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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01L
管理番号 1083126
異議申立番号 異議2002-70171  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-03-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-01-23 
確定日 2003-07-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3191432号「液晶装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3191432号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許は、平成4年9月3日に出願したものであって、請求項1に係る発明につき平成13年5月25日に特許権の設定登録がなされた後、平成14年1月23日に特許異議申立人である高野哲二より請求項1に係る発明についての特許に対して特許異議の申立がなされて、取消の理由が通知され、その指定期間内である平成15年6月2日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
訂正事項a.
請求項1の記載を「2枚の基板間に液晶層を挟持してなる液晶装置において、
第1の異方導電性接着剤を介して前記基板に加熱、加圧して圧着接合されたICチップと、第2の異方性導電性接着剤を介して前記基板に加熱、加圧して圧着接合された前記ICチップへの入力信号を供給するフレキシブル回路基板とを有してなり、
前記第1の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点は、前記第2の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点よりも、10℃以上高いことを特徴とする液晶装置。」と訂正する。
訂正事項b.
明細書の段落番号【0009】の記載を「【課題を解決するための手段】
本発明の液晶装置は、2枚の基板間に液晶層を挟持してなる液晶装置において、
第1の異方導電性接着剤を介して前記基板に加熱、加圧して圧着接合されたICチップと、第2の異方性導電性接着剤を介して前記基板に加熱、加圧して圧着接合された前記ICチップへの入力信号を供給するフレキシブル回路基板とを有してなり、
前記第1の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点は、前記第2の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点よりも、10℃以上高いことを特徴とする。」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の適否
上記訂正事項aは、請求項1における2箇所の「前記基板に接合されるICチップ」を「前記基板に加熱、加圧して圧着接合されたICチップ」と訂正するものであり、これは願書に添付した明細書【0015】及び【0016】の記載に基づいて「接合」を「加熱、加圧して圧着接合」として特許請求の範囲を減縮すると同時に、「接合される」を「接合された」として明りょうでない記載の釈明を行うものである。したがって、訂正事項aは特許請求の範囲の減縮および明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当するものである。また、上記訂正事項bは、訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当するものである。
そして、上記訂正事項a及びbは、いずれも願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書および第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立についての判断
(1)本件の請求項1に係る発明
上記「2.訂正に適否についての判断」で示したように上記訂正が認められるから、訂正後の本件の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、上記訂正請求に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】2枚の基板間に液晶層を挟持してなる液晶装置において、
第1の異方導電性接着剤を介して前記基板に加熱、加圧して圧着接合されたICチップと、第2の異方性導電性接着剤を介して前記基板に加熱、加圧して圧着接合された前記ICチップへの入力信号を供給するフレキシブル回路基板とを有してなり、
前記第1の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点は、前記第2の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点よりも、10℃以上高いことを特徴とする液晶装置。」

(2)取消理由の概要
本件発明は、明細書の記載が下記(i)及び(ii)の点で、特許法第36条第4〜6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(i)接着剤のガラス転移点及び軟化点は、測定方法及びその測定条件によって変化するものであるから、2種類の接着剤のガラス転移点及び軟化点の差も測定方法及びその測定条件によって変化し得る。本件特許明細書には、接着剤のガラス転移点及び軟化点の測定方法及び条件が記載されておらず、本件発明の「前記第1の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点は、前記第2の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点よりも、10℃以上高い」との構成が特定できないため、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているとも、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しているともいえない。
(ii)接着剤のガラス転移点及び軟化点についての規定を設けている本件発明においては、その具体的接着剤としては熱可塑性樹脂が想定されるところではあるが、本件特許明細書には熱硬化性樹脂に当てはまる記載があり、本件発明の接着剤がいずれに対応するものか特定できず、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されているとも、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載しているともいえない。

(3)取消理由への判断
取消理由の(i)の指摘事項について検討する。
ガラス転移点及び軟化点を測定した場合に、その測定方法や測定条件によって異なる測定値が得られる可能性はあるが、本件発明におけるガラス転移点及び軟化点は、本件特許明細書【0012】に「他方図3は異方導電性接着剤の熱膨張特性を示し、図4は異方導電性接着剤の粘弾性を示す。図3および図4において11はICを液晶パネルガラスに固定する異方導電性接着剤6の特性カーブであり、12はフレキシブル回路基板を液晶パネルガラスに固定する異方導電性接着剤7の特性カーブである。図3より分かる様に一般の接着剤はある温度T1で屈曲点を持っており、これをガラス転移点と呼ぶ。さらに、図4の粘弾性カーブより分かる様に接着剤の弾性率はある温度T2で急速に低下する、これを軟化点とよぶ」と記載されているように、学術的に定義される物質に依存する固有の値であり、特定の測定方法及び測定条件によって測定された値を示すものではないため、特許権者が特許異議意見書で主張するとおり、本件特許明細書に接着剤のガラス転移点及び軟化点の測定方法及び測定条件が記載されていないからといって、本件発明の「前記第1の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点は、前記第2の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点よりも、10℃以上高い」との構成が特定できないとはいえない。よって、上記取消理由(i)の事項については撤回する。
次に、取消理由の(ii)の事項について検討する。
熱硬化性樹脂にもガラス転移点及び軟化点が存在することは明らかであり、本件発明において、接着剤として熱可塑性樹脂のみに限定する理由はなく、「前記第1の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点は、前記第2の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点よりも、10℃以上高い」との特有の構成を満たせば、その接着剤が熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂のいずれでもよいものであるから、本件発明の接着剤が前記両者のいずれに対応するものか特定できないからといって、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その発明の目的、構成及び効果が記載されていないとも、特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載していないともいえない。よって、上記取消理由(ii)の事項についても撤回する。

(4)特許異議申立のその他の理由
特許異議申立書では、甲第1号証(実開平4-77134号公報)、甲第2号証(特開昭63-136639号公報)及び甲第3号証(特開平1-121385号公報)を証拠として、本件発明が特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであることも主張している。しかしながら、甲第1〜3号証のいずれにも、2枚の基板間に液晶層を挟持してなり、異方導電性接着剤を介して前記基板に加熱、加圧して圧着接合されたICチップと、異方性導電性接着剤を介して前記基板に加熱、加圧して圧着接合された前記ICチップへの入力信号を供給するフレキシブル回路基板とを有してなる液晶装置において、「前者の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点が、後者の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点よりも、10℃以上高いこと」は記載も、示唆もされておらず、甲第1〜3号証をいかに組み合わせても、導き出せるものではない。本件発明は、これにより本件特許明細書に記載されている「フレキシブル回路基板を圧着する異方導電性接着剤の軟化点、ガラス転移点をICを接合する軟化点、ガラス転移点よりも低くしているために、フレキシブル回路基板の液晶パネルのガラス基板への圧着接合温度をフレキシブル回路基板の異方導電性接着剤の軟化点より高く設定しても、ICを接合する異方導電性接着剤の軟化点およびガラス転移点がより高いため、フレキシブル回路基板を圧着する熱がかなり効率よくIC下に伝道してもICを接合する異方導電性接着剤の軟化点およびガラス転移点にはIC下の温度が達せず、ICを接合する異方導電性接着剤の接合の緩みが生じることもなく、ICと液晶パネルのガラス基板の接合の間の力学的な応力が大きくなって接合の信頼性が低減する事もない。また、フレキシブル回路基板を液晶パネルのガラス基板に接合する異方導電性接着剤の硬化も完全硬化が図られ、信頼性も高い。」という顕著な効果を有するものである。
したがって、本件発明は特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

(5)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1に係る特許については、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるとすることができないし、しかも他に拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるとする理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
液晶装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 2枚の基板間に液晶層を挟持してなる液晶装置において、
第1の異方導電性接着剤を介して前記基板に加熱、加圧して圧着接合されたICチップと、第2の異方性導電性接着剤を介して前記基板に加熱、加圧して圧着接合された前記ICチップへの入力信号を供給するフレキシブル回路基板とを有してなり、
前記第1の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点は、前記第2の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点よりも、10℃以上高いことを特徴とする液晶装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本考案はポケットテレビ、壁掛けテレビ、プロジェクションテレビ、ラップトップパソコン、ゲーム機、等に持ちいられる液晶パネルの実装構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来よりポケットテレビなど液晶パネルを組み込むためには小型、高密度実装の液晶パネルを構成する必要がある。その対策の一例として液晶パネルを構成しているガラス基板上にICチップを直接搭載する方法が提案されている。
【0003】
以下図面を参照しながら、従来の液晶パネルについて説明する。図2は従来の液晶パネル実装構造の部分断面図の一例を示すものである。図2において21はICチップ、22は液晶パネル、23は液晶パネルの基板上に形成された電極パターン、24はICを駆動するための入力信号を供給するフレキシブル回路基板、25は上記入力信号を供給する液晶パネルの基板上の電極パターンを、26は上記ICチップを液晶パネルのガラス基板に接合する異方導電性接着剤、27は上記フレキシブル回路基板をガラス基板に接合する異方導電性接着剤を示す。
【0004】
図2においてICチップはフェイスダウンによって液晶パネルの基板上に搭載されている。ICチップの能動面には接続電極たる電極パッドが形成されている。液晶パネルの基板上には上記ICチップの接続電極と相対峙して接続用回路が形成されている。上記ICチップを駆動する入力信号はフレキシブル回路基板24によって液晶パネルのガラス基板を介して供給される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
一般に液晶パネルの中の電極パターンは基板上に多数平行して配されている。そして、図2より明らかなように上記電極パターンは液晶パネルの2枚の基板が重ね合わされた部位からICチップの出力電極に向かって連続的に接続されている。ICチップの出力電極数はきわめて多い。ICチップを駆動する入力信号はフレキシブル回路基板24より上記ICチップ21の入力電極へ向かって上記液晶パネル22の基板上に形成された電極パターン23をへてICチップ21へ供給される。フレキシブル回路基板24の液晶パネル22への接合は異方導電性接着剤27によって行なわれている。また、ICチップ21は異方導電性接着剤26によって液晶パネルのガラス基板に接合されている。そして異方導電性接着剤26と27は共通の接着剤によってなされている。
【0006】
一般的にこの様な液晶パネル構造においては、ICチップの電極パッドと液晶パネルガラス基板の電極パターンとを相対峙する位置に合わせ、上記ICチップと液晶パネルのガラス基板との間に異方導電性接着剤を挟持し、この後ICチップの上から加圧しながら上記異方導電性接着剤を加熱し上記ICチップと液晶パネルのガラス基板とを接合固定する。さらにこの後、フレキシブル回路基板を液晶パネルのガラス基板に異方導電性接着剤を挟んで載せ、フレキシブル回路基板を圧着ツールで加熱加圧しフレキシブル回路基板と液晶パネルのガラス基板とを接合固定する。
【0007】
最初にICを液晶パネルに圧着するときは異方導電性接着剤を最高強度に達するような圧着条件で接合固定する事ができる。しかし、その後、フレキシブル回路基板を液晶パネルに圧着するときは圧着条件がICを液晶パネルに圧着するときと同じ条件で圧着すると先に圧着したIC固定用の異方導電性接着剤が高温でゆるみIC接合固定の信頼性は低減する事となる。また、フレキシブル回路基板を液晶パネルに圧着する条件を低くすると、これも異方導電性接着剤の硬化が不完全となり接続信頼性はやはり低減することとなる。
【0008】
そこで、本発明は従来のこのような欠点を解決し、液晶パネルの実装構造の接続信頼性を向上することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の液晶装置は、2枚の基板間に液晶層を挟持してなる液晶装置において、
第1の異方導電性接着剤を介して前記基板に加熱、加圧して圧着接合されたICチップと、第2の異方性導電性接着剤を介して前記基板に加熱、加圧して圧着接合された前記ICチップへの入力信号を供給するフレキシブル回路基板とを有してなり、
前記第1の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点は、前記第2の異方導電性接着剤のガラス転移点および軟化点よりも、10℃以上高いことを特徴とする。
【0010】
【実施例】
図1は本発明による液晶パネル実装構造の一例の部分断面図を示す。図1に於て、1はICチップ、2は液晶パネル、3は液晶パネルの基板上に形成されたICの電極パッドに相対峙する電極パターン、4はフレキシブル回路基板、5は上記フレキシブル回路基板を接合するドライバーICへの入力信号導入部となる液晶パネル上の電極パターン、6はICを液晶パネルのガラス基板に接合する異方導電性接着剤、7はフレキシブル回路基板を液晶パネルに接合する異方導電性接着剤、8はICの電極パッドを示す。図1においてICチップはフェイスダウンによって液晶パネルの基板上に搭載されている。ICチップの能動面には接続電極たる電極パッドが形成されている。液晶パネルの基板上には上記ICチップの接続電極と相対峙して電極パターンが形成されている。液晶パネルを構成する2枚の基板には液晶層が挟持され、各基板の各々対向する面には液晶を駆動するXライン、Yラインが多数平行して配されている。アクティブマトリクスパネルの場合は上記ラインにTFTやMIMなどのアクティブ素子が多数接続されている。上記2枚の基板の重ね合わせ部の外側にはどちらか1枚の基板が延長して構成され、上記2枚の基板の重ね合わせ部のすぐ外側には、上記ラインの端末部が配されている。上記基板の延長部には、液晶を駆動するICチップがフェイスダウンによって搭載されており、上記ICチップの出力電極と上記ラインの端末部とは疑似放射状に上記基板延長上に電極パターンが形成されている。
【0011】
他方、上記ICチップを駆動する入力信号はフレキシブル回路基板によって供給され、上記ガラス基板の延長部上に異方導電性接着剤により接着導通接合されている。上記入力信号を供給するフレキシブル回路基板の端末部は銅箔がむき出しになっている。この銅箔のむき出し部には錆止めのため半田メッキ、Niメッキ、Auメッキ、9:1Snメッキ、Snメッキ等が施されている。
【0012】
他方図3は異方導電性接着剤の熱膨張特性を示し、図4は異方導電性接着剤の粘弾性を示す。図3および図4において11はICを液晶パネルガラスに固定する異方導電性接着剤6の特性カーブであり、12はフレキシブル回路基板を液晶パネルガラスに固定する異方導電性接着剤7の特性カーブである。図3より分かる様に一般の接着剤はある温度T1で屈曲点を持っており、これをガラス転移点と呼ぶ。さらに、図4の粘弾性カーブより分かる様に接着剤の弾性率はある温度T2で急速に低下する、これを軟化点とよぶ、この軟化点とガラス転移点はかなり近い値である事もあるが、若干離れた値である事もあり接着剤の種類によって異なる。この軟化点は金属で例えれば融点に例えられるが、普通は接着剤を構成する樹脂は明確な融点は存在しない。
【0013】
つぎに、ガラス転移点、および軟化点の意味するところを以下に若干説明する。被接合物を接合後、温度をかけるとガラス転移点以下の熱膨張係数とガラス転移点以上の熱膨張係数が異なる事によりガラス転移点を越えると被接合物の接合の応力は大きくなっていまい、接合信頼性を劣化させる要因となる。また軟化点はいわば金属で言えば融点に相当するため、軟化点以上の温度を被接合物にかけると接合の力が緩んでしまう事となる。この軟化点もガラス転移点とは別の意味で被接合物の接合信頼性の左右する指針となる。
【0014】
最初に液晶パネルガラスにICチップを異方導電性接着剤にて接着剤固定し、つぎにフレキシブル回路基板を接着剤固定すると、フレキシブル回路基板の圧着時の熱がICをパネルガラスに接合固定している接着剤に及ぼす影響を考慮しなければならない。
【0015】
ICチップと上記フレキシブル回路基板の位置が近いと、ICチップを液晶パネルのガラス基板に圧着後、フレキシブル回路基板をガラス基板に加熱、加圧して圧着するとこの熱が先に圧着したICチップに伝導しICを圧着接合した異方導電性接着剤を緩めかねない。この緩みがあるかどうかはICを圧着接合した異方導電性接着剤の軟化点に関わる問題となる。フレキシブル回路基板を圧着する熱にがICの方へ伝導することにより、IC下の異方導電性接着剤の温度が軟化点よりも充分低ければよいことになる。
【0016】
もう一つ、ICチップと上記フレキシブル回路基板の位置が近いと問題となる項目がある。それは、ICチップを液晶パネルのガラス基板に圧着後、フレキシブル回路基板をガラス基板に加熱、加圧して圧着するとこの熱がICを含めて周辺の温度を高め、ICと液晶パネルのガラス基板の接合の歪みを増大させ、接合の信頼性を低減させてしまうことである。この歪みの大きさは、熱膨張係数が大きくなるガラス転移点をICを接合している異方導電性接着剤の温度が上回ると大きくなる。従って、フレキシブル回路基板を圧着後、その温度が伝道してICにいたるとき到達する温度が異方導電性接着剤のガラス転移点よりも充分低ければよいことになる。
【0017】
一般的にはガラスの熱伝導係数は小さく、ICチップとフレキシブル回路基板の位置をある程度近づけてもガラスだけではフレキシブル回路基板圧着時の熱が早急にICに伝わることは少ない。しかし、ガラス基板上には一般には金属等で形成された電極パターンもあり、この電極パターンを通してフレキシブル回路基板圧着時の熱がICに伝わる量も大きくなる。
【0018】
以上述べたように、フレキシブル回路基板圧着時の熱の影響がIC接合部へ及ぶのを防ぐにはICとフレキシブル回路基板の距離を離すか、あるいはフレキシブル回路基板圧着の温度を下げる方法がある。しかし、ICとフレキシブル回路基板の距離を離すと液晶パネルの外形サイズが大きくなってしまい、液晶パネルの商品価値が低減してしまう。これに対しフレキシブル回路基板の圧着温度を低減すると液晶パネルの外形サイズを大きくしないで上記の目的を達することができる。しかし、フレキシブル回路基板を圧着する異方導電性接着剤がICを圧着する異方導電性接着剤と同じで単にフレキシブル回路基板を圧着する異方導電性接着剤の圧着温度のみを低減したのでは、フレキシブル回路基板を圧着する信頼性が低減してしまう。
【0019】
これにたいして、本発明においてはフレキシブル回路基板を圧着する異方導電性接着剤の軟化点とガラス転移点をICを圧着する異方導電性接着剤に対して10℃以上低くしていることに特徴があり、上記に説明しているように軟化点とガラス転移点に意義がある。
【0020】
一般的には異方導電性接着剤の圧着温度は上記する軟化点やガラス転移点よりも高温であるが、圧着した時に異方導電性接着剤が充分軟化しICの電極パッドや銅箔リードなどのような突起的な導通物質により充分排除されることが必要となる。本発明においては、フレキシブル回路基板を圧着する異方導電性接着剤の軟化点、ガラス転移点をICを接合する軟化点、ガラス転移点よりも低くしているために、フレキシブル回路基板の液晶パネルのガラス基板への圧着接合温度をフレキシブル回路基板の異方導電性接着剤の軟化点より高く設定しても、ICを接合する異方導電性接着剤の軟化点およびガラス転移点がより高いため、フレキシブル回路基板を圧着する熱がかなり効率よくIC下に伝道してもICを接合する異方導電性接着剤の軟化点およびガラス転移点にはIC下の温度が達せず、ICを接合する異方導電性接着剤の接合の緩みが生じることもなく、ICと液晶パネルのガラス基板の接合の間の力学的な応力が大きくなって接合の信頼性が低減する事もない。また、フレキシブル回路基板を液晶パネルのガラス基板に接合する異方導電性接着剤の硬化も完全硬化が図られ、信頼性も高い。
【0021】
【発明の効果】
本考発明は以上説明したように、ICチップを直接フェイスダウンにて液晶パネルのガラス基板の上に登載実装する異方導電性接着剤に対し、ICチップを駆動する入力信号を供給するフレキシブル回路基板を接合する異方導電性接着剤のガラス転移点と軟化点を低くすることにより、IC実装およびフレキシブル回路基板実装の接続信頼性を向上させる効果がある。
【0022】
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例における液晶パネルの実装構造の例を示す図。
【図2】 従来の実施例における液晶パネルの実装構造の例を示す図。
【図3】 異方導電性接着剤の熱膨張カーブを示すグラフ。
【図4】 異方導電性接着剤の粘弾性特性を示すグラフ。
【符号の説明】
1,21 ICチップ
2,22 液晶パネル
3 液晶パネルの基板上に形成されたICの電極パッドに相対峙する電極パターン
4 フレキシブル回路基板
5 フレキシブル回路基板を接合するドライバーICへの入力信号導入部となる液晶パネル上の電極パターン
6 ICを液晶パネルのガラス基板に接合する異方導電性接着剤
7 フレキシブル回路基板を液晶パネルに接合する異方導電性接着剤
8 ICの電極パッド
11 ICを液晶パネルガラスに固定する異方導電性接着剤6の特性カーブ
12 フレキシブル回路基板を液晶パネルガラスに固定する異方導電性接着剤7の特性カーブ
23 液晶パネルの基板上に形成された電極パターン
24 ICを駆動するための入力信号を供給するフレキシブル回路基板
25 上記入力信号を供給する液晶パネルの基板上の電極パターン
26 上記ICチップを液晶パネルのガラス基板に接合する異方導電性接着剤
27 上記フレキシブル回路基板をガラス基板に接合する異方導電性接着剤
 
訂正の要旨 a.特許請求の範囲の請求項1中の、
2箇所の「前記基板に接合される」を「前記基板に加熱、加圧して圧着接合された」と訂正する。
b.明細書の段落【0009】中の、
2箇所の「前記基板に接合される」を「前記基板に加熱、加圧して圧着接合された」と訂正する。
異議決定日 2003-06-16 
出願番号 特願平4-236118
審決分類 P 1 651・ 531- YA (H01L)
P 1 651・ 534- YA (H01L)
P 1 651・ 121- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 川真田 秀男  
特許庁審判長 関根 恒也
特許庁審判官 三崎 仁
池田 正人
登録日 2001-05-25 
登録番号 特許第3191432号(P3191432)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 液晶装置  
代理人 石井 康夫  
代理人 石井 康夫  
代理人 正林 真之  

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