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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01C
管理番号 1081448
異議申立番号 異議2003-70627  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-02-18 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-03-07 
確定日 2003-07-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第3323156号「チップ抵抗器」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3323156号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3323156号の特許請求の範囲の第1項に係る発明についての特許は、昭和62年10月22日に出願された特願昭62-267839号の一部を分割した特願平8-4988号の更に一部を、平成11年7月19日に新たな特許出願としたものであって、平成14年6月28日にその特許権の設定登録がなされ、その後、特許異議の申立てがなされたものである。

2.特許異議申立ての理由の概要
特許異議申立人ローム株式会社は、証拠として甲第1乃至第4号証を提出し、本件は、甲第1乃至第4号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して、特許を受けることができないものである旨主張している。

3.本件発明
本件発明の要旨は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の第1項に記載された次のとおりのものであると認める。
「絶縁性セラミックの基板の表面に形成されたメタルグレーズ系の一対の第1電極と、
前記基板の裏面の前記基板を挟んで前記一対の第1電極と対向する位置に形成されたメタルグレーズ系の一対の第2電極と、
前記一対の第1電極間に形成された抵抗体と、
前記抵抗体の全体を覆うように形成されたガラスコートと、
前記ガラスコートを覆い且つ前記一対の第1電極と一部重畳する状態で形成されたレジンコートと、
前記一対の第1電極及び前記一対の第2電極上に一部重畳し、メッキのアンカーを形成するように前記レジンコートとの間に前記一対の第1電極を部分的に露出させ且つ前記一対の第2電極を部分的に露出させる状態で前記基板の一対の側端部に形成された銀-レジン系の一対の第3電極と、
前記一対の第1電極の露出部、前記第2電極の露出部及び前記第3電極の外面を覆うNiメッキ層と、
前記Niメッキ層の上に形成されたハンダメッキ層とを具備してなるチップ抵抗器。」(以下、「本件発明」という。)

4.甲各号証記載の発明
甲第1号証として提出された、実願昭56-4597号(実開昭57-119501号)のマイクロフィルムには、チップ抵抗が第1乃至4図とともに開示されている。そしてその実用新案登録請求の範囲の第1項には、「(1)基板上に印刷抵抗体を設け、かつこの基板の抵抗体配置面側に上記基板とほぼ同じ大きさの保護板を固定して、基板と保護板とで抵抗体を挟んだ積層構造になし、この積層構造体の両端に上記抵抗体のリ-ド電極を形成したチップ抵抗。」と記載され、同明細書2頁5行〜3頁9行には、「まず従来のチップ抵抗の構造は第1図,第2図に示すように、・・・(中略)・・・そして、その組立てはまずアルミナ基板1上に、バインダーとしてガラスフリットを使用した銀パラジウム系導電ペーストで内部電極2a〜2dを印刷形成し約800℃の温度で焼成する。次に、抵抗体材料のメタルグレーズペーストをスクリーン印刷で塗布し約800℃の温度で焼成して抵抗体3を形成する。その上にガラスを塗布し、保護膜4を焼成する。最後に、基板1の端面に銀パラジウムを塗布焼成して電極4aを形成し、内部電極2a〜2dと端面電極4a,4b上に順次ニッケルメッキ,ハンダメッキをしてリード電極を形成する。」と記載されている。
以上第2図を参酌して纏めると甲第1号証には、次のような発明が記載されている。
「絶縁性セラミックの基板の表面に形成された銀パラジウム系の一対の内部電極2c・2dと、
前記基板の裏面の前記基板を挟んで前記一対の内部電極2c・2dと対向する位置に形成された銀パラジウム系の一対の内部電極2a・2bと、
前記一対の内部電極2c・2d間に形成された抵抗体と、
前記抵抗体の全体を覆うように形成されたガラス保護膜4と、
前記ガラス保護膜4との間に前記一対の内部電極2c・2dを露出させ且つ前記一対の内部電極2a・2bを露出させる状態で前記基板の一対の側端部に形成された一対の端子電極5a・5bと、
前記一対の内部電極2c・2dの露出部、前記内部電極2a・2bの露出部及び前記端子電極5a・5bの外面を覆うニッケルメッキによる端子電極6a・6bと、
前記ニッケルメッキによる端子電極6a・6bの上に形成されたハンダメッキによる端子電極7a・7bとを有するチップ抵抗器。」
甲第2号証として提出された、特開昭58-101号公報には、厚膜抵抗体のトリミング方法が図面とともに開示されている。そしてその特許請求の範囲には、「少なくとも抵抗体が形成された絶縁基板を準備する工程と、上記抵抗体の一部を除いて上記基板表面をオーバーコートする工程と、上記オーバーコートの施されていない上記抵抗体をトリミングして上記抵抗体の抵抗値を大まかに設定する工程と、上記オーバーコートの施された上記抵抗体をトリミングして上記抵抗体の抵抗値を微調整する工程とからなる厚膜抵抗体のトリミング方法。」と記載され、2頁右上欄4行〜6行には、「尚該オーバーコート(15)は熱硬化性エポキシ樹脂等の樹脂で形成しても良く、また、ガラスを高温焼成して形成してもよい。」と記載され、同頁左下欄6行〜8行には、「尚、トリミング終了後トリミング部分にエポキシ樹脂等の低温硬化材料でオーバーコートしておくことが望ましい。」と記載されている。
以上纏めると甲第2号証には、「抵抗体の一部(トリミング予定部分)を除いて、抵抗体が形成された基板表面全体を覆うように形成されたレジン又はガラスコートと、トリミング部分を覆うレジンコートとを有する抵抗体」が記載されている。
甲第3号証として提出された、実願昭58-80044号(実開昭59-185801号)のマイクロフィルムには、チップ抵抗体が図面とともに開示されている。そしてその実用新案登録請求の範囲には、「略矩形の絶縁基板と、該絶縁基板の一面上に形成された薄膜抵抗並びに薄膜抵抗両端の薄膜電極と、上記薄膜電極に接続され且つ絶縁基板の側面部を覆う印刷・焼成された銀レジン系の側面電極と、該側面電極に施こされたメッキ電極とを備えたことを特徴とするチップ抵抗。」と記載されている。
甲第4号証として提出された、特開昭61-268001号公報の2頁左下欄5行〜17行には、「以上のようにして、チップ基体1の上面両端部に第1電極2,2が形成され、この第1電極2,2間の基体1上に抵抗被膜3が形成され、この抵抗被膜3の両端が第1電極2,2の一部に重ね合され、この抵抗被膜3が合成樹脂保護膜4で被覆され、チップ基体1の両端面から第1電極2,2にかけて導電性合成樹脂塗料よりなる第2電極55が形成されたチップ抵抗器9が得られる。
また、第8図に示すようにチップ状に分割された分割片の導電性合成樹脂塗料よりなる第2電極5上にさらにニッケル、スズまたはハンダの何れかまたは組合せた電気メッキを施して第3電極6を形成することもできる。」と記載されている。

5.対比・判断
本件発明と甲第1号証記載の発明とを対比すると、甲第1号証記載の発明における「銀パラジウム系の一対の導電ペースト内部電極2c・2d」、「銀パラジウム系の一対の導電ペースト内部電極2a・2b」、「端子電極5a・5b」、「ニッケルメッキによる端子電極6a・6b」及び「ハンダメッキによる端子電極7a・7b」は、本件発明の「メタルグレーズ系の一対の第1電極」、「メタルグレーズ系の一対の第2電極」、「第3電極」、「Niメッキ層」及び「ハンダメッキ層」に相当するから、本件発明と甲第1号証記載の発明とは、
「絶縁性セラミックの基板の表面に形成されたメタルグレーズ系の一対の第1電極と、
前記基板の裏面の前記基板を挟んで前記一対の第1電極と対向する位置に形成されたメタルグレーズ系の一対の第2電極と、
前記一対の第1電極間に形成された抵抗体と、
前記抵抗体の全体を覆うように形成されたガラスコートと、
前記ガラスコートとの間に前記一対の第1電極を露出させ且つ前記一対の第2電極を露出させる状態で前記基板の一対の側端部に形成された一対の第3電極と、
前記一対の第1電極の露出部、前記第2電極の露出部及び前記第3電極の外面を覆うNiメッキ層と、
前記Niメッキ層の上に形成されたハンダメッキ層とを有するチップ抵抗器。」の点で一致し、次の各点で相違する。
本件発明では、ガラスコートを覆い且つ前記一対の第1電極と一部重畳する状態で形成されたレジンコートを有するのに対し、甲第1号証記載の発明では抵抗体の全体を覆うように形成されたガラスコートのみを有する点。(第1の相違点)
本件発明では、銀-レジン系の一対の第3電極を、一対の第1電極及び一対の第2電極上に一部重畳し、メッキのアンカーを形成するようにレジンコートとの間に前記一対の第1電極を部分的に露出させ且つ前記一対の第2電極を部分的に露出させる状態で基板の一対の側端部に形成するのに対し、甲第1号証記載の発明ではメタルグレーズ系の一対の第3電極を、ガラスコートとの間に一対の第1電極を全面的に露出させ且つ一対の第2電極を全面的に露出させる状態で基板の一対の側端部に形成する点。(第2の相違点)
以下上記の相違点について検討する。
(1)第1の相違点について
甲第1号証では、抵抗体の全体を覆うように形成されたガラスコートのみ有し、その上に更に、一対の第1電極と一部重畳する状態で形成されたレジンコートを形成する点については記載も示唆もされていない。
また甲第2号証には、抵抗体の一部(トリミング予定部分)を除いて、抵抗体が形成された基板表面全体を覆うように形成されたレジン又はガラスコートと、トリミング部分を覆うレジンコートとを有する抵抗体が記載されているが、レジンコートはトリミング部分を覆うのみであり、しかもガラスコートとレジンコートとの組合せの点及びガラスコートの上に更に、一対の第1電極と一部重畳する状態でレジンコートを形成する点について記載も示唆もされていない。
同様に甲第3乃至第4号証においても、上記の点について記載も示唆もされていない。
しかも、本件発明では、「ガラスコートを覆い且つ前記一対の第1電極と一部重畳する状態で形成されたレジンコートを有する」ことにより、「またガラスコートの上にレジンコートを施すと、第3電極とレジンコートがメッキ液の浸透を効果的に防ぐことができ、電極や抵抗体に剥離等の欠陥を生じ難く、また抵抗体の特性も維持できる。」(段落0007)という明細書記載の作用効果を奏するものである。
よって第1の相違点に関し、甲第1号証においてガラスコートを覆い且つ前記一対の第1電極と一部重畳する状態でレジンコートを形成することは当業者であっても容易に想到実施し得ないものと認められる。
(2)第2の相違点について
甲第1号証には、第3電極としてメタルグレーズ系を採用することは記載されているが、銀-レジン系を採用することは記載も示唆もされていない。
甲第2号証においても、銀-レジン系を採用することは記載も示唆もされていない。また甲第3乃至4号証には側端部の電極として銀-レジン系を採用することは記載されているが、メッキ層の剥離を防止するためにメッキのアンカーとして銀-レジン系とは別にメタルグレーズ系を必要部分に採用することは記載も示唆もされていない。
そして本件発明では、上記の点を備えることにより、「メタルグレーズ系の第1電極及び第2電極がメッキ層のアンカー(密着部)となりメッキ層の剥離を防止できる。」(段落0022)という明細書記載の作用効果を奏するものである。
よって第2の相違点に関し、甲第1号証における第3電極としてメタルグレーズ系に代えて銀-レジン系を採用することは当業者であっても容易に想到実施し得ないものと認められる。
以上のとおりであるから、本件発明は、甲第1乃至第4号証に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものではない。

6.むすび
してみれば、本件は、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-07-04 
出願番号 特願平11-204654
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 下野 和行竹井 文雄北村 明弘酒井 朋広井上 信一  
特許庁審判長 内野 春喜
特許庁審判官 浅野 清
松本 邦夫
登録日 2002-06-28 
登録番号 特許第3323156号(P3323156)
権利者 北陸電気工業株式会社
発明の名称 チップ抵抗器  
代理人 根本 恵司  
代理人 畑川 清泰  
代理人 西浦 嗣晴  
代理人 三谷 浩  

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