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審決分類 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する F16K
審判 訂正 2項進歩性 訂正する F16K
管理番号 1082072
審判番号 訂正2003-39068  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1997-11-11 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2003-04-07 
確定日 2003-06-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3217696号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3217696号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 1経緯
特許出願:平成8年4月26日
設定登録(特許第3217696号):平成13年8月3日
特許異議の申立て(2002年異議第70925号):平成14年4月9日
特許異議の決定(取消):平成14年12月18日
高裁出訴[ 平成15年(行ケ)第48号] :平成15年2月11日
審判請求(訂正2003年審判第39068号):平成15年4月7日

2請求の趣旨
本件審判の請求の趣旨は、特許第3217696号発明の明細書を審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、すなわち、下記訂正事項aないしmのとおりに訂正することを求めるものである。
(特許請求の範囲)
a 「【請求項1】互いに摺動する2枚の弁体のうち少なくとも一方の弁体をセラミックスにより形成し、その表面にTi膜、Si膜の順序で積層した中間層を介してダイヤモンド状硬質炭素膜を被着することにより摺接面を形成したディスクバルブであって、上記Ti膜及びSi膜の各膜厚みをぞれぞれ0.15μm以上とするとともに、上記中間層全体の膜厚みを0.8μm以下とし、かつ上記中間層及びダイヤモンド状硬質炭素膜の全体の膜厚みを3μm以下としたことを特徴とするディスクバルブ。」を、
「【請求項1】互いに摺動する2枚の弁体のうち少なくとも一方の弁体をアルミナセラミックスにより形成し、その表面にTi膜、Si膜の順序で積層した中間層を介してダイヤモンド状硬質炭素膜を被着することにより摺接面を形成したディスクバルブであって、上記一方の弁体の中心線平均粗さ(R a)を0.12μm以下とし、上記Ti膜及びSi膜の各膜厚みをぞれぞれ0.15μm以上とするとともに、上記中間層全体の膜厚みを0.8μm以下とし、かつ上記中間層及びダイヤモンド状硬質炭素膜の全体の膜厚みを3μm以下とし、更に前記ダイヤモンド状硬質炭素膜中にTi及びSiが含まれていることを特徴とするディスクバルブ。」と訂正するものであり、
すなわち、
a―1 「セラミックス」を「アルミナセラミックス」に訂正し、
a―2 「上記一方の弁体の中心線平均粗さ(Ra)を0.12μm以下とし、」の記載を加え
a―3 「ダイヤモンド状硬質炭素膜」を「ダイヤモンド状硬質炭素膜中にTi及びSiが含まれる」とするものである。

(発明の詳細な説明)
b 【0008】「そこで、本発明は《中略》を特徴とする。」とあるのを「そこで、本発明は上記課題に鑑み、互いに摺動する2枚の弁体のうち少なくとも一方の弁体をアルミナセラミックスにより形成し、その表面にTi膜、Si膜の順序で積層した中間層を介してダイヤモンド状硬質炭素膜を被着することにより摺接面を形成したディスクバルブであって、上記一方の弁体の中心線平均粗さ(Ra)を0.12μm以下とし、《中略》かつ上記中間層及びダイヤモンド状硬質炭素膜の全体の膜厚みを3μm以下とし、更に前記ダイヤモンド状硬質炭素膜中にTi及びSiが含まれていることを特徴とする」に訂正する。
c 【0009】の「固定弁体30は可動弁体20と《中略》セラミックスより形成してなり、」を「固定弁体30は可動弁体20と同様に上下面を貫通する流体通路32を備え、外径が上記可動弁体20より若干大きな円盤状をしたものでアルミナセラミックスにより形成してなり、」に訂正する。
d 【0014】の「即ち、固定弁体30の《中略》セラミックスとの熱膨張差が小さく、」とあるのを「即ち、固定弁体30の表面35に被着するTi膜33aは熱膨張係数が8.4×10‐6/℃程度と固定弁体30を構成するアルミナセラミックスとの熱膨張差が小さく、」に訂正する。
e 【0022】の「また、本発明に係るダイヤモンド状硬質炭素膜34は膜中にジルコニウム、タングステン、チタンのうち少なくとも1種以上の金属と珪素を含有したものであっても構わない。このようにジルコニウム、タングステン、チタンのうち少なくとも1種以上の金属と珪素を含有させることにより膜内部における残留応力を低減して結合力を高めることができる。その為、固定弁体30との密着力をより強固なものとすることができるとともに、ビッカース硬度で5500kg/mm2以上の高硬度を持った膜とすることができる。」とあるのを「また、本発明に係るダイヤモンド状硬質炭素膜34は膜中にチタン及び珪素が含まれており、これによって膜内部における残留応力を低減して結合力を高めることができる。その為、固定弁体30との密着力をより強固なものとすることができる。このダイヤモンド状硬質炭素膜3 4中にはジルコニウム、タングステンのうち少なくとも1種以上の金属を含有させても良い。」に訂正する。
f 【0027】の「一方、前述したように、ダイヤモンド状硬質炭素膜34《中略》ダイヤモンド状硬質炭素膜34を破損させてしまう恐れがあるからである。」を「一方、前述したように、ダイヤモンド状硬質炭素膜34および中間層33を被着する固定弁体30はアルミナセラミックスにより形成することが必要である。即ち、固定弁体30を樹脂で形成したものではダイヤモンド状硬質炭素膜34を被着することができず、また、金属で形成したものではアルミナセラミックスに比べ硬度が小さいことから、可動弁体20との押圧力により変形し、その表面35に被着するダイヤモンド状硬質炭素膜34を破損させてしまう恐れがあるからである。」に訂正する。
g 【0028】の「これに対し、セラミックスは《中略》変形することがないため、」を「これに対し、アルミナセラミックスは高硬度を有することから可動弁体20との押圧力により変形することがないため、」に訂正する。
h 【0029】の「なお、固定弁体30を形成するセラミックスとしては、アルミナ、《中略》長期間にわたって使用可能なフオーセットバルブとすることができる。」を「なお、固定弁体30を形成するアルミナセラミックスは可動弁体20との押圧力を大きくしても摺接面31を変形させることがなく、また、耐薬品性にも優れることから長期間にわたって使用可能なフオーセットバルブとすることができる。」に訂正する。
i 【0030】の「これらのセラミックスを製作するには、《中略》強固でかつ靭性および耐摩耗性に優れたセラミックスを得ることができる。」を「アルミナセラミックスを製作するには、主原料のAl2O3に対しSiO2、MgO、CaO等のうち1種以上の焼結助剤を添加して1600〜1750℃の温度で焼成することにより、強固でかつ靭性および耐摩耗性に優れたセラミックスを得ることができる。」に訂正する。
j 【0046】の「固定弁体30の表面35に被着するTi膜33a、Si膜33b、ダイヤモンド状硬質炭素膜34の膜厚みt1、t2、t3は順に、0.2μm、0.2μm、0.8μmとした。」を「固定弁体30の表面35に被着するTi膜33a、Si膜33b、ダイヤモンド状硬質炭素膜34の膜厚みt2、t3、t1は順に、0.2μm、0.2μm、0.8μmとした。」に訂正する。
k 【0058】の「互いに摺動する2枚の弁体のうち少なくとも一方の弁体をセラミックスにより形成し、」を「互いに摺動する2枚の弁体のうち少なくとも一方の弁体をアルミナセラミックスにより形成し、」に訂正する。
l 【0058】の「水栓や湯水混合栓等のように洗浄器を設置したとしても水漏れを生じることのない信頼性の高いディスクバルブを提供することができる。」を「水栓や湯水混合栓等のように浄水器を設置したとしても水漏れを生じることのない信頼性の高いディスクバルブを提供することができる。」に訂正する。
m 【0058】の最終行の後に、「また本発明によれば、ダイヤモンド状硬質炭素膜34中にチタン及び珪素が含まれていることから、膜内部における残留応力を低減して結合力を高めることができる。その為、固定弁体30との密着力をより強固なものとすることができる。」と付け加えた訂正を行う。

3当審の判断
(1) 訂正の目的、新規事項、拡張・変更
訂正事項a―1について
上記訂正事項a―1は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の、「セラミックス」を下位概念である「アルミナセラミックス」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮にあたり、かかる訂正事項は明細書段落番号【0029】、【0030】、【0034】、【0035】、【0039】〜【0041】、【0047】に記載されており、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内での訂正である。
更に、上記訂正事項a―1は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

訂正事項a―2について、
上記訂正事項a―2は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に、「上記一方の弁体の中心線平均粗さ(Ra)を0.12μm以下とし、」の記載を付け加えたものであるから、特許請求の範囲の減縮にあたり、かかる訂正事項は明細書段落番号【0010】、【0050】〜【0053】に記載されており、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内での訂正である。
更に、上記訂正事項a―2は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

訂正事項a―3について、
上記訂正事項a―3は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1の、「ダイヤモンド状硬質炭素膜」を「ダイヤモンド状硬質炭素膜中にTi及びSiが含まれる」と訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮にあたり、かかる訂正事項は明細書段落番号【0022】、【0026】に記載されており、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内での訂正である。
更に、上記訂正事項a―3は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

訂正事項bないしi,k,mについて
訂正事項bないしi,k,mは、それぞれ、訂正事項a―1ないしa―3の訂正に伴い、発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載に整合するように訂正するものであるから、明りょうでない記載の釈明に該当し、また、訂正事項bないしi,k,mは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

訂正事項j及びlについては、明細書段落番号【0017】及び図1の記載及び【0007】の記載から誤記の訂正であることは明確であるから、訂正事項j及びlは誤記又は誤訳の訂正に該当するものであり、また、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでもない。

(2) 独立特許要件
本件特許第第3217696号については、件外2002年異議第70925号として特許異議の申立てがなされ、平成14年12月18日付けで特許異議の決定(特許取消)がなされている[高裁出訴中、平成15年(行ケ)第48号]ので、以下において該特許異議の決定で特許法第29条第2項の規定に違反するとして引用した刊行物1,刊行物2及び周知例について検討する。

ア 本件訂正発明
本件審判請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は下記のとおりである。
請求項1
「互いに摺動する2枚の弁体のうち少なくとも一方の弁体をアルミナセラミックスにより形成し、その表面にTi膜、Si膜の順序で積層した中間層を介してダイヤモンド状硬質炭素膜を被着することにより摺接面を形成したディスクバルブであって、上記一方の弁体の中心線平均粗さ(R a)を0.12μm以下とし、上記Ti膜及びSi膜の各膜厚みをぞれぞれ0.15μm以上とするとともに、上記中間層全体の膜厚みを0.8μm以下とし、かつ上記中間層及びダイヤモンド状硬質炭素膜の全体の膜厚みを3μm以下とし、更に前記ダイヤモンド状硬質炭素膜中にTi及びSiが含まれていることを特徴とするディスクバルブ。」

イ 引用例した刊行物等の内容
[刊行物1]特公平7―907号公報[甲第1号証]
【請求項1】には、
「湯または水あるいは両者の水栓を構成するセラミックス製又は金属製のバルブの摺動面に於いて、摺動面を構成する2面のうちのいずれか一方または両方の面に、ダイヤモンド状炭素膜(別名i-Carbon)の薄膜を、金属またはその炭化物,窒化物,炭窒化物から選ばれる少なくとも1種類以上の薄膜を介在して設けてなることを特徴とする水栓バルブ部材。」と記載され、
【0008】には、
「【課題を解決するための手段】本発明は優れた潤滑性,優れた耐摩耗性を有するi-Cをセラミックスバルブ表面により強固に密着させるようにした水栓バルブ部材の発明とその製造方法の発明に関するものである。」と、
【0010】には、
「一般に、セラミックスバルブ表面に、目的とする薄膜を気相蒸着させるにあたり、蒸着温度が高く、セラミックスバルブと薄膜との熱膨張差、薄膜がそれ故にうける内部歪が主要な原因となって密着が阻害される。本発明は、これらの薄膜とセラミックスバルブの間に歪の吸収材としての傾斜膜を設けることで、上記の欠点を解決するものである。」と、
【実施例】中【0012】【0013】【0015】【0016】には、
「【0012】
【実施例】以下、本発明を実施例により、詳しく説明する。図1,及び図2に示した水栓のセラミックバルブ1,2をアルミナ含有量92%,残部がSiO2,MgO,TiO2で構成をされた材料で作製した。(以後、図1の(A)の形状のセラミックバルブ1を「固定側」、図1の(B)の形状のセラミックバルブ2を「可動側」と呼ぶ)作製後、摺動面をダイヤモンド砥粒を用いて、ラップ盤にて研磨仕上げを行い、鏡面に研磨した。
【0013】このアルミナ製バルブの摺動面に、ダイヤモンド状炭素膜を生成させるが生成法としては、CVD(Chemical Vapor Deposition)法とPVD(Physical VaporDeposition)法に大別されるが、今回は、PVD法の1種であるマグネトロンスパッタ法により、実施した。
【0015】次に、マグネトロンカソードを直流電源に接続し、直流放電をさせ、カソード表面に取り付けたチタンターゲットをスパッタさせた。放電ガスとしては、アルゴンガスを5×10-3mbarの圧力になるよう導入し、反応性ガスとして窒素とアセチレンを使用した。処理品をイオンでボンハードしながら、膜を堆積するためにこの間には、250〜350W高周波を、処理品にかけておいた。反応性ガスの窒素とアセチレンは、膜構成が処理品基材側から、金属チタン〜TiN〜TiCN〜TiCの、いわゆる傾斜膜となるように流量を調整変化させた。
【0016】最後に窒素流量をゼロとし、アセチレンの流量を増大させ、圧力7.5×10-3mbarの状態にするとチタンターゲットの表面は、グラファイトやダイヤモンド状炭素膜で完全に覆われた状態となり、この状態を維持することによって、処理品上にダイヤモンド状炭素膜を堆積させた。膜厚みは全厚み1.5μmであり、傾斜膜が0.5μmダイヤモンド状炭素膜が1.0μmであり、堆積時間は35分であった。」と記載されている。

上記の記載から、刊行物1には、以下のとおりの発明が記載されていると認められる。(以下、〈〉内には、表現上本件訂正発明にて相当している事項の用語を示す。)
「互いに摺動する2枚のバルブ〈弁体〉のうち少なくとも一方のバルブ〈弁体〉をアルミナセラミックスにより形成し、その表面に金属チタン傾斜膜〈Ti膜中間層〉を介してダイヤモンド状硬質炭素膜を被着することにより摺動面〈摺接面〉を形成したバルブ〈ディスクバルブ〉であって、上記金属チタン傾斜膜〈Ti膜中間層〉膜厚みを0.5μm〈0.15μm以上〉とし、かつ全厚み1.5μm〈上記中間層及びダイヤモンド状硬質炭素膜の全体の膜厚みを3μm以下〉としたことを特徴とするバルブ〈ディスクバルブ〉。」

[刊行物2]特開平8―60365号公報[甲第5号証]
【請求項1】には、
「タングステンカ-バイド、タンタルカ-バイド等の超硬材である基材上に、乾式メッキによるチタン、またはクロムの第1層と、該第1層の表面に、乾式メッキによるシリコン、またはゲルマニウムの第2層とよりなる中間層と、該中間層の表面に、乾式メッキによる硬質カ-ボン膜の第3層とよりなることを特徴とする超硬基材上の硬質カ-ボン膜。」と、
【0004】【課題を解決するための手段】には、
「超硬基材上にPVD法(physical vapour deposition法)によりチタン膜、またはクロム膜を形成して第1層とし、該第1層の表面にゲルマニウム膜、またはシリコン膜をPVD法により形成して第2層とし、該第1層と第2層とより成る中間層の表面に、硬質カ-ボン膜をプラズマCVD法(chemical vapour deposition法)により形成する事を特徴とする。」と、
【0005】【作用】には、
「本発明における超硬基材上の硬質カ-ボン膜は、超硬基材と硬質カ-ボン膜との間に前記の中間層を設ける事により、硬質カ-ボン膜の持つ1010dynという高い内部応力を緩和し、硬質カ-ボン膜の超硬基材に対する密着力を向上させ、耐スクラッチ性の向上、およびチッピングによる剥がれを防ぐ事が可能となる。」と、
【0006】【実施例】には、
「チタンより成る第1層2を0.2μm形成し、次に該第1層の表面にPVD法を用い、シリコンより成る第2層3を0.5μm形成する。」(2欄33行ないし35行)と、
【0007】末尾には、
「生産性と経済性をを考えれば、第3層5の硬質カ-ボン膜は、0.5〜3μmの厚さであることが好ましい。」と、
記載されている。

[周知例1]特開平2―149673号公報[甲第2号証]
カーボン硬質膜を被覆した部材に関する発明で、第2頁左上欄18行ないし右上蘭9行には、
「〔課題を解決するための手段〕
このため本発明は、ステンレス板をはじめとする各種金属部材や超硬部材、および絶縁部材上へ低温度でのP-CVD法によって形成されるカーボン硬質膜を密着性良く強固に形成する手段として、部材とカーボン硬質膜との間に、両者の密着性を著しく改善するチタニウム、アルミニウム、あるいは鉄の少なくとも1種からなる第1中間層、第1中間層と第2中間層の固溶体層、シリコンからなる第2中間層を順次、積層構造とすることによってカーボン硬質膜のコーティングを可能にするものである。」と記載されている。

[周知例2]特開平7-180774号公報
【0001】には、
「【産業上の利用分野】本発明は、特に水栓、或いは湯水混合栓に使用される可動弁体と固定弁体とからなるディスクバルブに関するものである。」と記載され、
【0022】には、
「ところで、図2に示す可動弁体20の摺接面21は、表面粗さ(Ra)0.2μm以下の面に形成する。これは、表面粗さが0.2μmより大きいと、摺動時に固定弁体30の摺接面31を磨耗させてしまうからであり、好ましくは表面粗さ(Ra)0.1μm以下の滑らかな面とすることが望ましい。」と記載され、
【0039】には、
「又、他方を固定弁体30とし、基体34の表面を中心線平均粗さで0.15〜0.4μm、且つ平坦度1μm以下となるようにそれぞれ研摩加工を施し、さらに、ベンゼン(C6 H6 )ガスをフィラメントでイオン化した炭素イオンをイオン加速器により基体34の表面に蒸着させ、0.4〜1.0μmの厚み幅hを有する非晶質硬質炭素膜33を形成する。そして、上記可動弁体20及び固定弁体30の互いの摺接面21,31を摺接させれば本発明に係るフォーセットバルブを得ることができる。」と記載されている。

[周知例3]特開平6-265030号公報
【0001】には、
「【産業上の利用分野】本発明は、例えば湯水混合栓に用いられる可動弁体と固定弁体からなるセラミック製ディスクバルブに関するものである。」と記載され、
【0020】には、
「また、その摺動面21は、中心線平均粗さ(Ra)0.5μm以下の滑らかな面となっている。これは、摺動時に固定弁体30側の摺動面31を摩耗させないようにするためであり、好ましくは表面粗さ(Ra)0.1μm以下、さらには表面粗さ(Ra)0.02μm以下の極めて滑らかな鏡面とすることが好ましい。」と記載されている。

[周知例4]特開平6-227882号公報
【0001】には、
「【産業上の利用分野】本発明は、湯水混合栓に用いるに好適な、グリース等の潤滑剤不要のセラミックバルブ用部材及びその製造方法に関する。」と記載され、
【0020】には、
「本発明に基づく実施例を更に詳細に説明する。
実施例1
純度97%のアルミナ基体12上に、800℃の温度条件で、プラズマCVD法により非晶質の炭化ケイ素製中間層13を1μm厚に形成した。そして、この中間層13の上に、非晶質カーボン製の表層14を同じくプラズマCVD法によって形成し、セラミックバルブ用部材とした。上記アルミナ基体12のRaは0.1μm、表層14のRaは0.25μmであった」と記載されている。

[周知例5]特開平5-44861号公報
【要約】には、
「【目的】 摺接面からの水漏れを防ぎ、かつ固定ディスクに対する可動ディスクの摺動移動が良好なものとなる水栓用セラミックディスクの提供を目的とする。
【構成】 固定ディスク3の摺接面P3は表面粗さ0.15μmRa以下に仕上げられており、一方、可動ディスク4の摺接面P4は表面粗さ0.2〜0.4μmRaの範囲で、かつ0.05μmRa以下の部分が20〜40%程度存在するように仕上げられている。」と記載されている。

ウ 対比・判断
本件訂正発明と刊行物1に記載された発明とを比較すると、
「互いに摺動する2枚の弁体のうち少なくとも一方の弁体をアルミナセラミックスにより形成し、その表面にTi膜中間層を介してダイヤモンド状硬質炭素膜を被着することにより摺接面を形成したディスクバルブであって、上記Ti膜中間層の膜厚みを0.15μm以上とし、かつ上記中間層及びダイヤモンド状硬質炭素膜の全体の膜厚みを3μm以下としたことを特徴とするディスクバルブ。」である点では一致している。
しかし、本件訂正発明においては、Ti膜とダイヤモンド状硬質炭素膜の間にSi膜を介しているに対して、刊行物1には、金属チタン傾斜膜のみでSi膜がない点と、ダイヤモンド状硬質炭素膜中にTi及びSiが含まれている点とが記載されていない。
刊行物2には、プラズマCVD法による硬質カ-ボン膜〈ダイヤモンド状硬質炭素膜〉を形成する際の中間層としてチタン膜を第1層、シリコン膜を第2層とする技術が示されているが、硬質カ-ボン膜〈ダイヤモンド状硬質炭素膜〉中にTi及びSiが含まれている点は記載されていない。
また周知例1ないし5については、ダイヤモンド状硬質炭素膜についての具体的な組成が示されたものはなく、周知例2にベンゼン(C6 H6 )ガスを用いた例が示されているだけである。
してみると、上記刊行物1,刊行物2,及び各周知例のいずれにも、「ダイヤモンド状硬質炭素膜中にTi及びSiが含まれている」点の記載及び当該記載を示唆する記載がない。
そして、「ダイヤモンド状硬質炭素膜中にTi及びSiが含まれている」点の構成を採用することにより、ダイヤモンド状硬質炭素膜中の残留応力を効果的に低減することができ、Ti膜及びSi膜とで構成される中間層との馴染みが良好となり、一方弁体との密着力を高くすることができるという格別な効果を奏するものであるから、本件訂正発明は上記刊行物1,刊行物2及び各周知例に基づいて、当業者が、容易に想到することができたということはできない。
したがって、本件訂正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

4むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法126条1項ただし書き1号ないし3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条2項ないし4項の規定に適合する。
よって結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ディスクバルブ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】互いに摺動する2枚の弁体のうち少なくとも一方の弁体をアルミナセラミックスにより形成し、その表面にTi膜、Si膜の順序で積層した中間層を介してダイヤモンド状硬質炭素膜を被着することにより摺接面を形成したディスクバルブであって、上記一方の弁体の中心線平均粗さ(Ra)を0.12μm以下とし、上記Ti膜及びSi膜の各膜厚みをぞれぞれ0.15μm以上とするとともに、上記中間層全体の膜厚みを0.8μm以下とし、かつ上記中間層及びダイヤモンド状硬質炭素膜の全体の膜厚みを3μm以下とし、更に前記ダイヤモンド状硬質炭素膜中にTi及びSiが含まれていることを特徴とするディスクバルブ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、シングルレバー混合栓、サーモスタット混合栓をはじめとする水栓や湯水混合栓、医療用サンプリングバルブ、薬液用バルブ等を構成する可動弁体と固定弁体とからなるディスクバルブに関するものである。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】従来、水栓や湯水混合栓、あるいは医療用サンプリングバルブや薬液用バルブを構成するディスクバルブは、2枚の円盤状をした弁体を互いに摺接させた状態で相対摺動させることによって、各弁体に形成した流体通路の開閉を行うようになっている。そして、この種のディスクバルブは互いが絶えず摺り合わされた状態で使用されることから、ディスクバルブを構成する可動弁体及び固定弁体は耐摩耗性および耐食性に優れる金属やセラミックスにより形成したものがあった。
【0003】また、上記ディスクバルブでは弁体同士の操作力を低減するために摺接面間にグリース等の潤滑剤を介在させて使用されていた。
【0004】ところが、潤滑剤を使用したディスクバルブでは、弁体同士の摺動により比較的短い期間で摺接面間の潤滑剤が流出して無潤滑状態となるために、摺接面間で引っかかりや異音を生じるとともに徐々にレバーの操作力が上昇して、ついには互いの弁体同士が張り付いて動かなくなるリンキング(凝着)を生じるといった課題があった。しかも、潤滑剤の種類によっては、長期使用中に劣化したりゴミ等の付着が発生して摺動特性を悪化させる恐れがあるとともに、吐水時に潤滑剤が流出すると人体に害を与える恐れもあった。
【0005】そこで、近年、互いに摺動する弁体のうち、少なくともいずれか一方の弁体の摺接面に自己潤滑性を有するとともに、耐摩耗性に優れたダイヤモンド状硬質炭素膜を被着したディスクバルブが提案されている(特開平3-223190号公報参照)。
【0006】しかしながら、ダイヤモンド状硬質炭素膜は弁体を構成する金属やセラミックスとの密着性がそれ程良くないために、弁体の表面を若干粗くすることによりアンカー効果でもって弁体との密着力を向上させたものが使用されているが、シール面積の小さなディスクバルブでは水漏れを生じるといった課題があった。
【0007】また、水栓や湯水混合栓等のように浄水器を組み付けたものにあっては、水栓や湯水混合栓内部の水圧が上昇して摺接面間に若干の隙間ができ水漏れを生じる恐れがあるために、弁体の摺接面を平滑面とし、かつ弁体同士の押圧力を高める必要があるのであるが、摺接面を構成するダイヤモンド状硬質炭素膜の表面を平滑にしようとすると弁体の表面を平滑面としなければならず、その結果、ダイヤモンド状硬質炭素膜が剥離するといった恐れがあった。
【0008】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、互いに摺動する2枚の弁体のうち少なくとも一方の弁体をアルミナセラミックスにより形成し、その表面にTi膜、Si膜の順序で積層した中間層を介してダイヤモンド状硬質炭素膜を被着することにより摺接面を形成したディスクバルブであって、上記一方の弁体の中心線平均粗さ(Ra)を0.12μm以下とし、上記Ti膜及びSi膜の各膜厚みをぞれぞれ0.15μm以上とするとともに、上記中間層全体の膜厚みを0.8μm以下とし、かつ上記中間層及びダイヤモンド状硬質炭素膜の全体の膜厚みを3μm以下とし、更に前記ダイヤモンド状硬質炭素膜中にTi及びSiが含まれていることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は本発明に係るディスクバルブの一例である水栓や湯水混合栓に用いられるフォーセットバルブの弁体のみを示す斜視図で、可動弁体20は上下面を貫通する流体通路22を備えた円盤状をしたもので樹脂、金属、セラミックスのいずれか1種により形成してなり、その下面を摺接面21としてある。固定弁体30は可動弁体20と同様に上下面を貫通する流体通路32を備え、外径が上記可動弁体20より若干大きな円盤状をしたものでアルミナセラミックスにより形成してなり、可動弁体20の摺接面21と対向する表面35にはTi膜33a、Si膜33bの順序で積層した中間層33を介してダイヤモンド状硬質炭素膜34を被着し、その表面を摺接面31としてある。
【0010】また、双方の弁体20、30の摺接面21、31が粗すぎると摺接面21、31間より水漏れを生じる恐れがある。特に、浄水器を組み付けたものにあっては、弁体20、30間に大きな水圧が加わるため、さらに水漏れを生じる可能性が高くなる。その為、可動弁体20の摺接面21は中心線平均粗さ(Ra)で0.2μm以下、好ましくは0.1μm以下とし、その平坦度を1μm以下とするとともに、ダイヤモンド状硬質炭素膜34を被着する固定弁体30の表面35は中心線平均粗さ(Ra)で0.12μm以下、好ましくは0.05μm以下とし、その平坦度を1μm以下としてある。
【0011】そして、これらの可動弁体20と固定弁体30とを無潤滑状態で互いの摺接面21、31同士を摺接させ、可動弁体20を矢印の方向に動かすことにより、互いの弁体20、30に備える流体通路22、32の開閉を行い、供給流体の流量調整を行うようになっている。
【0012】この時、固定弁体30の摺接面31には自己潤滑性に優れるとともに、高硬度を有するダイヤモンド状硬質炭素膜34を被着してあることから、無潤滑状態にもかかわらず可動弁体20を大きく摩耗させることなくレバー操作力を低減して滑らかに摺動させることができる。
【0013】ところで、ダイヤモンド状硬質炭素膜34は密着性がそれ程良くないことから、固定弁体30の表面35が平滑すぎると充分な密着性が得られず、可動弁体20との摺動により剥離する恐れがあるのであるが、本発明は固定弁体30の表面35とダイヤモンド状硬質炭素膜34との間にTi膜33a、Si膜33bの順序で積層した中間層33を介在させてあることから強固に密着させることができる。
【0014】即ち、固定弁体30の表面35に被着するTi膜33aは熱膨張係数が8.4×10-6/℃程度と固定弁体30を構成するアルミナセラミックスとの熱膨張差が小さく、さらに物質への拡散係数が大きいことから固定弁体30およびSi膜33bと強固に密着させることができるとともに、Si膜33bはダイヤモンド状硬質炭素膜34の熱膨張係数(3.2×10-6/℃)と近似していることからダイヤモンド状硬質炭素膜34との密着性をより強固なものとすることができる。
【0015】その為、水漏れを防止するために可動弁体20との押圧力を高めた状態で摺動させたとしても平滑な固定弁体30の表面35よりダイヤモンド状硬質炭素膜34が剥離することがない。
【0016】ただし、固定弁体30の表面35に被着する中間層33およびダイヤモンド状硬質炭素膜34の全体の膜厚みtは3.0μm以下とすることが必要である。全体の膜厚みtが3.0μmより大きくなると均一な膜厚みをもった膜を被着することができないために摺接面31を構成するダイヤモンド状硬質炭素膜34の平坦性、平滑性が低下して水漏れを生じる恐れがあるからである。
【0017】また、ダイヤモンド状硬質炭素膜34の膜厚みt1は0.3〜2.7μmとするとともに、中間層33をなすTi膜33aおよびSi膜33bの膜厚みt2、t3は共に0.15μm以上とし、かつ中間層33全体の膜厚みt4は0.8μm以下となるように設けることが好ましい。
【0018】これは、ダイヤモンド状硬質炭素膜34の膜厚みt1が0.3μm未満であると、高硬度を有する炭素膜34と言えども可動弁体20との摺動により短期間で磨滅するからであり、逆に、膜厚みt1が2.7μmより大きくなると膜厚みのバラツキが大きくなり、均一な炭素膜34を被着することができないからである。
【0019】また、中間層33をなすTi膜33aまたはSi膜33bの膜厚みt2、t3を0.15μm未満とすると薄すぎるために均一な膜厚みをもった膜33a、33bを被覆することができないためにダイヤモンド状硬質炭素膜34との密着力が低下するからであり、逆に中間層33全体の膜厚みt4が0.8μmより大きくなると可動弁体20との押圧力により中間層33が変形し、ダイヤモンド状硬質炭素膜34を破損させる恐れがあるからである。
【0020】ところで、ダイヤモンド状硬質炭素膜34とは実質的に炭素からなり、若干の結晶質を含んでいても良いが基本的に非晶質構造をしたもので、規則的な結晶構造を持つダイヤモンド、立方晶窒化ほう素(cBN)、六方晶窒化ほう素(hBN)とは異なる組成のものである。このダイヤモンド状硬質炭素膜34をグラファイトやダイヤモンドの同定によく用いられるラマン分光分析装置を使って調べるとダイヤモンドのピーク位置である1333cm-1とグラファイトのピーク位置である1550cm-1の近傍にそれぞれピークを有するものである。なお、本発明に係るダイヤモンド状硬質炭素34は、ピークがダイヤモンドあるいはグラファイトの何方か一方に偏っていても良く、好ましくはダイヤモンドのピーク位置に偏っている方が良い。
【0021】このようなダイヤモンド状硬質炭素膜34はビッカース硬度で2000〜5000kg/mm2と非常に高い硬度を有しているため、可動弁体20との摺動においても殆ど摩耗することがない。
【0022】また、本発明に係るダイヤモンド状硬質炭素膜34は膜中にチタン及び珪素が含まれており、これによって膜内部における残留応力を低減して結合力を高めることができる。その為、固定弁体30との密着力をより強固なものとすることができる。このダイヤモンド状硬質炭素膜34中にはジルコニウム、タングステンのうち少なくとも1種以上の金属を含有させても良い。なお、ジルコニウム、タングステン、チタンのうち少なくとも1種以上の金属と珪素を含有させたダイヤモンド状硬質炭素膜34は前述したダイヤモンド状硬質炭素膜34とは異なり、ラマン分光分析装置における測定では1480cm-1の近傍に一つのピークを有するものである。
【0023】このようなダイヤモンド状硬質炭素膜34および中間層33を固定弁体30の表面35に被着する手段としてはスパッタリング法やイオンプレーティング法などのPVD法やCVD法等の薄膜形成手段を用いれば良い。
【0024】例えば、低温で成膜が可能なプラズマCVD法により被着するには、まず、チャンバー室内に各被膜を被着するためのソースガスとキャリアガスを供給し、固定弁体30を配置したカソード(陽極)電極とアノード(陽極)電極との間に電圧を印加することで、カソード(陽極)電極から引き出された電子をソースガスおよびキャリアガスと衝突させてプラズマを発生させ、該プラズマ中のソースガス成分を固定弁体30の表面35に堆積させれば良い。そして、チャンバー室に供給するソースガスとキャリアガスを置き換えて固定弁体30の表面35側からTi膜33a、Si膜33b、ダイヤモンド状硬質炭素膜34の順序で被着することにより成膜することができる。
【0025】なお、各被膜を被着するためにチャンバー室に供給するソースガスおよびキャリアガスとしては表1に示したものを用いれば良い。
【0026】
【表1】

【0027】一方、前述したように、ダイヤモンド状硬質炭素膜34および中間層33を被着する固定弁体30はアルミナセラミックスにより形成することが必要である。即ち、固定弁体30を樹脂で形成したものではダイヤモンド状硬質炭素膜34を被着することができず、また、金属で形成したものではアルミナセラミックスに比べ硬度が小さいことから、可動弁体20との押圧力により変形し、その表面35に被着するダイヤモンド状硬質炭素膜34を破損させてしまう恐れがあるからである。
【0028】これに対し、アルミナセラミックスは高硬度を有することから可動弁体20との押圧力により変形することがないため、その表面35に被着するダイヤモンド状硬質炭素膜34を破損させることがなく、また、高い加工精度が得られることから固定弁体30の表面35を滑らかな面に仕上げ、その表面35に被着するダイヤモンド状硬質炭素膜34の表面を固定弁体30の表面35に倣った平滑、平坦面とすることができる。
【0029】なお、固定弁体30を形成するアルミナセラミックスは可動弁体20との押圧力を大きくしても摺接面31を変形させることがなく、また、耐薬品性にも優れることから長期間にわたって使用可能なフォーセットバルブとすることができる。
【0030】アルミナセラミックスを製作するには、主原料のAl2O3に対しSiO2、MgO、CaO等のうち1種以上の焼結助剤を添加して1600〜1750℃の温度で焼成することにより、強固でかつ靭性および耐摩耗性に優れたセラミックスを得ることができる。
【0031】また、可動弁体20を構成する材質としては固定弁体30と同様にセラミックスを用いることもできるが、固定弁体30には優れた自己潤滑性を有するダイヤモンド状硬質炭素膜34を被着してあることから、樹脂や金属といったセラミックスに比べて硬度の小さい材料を用いることもできる。ただし、樹脂や金属の硬度が小さすぎると固定弁体30との押圧力により摺接面21が変形して水漏れを生じるとともに、スティック・スリップ現象を生じる恐れがある。その為、可動弁体20を樹脂で形成する場合にはポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)などのロックウェル硬度100以上を有する樹脂を用いれば良く、金属で形成する場合には真鍮、ステンレス、超硬合金などを用いれば良い。
【0032】なお、図1に示すフォーセットバルブにおいては、固定弁体30の表面35にTi膜33a、Si膜33bの順序で積層した中間層33を介してダイヤモンド状硬質炭素膜34を被着した例を示したが、逆に、可動弁体20をセラミックスで形成し、その表面に上記中間層33を介してダイヤモンド状硬質炭素膜34を被着したものであっても良く、さらには双方の弁体20、30をセラミックスで形成するとともに、Ti膜33aとSi膜33bからなる中間層33を介してダイヤモンド状硬質炭素膜34を被着したものであっても構わない。
【0033】また、本発明の実施形態ではフォーセットバルブを例にとって説明したが、医療用サンプリングバルブ、薬液用バルブに使用できることは勿論のこと、さらにはボールバルブやその他の各種弁部材、あるいはメカニカルシール、軸受など様々な摺動部材にも適用できることは言うまでもない。
【0034】(実験例1)ここで、本発明のようにTi膜33a、Si膜33bの順序で積層した中間層33を介してダイヤモンド状硬質炭素膜34を被着したアルミナ基板と、比較例としてSiC膜からなる中間層を介してダイヤモンド状硬質炭素膜34を被着したアルミナ基板、および直接ダイヤモンド状硬質炭素膜34を被着したアルミナ基板をそれぞれ用意し、スクラッチ試験機(フルスケール:300mN)を用いてそれぞれの密着強度について測定した。
【0035】本実験では、各アルミナ基板の表面粗さを中心線平均粗さ(Ra)で0.06μmとし、ダイヤモンド状硬質炭素膜34の膜厚みt1を0.8μmとした。また、本発明に係るアルミナ基板の中間層33をなすTi膜33aおよびSi膜33bの膜厚みt2、t3は共に0.2μmとし、比較例であるアルミナ基板の中間層をなすSiC膜の膜厚みは0.4μmとした。
【0036】また、スクラッチ試験機の概略は図2に示すようにカートリッジ本体10とその先端から伸びるレバー11に設けられた圧子12とからなり、上記圧子12をZ方向に5°傾けた試料上のダイヤモンド状硬質炭素膜34に押し付け、カートリッジ本体10をX方向に励振振幅させながらY方向に移動させて押し付け力を加えていった時に剥離する荷重を測定した。
【0037】それぞれの結果は表2に示す通りである。
【0038】
【表2】

【0039】この結果、直接ダイヤモンド状硬質炭素膜34を被着した比較例のアルミナ基板は、平均104.8mN程度で剥離し、中間層としてSiC膜を用いたアルミナ基板でも平均185.5mN程度で剥離してしまった。
【0040】これに対し、Ti膜33aとSi膜33bからなる中間層33を用いた本発明に係るアルミナ基板は、300mN以上の押し付け力においてもダイヤモンド状硬質炭素膜34の剥離が見られず強固に密着させることができた。
【0041】また、本発明に係るアルミナ基板のうち中間層33を構成するTi膜33aおよびSi膜33bの膜厚みt2、t3を変化させ、実験例1と同様に密着強度について測定を行った。なお、アルミナ基板の表面粗さは中心線平均粗さ(Ra)で0.06μmとし、ダイヤモンド状硬質炭素膜34の膜厚みt1は0.8μmとした。そして、スクラッチ試験機(フルスケール:300mN)における密着強度が300mN以上のものを○、300mN未満のものを×として評価した。
【0042】結果は表3に示す通りである。
【0043】
【表3】

【0044】この結果、中間層33全体の膜厚みt4が0.8μm以下であれば、高い密着強度が得られ、300mN以上の押し付け力においてもダイヤモンド状硬質炭素膜34が剥離することはなかった。
【0045】(実験例2)次に、図1に示すフォーセットバルブを試作し、ダイヤモンド状硬質炭素膜34を被着する固定弁体30の表面35の面粗さを変化させた時のシール性について測定を行った。
【0046】本実験に使用したフォーセットバルブは、直径5mmの流体通路22を穿設した外径30mm、厚み15mmの円盤状をした可動弁体20と、直径5mmの流体通路32を穿設した外径40mm、厚み5mmの円盤状をした固定弁体30とを組み合わせてなり、固定弁体30の表面35にはTi膜33a、Si膜33bの順序で積層した中間層33を介してダイヤモンド状硬質炭素膜34を被着することにより摺接面31を構成した。また、可動弁体20の摺接面21は平坦度1μm、中心線平均粗さ0.1μmとし、固定弁体30の表面35に被着するTi膜33a、Si膜33b、ダイヤモンド状硬質炭素膜34の膜厚みt2、t3、t1は順に、0.2μm、0.2μm、0.8μmとした。
【0047】なお、固定弁体30は焼結助剤としてMgO0.5重量%、CaO0.5重量%、SiO25.0重量%を含有する純度96%のアルミナセラミックスにより形成し、可動弁体20は、固定弁体30に比べ厚みが大きいことから耐熱衝撃性を高めるために上記焼結助剤以外にTiO2を3.0重量%含有させた純度91%のアルミナセラミックスにより形成した。
【0048】そして、これらの固体弁体30に可動弁体20を30Kgfの軸力で押さえ付けた状態で水中に水没させ、流体通路22、32に5.5kg/cm2の空気圧を1分間供給した時に摺接面21、31間から発生する気泡の数をカウントすることにより測定した。
【0049】結果は表4に示す通りである。
【0050】
【表4】

【0051】この結果、固定弁体30の表面35の中心線平均粗さ(Ra)が0.12μmより大きくなると摺接面21、31間より気泡の発生が見られた。
【0052】これに対し、固定弁体30の表面35の中心線平均粗さ(Ra)を0.12μm以下としたものでは、摺接面21、31間より発生する気泡の数をゼロとすることができた。
【0053】このことから、固定弁体30の表面35を中心線平均粗さ(Ra)で0.12μm以下とすれば水漏れを防止できることが判る。
【0054】(実験例3)さらに、操作性においても問題ないことを確認するために、膜厚みt1が0.8μmのダイヤモンド状硬質炭素膜34を備える図1のフォーセットバルブを試作し、摺動試験を行った。
【0055】固体弁体30と可動弁体20とは30Kgfの軸力で押し付けた状態でバルブ装置に組み込むとともに、可動弁体20を摺動させるための操作レバー(不図示)にはロードセルを取り付け、各弁体20、30の流体通路22、32に80℃の温水を1kg/cm2の圧力で注入した時に操作レバーを動かすのに要する荷重を上記ロードセルにより測定した。
【0056】結果は図3に示す通りである。
【0057】この結果、固定弁体30の表面にはダイヤモンド状硬質炭素膜34を設けてあることから、上記ダイヤモンド状硬質炭素膜34の持つ優れた自己潤滑作用によりアルミナセラミック製の可動弁体20との摺動において0.6kgf前後の力で滑らかに摺動させることができた。しかも、この優れた特性は30万回もの摺動においても殆ど変化することがなかった。
【0058】
【発明の効果】以上のように、本発明によれば、互いに摺動する2枚の弁体のうち少なくとも一方の弁体をアルミナセラミックスにより形成し、その表面にTi膜、Si膜の順序で積層した中間層を介してダイヤモンド状硬質炭素膜を被着することにより摺接面を形成してディスクバルブを構成するとともに、上記一方の弁体の中心線平均粗さ(Ra)を0.12μm以下とし、上記Ti膜及びSi膜の各膜厚みをぞれぞれ0.15μm以上、上記中間層全体の膜厚みを0.8μm以下とし、かつ上記中間層及びダイヤモンド状硬質炭素膜の全体の膜厚みを3μm以下としたことによって、ダイヤモンド状硬質炭素膜の持つ優れた自己潤滑作用により、無潤滑状態での摺動にもかかわらずリンキングを生じることなく安定した摺動特性を長期間にわたって維持することができるとともに、弁体の摺接面を平滑面としてもダイヤモンド状硬質炭素膜との高い密着力が得られることから、高いシール性が得られ、水栓や湯水混合栓等のように浄水器を設置したとしても水漏れを生じることのない信頼性の高いディスクバルブを提供することができる。
また本発明によれば、ダイヤモンド状硬質炭素膜34中にチタン及び珪素が含まれていることから 膜内部における残留応力を低減して結合力を高めることができる。その為、固定弁体30との密着力をより強固なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るディスクバルブの一例であるフォーセットバルブの弁体のみを示す斜視図である。
【図2】スクラッチ試験機の構造を示す概略図である。
【図3】本発明に係るフォーセットバルブのレバー操作力と摺動回数との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
20:可動弁体
21:摺接面
22:流体通路
30:固定弁体
31:摺接面
32:流体通路
33:中間層
33a:Ti膜
33b:Si膜
34:ダイヤモンド状硬質炭素膜
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2003-06-17 
出願番号 特願平8-108125
審決分類 P 1 41・ 121- Y (F16K)
P 1 41・ 856- Y (F16K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 渡邉 洋  
特許庁審判長 藤井 俊明
特許庁審判官 鈴木 久雄
鈴木 法明
登録日 2001-08-03 
登録番号 特許第3217696号(P3217696)
発明の名称 ディスクバルブ  
代理人 竹口 幸宏  
代理人 田原 勝彦  
代理人 竹口 幸宏  
代理人 田原 勝彦  

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