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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B41J 審判 全部申し立て 発明同一 B41J |
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管理番号 | 1081257 |
異議申立番号 | 異議2002-71585 |
総通号数 | 45 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2001-05-29 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-06-25 |
確定日 | 2003-05-19 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3241352号「インクジェットヘッド及びインクジェット式記録装置」の請求項1乃至17に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3241352号の請求項1乃至17に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続きの経緯 本件特許第3241352号発明は、平成11年11月22日に出願され、平成13年10月19日にその特許の設定登録がなされ、その後、渡辺等より請求項1乃至17に係る発明について特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年12月27日に訂正請求がなされたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 特許請求の範囲の請求項1,3,13,14,15,16の各請求項中の「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように形成され、」を「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、」に訂正するものである(下線は訂正箇所を示す)。 (2)訂正の目的、新規事項の有無、拡張変更の存否の各要件についての判断 本訂正は、後発のインク滴が常に先発のインク滴よりも吐出速度が速いことを、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項(特に明細書段落0010参照)の範囲内で限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。 (3)訂正の適否のまとめ 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。 3.異議申立てについての判断 (1)異議申立ての概要 1)申立理由1 異議申立人渡辺等は、甲第1号証を提出し、本件請求項1,2,13乃至17に係る発明の特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされた旨主張している。 2)申立理由2 異議申立人渡辺等は、甲第2乃至5号証を提出し、本件請求項1乃至17に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされた旨主張している。 (2)本件請求項1乃至17に係る発明 本件請求項1乃至17に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至17に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下においては、発明を特定する事項の意味で「構成」あるいは「構成要件」を用いることもある)。 「【請求項1】インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、 圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、 前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、 前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、 前記信号選択部は、前記基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号を供給するように構成されているインクジェットヘッド。 【請求項2】請求項1に記載のインクジェットヘッドであって、 前記駆動信号生成部は、前記基準駆動信号を生成した後に前記ヘッド本体におけるインクのメニスカス振動を抑制するための補助パルス信号を生成し、前記信号選択部は、前記アクチュエータに対して前記N-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号及び前記補助パルス信号を供給するように構成されているインクジェットヘッド。 【請求項3】インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、 圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、 前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、 前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、 前記駆動信号生成部は、前記基準駆動信号を生成した後に前記へッド本体におけるインクのメニスカス振動を抑制するための補助パルス信号を生成し、 前記信号選択部は、前記アクチュエータに対して、Pが1のときには前記基準駆動信号のうちの1番目のインク吐出用パルス信号を供給する一方、Pが2以上のときには前記基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号及び前記補助パルス信号を供給するように構成されているインクジェットヘッド。 【請求項4】請求項2または3のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のN番目のインク吐出用パルス信号と前記補助パルス信号との間の間隔は、前記アクチュエータの固有周期の0.5〜1.5倍に設定されているインクジェットヘッド。 【請求項5】請求項2〜4のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記補助パルス信号の電位差は、前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号の最小電位差の0.1〜0.3倍に設定されているインクジェットヘッド。 【請求項6】請求項1〜5のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号の各インク吐出用パルス信号は、基準電位としての第1電位と該第1電位と異なる第2電位とを有する矩形状または台形状のパルス信号からなり、 前記信号選択部は、前記基準駆動信号を前記アクチュエータに供給するON状態及び該アクチュエータへの該基準駆動信号の供給を中止するOFF状態のいずれか一つの状態に選択的に切り替わるスイッチング回路からなり、 前記スイッチング回路は、前記基準駆動信号の電位が前記第1電位のときに前記OFF状態から前記ON状態に切り替わるように構成されているインクジェットヘッド。 【請求項7】請求項1〜5のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、 前記圧力室内を減圧する側に前記アクチュエータを駆動するための負圧電位と該圧力室内を加圧する側に該アクチュエータを駆動するための正圧電位との間の基準電位から該負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該負圧電位から前記正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる初期パルス信号と、 各々の所定の正圧電位から各々の所定の負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該各負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該各負圧電位から各々の所定の正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる1または2以上の後続パルス信号とからなり、 前記信号選択部は、前記基準駆動信号を前記アクチュエータに供給するON状態及び該アクチュエータへの該基準駆動信号の供給を中止するOFF状態のいずれか一つの状態に選択的に切り替わるスイッチング回路からなり、 前記スイッチング回路は、前記基準駆動信号の電位が負圧電位になってから該基準駆動信号の供給を開始するように、該基準駆動信号の負圧電位維持波形の波形維持開始時から所定時間経過後に前記OFF状態から前記ON状態に切り替わるインクジェットヘッド。 【請求項8】請求項2または3のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号の各インク吐出用パルス信号は、基準電位から前記アクチュエータを前記圧力室内を減圧する側に駆動する負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該負圧電位から該基準電位にまで上昇する電位上昇波形とからなり、 前記補助パルス信号は、前記基準電位から前記アクチュエータを前記圧力室内を減圧する側に駆動する補助負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該補助負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該補助負圧電位から鼓基準電位にまで上昇する電位上昇波形とからなり、 前記基準駆動信号のN番目のインク吐出用パルス信号における電位上昇波形の電位上昇終了時から前記補助パルス信号の電位降下波形の電位下降開始時までの間の間隔は、前記アクチュエータの固有周期の0.5〜1倍に設定されているインクジェットヘッド。 【請求項9】請求項2または3のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、 前記圧力室内を減圧する側に前記アクチュエータを駆動する負圧電位と該圧力室内を加圧する側に該アクチュエータを駆動する正圧電位との間の基準電位から該負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該負圧電位から前記正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる初期パルス信号と、 各々の所定の正圧電位から各々の所定の負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該各負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該各負圧電位から各々の所定の正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる1または2以上の後続パルス信号とからなり、 前記補助パルス信号は、前記基準電位から前記アクチュエータを前記圧力室内を減圧する側に駆動するための補助負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該補助負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該補助負圧電位から該基準電位にまで上昇する電位上昇波形とからなり、 前記基準駆動信号の最後の後続パルス信号における電位上昇波形の電位上昇終了時から前記補助パルス信号の電位降下波形の電位降下開始時までの間隔は、前記アクチュエータの固有周期の0.5〜1倍に設定されているインクジェットヘッド。 【請求項10】請求項2または3のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、 前記圧力室内を減圧する側に前記アクチュエータを駆動する負庄電位と該圧力室内を加圧する側に該アクチュエータを駆動する正圧電位との間の基準電位から該負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該負圧電位から前記正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる初期パルス信号と、 各々の所定の正圧電位から各々の所定の負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該各負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該各負圧電位から各々の所定の正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる1または2以上の後続パルス信号とからなり、 前記補助パルス信号は、前記基準電位から前記アクチュエータを前記圧力室内を加圧する側に駆動するための補助加圧電位にまで上昇する電位上昇波形と、該補助正圧電位を維持する正圧電位維持波形と、該補助正圧電位から該基準電位にまで下降する電位降下波形とからなり、 前記基準駆動信号の最後の後続パルス信号における電位上昇波形の電位上昇終了時から前記補助パルス信号の電位上昇波形の電位上昇開始時までの間隔は、前記アクチュエータの固有周期の1〜1.5倍に設定されているインクジェットへッド。 【請求項11】請求項1〜10のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号は、N個のインク吐出用パルス信号間の間隔が徐々に前記アクチュエータの固有周期に近づき且つ徐々に長くなるように形成されているインクジェットヘッド。 【請求項12】請求項1〜5、7、9、または10のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号は、N個のインク吐出用パルス信号内の電位差が徐々に大きくなるように形成されているインクジェットヘッド。 【請求項13】インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、 圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、 前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、 前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、 前記信号選択部は、前記基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号を供給するように構成され、 一印字周期内にP個のインク滴を、互いに合体して一つのインクドットを形成するように吐出するインクジェットヘッド。 【請求項14】インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、 圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、 前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、 前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、 前記信号選択部は、一印字周期内のインク吐出数が1つの場合には、前記基準駆動信号のうちのN番目のインク吐出用パルス信号を供給するように構成されているインクジェットヘッド。 【請求項15】インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、 圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、 前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、 前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、 前記信号選択部は、一印字周期内に少なくとも第1、第2および第3のインク滴を吐出する場合には、前記基準駆動信号のうちのN-2番目、N-1番目およびN番目のインク吐出用パルス信号を供給するように構成されているインクジェットヘッド。 【請求項16】インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、 圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、 前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、 前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、 前記信号選択部は、前記基準駆動信号の後側のインク吐出用パルス信号をインク吐出数に応じた数だけ選択して供給するように構成されているインクジェットヘッド。 【請求項17】請求項1〜16のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドと、 前記インクジェットヘッドのインク吐出時に該インクジェットヘッドと記録媒体とを相対移動させる相対移動手段とを備えているインクジェット式記録装置。」 (3)甲各号証とその記載事項 甲各号証とその記載事項は次のとおりである。 1)甲第1号証:特願平10-157874号(以下、「先願」という)の願書に最初に添付された明細書又は図面(以下、「先願明細書」といい、特開平11-348320号公報で代用する) 『インクを収容する複数の圧力室(インク室613)と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズル(ノズル618)とが形成されたヘッド本体と、圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータ(アクチュエータ壁603)と、前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号(噴射パルスPF1〜PF3)を所定の一印字周期内に2以上の自然数N個含んだ基準駆動信号を生成すると共にその後に一定間隔を置いて補助パルス信号(非噴射パルスPS)を生成する駆動信号生成部(基準データ記憶回路4,駆動信号生成回路6)と、前記基準駆動信号に含まれるN以下の自然数P個のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部(駆動信号修正回路8)とを備えたインクジェットヘッドであって、前記信号選択部は、前記基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号及び補助パルス信号を供給するように構成されているインクジェットヘッド。』(以下、「先願発明」という)等が図面と共に記載されている。 2)甲第2号証:特開平10-81013号公報 『インクを収容する複数の圧力室(圧力発生室37)と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズル(ノズル穴32A)とが形成されたヘッド本体と、圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータ(圧電振動子21)と、前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号(第1〜4パルス、ただし第4パルスは微振動パルス)を所定の一印字周期内に2以上の自然数N個含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部(駆動信号発生回路8)と、前記基準駆動信号に含まれるN以下の自然数P個のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部(スイッチ回路20等)とを備えたインクジェットヘッドであって、前記信号選択部は、階調値に応じて前記基準駆動信号のうちのインク吐出用パルス信号のいずれか1つ或いは複数組み合わせて供給するように構成されているインクジェットヘッド。』等が図面と共に記載されている。 3)甲第3号証:特開平10-202859号公報 『インクを収容する複数の圧力室(インク室613)と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズル(ノズル618)とが形成されたヘッド本体と、圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータ(アクチュエータ壁603)と、前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号(噴射パルス信号A,B)を所定の一印字周期内に2以上の自然数N個含んだ基準駆動信号を生成すると共にその後に一定間隔を置いて補助パルス信号(非噴射パルス信号C)を生成する駆動信号生成部(ROM114等)とを備えたインクジェットヘッド。』等が図面と共に記載されている。 4)甲第4号証:特開平10-296976号公報 圧電素子を用いて一印字周期内に複数のインク滴を連続吐出するインクジェットヘッドにおいて、インク滴が記録媒体に到達する前に一体化してしまうと、大部分が記録媒体に吸収されて1滴だけ噴射した場合と余り変わらないことから、インク滴が記録媒体に到達するまでに一体化しないようにすること、等が記載されている。 5)甲第5号証:特開平11-216880号公報 圧電素子を用いて一印字周期内に複数のインク滴を連続吐出するインクジェットヘッドにおいて、非階調2値印字の場合には、通電波形における-V電圧と+V電圧の印加時間T1,T2を、圧力波がインク室の一端から他端まで伝播する時間ALに設定することで、インク室内の圧力振動を徐々に振幅が増大するようにし、インク滴吐出時の圧力を徐々に増大させてインク滴が1つの大きな塊となって飛翔するようにすること、等が記載されている。 (4)対比・判断 1)申立理由1について [本件請求項1に係る発明について] 本件請求項1に係る発明(前者)と先願発明(後者)とを対比するに、両者は、「インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、前記信号選択部は、前記基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号を供給するように構成されているインクジェットヘッド。」において一致し、次の点で相違する。 <相違点>前者では、「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され」るのに対し、後者ではこれらのことが定かでない点。 上記相違点について検討する。 先願明細書段落0006〜0009の記載によれば、先願発明におけるインク滴の連続吐出は、圧力室を負圧にする電圧の印加を圧力波の片道伝播時間Tだけ維持すると正圧に転ずることを利用したものであり、正圧に転ずるタイミングに合わせて印加電圧を戻すことで、正に転じた圧力と変形前の状態に戻ることにより発生した圧力との合圧力で連続吐出を行うものである。 また、同段落0043の記載によれば、他の実施例として、インク吐出用パルス信号は1つのみ作っておいて、これを繰り返し出力してもよいものである。 これらの記載と、図1においてパルスPF1〜3の各波形が同様に記載されていることを勘案すると、先願発明におけるインク吐出用パルス信号は全て同一とみるのが自然であって、先願明細書には、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成されたインク吐出用パルス信号については記載も示唆もないとみるのが相当である。 申立人は、先願明細書の段落0009の「インク滴が連続して噴射され、複数個のインク滴が合体して被記録媒体に到達し、あるいは複数個のインク滴が被記録媒体上で僅かにずれて重なる。つまり、連続噴射するインク滴の数を変えることにより、インク付着面積をコントロールすることができる。」の記載をとらえて、複数個のインク滴が合体して被記録媒体に到達するのであるから、前に吐出したインク滴よりも後に吐出したインク滴の吐出速度が速くなるように形成されていることは開示されているに等しい旨主張している。 しかしながら、上述したように、パルスPF1〜3の各波形が同じであって、他にインク滴の吐出時の速度についての記載もなく、連続吐出する各インク滴の吐出時の速度が意図的に異ならされているとは考え難いのであり、一般的に、連続吐出する各インク滴の吐出時の速度が同じであっても、吐出時の速度や空気抵抗や被記録媒体までの距離や吐出時のインク滴の連続状態やインクの粘性や温度環境などの諸要因によっては、インク滴が合体して被記録媒体に到達することもあれば合体せずにずれて到達することもあるため、むしろ、該段落0009の上記「」の記載はそのような一般的なことを単に示していると考えられることから、この主張は採用することができない。 ところで、申立理由2のために提示された甲第3号証の段落0008や0041には噴射されたインク滴がインク室のインクと分離する前に次のインク滴を噴射して飛翔中に一体化することが記載され、同じく提示された甲第5号証の段落0025には非階調2値印字の場合に通電波形における-+各電圧の印加時間を圧力波伝播時間に設定することでインク滴吐出時の圧力を徐々に増大させてインク滴を1つの大きな塊として飛翔させることが記載されている。 これらの記載は、それぞれに図示された連続する噴射パルスの各波形が同様であることも勘案すると、インク吐出用パルス信号を後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成していることを示すとは言い難く、また、同じく提示された甲第4号証の段落0048には望ましくない例として各パルス幅が片道伝播時間に等しいかその奇数倍であれば圧力波振動の振幅が徐々に増大して後から噴射されたインク滴が高速となって一体化することが記載されているが、これも又インク吐出用パルス信号を後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成していることを示すものではない。 仮に、インク吐出用パルス信号を後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成することが周知技術であると仮定して検討してみても、先願発明において、後から吐出されるインク滴の吐出速度を先に吐出されるインク滴よりも順次速くして一体化することが当然に考慮される課題であるとするには、先願明細書の記載からみて根拠に乏しく、当然に考慮される課題でないときには該周知技術の適用により新たな効果を奏することになり、加えて、先願発明におけるインク滴の吐出が、上述したように、圧力室を負圧にする電圧の印加を圧力波の片道伝播時間Tだけ維持すると正圧に転ずることを利用したものであって、かつ、インク吐出用パルス信号が全て同一であることからすれば、インク吐出用パルス信号を後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成するためには、駆動信号生成部(基準データ記憶回路4,駆動信号生成回路6)などに相当程度の改変を要すると考えられるため、先願発明に該周知技術を適用することが、単なる周知技術の適用であるとか、課題解決のための具体化手段における微差にすぎないなどということはできない。 したがって、上記相違点を実質的な相違点でないとはいえず、本件請求項1に係る発明は先願発明と実質的に同一とはいえないから、その特許は申立理由1の理由によっては取り消すことができない。 [本件請求項2,13乃至17に係る発明について] 本件請求項2,13乃至17に係る発明は、それぞれ、上記相違点に係る構成を構成要件として含むから、それらの特許は、少なくとも、上記本件請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、申立理由1の理由によっては取り消すことができない。 2)申立理由2について [本件請求項1に係る発明について] 本件請求項1に係る発明(前者)と甲第2号証記載の発明(後者)とを対比するに、両者は、「インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッド。」において一致し、次の点で相違する。 <相違点1>前者では、「前記信号選択部は、前記基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号を供給する」のに対し、後者の信号選択部は、階調値に応じて基準駆動信号のうちのインク吐出用パルス信号のいずれか1つ或いは複数組み合わせて供給する点。 <相違点2>前者では、「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され」ているのに対し、後者にはこのような構成はない点。 相違点1について検討するに、基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号を供給することについては、甲第3乃至5号証のいずれにも記載されておらず示唆もない。 申立人は、甲第3号証の段落0036の「本実験の駆動方法では・・・噴射パルス信号A、Bに対応して2つのインク滴が噴射され、・・・体積の合計は、55plであった。比較実験として、噴射パルス信号Aをなくし、噴射パルス信号Bと非噴射パルス信号Cのみにて駆動した場合、・・・体積は30plであった。この結果から・・・1ドットの印字命令に対して、噴射パルス数を2倍にしたことで、噴射インク滴の体積が増加していることが分かる。」の記載をとらえて、インク吐出用パルス信号を後側から選択して供給することが開示されているかのように主張しているが、この記載は、本実験の駆動方法では単に噴射パルス数を2倍にすれば噴射インク滴の体積も増加することを示しているだけであって、インク吐出用パルス信号を後側から選択して供給することまでは読み取れないから、この主張は採用できない。 また、申立人は、甲第3号証には最後の噴射パルスと補助パルスとの印字タイミングを所定範囲に保つことが記載されており、これを甲第2号証記載の発明に適用するときには、通常、インク吐出用パルス信号を後側から選択して供給することになる旨主張しているが、甲第2号証記載の発明は階調値に応じて複数のインク吐出用パルス信号の中から先頭のもののみや途中のもののみも選択しなければならないものであって、後側から選択するだけでは発明の目的が達成できなくなるものであるから、この主張も採用することができない。 これらのことから、相違点1を当業者が容易になし得ることとはいえない。 相違点2について検討するに、上記申立理由1についての項でも述べたように、甲第3乃至5号証にはインク吐出用パルス信号を後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成することについて記載も示唆もない。 仮に、インク吐出用パルス信号を後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成することが周知技術であると仮定しても、それだけでは甲第2号証の例えば図4に示されたパルス波形をそのようになすことが容易であるとすることはできない。 これらのことから、相違点2も当業者が容易になし得ることとはいえない。 そして、本件請求項1に係る発明は、上記相違点1,2に係る構成を備えることにより、甲第2乃至5号証記載の発明から予測し得る以上の作用効果を奏し得るものである。 したがって、本件請求項1に係る発明は甲第2乃至5号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は申立理由2の理由によっては取り消すことができない。 [本件請求項2に係る発明について] 本件請求項2に係る発明は、本件請求項1に係る発明の構成要件の全てを構成要件として含むから、その特許は、少なくとも、上記本件請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、申立理由2の理由によっては取り消すことができない。 [本件請求項3に係る発明について] 本件請求項3に係る発明(前者)と甲第2号証記載の発明(後者)とを対比するに、両者は次の点で相違し(以下において前出の相違点と同じ場合は前出と同じ相違点番号とする)、その余の点で一致する。 <相違点2>(前出の相違点2参照) <相違点3>前者では、「前記駆動信号生成部は、前記基準駆動信号を生成した後に前記へッド本体におけるインクのメニスカス振動を抑制するための補助パルス信号を生成し、前記信号選択部は、前記アクチュエータに対して、Pが1のときには前記基準駆動信号のうちの1番目のインク吐出用パルス信号を供給する一方、Pが2以上のときには前記基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号及び前記補助パルス信号を供給する」のに対し、後者にはこれがない点。 相違点2の検討は前出の場合と同様であり、相違点2を当業者が容易になし得ることとはいえない。 相違点3について検討するに、最後に補助パルス信号を供給する点は甲第3号証に記載があるが、Pが1のときには基準駆動信号のうちの1番目のインク吐出用パルス信号を供給する一方、Pが2以上のときには基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号を供給する点は、甲第3乃至5号証のいずれにも記載されておらず示唆もないため、相違点3を当業者が容易になし得ることとはいえない。 そして、本件請求項3に係る発明は、上記相違点2,3に係る構成を備えることにより、甲第2乃至5号証記載の発明から予測し得る以上の作用効果を奏し得るものである。 したがって、本件請求項3に係る発明は甲第2乃至5号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は申立理由2の理由によっては取り消すことができない。 [本件請求項4乃至12に係る発明について] 本件請求項4乃至12に係る発明は、少なくとも、本件請求項1または本件請求項3のいずれかの請求項に係る発明の構成要件の全てを構成要件として含むから、それらの特許は、少なくとも、上記本件請求項1または本件請求項3のいずれかの請求項に係る発明についての判断と同様の理由により、申立理由2の理由によっては取り消すことができない。 [本件請求項13に係る発明について] 本件請求項13に係る発明(前者)と甲第2号証記載の発明(後者)とを対比するに、両者は次の点で相違し、その余の点で一致する。 <相違点1>(前出の相違点1参照) <相違点2>(前出の相違点2参照) <相違点4>前者では、「一印字周期内にP個のインク滴を、互いに合体して一つのインクドットを形成する」のに対し、後者は定かでない点。 相違点1の検討は前出の場合と同様であり、相違点1を当業者が容易になし得ることとはいえない。 相違点2,4について検討するに、相違点4に係る構成は相違点2に係る構成に伴うものであるが、上述したように、相違点2は当業者が容易になし得ることとはいえないから、相違点2,4は全体として当業者が容易になし得ることとはいえない。 そして、本件請求項13に係る発明は、上記相違点1乃至3に係る構成を備えることにより、甲第2乃至5号証記載の発明から予測し得る以上の作用効果を奏し得るものである。 したがって、本件請求項13に係る発明は甲第2乃至5号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は申立理由2の理由によっては取り消すことができない。 [本件請求項14に係る発明について] 本件請求項14に係る発明(前者)と甲第2号証記載の発明(後者)とを対比するに、両者は次の点で相違し、その余の点で一致する。 <相違点2>(前出の相違点2参照) <相違点5>前者では、「前記信号選択部は、一印字周期内のインク吐出数が1つの場合には、前記基準駆動信号のうちのN番目のインク吐出用パルス信号を供給する」のに対し、後者はこれがない点。 相違点2の検討は前出の場合と同様であり、相違点2を当業者が容易になし得ることとはいえない。 相違点5について検討するに、一印字周期内のインク吐出数が1つの場合に、N個用意されたインク吐出用パルス信号のうち常に最後のインク吐出用パルス信号を選択することについては、甲第3乃至5号証のいずれにも記載されておらず示唆もないため、相違点5を当業者が容易になし得ることとはいえない。 そして、本件請求項14に係る発明は、上記相違点2,5に係る構成を備えることにより、甲第2乃至5号証記載の発明から予測し得る以上の作用効果を奏し得るものである。 したがって、本件請求項14に係る発明は甲第2乃至5号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は申立理由2の理由によっては取り消すことができない。 [本件請求項15に係る発明について] 本件請求項15に係る発明(前者)と甲第2号証記載の発明(後者)とを対比するに、両者は次の点で相違し、その余の点で一致する。 <相違点2>(前出の相違点2参照) <相違点6>前者では、「前記信号選択部は、一印字周期内に少なくとも第1、第2および第3のインク滴を吐出する場合には、前記基準駆動信号のうちのN-2番目、N-1番目およびN番目のインク吐出用パルス信号を供給する」のに対し、後者はこれがない点。 相違点2の検討は前出の場合と同様であり、相違点2を当業者が容易になし得ることとはいえない。 相違点6について検討するに、一印字周期内のインク吐出数が3つの場合に、N個用意されたインク吐出用パルス信号のうち常に後側の3つのインク吐出用パルス信号を選択することについては、甲第3乃至5号証のいずれにも記載されておらず示唆もないため、相違点6を当業者が容易になし得ることとはいえない。 そして、本件請求項15に係る発明は、上記相違点2,6に係る構成を備えることにより、甲第2乃至5号証記載の発明から予測し得る以上の作用効果を奏し得るものである。 したがって、本件請求項15に係る発明は甲第2乃至5号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は申立理由2の理由によっては取り消すことができない。 [本件請求項16に係る発明について] 本件請求項16に係る発明(前者)と甲第2号証記載の発明(後者)とを対比するに、両者は次の点で相違し、その余の点で一致する。 <相違点2>(前出の相違点2参照) <相違点7>前者では、「前記信号選択部は、前記基準駆動信号の後側のインク吐出用パルス信号をインク吐出数に応じた数だけ選択して供給する」のに対し、後者はこれがない点。 相違点2の検討は前出の場合と同様であり、相違点2を当業者が容易になし得ることとはいえない。 相違点7について検討するに、N個用意されたインク吐出用パルス信号のうち常に後側からインク吐出数に応じた数だけインク吐出用パルス信号を選択することについては、甲第3乃至5号証のいずれにも記載されておらず示唆もないため、相違点7を当業者が容易になし得ることとはいえない。 そして、本件請求項16に係る発明は、上記相違点2,7に係る構成を備えることにより、甲第2乃至5号証記載の発明から予測し得る以上の作用効果を奏し得るものである。 したがって、本件請求項16に係る発明は甲第2乃至5号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、その特許は申立理由2の理由によっては取り消すことができない。 [本件請求項17に係る発明について] 本件請求項17に係る発明は、少なくとも、本件請求項1乃至16のいずれかの請求項に係る発明の構成要件の全てを構成要件として含むから、その特許は、少なくとも、上記本件請求項1乃至16のいずれかの請求項に係る発明についての判断と同様の理由により、申立理由2の理由によっては取り消すことができない。 4.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては本件請求項1乃至17に係る発明についての特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1乃至17に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 インクジェットヘッド及びインクジェット式記録装置 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、 圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、 前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、 前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、 前記信号選択部は、前記基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号を供給するように構成されているインクジェットヘッド。 【請求項2】 請求項1に記載のインクジェットヘッドであって、 前記駆動信号生成部は、前記基準駆動信号を生成した後に前記ヘッド本体におけるインクのメニスカス振動を抑制するための補助パルス信号を生成し、 前記信号選択部は、前記アクチュエータに対して前記N-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号及び前記補助パルス信号を供給するように構成されているインクジェットヘッド。 【請求項3】 インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、 圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、 前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、 前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、 前記駆動信号生成部は、前記基準駆動信号を生成した後に前記ヘッド本体におけるインクのメニスカス振動を抑制するための補助パルス信号を生成し、 前記信号選択部は、前記アクチュエータに対して、Pが1のときには前記基準駆動信号のうちの1番目のインク吐出用パルス信号を供給する一方、Pが2以上のときには前記基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号及び前記補助パルス信号を供給するように構成されているインクジェットヘッド。 【請求項4】 請求項2または3のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のN番目のインク吐出用パルス信号と前記補助パルス信号との間の間隔は、前記アクチュエータの固有周期の0.5〜1.5倍に設定されているインクジェットヘッド。 【請求項5】 請求項2〜4のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記補助パルス信号の電位差は、前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号の最小電位差の0.1〜0.3倍に設定されているインクジェットヘッド。 【請求項6】 請求項1〜5のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号の各インク吐出用パルス信号は、基準電位としての第1電位と該第1電位と異なる第2電位とを有する矩形状または台形状のパルス信号からなり、 前記信号選択部は、前記基準駆動信号を前記アクチュエータに供給するON状態及び該アクチュエータへの該基準駆動信号の供給を中止するOFF状態のいずれか一つの状態に選択的に切り替わるスイッチング回路からなり、 前記スイッチング回路は、前記基準駆動信号の電位が前記第1電位のときに前記OFF状態から前記ON状態に切り替わるように構成されているインクジェットヘッド。 【請求項7】 請求項1〜5のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、 前記圧力室内を減圧する側に前記アクチュエータを駆動するための負圧電位と該圧力室内を加圧する側に該アクチュエータを駆動するための正圧電位との間の基準電位から該負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該負圧電位から前記正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる初期パルス信号と、 各々の所定の正圧電位から各々の所定の負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該各負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該各負圧電位から各々の所定の正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる1または2以上の後続パルス信号とからなり、 前記信号選択部は、前記基準駆動信号を前記アクチュエータに供給するON状態及び該アクチュエータへの該基準駆動信号の供給を中止するOFF状態のいずれか一つの状態に選択的に切り替わるスイッチング回路からなり、 前記スイッチング回路は、前記基準駆動信号の電位が負圧電位になってから該基準駆動信号の供給を開始するように、該基準駆動信号の負圧電位維持波形の波形維持開始時から所定時間経過後に前記OFF状態から前記ON状態に切り替わるインクジェットヘッド。 【請求項8】 請求項2または3のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号の各インク吐出用パルス信号は、基準電位から前記アクチュエータを前記圧力室内を減圧する側に駆動する負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該負圧電位から該基準電位にまで上昇する電位上昇波形とからなり、 前記補助パルス信号は、前記基準電位から前記アクチュエータを前記圧力室内を減圧する側に駆動する補助負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該補助負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該補助負圧電位から該基準電位にまで上昇する電位上昇波形とからなり、 前記基準駆動信号のN番目のインク吐出用パルス信号における電位上昇波形の電位上昇終了時から前記補助パルス信号の電位降下波形の電位下降開始時までの間の間隔は、前記アクチュエータの固有周期の0.5〜1倍に設定されているインクジェットヘッド。 【請求項9】 請求項2または3のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、 前記圧力室内を減圧する側に前記アクチュエータを駆動する負圧電位と該圧力室内を加圧する側に該アクチュエータを駆動する正圧電位との間の基準電位から該負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該負圧電位から前記正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる初期パルス信号と、 各々の所定の正圧電位から各々の所定の負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該各負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該各負圧電位から各々の所定の正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる1または2以上の後続パルス信号とからなり、 前記補助パルス信号は、前記基準電位から前記アクチュエータを前記圧力室内を減圧する側に駆動するための補助負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該補助負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該補助負圧電位から該基準電位にまで上昇する電位上昇波形とからなり、 前記基準駆動信号の最後の後続パルス信号における電位上昇波形の電位上昇終了時から前記補助パルス信号の電位降下波形の電位降下開始時までの間隔は、前記アクチュエータの固有周期の0.5〜1倍に設定されているインクジェットヘッド。 【請求項10】 請求項2または3のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、 前記圧力室内を減圧する側に前記アクチュエータを駆動する負圧電位と該圧力室内を加圧する側に該アクチュエータを駆動する正圧電位との間の基準電位から該負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該負圧電位から前記正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる初期パルス信号と、 各々の所定の正圧電位から各々の所定の負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該各負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該各負圧電位から各々の所定の正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる1または2以上の後続パルス信号とからなり、 前記補助パルス信号は、前記基準電位から前記アクチュエータを前記圧力室内を加圧する側に駆動するための補助加圧電位にまで上昇する電位上昇波形と、該補助正圧電位を維持する正圧電位維持波形と、該補助正圧電位から該基準電位にまで下降する電位降下波形とからなり、 前記基準駆動信号の最後の後続パルス信号における電位上昇波形の電位上昇終了時から前記補助パルス信号の電位上昇波形の電位上昇開始時までの間隔は、前記アクチュエータの固有周期の1〜1.5倍に設定されているインクジェットヘッド。 【請求項11】 請求項1〜10のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号は、N個のインク吐出用パルス信号間の間隔が徐々に前記アクチュエータの固有周期に近づき且つ徐々に長くなるように形成されているインクジェットヘッド。 【請求項12】 請求項1〜5、7、9、または10のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号は、N個のインク吐出用パルス信号内の電位差が徐々に大きくなるように形成されているインクジェットヘッド。 【請求項13】 インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、 圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、 前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、 前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、 前記信号選択部は、前記基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号を供給するように構成され、 一印字周期内にP個のインク滴を、互いに合体して一つのインクドットを形成するように吐出するインクジェットヘッド。 【請求項14】 インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、 圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、 前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、 前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、 前記信号選択部は、一印字周期内のインク吐出数が1つの場合には、前記基準駆動信号のうちのN番目のインク吐出用パルス信号を供給するように構成されているインクジェットヘッド。 【請求項15】 インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、 圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、 前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、 前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、 前記信号選択部は、一印字周期内に少なくとも第1、第2および第3のインク滴を吐出する場合には、前記基準駆動信号のうちのN-2番目、N-1番目およびN番目のインク吐出用パルス信号を供給するように構成されているインクジェットヘッド。 【請求項16】 インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、 圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、 前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、 前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、 前記信号選択部は、前記基準駆動信号の後側のインク吐出用パルス信号をインク吐出数に応じた数だけ選択して供給するように構成されているインクジェットヘッド。 【請求項17】 請求項1〜16のいずれか一つに記載のインクジェットヘッドと、 前記インクジェットヘッドのインク吐出時に該インクジェットヘッドと記録媒体とを相対移動させる相対移動手段と を備えているインクジェット式記録装置。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、インクジェットヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。 【0002】 【従来の技術】 例えば特開平10-81012号公報に開示されているように、記録紙に1つのドットを形成するための一印字周期中に、インクジェットヘッドの各ノズルから複数のインク滴を吐出し、複数のインク滴によって1つのドットを形成するインクジェット式記録装置が提案されている。 【0003】 この種のインクジェット式記録装置は、インクを収容する圧力室と圧力室に連通するノズルとが形成されたヘッド本体と、圧電素子の圧電効果によって上記ノズルからインク滴を吐出させるように圧力室内のインクに圧力を付与するアクチュエータと、アクチュエータに駆動信号を供給する駆動信号供給手段とを有するインクジェットヘッドと、このインクジェットヘッドと記録紙とを相対移動させる相対移動手段とを備えている。そして、上記相対移動手段によりインクジェットヘッドと記録紙とが相対移動されているときに、上記駆動信号供給手段によりアクチュエータに対して一印字周期中に1または2以上の駆動パルスを含む駆動信号を供給し、ノズルから1または2以上のインク滴を吐出させる。このようにして吐出された複数のインク滴は、記録紙上に吐出順に着弾し、一つのインクドットを形成する。このようなドットが記録紙上に複数個整列することにより、当該記録紙に所定の画像が形成される。そして、一印字周期中に吐出するインク滴の数を調整することにより、ドットの濃淡や大きさが調整され、いわゆる多階調印刷が可能となる。 【0004】 一方、米国特許第5,285,215号に開示されているように、後から吐出するインク滴の方が先に吐出するインク滴よりも吐出速度が速くなるようにすることで、同じノズルから吐出された2つのインク滴同士を着弾前に合体させ、大きなインク滴にしてから着弾させる技術も知られている。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 前述したように、一印字周期中に1または2以上のインク滴を吐出するためには、アクチュエータに対し、吐出数に応じた数の駆動パルスを供給する必要がある。しかし、駆動信号の供給手法に何らの工夫も施さず、単にインク滴の吐出数に応じた数の駆動パルスを供給するだけでは、記録紙上に良好なインクドットを形成することは困難である。 【0006】 例えば、高速の印刷を行う場合には、インクジェットヘッドと記録紙との相対移動速度が大きいため、同じノズルから吐出された複数のインク滴は、記録紙上の互いにずれた位置に順次着弾しやすくなる。そのため、インクドットが長円になり、印字品質が低下しやすい。そこで、このような場合には、インク滴の吐出間隔ができるだけ短くなるように、複数のインク滴を連続的に吐出するとともに、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるようにする必要がある。 【0007】 また、一印字周期が終了した時のインクメニスカス振動が次の印字周期にまで残存していると、インクの吐出性能は不安定になる。そこで、メニスカス振動の悪影響を受けにくい駆動信号の供給手法が望まれている。 【0008】 本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、一印字周期中に同一のノズルから1または2以上のインク滴を吐出するインクジェットヘッド及びそれを備えたインクジェット式記録装置のインク吐出性能の高性能化を図ることにある。 【0009】 【課題を解決するための手段】 上記目的を達成するために、本発明に係るインクジェットヘッドは、インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように形成され、前記信号選択部は、前記基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号を供給するように構成されているものである。 【0010】 このことにより、駆動信号生成部は、一印字周期中に最大N個のインク滴を吐出可能なように、N個のインク吐出用パルス信号を含んだ基準駆動信号を生成する。一方、信号選択部は、所定の画像信号に応じて一印字周期中にP個のインク滴を吐出させるように、上記N個のインク吐出用パルス信号のうちからN-P+1番目以降の合計P個のインク吐出用パルス信号を選択し、アクチュエータに供給する。ここで、上記P個のインク吐出用パルス信号は、基準駆動信号において連続的に生成されたパルス信号であるので、各パルス間の時間間隔は短い。従って、P個のインク滴は間髪を入れずに連続的に吐出されることになる。また、N個のインク吐出用パルス信号は後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように生成されているので、上記P個のインク吐出用パルス信号によって吐出される合計P個のインク滴は、吐出速度が順次速くなるように吐出される。従って、P個のインク滴の着弾位置のずれは少なく、また、これらP個のインク滴を着弾前に合体させることも容易となる。以上により、インク滴の吐出数にかかわらず、良好なインクドットが形成されることになり、インク吐出性能は向上する。 【0011】 また、駆動信号生成部がインク吐出のために生成する駆動信号は、1種類の基準駆動信号のみであるので、インクの吐出数に応じた数の駆動信号を生成する必要がなく、制御系の構成が簡易になり、また、コストが安価になる。 【0012】 前記駆動信号生成部は、前記基準駆動信号を生成した後に前記ヘッド本体におけるインクのメニスカス振動を抑制するための補助パルス信号を生成し、前記信号選択部は、前記アクチュエータに対して前記N-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号及び前記補助パルス信号を供給するように構成されていることが好ましい。 【0013】 このことにより、アクチュエータに対し、基準駆動信号のN-P+1番目以降の合計P個のインク吐出用パルス信号が供給された後に、補助パルス信号が供給される。その結果、P個のインク滴を吐出した後のインクメニスカス振動は抑制され、次の印字周期におけるインクの吐出性能は安定化する。 【0014】 本発明に係る他のインクジェットヘッドは、インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように形成され、前記駆動信号生成部は、前記基準駆動信号を生成した後に前記ヘッド本体におけるインクのメニスカス振動を抑制するための補助パルス信号を生成し、前記信号選択部は、前記アクチュエータに対して、Pが1のときには前記基準駆動信号のうちの1番目のインク吐出用パルス信号を供給する一方、Pが2以上のときには前記基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号及び前記補助パルス信号を供給するように構成されているものである。 【0015】 このことにより、一印字周期中に1個(P=1)のインク滴を吐出する場合には、アクチュエータに対し、基準駆動信号に含まれるN個のインク吐出用パルス信号のうちの1番目のパルス信号のみが供給される。1番目のパルス信号は2番目以降のパルス信号に比べると波形が安定しており、また、印字周期のうちの最も早い時期に生成されるので、インクの吐出タイミングが正確になるとともに、インクの吐出性能は安定し、インクの着弾位置の精度は向上する。なお、この場合、1個のインク滴を吐出するだけなので、一印字周期の全体のインク吐出量は少なく、メニスカス振動の影響は小さい。そのため、補助パルス信号を供給しなくても問題はない。また、一印字周期中に2個以上(P≧2)のインク滴を吐出する場合であっても、前述した理由により、インク滴の吐出数にかかわらず良好なインクドットが形成され、インク吐出性能は向上する。なお、この場合、アクチュエータに対して、基準駆動信号が供給された後に補助パルス信号が供給されるので、メニスカス振動の影響による吐出性能の低下は抑制される。 【0016】 前記基準駆動信号のN番目のインク吐出用パルス信号と前記補助パルス信号との間の間隔は、前記アクチュエータの固有周期の0.5〜1.5倍に設定されていることが好ましい。なお、アクチュエータの固有周期とは、音響要素(具体的にはインク)を含んだ振動系全体の固有周期をいう。 【0017】 このことにより、インクのメニスカス振動が効率的に抑制されることになる。 【0018】 前記補助パルス信号の電位差が小さすぎるとメニスカス振動を十分に抑制することが難しくなる一方、その電位差が大きすぎると、意図しないインク吐出が発生するおそれがある。そこで、前記補助パルス信号の電位差は、前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号の最小電位差の0.1〜0.3倍に設定されていることが好ましい。 【0019】 このことにより、インクを吐出させることなくメニスカス振動を効率的に抑制するために好適な補助パルス信号が得られることになる。 【0020】 前記基準駆動信号の各インク吐出用パルス信号は、基準電位としての第1電位と該第1電位と異なる第2電位とを有する矩形状または台形状のパルス信号からなり、前記信号選択部は、前記基準駆動信号を前記アクチュエータに供給するON状態及び該アクチュエータへの該基準駆動信号の供給を中止するOFF状態のいずれか一つの状態に選択的に切り替わるスイッチング回路からなり、前記スイッチング回路は、前記基準駆動信号の電位が前記第1電位のときに前記OFF状態から前記ON状態に切り替わるように構成されていてもよい。 【0021】 このことにより、基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、第1電位及び第2電位の2つの電位のみを有する矩形状または台形状のパルス信号によって構成されるので、基準駆動信号の波形が簡易化される。従って、基準駆動信号を生成する駆動信号生成部は、構成が簡易になる。 【0022】 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、前記圧力室内を減圧する側に前記アクチュエータを駆動するための負圧電位と該圧力室内を加圧する側に該アクチュエータを駆動するための正圧電位との間の基準電位から該負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該負圧電位から前記正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる初期パルス信号と、各々の所定の正圧電位から各々の所定の負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該各負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該各負圧電位から各々の所定の正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる1または2以上の後続パルス信号とからなり、前記信号選択部は、前記基準駆動信号を前記アクチュエータに供給するON状態及び該アクチュエータへの該基準駆動信号の供給を中止するOFF状態のいずれか一つの状態に選択的に切り替わるスイッチング回路からなり、前記スイッチング回路は、前記基準駆動信号の電位が負圧電位になってから該基準駆動信号の供給を開始するように、該基準駆動信号の負圧電位維持波形の波形維持開始時から所定時間経過後に前記OFF状態から前記ON状態に切り替わるように構成されていてもよい。 【0023】 このことにより、スイッチング回路は、基準駆動信号の波形の立ち下がりから所定の時間遅れを伴って切り替わるように、基準駆動信号の負圧電位維持波形の波形維持開始時から所定時間経過後に、OFF状態からON状態に切り替わる。そのため、基準駆動信号の電位が下降している途中にスイッチング回路が切り替わることはないので、アクチュエータに対して、基準電位、負圧電位及び正圧電位以外の意図しない電位の維持波形を含んだような不安定な駆動信号が供給されることはない。 【0024】 前記基準駆動信号の各インク吐出用パルス信号は、基準電位から前記アクチュエータを前記圧力室内を減圧する側に駆動する負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該負圧電位から該基準電位にまで上昇する電位上昇波形とからなり、前記補助パルス信号は、前記基準電位から前記アクチュエータを前記圧力室内を減圧する側に駆動する補助負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該補助負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該補助負圧電位から該基準電位にまで上昇する電位上昇波形とからなり、前記基準駆動信号のN番目のインク吐出用パルス信号における電位上昇波形の電位上昇終了時から前記補助パルス信号の電位降下波形の電位下降開始時までの間の間隔は、前記アクチュエータの固有周期の0.5〜1倍に設定されていてもよい。 【0025】 このことにより、2つの電位(基準電位と負圧電位)の電位維持波形を有する基準駆動信号を用い、且つ、アクチュエータのいわゆるプルプッシュ動作に基づくインク吐出作用とメニスカス振動抑制作用を利用して、安定したインク吐出を実現することができる。 【0026】 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、前記圧力室内を減圧する側に前記アクチュエータを駆動する負圧電位と該圧力室内を加圧する側に該アクチュエータを駆動する正圧電位との間の基準電位から該負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該負圧電位から前記正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる初期パルス信号と、各々の所定の正圧電位から各々の所定の負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該各負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該各負圧電位から各々の所定の正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる1または2以上の後続パルス信号とからなり、前記補助パルス信号は、前記基準電位から前記アクチュエータを前記圧力室内を減圧する側に駆動するための補助負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該補助負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該補助負圧電位から該基準電位にまで上昇する電位上昇波形とからなり、前記基準駆動信号の最後の後続パルス信号における電位上昇波形の電位上昇終了時から前記補助パルス信号の電位降下波形の電位降下開始時までの間隔は、前記アクチュエータの固有周期の0.5〜1倍に設定されていてもよい。 【0027】 このことにより、3つの電位(基準電位と負圧電位と正圧電位)の電位維持波形を有する基準駆動信号を用い、且つ、アクチュエータのいわゆるプルプッシュ動作に基づくインク吐出作用とメニスカス振動抑制作用を利用して、安定したインク吐出を実現することができる。 【0028】 前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、前記圧力室内を減圧する側に前記アクチュエータを駆動する負圧電位と該圧力室内を加圧する側に該アクチュエータを駆動する正圧電位との間の基準電位から該負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該負圧電位から前記正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる初期パルス信号と、各々の所定の正圧電位から各々の所定の負圧電位にまで下降する電位降下波形と、該各負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、該各負圧電位から各々の所定の正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とからなる1または2以上の後続パルス信号とからなり、前記補助パルス信号は、前記基準電位から前記アクチュエータを前記圧力室内を加圧する側に駆動するための補助加圧電位にまで上昇する電位上昇波形と、該補助正圧電位を維持する正圧電位維持波形と、該補助正圧電位から該基準電位にまで下降する電位降下波形とからなり、前記基準駆動信号の最後の後続パルス信号における電位上昇波形の電位上昇終了時から前記補助パルス信号の電位上昇波形の電位上昇開始時までの間隔は、前記アクチュエータの固有周期の1〜1.5倍に設定されていてもよい。 【0029】 このことにより、3つの電位(基準電位と負圧電位と正圧電位)の電位維持波形を有する基準駆動信号を用い、且つ、アクチュエータのいわゆるプルプッシュ動作に基づくインク吐出作用と、いわゆるプッシュプル動作に基づくメニスカス振動抑制作用とを利用して、安定したインク吐出を実現することができる。 【0030】 ところで、アクチュエータに供給されるインク吐出用パルス信号の間隔がアクチュエータの固有周期に近いほど、インクの吐出速度は速くなる。そこで、前記基準駆動信号は、N個のインク吐出用パルス信号間の間隔が徐々に前記アクチュエータの固有周期に近づき且つ徐々に長くなるように形成されていてもよい。 【0031】 このことにより、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるので、基準駆動信号の好適な具体的構成を得ることができる。 【0032】 一方、アクチュエータに供給されるインク吐出用パルス信号のパルス高さ(電位差)が大きいほど、インクの吐出速度は速くなる。そこで、前記基準駆動信号は、N個のインク吐出用パルス信号内の電位差が徐々に大きくなるように形成されていてもよい。 【0033】 このことにより、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるので、基準駆動信号の好適な具体的構成を得ることができる。 【0034】 本発明に係る他のインクジェットヘッドは、インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように形成され、前記信号選択部は、前記基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のインク吐出用パルス信号を供給するように構成され、一印字周期内にP個のインク滴を、互いに合体して一つのインクドットを形成するように吐出するものである。 【0035】 本発明に係る他のインクジェットヘッドは、インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように形成され、前記信号選択部は、一印字周期内のインク吐出数が1つの場合には、前記基準駆動信号のうちのN番目のインク吐出用パルス信号を供給するように構成されているものである。 【0036】 本発明に係る他のインクジェットヘッドは、インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように形成され、前記信号選択部は、一印字周期内に少なくとも第1、第2および第3のインク滴を吐出する場合には、前記基準駆動信号のうちのN-2番目、N-1番目およびN番目のインク吐出用パルス信号を供給するように構成されているものである。 【0037】 本発明に係るインクジェットヘッドは、インクを収容する複数の圧力室と該各圧力室にそれぞれ連通する複数のノズルとが形成されたヘッド本体と、圧電素子を有し、該圧電素子の圧電効果によって前記各圧力室内のインクに圧力を付与する複数のアクチュエータと、前記ノズルからインク滴を吐出させるように前記アクチュエータを駆動するインク吐出用パルス信号を所定の一印字周期内にN個(Nは2以上の自然数)含んだ基準駆動信号を生成する駆動信号生成部と、前記基準駆動信号に含まれるP個(PはN以下の自然数)のインク吐出用パルス信号を前記アクチュエータに対し選択的に供給する信号選択部とを備えたインクジェットヘッドであって、前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように形成され、前記信号選択部は、前記基準駆動信号の後側のインク吐出用パルス信号をインク吐出数に応じた数だけ選択して供給するように構成されているものである。 【0038】 本発明に係るインクジェット式記録装置は、前記インクジェットヘッドと、前記インクジェットヘッドのインク吐出時に該インクジェットヘッドと記録媒体とを相対移動させる相対移動手段とを備えていることとしたものである。 【0039】 このことにより、インク吐出性能に優れたインクジェット式記録装置が得られる。 【0040】 【発明の実施の形態】 以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。 【0041】 <実施形態1> 図1は、実施形態1に係るインクジェット式記録装置の概略構成を示す。このインクジェット式記録装置は、キャリッジ16に支持固定されたインクジェットヘッド1を備えている。キャリッジ16には、図1では図示を省略するキャリッジモータ28(図6参照)が設けられ、このキャリッジモータ28によりインクジェットヘッド1及びキャリッジ16が主走査方向(図1及び図2に示すX方向)に延びるキャリッジ軸17にガイドされ、その方向に往復移動するようになっている。なお、このキャリッジ16、キャリッジ軸17及びキャリッジモータ28により、インクジェットヘッド1と記録紙41とを相対移動させる相対移動手段が構成されている。 【0042】 記録紙41は、図1では図示を省略する搬送モータ26(図6参照)によって回転駆動される2つの搬送ローラ42に挟まれていて、この搬送モータ26及び各搬送ローラ42により、上記主走査方向と垂直な副走査方向(図1及び図2に示すY方向)に搬送されるようになっている。 【0043】 インクジェットヘッド1は、図2〜図5に示すように、インクを収容する複数の圧力室4と各圧力室4にそれぞれ連通する複数のノズル2とが形成されたヘッド本体40と、各圧力室4内のインクに圧力を付加して各ノズル2からインク滴をそれぞれ吐出させる複数のアクチュエータ10とを有している。アクチュエータ10は、後述の如く、いわゆるたわみ振動型の圧電素子13を用いたものであって、圧力室4の収縮及び膨張に伴う圧力室4内の圧力変化によって、ノズル2からインク滴を吐出しかつ圧力室4にインクを充填するようになっている。 【0044】 圧力室4は、図2に示すように、インクジェットヘッド1の内部に主走査方向Xに延びるように長溝状に形成されていて、副走査方向に互いに所定間隔をあけて配設されている。この圧力室4の一端部(図2では右側の端部)には、ノズル2がインクジェットヘッド1の下面において副走査方向Yに互いに所定間隔をあけて開口するように設けられている。圧力室4の他端部(図2では左側の端部)にはインク供給路5の一端部がそれぞれ接続され、この各インク供給路5の他端部は、副走査方向Yに延びるように設けられたインク供給室3に接続されている。 【0045】 また、インクジェットヘッド1は、図3に示すように、ノズル2が形成されたノズルプレート6と、圧力室4及びインク供給路5を区画形成する区画壁7と、アクチュエータ10とが順に積層されて構成されている。このノズルプレート6は厚さ20μmのポリイミド板からなり、区画壁7は厚さ280μmのステンレス製ラミネート板からなっている。 【0046】 アクチュエータ10は、図4及び図5に誇張して示すように、圧力室4に臨設された振動板11と、振動板11を振動させる薄膜の圧電素子13と、個別電極14とが順に積層されて構成されている。振動板11は、厚さ2μmのクロム板からなっていて、各圧電素子13に個別電極14と共に電圧を印加するための共通電極としての機能をも有している。圧電素子13は、圧力室4に対応して設けられていて、厚さ3μmのPZT(ジルコル酸チタン酸鉛)からなる超薄型のものである。個別電極14は厚さ0.1μmの白金板からなっており、アクチュエータ10の全体の厚さは約5μmとなっている。なお、互いに隣接する圧電素子13(個別電極14)の間には、ポリイミドからなる絶縁板15が設けられている。 【0047】 次に、図6のブロック図を参照しながら、インクジェット式記録装置の制御回路20を説明する。制御回路20は、CPUからなる主制御部21と、各種データ処理のためのルーチン等を記憶したROM22と、各種データの記憶等を行うRAM23と、搬送モータ26及びキャリッジモータ28をそれぞれ駆動制御するためのドライバ回路25,27及びモータ制御回路24と、印刷データを受信するデータ受信回路29と、駆動信号生成回路30と、複数の選択回路31,31,…とを備えている。各選択回路31には、アクチュエータ10が接続されている。駆動信号生成回路30は、一印字周期中に、N個(Nは2以上の自然数)のインク吐出用パルス信号を有する基準駆動信号と、インクメニスカス振動を抑制するための補助パルス信号とを生成する。選択回路31は、インクジェットヘッド1がキャリッジ16と共に主走査方向Xに移動しているときに、上記基準駆動信号に含まれる1または2以上のパルス信号をアクチュエータ10に選択的に入力させる回路である。具体的には、選択回路31は、駆動信号生成回路30からアクチュエータ10への信号供給をON/OFFするスイッチング回路により構成されており、アクチュエータ10に対して、基準駆動信号に含まれるN個のインク吐出用パルス信号のうちのN-P+1番目以降のパルス信号を供給する。 【0048】 次に、インクジェット式記録装置の動作について説明する。まず、データ受信回路29が画像データを受信すると、主制御部21はROM22に記憶された処理ルーチンに基づいて、モータ制御回路24及びドライバ回路25,27を介して搬送モータ26及びキャリッジモータ28をそれぞれ制御し、駆動信号生成回路30は基準駆動信号を生成する。さらに、主制御部21は、上記画像データに基づいて、一印字周期中に吐出すべきインク滴の数に関する情報を、各選択回路31に出力する。そして、選択回路31は、上記情報に基づいて、基準駆動信号に含まれるN個のパルス信号のうちからP個(PはN以下の自然数)のパルス信号を選択し、アクチュエータ10に供給する。また、選択回路31は、駆動信号生成回路30からの補助パルス信号も供給する。これにより、インクジェットヘッド1のノズル2から、一印字周期内に1または2以上のインク滴が吐出される。 【0049】 次に、一例として、図7〜図9を参照しながら、一印字周期中にノズル2から1つのインク滴を吐出する際の動作と、2つのインク滴を吐出する際の動作とを説明する。 【0050】 まず、図7(a)または図8(a)を参照しながら、駆動信号生成回路30により生成される駆動信号について説明する。駆動信号生成回路30は一印字周期内に、5つのインク吐出用パルス信号P1〜P5からなる基準駆動信号と、1つの補助パルス信号S1とを生成する。各パルス信号P1〜P5は、基準電位(20V)から圧力室4内を減圧する側にアクチュエータ10を駆動する負圧電位(0V)にまで下降する電位降下波形と、負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、負圧電位から基準電位にまで上昇する電位上昇波形とから構成されている。補助パルス信号S1は、基準電位(20V)から補助負圧電位(15V)にまで下降する電位降下波形と、補助負圧電位を維持する補助負圧電位維持波形と、補助負圧電位から基準電位にまで上昇する電位上昇波形とから構成されている。すなわち、各パルス信号P1〜P5,S1は、アクチュエータ10に引き押し動作(いわゆるプルプッシュ動作)を行わせる信号である。なお、本例においては各パルス信号P1〜P5,S1の波形は矩形波であるが、これらの信号波形は台形波であってもよい。 【0051】 基準駆動信号のパルス信号P1〜P5は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように、パルス間の時間間隔が徐々にアクチュエータ10の固有周期に近づき、且つ徐々に長くなるように形成されている。具体的には、パルス信号P1〜P5の間隔は、順に7.5μs、9μs、9.5μs、10μs、12μsに設定されている。なお、ここでいうアクチュエータ10の固有周期とは、圧力室4内のインクの影響をも含めた振動系全体の固有周期であり、本例では12μsである。このような固有周期は、例えば米国特許第4,697,193号明細書に記載されているヘルムホルツ固有振動周波数fの逆数で表される。 【0052】 パルス信号間の時間間隔が上述のように設定されていることにより、例えば図9に示すように、3つのインク滴Q1、Q2、Q3が順に吐出される場合には、インク滴Q1〜Q3の吐出速度v1〜v3は、v1<v2<v3となる。そして、第2インク滴Q2は記録紙に着弾する前に第1インク滴Q1に追いつき、第1インク滴Q1と第2インク滴Q2とが合体してインク滴Q12となる。さらに、第3インク滴Q3はインク滴Q12に追いつき、第3インク滴Q3とインク滴Q12とが合体してインク滴Q123が形成される。このように、本実施形態では、順に吐出された複数のインク滴は記録紙に着弾する前に合体し、一つのインク滴となって記録紙に一つのインクドットを形成する。 【0053】 基準駆動信号のうちの最後のパルス信号(N番目のパルス信号)である第5パルス信号P5と補助パルス信号S1との間隔は、アクチュエータ10の固有周期の0.5〜1.5倍に設定されている。なお、上記間隔はアクチュエータ10の固有周期の0.5〜1倍が特に好ましく、本例では、10μsに設定されている(固有周期の約0.83倍)。補助パルス信号S1の補助負圧電位は、基準駆動信号のパルス信号P1〜P5の負圧電位の0.1倍〜0.3倍が好ましく、本例では、0.25倍に設定されている。 【0054】 次に、選択回路31の動作について説明する。インク吐出数が1の場合には、図7(b)に示すように、選択回路31は、基準駆動信号の電位が第4パルス信号P4と第5パルス信号P5との間の基準電位のときに、OFF状態からON状態に切り替わる。そして、補助パルス信号S1が終了して電位が基準電位にあるときに、ON状態からOFF状態に切り替わる。このような選択回路31のON/OFF動作により、図7(c)に示すように、アクチュエータ10には第5パルス信号P5と補助パルス信号S1とが供給されることになる。 【0055】 一方、インク吐出数が2の場合には、図8(b)に示すように、選択回路31は、基準駆動信号の電位が第3パルス信号P3と第4パルス信号P4との間の基準電位のときに、OFF状態からON状態に切り替わる。そして、インク吐出数が1の場合と同様、補助パルス信号S1の後にON状態からOFF状態に切り替わる。このような選択回路31のON/OFF動作により、図8(c)に示すように、アクチュエータ10には第4パルス信号P4と第5パルス信号P5と補助パルス信号S1とが供給されることになる。 【0056】 このように、本実施形態によれば、駆動信号生成回路30では1種類の基準駆動信号のみを生成する一方、選択回路31のON/OFF動作によって当該基準駆動信号の一部または全部を適宜選択し、インク吐出数に応じた数のパルス信号をアクチュエータ10に供給することとしたので、駆動信号生成回路30を簡易化することができ、制御回路20を簡易かつ安価に構成することができる。 【0057】 基準駆動信号のパルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように形成され、選択回路31において、基準駆動信号の後ろ側のパルス信号をインク吐出数に応じた数だけ選択することとしたので、複数のインク滴を着弾前に合体させることができ、インク吐出数が変わっても、インク滴の飛翔速度(インク吐出数が1つの場合は当該インク滴の吐出速度、インク吐出数が2以上の場合は合体後のインク滴の飛翔速度)をほぼ一定にすることができる。従って、高速印字が可能になるとともに、印字品質が向上する。 【0058】 基準駆動信号の維持波形の電位は基準電位及び負圧電位の2つの電位のみであるので、電位が基準電位にある間に選択回路31をOFF状態からON状態に切り替えるだけで、アクチュエータ10にパルス信号を良好に供給することができる。すなわち、パルス信号間には、ある程度の時間の基準電位維持波形が設けられているので、選択回路31の切り替えタイミングが多少ずれたとしても、選択回路31が上記基準電位維持波形の間に切り替わる限り、アクチュエータ10には良好なパルス信号が供給されることになる。従って、アクチュエータ10に対して駆動信号が安定して供給されるので、インクの吐出性能は向上する。 【0059】 <実施形態2> 実施形態2は、実施形態1に対して、駆動信号生成回路30が生成する基準駆動信号及び補助パルス信号と、選択回路31の切り替えタイミングとに変更を加えたものである。 【0060】 図10に示すように、実施形態2の基準駆動信号は、初期パルス信号R1と当該初期パルス信号R1に続く4つの後続パルス信号R2〜R5とを有している。初期パルス信号R1は、基準電位(10V)から負圧電位(0V)にまで下降する電位降下波形と、負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、負圧電位から正圧電位(20V)にまで上昇する電位上昇波形とから構成されている。後続パルス信号R2〜R5はそれぞれ、正圧電位から負圧電位にまで降下する電位降下波形と、負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、負圧電位から正圧電位にまで上昇する電位上昇波形とから構成されている。補助パルス信号T1は、基準電位から補助負圧電位(5V)にまで下降する電位降下波形と、補助負圧電位を維持する補助負圧電位維持波形と、補助負圧電位から基準電位にまで上昇する電位上昇波形とから構成されている。 【0061】 選択回路31は、実施形態1と同様に、基準駆動信号の後ろ側のパルス信号をインク吐出数に応じた数だけ選択するように構成されている。但し、実施形態2の選択回路31は、実施形態1と異なり、パルス信号の負圧電位維持波形の波形維持開始時から所定時間経過後に、OFF状態からON状態に切り替わる。つまり、選択回路31は、パルス信号の電位降下から所定の時間遅れを伴って切り替わるように構成されている。 【0062】 パルス信号の電位降下終了時と同時に基準駆動信号を供給する制御回路では、切り替えタイミングが遅れた場合には問題はないが、切り替えタイミングが早すぎる場合には、電位が降下中の駆動信号が供給されることになり、アクチュエータの動作は不安定になる。しかし、本実施形態によれば、選択回路31の切り替えタイミングは、電位が負圧電位に下降してから所定時間経過後に設定されているので、たとえ切り替えタイミングの誤差が生じたとしても、選択回路31は常に電位が負圧電位にある間に切り替わることになる。従って、アクチュエータの動作は安定する。なお、電位が負圧電位になってから選択回路31が切り替わるまでの間に時間差があることにより、アクチュエータ10に最初に供給されるパルス信号は、その後に供給されるパルス信号に比べて、パルス幅の小さな信号となる。しかし、最初に吐出されるインク滴よりも後から吐出されるインク滴の方が吐出速度が速いため、合体後のインク滴の飛翔挙動は、主として後から吐出されるインク滴の飛翔挙動に支配される。従って、本実施形態では、選択回路31の切り替えタイミングを遅らせているにもかかわらず、インク吐出に際して実用上問題はなく、良好なインク吐出性能を発揮することができる。 【0063】 <実施形態3> 図11及び図12に示すように、実施形態3も、実施形態1に対して、駆動信号生成回路30が生成する信号と選択回路31の切り替えタイミングとに変更を加えたものである。 【0064】 実施形態3の基準駆動信号は、初期パルス信号U1と当該初期パルス信号U1に続く4つの後続パルス信号U2〜U5とを有している。初期パルス信号U1は、基準電位(20V)から負圧電位(0V)にまで下降する電位降下波形と、負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、負圧電位から所定の正圧電位(15V)にまで上昇する電位上昇波形とから構成されている。後続パルス信号U2〜U5はそれぞれ、各々の正圧電位(15V、17V、22V、26V)から負圧電位(0V)にまで降下する電位降下波形と、負圧電位を維持する負圧電位維持波形と、負圧電位から各々の正圧電位(17V、22V、26V、26V)にまで上昇する電位上昇波形とから構成されている。後から吐出するインク滴の吐出速度が先に吐出するインク滴の吐出速度よりも速くなるように、後続パルス信号U2〜U5は、電位差(パルス高さ)が徐々に大きくなるように形成されている。具体的には、初期パルス信号U1の電位差は、1番目のインク滴の吐出性能向上のために20Vとし、残りの後続パルス信号U2〜U5の電位差は、それぞれ15V、17V、22V、26Vに設定されている。 【0065】 最後の後続パルス信号U5の電位上昇波形の後は、電位が正圧電位(26V)から基準電位(20V)にまで下降する補助電位降下波形と、その後基準電位を維持する補助電位維持波形とが設けられている。本実施形態では、この補助電位降下波形と補助電位維持波形とにより、インクのメニスカス振動を抑制するための補助パルス信号が形成されている。なお、後続パルス信号U5の電位上昇波形の電位上昇終了時と補助パルス信号の補助電位降下波形の電位降下開始時との間隔は、アクチュエータ10の固有周期の0.5〜1倍に設定されていることが好ましい。 【0066】 図11(b)及び(c)に示すように、本実施形態では、インク滴の吐出数が1の場合には、選択回路31は初期パルス信号U1を選択する。すなわち、選択回路31は印字周期の開始と同時にON状態になり、初期パルス信号U1の電位上昇波形の途中または終了後にOFF状態になる。 【0067】 一方、インク滴の吐出数が2以上の場合には、選択回路31は基準駆動信号の後ろ側のパルス信号を吐出数に応じて選択する。図12(b)及び(c)に示すように、吐出数が2の場合には、選択回路31は後続パルス信号U4の電位降下終了時と同時または所定時間経過後にOFF状態からON状態に切り替わり、アクチュエータ10に対し、2つのパルス信号U4及びU5を供給する。 【0068】 このように、本実施形態では、一印字周期中に1個のインク滴を吐出する場合には初期パルス信号U1を供給し、一印字周期中に2個以上のインク滴を吐出する場合には、基準駆動信号のうちの後ろ側のパルス信号を供給することとした。従って、インク滴の吐出数が2以上のときには前述した諸効果を得ることができる一方、インク滴の吐出数が1のときには、吐出タイミングの正確性及び吐出安定性を更に向上させることができる。 【0069】 <他の実施形態> 基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、アクチュエータにプルプッシュ動作を行わせるようなパルス信号に限定されるものではなく、いわゆるプッシュプル動作を行わせるようなパルス信号であってもよい。 【0070】 補助パルス信号は、前記実施形態1〜3の補助パルス信号に限定されるものではなく、他のパルス信号により構成されていてもよい。例えば、アクチュエータ10にいわゆるプッシュプル動作を行わせるように、基準電位から正圧電位にまで上昇する電位上昇波形と、正圧電位を維持する正圧電位維持波形と、正圧電位から基準電位にまで下降する電位降下波形とから構成されていてもよい。この場合、基準駆動信号の最後のパルス信号における電位上昇波形の電位上昇終了時から補助パルス信号の電位上昇波形の電位上昇開始時までの間隔は、アクチュエータ10の固有周期の1〜1.5倍に設定されていることが好ましい。 【0071】 【発明の効果】 以上のように、一の発明によれば、一印字周期中にP個のインク滴を吐出するに際して、駆動信号生成部においてN個のパルス信号を含んだ基準駆動信号を生成し、その基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のパルス信号をアクチュエータに供給することとしたので、複数のインク滴により記録媒体上に良好なインクドットを形成することができる。 【0072】 また、他の発明によれば、Pが1のときには基準駆動信号のうちの1番目のパルス信号を供給する一方、Pが2以上のときには基準駆動信号のうちのN-P+1番目以降のパルス信号及び補助パルス信号を供給することとしたので、1個のインク滴を吐出する際の吐出性能を更に向上させることができる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 インクジェット式記録装置の概略構成図である。 【図2】 インクジェットヘッドの部分平面図である。 【図3】 図2のA-A断面図である。 【図4】 アクチュエータ近傍の部分断面図である。 【図5】 図2のB-B断面図である。 【図6】 制御回路のブロック図である。 【図7】 実施形態1におけるインク吐出数が1の場合のタイミングチャートであり、(a)は駆動信号生成回路によって生成される駆動信号を、(b)は選択回路のON/OFF信号を、(c)はアクチュエータに供給される駆動信号をそれぞれ示す。 【図8】 実施形態1におけるインク吐出数が2の場合の図7相当図である。 【図9】 インク滴の飛翔挙動を示す模式図である。 【図10】 実施形態2の図7相当図である。 【図11】 実施形態3におけるインク吐出数が1の場合の図7相当図である。 【図12】 実施形態3におけるインク吐出数が2の場合の図7相当図である。 【符号の説明】 1 インクジェットヘッド 2 ノズル 4 圧力室 10 アクチュエータ 11 振動板 13 圧電素子 14 個別電極 16 キャリッジ(相対移動手段) 30 駆動信号生成回路(駆動信号生成部) 31 選択回路(信号選択部) 40 ヘッド本体 41 記録紙(記録媒体) |
訂正の要旨 |
▲1▼ 訂正事項1 特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1中の「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように形成され、」を、「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、」と訂正する。 ▲2▼ 訂正事項2 特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項3中の「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように形成され、」を、「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、」と訂正する。 ▲3▼ 訂正事項3 特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項13中の「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように形成され、」を、「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、」と訂正する。 ▲4▼ 訂正事項4 特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項14中の「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように形成され、」を、「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、」と訂正する。 ▲5▼ 訂正事項5 特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項15中の「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように形成され、」を、「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、」と訂正する。 ▲6▼ 訂正事項6 特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項16中の「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が速くなるように形成され、」を、「前記基準駆動信号のインク吐出用パルス信号は、後から吐出されるインク滴の方が先に吐出されるインク滴よりも吐出速度が順次速くなるように形成され、」と訂正する。 |
異議決定日 | 2003-04-28 |
出願番号 | 特願平11-330906 |
審決分類 |
P
1
651・
161-
YA
(B41J)
P 1 651・ 121- YA (B41J) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 江成 克己、高松 大治 |
特許庁審判長 |
小沢 和英 |
特許庁審判官 |
中村 圭伸 番場 得造 |
登録日 | 2001-10-19 |
登録番号 | 特許第3241352号(P3241352) |
権利者 | 松下電器産業株式会社 |
発明の名称 | インクジェットヘッド及びインクジェット式記録装置 |
代理人 | 前田 弘 |
代理人 | 前田 弘 |