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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B62D
管理番号 1082281
審判番号 不服2000-10010  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1998-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-07-04 
確定日 2003-08-19 
事件の表示 平成9年特許願第219755号「自動車用折返しパイプ」[平成10年5月26日出願公開(特開平10-138935号)]拒絶査定に対する審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 【1】手続の経緯・本願の発明
本願は、平成9年8月1日(パリ条約による優先権主張1996年8月2日、ドイツ国(DE))の出願であって、その発明は、平成15年2月25日付(受付日)手続補正に係る特許請求の範囲の請求項1〜10のそれぞれに記載された事項によって特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】 軸線方向の2つのステアリングスピンドル部分の間の結合部材であって、ステアリングスピンドルが軸線方向へ力を受けた際に、塑性変形を行いエネルギを消費するとともに一端から折返される自動車用折返しパイプにおいて、ステアリングスピンドル部分の折返し端(9)に続く折返しパイプ(7;7’)の最初の縦方向部分(10)が、次の縦方向部分(11)に比してより容易な変形性を有し、軸線方向へ力を受けた際に、先づ最初の縦方向部分(10)が変形し、より大きな力を受けた際に次の縦方向部分(11)が変形して負荷を吸収することにより、体重の軽い乗員は変形性の容易な縦方向部分(10)において緩衝され、他方、体重のより重い乗員は最初の縦方向部分(10)に続き次の縦方向部分(11)の変形により緩衝されるように構成したことを特徴とする折返しパイプ。」(この請求項1の発明を、以下、「本願発明」という。)
【請求項2】 折返し端(9)に続く縦方向部分(10)が、この部分に続く縦方向部分(11)よりも大きい内径を有することを特徴とする請求項1の折返しパイプ。
【請求項3】 折返しパイプ(7)が、その長さにわたって、ほぼ同一の肉厚(14)を有することを特徴とする請求項2の折返しパイプ。
【請求項4】 折返しパイプ(7)が、円錐形部分(15)を介して相互に接続する円筒形縦方向部分(10,11,12,13)を含むことを特徴とする請求項2の折返しパイプ。
【請求項5】 折返しパイプ(7’)が、折返し端(9)に続いて第1縦方向部分(10)に、第2縦方向部分(11)よりも小さい肉厚(16)を有することを特徴とする請求項1または2の折返しパイプ。
【請求項6】 変形し難い折返しパイプ部分(11)には、変形し易い縦方向部分(12)が続いていることを特徴とする請求項1の折返しパイプ。
【請求項7】 折返しパイプ(7;7’)の縦方向部分(13)が、可能な折返し最終段階において最大の折返し抵抗を有することを特徴とする請求項1の折返しパイプ。
【請求項8】 折返しパイプ(7;7’)が、軸線方向へ離隔された支持箇所(3a,3b,3c)を有する3点支持部材(3)に支持されたステヤリングスピンドル(1)の部分であり、上記支持部材の中央支持箇所(3b)が、折返しパイプ(7;7’)の折返し端の近傍においてステヤリングスピンドル(1)を摺動自在に支持することを特徴とする請求項1の折返しパイプ。
【請求項9】 少なくとも1つの支持箇所(3c)には、ステヤリングスピンドル(1)とともに摺動可能なボールケージ(4)が受容されていることを特徴とする請求項8の折返しパイプ。
【請求項10】 支持箇所(3a,3b,3c)が、固定フランジ(5)に一体に統合されて自動車にいっしょに固定されていることを特徴とする請求項8の折返しパイプ。

【2】これに対し、当審において、平成14年9月6日付拒絶理由通知で引用した、本件特許出願の優先日より前に頒布された刊行物と、その主要な記載事項は次のとおりである。
(1) 実願昭58-132912号(実開昭60-44865号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という)には、次のイ〜ハの記載がある。
イ 「第1図に本考案の第1実施例を示しており、図中(1)はステアリングシャフト本体であって、該ステアリングシャフト本体(1)は、強化プラスチックによって筒状に形成されており、その下部に大径の異径部(1a)を一体に設けて衝撃吸収機構を構成し、中間部の外周側に、肉厚部分(1b)を設けるととともに同肉厚部分(1b)の下側に鍔部(1c)を一体に突設した構成になっている。」(第3頁第15行〜第4頁第2行)
ロ 「衝突時に加わる上方あるいはまたは下方からの矢示方向の衝撃に対し、第2図に示すように異径部(1a)および連結部分の円錐部分(1d)が図示のように変形され、ステアリングシャフトの長さが短かくなり前記衝撃エネルギーが効果的に吸収される。」(第5頁第20行〜第6頁第6行)
ハ 「第4図に本考案の第3実施例を示しており、該実施例を前記第1実施例に比較すると、前記第1実施例の異径部(1a)の部分を、波形軸方向断面にして異径部(21a)に構成したことに特徴を有するものであって、該異径部(21a)は、前記第1実施例における異径部(1a)の作用効果を有するとともに、変形荷重をコントロールし易くなっており、軸方向全長にわたって形成された複数の薄肉部分によってステアリングシャフトの軸方向長さの短縮がさらに高められている」(第6頁第18行〜第7頁第7行)
また、刊行物1の第4図には、ステアリングシャフト本体(1)部分から異径部(21a)に連なる円錐部分では、前記本体(1)に近い部分に「薄肉部分」が形成され、この薄肉部分に続いて、異径部(21a)に近づくにつれて、徐々に肉厚化していく部分が形成されている状態が示されている。
(2) 実願昭57-135834号(実開昭59-39263号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物2」という)には、次のニ〜ヘの記載がある。
ニ 「この考案は自動車用衝撃吸収ステアリングシャフトの改良に関するものである。」(第1頁第16行〜第17行)
ホ 「1は先端部にセレーション軸部6を有するステアリングロアーシャフト、また2は先端にステアリングホイール4を有するステアリングアッパーシャフト3が一体に連結されているステアリングチューブ」(第3頁第2行〜第7行)
ヘ 「ステアリングロアーシャフト1とステアリングチューブ2との間に、第1,3図の如く両端内鍔部5aを夫々溶接固着して衝撃吸収用薄肉パイプ5が介装され、軸方向衝撃時に該薄肉パイプ5の両端部が、夫々内方に同心筒状に曲げ込まれ窄め縮まれて衝撃を吸収する」(第3頁第18行〜第4頁第4行)

【3】発明の対比
刊行物1記載の「ステアリングシャフト」は、本願発明の「ステアリングスピンドル」に相当する。
また、刊行物1(上記ロ)記載の「衝突時に加わる上方あるいはまたは下方からの矢示方向の衝撃に対し、第2図に示すように異径部(1a)および連結部分の円錐部分(1d)が図示のように変形され、ステアリングシャフトの長さが短かくなり前記衝撃エネルギーが効果的に吸収される」という記載は、本願発明でいう「ステアリングスピンドルが軸線方向へ力を受けた際に、塑性変形を行いエネルギを消費するとともに一端から折返される」状態を表現していると解しうる。したがって、刊行物1(上記ハ)記載の「異径部(21a)」は、同刊行物第4図に示されている<ステアリングシャフト本体(1)部分から異径部(21a)に連なる円錐部分>と共に、本願発明でいう「自動車用折返しパイプ」を形成しているといえる。
そして、上述のように、刊行物1の第4図には、上記の円錐部分に関して本体(1)に近い薄肉部分から、<異径部(21a)に近づくにつれて、徐々に肉厚化していく部分>が示されているが、上記ハで「薄肉部分によってステアリングシャフトの軸方向長さの短縮がさらに高められている」と記載されているところから、薄肉部分では、肉厚部分より「軸方向長さの短縮」変形が容易であると解される。
したがって、上記の薄肉部分から<徐々に肉厚化していく部分>により、刊行物1記載のものも、本願発明でいう、折返しパイプの「最初の縦方向部分が、次の縦方向部分」に比して「より容易な変形性を有し、軸線方向へ力を受けた際に、先づ最初の縦方向部分」が変形し、「より大きな力を受けた際に次の縦方向部分」が変形して負荷を吸収する状態が実現されているといえる。(なお、このことは、請求人提出に係る、平成15年2月25付(受付日)の意見書に添付された、刊行物1に関する説明図の記載内容とも合致している。)
そして、衝突時における衝撃では、「体重の軽い乗員」に比べて、「体重のより重い乗員」によって「より大きな力」を受けることは明らかであるから、刊行物1記載のものにおいても、「体重の軽い乗員は変形性の容易な縦方向部分」において緩衝され、他方、「体重のより重い乗員」は最初の縦方向部分に続き「次の縦方向部分」の変形により緩衝されることが、当然ありうると考えられる。
したがって、本願発明と刊行物1に記載の発明との一致点と相違点は次のとおりである。
【一致点】 「ステアリングスピンドルが軸線方向へ力を受けた際に、塑性変形を行いエネルギを消費する自動車用折返しパイプにおいて、ステアリングスピンドル部分の折返しパイプの最初の縦方向部分が、次の縦方向部分に比してより容易な変形性を有し、軸線方向へ力を受けた際に、先づ最初の縦方向部分が変形し、より大きな力を受けた際に次の縦方向部分が変形して負荷を吸収することにより、体重の軽い乗員は変形性の容易な縦方向部分において緩衝され、他方、体重のより重い乗員は最初の縦方向部分に続き次の縦方向部分の変形により緩衝されるように構成した折返しパイプ」の発明である点。
【相違点1】 本願発明では、自動車用折返しパイプが「一端から折返され」て、「折返し端」が形成されているのに対し、刊行物1では、折り返しの起端部分となる、上記の「一端」及び「折返し端」についての言及がない点。
【相違点2】 本願発明では、折返しパイプが、「軸線方向の2つのステアリングスピンドル部分の結合部材」であるのに対し、刊行物1記載の発明では、折返しパイプに相当する、「円錐部分を含む異径部21a」は、筒状のステアリングシャフトの一部をなすものであって、軸線方向の2つのステアリングスピンドル部分の結合部材を構成しているとはいえない点。

【4】相違点の検討
(1)相違点1について
予測される変形を容易にするために、当該予測箇所に予め折り目や曲部を形成しておくことは通常行われているから、折り返しの起端となる部分として、「一端から折返され」る「折返し端」を予め設定しておくことは、特段に想定しがたいようなことではなく、そのような設定をするか否かは、通常の設計事項といえる。
(2)相違点2について
上記相違点2に関して刊行物2の記載事項をみると、刊行物2記載の「ステアリングロアーシャフト1」と「ステアリングアッパーシャフト3」は、本願発明でいう「軸線方向の2つのステアリングスピンドル部分」に相当しており、また、同刊行物記載の「ステアリングチューブ2」及び軸方向衝撃時に内方に同心筒状に曲げ込まれる「衝撃吸収用薄肉パイプ5」は、本願発明でいう「ステアリングスピンドル部分の結合部材」に相当するといえるから、上記の記載ニ〜ヘによれば、刊行物2において、「自動車用衝撃吸収ステアリングシャフトの衝撃吸収用の折返しパイプが軸線方向の2つのステアリングスピンドル部分の結合部材を構成する」という技術事項が開示されているものと認められる。
そして、刊行物1記載の発明と刊行物2記載の発明とは、いずれも衝撃吸収機構を備えたステアリングシャフト機構である点では共通しており、しかも、刊行物1に記載された発明に刊行物2記載の技術事項を適用することについて、格別の阻害要因が存する等の特段の事情もみあたらないから、刊行物1に記載された発明のステアリングシャフトにおいて刊行物2記載の技術事項を適用して、上記相違点2で指摘した本願発明のような構成とすることは、当業者であれば容易に想到することができたものといえる。
(3)更に、上記相違点1及び2で指摘した構成を併せ備える本願発明の奏する作用効果についてみても、上記刊行物1、2に記載された発明や技術事項から、当業者であれば容易に予測できる程度のものであって、格別なものとはいえない。

【5】本願請求項2ないし10の発明について
(1)[本願請求項2〜7の発明]
本願請求項2、3、4の発明における限定事項は、上記の平成14年9月6日付の拒絶理由で指摘した、従来周知の技術(実公昭49-8260号公報、実開昭58-157768号公報参照)の採用にとどまり、格別の技術的意義が認められない。(特に、実開昭58-157768号公報には、本願請求項3に係る、パイプの肉厚を変えることなく、変形容易性の程度を選択できるようにするための構成の示唆があると認められる。)
また、本願請求項5、6の限定事項は前記刊行物1に開示があり、本願請求項7の限定事項は前記刊行物1に記載されている、異径部(21a)の異なる肉厚に係わる第4図に示された技術事項を基に容易に想到し得るものと認められる。
(2)[本願請求項8〜10の発明]
本願請求項8及び10の発明における限定事項は、同様に、従来周知の技術(実開昭62-145775号公報、特開昭63-13863号公報、実開昭63-57171号公報参照)に記載された事項に基づいて、また、本願請求項9の発明における限定事項も、やはり同じく周知技術(実開昭58-75176号公報、実開昭60-23314号公報、実開平2-103874号公報参照)に記載された事項に基づき、夫々当業者が容易に想到し得るものと認められる。

【6】むすび
以上の検討から明らかなように、本願の各発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基いて、あるいはこれに加えて、上記の周知技術に基づいて、いずれも当業者が容易に発明をすることができたもので、本願各発明のいずれについても、特許法第29条第2項の規定により、特許をうけることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-03-18 
結審通知日 2003-03-26 
審決日 2003-04-08 
出願番号 特願平9-219755
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B62D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西本 浩司大山 健  
特許庁審判長 神崎 潔
特許庁審判官 鈴木 久雄
ぬで島 慎二
発明の名称 自動車用折返しパイプ  
代理人 小沢 慶之輔  

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