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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C07C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
管理番号 1081443
異議申立番号 異議2001-71934  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-01-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-07-13 
確定日 2003-07-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第3139285号「アクロレインおよびアクリル酸の製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3139285号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第3139285号(平成6年6月20日出願、平成12年12月15日設定登録)の請求項1及び請求項2に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された以下のとおりである。

「【請求項1】触媒として一般式、Moa -Bib -Fec -Ad -Be -Cf -Dg -Ox (Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄をそれぞれ表し、Aはニッケルおよび/またはコバルトを表し、Bはマンガン、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、スズおよび鉛からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Cはリン、ホウ素、ヒ素、テルル、タングステン、アンチモンおよびケイ素からなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、Dはカリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表し、a=12としたとき、0<b≦10、0<c≦10、1≦d≦10、0≦e≦10、0≦f≦20、0<g≦2であり、xは各元素の酸化状態により定まる値である)で示される複合酸化物を充填した固定床多管式反応器を用いて、プロピレンを分子状酸素で気相接触酸化してアクロレインおよびアクリル酸を製造する方法において、各反応管を複数の層に分割し、各層間で触媒組成を事実上変更することなく、原料ガス入口側ほどより高温で焼成して調製した触媒を順次充填することを特徴とするアクロレインおよびアクリル酸の製造方法。
【請求項2】少なくとも原料ガス入り口部に充填する触媒として、請求項1記載の複合酸化物と本反応にはそれ自身は実質的に不活性な酸化モリブデンとを混合成形したものを用いる請求項1記載の方法。」

2.申立ての理由の概要
(1)特許異議申立人山川寧は、証拠として本件出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲第1号証(特開平3-294238号公報)、甲第2号証(慶伊富長編著「触媒化学」株式会社東京化学同人、1981年3月10日発行、第426頁10行〜26行)、甲第3号証(化学総説No.34「触媒設計」株式会社学会出版センター、昭和57年8月1日発行、第43頁11行〜13行)、甲第4号証(橋本健治著「反応工学」株式会社培風館、昭和57年4月10日発行、第183頁下から2行〜第184頁4行、第185頁6行〜9行)、甲第5号証(特開平4-217932号公報)、甲第6号証(INTERNATIONAL CHEMICAL ENGINEERING Vol.29,No.2、April1989、第265頁右欄下から13行〜10行)、及び甲第7号証(J. Chem. Soc., Faraday Trans. 1, 1989, 85(7), 1607-1618)を提出し、本件請求項1及び請求項2に係る発明は、上記甲第1号証ないし甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また本件明細書の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないものであるから、これらの請求項に係る特許は、特許法第113条第2号、あるいは第4号の規定により取り消すべきものであると主張している。
(2)特許異議申立人高倉保は、証拠として本件出願前に頒布されたことが明らかな刊行物である甲第1号証(特開平4-217932号公報)及び甲第2号証(特開昭55-67340号公報)を提出し、本件請求項1に係る発明は、上記甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件請求項1に係る発明の特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきであると主張している。

3.引用刊行物等の記載
当審において、特許法第29条第2項違反であるとして通知した取消の理由に引用された刊行物1ないし4、6(特許異議申立人山川寧の提出した上記甲第1ないし4、6号証と同じ)、刊行物5(特許異議申立人山川寧の提出した上記甲第5号証及び特許異議申立人高倉保の提出した上記甲第1号証と同じ)、及び刊行物7(特許異議申立人高倉保の提出した上記甲第2号証と同じ)、並びに特許異議申立人山川寧の提出した上記甲第7号証(以下、「刊行物8」という)に記載されている事項は以下のとおりである。

刊行物1には、「固定床多管型反応器を用いてイソブチレン、t-ブタノールおよびメチル-t-ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種を分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してメタクロレインおよびメタクリル酸を製造する方法において、(イ)触媒として、下記一般式(I)
Moa -Wb -Bic -Fed -Ae -Bf -Cg -Dh-Ei-Ox (式中、Moはモリブデン、Wはタングステン、Biはビスマス、Feは鉄、Aはニッケルおよびコバルトから選ばれる少なくとも1種の元素、Bはアルカリ金属およびタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Cはアルカリ土類金属から選ばれる少なくとも1種の元素、Dはリン、テルル、アンチモン、スズ、セリウム、鉛、ニオブ、マンガン、ヒ素および亜鉛から選ばれる少なくとも1種の元素、Eはシリコン、アルミニウム、チタニウムおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素を表し、またa、b、c、d、e、f、g、h、iおよびxは、それぞれ、Mo、W、Bi、Fe、A、B、C、D、EおよびOの原子数を表し、a=12としたとき、b=0〜10、c=0.1〜10、d=0.1〜20、e=2〜20、f=0.001〜10、g=0〜10、h=0〜4、i=0〜30、x=各々の元素の酸化状態によって定まる数値である)で表される複合酸化物を使用し、(ロ)各反応管内の触媒層を管軸方向に2層以上に分割して設けた複数個の反応帯に、(ハ)上記(イ)の触媒において、一般式(I)におけるB群元素の種類および/または量を変更するとともに触媒調整時の焼成温度を変更して調整した活性の異なる複数個の触媒を原料ガス入口部から出口部に向かって活性がより高くなるように充填することを特徴とするメタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法。」が記載されており(特許請求の範囲請求項1)、活性の異なる複数個の触媒を原料ガス入口部から出口部に向かって活性がより高くなるように充填する理由について、「このように活性の異なる複数層の触媒を配列することによって、ホットスポット部における蓄熱を抑え、また高選択率で目的物を得ることができる。」と記載されている(公報第5頁右上欄末行〜左下欄3行)。

刊行物2には、触媒の調整に係る記述があり、触媒の焼成は「完成触媒の活性および選択性を制御するため」に行われることが記載され(第426頁16行参照)、「温度,雰囲気(真空排気,加圧下あるいは酸素下)などの焼成条件を選んで触媒の活性や選択性を制御することができる.」と記載されている(第427頁1行〜2行)。

刊行物3には、固体触媒の焼成に係る記述があり、焼成温度について「一般的にいって,焼成温度が高くなると,触媒として必要な高表面積が失われ,触媒構成粒子の成長が激しくなり,それら粒子表面から活性な構造が消えることが知られている」と記載されている(第43頁11行〜13行)。

刊行物4には、気固触媒反応に係る記述があり、固体粒子を充填した固定層での気相触媒反応において、触媒の単位質量当りの移動速度NAmが触媒の単位質量当りの粒子の外表面積αm に比例することが記載されている(第183頁下から2行〜第184頁4行参照)。

刊行物5には、「固定床多管型反応器を用いてプロピレン、またはイソブチレン、t-ブタノールおよびメチル-t-ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種の化合物を分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化して対応する不飽和アルデヒドおよび不飽和酸を製造する方法において、(イ)触媒として、下記一般式
【化1】 Mo W Bi Fe A B C D O (式中、Moはモリブデン、Wはタングステン、Biはビスマス、Feは鉄、Aはコバルトおよびニッケルから選ばれる少なくとも1種の元素、Bはアルカリ金属、アルカリ土類金属およびタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Cはリン、テルル、ヒ素、ホウ素、ニオブ、アンチモン、スズ、鉛、マンガン、セリウムおよび亜鉛から選ばれる少なくとも1種の元素、Dはシリコン、アルミニウム、チタニウムおよびジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素を表し、またa、b、c、d、e、f、g、hおよびxはそれぞれMo、W、Bi、Fe、A、B、C、DおよびOの原子数を表し、a=2〜12、b=0〜10、a+b=12としたとき、c=0.1〜10、d=0.1〜10、e=2〜20、f=0.005〜3、g=0〜4、h=0.5〜30、x=各元素の酸化状態によって定まる数値、である)で表される複合酸化物の複数種の相異なる占有容積を有するものを使用し、(ロ)固定床多管型反応器の各反応管内に管軸方向に複数個の反応帯を設け、(ハ)上記の相異なる占有容積を有する複数種の触媒を原料ガス入口側から出口側に向かって占有容積がより小さくなるように上記の複数個の反応帯に充填する、ことを特徴とする方法。」が記載されており(特許請求の範囲請求項1)、発明の目的について、「ホットスポット部における蓄熱を抑制して上記不飽和アルデヒドおよび不飽和酸の収率の向上を図るとともに、触媒の劣化を防止して触媒を長時間にわたって安定に使用できるような方法を提供することである。」と記載され(段落【0012】参照)、課題を解決するための手段について、「触媒寸法を大きくするとむしろホットスポット部の温度が低下すること、また、複数種の寸法の異なる(i.e.占有容積が異なる)触媒を反応管の軸方向に複数個に分割された反応帯に原料ガス入口側から出口側に向かってより寸法が小さくなるように配置すると上記目的が達成できること、が判明した。」と記載されている(段落【0013】参照)。また実施例3には、直径8mm高さ8mmの円柱状に打錠成型したものを480℃で6時間焼成した触媒、直径6mm高さ6mmの円柱状に打錠成型したものを460℃で6時間焼成した触媒、直径5mm高さ5mmの円柱状に打錠成型したものを460℃で6時間焼成した触媒を、反応管の原料ガス入口側から出口側に向かって順に充填したことが記載され(段落【0074】【0075】参照)、実施例4には、直径10mm高さ10mmの円柱状に打錠成型したものを480℃で6時間焼成した触媒、直径8mm高さ8mmの円柱状に打錠成型したものを460℃で6時間焼成した触媒、直径6mm高さ6mmの円柱状に打錠成型したものを460℃で6時間焼成した触媒、直径5mm高さ5mmの円柱状に打錠成型したものを460℃で6時間焼成した触媒を、反応管の原料ガス入口側から出口側に向かって順に充填したことが記載されている(段落【0077】参照)。

刊行物6には、プロピレンの部分酸化によりアクロレインを製造する反応におけるBi-Fe-Co-Mo-O複合体触媒において、過剰のMoO3相は鉄モリブデン酸の変換の反応の平衡をコントロールするための緩衝剤であることが記載されている(第264頁右欄2行〜9行、第265頁右欄下から13行〜下から10行参照)。

刊行物7には、「式:Mo12 Ni6 Bi1.5-2.5 Co2 Fe2 Sb2 Zn0.3-0.8 K0.4-2 Ox (式中Mo、Ni、Bi、Co、Fe、Sb、Zn、KおよびOはそれぞれ元素モリブデン、ニッケル、ビスマス、コバルト、鉄、アンチモン、亜鉛、カリウムおよび酸素を表わしかつxは他元素の必要原子価を満足するに充分な約35乃至75の酸素原子数を表わす。)に対応する触媒の存在において約200乃至525℃の温度でプロピレン又はイソブチレンを蒸気相において分子酸素と反応させることを特徴とするアクロレイン又はメタアクロレインの製法。」が記載されており(特許請求の範囲第9項)、上記触媒について、「本発明の触媒組成物の最終形状は触媒先駆混合物を分子酸素の存在のもとで約400乃至600℃の温度範囲内でか焼(一部ひらがなで表示、以下同じ)することにより得られる。か焼方法は触媒組成物をその最高酸化状態で安定化するに充分な時間、例えば約450乃至550℃の温度範囲で約4乃至20時間か焼するとよい。これらの触媒の活性はか焼方法、最終スラリpH、およびM金属(例えばカリウム)量の複合函数である。温度範囲の下限におけるか焼はプロピレンに使うにより適している様なより活性な触媒を与えるが、温度範囲の上限におけるか焼はイソブチレンに使うにより適したより活性の小さい触媒を与える。」と記載されている(公報第5頁左下欄2行〜13行)。

刊行物8には、100wt%のMoO3 を触媒として用いた場合のプロピレンの転化率が0.03%であったことが記載されている(第1616頁Table2.参照)

4.対比・判断
(1)特許法第29条第2項について
〔請求項1について〕
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という)と、上記刊行物1記載の発明とを比較すると、反応に用いる固定床多管式反応器は同じであり、かつ、該反応器に充填する複合酸化物触媒の組成およびその量比においても重複するものであることから、両者は以下の点において相違し、その余の点では一致するものである。

相違点1:本件発明1においては、プロピレンを分子状酸素で気相接触酸化してアクロレインおよびアクリル酸を製造しているのに対して、上記刊行物1記載の発明においては、イソブチレン、t-ブタノールおよびメチル-t-ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種を分子状酸素で気相接触酸化してメタクロレインおよびメタクリル酸を製造している点。
相違点2:本件発明1においては、各反応管を複数の層に分割し、各層間で触媒組成を事実上変更することなく、原料ガス入口側ほどより高温で焼成して調製した触媒を順次充填しているのに対して、上記刊行物1記載の発明においては、各反応管内の触媒層を管軸方向に2層以上に分割して設けた複数個の反応帯に、一般式(I)におけるB群元素の種類および/または量を変更するとともに触媒調整時の焼成温度を変更して調整した活性の異なる複数個の触媒を原料ガス入口部から出口部に向かって活性がより高くなるように充填している点。

まず、上記相違点1について検討するに、上記刊行物5には、「固定床多管型反応器を用いてプロピレン、またはイソブチレン、t-ブタノールおよびメチル-t-ブチルエーテルから選ばれる少なくとも1種の化合物を分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化して対応する不飽和アルデヒドおよび不飽和酸を製造する方法」が記載され、また、上記刊行物7には、プロピレン又はイソブチレンを蒸気相において分子酸素と反応させることよりなるアクロレイン又はメタクロレインの製法が記載されており、いずれも触媒として刊行物1記載の発明において用いられているのと同様の複合酸化物触媒を用いることが記載されていることから(刊行物5の特許請求の範囲請求項1、刊行物7の特許請求の範囲第9項参照)、刊行物1に記載されているような複合酸化物触媒を用いた気相接触酸化による不飽和アルデヒドおよび不飽和酸の製造方法は、アクリル酸とアクロレインを得る場合も、メタクリル酸とメタクロレインを得る場合も同様に行われているものと認められる。したがって、刊行物1に記載されたメタクリル酸とメタクロレインの製造方法を、アクリル酸とアクロレインの製造において試してみることは当業者が容易に想到し得ることであり、上記相違点1に挙げられた構成は、刊行物5あるいは7の記載を勘案すれば容易に導き出せるものである。
次に、上記相違点2について検討するに、本件発明1において各反応管を複数の層に分割し、各層間で触媒組成を事実上変更することなく、原料ガス入口側ほどより高温で焼成して調製した触媒を順次充填しているのは、触媒組成はそのままで焼成温度のみを変えることによって触媒の活性を変え、原料ガスの入口側から出口側に向かってより低温で焼成した触媒、すなわちより活性が高い触媒を順次配置することによって入口部のホットスポットを抑制するという技術思想に基づくものである(明細書段落【0009】【0016】参照)。
これに対して、刊行物1記載の発明においては、ホットスポット部の蓄熱を抑えるため、式(I)におけるB群元素の種類および/または量を変更するとともに触媒調整時の焼成温度を変更して調整した活性の異なる複数個の触媒を、原料ガス入口部から出口部に向かって活性がより高くなるように充填しており(特許請求の範囲請求項1参照)、原料ガスの入口側から出口側に向かってより活性が高い触媒を順次配置することによって入口部のホットスポットを抑制する(公報第5頁右上欄末行〜左下欄3行参照)という技術思想においては本件発明1と共通するものの、その技術思想を具現化するための手段である触媒の調整方法(本件発明1においては、触媒組成を変えずに焼成温度のみを変えることにより活性の異なる触媒を得ているが、刊行物1記載の発明においては、触媒の種類および/または量並びに焼成温度を変えることにより活性の異なる触媒を得ている)においては全く異なっている。そして、刊行物1には、B群元素の種類と量を変更せずに焼成温度のみを変更すること、あるいは、焼成温度と触媒活性の相関関係などに関しては何も記載がなく、示唆もなされていないことから、刊行物1の記載からは、触媒組成を変えずに焼成温度のみを変えて触媒活性を変化させることを着想することはできない。
この点に関して他の刊行物の記載を検討すると、刊行物5の実施例には、触媒として刊行物1記載の触媒と同様の複合酸化物を使用し、複数個の反応帯に同一組成からなる触媒を充填した反応器を用いてアクリル酸とアクロレインを製造する方法が記載されているが(段落【0074】【0075】【0077】参照)、該方法においては触媒組成は同じでもその占有容積が異なるものを用いており、これを原料ガス入口側から出口側に向かって占有容積がより小さくなるように充填することによってホットスポット部の発熱を抑制しようとするものであって(段落【0012】【0013】参照)、触媒そのものの活性を変えるものではなく、触媒の焼成温度を変えることについても何も考慮されていないことから、刊行物5の記載を合わせて勘案したとしても、触媒組成を変えずに焼成温度のみを変えて触媒活性を変化させることを着想することはできない。また、刊行物7には、刊行物1と同様の組成を有する触媒を用いたアクロレイン又はメタアクロレインの製法が記載されており(特許請求の範囲請求項9参照)、約400乃至600℃の温度範囲の下限におけるか焼はより活性な触媒を与え、上限におけるか焼はより活性の小さい触媒を与える旨の記載がある(公報第5頁左下欄2行〜13行参照)ものの、これらの記載は触媒の活性がか焼方法、最終スラリpH、M金属量の複合函数であることを前提としたものであり、か焼温度のみで触媒の活性を変えることまでも示唆するものではないから、刊行物7の記載を合わせて勘案したとしても、触媒組成を変えずに焼成温度のみを変えて触媒活性を変化させることを着想することはできない。さらに、刊行物2及び3には触媒の焼成温度がその活性に何らかの影響を及ぼすことが記載され、刊行物4には触媒粒子の表面積と触媒活性の関連性が示されているが、これらの記載を参照しても触媒組成を変えずに焼成温度のみを変えて触媒活性を変化させることを着想することはできず、刊行物6及び8には触媒の焼成温度とその活性との関連性については何も記載されていない。したがって、上記刊行物1ないし8に記載された事項からは、上記相違点2に挙げられた構成を導き出すことはできない。
そして本件発明1は、上記の構成を備えることにより、原料ガス入り口部のホットスポットを抑制し、生産性を向上し触媒寿命を延長するためのより簡便で、確実な方法を提供するという明細書記載の効果を奏するものである。
したがって、本件発明1は、上記刊行物1ないし刊行物8に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得た発明とは認められない。

〔請求項2について〕
本件請求項2に係る発明は、本件発明1の構成をその主たる構成として含むものである。そして上述したように、本件発明1は上記刊行物1ないし刊行物8に記載された発明に基いて当業者が容易になし得た発明とは認められない。したがって同様の理由により、本件請求項2に係る発明も、上記刊行物1ないし刊行物8に記載された発明に基いて当業者が容易になし得た発明とは認められない。

(2)特許法第36条第4項について
異議申立人山川寧は、本件出願が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない理由として、実質的に不活性な酸化モリブデンを得るためにモリブデン酸アンモニウムを熱処理する温度が、本件明細書段落【0021】においては550℃から700℃と記載されているのに対して、刊行物8においては上記の範囲外の500℃であるから、両者が矛盾していることを挙げている。しかし、本件明細書の記載は一例として述べているだけのもので、熱処理温度が必ずこの範囲になければならないというものではなく、また、刊行物8にはモリブデン酸アンモニウムの熱処理温度が明確に500℃であると記載されているわけではないから、両者が矛盾しているということはできず、したがって、異議申立人の上記の主張は採用できない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1及び請求項2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-07-02 
出願番号 特願平6-137048
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C07C)
P 1 651・ 531- Y (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 穴吹 智子  
特許庁審判長 鐘尾 みや子
特許庁審判官 鈴木 紀子
西川 和子
登録日 2000-12-15 
登録番号 特許第3139285号(P3139285)
権利者 住友化学工業株式会社
発明の名称 アクロレインおよびアクリル酸の製造方法  
代理人 川口 義雄  
代理人 神野 直美  
代理人 小野 誠  
代理人 一入 章夫  
代理人 久保山 隆  
代理人 井上 満  
代理人 相馬 貴昌  
代理人 大崎 勝真  

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