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審決分類 |
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 C08F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08F 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備 C08F |
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管理番号 | 1081450 |
異議申立番号 | 異議2000-71528 |
総通号数 | 45 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1995-01-19 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2000-04-12 |
確定日 | 2003-07-22 |
異議申立件数 | 2 |
事件の表示 | 特許第2963199号「弾性で実質的に線状であるオレフィンポリマー」の請求項1ないし75に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第2963199号の請求項1ないし75に係る特許を維持する。 |
理由 |
[1]手続きの経緯 本件特許第2963199号に係る発明についての出願は、1991年10月15日及び1992年9月2日に米国にした特許出願に基づいて優先権を主張して、平成4年(1992)10月15日に出願したものであり、平成11年8月6日に設定登録がなされたものである。 その後、その特許について、異議申立人:出光石油化学株式会社及び住友化学工業株式会社より特許異議の申立がなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成13年5月10日に特許異議意見書及び証拠提出書(乙1〜8号証及び証拠の訳文を含む。)が提出され、平成13年6月22日に上申書および特許異議意見書補正書が提出され、さらに平成13年9月4日には上申書が特許権者から提出された。 そして、これら特許異議意見書(補正書も含む)、証拠提出書及び上申書についての審尋が両異議申立人に対して発せられたところ、その指定期間内に両異議申立人から特許異議申立取下書が提出されたが、これに対して取消理由の通知後の異議取下であるとの却下理由が通知され、平成15年1月17日付けでこれらの取下書に係る手続を却下する旨の決定がなされたものである。 [2]異議申立理由の概要 〈1〉特許異議申立人:出光石油化学株式会社の申立理由 1.本件特許の物質に関する請求項1〜11,19,33〜43,51,64〜68及び74の発明は、本件優先日前に公知の甲第1号証又は甲第4号証に記載のポリマー(共重合体)と実質的に同一であって、特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当するか、または、本件優先日前に公知の甲第1号証及び甲第4〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定に違反する。 2.本件特許の製法に関する請求項12〜18,44〜50,69〜73及び75の発明は、本件優先日前に公知の甲第1号証及び甲第4〜7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定に違反する。 3.本件特許の組成物に関する請求項20〜22,52及び53の発明は、甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであり、特許法第29条第2項の規定に違反する。 4.本件特許の用途(加工品)に関する請求項23〜32及び54〜63の発明は、当該技術(オレフィンポリマー)分野において周知・慣用のものであるか、または、甲第1号証及び甲第5〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定に違反する。 5.本件特許明細書(特許請求の範囲の欄及び発明の詳細な説明の欄)には記載不備があるので、本件は、特許法第36条第4項及び第5項第1号に規定された要件を満たしていない。 〈2〉.特許異議申立人:住友化学工業株式会社の申立理由 1.本件のオレフィン(エチレン)ポリマーに係る請求項1〜11、33〜43、64、66、67及び74の発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載されたものと実質的に同一であり、特許法第29条第1項第3号に規定された発明に該当する。 2.本件のオレフィン(エチレン)ポリマーを用いて得られる組成物又は加工品に係る請求項20〜32及び52〜63の発明は、甲第1号証又は甲第2号証に記載された発明、及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであり、特許法第29条第2項の規定に違反する。 [3]本件特許発明 本件特許第2963199号(平成4年10月15日出願、優先権主張 1991年10月15日及び1992年9月2日 米国、平成11年8月6日設定登録)の請求項1〜75に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1〜75に記載された事項により特定されるとおりのものである。 ところで、この75項に及ぶ請求項を幾つかのカテゴリーに分けると次のように整理することができる。 (1)請求項1〜11,19,33〜43,51,64〜68及び74:実質的に線状であるオレフィンポリマー(ないしエチレンポリマー)に係る発明 (2)請求項12〜18,44〜50,69〜73及び75:実質的に線状であるオレフィンポリマー(ないしエチレンポリマー)の製造方法に係る発明 (3)請求項20〜22,52及び53:実質的に線状であるオレフィンポリマー(ないしエチレンポリマー)の組成物に係る発明 (4)請求項23〜32及び54〜63:実質的に線状であるオレフィンポリマー(ないしエチレンポリマー)の用途(加工品)に係る発明 そして、これら75のいずれの請求項にも「実質的に線状であるオレフィンポリマー(ないしエチレンポリマー)」が構成に欠くことできない事項として(直接的ないし引用形式で)記載されており、このポリマーは、発明の詳細な説明(特許公報第18欄11〜30行)に記載された次のとおりのものと認められる。 「『実質的に線状である』ポリマーという用語は、ポリマーのバックボーンが炭素1000個当たり0.01〜3個の長鎖の分岐、より好ましくは0.01〜1個の長鎖の分岐、特に好ましくは0.05〜1個の長鎖の分岐によって置換されていることを意味する。従来の均一ポリマーと同様に、本発明の実質的に線状であるエチレン/α-オレフィン共重合体は単一の融点を有する。これは2つ又はそれ以上の融点(それは示差走査熱量計(DSC)を用いて決定される)を有する従来のチーグラー重合不均一線状エチレン/α-オレフィン共重合体と異なる。 本明細書において長鎖の分岐は、少なくとも約6個の炭素を有する長さの分岐鎖として定義される。それより長い分岐鎖は、13C核磁気共鳴分光法を用いて区別することができない。長鎖の分岐は、そのポリマー・バックボーンの長さとほぼ同じ長さとなり得る。 長鎖の分岐は、13C核磁気共鳴分光法を用いて決定され、ランダル(Randall)の方法(「Rev.Macromol.Chem.Phys.」、C29(2&3)、第285-297頁;この記載は参照として本明細書に包含される)を用いて定量される。」 [4]刊行物 上記取消理由通知で引用した刊行物は以下のとおりである。 1.刊行物1: W.Kaminsky,A.Bark,R.Spiehl,N.Moller(当審註:「o」はo-ウムラウト)-Lindenhof,S.Niedoba;Transition Metals and Organometallics as Catalysts for Olefin Polymerization,[Proc.Int.Symp.,Hamburg(September 21-24,1987)][Eds.W.Kaminsky & H.Sinn](Springer-Verlag)p.291-301(1988)(特許異議申立人:住友化学工業株式会社の提出した甲第1号証及び特許異議申立人:出光石油化学株式会社の提出した甲第4号証) 2.刊行物2:W.Kaminsky;Die Angewandte Makuromolekulare Chemie 145/146(1986)p.149-160(特許異議申立人:住友化学工業株式会社の提出した甲第2号証) 3.刊行物3:特開昭59-133238号公報(特許異議申立人:住友化学工業株式会社の提出した甲第4号証) 4.刊行物4:特開平2-276807号公報(特許異議申立人:出光石油化学株式会社の提出した甲第1号証) 5.刊行物5:特開平3-163088号公報(特許異議申立人:出光石油化学株式会社の提出した甲第5号証) 6.刊行物6:国際公開第91/04257号パンフレット(1991)(特許異議申立人:出光石油化学株式会社の提出した甲第6号証) 7.刊行物7:特開昭62-121709号公報(特許異議申立人:出光石油化学株式会社の提出した甲第7号証) 各刊行物には、次の事項が記載されている。 1.刊行物1 ・摘示1-1:「均一系ジルコニウム触媒によるオレフィンのアイソタクチック重合」(第291頁の表題)、 ・摘示1-2:「チタノセン、ジルコノセン及びハフノセン、例えば、ビスシクロペンタジエニル-及びビスインデニル遷移金属錯体は、アルモキサンと一緒に用いられて、高活性なチーグラー-ナッタ触媒を形成する(1-3)。高活性をもたらす鍵となる物質はメチルアルモキサンである。ジルコノセンとトリアルキルアルミニウムを組合せた場合の重合活性は低いものであるが、この助触媒に替えた場合、活性は100,000倍まで大きくなる。Cp2ZrCl2とメチルアルモキサンを用いるエチレン重合の場合、40,000,000gPE/gZr・hの活性を得ることができる(表1)」〔第291頁のINTRODUCTION(緒言)の項〕、 ・摘示1-3:「長い鎖を持つα-オレフィンの共重合 4-メチル-1-ペンテンの共重合は、Cp2ZrCl2(当審註:「ビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド」)だけでなく、キラルな触媒であるEt(Ind)2ZrCl2(当審註:「エチレンビスインデニルジルコニウウムジクロリド」)でも達成できる(表4)。(第293頁下から第9〜7行及び表4)、 ・摘示1-4:「2つの異なるジルコンノセン錯体とメチルアルモキサンによる4-メチル-1-ペンテン(M)とエチレン(E)の共重合 [Zr]:2・10-6mol/l、[Al]:2.1・20-2mol/l、エチレン圧力:2bar、溶媒トルエン、体積:250ml、温度:30℃ [遷移金属化合物がCp2ZrCl2の例]、 ・重合溶液のM/E-比が0の時は、重合活性g polymer/mol Zr・sが2809、Mηが490000、 ・重合溶液のM/E-比が3.45の時は、重合活性g polymer/mol Zr・sが3367、ポリマー中のMモル%が2.8、Mηが1 90000、 ・重合溶液のM/E-比が6.65の時は、重合活性g polymer/mol Zr・sが3282、ポリマー中のMモル%が3.5、 Mηが160000、 ・重合溶液のM/E-比が10.56の時は、重合活性g polymer/mol Zr・sが1960、ポリマー中のMモル%が5.2、Mηが160000 [遷移金属化合物がEt(Ind)2 ZrCl2 の例] ・重合溶液のM/E-比が0の時は、重合活性g polymer/mol Zr・sが940、Mηが114000、 ・重合溶液のM/E-比が3.45の時は、重合活性g polymer/mol Zr・sが3546、ポリマー中のMモル%が6.1、Mηが41000、 ・重合溶液のM/E-比が6.65の時は、重合活性g polymer/mol Zr・sが3355、ポリマー中のMモル%が10.9、Mηが26000、 ・重合溶液のM/E-比が10.56の時は、重合活性g polymer/mol Zr・sが3356、ポリマー中のMモル%が14.6、Mηが20000」(第294頁、表4) 2.刊行物2 ・摘示2-1:「均一系キラルなチーグラー・ナッタ触媒によるオレフィンの立体選択的重合」(第149頁の表題)、 ・摘示2-2:「遷移金属化合物として立体的に固定されたキラルなエチレン(ビスインデニル)ジルコニウムジクロリドまたはそれに対応するテトラヒドロインデニル化合物をメチルアルミノキサンと組合せて用いてプロピレンを重合すると容易にアイソタクチックなポリプロピレンが得られる。重合活性はジルコニウム1モル、1時間当り、40トン以上に達する。この方法で造られたポリマーは特徴的な性質を示す。平均分子量分布Mw/Mnは、むしろ狭く、1.9と3の間にある。トルエン可溶(アタクチック)成分量は0.2重量%より少なく、13C-nmrスペクトロスコピーにより求められるアイソタクチック連鎖長はプロピレン単位60と120の間にある。重合はバブルカラム中において行うことができる。同様な方法で、1-ブテン、イソブテンや4-メチル-1-ペンテンのような長鎖のα-オレフィンは、これらのキラルな触媒を用いて重合され、アイソタクチックな結晶性分子となり得る。」〔第149頁のSummary(要約)の項〕、 ・摘示2-3:「表6には、キラルではないビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリドとの比較データをまとめて示す。その結果、同等の条件のもとで、キラルな触媒による4-メチル-1-ペンテンの取り込みは、キラルではない触媒系よりも極めて高い(3倍)。ところが一方、キラルな触媒により得られた共重合体の平均分子量は極めて小さい(4倍)ことがわかった。」(第155頁下から第7行〜同頁最終行及び第156頁の表6)、 ・摘示2-4:「エチレン(圧力4bar)と4-メチル-1-ペンテン(20ml)の共重合(トルエン250ml中) [遷移金属化合物がrac Et(Ind)2ZrCl2 の例] ・濃度(mol/l)が5・10-8の時、Mηが62000、重合体中のコモノマー含量(mol%)が2.5、 ・濃度(mol/l)が5・10-7の時、Mηが49000、重合体中のコモノマー含量(mol%)が3.8、 [遷移金属化合物がCp2ZrCl2の例] ・濃度(mol/l)が5・10-8の時、Mηが270000、重合体中のコモノマー含量(mol%)が0.7」(第156頁の表6) 3.刊行物3 ・摘示3-1:「メルトフローレートが1ないし30g/10min、エチレン含有量が86ないし95モル%、密度が0.870ないし0.910g/cm3、X線による結晶化度が5ないし25%及び示差走査型熱量計による融点が60ないし100℃のエチレンと炭素数4ないし10のα-オレフィンとの共重合体(A):60ないし90重量%と、メルトフローレートが0.1ないし100g/min及び密度が0.910ないし0.925g/cm3の高圧法低密度ポリエチレン(B):40ないし10重量%とからなることを特徴とするエチレン・α-オレフィン共重合体組成物。」 ・摘示3-2:「本発明の組成物は、前記エチレン・α-オレフィン共重合体(A):60ないし90重量%、好ましくは70ないし80重量%と高圧法低密度ポリエチレン(B):40ないし10重量%、好ましくは30ないし20重量%とからなる。」(第3頁左上欄第14〜18行)、 ・摘示3-3:「本発明の組成物は、従来の高圧法低密度ポリエチレンに比べて機械的強度、柔軟性、透明性、ESCR(当審註:「耐環境応力亀裂性」)に優れており、またブチルゴム、EPDMに比べても機械的強度、耐熱老化性、耐候性、耐オゾン性に優れるので、チューブ、パイプ等を初めとくに電線被覆材として好適である。」(第3頁右上欄第20行〜同頁左下欄第5行)、 ・摘示3-4;「〈組成物の製造及び評価〉 前記方法で得られた共重合体70重量%(試料1)と高圧法低密度ポリエチレン(ミラソン(R)(当審註:「(R)」はRの丸付き文字)FL60)30重量%とを押出機によりブレンドした(押出機温度200℃、N2シール)。」(第4頁左上欄第13〜17行) 4.刊行物4 ・摘示4-1:「1)エチレンから導かれる構成単位(a)および炭素数3〜20のα-オレフィンから導かれる構成単位(b)からなるエチレン系共重合体であって、(A)前記エチレン系共重合体の密度が0.85〜0.92g/cm3であり、(B)135℃のデカリン中で測定した極限粘度[η]が0.1〜10dl/gの範囲にあり、(C)GPCにより測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.2〜4の範囲にあり、(D)190℃における10kg荷重でのMFR10と、2.16kg荷重でのMFR2との比(MFR10/MFR2)が8〜50の範囲にある、ことを特徴とするエチレン系共重合体。 2)(A)インデニル基またはその置換体から選ばれた少なくとも2個の基が低級アルキレン基を介して結合した多座配位化合物を配位子とするハフニウム化合物、または前記ハフニウム化合物をアルキルシリル化したシリカゲルで処理することによって得られるハフニウム触媒成分、および(B)有機アルミニウムオキシ化合物 から形成される触媒の存在下に、エチレンと炭素数3〜20のα-オレフィンとを、得られる共重合体の密度が0.85〜0.92g/cm3となるように共重合させることを特徴とするエチレン系共重合体の製造方法。」(特許請求の範囲)、 ・摘示4-2:「本発明は、新規なエチレン系共重合体およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、従来公知のエチレン系共重合体と比較して分子量分布(Mw/Mn)が狭いにもかかわらずポリマーの流動性に優れた新規なエチレン系重合体およびその製造方法に関する。」(第1頁右下欄第18行〜第2頁左上欄第3行)、 ・摘示4-3:「本発明は、上記のような従来技術における問題点を解決しようとするものであって、Mw/Mnが小さくて分子量分布が狭く、しかもMFR10/MFR2が大きくて流動性に優れているようなエチレン系共重合体およびその製造方法を提供することを目的としている。」(第4頁左上欄第14〜19行)、 ・摘示4-4:「本発明で用いられる炭素数3〜20のα-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセンなどが用いられる。」(第5頁左上欄第1〜6行)、 ・摘示4-5:「さらに本発明に係るエチレン系共重合体のゲルパーミエイションクロマトグラフィ(GPC)で求めた分子量分布(Mw/Mn)は、1.2〜4、好ましくは1.4〜3.5、さらに好ましくは1.5〜3.0の範囲にある。このように本発明に係るエチレン系共重合体は、分子量分布が狭く、優れた耐ブロッキング性を有している。」(第5頁左上欄第11〜17行)、 ・摘示4-6:「また本発明に係るエチレン系共重合体は、190℃における10kg荷重でのMFR10と、2.16kg荷重でのMFR2との比(MFR10/MFR2 )が8〜50、好ましくは8.5〜45、さらに好ましくは9〜40の範囲にある。このようにMFR10/MFR2が8〜50の範囲にあるようなエチレン系共重合体は、ポリマーの溶融時の流動性が極めて良好である。」(第5頁左下欄第5〜12行)、 ・摘示4-7:「上記のように本発明に係るエチレン系共重合体は、分子量分布(Mw/Mn)が小さく、成形体はべたつきが少ないなどの優れた特性を有しているとともに、MFR10/MFR2 が大きく、ポリマー溶融時の成形性に優れている。」(第5頁左下欄第17行〜同頁右下欄第1行)、 ・摘示4-8:「重合温度は-50〜150℃、好ましくは0〜120℃の範囲であることが望ましい。上記のようなオレフィンの重合は、通常、気相であるいは液相で行なわれる。液相重合においては、不活性炭化水素を溶媒としてもよいし、オレフィン自身を溶媒とすることもできる。」(第10頁右上欄第11〜16行)、 ・摘示4-9:「重合は、回分式、半連続式、連続式のいずれの方法においても行なうことができる。」(第10頁左下欄第8〜9行)、 ・摘示4-10:「発明の効果 本発明に係る新規なエチレン系共重合体は、Mw/Mnが小さくて分子量分布が狭く、しかもMFR10/MFR2 が大きくて流動性に優れている。したがって、このエチレン系共重合体は、優れた加工性を有するとともに、耐ブロッキング性などに優れている。」(第10頁左下欄第12〜18行)、 ・摘示4-11:「実施例1-中略-(重合) 充分に窒素置換した2 1のガラス製フラスコにトルエン950mlと1-オクテン50mlを加え、さらにエチレンガスを160 l/hrで流通させた。系内を55℃に昇温した後、メチルアルミノオキサンをアルミニウム原子換算で1.88ミリモルおよびエチレンビス(インデニル)ハフニウムジクロリドを7.5×10-3ミリモル添加し、重合を開始した。エチレンガスを連続的に供給しながら常圧下60℃で10分間重合を行なった。少量のメタノールを添加することにより重合停止を行ない得られた重合溶液を大量のメタノール中に注ぐことによってポリマーを折出させた。折出したポリマーを減圧下130℃で12時間乾燥することにより密度が0.866g/cm3であり、エチレン含量が81.3モル%であり、[η]が1.71dl/gであり、Mw/Mnが2.59であり、MFR2が2.12g/10分であり、MFR10/MFR2の比が13.1であるポリマー23.2gが得られた。」(第10頁右下欄第1行〜第11頁右上欄第9行) ・摘示4-12:「実施例3-中略-(重合) ハフニウム原子として6.6×10-3ミリグラム原子用い、70℃で35分間重合した以外は実施例1と同様に重合を行なったところ、密度が0.855g/cm3であり、エチレン含量が76.2モル%であり、[η]が1.89dl/gであり、Mw/Mnが2.48であり、MFR2が1.49g/10分であり、MFR10/MFR2の比が10.1である無色透明のポリマー42.4gが得られた。」(第11頁左下欄第14行〜同頁右下欄第14行) ・摘示4-13:「実施例5 実施例1の重合において重合温度を40℃とし重合時間を15分間とした以外は同様に重合を行なったところ、密度が0.868g/cm3であり、エチレン含量が82.0モル%であり、[η]が1.79dl/gであり、Mw/Mnが2.81がであり、MFR2が0.90g/10分であり、MFR10/MFR2の比が32.0であるポリマー20.5gが得られた。」(第12頁左上欄第5〜13行)(当審註:「Mw」、「Mn」の「M」は、上に「-」付きのM) 5.刊行物5 ・摘示5-1:「9.式 ![]() 〔式中、R’はそれぞれの場合に水素;またはアルキル、アリール、シリル、ジャーミル、シアノ、ハロ、からえらばれた部分、または20個までの非水素原子をもつそれらの組合せ、であるが、あるいはR’基の隣接対はシクロペンタジエニル部分に縮合したハイドロカルビル環を形成する;Xはそれぞれの場合ハイドライド;またはハロ、アルキル、シリル、ジャーミル、アリール、アミド、アリールオキシ、アルコキシ、シロキシ、および20個までの非水素原子をもつその組合せ、および20個までの非水素原子をもつ中性ルイス塩基からえらばれた部分である;Yは-O-、-S-、-NR*-、-PR*;またはOR*、SR*、NR*2もしくはPR*2からえらばれた中性の2価の原子の供与体リガンドであり; Mは前記定義のとおりであり;ZはSiR*2、CR*2、SiR*2SiR*2、CR*2CR*2、CR*=CR*、またはSiR*2、GeR*2、BR*、BR*2である; R*はそれぞれの場合に水素;またはアルキル、アリール、シリル、ハロゲン化アルキル、ハロゲン化アリール基、および20個までの非水素原子をもつそれらの組合せからえらばれた部分であるか、あるいはY,ZまたはYとZの双方からの2個またはそれ以上のR*基は縮合環系を形成する〕に相当する請求項6記載の金属配位錯体。」(請求項9)、 ・摘示5-2:「11.式 ![]() 式中、Mはシクロペンタジエニル基にη5 結合様式で結合するチタン、ジルコニウム、またはハフニウムであり;R’はそれぞれの場合に水素;またはシリル、アルキル、アリール、または10個までのケイ素原子をもつそれらの組合せからえらばれた部分であり;Eはケイ素または炭素であり;Xはそれぞれの場合にハイドライド、ハロ、アルキル、アリール、アリールオキシ、または10個までの炭素のアルコキシであり;mは1または2であり、そしてnはMの原子価に応じて1または3である〕に相当するアミドシランまたはアミドアルカンジイル化合物である請求項10記載の金属配位錯体。」(請求項11)、 ・摘示5-3:「本発明は拘束された幾何形状をもつ金属配位錯体に関する。更に詳しくは本発明は付加重合性モノマー特にエチレン性不飽和モノマーの重合に有用に使用される触媒形を作るために活性化用共触媒化合物(または化合物類混合物)と組合せて有用に使用されるこのような配位錯体に関する。」(第5頁右下欄12行〜第6頁左上欄第2行)、 ・摘示5-4:「本発明の錯体は、成形物品、包装用フィルム、およびクッション用フォームとして有用な、および合成および天然樹脂の変性において有用なポリマーを製造するための付加重合法の触媒として有用に使用される。」(第7頁右上欄第13行〜同頁左下欄第1行)、 ・摘示5-5:「ここに使用する活性化用共触媒の例としてAlO結合を含むアルミニウム化合物たとえばアルキルアルミノオキサン特にメチルアルミノオキサン」(第9頁右上欄第5行〜第7行)、 ・摘示5-6:「重合はチグラー・ナッタ型の又はカミンスキイ・シン型の周知の重合技術により通常行なわれる。すなわち、モノマーと触媒は減圧、昇圧または大気圧において-30℃〜250℃の温度で行なわれる。重合は不活性雰囲気(窒素、アルゴン、水素、エチレンなどのようなブランケット用ガスでありうる)のもとで、または真空下で行なわれる。水素は当業技術において周知のように鎖停止による分子量調節に付加的に使用することもできる。触媒はそのまゝで使用することができ、又はアルミナ、MgCl2またはシリカのような好適な担体に担持させて不均一担体付き触媒として使用することもできる。所望ならば溶媒を使用することもできる。好適な溶媒としてトルエン、エチルベンゼン、および過剰のビニリデン芳香族またはオレフィンモノマーをあげることができる。反応はまた溶液もしくはスラリー条件下で、完全弗素化炭化水素または類似の液体を使用する懸濁液中で、気相(すなわち流動床反応器を使用する気相)中で、あるいは固相粉末重合において、行なうこともできる。」(第13頁左下欄第11行〜同頁右下欄第13行)、 ・摘示5-7:「本発明により製造されるポリマー類の若干、特にエチレンとα-オレフィン(エチレン以外)とのコポリマー、は独特のレオロジー特性によって特徴づけられる。特に、該ポリマー(以後、弾性ポリエチレンまたはElPE、と呼ぶ)は通常製造される同様のオレフィン含量の線状ポリエチレン樹脂よりもニュートン性が小さい。これらのポリマーはまたそのような通常のポリマーに比べて(特に、高いメルトインデックスにおいて)高い弾性率を示す。この性質は樹脂を、たとえばブロー成形技術によるフィルム、フォームおよび組立て物品の製造に特に有用なものとする。」(第16頁右下欄第4行〜第13行)、 ・摘示5-8:「本発明のポリマーは、更に変性すると否とにかかわらず、合成または天然のポリマーと混合して望ましい性質をもつブレンドを与えることができる。特にポリエチレン、エチレン/α-オレフィンコポリマー、ポリプロピレン、ポリスチレン、スチレン/アクリロニトリルコポリマー類(そのゴム変性誘導体を包含する)、シンジオタクチックポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、芳香族ポリエステル、ポリイソシアネート、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、シリコーン、およびポリフェニレンオキサイドポリマーを本発明のポリマー組成物にブレンドすることができる。」(第18頁右下欄7行〜第19頁左上欄第2行) ・摘示5-9:「実施例4 オレフインコポリマー重合 アルゴン雰囲気下のグローブ・ボツクス中で、トルエン中のメチルアルミノキサン(MAO)の1.0M溶液5.0mlを、両端に球弁を付けたステンレス鋼(ss)をシヨツトタンク中の1-オクテン50mlと混合した。別のssシヨツトタンク中で、トルエン中の(第3級ブチルアミド)ジメチル(テトラメチル-η5-シクロペンタジエニル)シランジルコニウムジクロライドの0.01M溶液500μl(5.06μモル)を2mlトルエンに加えた。これらのシヨツトタンクを密封し、グローブボツクス取出し、600mlのss圧力容器に取付けた。圧力容器を真空にし、アルゴンでパージした。1-オクテンとMAOとの溶液を加圧容器に加えた。溶液を撹拌しながら620kPa(90psig)のエチレンのもとで89℃に加温した。この時点で触媒溶を加えた。発熱反応が起り、温度は142℃に上昇した。エチレン圧を1310〜1345kPa(190〜195psig)の間に保つた。0.5時間後にエチレン供給を止めた。反応器を30℃に冷却し、大気圧に排気し、そしてメタノールで反応物を急冷した。生成物をフリントガラスフイルタ上に集め、メタノールで洗浄した。残存溶媒を減圧下で110℃において除去し、35gの物質をえた。13C NMR分析は1-オクテンが7.8モル%の量でポリマー中に取込まれたことを示した。走査示差熱計(DSC)は100℃のTmを示した。・・・」 6.刊行物6 ・摘示6-1:「本発明は、元素周期表IVB族遷移金属のシクロペンタジエニル金属化合物に関するものであり、またモノシクロペンタジエニルIVB族遷移金属化合物とアルミノキサンとを含む触媒系及び、前記触媒系を用いてポリオレフィン、特にポリエチレン、ポリプロピレン及び、エチレンとプロピレンの高分子量のα-オレフィンコポリマーを製造する方法に関する。」(第1頁第9行〜第17行)、 ・摘示6-2:「本発明の触媒系は、高重量の平均分子量及び比較的狭い分子量分布を有するポリオレフィンを製造するために、溶液、スラリー又は凝集相重合操作に用いられる元素周期表(CRC Handbook of Chemistry and physics,68版、1987-1988)のIVB族の遷移金属化合物とアルミノキサン成分とを含む。」(第4頁第35行〜第5頁第6行)、 ・摘示6-3:「エチレン重合又は共重合のような本発明の典型的な重合方法は、エチレン又はC3-C20のα-オレフィンを単独で、又はC3-C20のα-オレフィン、C5-C20のα-ジオレフィン及び/又はアセチレン性不飽和モノマーを含む他の不飽和モノマー単独又は他のオレフィン及び/又は他の不飽和モノマーと組み合わせたものとともに、約1:1乃至約20,000又はそれより多い、遷移金属に対するアルミニウムのモル比を与える量で上記のIVB族の遷移金属成分及びメチルアルミノキサンを適した重合希釈剤中に含む触媒に接触させる工程及び、そのような触媒系の存在下で前記モノマーを約-100℃乃至約300℃の温度で約1秒間乃至約10時間反応させて約1000又はそれ以下から約5,000,000又はそれ以上の重量平均分子量そして約1.5乃至約15.0の分子量分布を有するポリオレフィンを製造する工程を含む。」(第8頁第14行〜第33行)、 ・摘示6-4:実施例36には、「MW=548,600、MWD=3.007、16.5 SCB/1000C by 13CNMR」のエチレン-1-オクテン共重合体が得られたことが記載されており、また、実施例36には、「MW=548,600、MWD=3.007、16.5 SCB/1000C by 13CNMR」のエチレン-1-オクテンが得られたことが記載されており、また、実施例47には、「MW=73,100、MWD=2.552、77.7 SCB/1000C by 13CNMR」のエチレン-1-オクテン共重合体が得られたことが記載されている。 ・摘示6-5:「本発明に基づき製造される樹脂は、フィルム及び繊維を含む各種の製品を製造するのに用いられる。」(第93頁第15行〜第17行) 7.刊行物7 ・摘示7-1:「3.(a)エチレン成分の含有率が35〜85重量%の範囲にあり、そしてα-オレフィン成分の含有率が15〜65重量%の範囲にあり、(b)135℃のデカリン中で測定した極限粘度〔η〕が0.5〜10dl/gの範囲にあり、(c)ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで求めた分子量分布(Mw/Mn)が2.5以下であり、 (d)X-線回折法で求めた結晶化度が30%以下であり、(e)下記式(I) B≡POE/2PO ・PE (I) 〔式中、PE は共重合体中のエチレン成分の含有モル分率を示し、PO はα-オレフィン成分の含有モル分率を示し、POEは全dyad連鎖のα-オレフィン・エチレン連鎖のモル分率を示す〕で表わされるB値が、下記式(II) 1.05≦B≦2 (II) を満足する範囲にあり、(f)13C-NMR スペクトル中には、共重合体主鎖中の隣接した2個の3級炭素原子間のメチレン連鎖に基づくαβおよびβγのシグナルが観測されない、そして(g)沸騰酢酸メチル可溶部が2.0重量以下である、エチレンおよび炭素原子数3〜20のα-オレフィンからの低結晶性エチレン系ランダム共重合体から成る熱可塑性樹脂用配合剤。」(特許請求の範囲第3項)(当審註:「Mw」、「Mn」の「M」は、上に「-」付きのM)、 ・摘示7-2:「本発明の低結晶性エチレン系ランダム共重合体は、種々の熱可塑性樹脂に、その改質剤として配合することができる。本発明の低結晶性エチレン系ランダム共重合体をポリエチレンなどのエチレンを主成分として含む他のエチレン系重合体に配合することにより、該他のエチレン系重合体の耐衝撃性とくに低温耐衝撃性、耐屈曲性、低温ヒートシール性の改善されたエチレン系重合体組成物が得られ、しかも該エチレン系重合体組成物は低結晶性エチレン系ランダム共重合体の配合により透明性および表面非粘着性の低下をもたらさないという特徴がある。」(第9頁左下欄第16行〜同頁右下欄第7行)、 ・摘示7-3:「〔発明の効果〕 以上のとおり、本発明の低結晶性エチレン系ランダム共重合体は分子量分布、組成分布が狭く、透明性に優れ、表面非粘着性でありそして低結晶性である。本発明の上記共重合体は熱可塑性樹脂に配合することにより該樹脂の種々の性質を改良する。」(第16頁右下欄第1〜7行) [5]特許法第29条第1項(第3号に該当)及び第2項違反について 〈1〉各刊行物の記載事項との対比 上記[3]で述べたように、本件の請求項1〜75に係るすべての発明はいずれも「実質的に線状であるオレフィン(エチレン)ポリマー」という点を構成に欠くことのできない事項としており、このポリマーは、要するに、6個以上の炭素を有する分岐鎖をポリマーのバックボーンの炭素1000個当たり0.01〜3個有しており、それは13C核磁気共鳴分光法を用いランダルの方法により定量されたものと認められる。 そこで、先ずこの点が上記各刊行物に記載されているか否かについて検討する。 (1)刊行物1について 刊行物1には、触媒としてCp2ZrCl2やEt(Ind)2ZrCl2を使用してエチレン/4-メチル-1-ペンテン共重合体を重合することについて記載されているが、この共重合体について、6個以上の炭素を有する分岐鎖がバックボーンの炭素1000個当たり幾つあるかということについては、何の記載もされていない。 (2)刊行物2について 刊行物2には、触媒としてエチレン(ビスインデニル)ジルコニウムジクロライドを使用してエチレン/4-メチル-1-ペンテン共重合体を重合することについて記載されているが、この共重合体について、6個以上の炭素を有する分岐鎖がバックボーンの炭素1000個当たり幾つあるかということについては、何の記載もされていない。 (3)刊行物3について 刊行物3には、エチレンと炭素数4〜10のα-オレフィン共重合体の組成物については記載されているが、この共重合体について、6個以上の炭素を有する分岐鎖がバックボーンの炭素1000個当たり幾つあるかということについては、何の記載もされていない。 (4)刊行物4について 刊行物4には、インデニル基が低級アルキレン基を介して結合した多座配位化合物を配位子とするハフニウム触媒成分と有機アルミニウムオキシ化合物を使用して、エチレンと炭素数3から20のα-オレフィンを共重合して、Mw/Mnが1.2〜4、MFR10/MFR2が8〜50のエチレン共重合体を得ることが記載されており、実施例1、3、5では1-オクテンを使用した例が記載されているが、得られた共重合体について本件明細書で定義するような13C核磁気共鳴分光法を用いランダルの方法により定量された炭素数6以上の分岐鎖がどのくらい存在するかについては、何の記載もされていない。 なるほど、実施例1、3、5において、1-オクテンを共重合すれば炭素数6以上の分岐鎖が生ずるものと考えられるが(なお、実施例1、3、5において、1-オクテン含量は18.7モル%、23.8モル%及び18.0モル%と計算される。)、その存在割合がバックボーンの炭素1000個(即ちモノマー500モル)に対して僅か3個以下(モノマーの割合で0.6モル%以下)のものまでは記載されていない。 (5)刊行物5について 刊行物5には、本件製造方法に係る発明で使用する触媒(例えば、本件請求項12で使用する触媒)を使用して製造されるポリマーの例として、エチレンとα-オレフィンとのコポリマーも挙げられ、その実施例4では13C NMR分析で1-オクテンが7.8モル%ポリマー中に組み込まれていることが記載されているが、本件発明のような炭素数6以上の分岐鎖がバックボーンの炭素1000個当たり僅か3個以下(即ち、0.6モル%以下)のものまでは記載されてはいない。 (6)刊行物6について 刊行物6には、モノシクロペンタジエニルIVB族遷移金属化合物とアルミノキサンとを含む触媒系を用いてエチレンまたはエチレンとC3〜20のα-オレフィンとの重合体を製造することが記載されており、更に、その実施例36及び47ではSCB/1000C 13C NMRがそれぞれ16.5及び77.7のエチレン-1-オクテン共重合体(これは6個以上の炭素を有する分岐鎖を生ずると考えられる。)が得られたことが記載されているが、本件発明のような炭素数6以上の分岐鎖がバックボーンの炭素1000個当たり僅か3個以下のものまでは記載されてはいない。 (7)刊行物7について 刊行物7には、エチレンが35〜85重量%で炭素数3〜20のα-オレフィンが15〜65重量%の共重合体について記載されているが、この共重合体について、6個以上の炭素を有する分岐鎖がバックボーンの炭素1000個当たり幾つあるかということについては、何の記載もされていない。 (8)まとめ 以上に述べたように、刊行物1〜7には、本件発明の要件である「実質的に線状であるオレフィン(エチレン)ポリマー」については記載されていないと言える。 〈2〉異議申立人が提出した実験報告書についての検討 1.異議申立人:住友化学工業株式会社が提出した甲第1号証(刊行物1)に係る実験報告書(甲第3号証「1a」)について 異議申立人は、甲第1号証(刊行物1)の第294頁表4第6行目に記載の方法に則って、以下の重合を行った、としている。 「窒素雰囲気中、内容積1リットルのステンレス製オートクレーブに、トルエン250mlと4-メチル-1-ペンテン27mlを投入し、PMAOをアルミニウム原子換算で5.4mmol、エチレンビスインデニルジルコニウムジクロリド0.5μmolを入れ、エチレンの圧力を2barに保ちながら、30℃で60分間重合した。重合後、エタノールを加えて重合を停止し、塩酸を含んだ1.2 lのメタノール中に内容物を投入しポリマ-を析出させた。ろ過によりポリマ-を回収し、80℃で8時間乾燥することにより、エチレン・4-メチル-1-インデン共重合体(A)を得た。」(第1頁下から7〜1行) ここで、5.4mmolは約2.16×10-2mol/lと計算され、0.5μmolは約2.0×10-2mol/lと計算されるから、刊行物1に記載された「[Zr]:2・10-2mol/l」及び「[Al]:2.1・20-2mol/l(「20」は「10」の誤記と認められる。)」とほぼ一致する。 従って当該実験報告書におけるポリマーの製造条件は刊行物1の記載にほぼ忠実に行ったものと言えるが、ただ、刊行物1には重合時間についての記載がされておらず、追試実験ではこれを60分で行っている。 本実験報告書のように、刊行物1に記載の製造方法を追試した結果得られたポリマーの構造や物性が本件発明の物と同じであることを立証しようとする場合においては、重合時間によって得られるポリマーの構造や物性が影響されないような場合ならばともかく、そうでない場合には、重合時間は追試実験の重要な要素であり、刊行物にそれが記載されていないような場合には、合理的な重合時間を設定して重合を行わない限り、直ちにその追試が適当であったと言うことはできない。 刊行物1記載の方法は、トルエン溶媒に予め4-メチル-1-ペンテンを投入し、触媒の存在下、エチレンを一定圧力を保って重合を行うのであるから、重合時間の経過に従い平均分子量も上昇する他、コモノマーである4-メチル-1-ペンテンは減少しエチレンの重合割合が高まることが十分考えられる。そうであるとすると、重合時間の経過によってはコポリマーの構造や物性が異なることは十分に起こり得ることである。そして、追試実験の結果である表1を見ても、刊行物1記載のものと追試実験のものでは分子量やコモノマー含有量に次のような相違が認められる。 ..........................刊行物1の記載.....甲第3号証追試実験 粘度平均分子量 Mη.......41000.........50800 4-メチル-1-ペンテン 含量/mol%................6.1..............6.6 してみれば、この追試実験において合理的な重合時間設定が行われたとすることはできず、実験自体、刊行物1に記載されたものの適正な追試とはいえない。 従って、この追試実験で得られたコポリマーが炭素数6以上の長鎖分岐の個数が0.01〜3個/炭素1000個であったとしても、それをもって刊行物1にこのようなコポリマーが記載されているとすることはできない。 2.異議申立人:住友化学工業株式会社が提出した甲第2号証(刊行物2)に係る実験報告書(甲第3号証「1b」)について 異議申立人は、刊行物2の第156頁表6第2行目に記載の方法に則って、以下の重合を行った、としている。 「トルエンを500mlに、4-メチル-1-ペンテンを40mlに、エチレンビスインデニルジルコニウムジクロリドを0.25μmolに、PMAOをアルミニウム原子換算で10.7mmolに、エチレンの圧力を4barに変更した以外は、上記(la)と同様にして重合を実施し、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体(B)を得た。」(第2頁第2〜4行) 当該追試実験は刊行物2記載の2倍量の規模で実験を行っており、追試実験におけるポリマーの製造条件は刊行物2の記載にほぼ忠実に行っていたと言えるが、ただ、刊行物2には重合時間についての記載がされておらず、追試実験でも重合時間の記載はない。 そして、追試実験の結果である表1を見ても、刊行物2記載のものと追試実験のものでは分子量やコモノマー含有量に次のような相違が認められる。 ..........................刊行物2の記載.....甲第3号証追試実験 粘度平均分子量 Mη.........49000.........63000 4-メチル-1-ペンテン 含量/mol%................3.8............4.6 してみれば、上記刊行物2のものの追試実験と同様、この追試実験において合理的な重合時間設定が行われたとすることはできず、実験自体、刊行物2に記載されたものの適正な追試とはいえない。 従って、この追試実験で得られたコポリマーが炭素数6以上の長鎖分岐の個数が0.01〜3個/炭素1000個であったとしても、それをもって刊行物2にこのようなコポリマーが記載されているとすることはできない。 3.異議申立人:出光石油化学株式会社が提出した甲第4号証(刊行物1)に係る実験報告書(甲第2号証)について 異議申立人は、刊行物1の第294頁表4第6行目に記載の方法に則って、以下の重合を行った、としている。 「文献記載の反応スケールの2.0倍で再現合成を実施した。また、4-メチル-ペンテン-1量は文献記載のM/E=3.45を満足する使用量を事前に決定した。再現合成の詳細は以下のようにして実施した。オートクレーブを80℃に加熱減圧し充分乾燥した後、室温まで冷却し、窒素で常圧にした。窒素雰囲気下、トルエン500ミリリットル、引き続き、温度20℃に保った4-メチル-ペンテン-1を47ミリリットル、速やかに採取しオートクレーブに注入した。これにメチルアルミノキサン(MAO)を10.5ミリモル投入した。次に、500rpmで撹拌を開始し、反応温度を30℃に制御した。この状態を保ったまま、エチレンをオートクレーブに導入し、エチレン圧力が2バールとなるように飽和、吸収させた。重合はエチレンビスインデニルジルコニウムジクロリド[Et[lnd]2ZrC12]を1.0×10-6モル添加することで開始した。反応温度を30℃に制御しながら、エチレン圧が2バールと一定となるようにエチレンを供給し続けた。110分共重合を実施した後、メタノールを少量添加して重合反応を停止し、未反応エチレンを脱圧によりオートクレーブから除去した。生成したポリマーを含む反応混合物は36%塩酸水溶液10ミリリットルとメタノール2リットルからなる混合溶液に投入し撹伴することで、触媒成分を脱灰し、更に2リットルのメタノールで3回洗浄/ろ過を繰り返した。ろ過により回収したポリマーは一昼夜、風乾したのち、80℃で減圧乾燥を10時間実施した。」(第4頁第5〜22行) この追試実験におけるポリマーの製造条件は刊行物1の記載にほぼ忠実に行ったものと言えるが、ただ、刊行物1には重合時間についての記載がされておらず、追試実験ではこれを110分で行っている。 そして、追試実験の結果である表1を見ても、刊行物1記載のものと追試実験のものではコモノマー含有量に次のような相違が認められる。 ........................刊行物1の記載......甲第3号証追試実験 4-メチル-1-ペンテン 含量/mol%..............6.1............6.6 してみれば、上記1.、2.と同様、この追試実験において合理的な重合時間設定が行われたとすることはできず、実験自体、刊行物1に記載されたものの適正な追試とはいえない。 従って、この追試実験で得られたコポリマーが炭素数6以上の長鎖分岐の個数が0.01〜3個/炭素1000個であったとしても、それをもってそれをもって、刊行物1にこのようなコポリマーが記載されているとすることはできない。 4.異議申立人:出光石油化学株式会社が提出した甲第1号証(刊行物4)に係る実験報告書(甲第3号証)について 異議申立人は、刊行物4の第11頁の実施例2に記載に従って、以下の重合を実施した、と実験証明書(甲第3号証)に記載している。 「但し、再現合成は実施例2の2.0倍のスケールで実施した。すなわち、 ・トルエン :2000ミリリットル ・メチルアルミノキサン(MAO) :3.76ミリモル ・エチレンビスインデニルハフニウムジクロリド:15×l0-3ミリモル [Et[lnd]2HfCl2] ・エチレンとプロピレンの供給は特許記載の流量比を保ちながら流量を2倍とした。 その他の条件は特開平2一276807記載の実施例2と同様にして、再現合成を実施した。」(第4頁第12〜18行) 追試実験は刊行物4記載の2倍量の規模で実験を行っており、追試実験に於けるポリマーの製造条件は刊行物4の記載にほぼ忠実に行ったものと言えるが、ただ、追試実験の重合時間や圧力については「その他の条件は特開平2一276807記載の実施例2と同様にして」と言うように抽象的に記載しているだけであって、刊行物4の実施例2に記載されているように「エチレンと/プロピレンの混合ガスを連続的に供給しながら常圧下80℃で10分間重合を行った。」ことが明確に示されていない。 そして、得られた重合体についても、刊行物4の記載と追試結果では次に示すように微妙な相違が認められ、エチレン含量、極限粘度、分子量分布などについては顕著に相違する。 ......................刊行物4(実施例2)......追試実験 エチレン含量(モル%)......84.0................80.0 密度(g/cc)...........0.887..............0.880 極限粘度(dl/g)........1.50.................1.69 メルトインデックスI2 .....0.80..................0.42 (g/10分) I10 .....10.16(計算値)......6.09 I10/I2 ...............12.7..............14.5 分子量分布(Mw/Mn)......2.50.................1.90 異議申立人の行った追試実験は刊行物4(実施例2)をかなり忠実に追試したと言えるが、かかる実験条件の不明確さや実験結果の不一致を総合判断すると、このような実験報告書の記載により、直ちに異議申立人の追試が全面的に適切であったと認めることはできない。 従って、この追試実験で得られたコポリマーが炭素数6以上の長鎖分岐の個数が0.01〜3個/炭素1000個であったとしても、それをもって、刊行物4にこのようなコポリマーが記載されているとすることはできない。 5.まとめ 以上のとおりであるから、両異議申立人の行ったいずれの追試実験の結果を見ても、本件請求項1〜75に係るすべての発明に共通する要件である「実質的に線状であるオレフィン(エチレン)ポリマー」が刊行物1、2又は4に記載されていたものとすることはできない。 〈3〉「実質的に線状であるオレフィン(エチレン)ポリマー」の想到容易性 「実質的に線状であるオレフィン(エチレン)ポリマー」は先に述べたように、要するに構造的には6個以上の炭素を有する分岐鎖をポリマーのバックボーンの炭素1000個当たり0.01〜3個有しているポリオレフィン(エチレン)ポリマーであるが、バックボーンの炭素1000個当たり0.01〜3個と言うことは 、モノマー500モルに対して僅か3モル以下(モノマーの割合で0.6モル%以下)であるから、分岐鎖の数はかなり少ないものである。 そうすると、上記のように、分岐鎖について何ら触れるところがないか、又は、本件発明のものよりはるかに多い分岐鎖を有するポリマーが開示されているに過ぎない各刊行物の記載に基づいて、本件発明の「実質的に線状であるオレフィン(エチレン)ポリマー」が容易に想到し得たとすべき理由はない。 〈4〉まとめ したがって、本件請求項1〜75に係る発明は、いずれも「実質的に線状であるオレフィン(エチレン)ポリマー」という点を構成に欠くことのできない事項としており、これに他の要件を付加したものであるから、この点が刊行物1〜7に記載されたものではなく、またそれから当業者が容易に想到し得たものでない以上、他の要件について判断をするまでもなく、刊行物1〜7に記載された発明であるとも、それに基づいて当業者が容易に発明し得たものであるともいえない。 よって、両異議申立人が主張するように、請求項1〜19、33〜51、51、64〜68及び74に係る発明が特許法第29条第1項(第3号に該当)違反であるとすることはできず、また、請求項1〜75に係る発明が特許法第29条第2項違反であるとすることもできない。 [5]特許法第36条違反について 1.異議申立人:出光石油化学株式会社は、本件特許明細書の記載は不備であるとして概略次のような主張をしている。 (1)本件明細書の定義に従えば、炭素数6個より大の長鎖分岐量はバックボーンの炭素1000個当りの0.01〜3個と定義しているが、これは500モノマー当りのモル%に換算すると0.6モル%未満となる。しかるに、実施例に開示されたエチレン/1-オクテンコポリマーは樹脂密度の結果からみて、1-オクテンの含有量すなわち、長鎖分岐含有量は大幅に0.6モル%を超えていることが明白である。従って、特許請求の範囲の規定を満足するものは一つとして開示されていない。 (2)本件発明で言う長鎖分岐には1-オクテンに由来する長鎖分岐を含めるとするならば、1-オクテンは他のコモノマー例えば1-プロペンなどと同列に例示されるべきでなく、また、本件発明で言う長鎖分岐には1-オクテンに由来する長鎖分岐を含めるないとするならば、1-オクテンに由来する長鎖分岐とそうでない長鎖分岐を分別検出することは不可能であり、いずれにしろ記載に矛盾が存在する。 2.記載不備の主張についての判断 (1)について 本件発明において、「実質的に線状であるオレフィンポリマー(ないしエチレンポリマー)」とは、ポリマーのバックボーンが炭素1000個当たり0.01〜3個の長鎖分岐によって置換されていることを意味すと共に、長鎖の分岐は、13C核磁気共鳴分光法を用いて決定され、ランダル(Randall)の方法(「Rev.Macromol.Chem.Phys.」、C29(2&3)、第285〜297頁;この記載は参照として本明細書に含まれる)を用いて定量される、と明細書中に定義されている。 したがって、1-オクテンに由来するものであろうとなかろうと、この定義に合致するものであれば、長鎖分岐に含まれると言わざるを得ない。 異議申立人の主張するように、仮に、実施例に示されたエチレン/1-オクテンコポリマーの1-オクテンの含有量すなわち長鎖分岐含有量が請求項に記載された範囲と一致しないとするならば、その実施例は請求項に係る発明に含まれないというだけのことであって、本件明細書にはコポリマーの製造に係る具体的手法が充分開示されている以上、明細書の記載に基づいて当業者が容易に発明を実施し得ないとまではいえない。 (2)について (1)において述べたように、1-オクテンに由来するか否かにかかわらず、13C核磁気共鳴分光法を用いて決定され、ランダル(Randall)の方法を用いて定量された「炭素1000個当たり0.01〜3個の長鎖分岐によって置換されている」オレフィンポリマーは、すべて本件発明のポリマーに含まれる。 従って、コモノマーの例示記載で1-オクテンを特別扱いする必要もなく、また、1-オクテンに由来するものとそうでないものを分別検出することが不可能であっても何等問題はない。 なお、異議申立人は、請求項2等の「表面にメルトフラクチャーが起こり始める時」という記載が不明瞭であるとの主張も行っているが、この点については、発明の詳細な記載(特許公報第19欄第27行〜第22欄第4行)に充分に説明されており、不明瞭とは言えない。 (3)まとめ したがって、本件特許明細書には、特許異議申立人の主張する記載不備はない。 [6]むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては本件請求項1〜75に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1〜75に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2003-07-01 |
出願番号 | 特願平5-507805 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08F)
P 1 651・ 531- Y (C08F) P 1 651・ 534- Y (C08F) P 1 651・ 113- Y (C08F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 佐々木 秀次、藤本 保 |
特許庁審判長 |
井出 隆一 |
特許庁審判官 |
中島 次一 船岡 嘉彦 |
登録日 | 1999-08-06 |
登録番号 | 特許第2963199号(P2963199) |
権利者 | ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー |
発明の名称 | 弾性で実質的に線状であるオレフィンポリマー |
代理人 | 久保山 隆 |
代理人 | 中山 亨 |
代理人 | 小田嶋 平吾 |
代理人 | 小田島 平吉 |
代理人 | 神野 直美 |
代理人 | 田中 貞良 |
代理人 | 深浦 秀夫 |
代理人 | 大谷 保 |