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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1081275
異議申立番号 異議2002-72427  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-07-12 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-10-07 
確定日 2003-05-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3272068号「ポリプロピレン組成物」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3272068号の請求項1に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3272068号は、平成4年12月22日に特許出願された特願平4-342448号の出願に係り、平成14年1月25日に設定登録されたものであって、その後、特許異議申立人日本ポリケム株式会社により特許異議の申立てがなされ、平成14年12月6日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年2月17日に、訂正の請求がなされるとともに、特許異議意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否について
(1)訂正の内容
平成15年2月17日付けの本件訂正の請求における訂正の内容は、下記訂正事項a〜bに示すとおりである。
訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】(a)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が5.0dl/g以上の超高分子量ポリプロピレン 100重量部
(b)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が0.03〜3.5dl/gの低分子量ポリプロピレン 5〜100重量部を含み、135℃テトラリン中で測定した極限粘度が2.0〜4.5dl/gであることを特徴とするポリプロピレン組成物。」との記載を、
「【請求項1】(a)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が5.0dl/g以上の超高分子量ポリプロピレン 100重量部
(b)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が0.03〜3.5dl/gの低分子量ポリプロピレン 5〜50重量部を含み、135℃テトラリン中で測定した極限粘度が2.0〜3.7dl/gであることを特徴とするポリプロピレン組成物。」と訂正する。

訂正事項b
本件明細書の段落番号【0023】〜【0027】の「実施例1」、「実施例2」、「実施例3」、「実施例4」、「実施例5」、「実施例6」、「実施例7」、「実施例8」、「実施例9」、「実施例10」、「実施例11」、「実施例12」及び「実施例13」との記載を、
それぞれ「参考例1」、「実施例1」、「参考例2」、「実施例2」、「参考例3」、「参考例4」、「実施例3」、「実施例4」、「参考例5」「実施例5」、「実施例6」、「参考例6」及び「参考例7」と訂正する。

(2)訂正の適否の判断
上記訂正事項aは、(b)の低分子量ポリプロピレンの添加量を「5〜100重量部」から「5〜50重量部」の範囲に、また、ポリプロピレン組成物の極限粘度を「2.0〜4.5dl/g」から「2.0〜3.7dl/g」の範囲にそれぞれ狭めるものであるから、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正に該当するものであり、しかも、その範囲にすることは、本件明細書【0027】の【表1】に記載され、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。
そして、上記訂正事項bは、特許請求の範囲の減縮を目的とする上記訂正事項aの訂正に伴うものであり、減縮された特許請求の範囲と明細書の記載を整合させるための、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正に該当するものであり、しかも、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてなされた訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。

(3)まとめ
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.本件発明
本件特許第3272068号の訂正後の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正に係る訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】(a)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が5.0dl/g以上の超高分子量ポリプロピレン 100重量部
(b)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が0.03〜3.5dl/gの低分子量ポリプロピレン 5〜50重量部を含み、135℃テトラリン中で測定した極限粘度が2.0〜3.7dl/gであることを特徴とするポリプロピレン組成物。」

4.取消理由の概要
当審が平成14年12月6日付けで通知した取消理由の概要は、本件発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記刊行物1〜4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、取り消すべきものであるというものである。
[刊行物]
刊行物1:特開昭57-185336号公報(特許異議申立人日本ポリケ
ム株式会社の甲第1号証)
刊行物2:特開昭58-7439号公報(同甲第2号証)
刊行物3:特開昭58-7406号公報(同甲第3号証)
刊行物4:特開昭63-210152号公報(同参考資料2)

5.刊行物1〜3の記載事項
(1)刊行物1には、「(1)固有粘度〔η〕が0.6dl/gないし2.5dl/gの結晶性プロピレン単独重合体またはプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体40重量%を超え70重量%未満と固有粘度〔η〕が2.5dl/gないし10dl/gで、かつ前者の2倍以上の固有粘度〔η〕を有する結晶性プロピレン単独重合体またはプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体30重量%を超え60重量%未満とから成り、全体の固有粘度〔η〕が2dl/gないし4dl/gであるポリプロピレン組成物。」(特許請求の範囲)についての発明が記載され、「さらに詳しくは特定の2種の結晶性ポリプロピレンを溶融混合することにより、結晶性ポリプロピレン本来の優れた剛性と耐衝撃性、透明性、耐熱性、耐薬品性等を保持しながら、中空成形、押出成形、真空圧空成形等における優れた加工性を有し、しかもフィッシュアイの発生のトラブルの解消されたポリプロピレン組成物に関するものである。」(1頁右下欄1〜8行)、「これらにおいて、固有粘度〔η〕(dl/g)の値は135℃、テトラリン溶液で測定したものであり、」(3頁左上欄10〜13行)、「これ等の第一および第二成分はいかなる手法で得たものでも良く、例えば重合で直接得ることも出来るし、高分子量重合体を公知の方法(熱、酸素含有化合物等)で減成し目的とする〔η〕の重合体を得ることも出来る。」(3頁左上欄17行〜右上欄1行)と記載されている。
(2)刊行物2には、「(1)固有粘度〔η〕が0.6dl/gないし3.5dl/gの結晶性プロピレン単独重合体またはプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体30重量%以上70重量%未満と固有粘度〔η〕が5dl/gを超え10dl/g以下で、かつ前者の2.5倍以上の固有粘度〔η〕を有する結晶性プロピレン単独重合体またはプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体30重量%を超え70重量%以下とから成り、全体の固有粘度〔η〕が4dl/gを超え6dl/g以下であるポリプロピレン組成物。」(特許請求の範囲)についての発明が記載され、「さらに詳しくは特定の2種の結晶性ポリプロピレンを溶融混合することにより、結晶性ポリプロピレン本来の優れた剛性と耐衝撃性等の機械的性質さらには透明性、耐熱性等を保持しながら優れた成形性を有し、しかもフィッシュアイ発生のトラブルの解消された、特に中空成形、押出成形に適したポリプロピレン組成物に関する。」(1頁右下欄1〜8行)、「これらに於て、固有粘度〔η〕(dl/g)の値は135℃、テトラリン溶液で測定したものであり、」(3頁左上欄10〜12行)と記載されている。
(3)刊行物3には、「(1)チタン含有固体触媒成分と有機アルミニウム化合物とを主体とする触媒系を用いプロピレン又はプロピレンとα-オレフィン共重合体を製造する方法において、該重合を固有粘度〔η〕が、0.6dl/gないし3.5dl/gであるプロピレン単独重合体又はプロピレン-α-オレフィン共重合体を30重量%以上70重量%未満製造する段階と、固有粘度〔η〕が5dl/gを超え10dl/g以下であり、かつ、〔η〕が前者の2.5倍以上であるプロピレン単独重合体又はプロピレン-α-オレフィン共重合体を30重量%を超え70重量%以下製造する段階との2段階で行い、かつ全重合体の固有粘度〔η〕を4dl/gを超え6dl/g以下とすることを特徴とするプロピレン単独重合体又はプロピレン-α-オレフィン共重合体を製造する方法。」(特許請求の範囲)についての発明が記載され、「さらに詳しくは結晶性プロピレン重合体本来の優れた剛性、耐衝撃性、透明性、耐熱性等を保持しながら、特に中空成形、押出成形等において良好なる成形加工性を有し、かつフィッシュ・アイ及び表面肌あれ発生のトラブルの解消されたプロピレン重合体の製造法に関する。」(1頁右下欄4〜9行)、「重合を2段階に分けて行なわせるわけであるが、低分子量の重合体を得る段階と高分子量の重合体を得る段階のどちらを先に行ってもよい。」(3頁右上欄1〜3行)、「なお固有粘度〔η〕(dl/g)(以下、〔η〕と略すことがある)は、135℃でテトラリン溶液中で測定したものであり、」(3頁左下欄9〜12行)と記載されている。

6.対比・判断
本件発明と刊行物1に記載された発明を比較すると、両者は、(a)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が5.0dl/g以上10dl/gの超高分子量ポリプロピレンと(b)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が0.6〜2.5dl/gの低分子量ポリプロピレンを含み、135℃テトラリン中で測定した極限粘度が2.0〜3.7dl/gであることを特徴とするポリプロピレン組成物である点で一致し、(a)の超高分子量ポリプロピレンと(b)の低分子量ポリプロピレンの混合割合について、本件発明は、(a)の超高分子量ポリプロピレン100重量部に(b)の低分子量ポリプロピレン5〜50重量部(重量%で計算すると、(a)の超高分子量ポリプロピレン約67〜95重量%:(b)の低分子量ポリプロピレン約33〜5重量%に相当)であるのに対し、刊行物1は、固有粘度〔η〕が2.5dl/gないし10dl/gで、かつ前者の2倍以上の固有粘度〔η〕を有する結晶性プロピレン単独重合体またはプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体((a)の超高分子量ポリプロピレンに相当)30重量%を超え60重量%未満:固有粘度〔η〕が0.6dl/gないし2.5dl/gの結晶性プロピレン単独重合体またはプロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体((b)の低分子量ポリプロピレンに相当)40重量%を超え70重量%未満である点で相違している。
そこで、上記相違点について検討する。
刊行物2及び3には、結晶性ポリプロピレン本来の優れた剛性と耐衝撃性等の機械的性質等を保持しながら、優れた成形性を有し、しかもフィッシュアイ発生のトラブルの解消された、特に中空成形、押出成形に適したポリプロピレン組成物を得るために、本件発明と同様な超高分子量ポリプロピレンと低分子量ポリプロピレンを用い、その混合割合を超高分子量ポリプロピレン30〜70重量%:低分子量ポリプロピレン70〜30重量%の範囲とすることが記載されている。
そうすると、刊行物1に記載されたポリプロピレン組成物も、結晶性ポリプロピレン本来の優れた剛性と耐衝撃性、透明性、耐熱性、耐薬品性等を保持しながら、中空成形、押出成形、真空圧空成形等における優れた加工性を有し、しかもフィッシュアイの発生のトラブルの解消されたポリプロピレン組成物を得るためのものであることから、各種成形における加工性を改良するために、刊行物2及び3に記載されたポリプロピレン組成物の超高分子量ポリプロピレンと低分子量ポリプロピレンの混合割合を採用することは、当業者が容易になし得ることであり、この点に何ら技術的困難性を見出すことはできない。
そして、そのことによる効果は、刊行物1〜3に記載された技術的事項から当業者が当然、予測できる範囲のものである。
したがって、本件発明は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、特許権者は、平成15年2月17日付け特許異議意見書において、
本件発明は、分子量が異なる二種類のポリプロピレン系重合体を混合することによって、超高分子量ポリプロピレンが本来有する優れた機械的特性を維持するか、更に向上させ、しかも、溶融時の流動性を改良するものであるから進歩性を有すると主張している。
しかしながら、分子量が異なる二種類のポリプロピレン系重合体、すなわち、超高分子量ポリプロピレンと低分子量ポリプロピレンを混合することによって、ポリプロピレンの機械的特性を保持しつつ、中空成形、押出成形、真空圧空成形等などの各種成形における加工性を改良することが、刊行物1〜3に記載されている以上、たとえ、押出成形の場合における溶融時の流動性について刊行物1〜3に明示されていなくとも、該流動性は当業者として当然考慮すべき技術的事項に過ぎない。
加えて、本件発明は、本件発明の超高分子量ポリプロピレンと低分子量ポリプロピレンの混合割合としたことによって、その混合割合の範囲外となった訂正後の本件明細書参考例1〜7の諸物性と比べても同等か、劣る場合(例えば、実施例2と参考例6)すらあり、本件発明が超高分子量ポリプロピレンと低分子量ポリプロピレンの混合割合を特定の範囲としたことによって格別顕著な効果を奏するものとも認められないので、上記特許権者の主張を採用することはできない。

7.むすび
以上のとおりであるから、本件発明は、刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ポリプロピレン組成物
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 (a)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が5.0dl/g以上の超高分子量ポリプロピレン 100重量部
(b)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が0.03〜3.5dl/gの低分子量ポリプロピレン 5〜50重量部
を含み、135℃テトラリン中で測定した極限粘度が2.0〜3.7dl/gであることを特徴とするポリプロピレン組成物。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、剛性及び耐熱性等の機械的特性に優れ、しかも、成形時の流動性が良好なポリプロピレン組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
135℃テトラリン中で測定した極限粘度が5.0dl/g以上の超高分子量ポリプロピレンは、汎用のポリプロピレンと比較し、剛性、耐熱性、耐衝撃性、及び表面硬度等の機械的特性に著しく優れたポリマーである。しかしながら、超高分子量ポリプロピレンは、溶融時の粘度が著しく高く、流動性が悪いため、通常の射出成形機や押出成形機で成形することが困難である。
【0003】
従来、超高分子量ポリオレフィンの流動性を改良する方法として、超高分子量ポリオレフィンに低分子量ポリオレフィンを混合する方法が提案されている。例えば、特開昭63-10647号公報では、135℃デカリン中で測定した極限粘度が12dl/g以上の超高分子量ポリオレフィン20〜95%と極限粘度0.1〜5dl/gの低分子量ポリオレフィン80〜5%とからなる極限粘度が10〜50dl/gのポリオレフィン組成物が開示されている。ここに示されているポリオレフィン組成物の135℃デカリン中で測定した極限粘度10〜50dl/gを、日本分析化学会編「高分子分析ハンドブック」に記載されている135℃デカリン中、及び135℃テトラリン中での極限粘度と重量平均分子量の関係式を用い、ポリプロピレンの135℃テトラリン中での極限粘度に換算すると、7.3〜37dl/gとなる。この様に極限粘度が大きいポリプロピレン組成物では、成形時に優れた流動性を得ることは困難である。
【0004】
また、特開昭63-12606号公報には、135℃デカリン中で測定した極限粘度が10〜40dl/gの超高分子量ポリオレフィン15〜40%と極限粘度が0.1〜5dl/gの低分子量ポリオレフィン85〜60%からなる極限粘度が3.5〜15dl/gのポリオレフィン組成物が開示されている。しかしながら、ポリプロピレン組成物の場合、超高分子量ポリプロピレンの割合が50%以下であると、流動性は改良されるものの、超高分子量ポリプロピレンが本来有する優れた機械的特性が損なわれてしまう。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、超高分子量ポリプロピレンが本来有する優れた機械的特性を維持するか、更に向上させ、しかも、溶融時の流動性を改良することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題について鋭意研究を重ねた結果、超高分子量ポリプロピレンの優れた機械的特性を維持するか、更に向上させ、しかも、流動性に優れたポリプロピレン組成物を見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、(a)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が5.0dl/g以上の超高分子量ポリプロピレン 100重量部
(b)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が0.03〜3.5dl/gの低分子量ポリプロピレン 5〜100重量部
を含み、135℃テトラリン中で測定した極限粘度が2.0〜4.5dl/gであることを特徴とするポリプロピレン組成物である。
【0008】
本発明のポリプロピレン組成物の一成分である超高分子量ポリプロピレンは、135℃テトラリン中で測定した極限粘度が5.0dl/g以上のものである。極限粘度が5.0dl/g未満の場合は、汎用ポリプロピレンに比べて著しく優れた機械的特性が発現せず好ましくない。更に優れた機械的特性を得るためには、超高分子量ポリプロピレンの極限粘度が5.5dl/g以上のものが好ましい。超高分子量ポリプロピレンの極限粘度の上限は特に制限されるものではないが、一般にチーグラー型重合触媒を使用して通常の重合を行った場合は、極限粘度が12dl/gまでのものを得ることができる。
【0009】
本発明に用いられる超高分子量ポリプロピレンは、135℃テトラリン中で測定した極限粘度が5.0dl/g以上のものであれば、その製造方法は如何なる方法で製造されたものでも良く、チーグラー型重合触媒をはじめ、その改良触媒を用いる公知の方法で何等制限なく製造することができる。例えば、触媒として従来知られているチタン化合物と有機アルミニウム化合物を組み合わせて使用できるし、また、必要に応じて種々のエステル及びエーテル等の電子供与体と組み合わせることもできる。重合様式は連続式及びバッチ式のいずれでも良く、ヘプタン等の溶液中で行われる溶液重合、プロピレン自身を溶媒とするスラリー重合、または気相重合であっても良い。重合は通常0℃〜100℃の温度範囲で、プロピレン及び水素を供給して重合を行い、所定の重合を終えた後、イソプロピルアルコール等で重合を停止させる。このポリプロピレンの重合において、例えば、分子量調節剤である水素の量を非常に少なくするか、または、全く用いずに重合を行えば、本発明で用いられる超高分子量ポリプロピレンを得ることができる。
【0010】
また、本発明に用いられる超高分子量ポリプロピレンはプロピレンの単独重合体、または、プロピレンとエチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及び4-メチル-1ペンテン等のα-オレフィンとのランダムまたはブロック共重合体であってもかまわない。共重合体がランダム共重合体の場合は共重合するα-オレフィンの量は5mol%以下、ブロック共重合体の場合はα-オレフィンの量は20mol%以下とするのが好ましい。
【0011】
本発明におけるポリプロピレン組成物のもう一方の成分である低分子量ポリプロピレンは、135℃テトラリン中で測定した極限粘度が0.03〜3.5dl/g、更に好ましくは、0.05〜3.0dl/gのものが使用される。極限粘度が0.03dl/g未満の低分子量ポリプロピレンは結晶化度が低く、ポリプロピレンとしての特性を示さず粘調な液体となり、超高分子量ポリプロピレンと混合するのは困難である。また仮に、超高分子量ポリプロピレンと混合し成形しても、超高分子量ポリプロピレンの機械的特性を損ない、しかも、成形品表面からブリードアウトしてしまう恐れがある。一方、極限粘度が3.5dl/gを超える低分子量ポリプロピレンでは、超高分子量ポリプロピレンと混合して成形する際、流動性の改良効果が顕著でなく、流動性を改良するため多量に混合すると、得られる成形品の機械的特性が損なわれてしまう。
【0012】
低分子量ポリプロピレンの製造方法も、超高分子量ポリプロピレンと同様、如何なる方法で重合されたものでも良く、更に、重合して得られたポリプロピレンを過酸化物による分解等の公知の方法で分解して得られる低分子量ポリプロピレンであってもかまわない。また、超高分子量ポリプロピレンと同様、プロピレンの単独重合体、または、プロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体であっても良い。
【0013】
本発明に用いられるポリプロピレン組成物は、上記の超高分子量ポリプロピレン100重量部に対して、低分子量ポリプロピレンを5〜100重量部の範囲、更に好ましくは、10〜80重量部の範囲で含むものである。しかも、本発明に用いられるポリプロピレン組成物は135℃テトラリン中で測定した極限粘度が2.0〜4.5dl/g、更に好ましくは2.2〜4.3dl/gの範囲にあることが特に重要である。極限粘度が上記範囲にあるポリプロピレン組成物は、通常の射出成形機及び押出成形機で充分成形可能な流動性を有し、しかも驚くべきことに、超高分子量ポリプロピレン単独より更に機械的特性の優れた成形品を得ることもできる。ポリプロピレン組成物の極限粘度が2.0dl/g未満であると、高い流動性を示すが、超高分子量ポリプロピレンが本来有する優れた機械的特性が損なわれてしまう。一方、ポリプロピレン組成物の極限粘度が4.5dl/gを超えると、優れた機械的特性を有するものの、流動性の改良効果が顕著に表れない。
【0014】
超高分子量ポリプロピレンと低分子量ポリプロピレンを混合し、本発明のポリプロピレン組成物を得る方法は特に制限はないが、ヘンシェルミキサー等を使用し、両成分をドライブレンドする方法、または、重合時に多段階に両成分を製造する方法等を用いることができる。
【0015】
本発明のポリプロピレン組成物は、通常の成形機を使用し、射出成形、押出成形及びプレス成形等の成形法で、種々の形状の成形品を成形することができる。しかしながら、本発明のポリプロピレン組成物を一旦溶融し成形したものは、溶融状態から結晶化する際に分子鎖の絡み合いが起こるためか、溶融粘度は著しく大きくなり、流動性が低下する。このため、本発明のポリプロピレン組成物は一旦射出成形及び押出成形等を行うと、再度溶融して成形を行うことは困難である。したがって、上記方法で混合して得られたポリプロピレン組成物は溶融混練等によりペレット化することなく、射出成形機、押出成形機やプレス成形機等の公知の成形機を用いて直接所望の形状に成形することが好ましい。
【0016】
成形に際し、本発明のポリプロピレン組成物に、従来用いられている熱安定剤、耐候安定剤、核剤、フィラー、顔料及び滑剤等の添加剤を添加することができる。
【0017】
【発明の効果】
本発明のポリプロピレン組成物は、超高分子量ポリプロピレンが有する優れた機械的特性を維持、または更に向上させ、しかも、流動性に優れるものである。したがって、本発明のポリプロピレン組成物は、通常の射出成形機、及び押出成形機等での成形が容易であり、機械的強度が必要な歯車、パッキン等の機械部品、ラジエタータンク、インナーパネル等の自動車部品、及び各種ライニング材として用いることができる。
【0018】
【実施例】
以下、本発明を実施例及び比較例を掲げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例に先だって、実施例で用いた測定方法について説明する。
【0019】
(1)極限粘度
135℃のテトラリン中で測定した。
【0020】
(2)曲げ弾性率
新潟鉄工社製のSN150S-N型射出成形機を使用し、シリンダー温度230℃にて、128mm×12.7mm×3.1mmの試験片を作成し、ASTM:D-790に準じ曲げ弾性率を測定した。
【0021】
(3)流動長
厚さ2mm、幅10mmの流路をスパイラル状に設けた金型を、上記の新潟鉄工社製の射出成形機に取り付け、シリンダー温度230℃、射出圧力700kg/cm2、及び金型温度40℃にて射出成形を行った。そして、その流動した距離を測定し、流動長とした。
【0022】
以下の実施例および比較例で使用した低分子量ポリプロピレンは下記のものである。
【0023】
(a)極限粘度:1.0dl/g、ホモポリプロピレン(徳山曹達社製、商品名”徳山ポリプロPN180G”)
(b)極限粘度:2.9dl/g、エチレン含量0.35重量%のプロピレンエチレンランダム共重合体(徳山曹達社製、商品名”徳山ポリプロRB110”)
(c)極限粘度:1.7dl/g、ホモポリプロピレン(徳山曹達社製、商品名”徳山ポリプロYE130”)
(d)極限粘度:0.24dl/g、エチレン含量1.6重量%のプロピレンエチレンランダム共重合体(三洋化成社製、商品名”ビスコール330P”)
(e)極限粘度:0.06dl/g、エチレン含量1.6重量%のプロピレンエチレンランダム共重合体(三洋化成社製、商品名”ビスコール660P”)
(f)極限粘度:0.46dl/g(低分子量ポリプロピレン(a)100重量部に過酸化物として1,3-ビス-(t-ブチルパ-オキシイソプロピル)ベンゼンを0.3重量部添加し、220℃で溶融混練を行って得た低分子量ポリプロピレン)
参考例1、実施例1
特開平3-7704号公報に記載されている方法に準じ、超高分子量ポリプロピレンの重合を行った。得られた超高分子量ホモポリプロピレンの135℃テトラリン中で測定した極限粘度は5.6dl/gであった。この超高分子量ポリプロピレンと低分子量ポリプロピレン(a)をヘンシェルミキサーを使用し、表1に示す種々の割合で混合した。得られたポリプロピレン組成物を使用し、曲げ試験片の作成、及び流動長測定のため射出成形を行った。得られた試験片の曲げ弾性率、及び流動長を表1に示した。
【0024】
比較例1、2
参考例1で使用した超高分子量ホモポリプロピレンと低分子量ポリプロピレンをそれぞれ単独で曲げ弾性率及び流動長を測定し、その結果を表1に示した。
【0025】
実施例2〜6、参考例2〜5
参考例1において、低分子量ポリプロピレン(a)にかえて低分子量ポリプロピレン(b)〜(f)を表1に示した量だけ使用したこと以外は参考例1と同様にして曲げ弾性率及び流動長を測定し、その結果を表1に示した。
【0026】
参考例6、7
参考例1と同様にして、135℃テトラリン中で測定した極限粘度が8.2dl/gの超高分子量ホモポリプロピレンを合成した。この超高分子量ホモポリプロピレンと低分子量ポリプロピレン(f)を用いて参考例1と同様にポリプロピレン組成物を得、曲げ弾性率及び流動長を測定し、その結果を表1に示した。
【0027】
【表1】

 
訂正の要旨 a.特許請求の範囲の請求項1を以下のように訂正する。

【請求項1】 (a)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が5.0dl/g以上の超高分子量ポリプロピレン 100重量部
(b)135℃テトラリン中で測定した極限粘度が0.03〜3.5dl/gの低分子量ポリプロピレン 5〜50重量部
を含み、135℃テトラリン中で測定した極限粘度が2.0〜3.7dl/gであることを特徴とするポリプロピレン組成物。
b.明細書段落[0023]〜[0027]の記載について、以下のように訂正する。


異議決定日 2003-03-25 
出願番号 特願平4-342448
審決分類 P 1 651・ 121- ZA (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 森川 聡  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 佐々木 秀次
中島 次一
登録日 2002-01-25 
登録番号 特許第3272068号(P3272068)
権利者 出光石油化学株式会社
発明の名称 ポリプロピレン組成物  
代理人 田中 有子  
代理人 渡辺 喜平  
代理人 渡辺 喜平  
代理人 田中 有子  
代理人 小島 隆  

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