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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  C12N
管理番号 1081335
異議申立番号 異議1999-70213  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-05-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-01-25 
確定日 2003-06-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2777678号「組換ヒト肝実質細胞増殖因子及びその製造方法」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2777678号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 〔1〕手続きの経緯
特許第2777678号の請求項1乃至3に係る発明は、平成3年6月6日(優先権主張1990年6月11日)に特許出願され、平成10年5月8日にその特許権の設定の登録がされた後、三菱化学株式会社より特許異議の申立てがなされ、これを受けて取消理由が通知されたところ、その指定期間内である平成11年7月27日に訂正請求がなされたものである。

〔2〕訂正の適否
本件訂正請求は、請求項3に係る発明に対する取消理由に対応して、本件特許第2777678号の明細書を訂正明細書のとおりに訂正をすることを求めるものであって、その訂正の内容は、請求項3を削除するものであるが、当該訂正は、特許請求の範囲を減縮するものであり、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものでもない。
また、訂正後の特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである(下記〔3〕〔4〕参照)。
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

〔3〕特許異議の申立ての検討
1.本件発明について:
本件訂正後の請求項1及び2に係る発明は、平成11年7月27日付け訂正明細書の特許請求の範囲に記載された下記のとおりのものと認める。
【請求項1】 以下の工程からなる肝実質細胞増殖因子(HGF)の製造方法。
(1)配列番号2のアミノ酸配列をコードする遺伝子とジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子を有する組換発現ベクターで動物細胞を形質転換し、
(2)メソトレキセートの濃度を上昇させながら上記形質転換体を培養して、HGF高生産株を選別し、
(3)このHGF産生株を培養し、産生されたHGFを回収し精製する。
【請求項2】 請求項1記載の動物細胞として、CHO細胞を使用することを特徴とするHGFの製造方法。

2.特許異議申立ての概要:
特許異議申立人は、下記甲第1乃至3号証及び参考資料1を提出して、訂正前の請求項1、2に係る発明(いずれも訂正後と同じ)は、下記甲第1号証で示す先願の願書に最初に添付した明細書(以下「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であるから、その特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであり、取り消されるべきであると主張している。
なお、特許異議申立人は、訂正前の請求項3に係る発明の特許に対しても異議申立てをしている(提出証拠甲第4乃至6号証)が、上記訂正により請求項3は削除されたので、当該主張の検討は要しないものとなった。



甲第1号証:特願平1-209449号(特開平3-72883号公報)
甲第2号証:特開平2-9388号公報
甲第3号証:Proc.Natl.Acad.Sci.USA, Vol.77, pp.3567〜3570, June 1980
甲第4号証:国際公開WO 90/10651号
甲第5号証:Nature, Vol.342,No.23, pp.440〜443, Nov. 1989
甲第6号証:Proc.Natl.Acad.Sci.USA, Vol.88, pp.415〜419, Jan. 1991
参考資料1:本件特許の配列表2に記載されたアミノ酸配列と甲第1号証の第1図に記載されたアミノ酸配列を比較した図

3.特許異議申立ての検討
上記先願明細書には、その請求項1に「第1図のアミノ酸配列で表されることを特徴とする肝実質細胞増殖因子」と記載され、第1図には、特定のアミノ酸配列が示されている。
また、発明の詳細な説明の項には、「肝実質細胞増殖促進活性を損なわない範囲で一部のアミノ酸または核酸を除去、変更あるいは追加する等改変を行ったものも本発明に含まれる。」(公開公報第3頁右上欄第3行〜同第7行)と記載されている。
そこで検討するに、本件訂正後の請求項1でいう「配列番号2」のアミノ酸配列は、上記参考資料1からも明かなように先願明細書の第1図に記載されたアミノ酸配列から162〜166番目の5個のアミノ酸残基が欠失したものに相当しており、両者の配列は相違している。
なるほど、先願明細書には、上述のように、「アミノ酸または核酸を除去、変更あるいは追加する」旨の記載はあるものの、当該記載はあくまで一部配列の改変が可能であるという一般的記載に留まるものであって、162〜166番目のアミノ酸配列という特定の部分配列の除去に言及するものではない。
そして、本件優先日前に当該位置の部分配列の除去が、目的とするHGFにおけるHGF活性を損なわないという技術常識が存在したということもできない以上、先願明細書には、本件「配列番号2」のアミノ酸配列自体についての記載はないとするべきである。
したがって、当該「配列番号2のアミノ酸をコードする遺伝子」を必須の要件とする本件訂正後の請求項1に係る発明は、他の構成要件を比較するまでもなく、先願明細書に記載された発明と同一であるということはできない。
なお、特許異議申立人は、先願明細書に記載されていない工程(本件訂正後の請求項1の(2)の工程)自体が周知のものであることを立証するために甲第2号証、甲第3号証を提出しているが、たとえ、特許異議申立人のいうとおりであったとしても、結論に変わりがないことは、上記説示から明らかである。
また、訂正後の請求項2に係る発明は同請求項1に係る発明における「動物細胞」を具体的に限定したものであるから、さらに検討するまでもなく、明らかに先願明細書に記載された発明と同一といえない。

〔4〕結び
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、本件訂正後の請求項1及び2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項1及び2に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
組換ヒト肝実質細胞増殖因子及びその製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 以下の工程からなる肝実質細胞増殖因子(HGF)の製造方法。
(1)配列番号2のアミノ酸配列をコードする遺伝子とジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子を有する組換発現ベクターで動物細胞を形質転換し、
(2)メソトレキセートの濃度を上昇させながら上記形質転換体を培養して、HGF高生産株を選別し、
(3)このHGF産生株を培養し、産生されたHGFを回収し精製する。
【請求項2】 請求項1記載の動物細胞として、CHO細胞を使用することを特徴とするHGFの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は肝実質細胞増殖活性を有するポリペプチド、さらに詳しくは、生体外(in vitro)で肝実質細胞の維持、増殖を可能にする生理活性を有するポリペプチドをコードする塩基配列を発現し得る組換発現ベクター、形質転換体、および該ポリペプチドの製造法に関するものである。
本発明により製造されたポリペプチドは肝実質細胞培養試薬、肝再生促進剤、肝機能の基礎的研究、肝実質細胞に対する各種ホルモンや薬剤の作用の研究、肝癌の発癌研究用、さらに該ポリペプチドに対する抗体を用いる臨床診断試薬、肝疾患治療薬などへの利用が期待できる。
【0002】
【従来技術】
従来、細胞増殖活性を有するポリペプチドとして、上皮細胞増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、神経細胞増殖因子(NGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、血管内皮細胞増殖因子(ECGF)などが知られている。これらの増殖因子の他に、生体外において肝実質細胞増殖活性を有するポリペプチドが1984年に中村らによって再生肝ラット血清より部分精製され、肝実質細胞増殖因子(以下HGFと略す)と命名された。
【0003】
このHGFの発見まで肝実質細胞は各種の株化細胞が活発に増殖する哺乳動物血清存在下でも該細胞の増殖が全く認められず、通常約1週間で培養容器壁からの脱落が起こり、生体外での長期培養は不可能であった。ところがこのHGFの存在下において肝細胞は極めて良好に増殖し、該細胞の培養が可能となった(Biochem,Biophys.Res.Commun.,122,1450,1984)。他の研究者によってもこのHGF活性は、肝部分切除手術後の血中、劇症肝炎患者の血中にも存在することが確認された。
【0004】
このような状況の下で、本発明者らは、先にラット血小板からHGFを分離精製して研究を重ね、このラット血小板由来のHGFが2種のサブユニットからなることを見出し、かつHGFに含有される一部のアミノ酸配列27残基の同定に成功した(特願昭63-311866号明細書)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
生体内HGFは、肝組織あるいは血小板などから極微量分泌されるポリペプチドであるため、原材料組織の入手の困難さにより、安定供給することはほとんど不可能に近い。特に、ヒトHGFにおいては現在までに唯一活性が確認されているのは劇症肝炎患者血清中のみである。このヒトHGFを肝実質細胞の培養や肝細胞の研究用、ひいては肝疾患治療薬として利用するためには、ヒトHGFと同様な活性を有するポリペプチドを遺伝子組換技術を応用して大量に供給することが望まれる。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、ラット血小板由来HGFのアミノ配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプローブとしてラット肝臓mRNAより調製したcDNAライブラリーよりラットHGFポリペプチドをコードする塩基配列を含有するcDNAが得られることを見出した。さらにラット由来の該cDNAをプローブとしてヒト肝臓mRNAより調製されたcDNAライブラリーよりヒトHGFポリペプチドをコードする塩基配列を含有するcDNAが得られることを見出した。(Nature,342,440,1989)。
【0007】
さらにヒト肝臓由来の該cDNAの一部または全部をプローブとして肝臓を除いた種々のヒト組織由来のmRNAとのノザーンハイブリダイゼイションを行ったところ、胎盤及び白血球mRNAにもHGF様転写産物の存在が認められることを見出した。本発明者らは、このうち白血球由来のmRNAから作製したcDNAライブラリーより、ヒトHGFをコードする塩基配列を含有するcDNAを単離しその塩基配列を明らかにし、さらに該cDNAを含有する組換発現ベクターを作製し、該組換発現ベクターによって形質転換された形質転換体を得、該形質転換体を培養してヒト白血球由来HGF遺伝子が発現することを見出し本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明はヒト白血球由来肝実質細胞増殖因子をコードする塩基配列を含有するDNAを発現しうる組換発現ベクター、該組換発現ベクターで形質転換された形質転換体、該形質転換体を培養し、該培養物から組換ヒト白血球由来肝実質細胞増殖因子を採取、製造する方法及び組換ヒト白血球由来肝実質細胞増殖因子に関するものである。
【0009】
本発明のヒト肝実質細胞増殖因子をコードするDNA組換発現ベクター、及び形質転換体は例えば次のようにして調製される。
即ち、(1)ヒトの白血球よりmRNAを単離し、常法に従ってcDNAライブラリーを作製し、(2)すでに単離されているヒト肝臓由来HGFcDNAの全部または一部をプローブとして上記ヒト白血球由来cDNAライブラリーのスクリーニングを行い、単離されたクローンより目的とするcDNAを抽出する。(3)このヒト白血球由来HGFのcDNAよりヒトHGFをコードするcDNA断片を制限酵素を用いて切り出し発現用ベクターに組み込み、(4)得られた組換発現ベクターにより宿主細胞を形質転換して形質転換体を得、(5)この形質転換体を培養して、その培養上清からヒト白血球HGFを採取、製造することができる。
【0010】
以下、本発明の各工程について詳細に説明する。
1)mRNAの単離とノーザンハイブリダイゼーション
ヒト白血球のmRNAは常法に従って得ることができる。例えば、Biochemistry,18,5294(1979)に記載されているJ.M.Chirgvinらの方法によって、ヒトの白血球のグアニジンチオシアン酸溶液から得たRNAをさらにオリゴdTセルロースカラムを用いる液体クロマトグラフィーに、またはオリゴdTラテックスに付すことによって該mRNAを調製することが可能である。また、ヒト白血球mRNAは市販品としてクロンテック社などから購入して利用することもできる。このようにして得られたmRNAとヒト肝臓由来のHGFをコードするcDNAとのノーザンハイブリダイゼイションは、例えばMolecular cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,202(1982)に記載されているManiatisらの方法によって行うことができる。プローブとしてはヒト肝臓由来HGFcDNAの全部又は一部を32P標識して使用することができる。
【0011】
2)cDNAの調製
上記によりHGF転写産物の存在が確認されたヒト白血球mRNAを鋳型として逆転写酵素を用いて、例えばH.Okayamaらの方法(Mol.Cell.Biol.,2,161,1982及びMol.Cell.Biol.,3,280,1983)あるいはU.Gublerらの方法(Gene,25,263,1983)に従ってcDNAを合成し、このcDNAをプラスミドやファージに組み込むことによりcDNAライブラリーを調製することができる。cDNAを組み込むプラスミドベクターとしては、大腸菌由来のpBR322(東洋紡績)、pUC18及びpUC19(東洋紡績)、枯草菌由来のpUB110(シグマ社)などがある。これらのベクターは、宿主細胞内に保存されていて複製、増幅されるものであれば、ここに例示したものに限定されるものではない。mRNAを鋳型として合成されたcDNAをプラスミドまたはファージに組み込んでcDNAライブラリーを調製する方法として、T.Maniatisらの方法(Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,239,1982)またはT.V.Hyunhらの方法(DNA Cloning:A Practical Approach,1,49,1985)を各々例示することができる。また、mRNAと同様にヒト白血球のcDNAライブラリーを市販品としてクロンテック社などから購入して使うことも可能である。
【0012】
3)cDNAライブラリースクリーニング
cDNAライブラリーとして得られたプラスミドやファージなどの組換発現ベクターは、大腸菌のような適切な宿主細胞に保持される。宿主となりうる大腸菌としては、例えばEscherichia coli NM514,C600(ストラタジーン社)、NM522,JM101(ファルマシア社)などを例示することができる。cDNAのベクターがプラスミドの場合、塩化カルシウム法、塩化カルシウム・塩化ルビジウム法などを用いて、またcDNAのベクターがファージの場合、インビトロパッケージング法などを用いてあらかじめ増殖させた宿主細胞に保持させることができる(Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,249,1982)。このようにして得られた形質転換体から、ヒト肝臓由来HGFcDNAを32P標識したプローブを使用してコロニーハイブリダイゼーション法(Gene,10,63,1980)、プラークハイブリダイゼーション法(Science,196,180,1977)などによってcDNAクローンを釣り上げることができる。また、目的とするポリペプチドに対する抗体を用いて、標識抗体法(DNA Cloning:A Practical Approach,1,49,1985)によって、cDNAをクローニングすることも可能である。
【0013】
次に該形質転換体から常法(Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,1982)に従ってプラスミドやファージなどの組換DNAを単離し、そのままあるいは制限酵素で消化してからcDNA塩基配列が決定される。塩基配列はマクサムとギルバートの化学法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,74,560,1977)やサンガーのジデオキシ法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,74,5463,1977)などによって決定される。記述のmRNAと塩基配列の決定されたcDNAの一部あるいはcDNAの一部の合成DNAをプライマーにして、プライマーエクステンション法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,76,731,1979)によって新たにcDNAを合成し、上記と同様にしてcDNAライブラリーから第1のcDNAに連絡した第2のcDNAを含有するプラスミドやファージなどの組換DNAをクローニングすることが可能である。このプライマーエクステンションとクローニングの工程は、必要により複数回繰り返される。
【0014】
4)ヒトHGF組換発現ベクターの構築
クローン化されたヒト白血球HGFのアミノ酸配列の全部あるいはその一部をコードするcDNAを含有する数種のプラスミドやファージなどの組換ベクターから制限酵素によってcDNAを切り出し、ヒト白血球由来HGFの発現に適したベクターのプロモーターの下流に制限酵素とDNAリガーゼを用いて再結合して組換発現ベクターを作製することができる。
より詳しくは、ヒト白血球由来HGFを効率良く発現させるために組換発現ベクターは転写の下流方向に順番に必要により(1)プロモーター、(2)リボゾーム結合部位、(3)開始コドン、(4)ヒト白血球由来HGFをコードする塩基配列を含有するDNA、(5)終止コドン、(6)ターミネーターを含むように構築される。本発明で用いることができるDNAのベクターとして大腸菌由来のプラスミドpBR322、pUC18(東洋紡績)、枯草菌由来のプラスミドpUB110(シグマ社)、酵母由来のプラスミドpRB15(ATCC 37062)、バクテリオファージλgt10、λgt11(ストラタジーン社)、ウィルスSV40(BRL社)、BPV(ATCC VR-703)、レトロウィルスの遺伝子由来のベクターなどが列挙出来るが、宿主内で複製、増幅可能なベクターであれば特に限定はない。特に、ヒト白血球由来HGFを簡便に発現させるには、SV40のようなウィルスの遺伝子由来のベクターを用いるのが好ましい。例えば、前述のクローン化されたヒト白血球由来HGFをコードするDNAをSV40ベクターの後期領域に結合した組換発現ベクターは、COS細胞(Cell,23,175,1981)と呼ばれるサル細胞株に導入して発現させることが可能である。プロモーター及びターミネーターに関しても、目的とするヒト白血球由来HGFをコードする塩基配列の発現に用いられる宿主に対応したものであれば特に限定はない。例えば、プロモーターとして宿主が大腸菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーターなどを、宿主が枯草菌である場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーターなどを、宿主が酵母である場合、GAPプロモーター、PGKプロモーターなどを、宿主がマウス線維芽細胞やチャイニーズハムスター卵巣細胞のような動物細胞の場合、ウィルス由来のSV40プロモーター、HSV1TKプロモーターなどを例示することができる。また、ターミネーターとしては、宿主が大腸菌の場合、trpターミネーター、1ppターミネーターなどを、宿主が枯草菌の場合amyFターミネーターなどを、宿主が酵母の場合CYClターミネーターなどを、宿主が動物細胞の場合、SV40ターミネーター、HSV1TKターミネーターなどを例示することができる。これらのプロモーターとターミネーターは用いる宿主に応じて適切に組み合わされる。本発明においてヒト白血球由来HGFをコードする塩基配列を含有するDNAは、そのDNAが発現されるポリペプチドが、肝実質細胞増殖活性を有するならば特に制限はなく、例えば後述する配列表・配列番号1に示した塩基配列が例示され、さらには上記塩基配列の一部が置換、欠損、挿入、あるいはこれらが組み合わされた塩基配列を有するDNAであってもよい。ヒト白血球由来HGFをコードする塩基配列を含有する該DNAの翻訳開始コドンとしてATG、翻訳終止コドンとしてTAA、TGA、あるいはTAGを有してもよい。また、必要に応じて開始コドン、あるいは終止コドンを1つ以上組み合わせたり、他のコドンと組み合わせて配列してもよく、これらに特に限定はない。さらにこの組換発現ベクターで形質転換した宿主の選択マーカーとなり得るアンピシリン耐性遺伝子、ネオマイシン耐性遺伝子、DHFR遺伝子など1種または2種以上が該ベクターの適切な位置に含有されていることが好ましい。
【0015】
5)宿主細胞の形質転換とその培養
このようにして構築されたヒトHGF白血球組換発現ベクターは、コンピテント細胞法(J.Mol.Biol.,53,154,1970)、プロトプラスト法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929,1978)リン酸カルシウム法(Science,221,551,1983)DEAEデキストラン法(Science,215,166,1983)、電気パルス法(Proc.Natl.Acad.USA,81,7161,1984)、インビトロバッケージング法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,72,581,1975)、ウイルスベクター法(Cell,37,1053,1984)、またはマイクロインジェクション法(Exp.Cell.Ees.,153,347,1984)などによって宿主に導入され、形質転換体が作製される。このとき、宿主として既述の大腸菌の他に枯草菌、酵母、動物細胞などが用いられる。特にマウス線維芽細胞C127(J.Virol.,26,291,1978)やチャイニーズハムスター卵巣細胞CHO(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,1929,1978)などの哺乳動物由来の宿主細胞を用いるのが好適である。
得られた形質転換体は、目的とする組換ヒト白血球HGFを産生させるためにその宿主に応じた適切な培地中で培養される。培地中には該形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物、ビタミン、血清および薬剤などが含有される。培地の1例としては、形質転換体の宿主が大腸菌の場合、LB培地(日水製薬)M9培地(J.Exp.Mol.Genet.,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,1972,p.431)などを、宿主が酵母の場合、YEPD培地(Genetic Engineering,vol.1,Plenum Press,New York,1979,p.117)などを、宿主が動物細胞の場合、20%以下のウシ胎児血清を含有するMEM培地、DMEM培地、RPMI1640培地(日水製薬)などを挙げることができる。形質転換体の培養は、通常20℃〜45℃、pHは5〜8の範囲で行われ、必要に応じて通気、攪拌が行われる。また、宿主が接着性の動物細胞などの場合は、ガラスビーズ、コラーゲンビーズ、あるいはアセチルセルロースフォローファイバーなどの担体が用いられる。これら以外の培地組成あるいは培養条件下でも形質転換体が生育すれば実施でき、これらに限定されるものではない。
【0016】
6)ヒトHGFの精製
このようにして形質転換体の培養上清中または形質転換体中に生成した組換ヒト白血球HGFは、公知の塩析法、溶媒沈澱法、透析法、限外濾過法、ゲル電気泳動法、あるいはゲル濾過クロマトグラフィ、イオン交換クロマトグラフィ、逆相クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィなどを組み合わせて分離精製することができる。特に、硫酸アンモニウムによる塩析法、S-セファロースイオンクロマトグラフィ、ヘパリンセファロースアフィニテイクロマトグラフィおよびフェニルセファロース逆相クロマトグラフィの組み合わせ、あるいは硫酸アンモニウムによる塩析法、S-セファロースイオンクロマトグラフィ、および抗HGF抗体セファロースアフィニティクロマトグラフィの組み合わせなどが好ましく有効な精製法である。
以上に述べた方法によって得られた組換ヒト白血球由来HGFは、ラット肝、ラット血小板及び組換ヒト肝由来HGFと同様にラット肝実質細胞の増殖を顕著に促進する活性を示した。
【0017】
7)HGF活性の測定
HGF活性は、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,80,7229(1983)に記載の方法に準じて次のように測定した。ウイスター系ラットからコラーゲナーゼ還流法によって肝実質細胞を分離精製した。得られたラット肝実質細胞を5%ウシ血清、2×10-9Mインスリンおよび2×10-9Mデキサメサゾンを添加したウイリアムスE培地(フローラボラトリー社)に懸濁し、24ウエルマルチプレートに1.25×105個/ウエルの濃度で播いた。5%CO2および30%O2および65%N2の存在下、37℃で20時間培養後、0.1μg/mlのアプロチニンを添加したウイリアムスE培地に交換すると同時に所定量の被験試料を添加した。15時間後、15μCi/mlの125Iデオキシウリジン10μl/ウエルを添加した。コントロール群には、125Iデオキシウリジン添加の15分前に5μg/mlのアフィディコリンを添加した。さらに4時間培養して125Iでラベルした。細胞をpH7.4のPBSで2回洗浄後、冷10%トリクロロ酢酸水溶液(TCA)で固定した。細胞を1ウエル当たり0.5mlの1N水酸化ナトリウム水溶液で可溶化し、その放射能をガンマカウンターにより測定した。また放射能測定後の試料の1部をとってローリー法(J.Biol.Chem.,193,265,1951)に従い蛋白量を測定した。被験試料を添加したとき肝実質細胞に取り込まれた125Iの量をコントロールとのカウントの差として求め、これをラット肝実質細胞蛋白質1mg当たりに換算して、DNA合成活性(dpm/mg蛋白質)とした。被験試料のHGF活性は同一試験において上皮細胞成長因子(EGF)10ng/mlを用いた時の肝実質細胞のDNA合成活性の50%に相当する活性を1単位と定義して表示した。
【0018】
【発明の効果】
本発明により肝実質細胞の生体外での増殖を可能とする新規な生理活性ペプチドの大量供給が可能となる。本発明により供給される組換ヒト白血球由来HGFは、臨床診断試薬や肝疾患治療薬として有用である。さらに、本発明によりつくられる組換ヒト白血球由来HGFの作用により増殖維持される肝実質細胞は、例えば肝機能の基礎的研究用肝実質細胞に対する各種ホルモンや薬剤の作用の研究用、肝癌の発癌研究用あるいは肝炎ウィルスの生体外培養のための宿主細胞として極めて有用である。
【0019】
【実施例】
以下本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
実施例1
1)ヒト組織mRNAとヒト肝由来HGFcDNAのノーザンハイブリダイゼーション
ヒト脳、胎盤、白血球、肺、及び肝臓mRNA(クロンテック社)それぞれ2μgをManiatisらの方法(Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,202,1982)に準じて0.66Mホルムアルデヒド含有アガロース電気泳動に供した後、ナイロンフィルター・ジーンスクリーンプラス(デュポン社)上に固定した。ヒト肝臓由来HGFcDNAのBamHI―KpnI 2.2kb断片をアガロース電気泳動により分離、精製し、マルチプライムDNA標識システム(アマシャム社)を用いて〔α32p〕dCTPで標識することにより調製したプローブ、5×SSPE緩衝液(1×SSPE:180mM NaCl 10mMリン酸ナトリウム、1mM EDTA、pH6.8)、5×デンハート溶液、10%デキストラン硫酸、40%ホルムアルデヒド、0.1%SDS、0.1mg/ml大腸菌DNAからなるハイブリダイゼーション溶液に上記ナイロンフィルターを浸し、42℃で16時間ハイブリダイゼーション反応した。反応後、ナイロンフィルターは60℃で0.1%SDSを含む1×SSC緩衝液によって3回洗浄してから風乾した。このナイロンフィルターを増感スクリーン・ライトニングプラス(デュポン社)とX線フィルム、RX(富士写真フィルム)に密着させ、―80℃で16時間露光した。現像の結果、肝臓mRNAと同様に胎盤及び白血球mRNAにもHGF様転写産物の存在が認められた。
【0021】
2)ヒト白血球由来のcDNAライブラリーの作製
ヒト白血球mRNA3μgを鋳型にし、ヒト肝臓由来HGFcDNAの3’非翻訳領域に含有する5’ACATTCTCTGAAATCTTCAT3’の塩基配列を有するオリゴヌクレオチドをプライマーとして、cDNA合成システムプラス(アマシャム社)を用いてGublerらの方法(Gene,25,263,1983)に準じてcDNAを合成した。cDNAはフェノール/クロロホルム(1:1、V/V)抽出とエタノール沈澱によって精製した後、0.5M NaCl及び1mM EDTAを含む10mMトリス塩酸緩衝液(STE緩衝液と略す)に溶解し、0.7μg/20μlとした。このcDNAをcDNAクローニングシステムλgt10(アマシャム社)を用いてHuynhらの方法(DNA Cloning I,A Practical Approach,1,49,1982)に準じ、次のようにλgt10のEcoRI部位にクローニングした。T4DNAリガーゼを用いてcDNAの両末端にEcoRIアダプターを付加した。STE緩衝液で平衡化したcDNA精製用ゲル濾過カラムに反応液をアプライし、同緩衝液で溶出してcDNA画分500μlを集めた。常法によってエタノール沈澱を2回繰り返した後、減圧乾燥してリンカー付加cDNAを得た。再びSTE緩衝液に50ng/μlの濃度で溶解したのち、あらかじめ準備されたλgt10アーム1μgにアダプター付加cDNA0.1μgをT4DNAリガーゼを用いて挿入した。この反応液は冷エタノール処理した後、軽く乾燥して得られた組換DNAの全量を5μlの1mM EDTAを含む10mMトリス塩酸緩衝液pH7.5(TE緩衝液と略す)に溶解した。この組換DNAをインビトロパッケージング反応に供し、λgt10組換ファージを得た。ファージプレーティング用大腸菌を用いたタイトレーションにより測定したcDNA1μgから得られた組換ファージ数は5.0×106個であった。このようにして作製したcDNAライブラリーは使用するまで少量のクロロホルムを加えたSE緩衝液(100mM NaCl,10mM MgSO4,0.01%ゼラチン含有20mMトリス塩酸緩衝液、pH7.5)中、4℃で保存した。
【0022】
3)ヒト白血球由来HGF遺伝子cDNAの単離と塩基配列の決定
マルチプライムDNA標識システム(アマシャム社)を用いて〔α32P〕dCTPで標識したヒト肝臓由来HGFcDNAの一部であるHAC69の0.2kb EcoRI断片をプローブとし、上記cDNAライブラリーからヒト白血球由来HGF遺伝子のクローニングを行った。ハイブリダイゼーション反応温度及び洗浄温度を60℃、洗浄液は0.1%SDSを含む2×SSC緩衝液とし、スクリーニングを行い、陽性クローンHLC2及びHLC3を得た。それぞれのファージから常法により単離、精製したHLC2及びHLC3cDNAを塩基配列解析及び制限酵素切断解析に供した。図1にHLC3の制限酵素地図、配列表・配列番号1に塩基配列の一部及び演繹されるアミノ酸配列を示す。ヒト白血球由来HGFクローン、HLC3は以前に決定されたヒト肝臓由来HGF(Nature,342,440,1989)と同様の特徴を有しているが、コード領域内の塩基配列に38ヶ所差異があり、その結果演繹されるアミノ酸配列に14ケ所の差異を生じた。また、HLC2cDNAはHLC3cDNAとほぼ同一の塩基配列を有しているが、HLC3cDNAの484番目から498番目までの塩基が欠失していた(配列表・配列番号2)。
【0023】
4)サルCOS細胞用ヒト白血球由来HGF発現ベクターの構築
サルCOS細胞用ヒトHGF発現ベクターCDM〔dLeHGF〕およびCDM〔LeHGF〕の構築図を図2に示す。上記3)で得られたHLC2及びHLC3ファージDNAを制限酵素BamHIとKpnIで消化し、2.2kbのDNA断片を分離、精製した。HLC2及びHLC3のKpnI切断部位、その3’側に含有する配列及びHpaI、SmaI、SalI切断部位から成るオリゴヌクレオチド5’CACAGTCATAGCTGTTAACCCGGG3’、5’TCGACCCGGGTTAACAGCTATGACTGTGGTAC3’を合成し、KpnI-SalIアダプターとした。上記HLC2及びHLC3のBamHI-KpnI DNA断片、KpnI-SalIアダプター及びあらかじめ制限酵素BamHIとSalIで消化したブルースクリプトKSM13+(ストラタジーン社)を混合し、T4DNAリガーゼで結合して2種類のプラスミドpBS〔dLeHGF〕及びpBS〔LeHGF〕を得た。得られたpBS〔dLeHGF〕及びpBS〔LeHGF〕を制限酵素BamHIとSalIで消化しT4DNAポリメラーゼで平滑末端とした後、あらかじめ制限酵素BstXIで消化しT4DNAポリメラーゼで平滑末端としたCOS細胞用発現ベクターCDM8(Nature,329,840,1987)と混合し、T4DNAリガーゼで結合してヒト白血球由来HGF発現ベクターCDM〔dLeHGF〕及びCDM〔LeHGF〕を得た。
【0024】
5)サルCOS細胞の形質転換とヒト白血球由来HGF遺伝子の発現
得られたCDM〔dLeHGF〕及びCDM〔LeHGF〕プラスミドをエタノール沈澱した後、10mMPBS緩衝液に溶解し、2μg/mlに調製した。次に10%ウシ胎児血清(ギブコ社)を含むDMEM培地(日水製薬)中で飽和細胞密度まで増殖させたCOS-1細胞(ATCC CRL-1650)を10mMPBS緩衝液で2回洗浄した後、トリプシン処理した。同緩衝液で3回洗浄後、細胞密度2×107個/mlになるように再び同緩衝液に浮遊化した。先に調製したプラスミド溶液250μlと細胞浮遊液250μlを混合し、氷冷下で10分間放置した。この氷冷したプラスミド細胞混液高電圧パルス遺伝子導入装置ZA-1200(PDS社)を用いて、印加電圧4KV/1cmパルス時間20ミリ秒の条件下で高電圧パルスをかけた。得られた細胞を上記の培地で希釈し、37℃5%CO2存在下にて3日間培養した。培養3日目の培養上清中のHGF活性を測定したところ、それぞれ20単位/ml及び5単位/mlであった。一方、HGFcDNAを挿入していない発現ベクターCDM8を同じ方法によりCOS-1細胞に導入して培養したが、その培養上清中にはHGF活性を認めなかった。
【0025】
実施例2
1)マウスC127細胞用ヒト白血球由来HGF発現ベクターの構築
マウスC127細胞用ヒト白血球由来HGF発現ベクターpBPMT〔LeHGF〕(微工研条寄第2897号)及びpBPMT〔dLeHGF〕(微工研条寄第2898号)の構築を図3に示す。実施例1で得られたプラスミドpBS〔LeHGF〕及びpBS〔dLeHGF〕をそれぞれ制限酵素XbaIとSalIで消化し、T4DNAポリメラーゼで平滑末端とした後、あらかじめ制限酵素EcoRVで消化したC127細胞用発現ベクターpBPMTと混合し、T4DNAリガーゼで結合してヒトHGF発現ベクターpBPMT〔LeHGF〕(微工研条寄第2897号)及びpBPMT〔dLeHGF〕(微工研条寄第2898号)を得た。得られたヒト白血球由来HGF発現ベクターは、MT-1プロモーターとSV40初期遺伝子のポリ(A)付加シグナルの間にヒト白血球由来HGF遺伝子を有し、この発現ベクターによるマウスC127細胞の形質転換はウシパピローマウィルス(BPV)により行われる。また、形質転換された細胞の選択は、トランスポゾンTn5のneo遺伝子(Gene,19,329,1982)にヘルペスシンプレックスウィルスタイプ1のチミジンキナーゼ(HSV1 TK)遺伝子由来のプロモーターとポリ(A)付加シグナルを連結したneoキメラ遺伝子によって可能となる。
【0026】
2)マウスC127細胞の形質転換とヒトHGF遺伝子の発現
ヒト白血球由来HGF発現ベクターpBPMT〔LeHGF〕(微工研条寄第2897号)及びpBPMT〔dLeHGF〕(微工研条寄第2898号)はWiglerらの方法(Cell,11,223,1977)によりマウスC127細胞へ導入した。
上記(1)で得られた29μgのpBPMT〔LeHGF〕(微工研条寄第2897号)プラスミドおよびpBPMT〔dLeHGF〕(微工研条寄第2898号)をそれぞれ240μlの0.5M塩化カルシウムに溶解し、20mM HEPES,280mM NaCl及び1.5mMリン酸ナトリウムからなる2×HEPES緩衝液(pH7.1)、240μlを攪拌しながら加えた。室温で30分攪拌を続け、プラスミドとリン酸カルシウムの共沈澱を形成させた。あらかじめ、10%ウシ胎児血清(ギブコ社)及び10mMグルタミンを添加したDMEM培地(日水製薬)を用いて5×105個のC127細胞を5%CO2の存在下で37℃、24時間培養した。培地交換した後、プラスミドとリン酸カルシウム共沈澱を加え、室温で20分間放置した。さらに37℃で4時間インキュベートした後、培地を除去し、15%グリセリンを添加した1×HEPES緩衝液を加え、室温で5分間放置した。培地で細胞を洗浄した後、培地交換し、さらに37℃で2日間インキュベートした。細胞を10倍に希釈して1mg/mlのG418(シグマ社)を含む同培地を用いて5%CO2の存在下で37℃、7日間培養して形質転換細胞を得た。得られた細胞株から培養上清中のHGF活性の高い細胞を限界希釈法でスクリーニングし、ヒト白血球由来HGF高生産株BPI-14株(pBPMT〔LeHGF〕(微工研条寄第2897号))及びBPD-27株(pBPMT〔dLeHGF〕(微工研条寄第2898号))を得た。これらの細胞の培養上清中のHGF生産能はそれぞれ12万単位/1/日、15万単位/1/日であった。
【0027】
実施例3
1)チャイニーズハムスターCHO細胞用ヒト白血球由来HGF発現ベクターの構築
チャイニーズハムスターCHO細胞用ヒト白血球由来HGF発現ベクターpEVSSV〔LeHGF〕(微工研条寄第2899号)及びpEVSSV〔dLeHGF〕(微工研条寄第2900号)の構築図を図4に示す。実施例1で得られたプラスミドpBS〔LeHGF〕及びpBS〔dLeHGF〕をそれぞれ制限酵素XbaIとSalIで消化し、T4DNAポリメラーゼで平滑末端とした後、あらかじめ制限酵素EcoRVで消化したCHO細胞用発現ベクターpEVSSVと混合し、T4DNAリガーゼで結合してヒト白血球由来HGF発現ベクターpEVSSV〔LeHGF〕(微工研条寄第2899号)及びpEVSSV〔dLeHGF〕(微工研条寄第2900号)を得た。得られたヒト白血球由来HGF発現ベクターはSV40初期プロモーターとポリ(A)付加シグナルの間にヒト白血球由来HGF遺伝子を有する。また、形質転換された細胞の選択は、マウスジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子にSV40初期プロモーターとポリ(A)付加シグナルで連結したDHFRキメラ遺伝子により可能となる。
【0028】
2)チャイニーズハムスターCHO細胞の形質転換とヒト白血球由来HGF遺伝子の発現
ヒト白血球由来HGF発現ベクターpEVSSV〔LeHGF〕(微工研条寄第2899号)及びpEVSSV〔dLeHGF〕(微工研条寄第2900号)は実施例2と同様にしてチャイニーズハムスターCHO細胞のDHFR欠損CHO DUKX細胞に導入した。得られた細胞株はリボヌクレオシドとデオキシリボヌクレオシドを含まず、透析した10%ウシ胎児血清(ギブコ社)と1%グルタミンと50nMメソトレキセートを含むα-MEM培地(フローラボラトリー社)を用いて、培養上清中のHGF活性の高い細胞を限界希釈法でスクリーニングした。発生したコロニーは、安定なヒト白血球由来HGF高生産株を得るために、同培地において9世代まで増殖させた。この細胞株は100nM、250nM、500nM、750nM、及び1000nMとメソトレキセートの濃度を順次増加させながら同培地で生育させ、さらに安定なヒト白血球由来HGF高産生株EVI-65株(pEVSSV〔LeHGF〕(微工研条寄第2899号))及びEVD-104株(pEVSSV〔dLeHGF〕(微工研条寄第2900号))を得た。これらの細胞のヒト白血球由来HGF産生能はそれぞれ9万単位/1/日、13万単位/1/日であった。
【0029】
実施例4
形質転換C127細胞培養上清からの組換ヒト白血球由来HGFの精製
実施例2で得られたヒト白血球由来HGF産生マウスC127組換細胞株BPD-27(15塩基欠失型HGF産生株)の培養上清液より、組換ヒト白血球由来HGFを精製した。
1)陽イオン交換クロマトグラフィー
BPD-27株の培養液500mlに終濃度0.01%となるようにTween80を添加し、ステリベクスHVフィルター(日本ミリポア・リミテッド)により濾過した。この濾液に1/20容の1M Tris・HCl (pH8.5)緩衝液を加え、緩衝液A(50mM Tris・HCl,10mM Hepes、2mM CaCl2、150mM NaCl、0.01%Tween80、pH8.5)で平衡化したS-セファロースFF(ファルマシア社製、カラムサイズ内径1.6cm、高さ5cm)に添加した。緩衝液Aで未吸着物質を洗浄後、0.15Mから1.0MのNaClによる直線濃度勾配(全量100ml)で吸着物を溶出した。クロマトパターンを図5に示す。
HGF活性をもつ画分を集め、S-セファロース溶出液とした。
【0030】
2)アフイニティークロマトグラフィー
S-セファロース溶出液を1N酢酸でpH7.5に調整後、2倍容の0.01%Tween80を含む蒸留水で希釈し、緩衝液B(10mM Tris・HCl、0.3M NaCl、0.01%Tween80、pH7.5)で平衡化した。ヘパリン・セファロースCL-6B(ファルマシア社製、カラムサイズ内径1cm、高さ3cm)に添加した。緩衝液Bでカラムを洗浄後、0.3Mから2.0MのNaClによる直線濃度勾配(全量30ml)により溶出した。そのクロマトパターンを図6に示す。HGF活性をもつ画分を集め、ヘパリン溶出液とした。
【0031】
3)逆相HPLC
0.1%TFA(トリフルオロ酢酸、v/v%)を含む蒸留水で平衡化したフェニル5PW RPカラム(トーソー社製、内径0.75cm、高さ7.5cm)にヘパリン溶出液を添加し、0.1%TFAを含む0%から90%へのアセトニトリルの濃度勾配により溶出を行った。組換ヒト白血球由来HGFは約40%のアセトニトリル濃度にて溶出された。そのクロマトグラムを図7に示す。精製された組換ヒトHGFの収量は約20μgであり、培養上清液からの活性回収率は18%であった。
【0032】
4)SDS-ポリアクリルアミド電気泳動
前記3段のクロマトグラフィーで精製された15塩基欠失型ヒト組換白血球由来HGFを2-メルカプトエタノール還元下及び非還元下でSDS-ポリアクリルアミド電気泳動にかけた。結果を図8に示す。精製組換HGFは非還元条件(2-ME(-))では分子量7万〜9万の単一バンドを示し、還元条件下(2-ME(+))では、分子量6万〜7.5万のα鎖と分子量3万〜4万のβ鎖に分かれた。即ち組換HGFはα鎖とβ鎖からなるヘテロダイマーであることが示された。
【0033】
5)組換ヒト白血球由来HGF(15塩基欠失型)の肝細胞増殖活性
ラット初代培養肝実質細胞は、現在知られているin vitroの系の中では最もin vivoに近い肝機能を持つ系である。「HGF活性の測定法」に記述した方法に従って得たラット肝実質細胞に対し、精製した15塩基欠失型組換ヒト白血球由来HGFを添加したところ、1〜20ng/mlの濃度で強い細胞増殖を誘起した。この培養系に増殖活性を示す因子としては他にもインスリンやEGFがあるが、該組換HGFは単独で両者よりも強い活性を有し、かつこれら3者の共存下では相加的な作用を示した。
【0034】
実施例5
ヒト白血球由来HGF遺伝子によるチャイニーズハムスターCHO細胞の形質転換とその発現
ヒト白血球由来HGF発現ベクターpEVSSV(dLeHGF)(微工研条寄第2900号)はWiglerらの方法(Cell,11,233,1977)によりチャイニーズハムスターCHO細胞のDHFR欠損細胞に導入した。約30μgのpEVSSV(dLeHGF)プラスミドをそれぞれ240μlの0.5M塩化カルシウムに溶解し、20mM HEPES、280mM塩化ナトリウムおよび1.5mMリン酸ナトリウムからなる2×HEPES緩衛液(pH7.1)、240μlを攪拌しながら加えた。室温で30分攪拌を続けプラスミドとリン酸カルシウムの共沈澱を形成させた。続いて、10%ウシ胎児血清(ギブコ社)と1%グルタミンとを含むα-MEM培地(フローラボラトリー社)を用いて5×105個のCHO細胞を5%CO2存在下で37℃、24時間培養した。培地交換した後プラスミドとリン酸カルシウム共沈澱を加え室温で20分間放置した。さらに37℃で4時間インキュベートしたのち、培地を除去し、15%グリセリンを添加した1×HEPES緩衝液を加え室温で5分間放置した。培地で細胞を洗浄した後、培地交換しさらに37℃で7日間培養して形質転換細胞を得た。得られた細胞株はリボヌクレオシドとデオキシリボヌクレオシドを含まず、透析した10%ウシ胎児血清(ギブコ社)、2%グルタミンを含むα-MEM培地(フローラボラトリー社)を用いて安定なHGF高生産株を得るために100nM、250nM、500nM、750nM、1μM、2μMとメソトレキセート濃度を順次増加させながら同培地で継代培養を繰り返した。得られたヒト白血球由来HGF産生組換細胞をクローン選別を行い、安定なヒト白血球由来HGF産生株515Cを得た。これらの細胞のHGF産生能は約80万単位/1/日であった。
【0035】
実施例6
形質転換CHO細胞培養上清からの組換ヒト白血球由来HGFの精製
実施例5で得られたヒト白血球由来HGF産生チャイニーズハムスターCHO組換細胞株515C(15塩基欠失型HGF産生株)をリボヌクレオシドとデオキシリボヌクレオシドを含まず、10%ウシ胎児血清(ギブコ社)と1%グルタミンと2μMメソトレキセートを含むα-MEM培地(フローラボラトリー社)で培養し、その培養上清液より、組換ヒト白血球由来HGFを精製した。
1)陽イオン交換クロマトグラフィー
515C株の培養液500mlに最終濃度0.01%となるようにTween80を添加し、ステリベックスHVフィルター(日本ミリポア・リミテッドにより濾過した。この濾液に1/20容の1M Tris・HCl(pH8.5)緩衝液を加え、150mM NaClを含む緩衝液C(50mM Tris・HCl、0.01% Tween80、pH8.5)で平衡化したS-セファロースFF(ファルマシア社製、カラムサイズ内径1.6cm、高さ5cm)に添加した。緩衝液Cカラムを150mM NaClを含む緩衝液Cおよび400mM NaClを含む緩衝液C(図9で矢印Aで印した)で洗浄後1M NaClを含む緩衛液C(図9で矢印Bで印した)で溶出した。クロマトパターンを図9に示す。1M NaClを含む緩衝液Cで溶出したピーク部分(図9で←→と印した)を集め、S-セファロース溶出液とした。
【0036】
2)アフイニティークロマトグラフィー
S-セファロース溶出液を1N塩酸でpH7.5に調製後、2倍容の0.01%Tween80を含む蒸留水で希釈し、緩衛液B(10mM Tris・HCl、0.3M塩化ナトリウム、0.01%Tween80、pH7.5)で平衡化した、ヘパリン・セファロースCL―6B(ファルマシア社製、カラムサイズ内径1cm、高さ5cm)に添加した。緩衝液Bでカラムを洗浄後、0.3Mから2.0Mの塩化ナトリウムによる直線濃度勾配(全量40ml)により吸着物を溶出した。そのクロマトパターンを図10に示す。HGF活性を持つ画分を集め、ヘパリン溶出液とした。
【0037】
3)疎水性クロマトグラフィー
4M NaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化したフェニル5PWカラム(トーソー製、内径0.75cm、高さ7.5cm)にヘパリン溶出液を添加し、溶媒A:4M塩化ナトリウムを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.0)から溶媒B:50%エチレングリコールを含む20mMリン酸緩衝液(PH7.0)への濃度勾配により溶出を行った。HGF活性は2M NaCl、25%エチレングリコール濃度で溶出された。そのクロマトグラムを図11に示す。精製された組換ヒト白血球由来HGFの収量は約500μgであり、培養上清液からの活性回収率は25%であった。
【0038】
4)精製組換ヒト白血球由来HGFの特性
3)項で得られた組換ヒト白血球由来HGFの生物学的、化学的および物理化学的特性について測定した。
▲1▼SDS-ポリアクリルアミド電気泳動
組換HGFを2-メルカプトエタノール還元下および非還元下でSDS-ポリアクリルアミド電気泳動を行った。泳動後ゲルは銀染色法により染色したその結果を図12に示す。組換HGFは非還元下で分子量7万〜9万ダルトン、還元下では分子量6万〜7.5万のα鎖と分子量3万〜4万のβ鎖に分かれた。またβ鎖は2本のバンドに分かれたが、これはβ鎖における結合糖鎖本数の差異を示している。
【0039】
▲2▼糖組成、分析(中性糖およびアミノ糖)
精製組換HGFを蒸発乾固後、2.5Nのトリフロロ酢酸存在下で110℃、6時間加水分解した。加水分解物を蒸発乾固後、水に再溶解し、試料とした。試料をアニオン交換樹脂を用いるHPLCにより糖組成、分析を実施した。その結果フコース、ガラクトース、マンノース、N-アセチルグルコサミンが検出され、組換HGFが糖タンパクであることが確認された。
【0040】
▲3▼生物活性
精製組換HGFの肝細胞増殖活性を「HGF活性の測定」の項に記載の方法に従って活性を測定した。その結果、精製組換HGFの比活性は20〜50万unit/mgと測定された。
【0041】
実施例7
一本鎖型組換ヒト白血球由来HGFの製造
実施例5で得られたヒト白血球由来HGF(15塩基欠失型HGF)産生CHO515C株を10%ウシ胎児血清(ギブコ社)と1%グルタミンと2μMメソトレキセートを添加した。リボヌクレオシドとデオキシヌクレオシドを含有しないα-MEM培地(フローラボラトリー社)で、37℃、5%CO2下培養し、細胞をコンフルエントになるまで培養した。培養後、培養液を抜き取り、PBSで2回細胞を洗浄した。次で1%グルタミンと500μMメソトレキセートとプロテアーゼ阻害剤である400unit/mlアプロチニンを加えたα-MEM培地(リボヌクレオシドとデオキシヌクレオシド不含)を加え、37℃、5%CO2下培養した。約1日培養後、培養上清液を採取し、実施例6に示す方法とほぼ同様のクロマト操作により組換HGFを精製した。培養上清液からの活性回収率は約15%であった。
【0042】
精製した15塩基欠失型組換ヒト白血球由来HGFをSDS-アクリルアミド電気泳動にかけた。その結果を図13に示す。精製された組換HGFは非還元条件下で分子量7万〜9万ダルトンのバンドを示し、更にメルカプトエタノール還元条件下でも、分子量8万〜9万5千ダルトンの単一バンドを示した。
【0043】
この結果、得られた組換HGFは一本鎖型のものであることが示された。更に精製されたこの一本鎖型組換HGFの生物活性を測定した。即ち「HGF活性の測定」の項に記載の初代培養ラット肝細胞に対する増殖活性を測定した。その結果一本鎖型組換HGFは肝細胞増殖活性を示し、その比活性は実施例6の4)の項で得られた活性とほぼ等しく、20〜50万unit/mgであると測定された。
【0044】






【0045】






【図面の簡単な説明】
【図1】
HLC3の制限酵素地図である。
【図2】
COS細胞用ヒト白血球由来HGF発現ベクターの構築図である。
【図3】
マウスC127細胞用ヒト白血球由来HGF発現ベクターの構築図である。
【図4】
チャイニーズハムスターCHO細胞用ヒト白血球由来HGF発現ベクターの構築図である。
【図5】
S-セファロース溶出液のフラクションと溶出成分の吸光度およびそれらのDNA合成活性との関係を示す線図である。
【図6】
ヘパリン溶出液のフラクションと溶出成分の吸光度およびそれらのDNA合成活性との関係を示す線図である。
【図7】
逆相HPLCにおいて、通液したアセトニトリル濃度と、溶出した成分の吸光度との関係を示す線図である。
【図8】
精製組換ヒトHGFの還元下および非還元下でのSDS-ポリアクリルアミド電気泳動パターンを示す。
【図9】
S-セファロース溶出液のクロマトパターンを示す線図である。
【図10】
ヘパリン溶出液のフラクションと溶出成分の吸光度およびそれらのDNA合成活性との関係を示す線図である。
【図11】
フェニル5PWカラムクロマトグラフィーにおける溶出液のフラクションと溶出成分の吸光度およびそれらのDNA合成活性との関係を示す線図である。
【図12】
精製組換ヒトHGFの還元下および非還元下でのSDS-ポリアクリルアミド電気泳動パターンを示す。
【図13】
精製一本鎖型組換ヒトHGFの還元下および非還元下でのSDS-ポリアクリルアミド電気泳動パターンを示す。
 
訂正の要旨 特許請求の範囲の請求項3を削除する。
異議決定日 2003-05-22 
出願番号 特願平3-163485
審決分類 P 1 651・ 16- YA (C12N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小暮 道明  
特許庁審判長 佐伯 裕子
特許庁審判官 種村 慈樹
河野 直樹
登録日 1998-05-08 
登録番号 特許第2777678号(P2777678)
権利者 中村 敏一
発明の名称 組換ヒト肝実質細胞増殖因子及びその製造方法  
代理人 廣瀬 孝美  
代理人 今村 正純  
代理人 塩澤 寿夫  
代理人 廣瀬 孝美  
代理人 釜田 淳爾  

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