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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 H01L 審判 全部申し立て 特17条の2、3項新規事項追加の補正 H01L |
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管理番号 | 1081308 |
異議申立番号 | 異議2002-70635 |
総通号数 | 45 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1999-05-21 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-03-11 |
確定日 | 2003-05-19 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3208100号「電気絶縁性薄膜の形成方法」の請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3208100号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 特許第3208100号の請求項1ないし7に係る発明についての出願は、平成9年10月30日に特許出願され、平成13年7月6日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、ジェイエスアール株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年3月27日に訂正請求がなされたものである。 II.訂正の適否 1.訂正の内容 (1)訂正事項a 請求項1、2中の「無機樹脂又は有機樹脂」を、「水素シルセスキオキサン樹脂」と訂正する。 (2)訂正事項b 明細書段落【0005】、【0007】中の「無機樹脂又は有機樹脂」を、「水素シルセスキオキサン樹脂」と訂正する。 (3)訂正事項c 明細書段落【0010】中の「(A)の無機樹脂又は有機樹脂は、・・・(中略)・・・水素シルセスキオキサン樹脂が特に好ましい。」を、「(A)の樹脂は、塗工後に熱により硬化し、絶縁化されるものであり、溶剤に可溶であれば特に限定されないが、ノンエッチバック工程で使用しうる水素シルセスキオキサン樹脂が特に好ましい。」と訂正する。 (4)訂正事項d 明細書段落【0040】中の「実施例9」を、「比較例4」と訂正する。 (5)訂正事項e 明細書段落【0046】、【0047】の記載を、削除する。 (6)訂正事項f 明細書段落【0058】【表1】中の「実施例9」を、「比較例4」と訂正し、「実施例13」の欄を、削除する。 (7)訂正事項g 明細書段落【0059】中の「無機樹脂又は有機樹脂」を、「水素シルセスキオキサン樹脂」と訂正する。 (8)訂正事項h 明細書段落【0058】【表1】の「比誘導率」を、「比誘電率」と訂正する。 2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)上記訂正事項aは、請求項1、2に記載された「無機樹脂又は有機樹脂」を、「水素シルセスキオキサン樹脂」に具体的に限定するものである。そして、この訂正は、特許明細書の段落【0010】、【0011】、及び実施例1〜8、10〜12、14〜16の記載に裏付けられている。 したがって、訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。又該訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)上記訂正事項b〜gは、請求項1、2の訂正に基づき訂正後の請求項1、2と整合するよう発明の詳細な説明の記載を訂正するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正である。上記訂正事項hは、誤って記載された「比誘導率」を、「比誘電率」と訂正するもので、明らかに誤記の訂正を目的とするものである。又該訂正は、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであり、また実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3.むすび 以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。 III.異議申立てについて 1.異議申立ての概要 異議申立人ジェイエスアール株式会社は、証拠として下記甲第1〜3号証を提出し、請求項1〜7に係る発明は、甲第1〜3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、該発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、また、請求項1、3〜7に係る発明は、出願時の明細書に記載されていない事項を含むものであるから、該発明の特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、これを取り消すべき旨主張している。 記 甲第1号証:特開昭64-30681号公報(以下、「刊行物1」という) 甲第2号証:国際公開第96/36070号パンフレット(1996)(以下、「刊行物2」という) 甲第3号証:特開平8-330300号公報(以下、「刊行物3」という) 2.本件発明 本件特許第3208100号の請求項1〜7に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明7」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】(A)電気絶縁性を有する熱硬化性の水素シルセスキオキサン樹脂と、(B)前記(A)の樹脂を溶解可能な溶剤と、(C)前記(B)の溶剤とは沸点もしくは蒸気圧曲線の異なる溶剤または前記(A)の樹脂に対する親和性の異なる溶剤とからなる電気絶縁性薄膜形成用組成物を基材表面に塗布し、次いで、前記(B)溶剤の大半を蒸発させた後、前記基材に高エネルギー線を照射して前記(A)の樹脂を硬化させ、その硬化過程又は硬化後に前記(C)の溶剤を蒸発させることを特徴とする電気絶縁性薄膜の形成方法。 【請求項2】(A)電気絶縁性を有する熱硬化性の水素シルセスキオキサン樹脂と、(B)前記(A)の樹脂を溶解可能な溶剤と、(D)前記(B)の溶剤に可溶であって0〜800℃の温度範囲で熱又は前記(A)の樹脂との相互作用によってガスを発生し得る物質とからなる電気絶縁性薄膜形成用組成物を基材表面に塗布し、次いで、前記(B)の溶剤を蒸発させた後、前記基材に高エネルギー線を照射して前記(A)の樹脂を硬化させ、その硬化過程又は硬化後に前記(D)の物質からガスを発生させることを特徴とする電気絶縁性薄膜の形成方法。 【請求項3】薄膜の比誘電率が2.7未満である請求項1又は2に記載の電気絶縁性薄膜の形成方法。 【請求項4】前記基材が電子デバイスである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気絶縁性薄膜の形成方法。 【請求項5】前記高エネルギー線が電子線、紫外線、X線からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気絶縁性薄膜の形成方法。 【請求項6】前記高エネルギー線として電子線を常圧下で照射する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気絶縁性薄膜の形成方法。 【請求項7】前記高エネルギー線として電子線を減圧下で照射する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気絶縁性薄膜の形成方法。」 3.刊行物の記載事項 (1)刊行物1;特開昭64-30681号公報 (1a)「(1)シロキサン結合を主鎖結合とするプレポリマーを有機溶剤に溶解させて調製したコーティング液を被塗材に塗布し、溶剤を揮散させつつ硬化させる硬化塗膜形成法において、有機溶剤として、プレポリマーの溶解性が高い低沸点の溶剤と、溶解性が中程度ないしは低い高沸点の溶剤とからなる混合溶剤を用い、コーティング後は、まず、低沸点の良溶媒を揮発させながら塗膜を硬化させ、その後、残留している高沸点溶剤を除去するようにすることを特徴とする多孔質無機コーティング膜の形成法。 (2)シロキサン結合を主鎖結合とするプレポリマーが、ケイ素アルコキシドを主成分とするモノマーの加水分解、縮合よりなるものである特許請求の範囲第1項記載の多孔質無機コーティング膜の形成法。」(特許請求の範囲第1、2) (1b)「〔技術分野〕この発明は、多孔質無機コーティング膜の形成法に関する。〔背景技術〕多孔質膜は、省エネルギー型の分離に用いられる限外濾過膜、逆浸透膜、ガス分離膜、精密濾過膜等、あるいは、酸素、菌、触媒等の担体として、注目を集めている。なかでも無機多孔質膜は、耐水性、耐熱性、耐久性等に優れているため、上記用途に加えて壁材等の建材材料への利用等も期待されている。」(1頁右下欄2〜12行) (1c)「高分子膜を形成する際、ポリマーの構造が固定しないうちに溶剤を蒸発させてしまうと、膜は緻密膜となるが、系が乾燥しきる以前にポリマーの構造が現れるようにすると、多孔質膜を得ることができる。すなわち、溶剤として、ポリマーに対する溶解性の高い良溶媒と、溶解性の乏しい貧溶媒とを併用する相分離法によると、蒸発等の手段により、まず良溶媒を除去する過程でゲル化が進み、・・・。ついで、このポリマーに富んだゲル相中に残った貧溶媒を除くと、除かれた貧溶媒の占有していた部分が孔となって残るのである。」(2頁右上欄6〜18行) (1d)「この発明に用いられるケイ素アルコキシドは、特に限定はされないが、一般式がRnSi(OR’)4‐n・・・で表されるものを用いることが好ましい。」(2頁左下欄1〜6行)、「このケイ素アルコキシドまたはこれを主成分とするモノマーは、・・・加水分解、縮合してシロキサン結合を主鎖とするプレポリマーを形成し、さらに反応が進むことにより、三次元架橋ポリマー(硬化体)となる。・・・上記ケイ素アルコキシド・・・は部分的に加水分解された状態で重合させられる。」(2頁左下欄10〜20行) (1e)「得られたプレポリマーの溶剤としては、プレポリマーの溶解性が高く沸点の低い良溶媒と、溶解性が中程度ないしは低く高沸点の貧溶媒が併用される。・・・良溶媒としては、メタノール(沸点64℃,以下かっこ内の数値は沸点を表す),・・・等の低級アルコール類,ギ酸エチル(54℃),酢酸メチル(58℃),・・・等のカルボン酸エステル類などがあり、・・・。貧溶媒としては、シクロヘキサノール(161℃),・・・等の高級アルコール類、・・・などが挙げられ、」(3頁左上欄2行〜右上欄16行) (1f)「被塗材は、溶剤除去時の処理温度(たとえば200℃以下)に対する耐熱性を有するものであれば特に限定はされず、ガラス、樹脂、金属・・・およびそれらの積層材料等、使用目的に応じて幅広く選択されうる。特に、耐熱性のあまり高くない基材上にも作成できるため、たとえば、プラスチック多孔質膜上への積層も可能であり、膜の硬度、耐熱性、耐久性、耐薬品性等の向上が期待できる。」(3頁左下欄13行〜右下欄1行) (1g)実施例には、良溶媒を含む合成したプレポリマー溶液に貧溶媒を加え、無機コーティング液を調整し、ガラス板に塗布し、風乾5分後、90℃にて2時間処理し、低沸点の良溶媒を揮散させつつコーティング膜を硬化させ、その後、減圧下180℃にて高沸点の貧溶媒を除去し、多孔質無機コーティング膜を得たこと(3頁右下欄6行〜4頁左上欄6行)、が記載されている。 (2)刊行物2;国際公開第96/36070号パンフレット (2a)「スピンオンガラスの液体は、ケイ素(Si)と酸素(O)の網状組織のポリマーからなるものである。スピンオンガラスの液体の一つとして、有機溶剤(典型的には、高沸点溶剤と低沸点溶剤の混合物)の中に溶解させたシロキサンが挙げられる。シロキサンを溶解したスピンオンガラス材は、高速度で回転させることによって、半導体ウエハ上に被覆される。スピンオンガラス材は、集積回路ウエハの空隙及び不均一な形状を埋めて、集積回路ウエハを平面化する。スピンオンガラス材を基材の上で回転させた後、低沸点溶剤は、低温度のホットプレートでの焼成によって飛散する。その後、ウエハは、真空下または窒素雰囲気下で300〜400℃で加熱される。この加熱によって高沸点溶剤や、次工程での亀裂や腐食を発生させ得る成分が、除去される。非常に薄い被覆層は、このようにして基材上に被覆される。」(1頁下から1行〜2頁9行)、 「仮に、厚みの大きい被覆が用いられる場合には、スピンオンガラス層は、焼成工程における収縮によって亀裂が生じる。仮に、より厚い被覆が必要とされる場合には、多層の被覆を形成させ、真空下で焼成しなければならない。この操作は、時間のかかる工程が含まれていること、及び、形成された層が最後の硬化過程で亀裂を生じるかもしれないことから、望ましいものではない。スピンオンガラス層の形成の最後の工程は、非常な高温下で硬化させることである。このような高温は、シロキサン材料を破壊し、シロキサン材料を二酸化ケイ素状の材料へと架橋させる。水、炭素、シラノールのいずれも有しないスピンオンガラス層を得るために、非常に高い温度(典型的には800〜900℃)が、最後の硬化過程で必要とされる。残念ながら、集積回路の製作において、スピンオンガラス層を硬化させ得る最高の温度は、溶融するアルミニウムの連結の可能性があるために、しばしば、約450℃に限定される。」(2頁9〜19行)、 「スピンオンガラスを硬化させるために提案されている他の技術は、紫外線の照射及びホットプレートの利用である。」(3頁下から3〜2行) (2b)「本明細書中に開示される本発明は、弱い真空環境下におけるスピンオンガラス材に照射するための広い領域の電子線、及び、ウエハを間接的に加熱するための赤外線ランプを利用するものである。この新規な方法は、最高温度を250℃未満に保持しつつ、スピンオンガラス材を硬化させて高密度化し、全ての炭素及び溶剤を除去するものである。ウエハ上に被覆されたスピンオンガラス層は、加熱と同時に、弱い真空下で全面的に電子線で照射される。このような電子線の照射及び加熱は、弱い真空下で電子線によって発生する陽イオンを介した表面電荷の中性化によって、スピンオンガラス層の下に位置する半導体装置及び酸化物への有害な影響を最小化する。」(7頁下から3行〜8頁6行) (2c)「請求の範囲 1.真空環境下の室内において、半導体の基材の上に形成されるスピンオンガラス層を載置し、または置き残す工程と、 上記スピンオンガラス層の全表面に対して実質的に均一に照射するものであり、かつ、上記スピンオンガラス層の厚さ全体に亘って貫通するのに十分なエネルギーを有するものである広い領域の電子線によって、上記スピンオンガラス層を照射する工程と、 上記スピンオンガラス層を硬化するのに十分な線量に達するまで、上記照射する工程を継続する工程と、 上記スピンオンガラス層を比較的低い温度に保持しつつ、上記電子線の照射と同時に、上記スピンオンガラス層を加熱する工程とからなり、 これらの工程によって、亀裂または他の損傷を与えることなく、上記スピンオンガラス層を硬化することを特徴とする半導体基材上のスピンオンガラス材の硬化方法。 2.上記真空環境が、1〜40ミリトルの比較的高い真空圧を有する真空である請求項1に記載の方法。」(13頁1〜18行) (2d)本発明の更に別の目的として、「高エネルギーの電子を大量に照射することにより、SOG層の照射及び硬化を行い、その際に酸化物層に損傷及び劣化を生じさせない手段を提供することである。」(7頁14〜16行)、が記載されている。 (3)刊行物3;特開平8-330300号公報 (3a)「半導体素子の製造に際して、基体上に層間絶縁膜を形成する方法であって、スピンオンガラス膜形成材料中に加熱または光照射によってガスを発生するガス発生物質が溶解されてなる絶縁材料を、前記基体上に回転塗布する工程と、前記基体上の塗膜を仮焼成し、その後該塗膜を加熱しまたは光照射し、次いで前記塗膜を本焼成することにより層間絶縁膜を形成する工程とを有していることを特徴とする層間絶縁膜の形成方法。」(請求項4) (3b)「本発明は、空気、窒素等のガスの比誘電率がほぼ1と小さいことに着目してなされたものであり、上記ガスを含む小孔を多数有する高耐熱性の絶縁膜を形成でき、このことにより該絶縁膜の誘電率の低減を図ろうとするものである。・・・」(【0005】) 「上記SOG膜形成材料としては、有機SOG膜の形成材料や無機SOG膜の形成材料のいずれをも用いることができるが、・・・比誘電率を考慮した場合には有機SOG膜形成材料を用いる方が望ましい。いずれの場合にも低誘電率のものが好適である。例えば無機SOG膜形成材料としてはFOX(アライドシグナル社製)、有機SOGとしてはHSG(日立化成社製)等が挙げられる。これらのガス発生物質を添加する前の比誘電率は、焼成条件にもよるが、前者が比誘電率ε=3.0〜3.8、後者が比誘電率ε=2.5〜2.8である。」(【0006】) (3c)「なお、通常、SOG膜形成材料はアルコール等の溶剤を含んでいるものであるが、ガス発生物質の材料によっては、ガス発生物質をSOG膜形成材料に溶解させる際にさらに他の溶剤を加える必要がある。例えば・・・メチルイソブチルケトンや酢酸イソアミル等の溶剤を加える必要があるものである。」(【0013】) (3d)「(実施例1)予め、有機SOG膜形成材料(HSG:日立化成社製)の固形物に、・・・ガス発生物質を添加し、これらを溶解してろ過し、絶縁材料を調整した。そしてこの絶縁材料を基板に回転塗布して塗膜を形成した後、赤外線ランプを用い、150℃にて、1分間程度塗膜を仮焼成した。次に・・・光を塗膜に照射し、塗膜中に窒素ガスを含む気泡を発生させた。この後、約250℃で10分程度本焼成し、基板上に上記気泡からなる小孔を多数有する層間絶縁膜を形成した。 上記ガス発生物質を溶解させていない他は上記と同様の絶縁材料を用いて層間絶縁膜を形成した場合、この層間絶縁膜の比誘電率は2.7であったのに対し、上記の操作により得られた層間絶縁膜の比誘電率は2.5であった。」(【0026】【0027】)、実施例2〜7、10には、層間絶縁膜の比誘電率が2.5〜2.7であること(【0028】〜【0037】) 実施例12には、塗膜に光照射せずに、塗膜を約100℃で5分間程度加熱して、ガス発生物質からガスを発生させ、小孔を有する多孔質の層間絶縁膜を形成させたこと(【0039】)、が記載されている。 4.当審の判断 (1)特許法第29条第2項違反について 多孔質構造にすることにより比誘電率が低い電気絶縁性薄膜を形成することを可能にした電気絶縁性薄膜の形成方法を提供するために、本件発明1では、(A)電気絶縁性を有する熱硬化性の水素シルセスキオキサン樹脂と、(B)前記(A)の樹脂を溶解可能な溶剤と、(C)前記(B)の溶剤とは沸点もしくは蒸気圧曲線の異なる溶剤または前記(A)の樹脂に対する親和性の異なる溶剤とからなる電気絶縁性薄膜形成用組成物を基材表面に塗布し、次いで、前記(B)溶剤の大半を蒸発させた後、前記基材に高エネルギー線を照射して前記(A)の樹脂を硬化させ、その硬化過程又は硬化後に前記(C)の溶剤を蒸発させることであり、 本件発明2では、(A)電気絶縁性を有する熱硬化性の水素シルセスキオキサン樹脂と、(B)前記(A)の樹脂を溶解可能な溶剤と、(D)前記(B)の溶剤に可溶であって0〜800℃の温度範囲で熱又は前記(A)の樹脂との相互作用によってガスを発生し得る物質とからなる電気絶縁性薄膜形成用組成物を基材表面に塗布し、次いで、前記(B)の溶剤を蒸発させた後、前記基材に高エネルギー線を照射して前記(A)の樹脂を硬化させ、その硬化過程又は硬化後に前記(D)の物質からガスを発生させることを特徴とするものである。 (1a)本件発明1について 刊行物1には、シロキサン結合を主鎖結合とするプレポリマーを、プレポリマーの溶解性が高い低沸点の溶剤と、溶解性が中程度ないしは低い高沸点の溶剤とからなる混合有機溶剤に溶解させて調製したコーティング液を被塗材にコーティング後、まず、低沸点の良溶媒を揮発させながら塗膜を硬化させ、その後、残留している高沸点溶剤を除去する多孔質無機コーティング膜の形成法、及び該膜の用途として分離膜、触媒等の担体、壁材等の建材材料に用いることが記載されている。 しかし、刊行物1には、本件発明1での(A)電気絶縁性を有する熱硬化性の水素シルセスキオキサン樹脂を用いること、(B)溶剤の大半を蒸発させた後、前記基材に高エネルギー線を照射して樹脂を硬化させ、電気絶縁性薄膜を形成することについての記載はなく、また、多孔質無機コーティング膜の用途についての記載は、電気絶縁性薄膜を示唆するものではない。 刊行物2には、シロキサンを溶解したスピンオンガラス材を、高速度で回転させることによって、半導体ウエハ上に被覆し、該SOG層を高エネルギーの電子を照射することにより硬化を行うこと、スピンオンガラスの液体の一つとして、有機溶剤(高沸点溶剤と低沸点溶剤の混合物)の中に溶解させたシロキサン用いること、刊行物3には、半導体素子の製造において、基体上に層間絶縁膜を形成する際に、膜形成材料中に加熱または光照射によってガスを発生するガス発生物質が溶解されてなる絶縁材料を、基体上に回転塗布する工程と、基体上の塗膜を仮焼成し、その後該塗膜を加熱しまたは光照射し、次いで塗膜を本焼成することにより層間絶縁膜を形成することは記載されているが、本件発明1での(A)電気絶縁性を有する熱硬化性の水素シルセスキオキサン樹脂を用いること、(B)溶剤の大半を蒸発させた後、前記基材に高エネルギー線を照射して前記(A)の樹脂を硬化させ、その硬化過程又は硬化後に前記(C)の溶剤を蒸発させることの記載ないしこれらの点を示唆するものはない。 即ち、刊行物1〜3のいずれにも、本件発明1での(A)電気絶縁性を有する熱硬化性の水素シルセスキオキサン樹脂を用いることの記載はなく、又この点を示唆するものもない。また、刊行物1の記載は、電気絶縁性薄膜の形成を意図していないシロキサン結合を主鎖結合とするプレポリマーを用いた多孔質無機コーティング膜の形成方法であるのに対して、絶縁薄膜の誘電率を下げるための多孔質化についての言及がない刊行物2の記載、及び多孔質化の手段が異なる刊行物3の記載を、刊行物1の記載に適用する契機もない。 そうすると、上記刊行物1〜3の記載からは、本件発明1で特定する構成を導き出すことはできない。 そして、本件発明1は、上記した構成により、薄膜を多孔質化或いは低密度化しているので、比誘電率の低い電気絶縁性薄膜を形成することができるという、各刊行物の記載からは予測することのできない格別な効果を奏しているものである。 したがって、本件発明1は、刊行物1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (1b)本件発明2について 本件発明2での(D)前記(B)の溶剤に可溶であって0〜800℃の温度範囲で熱又は前記(A)の樹脂との相互作用によってガスを発生し得る物質を用いて電気絶縁性薄膜を形成する点は、一応刊行物3に記載されていることではある。しかし、刊行物3には、本件発明2での(A)電気絶縁性を有する熱硬化性の水素シルセスキオキサン樹脂を用いること、(B)の溶剤を蒸発させた後、前記基材に高エネルギー線を照射して前記(A)の樹脂を硬化させる電気絶縁性薄膜を形成する方法を示唆するものはない。 また、刊行物1には、ガス発生物質を使用せずに無機多孔質コーテング膜を形成することが記載されていても、樹脂の硬化に高エネルギー線を用いること、電気絶縁性薄膜についての記載はなく、刊行物2には、溶解させたシロキサン樹脂の硬化に電子ビームを用いることが記載されていても、多孔質膜についての記載はなく、刊行物3の記載に、刊行物1、2の記載を適用する契機もない。 そうすると、刊行物1〜3の記載からは、本件発明2で特定する構成を導き出すことはできない。 そして、本件発明2は、上記した構成により、薄膜を多孔質化或いは低密度化しているので、比誘電率の低い電気絶縁性薄膜を形成することができるという、各刊行物の記載からは予測することのできない格別な効果を奏しているものである。 したがって、本件発明2は、刊行物1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (1c)本件発明3〜7について 本件発明3〜7は、本件発明1又は2を引用して更に構成を限定するものであるから、上記本件発明1、2についてで示した内容と同じ理由により、刊行物1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)特許法第17条の2第3項違反について 異議申立人は、次の点で、本件請求項1、3〜7は、出願時の明細書に記載されていない事項を含むものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである旨主張している。 本件請求項1中の「電気絶縁性薄膜形成用組成物を基材表面に塗布し、次いで、前記(B)溶剤の大半を蒸発させた後、」は、出願時においては、「電気絶縁性薄膜形成用組成物を基材表面に塗布し、次いで、前記(B),(C)の溶剤の少なくとも一部を蒸発させた後、」と記載されており、補正後の「(B)溶剤の大半を蒸発させた後」の文言は、出願時の明細書に記載された事項の範囲内ではなく、本件請求項1、3〜7は、出願時の明細書に記載されていない事項を含むものである。 そこで、検討すると、本件の願書に最初に添付した明細書の請求項1、【0005】、【0006】には、「前記(B),(C)の溶剤の少なくとも一部を蒸発させた後、」と記載されているが、発明の実施の形態を記載した【0014】欄には、「(B)の主溶剤は大半が基材へ塗工した直後に蒸発するが、その一部は膜中に残存し、・・・」と記載されており、補正後の「(B)溶剤の大半を蒸発させた後」なる点は、願書に最初に添付した明細書に明白に記載されている。 そうすると、本件発明1、3〜7は、願書に最初に添付した明細書に記載されていない事項を含むものではなく、本件発明1、3〜7の特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものではない。 IV.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし7に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1ないし7に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 電気絶縁性薄膜の形成方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)電気絶縁性を有する熱硬化性の水素シルセスキオキサン樹脂と、(B)前記(A)の樹脂を溶解可能な溶剤と、(C)前記(B)の溶剤とは沸点もしくは蒸気圧曲線の異なる溶剤または前記(A)の樹脂に対する親和性の異なる溶剤とからなる電気絶縁性薄膜形成用組成物を基材表面に塗布し、次いで、前記(B)溶剤の大半を蒸発させた後、前記基材に高エネルギー線を照射して前記(A)の樹脂を硬化させ、その硬化過程又は硬化後に前記(C)の溶剤を蒸発させることを特徴とする電気絶縁性薄膜の形成方法。 【請求項2】 (A)電気絶縁性を有する熱硬化性の水素シルセスキオキサン樹脂と、(B)前記(A)の樹脂を溶解可能な溶剤と、(D)前記(B)の溶剤に可溶であって0〜800℃の温度範囲で熱又は前記(A)の樹脂との相互作用によってガスを発生し得る物質とからなる電気絶縁性薄膜形成用組成物を基材表面に塗布し、次いで、前記(B)の溶剤を蒸発させた後、前記基材に高エネルギー線を照射して前記(A)の樹脂を硬化させ、その硬化過程又は硬化後に前記(D)の物質からガスを発生させることを特徴とする電気絶縁性薄膜の形成方法。 【請求項3】 薄膜の比誘電率が2.7未満である請求項1又は2に記載の電気絶縁性薄膜の形成方法。 【請求項4】 前記基材が電子デバイスである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電気絶縁性薄膜の形成方法。 【請求項5】 前記高エネルギー線が電子線、紫外線、X線からなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気絶縁性薄膜の形成方法。 【請求項6】 前記高エネルギー線として電子線を常圧下で照射する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気絶縁性薄膜の形成方法。 【請求項7】 前記高エネルギー線として電子線を減圧下で照射する請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電気絶縁性薄膜の形成方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、電気絶縁性薄膜の形成方法に関し、さらに詳しくは、比誘電率が低い電気絶縁性薄膜を形成することを可能にした電気絶縁性薄膜の形成方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来、電子デバイスの保護層および電気絶縁層としてシリカ等の電気絶縁薄膜が使用されている。特に、樹脂と溶剤とからなる組成物を湿式塗工する技術は一般によく知られている。例えば、特公平6-42477号公報には、水素シルセスキオキサン樹脂の溶剤溶液を基材上に塗布し、溶剤を蒸発させた後、150〜1000℃の温度条件下に加熱することによりセラミック状シリカ化し、電子デバイスをシリカ薄膜で被覆する方法が開示されている。 【0003】 また、絶縁薄膜の誘電率を下げるには絶縁薄膜そのものを多孔質構造にすればよいことが知られている。例えば、米国特許第5,548,159号公報では、水素シルセスキオキサン樹脂の焼結体が高集積回路の絶縁層として使用されており、多孔質構造の絶縁薄膜が形成される旨が記載されている。しかし、該公報には多孔質構造を形成するための具体的な方法は開示されていない。 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、比誘電率が低い電気絶縁性薄膜を形成することを可能にした電気絶縁性薄膜の形成方法を提供することにある。 【0005】 【課題を解決するための手段】 上記目的を達成する本発明の電気絶縁性薄膜の形成方法は、(A)電気絶縁性を有する熱硬化性の水素シルセスキオキサン樹脂と、(B)前記(A)の樹脂を溶解可能な溶剤と、(C)前記(B)の溶剤とは沸点もしくは蒸気圧曲線の異なる溶剤または前記(A)の樹脂に対する親和性の異なる溶剤とからなる電気絶縁性薄膜形成用組成物を基材表面に塗布し、次いで、前記(B)溶剤の大半を蒸発させた後、前記基材に高エネルギー線を照射して前記(A)の樹脂を硬化させ、その硬化過程又は硬化後に前記(C)の溶剤を蒸発させることを特徴とするものである。 【0006】 このように(A)の樹脂と(B),(C)の溶剤とからなる電気絶縁性薄膜形成用組成物を基材表面に塗布し、(B)の溶剤の大半を蒸発させた後、基材に高エネルギー線を照射して(A)の樹脂を硬化させ、その硬化過程又は硬化後に(C)の溶剤を蒸発させることにより、薄膜を多孔質化或いは低密度化して比誘電率を2.7未満に低減することが可能になる。 【0007】 また、上記目的を達成する本発明の他の電気絶縁性薄膜の形成方法は、(A)電気絶縁性を有する熱硬化性の水素シルセスキオキサン樹脂と、(B)前記(A)の樹脂を溶解可能な溶剤と、(D)前記(B)の溶剤に可溶であって0〜800℃の温度範囲で熱又は前記(A)の樹脂との相互作用によってガスを発生し得る物質とからなる電気絶縁性薄膜形成用組成物を基材表面に塗布し、次いで、前記(B)の溶剤を蒸発させた後、前記基材に高エネルギー線を照射して前記(A)の樹脂を硬化させ、その硬化過程又は硬化後に前記(D)の物質からガスを発生させることを特徴とするものである。 【0008】 このように(A)の樹脂と(B)の溶剤とガス発生源である(D)の物質とからなる電気絶縁性薄膜形成用組成物を基材表面に塗布し、(B)の溶剤を蒸発させた後、基材に高エネルギー線を照射して(A)の樹脂を硬化させ、その硬化過程又は硬化後に(D)の物質からガスを発生させることにより、薄膜を多孔質化或いは低密度化して比誘電率を2.7未満に低減することが可能になる。 【0009】 以上のような本発明の電気絶縁性薄膜の形成方法は、低い誘電率を有する電気絶縁性薄膜を形成することが可能であるため、かかる特性が要求される用途、例えば、電子デバイス等の基材への電気絶縁性薄膜の工業的製造法として有用である。 【0010】 【発明の実施の形態】 本発明に使用される(A)の樹脂は、塗工後に熱により硬化し、絶縁化されるものであり、溶剤に可溶であれば特に限定されないが、ノンエッチバック工程で使用しうる水素シルセスキオキサン樹脂が特に好ましい。 【0011】 ここで、水素シルセスキオキサン樹脂は、HSiO3/2で示される3官能性シロキサン単位を主骨格とするポリシロキサンであり、一般式(HSiO3/2)n(式中、nは整数である。)で表されるポリマーである。この水素シルセスキオキサン樹脂はその分子構造によりラダー型と呼ばれるポリシロキサンとケージ型と呼ばれるポリシロキサンがあり、ラダー型ポリシロキサンにおいてはその端末が、例えば、水酸基、トリメチルシロキシ基等のトリオルガノシロキシ基、ジメチルハイドロジェンシロキシ基等のジオルガノハイドロジェンシロキシ基により封鎖されている。かかる水素シルセスキオキサン樹脂は、例えばトリクロロシランを加水分解し、重縮合することにより製造される(特公昭47-31838号公報、特開昭59-189126号公報及び特開昭60-42426号公報参照)。 【0012】 (B)の溶剤は、上記(A)の樹脂を溶解し、化学変化を起こさないものであれば特に限定されない。この(B)の溶剤としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤、酢酸ブチル、酢酸イソアミル等の脂肪族エステル系溶剤、ヘキサメチルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン等の鎖状メチルシロキサン、1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシクロシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルテトラシクロシロキサン等の環状シロキサン、テトラメチルシラン、ジメチルジエチルシラン等のシラン化合物のシリコーン系溶剤が挙げられる。これらの中でもメチルイソブチルケトン又はシリコーン系溶剤が好ましい。 【0013】 (C)の溶剤は、沸点、蒸気圧曲線及び樹脂に対する親和性の少なくとも1つが(B)の溶剤とは異なるものであり、(B)の溶剤の沸点より高い沸点を有するものが好ましい。この(C)の溶剤としては、アミルベンゼン(202℃)、イソプロピルベンゼン(152℃)、1,2-ジエチルベンゼン(183℃)、1,3-ジエチルベンゼン(181℃)、1,4-ジエチルベンゼン(184℃)、シクロヘキシルベンゼン(239℃)、ジペンテン(177℃)、2,6-ジメチルナフタレン(262℃)、p-シメン(177℃)、ショウ脳油(160〜185℃)、ソルベントナフサ(110〜200℃)、cis-デカリン(196℃)、trans-デカリン(187℃)、デカン(174℃)、テトラリン(207℃)、テレピン油(153〜175℃)、灯油(200〜245℃)、ドデカン(216℃)、分岐型ドデシルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン等の炭化水素系溶剤;アセトフェノン(201.7℃)、イソホロン(215.3℃)、ホロン(198〜199℃)、メチルシクロヘキサノン(169.0〜170.5℃)、メチル-n-ヘプチルケトン(195.3℃)等のケトン・アルデヒド系溶剤;フタル酸ジエチル(296.1℃)、酢酸ベンジル(215.5℃)、γ-ブチロラクトン(204℃)、シュウ酸ジブチル(240℃)、酢酸2-エチルヘキシル(198.6℃)、安息香酸エチル(213.2℃)、ギ酸ベンジル(203℃)等のエステル系溶剤;ジエチル硫酸(208℃)、スルホラン(285℃)等の硫黄化合物系溶剤;ハロゲン化炭化水素溶剤;アルコール系溶剤;エーテル化炭化水素溶剤;カルボン酸無水物系溶剤;フェノール系溶剤;シリコーン系溶剤等が挙げられる。なお、かっこ内の数値は沸点である。 【0014】 上記(A)の樹脂を(B),(C)の溶剤に溶解した電気絶縁性薄膜形成用組成物を用いる場合、(B),(C)の溶剤は樹脂の溶剤として使用されるだけでなく、樹脂が硬化する過程又は硬化後にガス化を起こして系外に飛散することにより、電気絶縁性薄膜中に空洞又は自由空間を残し、その結果、電気絶縁性薄膜が低誘電率になる。(B)の主溶剤は大半が基材へ塗工した直後に蒸発するが、その一部は膜中に残存し、この残存成分が空洞形成の役割を担う。しかし、誘電率を効率よく低減させるには、(B)の溶剤のほかに(C)の溶剤を添加する必要がある。この(C)の溶剤は、沸点が(B)の溶剤よりも高い溶剤、蒸気圧曲線が(B)の溶剤とは異なって揮発しにくい溶剤、或いは樹脂との親和性が(B)の溶剤とは異なる溶剤の1種又は2種以上の混合物である。このような(C)の添加溶剤は、組成物を基材へ塗工した直後には膜中により多く残存しており、樹脂の硬化過程又は硬化後に揮発して系外に飛散する役割を担う。(C)の添加溶剤の種類は特に限定されないが、樹脂の硬化温度との相関で好適なものが選ばれる。 【0015】 ガス発生源である(D)の物質は、(B)の溶剤に対して可溶であり、かつ0〜800℃の温度範囲で熱又は樹脂との相互作用によってガスを発生し得る物質の1種又は2種以上の混合物である。なお、ガスの発生とは、揮発によるガスの発生、自らの分解反応によるガスの発生、樹脂との化学反応によるガスの放出を含むものである。 【0016】 上記(A)の樹脂を(D)の物質と共に(B)の溶剤に溶解した電気絶縁性薄膜形成用組成物を用いる場合、(D)の物質は樹脂が硬化する過程又は硬化後に、熱又は樹脂との相互作用によってガスを発生し、更に好ましくは系外に飛散することにより、電気絶縁性薄膜中に空洞又は自由空間を残し、その結果、電気絶縁性薄膜の低誘電率を低下させる作用を有する。(D)の物質からガスが発生する温度は電気絶縁性薄膜の形成過程の温度に適合させる必要があるが、この温度範囲は0〜800℃であり、好ましくは25〜400℃である。(B)の溶剤の大半が基材へ塗工した直後に蒸発し、しかる後に(D)の物質からのガス発生が起きることが好ましいので、(D)の物質からのガス発生の開始温度は(B)の溶剤の沸点よりも高いことが好ましい。この(D)の物質のうち揮発によってガスを発生するものとしては、ビフェニル、ナフタレン、アントラセン等の固体有機物、シリコーンオイル等のオイル状物等が挙げられる。樹脂として水素シルセスキオキサンを用いる場合は相溶性の点でシリコーンが好ましい。(D)の物質のうち自らが分解してガスを発生するものとしては、過酸化ベンゾイル等の有機過酸化物等が挙げられる。また、(D)の物質のうち樹脂との相互作用によってガスを発生するものとしては、例えば、樹脂がSiH基を持つ場合は、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン等のアミン類が挙げられる。この場合は水素ガスが発生する。 【0017】 本発明において、基材へ塗工した樹脂は、高エネルギー線を照射することにより硬化させる。この高エネルギー線としては、電子線、紫外線、X線等を使用することができ、これらを単独又は複数を組み合わせて使用するようにしてもよい。高エネルギー線の照射によれば、温度を低く抑えながら樹脂を硬化させることができる。 【0018】 また、上述のように高エネルギー線の照射によって樹脂を低い温度で硬化させるので、樹脂として分子量1500以下の低分子量の水素シルセスキオキサン樹脂を使用することができる。このような低分子量の水素シルセスキオキサン樹脂は、基板に対する被覆平坦性に優れていると共に、基板上の配線等による段差への埋め込み性が優れているものの、高温に曝されると飛散して周辺機器を汚染し、しかも膜厚を減少させるという欠点がある。このため、炉中等で加熱硬化を行う場合には、水素シルセスキオキサン樹脂の低分子成分は予め除去されていた。しかしながら、高エネルギー線の照射によって低分子量の水素シルセスキオキサン樹脂の使用が可能になるのである。 【0019】 樹脂の硬化反応の雰囲気は特に限定されないが、窒素雰囲気や酸素雰囲気のほか、水蒸気、アンモニア、一酸化窒素、オゾン等の特殊雰囲気下で行うようにしてもよい。高エネルギー線が電子線である場合、装置の分類上、試料を常圧下で照射する場合と減圧下で照射する場合がある。いずれの場合も電子線により本発明の目的とする硬化反応を行うことが可能である。常圧の場合は、雰囲気は特に限定されず、上記のような各種雰囲気下で照射することができる。減圧の場合は、減圧度は特に限定されることはなく、常圧に近い減圧状態から超高真空状態までのあらゆる圧力下で照射することができる。また、減圧下で照射する場合、特に高真空下で照射直後に試料を減圧下に放置した場合、電気絶縁性薄膜にダングリングボンドが生成した状態が維持されることがある。このような場合、試料に各種ガス等を導入し、減圧度を下げるなどの処置を施すと、ダングリングボンドをガス等の分子と結合又は置換させることが可能であり、照射後の反応を膜形成に利用することができる。 【0020】 上記硬化反応における架橋様式としては、ケイ素原子結合水素基の縮合反応による架橋やケイ素原子結合水素基とビニル基の付加反応による架橋、或いは従来型の無機又は有機SOGに見られるようなアルコキシ基やシラノール基の縮合反応による架橋等が挙げられる。そのため、上述した電気絶縁性薄膜形成用組成物は、高エネルギー線による硬化反応を促進するための添加剤等を適宜含有していてもよい。この硬化促進剤としては、例えば塩化白金酸・六水和物のような白金を含む化合物を高エネルギー線の種類によって適宜選択して使用することができる。 【0021】 【実施例】 実施例及び比較例からなる方法により実際に電気絶縁膜を形成し、その電気絶縁膜のシリカへの転化性及び比誘電率を測定した。シリカへの転化性は、フーリエ変換赤外線吸収分光分析により、膜中に残存するSi-H結合の割合(%)をスピンコート直後を100%として測定することにより判断した。また、比誘電率は比抵抗値10-2Ω・cmのシリコンウエハ上に形成した試料を温度25℃、1メガヘルツの条件下で測定した。この測定はアルミ電極を形成してサンドイッチ方式でインピーダンスアナライザを用いて行った。なお、これら実験結果を表1にまとめて示した。 【0022】 実施例1 特公昭47-31838号公報第3頁の実施例1に記載の方法に従って水素シルセスキオキサン樹脂を合成した。得られた水素シルセスキオキサン樹脂をGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を使用して分析したところ、数平均分子量が1540であり、重量平均分子量が7705であった。この水素シルセスキオキサン樹脂を特開平6-157760号公報第5頁の実施例1に記載の方法に従って分子量分別した。得られたフラクションの水素シルセスキオキサン樹脂をGPCを使用して分析したところ、数平均分子量が5830であり、重量平均分子量が11200であった。GPCの測定条件は以下の通りである。 【0023】 装置: 東ソー製、802A カラム: G3000/G4000/G5000/G6000 キャリア溶媒: トルエン カラム温度: 30℃ 分子量標準: ポリスチレン 検知方式: 示差屈折率 サンプル: 固形分2重量%(トルエン溶媒) このフラクションをメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分22重量%の溶液とした。この溶液に、溶液重量に対して1重量%のシクロヘキシルベンゼンを添加した。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転3000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、6040Åの膜厚を形成した。このウエハを酸素が70ppm含まれる窒素下にて、加速電圧165kVの電子線照射装置で80Mradのドース量下に暴露した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。 【0024】 次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は74%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。この絶縁膜の比誘電率は2.4であった。 【0025】 実施例2 実施例1で得られたフラクションをメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分22重量%の溶液とした。この溶液に、溶液重量に対して10重量%のシクロヘキシルベンゼンを添加した。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転3000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、6270Åの膜厚を形成した。このウエハを酸素が70ppm含まれる窒素下にて、加速電圧165kVの電子線照射装置で80Mradのドース量下に暴露した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。 【0026】 次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は74%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。この絶縁膜の比誘電率は2.4であった。 【0027】 実施例3 実施例1で得られたフラクションをメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分35重量%の溶液とした。この溶液に、溶液重量に対して10重量%のシクロヘキシルベンゼンを添加した。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転2000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、13500Åの膜厚を形成した。このウエハを酸素が70ppm含まれる窒素下にて、加速電圧165kVの電子線照射装置で80Mradのドース量下に暴露した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。 【0028】 次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は74%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。この絶縁膜の比誘電率は2.4であった。 【0029】 実施例4 実施例1で得られたフラクションをメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分22重量%の溶液とした。この溶液に、溶液重量に対して10重量%のアミルベンゼンを添加した。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転3000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、6150Åの膜厚を形成した。このウエハを酸素が70ppm含まれる窒素下にて、加速電圧165kVの電子線照射装置で80Mradのドース量下に暴露した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。 【0030】 次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は74%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。この絶縁膜の比誘電率は2.4であった。 【0031】 実施例5 実施例1で得られたフラクションをメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分22重量%の溶液とした。この溶液に、溶液重量に対して10重量%のビフェニルを添加した。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転3000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、6200Åの膜厚を形成した。このウエハを酸素が70ppm含まれる窒素下にて、加速電圧165kVの電子線照射装置で80Mradのドース量下に暴露した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。 【0032】 次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は74%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。この絶縁膜の比誘電率は2.4であった。 【0033】 実施例6 実施例1で得られたフラクションをメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分22重量%の溶液とした。この溶液に、溶液重量に対して10重量ppmのN,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミンを添加した。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転3000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、6100Åの膜厚を形成した。このウエハを酸素が70ppm含まれる窒素下にて、加速電圧165kVの電子線照射装置で80Mradのドース量下に暴露した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。 【0034】 次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は32%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。この絶縁膜の比誘電率は2.4であった。 【0035】 実施例7 実施例1で得られたフラクションをメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分22重量%の溶液とした。この溶液に、溶液重量に対して50重量ppmの過酸化ベンゾイルを添加した。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転3000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、6250Åの膜厚を形成した。このウエハを酸素が70ppm含まれる窒素下にて、加速電圧165kVの電子線照射装置で80Mradのドース量下に暴露した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。 【0036】 次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は35%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。この絶縁膜の比誘電率は2.4であった。 【0037】 実施例8 特公昭47-31838号公報第3頁の実施例1に記載の方法に従って水素シルセスキオキサン樹脂を合成した。得られた水素シルセスキオキサン樹脂をGPCを使用して分析したところ、数平均分子量が1540であり、重量平均分子量が7705であり、分子量が1500以下の成分が41重量%であった。この水素シルセスキオキサン樹脂を特開平6-157760号公報第5頁の実施例1に記載の方法に従って分子量分別した。得られたフラクションの水素シルセスキオキサン樹脂をGPCを使用して分析したところ、数平均分子量が743であり、重量平均分子量が1613であり、分子量が1500以下の成分が72重量%であった。GPCの測定条件は実施例1と同じである。 【0038】 このフラクションをヘキサメチルジシロキサン/オクタメチルトリシロキサン(30/70)混合溶剤に溶解し、固形分30重量%の溶液とした。この溶液に、溶液重量に対して10重量%のシクロヘキシルベンゼンを添加した。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転3000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、6350Åの膜厚を形成した。このウエハを酸素が70ppm含まれる窒素下にて、加速電圧165kVの電子線照射装置で160Mradのドース量下に暴露した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。 【0039】 次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は72%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。この絶縁膜の比誘電率は2.2であった。 【0040】 比較例4 有機スピンオングラス(東京応用化学工業製、商品名:OCD-TYPE7)に10重量%のシクロヘキシルベンゼンを添加した。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転3000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、6200Åの膜厚を形成した。このウエハを酸素が70ppm含まれる窒素下にて、加速電圧165kVの電子線照射装置で80Mradのドース量下に暴露した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。この絶縁膜の比誘電率は2.7であった。 【0041】 実施例10 特公昭47-31838号公報第3頁の実施例1に記載の方法に従って合成した水素シルセスキオキサン樹脂(数平均分子量1540、重量平均分子量7705)をメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分26重量%の溶液とした。この溶液に、溶液重量に対して10重量%のシクロヘキシルベンゼンを添加した。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転3000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、6100Åの膜厚を形成した。このウエハを酸素が70ppm含まれる窒素下にて、加速電圧165kVの電子線照射装置で80Mradのドース量下に暴露した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。 【0042】 次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は72%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。この絶縁膜の比誘電率は2.4であった。 【0043】 実施例11 実施例1で得られたフラクションをメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分22重量%の溶液とした。この溶液に、溶液重量に対して10重量%のシクロヘキシルベンゼン及び1重量%のポリオキシエチレンラウリルエーテルを添加した。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転3000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、6350Åの膜厚を形成した。このウエハを酸素が70ppm含まれる窒素下にて、加速電圧165kVの電子線照射装置で80Mradのドース量下に暴露した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。 【0044】 次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は73%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。この絶縁膜の比誘電率は2.4であった。 【0045】 実施例12 実施例1で得られたフラクションをメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分18重量%の溶液とした。この溶液に、溶液重量に対して10重量%のシクロヘキシルベンゼンを添加した。この溶液を、段差高が0.5μm、段差幅及び段差間隔が0.18μmのポリシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転5000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、最深部で8310Åの膜厚を形成した。このウエハをホットプレート上で窒素気流下にて、150°/1分、200°/1分、250°/1分の順番で加熱したところ、樹脂の流動化が起こり、段差間の埋め込み及び樹脂表面の平坦化が十分に起きた。次に、このウエハを酸素が70ppm含まれる窒素下にて、加速電圧165kVの電子線照射装置で80Mradのドース量下に暴露した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。 【0046】 【0047】 【0048】 実施例14 実施例1で得られたフラクションをメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分22重量%の溶液とした。この溶液に、溶液重量に対して10重量%のシクロヘキシルベンゼンを添加した。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転3000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、6270Åの膜厚を形成した。このウエハを10-6Torrの真空下にて、加速電圧8kVの電子線照射装置で5mC/cm2の線量を10秒間暴露した後、試料を真空中から通常大気圧空気下に取り出して10分間放置した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。 【0049】 次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は75%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。この絶縁膜の比誘電率は2.4であった。 【0050】 実施例15 実施例1で得られたフラクションをメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分22重量%の溶液とした。この溶液に、溶液重量に対して10重量%のシクロヘキシルベンゼンを添加した。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転3000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、6310Åの膜厚を形成した。このウエハをオゾンが10ppm含まれる空気下にて、高圧水銀ランプからの強度160W/cmの紫外線に10分間暴露した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。 【0051】 次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は71%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。この絶縁膜の比誘電率は2.4であった。 【0052】 実施例16 実施例1で得られたフラクションをメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分22重量%の溶液とした。この溶液に、溶液重量に対して10重量%のシクロヘキシルベンゼンを添加した。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転3000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、6280Åの膜厚を形成した。このウエハをオゾンが10ppm含まれる空気下にて、250℃に加熱されたホットプレート上で、高圧水銀ランプからの強度160W/cmの紫外線に10分間暴露した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。 【0053】 次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は70%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。この絶縁膜の比誘電率は2.4であった。 【0054】 比較例1 実施例1で得られたフラクションをメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分22重量%の溶液とした。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転3000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、6070Åの膜厚を形成した。このウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は75%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜にクラックの発生が認められた。この絶縁膜の比誘電率は2.8であった。 【0055】 比較例2 実施例1で得られたフラクションをメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分35重量%の溶液とした。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転2000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、13200Åの膜厚を形成した。このウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。その結果、絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は75%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜にクラックが発生した。この絶縁膜の比誘電率は2.8であった。 【0056】 比較例3 実施例1で得られたフラクションをメチルイソブチルケトンに溶解し、固形分22重量%の溶液とした。この溶液をシリコンウエハ上に、前回転500rpmで3秒間、次いで本回転3000rpmで10秒間にてスピンコートし、さらに室温で10分間放置し、6040Åの膜厚を形成した。このウエハを酸素が70ppm含まれる窒素下にて、加速電圧165kVの電子線照射装置で80Mradのドース量下に暴露した。この状態では膜のメチルイソブチルケトンへの溶解性はスピンコート直後よりも低下していた。 【0057】 次いで、上述のウエハを石英炉中で、酸素が10ppm含まれる窒素気流下において400℃で1時間アニールした後、これを取り出して室温で10分間放置した。このウエハ上に形成された絶縁膜中に残存するSi-H結合の割合は69%であり、水素シルセスキオキサン樹脂がシリカへ転化したことが判った。また、絶縁膜においてクラックの発生等の異常は認められなかった。この絶縁膜の比誘電率は2.8であった。 【0058】 【表1】 【0059】 【発明の効果】 以上説明したように本発明によれば、(A)電気絶縁性を有する熱硬化性の水素シルセスキオキサン樹脂と、(B)前記(A)の樹脂を溶解可能な溶剤と、(C)前記(B)の溶剤とは沸点もしくは蒸気圧曲線の異なる溶剤または前記(A)の樹脂に対する親和性の異なる溶剤、或いは(D)前記(B)の溶剤に可溶であって0〜800℃の温度範囲で熱又は前記(A)の樹脂との相互作用によってガスを発生し得る物質とからなる電気絶縁性薄膜形成用組成物を基材表面に塗布し、しかる後、前記基材に高エネルギー線を照射して前記(A)樹脂を硬化させ、その硬化過程又は硬化後に前記(C)の溶剤または(D)の物質からガスを発生させることにより、薄膜を多孔質化或いは低密度化しているので、比誘電率の低い電気絶縁性薄膜を形成することができる。 |
訂正の要旨 |
a.特許明細書の【請求項1】に記載の「無機樹脂又は有機樹脂」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「水素シルセスキオキサン樹脂」と訂正する。 b.特許明細書の【請求項2】に記載の「無機樹脂又は有機樹脂」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、「水素シルセスキオキサン樹脂」と訂正する。 c.特許明細書の段落【0005】に記載の「無機樹脂又は有機樹脂」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「水素シルセスキオキサン樹脂」と訂正する。 d.特許明細書の段落【0007】に記載の「無機樹脂又は有機樹脂」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「水素シルセスキオキサン樹脂」と訂正する。 e.特許明細書の段落【0010】に記載の「(A)の無機樹脂又は有機樹脂は、・・・(中略)・・・水素シルセスキオキサン樹脂が特に好ましい。」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「(A)の樹脂は、塗工後に熱により硬化し、絶縁化されるものであり、溶剤に可溶であれば特に限定されないが、ノンエッチバック工程で使用しうる水素シルセスキオキサン樹脂が特に好ましい。」と訂正する。 f.特許明細書の段落【0040】に記載の「実施例9」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「比較例4」と訂正する。 g.特許明細書の段落【0046】に記載の「実施例13・・・(中略)・・・スピンコート直後よりも低下していた。」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、削除する訂正を行う。 h.特許明細書の段落【0047】に記載の「次いで、・・・(中略)・・・比誘電率は2.4であった。」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、削除する訂正を行う。 i.特許明細書の段落【0058】の【表1】に記載の「実施例9」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「比較例4」と訂正する。 j.特許明細書の段落【0058】の【表1】に記載の「実施例13」の欄を、明りょうでない記載の釈明を目的として、削除する訂正を行う。 k.特許明細書の段落【0059】に記載の「無機樹脂又は有機樹脂」を、明りょうでない記載の釈明を目的として、「水素シルセスキオキサン樹脂」と訂正する。 l.特許明細書の段落【0058】の【表1】に記載の「比誘導率」を、誤記又は誤訳の訂正を目的として、「比誘電率」と訂正する。 |
異議決定日 | 2003-04-23 |
出願番号 | 特願平9-298592 |
審決分類 |
P
1
651・
561-
YA
(H01L)
P 1 651・ 121- YA (H01L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 池渕 立 |
特許庁審判長 |
城所 宏 |
特許庁審判官 |
川真田 秀男 三崎 仁 |
登録日 | 2001-07-06 |
登録番号 | 特許第3208100号(P3208100) |
権利者 | 東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社 |
発明の名称 | 電気絶縁性薄膜の形成方法 |
代理人 | 衡田 直行 |
代理人 | 小川 信一 |
代理人 | 斎下 和彦 |
代理人 | 野口 賢照 |
代理人 | 野口 賢照 |
代理人 | 小川 信一 |
代理人 | 斎下 和彦 |