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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1081180
審判番号 不服2000-923  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-10-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-01-24 
確定日 2003-08-06 
事件の表示 平成 8年特許願第217281号「GAL4受容体構築体の使用」拒絶査定に対する審判事件[平成 9年10月28日出願公開、特開平 9-275988]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 〔1〕本願は、平成6年(1994年)12月29日に国際出願されたPCT/US94/14426(特願平7-518075号;1993年12月30日優先権主張、米国)をもとの出願として、平成8年8月19日に分割出願した特願平8-217281号に係るものであって、本件の請求項1〜16に係る発明は、平成12年2月23日付で手続補正された明細書の請求項1〜16の記載により特定されており、そのうちの請求項1には以下のように記載されている。(以下、「本件発明」という。)

【請求項1】 ステロイド/甲状腺ホルモン受容体タンパク質スーパーファミリーのメンバーに対するリガンドもしくはリガンド前駆体を決定する方法において,
上記メンバーの修飾型を含む細胞をそのメンバーに対する推定リガンドと接触させ、この場合,上記メンバーの上記修飾型は上記メンバーのDNA結合ドメインをGAL4のDNA結合ドメインで置き換えることによって生成され,また上記細胞はレポーター遺伝子に操作性に連結された応答配列として非ホルモン応答配列であるGAL4応答配列を含有し、ついで,
レポーター遺伝子産物の発現をモニターする,
ことからなる方法.

〔2〕これに対する原審の拒絶査定の理由は、この出願の請求項1〜3に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物a.〜d.に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。



刊行物a.Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,90(1993)p.30-34
刊行物b.EMBO Journal,8(1989)p.1441-1446
刊行物c.Cell,54(1988)p.199-207
刊行物d.Molecular Endocrinology,7(1993)p.616-627

〔3〕そこで、刊行物b.について検討するに、刊行物b.には、ステロイド/甲状腺ホルモン受容体タンパク質スーパーファミリーのメンバーであるレチノイン酸レセプター-β(RARβ)と、そのリガンドであるレチノイン酸(RA)との相互作用を、酵母由来のGAL4のDNA結合ドメイン(DBD)とその応答配列からなる転写調節機構である「GAL4応答システム」を利用してレポーター遺伝子の発現活性として検出する方法について記載されている。
具体的には、RARβ遺伝子を、GAL4のDBDをコードするDNAに繋いだ「発現プラスミド」を用いて細胞内でRARβ-GAL4DBD融合タンパクを発現させ、RARβとリガンドRAとの相互作用の強弱の程度を、その強さの程度に応じて活性化された融合タンパク内のGAL4DBDが、「レポータープラスミド」中のGAL4応答配列に結合することで活性化され、次いで当該応答配列により活性化されたE1bプロモーター下流のレポーター遺伝子(CAT)が発現されるという一連の工程を経由してCAT発現量の程度に置き換えて検出する方法である(第617頁Fig.1等)。
ところで、刊行物b.では、種々の細胞内でRARβの種々の領域に対応する部分を欠失させてCAT活性を測定した実験が行われているが、例えば第619頁Fig.3の実験では、RARβ中のリガンド結合ドメイン(TAF-2)が存在していれば、全長RARβの場合とほぼ同レベルかそれ以上の強さでRAとの相互作用を検出できるという結果が得られており、しかもRARβ自身のDBD(C領域)を除いた場合には、RA存在下で全長RARβの場合の2倍ものCAT活性が測定されて、RA非存在ではほとんど活性が観察されないという最もノイズの少ない理想的な検出結果が得られている。
刊行物b.における、上記RARβ自身のDBDを除いた場合とは、RARβのDBDをGAL4のDBDで置き換えた場合に他ならず、当該「発現プラスミド」を用いた場合に、RAとの相互作用を明瞭に強く示す実験結果が得られたことは、細胞内で発現された融合タンパク中の適切な位置にGAL4DBDが発現でき、GAL4応答システムが効率よく働くことができたことを示すものであるから、当該発現プラスミドを用いることで、リガンドRAと、RARβ中のリガンド結合領域との相互作用の強さの情報を、GAL4応答システムを介して「レポータープラスミド」上のプロモーターに正確に伝達し、レポーター遺伝子発現量という検出可能な情報に置き換えることができることを示したものということもできる。
しかして、本件発明を、刊行物b.記載の検出方法と比較してみると、対象となるレセプターがステロイド/甲状腺ホルモン受容体タンパク質スーパーファミリーのメンバーである点で一致し、当該メンバーのDBDをGAL4のDBDで置き換える「発現プラスミド」をGAL4応答配列を含有する「レポータープラスミド」と組み合わせて用いる点においても、またGAL4応答システムを介してレポーター遺伝子産物の発現をモニターする、というレセプターとリガンド間の相互作用の検出方法自体も実質的に区別することはできない。
結局、本件発明は、刊行物b.記載の検出方法をRARβなどステロイド/甲状腺ホルモンのレセプターのリガンドを決定するための方法として用いたことが唯一の相違点であるといえる。
そこで、以下、刊行物b.記載の検出方法を、RARβもしくはその類似レセプターのリガンドを決定するために用いてみようとする技術的課題を設定すること自体に困難性があったか否かを検討する。
ところで、本件明細書中に、1つの共通リガンドに応答する受容体として、RAの存在に応答するレチノイン酸受容体(RAR)およびレチノイドX受容体(RXR)を例示し、「その1つのみによって誘導される過程を修飾するため、単一のサブタイプに選択的なリガンドを発見する努力に多大な労力が注がれてきた。」と記載されている(明細書【0003】、下線は当合議体による。)ことからみて、これらRARおよびRXRに属するそれぞれのレセプターを特異的に認識できる「選択的なリガンド」を同定しようとすることが従来から周知の技術的課題であったことは、本件請求人も認めるところである。
また、刊行物a.においては、RAR類およびRXR類においてRAのような共通リガンドが認識される場合があることを前提として、それぞれのレセプターが特異的に認識するリガンドに関する研究が目的であることが明示されており(第30頁右欄第2段落等)、RAR類、RXR類のレセプターに対して、RAとは立体構造的に少しずつ異なる各種のRA類似化合物(例えばRA立体異性体t-RAなど)との相互作用の強さを、刊行物b.と同様のGAL4応答システムを介してのレポーター遺伝子の発現活性で検出する方法を用いて詳細な検討を行っている。
このように、請求人自らも認め、かつ刊行物a.の上記記載から明らかな如く、RAR類、RXR類などのステロイド/甲状腺ホルモン受容体タンパク質スーパーファミリーに属する各レセプターに対して、それぞれを特異的に認識できる「選択的リガンド」を同定しようとする技術的課題自体は、本件優先日前に周知であったといえる。
そして、刊行物b.記載の検出方法が、RAとRARβというリガンド・レセプター間の相互作用の強弱の情報を、レポーター遺伝子発現量という簡単に検出可能な情報に置き換えることができる優れた方法であることは上述の如くであるから、刊行物b.を読んだ当業者にとって、周知の課題であった上記「選択的なリガンド」決定のために当該検出方法を適用しようとすることは、極めて自然なことであり、それを妨げる阻害要因はない。
そうであるから、上記刊行物b.に記載の検出方法を用いて、刊行物a.の場合と同様に、リガンド側のRAを立体構造的に少しずつ変異させた化合物との相互作用を測定し、RARβなど各レセプターそれぞれを、より強く認識するリガンドを検索し、「選択的リガンド」を決定しようとすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。
そして、そのことによる効果は、刊行物a.およびb.から予測される程度のものであってそれを越えるものではない。そもそも本件明細書中には、実施例の「発現プラスミド」を「レポータープラスミド」を有する細胞内で実際に発現させたことも、ましてや特定の「発現プラスミド」と「レポータープラスミド」の組み合わせを用いて「選択的なリガンド」の決定に成功したことが記載されているわけでもないから、特定の組み合わせに基づいた効果の顕著性を主張することもできない。
なお、請求人は、請求項1における「操作性に連結された応答配列として非ホルモン応答配列であるGAL4応答配列を含有し」という記載について、レポータープラスミド中の応答配列として、エストロゲン応答配列(ERE)のような内在性ホルモン受容体に応答するホルモン応答配列を使用せず、GAL4応答配列のような非ホルモン応答配列のみを使用することを明示したものである旨主張している(平成12年5月15日付審判請求書手続補正書第2頁など)。
しかしながら、上記記載中の「含有し」という用語はホルモン応答配列の存在を排除するものではないから当該主張自体に無理があるが、たとい上記記載が請求人が主張する意味であったとしても、上記刊行物b.において「レポータープラスミド」で用いられているE1bプロモーター(アデノウイルス由来)は「ホルモン応答配列」にはあたらず、当該プラスミドは非ホルモン応答配列のみを使用しているので、請求人の主張は当を得ていない。
したがって、いずれにしても本件発明は、刊行物a.およびb.の記載に基づいて当業者が容易になし得る範囲の発明である。

〔4〕刊行物a.およびb.で用いられているGAL4のDBDはGAL4のアミノ酸残基1〜147に対応しており、また当該DBDはRARβのアミノ末端に付加されて用いられているので、請求項2および3に記載された発明も上記〔3〕と同様の理由で刊行物a.およびb.の記載に基づいて当業者が容易に想到し得る発明である。

〔5〕以上述べたとおり、本件請求項1〜3に係る発明は、刊行物a.およびb.の記載に基づいて当業者が容易に想到し得るものといえるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできない。
よって、同請求項4〜16に係る発明については検討するまでもなく、本件特許出願は拒絶すべきものである。
 
審決日 2003-03-27 
出願番号 特願平8-217281
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平田 和男  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 佐伯 裕子
田村 聖子
発明の名称 GAL4受容体構築体の使用  
代理人 浅村 皓  
代理人 池田 幸弘  
代理人 浅村 肇  
代理人 長沼 暉夫  
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