体としてその最大径を縮小した形状となる。」
(ウ)実施例の項
「ビット1は軸対称に3個の分割体2に分割されており、各分割体2の基端側(背面)の偏心位置には断面円形の枢軸3が一体に形成されている。その各枢軸3はケース12に設けた3個の円孔4に回転自在に嵌合している。」(公報2頁右上欄5〜9行)、「前記各分割体2はそれぞれ略扇形の同一形状に形成され、ビット1が第2図のようにB方向(反時計方向)に回転する場合には全体として略円形に縮小した形状を保持するが、第1図のように反対のA方向(時計方向)回転する場合は、掘削地盤とチップ7との摩擦抵抗により各分割体2は枢軸3を中心として反時計方向に回動し、ビット1全体としてその最大径を拡大した形状を保持するようになっている。」(公報2頁右上欄14〜左下欄2行)、「そこで上記二重管掘削装置10をロータリパーカッションドリルに装着して掘削する場合を第6a図〜第6g図により説明すると、まずドリルロッド11、即ちビット1を第1図のようにA方向に回転させてビット径を拡大させ、オーバーバーデン(崩壊し易い地層)20を貫通するまで掘進する(第6a図,第6b図)。そして岩盤21に到達したらドリルロッド11を逆回転させて第2図のようにビット径を縮小させ、ドリルロッド11とビット1を引き上げる(第6c図,第6d図)。」(公報2頁左下欄9〜19行)、「なお、以上の実施例は本発明のビットをパーカッションドリルに適用したものであるが、ダウンザホールドリルに適用することも勿論可能である。」(公報2頁右下欄5〜8行)。
以上の(ア)ないし(ウ)の記載及び図面から、先願の願書に最初に添付した明細書又は図面には次の発明(以下、先願発明という。)が記載されていると認められる。
「ハンマの衝撃力およびハンマシリンダの回転力を受けるリクラクトビット1の底面に、3個の円孔4を、該リクラクトビット1の中心からずらしてかつ周方向に等角度置きに設け、それら円孔4に枢軸3を回転自在に嵌入し、該枢軸3の先端部に、略扇状をなしかつ先端面にチップ7が植設された分割体2を設け、上記リクラクトビット1が縮径時において、分割体2のそれぞれ左右の側端面を対向させてしかもそれら分割体2の円弧部が全体で略円を形成し、かつその際に、各分割体2の両側端面が隣合うブロックの側端面に当接するとともに、各分割体2の側端面の延長線の交点が掘削回転中心と一致し、上記リクラクトビット1が掘削方向に回転した際に、掘削孔底部との掘削抵抗により分割体2が自転して該分割体2の一方の側端面と円弧部の交差部分が上記リクラクトビット1の外周面より所定の掘削量分だけ突出するように、上記分割体2に対する枢軸3の相対位置を設定していることを特徴とする掘削工具。」

(3)判断
(3-1)本件発明1について
本件発明1と先願発明とを対比すると、本件発明1の「デバイス」「ブロック」「ブロック軸」「軸穴」は、先願発明の「リクラクトビット1」「分割体2」「枢軸3」「円孔4」に対応することから、両者は次の点で相違する。
つまり、本件発明1が、少なくとも3個以上のブロックは、「デバイスが掘削方向に回転した際に・・・各ブロックの両側端面が隣合うブロックの側端面に当接するとともに、各ブロックの側端面の延長線の交点が掘削回転中心と一致する」ようになっているのに対し、先願発明では、本件発明1のブロックに相当する分割体2は、3個設けられ、公報の第2図に示すように、「リクラクトビット(本件発明1のデバイスに相当)が縮径状態において各分割体の両側端面が隣合う分割体の側端面に当接するとともに、各分割体の側端面の延長線の交点が掘削回転中心と一致する」ようになっているものの、リクラクトビット(本件発明1のデバイスに相当)が掘削方向に回転した際には、公報の第1図に示すように、各分割体の側端面の延長線の交点が掘削回転中心と一致するようにはなっていない点。
そして、上記相違点は、掘削工具の技術分野において単なる構成上の微差にすぎないとすることもできないから、本件発明1と先願発明とを同一の発明とすることはできない。
(3-2)本件発明2ないし8について
本件発明2、3及び5ないし8は本件発明1を引用し、本件発明4は、本件発明1を引用した本件発明3をさらに引用して、構成を技術的に限定したものであるから、本件発明1について、先願発明と同一の発明とすることができない以上、本件発明2ないし8についても、先願発明と同一の発明とすることはできない。

(4)請求人の主張に対して
請求人は、弁駁書において、本件発明1と先願発明との構成は上記(3)の(3-1)に記載した相違点で相違することは認めた上で、「側端面(2a、2b)の延長線の交点が掘削回転中心と一致していない・・という状態を非掘削状態(掘削部の外径が最小)とすることもできる。この場合、ただ、側端面(2b)の長さを掘削部の最大外径にすれば良いものであり、このことは当業者でなくても簡単に理解できるものである。・・従って・・実質的に同一」(弁駁書5頁ないし6頁のc項)であると主張する。
請求人の主張の「実質的に同一」とは、上記相違点に係る構成は、課題解決のための具体化手段において実質的に同一といえる程度の微差にすぎないものであることをいうものと解されるが、実質的に同一といえる程度の微差とは、当該相違点に係る構成が、周知の技術であるとか、慣用手段の付加、削除、転換にすぎないものであって、新たな作用効果を奏するものでないような構成をいうと解され、当該相違点に係る構成は、掘削工具の技術分野において周知の技術でもなく、慣用手段の付加、削除、転換にも相当しないものであるから、請求人の主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のように、本件発明1ないし8は、先願発明と同一の発明とすることはできないので、いずれも、特許法第29条の2に該当するものではない。

5 まとめ

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1ないし8についての特許を無効とすることはできない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2002-02-14 
結審通知日 2002-02-19 
審決日 2002-03-04 
出願番号 特願平3-209977
審決分類 P 1 112・ 162- Y (E21B)
P 1 112・ 112- Y (E21B)
P 1 112・ 121- Y (E21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡本 昌直大森 伸一  
特許庁審判長 田中 弘満
特許庁審判官 鈴木 公子
蔵野 いづみ
登録日 1997-01-09 
登録番号 特許第2599846号(P2599846)
発明の名称 掘削工具  
代理人 高橋 詔男  
代理人 青山 正和  
代理人 斎藤 栄一  
代理人 渡邊 隆  
代理人 鈴木 三義  
代理人 鈴木 三義  
代理人 渡邊 隆  
代理人 瀬谷 徹  
代理人 志賀 正武  
代理人 伊藤 晴之  
代理人 高橋 詔男  
代理人 青山 正和  
代理人 志賀 正武  

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