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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
管理番号 1081455
異議申立番号 異議2002-72236  
総通号数 45 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-02-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-09-10 
確定日 2003-08-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第3265591号「溶接部靱性に優れた自動車用高強度電縫鋼管」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3265591号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3265591号の請求項1、2に係る発明についての出願は、平成3年8月12日に特許出願され平成14年1月11日にその発明について特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人新日本製鐵株式会社により特許異議の申立てがなされ、その特許異議申立の理由により取消理由が通知されたものである。
2.特許異議申立てについての判断
(1)申立て理由及び取消理由の概要
申立人新日本製鐵株式会社は、証拠として甲第1〜4号証を提出し、本件特許の請求項1、2に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、また、同請求項1、2に係る発明は、甲第1〜4号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、請求項1、2に記載の発明に係る特許を取り消すべきことを主張しており、その理由を援用(甲第1〜4号証を刊行物1〜4として)して取消理由の通知がなされた。
(2)本件発明
本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 重量割合にて C:0.06〜0.30%,Si:1.0%以下,Mn:2.0%以下,Mo:0.05〜0.8%,Nb:0.005〜0.10%,Ti:0.005〜0.04%,sol.Al:0.005〜0.05%,B:0.0003〜0.0012%,N:0.008%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物である成分組成を有して成ることを特徴とする、溶接部靱性に優れた自動車用高強度電縫鋼管。
【請求項2】 重量割合にて C:0.06〜0.30%,Si:1.0%以下,Mn:2.0%以下,Mo:0.05〜0.8%,Nb:0.005〜0.10%,Ti:0.005〜0.04%,sol.Al:0.005〜0.05%,B:0.0003〜0.0012%,N:0.008%以下を含むと共に、更に Cr:1.5%以下,Ni:3.0%以下,Cu:1.0%以下,V:0.10%以下のうちの1種以上をも含有し、残部がFe及び不可避的不純物である成分組成を有して成ることを特徴とする、溶接部靱性に優れた自動車用高強度電縫鋼管。」
(3)引用刊行物記載の発明
刊行物1(特許異議申立人の提出した甲第1号証)には、以下のような発明が記載されている。
「重量割合にてC:0.01〜0.30%,Si:0.5%以下,Mn:0.5〜2.0%,P:0.03%以下,S:0.01%以下,sol.Al:0.05%以下,N:0.008%以下を含有すると共に、Nb:0.1%以下,V:0.15%以下,Ti:0.1%以下の1種以上、並びにCr:0.05〜1.0%,Mo:0.05〜1.0%,Cu:0.1〜1.0%,Ni:0.1〜3.0%,B:0.0005〜0.002%,Ca:0.0010〜0.010%の1種以上をも含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる鋼を素材として電縫鋼管を製造し、その電縫溶接部をAc3点〜(Ac3点+200℃)の温度域に加熱後、冷却速度:10℃/sec以上で冷却し、次いで該溶接部をAc1点〜Ac3点のオーステナイト・フェライト二相域に加熱後、再び650〜200℃の温度域まで冷却速度:5℃/sec以上で冷却し、その後空冷することを特徴とする、低温靱性に優れた高張力電縫鋼管の製造法。」[特許請求の範囲(2)]
「近年、溶接技術を含む電縫鋼管製造技術の目覚ましい進展に伴い、ラインパイプ、油井管或いは建築物等の構造用材料に対して電縫鋼管の適用が著しい伸びを見せているが、他方で前記構造材には益々の高強度化、高靱性化が要求されるようになってきており、そのため高張力電縫鋼管にも更なる靱性向上が強く望まれるようになってきた。」(第2頁左上欄第11行〜同欄第17行)
「本発明に従うと、従来法では得られない優れた溶接部靱性を示す電縫鋼管が安定して実現されることが分かる。」(第5頁右上欄末行〜第7頁左上欄第2行)
刊行物2(特許異議申立人の提出した甲第2号証)には、各種機械構造用鋼管として、電気抵抗溶接鋼管(電縫鋼管)について、材質は、炭素鋼で、自動車の油圧シリンダ、アクスルチューブ、プロペラシャフト、ステアリングシステムクロスメンバ等に使用することが、示されている。
刊行物3(特許異議申立人の提出した甲第3号証)には、「電縫鋼管の製造品種は、・・・機械構造用鋼管、・・・」と記載されている。
刊行物4(特許異議申立人の提出した甲第4号証)には、「自動車ドア補強材用高強度電縫鋼管の曲げ強度に関する検討」と題する論文において、「供試材」として、「鋼種」は、「C-Mn鋼、Cr-B鋼、Cr-Mo鋼」を用いることが示されている。
(4)対比・判断
本件発明1と刊行物1に記載の発明とを対比すると、C,Si,Mn,Mo,Nb,Ti,sol.Al,B及びNの含有量の範囲に関して重複し、残部がFe及び不可避的不純物である成分組成を有する、溶接部靱性に優れた高強度電縫鋼管である点で一致し、本件発明1は、「自動車用」であるのに対して、刊行物1に記載されたものは、「ラインパイプ、油井管或いは建築物等の構造用」である点で相違する。
そこで、相違点について、以下検討する。
本件発明1における自動車用とは、引張強さ:70〜120kgf/mm2の高強度と高い疲労特性を備えると共に溶接部靱性にも優れたもの(段落0001)であるところ、引用例1には、溶接部の靱性に関する記載はあるものの、強度については、高強度であるという一般的記載しかなく、高強度の具体的なレベルに関して全く記載されておらず、さらに、疲労特性についても全く記載されておらず、ラインパイプ、油井管或いは建築物等の構造用とすることが記載されているのみで、自動車用であることが記載されていない。
したがって、本件発明1は、引用例1に記載された発明とすることができず、特許法第29条第1項第3号の規定に該当する発明とはいえない。
次に、容易性について検討する。
刊行物2には、電気抵抗溶接鋼管(電縫鋼管)自動車の油圧シリンダ等の各種機械構造用鋼管として用いられることが、刊行物3には、電縫鋼管の製造品種として、機械構造用鋼管が、刊行物4には、高強度電縫鋼管を自動車ドア補強材用とすることが、言い換えると、一般的に電縫鋼管を自動車用とすることが、それぞれ、記載または示唆されているものの、刊行物2に記載のものの材質は、炭素鋼であり、刊行物3に記載のものの鋼種は、特に記載されておらず、刊行物4に記載のものの鋼種は、C-Mn鋼、Cr-B鋼、Cr-Mo鋼であって、引用例1の鋼種とは異なるものであるから、刊行物2〜4には、引用例1に記載の成分組成の電縫鋼管を自動車用とすることが示唆されているものとはいえない。
そして、本件発明1は、請求項1に記載された事項を発明の構成とすることにより、自動車用として十分優れた溶接部靱性を備える高強度電縫鋼管を比較的低コストで安定提供できる(段落0024)という格別顕著な作用効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1は、刊行物1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものともいえない。
次に、本件発明2は、「自動車用」であることを必須の構成要件とするものであるから、刊行物1には、本件発明2と重複する成分組成を有する電縫鋼管が記載されていても、本件発明1と同様に、刊行物1に記載の発明であるとも、刊行物1〜4に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。
したがって、本件発明2は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることがでないものであるとも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるともいえない。
4.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件発明1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-07-16 
出願番号 特願平3-226455
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C22C)
P 1 651・ 113- Y (C22C)
最終処分 維持  
特許庁審判長 三浦 悟
特許庁審判官 後藤 政博
平塚 義三
登録日 2002-01-11 
登録番号 特許第3265591号(P3265591)
権利者 住友金属工業株式会社
発明の名称 溶接部靱性に優れた自動車用高強度電縫鋼管  
代理人 綿貫 達雄  
代理人 今井 毅  
代理人 名嶋 明郎  
代理人 山本 文夫  

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