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審決分類 審判 査定不服 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07H
審判 査定不服 特36 条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07H
管理番号 1082862
審判番号 不服2002-1955  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1999-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-02-07 
確定日 2003-09-10 
事件の表示 平成11年特許願第8415号「修飾ヌクレオチド」拒絶査定に対する審判事件[平成11年10月26日出願公開,特開平11-292892]について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,昭和58年6月23日(パリ条約による優先権主張1982年6月23日,米国)にされた特許出願(特願昭58-113599:原出願1)の一部を,平成5年6月10日付けで分割して新たな特許出願とし(特願平5-177184:原出願2),この原出願2の一部を平成9年10月28日付けでさらに分割して新たな特許出願とし(特願平9-295889:原出願3),そしてこの原出願3の一部を平成11年1月14日付けでさらに分割して新たな特許出願としたものである。

2.原査定の理由
原査定の拒絶の理由は,「この出願について,平成12年4月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由Aによって,拒絶をすべきものである。」というものであるが,「平成12年4月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由A」とは次のとおりのものである。
「A.この出願は,明細書及び図面の記載が下記1〜5の点で,特許法第36条第4項又は第5項に規定する要件を満たしていない。

1.特許請求の範囲第1項及び第31項における「Sig」に関する記載において,「検出可能な残基」という記載では該残基が具体的にどのような基を包含するのか特定することができず,本願のオリゴ又はポリヌクレオチドがどのような化合物であるのか不明瞭である。
2.本願の発明の詳細な説明の実施例IVには,末端トランスフェラーゼを用いてDNAの末端をシチジン-5'-3リン酸で標識したことが記載されているが,シチジン-5'-3リン酸は本願の「検出可能な残基」に該当するとは認められない。また他にヌクレオチドを構成する糖残基に直接に又は結合基を介して共有結合している,検出可能な残基を有するオリゴ又はポリヌクレオチドを製造し,その物性,性質等を開示する実施例等の具体的な記載があるとは認められない。
したがって,特許請求の範囲第1項に記載の発明は,本願の発明の詳細な説明に,当業者が容易に実施をできる程度に記載されているとは認められない。
3.特許請求の範囲第31項に記載の「組成物」は用途を特定して記載されていないため,どのような用途に用いられるのか明確でない。
4.特許請求の範囲第31項に記載の「そのような複合体が形成されると検出することができる残基」とはどのような基であるのか不明瞭である。
5.本願の発明の詳細な説明には,特許請求の範囲第31項に記載の組成物を製造し,どのような用途に用いることができるかを裏付ける具体的な記載はない。
したがって,特許請求の範囲第31項に記載の発明は,本願の発明の詳細な説明に当業者が容易に実施をできる程度に記載されているとは認められない。」
なお,原査定には,「備考」として以下の事項が指摘されている。
「一般に,物をどのように製造するかを理解することが困難な化合物の技術分野においては,製造された化合物を確認するための同定資料が発明の詳細な説明中に記載されていなければ,発明の詳細な説明に記載された方法によって実際に製造された化合物と,得ようとしている化合物とが一致しているか否かを確認できず,当業者が容易にその発明を実施することができないものと認められる。
上記に関し,本願出願人は意見書において,本願の発明の詳細な説明には,本願のオリゴ又はポリヌクレオチドを製造したことが具体的に実施例Vに記載されており,また,段落番号【0022】及び【0083】には3'末端標識方法が記載されていることから,本願発明の実施可能性が担保されている旨主張している。
そこで,上記主張について検討する。
実施例Vはリン酸残基の酸素又はリン原子を標識するものである。
また,段落番号【0083】にはビオチン化したdUTPを末端トランスフェラーゼを利用してdUTPの3'末端に付加したことが記載されているが,dUTPのどこにビオチンが結合しているのかは不明である。さらに,RNAリガーゼ及びDNAリガーゼは3'-OHと5'-PO3H2を共有結合で結合する酵素であるから,上記リガーゼを用いたからといって,糖残基に,オリゴ又はポリヌクレオチドが二重鎖核酸デュプレックスに取り込まれると検出可能な残基(Sig)を結合することができたとは認めがたい。
よって,本願出願人の上記主張を採用することはできない。
なお,本願出願人は,上申書及び文献を提出し,本願出願時において,糖残基に直接又は結合基を介して残基を共有結合させる化学的手法が存在していたことから,本願のオリゴ又はポリヌクレオチドの製造が実施可能であったことも主張している。しかしながら,該文献の記載から,2'位に-OMe,-Cl,-F又は-N3を導入したRNAは,本願出願時において,当業者にとって技術常識であったと認められるものの,糖残基にSigを結合したDNA又はRNAまでもが当業者にとって技術常識であったとは認められない。そして,本願出願時において,-OMe,-Cl,-F又は-N3と同様の手法により,該基と構造が大きく異なるSigを糖残基に導入できることが当業者にとって技術常識であったとも認められない。
以上のことから,本願出願時の技術常識を考慮しても,本願の発明の詳細な説明には,糖残基にSigを結合したオリゴ又はポリヌクレオチドを当業者が容易に製造することができる程度に記載されているとは認められない。
さらに,上記オリゴ又はポリヌクレオチドが製造されていない以上,該化合物を含んでなる,関心のある核酸の検出に有用な組成物についても,本願の発明の詳細な説明に当業者が容易に実施をできる程度に記載されているとは認められない。
したがって,本願特許請求の範囲第1項及び第31項に記載された発明は,本願の発明の詳細な説明に当業者が容易に実施をできる程度に記載されているとは認められないので,本願は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」

3.当審の判断
(1)特許請求の範囲第1項に記載された発明
(a)本願明細書の記載及び判断
平成12年10月25日付け手続補正書にて補正された特許請求の範囲第1項には次のとおり記載されている。
「一般式
【化1】
Sig

P-S-B
(式中,Pはリン酸残基であり,Sはリボースまたはデオキシリボース糖残基であり,Bはピリミジン,プリンまたは7-デアザプリン残基であって,前記のヌクレオチドがリボヌクレオチドの場合にはリン酸残基Pは糖残基Sの2'位,3'位および5'位から独立に選ばれる位置で糖残基Sに結合し,前記のヌクレオチドがデオキシリボヌクレオチドの場合にはリン酸残基Pは糖残基Sの3'位および5'位から独立に選ばれる位置で糖残基Sに結合し,前記の塩基Bがピリミジンの場合にはN1位から糖残基Sの1'位に結合し,前記の塩基Bがプリンまたは7-デアザプリンの場合には前記の塩基BはN9位から糖残基Sの1'位に結合し,前記のSigは,前記オリゴまたはポリヌクレオチドが二重鎖核酸デュプレックスに取り込まれると検出可能な残基であり,かつ前記のSigは前記の糖残基Sに直接にまたは結合基を介して共有結合しており,前記結合基は二重鎖核酸デュプレックスの形成に実質的に干渉しない。)を有するヌクレオチドを少なくとも一つ含んでなるオリゴまたはポリヌクレオチド。」
これに対し,本願明細書の発明の詳細な説明の項には,上記特許請求の範囲第1項に記載された事項に関して,以下のとおり記載されているのみで,これ以外には実施例を含めて何ら記載されていない。
「発明の要約
本発明は核酸物質に結合および/又は取り込みされた時に容易に検出できるようにヌクレオチドおよびDNAを含むポリヌクレオチドを化学的に修飾或いは標識することに関する。」(段落番号0001)
「本発明実施にあたり,特に重要且つ有意義な点は,自己-信号発信,自己-指示又は自己-検出核酸を利用することであり,しかも二重鎖のDNA及び同類のものに取り込まれるような核酸を利用することにある。」(段落番号0068)
「本発明に係る特別なヌクレオチド類としては,リン酸のP部分,糖又はモノサッカライドのS部分,塩基のB部分,プリン又はピリミジン並びに,P,S又はB部分に,共有結合で付いた,信号(シグナル)発信する化学的部分のSigが含まれている。」(段落番号0074)
「本発明により,上述の如く,特別のヌクレオチド類とは,P,S,及び/又はB部分に共有結合で付着している化学的部分Sigを含む。」(段落番号0077)
「本発明に係る他の特別ヌクレオチドは一般式
【化39】〔省略〕
で特性づけられる。本発明に係るその様なヌクレオチド類は,リボヌクレオチドとして特性づけられる。りん酸部分は,糖S部分の2',3'及び/又は5'位に付いていて,塩基Bは,塩基がピリミジンの時はN1位から,プリンの場合はN9位から,それぞれ糖S部分の1'位に付いている。Sig化学的部分は糖S部分に共有結合で付き,そのSig化学的部分が,そのS部分に付いている時,自己信号発信能力を有するか,自己-検出又は,その存在を明らかにでき,そして望むらくは,そのリボヌクレオチドを相当する二重鎖RNA又はDNA-RNAハイブリドに取り込ませることができる。
【化40】
Sig

P-S-B
この様なヌクレオチドでは,願わくば,Sig化学的部分が,S部分のC2'位又はS部分のC3'位にあることが望ましい。……それらに付いたS(注:Sigの誤記と認められる)部分を有する,生成ヌクレオチド類は,自己信号発信能力を有するか,自己-検出,又は自己の存在を明らかにする能力を有し,二重鎖又はDNA,RNA又はDNA-RNAハイブリド中で検出可能である。」(段落番号0078)
「要約として,本発明記載の各種特定のヌクレオチドの組立方に関して上述の如く,特定のヌクレオチド類は,リン酸部分P,糖部分S及びプリン又はピリミジンである塩基部分S(注:Bの誤記と認められる)を含有し,その結合物P-S-Bは,デオキシリボヌクレオチド類及びリボヌクレオチド類の両者のヌクレオチドに関して,よく知られ又,定義づける結合様式である。次いでヌクレオチド類は,本発明実施により化学部分Sigを共有結合で,P部分及び/又はS部分及び/又はB部分に付けて修飾する。ヌクレオチドP-S-Bに,その様に付着した化学部分Sigは,すでにSig部分が他部分の1つ又はそれ以上に付加したP-S-B構造を含む,生成ヌクレオチドに,ポリヌクレオチド,二重鎖DNA,二重鎖RNA又は二重鎖DNA-RNAハイブリドの如き,特に二重鎖ポリヌクレオチドに取込まれた時,自己-検出,又は信号発信又は,それ自体,自己の存在を明らかにさせ又はすることができる。Sig部分は,願わくはヌクレオチドが,本発明記載の特定のSig-含有ヌクレオチドを含む二重鎖ポリヌクレオチドを形成する能力を阻害せず,又その様に取り込まれた場合には,Sig-含有ヌクレオチドは,検出,局在化及び観察が可能である。」(段落番号0079)
「本発明実施により示された如く,Sig成分は,直接又は化学結合又は結合腕を通じて,ヌクレオチド例えばその中の塩基B成分,又はその中の糖S成分,又はリン酸P成分に付着可能な如何なる化学的部分をも包含する。本発明に記載したヌクレオチド類のSig成分及びSig成分を含む,本発明のヌクレオチド類を取り込んだヌクレオチド類やポリヌクレオチド類は,上記確認の米国特許第4,711,955号記載のヌクレオチド類と同じ目的に相当しそして有用である。より明確にすると,米国特許第4,711,955号記載の化学部分Aは機能的にはSig成分,又は本発明の特定のヌクレオチドの化学的部分と同等である。従ってSig成分,或いは本発明のヌクレオチド類の化学的部分は直接P,S又はB部分に共有結合で付加し,又は米国特許第4,711,955号のヌクレオチド類のBとAを結ぶ点線で示される如く,米国特許第4,711,955号に記載の如き化学結合又は結合腕を通してそれらに付加出来る。米国特許第4,711,955号中で確認した各種結合腕或いは結合は,本発明の特定ヌクレオチド類に適用でき,そしてその調製に有用である。」(段落番号0081)

これらの記載によれば,特許請求の範囲第1項に記載された発明に係るオリゴ又はポリヌクレオチドに包含される,具体的に特定されて記載された化合物は一切なく,極めて一般的な表現で示されているに過ぎず,このようなオリゴ又はポリヌクレオチドにはどのようなものが含まれ,またそれらはどのようにして製造するのかについては全く開示がなく,不明である。
したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の項には,特許請求の範囲第1項に記載された発明に係るオリゴ又はポリヌクレオチドについて,当業者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されているとは認められない。

(b)請求人の指摘について
これに対し,請求人(特許出願人)は平成12年10月25日付け意見書にて以下のとおり反論している。
「審査官殿が問題を提起されている『ヌクレオチドを構成する糖残基又はリン酸残基に直接又は結合基を介して共有結合している,検出可能な残基を有するオリゴ又はポリヌクレオチド』は具体的には実施例V(第61頁)に記載されています。
実施例Vはオリゴデオキシリボヌクレオチドをカルボジイミドカップリング法を用いてビオチン又はポリビオチン化したポリ-L-リジンで末端標識する例です。ここでもまず,DNAをアルカリ切断し,得られた溶液に含まれているオリゴデオキシリボヌクレオチドにビオチニル-1,6-ジアミノヘキサンアミド又はポリビオチン化したポリ-L-リジンをカルボジミドカップリング法により結合しているのです。この実施例ではオリゴ又はポリヌクレオチド中のヌクレオチドのリン酸残基(5'リン酸残基等)の酸素又はリン原子を標識するための手段を提供するものです。」
「また他の結合方法として,RNAリガーゼを用いるビオチニルpCpのような化合物との3'末端標識が明細書段落番号0022の後半(第27頁から)に記載されていますし,末端トランスフェラーゼを用いる核酸の3'末端へのSigの結合やDNAリガーゼ反応による3'リン酸残基へのSigの結合が段落番号0083に記載されています。」

ここで,実施例Vは請求人自ら認めているとおり「オリゴ又はポリヌクレオチド中のヌクレオチドのリン酸残基(5'リン酸残基等)の酸素又はリン原子を標識するための手段を提供するもの」である。
また,段落番号0022の記載とは「ビオチン標識RNAプローブは……RNAリガーゼを用いてビオチニル-pCpのような化合物との3'末端標識法により酵素的に調製することができる。」を指しているものと認められる。これは,段落番号0025に記載された「塩基がビオチン化されたpCp又はpUpのような化合物を酵素RNAリガーゼを使用して既存分子に付加することも出来る。」と同義であると認められるところ,RNAリガーゼは3'-OHと5'-PO3H2 を共有結合で結合する酵素であるから,結局,オリゴ又はポリヌクレオチドの3'末端にヌクレオチドを付加して延長した上に,その塩基(B)部分をビオチン化したものと同等であり,これは糖部分SにSigを結合したものではなく,塩基部分BにSigを結合したものといえる。(オリゴ又はポリヌクレオチドのSの3'末端に-P-S-B-Sigを結合したものであるが,これは,すなわちオリゴ又はポリヌクレオチドの末端ヌクレオチドの塩基(B)にSigを結合したものと何ら変わらない。
さらに,段落番号0083の記載とは,「上述した1つの特に有用な技術は,ポリピリミジンの3'末端や単鎖DNAにビオチン化したdUMPを付加するために末端トランスフェラーゼを利用することである。……本発明実施の実例としてビオチン化したdUTPを末端トランスフェラーゼを利用してdUTPの3'末端に付加し,……。本実験の結果により,末端トランスフェラーゼがポリピリミジンの3'末端にビオチン化dUMPを付加する事実が確立された。」を指しているものと認められる。この3'末端に付加されたビオチン化dUMPとは,段落番号0019の【化21】及び段落番号0038の参考例1及び2を考慮すれば,上記段落番号0022のものと同じく,糖部分Sではなく,塩基部分BにSigを結合したものに相当するものと認められる。
そうすると,請求人の主張する明細書の記載はいずれも糖Sを標識する例ではない。
なお,請求人は請求の理由において次のように述べている。
「結合方法として,RNAリガーゼを用いるビオチニルpCpのような化合物との3'末端標識が明細書段落番号0022の後半(第27頁から)に記載されているが,これはビオチニル残基が糖残基の3'末端に結合標識されたものと解される。原査定はリガーゼを用いているからP-S-Bのリン酸残基(P)にビオチンを結合したものと理解しているようである。リガーゼを用いてpCpを介して結合したからといっても,P-S-Bのリン酸残基(P)にビオチンを結合したものではなく,糖残基(S)に結合したものであることに変わりはない。糖残基とビオチニル残基との間にリン酸基が介在していても,本発明ではSigは糖残基に結合基を介して共有結合してもよいのであるから,上記明細書の記載は明らかに本発明についての記載である。
また,末端トランスフェラーゼを用いる核酸の3'末端へのSigの結合も段落番号0083で言及されている。すなわち,ビオチン化したdUTPをdUTPの3'末端(3'-OH基)に付加するということは,同様にSigが直接に又は結合基を介して糖残基に結合していることに変わりはないのである。」
しかし,このような解釈は以下の理由により不当であって採用することができない。
すなわち,これらの記載は全て,原出願3に係る発明の裏付けであるとして請求人自身が原出願3における平成11年1月18日付け意見書にて述べていたものである。
ところで,原出願3は特許第3170235号として登録されているが,その特許請求の範囲第1項の記載は次のようなものであり,本願特許請求の範囲第1項に記載された発明とはSigの結合する位置が糖残基Sではなくリン酸残基Pである点でのみ異なる。
「一般式
【化1】
Sig

P-S-B
(式中,Pはリン酸残基であり,Sはリボースまたはデオキシリボース糖残基であり,Bはピリミジン,プリンまたは7-デアザプリン残基であって,前記のヌクレオチドがリボヌクレオチドの場合にはリン酸残基Pは糖残基Sの2'位,3'位および5'位から独立に選ばれる位置で糖残基Sに結合し,前記のヌクレオチドがデオキシリボヌクレオチドの場合にはリン酸残基Pは糖残基Sの3'位および5'位から独立に選ばれる位置で糖残基Sに結合し,前記の塩基Bがピリミジンの場合にはN1位から糖残基Sの1'位に結合し,前記の塩基Bがプリンまたは7-デアザプリンの場合には前記の塩基BはN9位から糖残基Sの1'位に結合し,前記のSigは,前記オリゴまたはポリヌクレオチドが二重鎖核酸デュプレックスに取り込まれると検出可能な残基であり,かつ前記のSigは前記のリン酸残基Pに直接にまたは結合基を介して共有結合しており,前記結合基は二重鎖核酸デュプレックスの形成に実質的に干渉しない。)を有するヌクレオチドを少なくとも一つ含んでなるオリゴまたはポリヌクレオチド。」
また,原出願2は特許第2760466号として登録されているが,その特許請求の範囲第1項の記載は次のようなものであり,本願特許請求の範囲第1項に記載された発明とは基本的にSigの結合する位置が糖残基Sではなく塩基Bである点でのみ異なる。
「一般式
【化1】P-S-B-Sig
(式中,Pは,リン酸残基であり,Sは糖または単糖残基であり,Bは塩基残基であって,前記のヌクレオチドがデオキシリボヌクレオチドの場合にはリン酸残基は糖残基の3'および/または5'位に結合し,前記のヌクレオチドがリボヌクレオチドの場合には2',3'および/または5'位に結合し,前記の塩基はプリンまたはピリミジンであり,前記の塩基がそれぞれピリミジンまたはプリンの場合には前記の塩基はN1位またはN9位から糖残基の1'位に結合し,前記のSigは前記のヌクレオチドの塩基Bに共有結合している化学残基であり,前記のSigは前記の塩基Bに結合した場合には,それ自身が信号となる,またはそれ自身が自己を検出させるもしくはその存在を知らせることができるものであり,Bが7-デアザプリンである場合には,前記のSigはN7位以外の位置でBに結合し,Bがピリミジンである場合にはC5位以外の位置でBに結合し,Bがプリンである場合にはC8位以外の位置でBに結合する)を有する,少なくとも1つのヌクレオチドを含んで成るオリゴまたはポリヌクレオチド。」
そうすると,請求人の指摘する上記本願明細書の記載をもって本願特許請求の範囲第1項に記載された発明を裏付けるものとするならば,本願特許請求の範囲第1項に記載された発明は,上記原出願3に係る発明に包含されるものとなる(Sの3'位に結合したPに対し結合基を介してSigが結合する点で原出願3に係る発明と同一となる)し,上記原出願2に係る発明に包含されるものとなる(オリゴまたはポリヌクレオチドの3'末端に結合したヌクレオチド(-P-S-B)のBにSigが結合する点で原出願2に係る発明と同一となる)うえ,そもそも「結合基」の意味内容を不明りょうにする結果となることから,請求人の主張は到底正当なものとして採用することはできない。

(c)本願出願時の技術常識について
さらに,請求人は請求の理由において以下の主張をしている。
「平成12年10月25日提出の意見書に添付した文献(「ヌクレオチド-タンパク共役体の調製:カップリング剤としてのカルボジイミド」,Halloran and Parker, J. Immunol., 96:373(1966))について追加の説明をする。この文献の第374頁のFig.1にはヌクレオチド(この図はデオキシリボヌクレオチドの例ではあるが)の3'位を修飾するための反応スキーム(反応3)が右上に開示されている。Fig.1の説明からわかるように,この反応3はカルボジイミドの存在下でタンパク質のカルボキシル基とヌクレオチドの3'-H基(注:3'-OH基の誤記と認められる)とを結合する反応であって,糖残基のビオチン化にも応用できるものである。この文献の記載からすれば,糖残基にSigを結合することが当業者にとって技術常識であったといえるのである。
そして,このカルボジイミドの存在下での反応の例が,本願の実施例V(第61頁)なのである。
また原査定は,平成13年1月26日提出の上申書に添付した文献(Wolfman Saenger(注:Wolfram Saengerの誤記と認められる), Principles of Nucleic Acid Structure, p.61-65, p.173-176, p.472(1984))について,糖残基にSigを結合したDNA又はRNAまで技術常識であったとは認められないと述べるが,この文献ではリボヌクレオチドであるRNAの2'位の-OH基を-OMe,-Cl,-F又は-N3基とすることは原査定も認めるように技術常識だったのであり,上記のHalloran and Parkerの文献で3'位の-OH基にタンパク質のカルボキシル基が導入されている例と併せ鑑みれば,Sigを糖残基に結合し得ることは,DNAであれRNAであれ,何らその実施可能性が損われるものではない。原査定は上記2件の文献の内容を過小に評価しているのである。」
しかし,いずれの文献においても,糖の3'位または2'位への置換基の導入について極めて一般的に記載するのみであり,本願発明で使用されるSig基の糖残基Sの2',3'または5'位への結合については何ら記載されていない。さらに,実施例VはHalloran and Parkerの文献の反応2を利用するものであるが,反応3については実施例Vには何ら触れられていないのである。すなわち,本願の特許請求の範囲第1項に記載された結合基は二重鎖核酸デュプレックスの形成に実質的に干渉しないことが要件であるところ,そのような性質を有する結合基としてどのような結合基を使用すればよいのか等についての知見まではHalloran and Parkerの文献からは得ることはできず,これらが本願出願時の当業者における技術常識であったとは認めることはできない。Wolfram Saengerの文献についても同様である。
したがって,これらの文献に記載された事項が本願出願前の技術常識であったとしても,本願明細書に特許請求の範囲第1項に記載された発明について当業者が容易に実施することができる程度に開示があったとはいえない。

(2)特許請求の範囲第31項に記載された発明
また,特許請求の範囲第31項に記載された発明は,「特許請求の範囲第1項に記載された発明に係るオリゴまたはポリヌクレオチド,Sigと複合体を形成することができるポリペプチドおよびそのような複合体が形成されると検出することができる残基を含んでなる,関心のある核酸の検出に有用な組成物。」に係るものである。
しかし,上記したとおり,特許請求の範囲第1項に記載された発明について本願明細書の発明の詳細な説明の項に当業者が容易に実施することができる程度に記載されていないのであるから,同第31項に記載された発明も同様に本願明細書の発明の詳細な説明の項に当業者が容易に実施することができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されていないものである。

4.むすび
したがって,本願は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-04-16 
結審通知日 2003-04-18 
審決日 2003-04-30 
出願番号 特願平11-8415
審決分類 P 1 8・ 532- Z (C07H)
P 1 8・ 531- Z (C07H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中木 亜希  
特許庁審判長 竹林 則幸
特許庁審判官 横尾 俊一
松浦 新司
発明の名称 修飾ヌクレオチド  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 肇  

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