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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
審判 一部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1083146
異議申立番号 異議2002-72247  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-03-03 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-09-10 
確定日 2003-07-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3267936号「バイオセンサ」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3267936号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第3267936号の請求項1ないし4に係る発明についての出願は、平成10年8月26日に特許出願され、平成14年1月11日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、申立人新井清司より請求項1ないし2に係る発明について特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知され、その指定期間内である平成15年3月18日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否についての判断
(1) 訂正の内容
<訂正事項a>
特許請求の範囲の請求項1において、「前記試薬層が前記第3の電極と対向する前記作用極または前記対極上に配置されている」を、「前記試薬層が前記第3の電極に接することなく前記第3の電極と対向する面上に形成された電極上に配置されている」と訂正する。
<訂正事項b>
特許請求の範囲の請求項2において、「前記試薬層が前記第3の電極と対向する前記作用極または前記対極上に配置されている」を、「前記試薬層が前記第3の電極に接することなく前記第3の電極と対向する面上に形成された電極上に配置されている」と訂正する。
<訂正事項c>
段落【0006】において、「前記試薬層が前記第3の電極と対向する前記作用極または前記対極上に配置されている」を、「前記試薬層が前記第3の電極に接することなく前記第3の電極と対向する面上に形成された電極上に配置されている」と訂正する。
<訂正事項d>
特許請求の範囲の請求項1、および段落【0006】において、「電子伝導体」を「電子伝達体」と訂正する。
<訂正事項e>
段落【0009】において、第10行目の「酸化」を「還元」と訂正し、さらに、第13〜14行目の「酸化」を「還元」と訂正する。

(2) 訂正の目的、新規事項の有無、拡張・変更について
上記訂正事項a、bは、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、上記訂正事項cは、特許請求の範囲の減縮に伴い、発明の詳細な説明の記載を対応したものに整合させるものであるから、明りょうでない事項の釈明を目的とするものである。また、上記訂正事項dおよびeは、誤記の訂正を目的とするものである。
そして、上記訂正事項a〜eは、いずれも願書に添付された明細書に記載された事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも、変更するものでもない。

(3) 訂正事項の検討結果
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議の申立てについて
1.本件発明
本件特許の請求項1ないし2に係る発明は、本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された次のとおりのものである。(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という。)
「【請求項1】 作用極、対極、および妨害物質検知電極として使用され得る第3の電極を有する電極系と、少なくとも酸化還元酵素および電子伝達体を含有する試薬層と、前記電極系および試薬層を支持する電気絶縁性基板とを具備し、第3の電極が作用極および対極の少なくとも一方と対向する位置に配置されており、前記試薬層が前記第3の電極に接することなく前記第3の電極と対向する面上に形成された電極上に配置されていることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項2】電気絶縁性基板と、この基板との間に試料液供給路を形成する電気絶縁性のカバー部材と、前記試料液供給路に露出するように基板またはカバー部材に形成され、作用極、対極、および第3の電極を有する電極系および試薬層とを具備し、試料液供給路内において第3の電極が作用極および対極の少なくとも一方と対向し、前記試薬層が前記第3の電極に接することなく前記第3の電極と対向する面上に形成された電極上に配置されていることを特徴とするバイオセンサ。」

2.特許法29条違反について
(1)当審が平成15年1月7日付けで通知した取消理由に引用した刊行物は、以下のものである。
刊行物1:国際公開第98/35225号パンフレット(平成10年8月13日公開)(甲第1号証、申立人は刊行物1の抄訳文を甲第2号証として提出。)
刊行物2:特開平9-101280号公報(甲第3号証)
刊行物3:特開平7-325064号公報

(2)引用刊行物の記載事項
(イ)刊行物1
小体積試料中の生物学的被検体の検出のための分析センサー(1頁4〜5行)である「小体積インビトロ被検体センサー」の発明に関する刊行物1には、当該センサーが「バイオセンサー」であることが記載され(1頁29行〜2頁3行)、そして、下記の事項が記載されている。
(1a)2以上の対向電極対(2頁27行〜30行)
「本発明は2以上の対向電極対を備えた電気化学センサーを含む。各電極対は、作用極と、対極と、2つの電極間に存在する測定領域とを有し、測定領域は約1μL未満の試料を保持する大きさである。」
(1b)2つの電極対による妨害物質に起因する誤差の除去(3頁25行〜4頁9行)
「本発明の別の側面は、第1の電極対および第2の電極対を含む電気化学センサーに試料を接触させることによって、少ない誤差で試料中の被検体濃度を測定する方法である。各電極対は、作用極と、試料を作用極に電解的に接触させて保持する試料室とを有し、試料室は約1μL未満の試料を含む大きさである。第1の電極対は、作用極上に不溶脱性の酸化還元媒介剤および不溶脱性の酵素を有している。第2の電極対は、酵素を有しない状態で作用極上に不溶脱性の酸化還元媒介剤を有している。この方法は、更に、第1の電極対で発生する第1の電流と、第2の電極対で発生する第2の電流とを実質的に同時に、2回以上測定する工程を含むものである。測定された第1の電流および第2の電流は個別に積算され、第1の電荷および第2の電荷が各々得られる。第1の電荷から第2の電荷を差し引かれ、試料中の被検体濃度と相関するノイズが低減された電荷が得られる。この方法は、妨害物質または試料導入前の酸化還元媒介剤の混入した酸化状態に起因する誤差を除去するのに使用できる。」
(1c)酸化還元媒介剤(10頁9行〜12行)
「酸化還元媒介剤は、作用極22と被検体との間における電流の伝達を媒介し、電極上で直接電気化学反応させるのに適さない分子の電気化学的分析を可能にする。媒介剤は、電極と被検体との間の電子伝達剤として機能する。」
(1d)スペーサー(16頁20行〜26行)
「図1および図3に示すように電極が互いに対向する場合、電極を離間させておくために、スペーサー28を使用することができる。スペーサーは、通常、ポリエステル、マイラー(Mylar;商標)、ケブラー(Kevlar;商標)、もしくはその他の強靭で薄いポリマーフィルム、または、化学的に不活性であることから選択されるテフロン(Tefron;商標)フィルムなどの薄いポリマーフィルムなどの、不活性の非導電性物質で構成される。セパレーター28は、電極間の接触を防止することに加えて、図1-4に示すように、試料室24の境界としても機能する。」
(1e) 図5(33頁1行〜32行)
「図5に示す本発明の一実施形態においては、複数の作用極42、44、46が基体48に備えられている。これらの電極は、図示していない対極が配置された、図示していない別の基体で覆われており、複数の対向電極対を提供している。このセンサーにおける、電極対の作用極と対極との間の離間距離の変動は、かなり減少する。作用極および対極は、各電極対間に同一のスペーサー28を備えた単一の基体上に各々設けられる(図3参照)。
ここで、電極対を有する測定領域の体積の正確な測定に使用でき、ノイズの低減に有用な多電極センサーの一例を示す。この例においては、1つの作用極42には、不溶脱性の酸化還元媒介剤および不溶脱性の第2の電子伝達剤(例えば、酵素)が設けられている。吸収体が、作用極42とそれに対応する対極との間に配置されていてもよい。別の作用極44は、電極上に、不溶脱性の酸化還元媒介剤を含むが、第2の電子伝達剤は存在しない。更に、この第2の電極対は、作用極44とそれに対応する対極との間に吸収体を備えていてもよい。随意の第3の作用極46は、電極に結合した酸化還元媒介剤および第2の電子伝達剤を有しておらず、作用極46とそれに対応する対極との間には吸収体が存在していない。
試料室の厚みは、電極46(または、吸収体が存在しない場合の電極42、44のいずれか)とそれに対応する対極との間の、好ましくはいかなる液体もが存在しないときの、静電容量を測定することによって求められる。電極対の静電容量は、電極の表面積、電極間の間隔およびプレート間物質の誘電率に依存する。空気の誘電率は不変であるため、この電極配置の静電容量は数ピコファラドである(または、電極と対極との間に液体が存在する場合は、大部分の生体液の誘電率は約75であるという前提で、約100ピコファラドである)。よって、電極の表面積は既知であるため、電極対の静電容量の測定は、測定領域の厚みを約1-5%の範囲内で測定することを可能にする。」
(1f)誤差の測定(34頁8行〜22行)
「試料導入前に不均一な酸化状態で存在する酸化還元媒介剤に起因するセンサーの誤差は、電極42および44の各々に最も近い測定領域で、同時に試料を電気分解することによって測定できる。電極44においては、第2の電子伝達剤が存在しないため被検体は電気分解されない(第2の電子伝達剤が必要であると仮定する)。しかしながら、試料導入前に混成した酸化状態にある(すなわち、いくつかの酸化還元中心は還元形であり、いくつかは酸化形である)酸化還元媒介剤の電気分解に起因して、小さな電荷が移動する小さい電流が流れる)。この第2の電極対の間を移動する小さい電荷を、第1の電極対の間を移動する電荷から差し引いて、酸化還元媒介剤の酸化状態に起因した誤差を実質的に除去することができる。この操作は、容量性の充電および誘導性の電流に関連する誤差だけでなく、アスコルビン酸塩、尿酸塩およびアセトアミノフェンなどの電気分解される別の妨害物質に関連する誤差をも低減する。」

(ロ)刊行物2
刊行物2には、「バイオセンサ」について次の事項が記載されている。
(2a)補正用アノード電極を備えた態様(第4〜5欄)
「【0019】(実施形態2)図3(A)はこの実施形態の平面図、図3(B)は同図(A)のA-A断面図である。本実施形態では、図に示すように、上連続多孔性膜11と下連続多孔性膜12とが、絶縁性材料でなる板状のスペーサ13を介して接合されている。なお、下連続多孔性膜12は、上連続多孔性膜11の一側縁部より外側に突出する延在部12Aが形成されている。なお、スペーサ13には、図3(A)に破線で示すような平面略T字形状の、試料液導入空間としての中空部14が形成されている。この中空部14は、下連続多孔性膜12の延在部12Aの幅方向の中央の位置から内側に向けてスペーサ13を切り欠いた試料液導入部14Aと、この試料液導入部14Aに連通する、上下連続多孔性膜11、12の幅方向に沿ってスペーサ13を切り欠いた検査空間14Bと、から構成されている。
【0020】そして、下連続多孔性膜12の下面には、例えば対向電極として導電性カーボンでなるカソード電極15が全面に亙って形成されている。また、このカソード電極15の下面には、全面にわたって下絶縁膜16が形成されている。一方、上連続多孔性膜11の上面には、図3(A)に示すように、所定距離を介して、長手方向に沿って形成された、作用電極として白金でなるアノード電極17と、同じく白金でなる補正用アノード電極18とが形成されている。これらアノード電極17と補正用アノード電極18のそれぞれの一端部には、円形状の検査部17A、18Aが形成されている。この検査部17A、18Aは、スペーサ13と上下連続多孔性膜11、12とで形成される検査空間14Bに、上連続多孔性膜11を介して臨むように配置されている。そして、図3(A)に示すように、検査空間14Bのアノード電極17側の半分に対応する部分の上連続多孔性膜11には、グルコースオキシダーゼ(GOD)と牛血清アルブミン(BSA)とが固定化されて、酵素固定化層11Aが形成されている。また、検査空間14Bの補正用アノード電極18側の半分に対応する部分の上連続多孔性膜11には、牛血清アルブミン(蛋白質)のみが固定化されてなる非酵素固定化層11Bが形成されている。なお、これら酵素固定化層11A、非酵素固定化層11Bは、上連続多孔性膜11の連続孔を酵素等で塞いでしまうものではなく、基質であるグルコースがアノード電極17、補正用アノード電極18に到達し得るように連続孔が連通した状態を保つように固定化されている。そして、図3(B)に示すように、アノード電極17および補正用アノード電極18を覆うように上連続多孔性膜11の上面に上絶縁膜19が全面に亙って設けられている。」
(2b)還元性物質による影響の除去(第6欄)
「【0023】本実施形態では、アノード電極17に接触する部分の上連続多孔性膜11のみに酵素を固定化したため、電圧印加により例えば尿酸の酸化電流が生じても、アノード電極17と補正用アノード電極18との両方に流れ、酵素反応後に生じる過酸化水素の酸化電流はアノード電極17のみに流れるため、2つの電流の差を取れば、尿酸やその他の還元性物質による影響を除去することができる。具体的には、尿酸100mg/dl、グルコース10mg/dlの混合溶液に対する電流応答とグルコース10mg/dl溶液に対する電流応答の差は0.1μAとなり、グルコースの10倍濃度の尿酸を含むに拘わらず、その影響は著しく削減された。
【0024】また、作用極であるアノードで17が白金でなるため、アスコルビン酸100mg/dl溶液に対する応答は、約0.2μAとなり、従来のカーボンペースト電極の応答の約2.2より10分の1以下となり、アスコルビン酸に起因する電流の影響を著しく低減することができた。
【0025】以上、実施形態2について説明したが、本実施形態においては、酵素を固定化したアノード電極17と、固定化しない補正用アノード電極18との電流応答の差を取ることにより、還元性物質の電解酸化電流を除去できるため、高濃度の妨害物質を含んだ試料液、例えば唾液中のグルコース濃度の正確な測定が可能となる。また、酵素を固定化したアノード電極17と固定化しない補正用アノード電極18との電流応答の差を取ることにより、基質濃度0のときに生じるバイアス電流を自動的に除去できるため、基質濃度0での応答を別に測定して、バイアス電流をキャンセルする必要がないという利点がある。」
(2c)メディエータの使用(第6〜7欄)
「【0026】なお、上記実施形態では、アノード電極17の電流応答のそれぞれを検出し、その差を算出したが、それぞれの電流検出回路の後段に引き算回路を設け、直接差電流を検出するようにしても勿論よい。また、酵素の種類を変えることで、グルコース以外の基質のセンサとすることも可能である。さらに、酵素固定化層11Aは、酵素としてグルコースオキシダーゼのみを固定したが、これに加えてメディエータを共存させる構成としも勿論よい。この場合、酵素およびメディエータの酸化還元反応に伴う還元型メディエータの酸化電流を検出するバイオセンサを構築することができる。このバイオセンサでは、図4に示すように、グルコースを酸化させて還元型に変化した酵素GODred27が元の酸化型酵素GODox28に戻る際、メディエータが酵素から電子を奪い還元型メディエータMred29となる。そして、この還元型メディエータが電極反応によって酸化され、元の酸化型メディエータMox30となる。すなわち、酵素とメディエータとが固定化されたアノード電極近傍に基質が存在すれば、酵素とメディエータとを仲介して電子がアノード電極へ移動し、グルコース濃度に応じた電流が流れる。従って、この電流を検出すればグルコース濃度を測定することができる。このようなバイオセンサの場合は、酵素とメディエータとをアノード電極近傍に共存させて固定化されているため、試料液中に溶存酸素が全くないか、あるいはその量が少ないときでも、グルコース濃度に応じた電流が流れるため、溶存酸素濃度に依存しないバイオセンサとすることができる。また、メディエータを介して電極と電子の授受を行うので、メディエータが無い場合に比べて印加電圧を低く抑えることができる。」

(ハ)刊行物3
刊行物3には、バイオセンサにおいて、「作用極」に相当する測定極と対極を同一面に設けることが記載されている。

(3)本件発明1について
(イ)刊行物1の図5に記載されたバイオセンサには、作用極42とその対極からなる電極対と、それとは別に作用極44とその対極からなる電極対とが妨害物質検知のために設けられており、作用極42上には不溶脱性の酸化還元媒介剤および不溶脱性の酸化還元酵素を含有する試薬層が設けられ、一方、作用極44上には不溶脱性の酸化還元媒介剤が設けられている。また、このバイオセンサには電極系及び試薬層を支持する電気絶縁性基板(図5の基板48)を有することが記載されている。
そして、刊行物1における「酸化還元媒介剤」、「作用極44」は、それぞれ、本件発明における「電子伝達体」、「妨害物質検知電極として使用され得る第3の電極」に相当する。

(ロ)また、試薬および電極系についての請求項1の記載からみて、さらに発明の詳細な説明の記載を参酌しても、本件発明1の「第3の電極」の上には、何らかの試薬層が設けられているものとは認められないし、前記「第3の電極」に対する対極は、作用極に対する対極であると認められるので、本件発明1と刊行物1の図5に記載されたバイオセンサの発明(以下、「刊行物1発明」という。)とを対比すると、両者は、
(一致点)
「作用極、対極、および妨害物質検知電極として使用され得る第3の電極を有する電極系と、少なくとも酸化還元酵素および電子伝達体を含有する試薬層と、前記電極系および試薬層を支持する電気絶縁性基板とを具備し、前記試薬層が前記作用極に配置されているバイオセンサ。」
である点で一致するが、次の点で、相違する。
(相違点1)
妨害物質検知電極として使用される第3の電極が、本件発明では、その対極として作用極に対する対極を使用するものであって、第3の電極のための対極を別に具備するものでなく、また、第3の電極が作用極および対極の少なくとも一方と対向する位置に配置されており、第3の電極上に試薬層が配置されていないのに対し、刊行物1発明では、測定用の作用極42とその対極からなる電極対とは別に、妨害物質検知のために作用極44とその対極からなる電極対を備えるものであって、作用極44は作用極42およびその対極のいずれとも対向する位置に配置されておらず、また作用極44上には不溶脱性の電子伝達体層が設けられている点。
(相違点2)
少なくとも酸化還元酵素および電子伝達体を含有する試薬層の配置位置が、本件発明1では、「前記第3の電極に接することなく前記第3の電極と対向する面上に形成された電極上に配置されている」のに対し、刊行物1発明では、作用極44には接していないものの作用極44と同一面上に形成された作用極42上に配置されている点。

(ハ)そこで、これらの相違点について検討する。
刊行物1発明においては、2つの電極対の作用極に配置される不溶脱性の試薬層を、作用極42では酵素と酸化還元媒介剤(電子伝達体)とからなるものとし、一方の作用極44では酸化還元媒介剤だけからなるものとする点を除いて、2つの電極対を同一の配置のものとして、試料導入前の酸化還元媒介剤の酸化状態や妨害物質に起因する誤差を除去しているものである(前記記載(1b)、(1e)参照)。
そのような電気化学的なセンサにおいて、作用極44の位置をその対極と入れ替えて、作用極42の電極対の配置と逆にしたり、さらに逆に配置した作用極44を作用極42に対向する位置に配置することは、電極間距離や電極間における電流流束の方向に影響を与えるものである。
また、刊行物2には、本件発明1における「作用極」に相当する「アノード電極17」と、本件発明1における「妨害物質検知電極として使用され得る第3の電極」に相当する「補正用アノード電極18」とを同一面に設け、本件発明1における「対極」に相当する「カソード電極15」が対向する面に両アノード電極に共通するカソード電極として設けられたバイオセンサが記載され、「アノード電極17」には酸化還元酵素と本件発明1における「電子伝達体」に相当するメディエータを含有する試薬層が固定化され、一方「補正用アノード電極18」には前記試薬層が固定されておらず、牛血清アルブミン(蛋白質)のみが固定されている(前記記載(2a)参照)。そして、刊行物2記載のバイオセンサも、刊行物1記載のバイオセンサーと同様、両アノード電極に固定する試薬層の種類だけを変えて、妨害物質に起因する誤差を除去しているものである(前記記載(2b)参照)から、「補正用アノード電極18」の位置を「アノード電極17」に対向する、「カソード電極15」が設置されている面に移設することは、対極との電極間距離や電極間における電流流束の方向に影響を与えるものである。
そして、そのようなバイオセンサにおける酸化電流測定条件の相違は、その測定値に当然影響するものであるから、そのような設計変更のためには、設計変更しても妨害物質に起因する誤差の除去が可能であることの教示、示唆がなければならないところ、刊行物1および刊行物2には、妨害物質検知電極として使用される「作用極44」や「補正用アノード電極18」の配置を、測定用の電極対の配置と同配置のものから変化させることについては、何ら記載も示唆もされていない。
さらに、酸化還元酵素と電子伝達体を含有する試薬層が試料液に溶解するタイプのバイオセンサにおいて、測定極すなわち作用極と対極とを同一面に配置するという刊行物3に記載の発明を勘案しても、刊行物1あるいは刊行物2に記載された妨害物質検知電極として使用されている「作用極44」あるいは「補正用アノード電極18」を、その上に試薬層を配置しないものに変えて、かつ酸化還元酵素と電子伝達体を含有する試薬層が配置されている「作用極42」あるいは「アノード電極17」に対向させるよう設計変更することが、当業者に容易に想到できたものとすることはできない。
そして、本件発明1は、酸化還元酵素と電子伝達体を含有する試薬層が前記第3の電極に接することなく前記第3の電極と対向する面上に形成された電極上に配置されているように、第3の電極と試薬層とを配置することにより、易酸化性物質による誤差の補正や、溶存酸素による誤差の補正ができたものである(本件明細書【0009】参照)。

(ニ)そうすると、本件発明1は、刊行物1〜刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)本件発明2について
本件発明2も、本件発明1と同様に「第3の電極が作用極および対極の少なくとも一方と対向し、前記試薬層が前記第3の電極に接することなく前記第3の電極と対向する面上に形成された電極上に配置されている」ものであるから、本件発明1と同様の理由で、刊行物1〜刊行物3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

3.記載要件不備について
申立人新井清司は、「本件特許請求範囲の請求項2には、構成要素として「電気絶縁性のカバー部材」が記載されているが、このような用語は、詳細な説明には一切用いられていない。そして、どのような構成を指すのか不明瞭である。
したがって、請求項2に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。」と主張している。
しかしながら、本件明細書には、「カバー部材」は「絶縁性基板」と試料液供給路を形成するためのスリットを有する「スペーサ」とから構成されることが記載されている(段落【0008】参照)。そして、この「スペーサ」も明記されてはいないものの、電気絶縁性材料からなるものであることは、技術常識から明らかである。
そうすると、「電気絶縁性のカバー部材」は、本件明細書の発明の詳細な説明に説明されているということができ、この用語「電気絶縁性のカバー部材」が不明瞭であるとはいえない。
その他、本件明細書の記載を検討しても、本件発明1および2について、発明の詳細な説明の記載に当業者がその発明の実施が容易にできる程度に明確かつ十分に記載されていないものとは認められないし、特許を受けようとする発明が明確でないとも認められない。

4.むすび
以上のとおりであるから、異議申立人の理由及び証拠によっては、本件発明1およびおよび2についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明1および2についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
バイオセンサ
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 作用極、対極、および妨害物質検知電極として使用され得る第3の電極を有する電極系と、少なくとも酸化還元酵素および電子伝達体を含有する試薬層と、前記電極系および試薬層を支持する電気絶縁性基板とを具備し、第3の電極が作用極および対極の少なくとも一方と対向する位置に配置されており、前記試薬層が前記第3の電極に接することなく前記第3の電極と対向する面上に形成された電極上に配置されていることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項2】 電気絶縁性基板と、この基板との間に試料液供給路を形成する電気絶縁性のカバー部材と、前記試料液供給路に露出するように基板またはカバー部材に形成され、作用極、対極、および第3の電極を有する電極系および試薬層とを具備し、試料液供給路内において第3の電極が作用極および対極の少なくとも一方と対向し、前記試薬層が前記第3の電極に接することなく前記第3の電極と対向する面上に形成された電極上に配置されていることを特徴とするバイオセンサ。
【請求項3】 レシチンを主成分とする層が、前記第3の電極以外の所定の位置に配置されている請求項1または2に記載のバイオセンサ。
【請求項4】 前記試薬層が、さらに親水性高分子を含有する請求項1または2に記載のバイオセンサ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、試料中の基質について、迅速かつ高精度な定量を簡便に実施するためのバイオセンサに関する。
【0002】
【従来の技術】
スクロース、グルコースなど糖類の定量分析法として、施光度計法、比色法、還元滴定法および各種クロマトグラフィーを用いた方法等が開発されている。しかし、これらの方法は、いずれも糖類に対する特異性があまり高くないので精度が悪い。これらの方法のうち上記施光度計法によれば、操作は簡便ではあるが、操作時の温度の影響を大きく受ける。従って、施光度計法は、一般の人々が家庭などで簡易に糖類を定量する方法としては適切でない。
ところで、近年、酵素の有する特異的触媒作用を利用した種々のタイプのバイオセンサが開発されている。
以下に、試料液中の基質の定量法の一例として、グルコースの定量法について説明する。電気化学的なグルコースの定量法としては、グルコースオキシダーゼ(EC1.1.3.4:以下GODと略す)と酸素電極あるいは過酸化水素電極とを使用して行う方法が一般に知られている(例えば、鈴木周一編「バイオセンサー」講談社)。
【0003】
GODは、酸素を電子伝達体として、基質であるβ-D-グルコースをD-グルコノ-δ-ラクトンに選択的に酸化する。酸素の存在下でのGODによる酸化反応過程において、酸素が過酸化水素に還元される。酸素電極によって、この酸素の減少量を計測するか、あるいは過酸化水素電極によって過酸化水素の増加量を計測する。酸素の減少量および過酸化水素の増加量は、試料液中のグルコースの含有量に比例するので、酸素の減少量または過酸化水素の増加量からグルコースを定量することができる。
上記方法では、その反応過程からも推測できるように、測定結果は試料液に含まれる酸素濃度の影響を大きく受ける欠点があり、試料液に酸素が存在しない場合には測定が不可能となる。
【0004】
そこで、酸素を電子伝達体として用いず、フェリシアン化カリウム、フェロセン誘導体、キノン誘導体等の有機化合物や金属錯体を電子伝達体として用いる新しいタイプのグルコースセンサが開発されてきた。このタイプのセンサでは、酵素反応の結果生じた電子伝達体の還元体を電極上で酸化することにより、その酸化電流量から試料液中に含まれるグルコース濃度が求められる。このような有機化合物や金属錯体を酸素の代わりに電子伝達体として用いることにより、既知量のGODとそれらの電子伝達体を安定な状態で正確に電極上に担持させて試薬層を形成することが可能となる。この場合、試薬層を乾燥状態に近い状態で電極系と一体化させることもできるので、この技術に基づいた使い捨て型のグルコースセンサが近年多くの注目を集めている。使い捨て型のグルコースセンサにおいては、測定器に着脱可能に接続されたセンサに試料液を導入するだけで容易にグルコース濃度を測定器で測定することができる。このような手法は、グルコースの定量だけに限らず、試料液中に含まれる他の基質の定量にも応用可能である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の様なセンサを用いた測定では、還元型電子伝達体を作用極上にて酸化し、その際に流れる酸化電流値に基づいて基質濃度が求められる。しかしながら、血液や果汁等が試料として用いられた場合、その試料中に含まれるアスコルビン酸、尿酸等の易酸化性物質も、還元型電子伝達体と同時に作用極上で酸化される。この易酸化性物質の酸化反応が、測定結果に影響を与える場合があった。
また、上記の様なセンサを用いた測定では、試薬層に担持された電子伝達体が還元されると同時に、溶存酸素を電子伝達体として過酸化水素を生成する反応が同時に進行する。さらに、この反応で生成した過酸化水素は、還元型電子伝達体を再酸化する。結果として、還元型電子伝達体の酸化電流に基づいて基質濃度を測定する場合、溶存酸素が測定結果に負の誤差を与える場合があった。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために本発明は、電気絶縁性基板と、前記基板に形成された作用極、対極、および妨害物質検知電極として使用され得る第3の電極を有する電極系と、少なくとも酸化還元酵素および電子伝達体を含有する試薬層とを具備するバイオセンサにおいて、第3の電極が、作用極および対極のどちらか一方、または、作用極および対極の双方と対向する位置に配置されており、前記試薬層が前記第3の電極に接することなく前記第3の電極と対向する面上に形成された電極上に配置されていることを特徴とするバイオセンサを提供するものである。
レシチンを主成分とする層が前記第3の電極に接しない所定の位置、好ましくは試薬層に接して配置されていることが好ましい。
また、前記試薬層は、さらに親水性高分子を含有することが好ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明のバイオセンサは、作用極および対極を含む電極系と、酸化還元酵素および電子伝達体を含む試薬層と、これらを支持する電気絶縁性基板とを具備し、前記試薬層に添加された試料液中での酵素反応の結果生じた還元型電子伝達体を作用極上にて酸化し、その際に流れる酸化電流値に基づいて基質濃度を求めるバイオセンサを改良したものである。すなわち、妨害物質検知電極として使用され得る第3の電極を付加し、この第3の電極が作用極および対極の少なくとも一方と対向するように配置し、かつ試薬層を第3の電極に接しない所定の位置に配置するものである。
本発明の好ましい態様において、バイオセンサは、電気絶縁性基板と、この基板との間に試料液供給路を形成する電気絶縁性のカバー部材と、前記試料液供給路に露出するように基板またはカバー部材に形成された電極系および試薬層とからなり、試料液供給路内において第3の電極が作用極および対極の少なくとも一方と対向し、かつ試薬層が第3の電極と接触しない位置に配置されている。
【0008】
本発明の他の好ましい態様において、前記カバー部材は、絶縁性基板と、試料液供給路を形成するためのスリットを有するスペーサとから構成される。すなわち、センサは、2枚の電気絶縁性基板とスペーサから構成される。この構成におけるさらに具体的な第1の例では、一方の基板に作用極と対極を設け、他方の基板に第3の電極を設ける。第2の例では、一方の基板に作用極を設け、他方の基板に対極および第3の電極を設ける。第3の例では、一方の基板に作用極および第3の電極を設け、他方の基板に対極を設ける。試薬層は、前記第1および第2の例では、作用極を有する一方の基板上に、第3の例では対極を設けた他方の基板上にそれぞれ形成される。
試薬層は、第3の電極と対向する電極に接して形成するのが好ましい。しかし、試料液供給路において、試薬層が供給された試料液に溶解することにより酵素反応が生じその生成物が第3の電極に到達する前に、ある時間差をもって、試料液が第3の電極に到達するように、試薬層が配置されていればよい。
【0009】
本発明のバイオセンサによれば、易酸化性物質を含む試料液の場合は、試料添加後の初期段階、すなわち酵素反応により生成する還元型電子伝達体が第3の電極に到達する前においては、第3の電極と対極との間に流れる酸化電流は、易酸化性物質の濃度のみを反映する。その後、十分な時間経過後に作用極と対極との間に流れる酸化電流を測定すれば、これは、試料中に存在していた易酸化性物質の酸化反応と、酵素反応の結果生じた還元型電子伝達体の酸化反応とに起因する。したがって、後に測定された酸化電流値を前に測定された酸化電流値で補正すれば、正確な試料中の基質濃度を求めることができる。
試料液中に溶存酸素を含む場合、前記と同様の試料添加後の初期段階において、第3の電極に適当な電位を印加することにより、溶存酸素濃度を反映した還元電流を測定することができる。酵素反応の結果生じた還元型電子伝達体を酸化する際の酸化電流により試料液中の基質濃度を求める場合、試料液中の溶存酸素は、その測定結果に負の誤差を与える。しかし、前記のように溶存酸素を反映した還元電流値でこれを補正することにより、溶存酸素に影響されずに正確な基質濃度を求めることができる。
【0010】
本発明において、試薬層に含有される酸化還元酵素としては、試料液に含まれる基質に応じて適切なものが選択される。酸化還元酵素としては、例えば、フルクトースデヒドロゲナーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、キサンチンオキシダーゼ、アミノ酸オキシダーゼなどがあげられる。
また、電子伝達体としては、フェリシアン化カリウム、p-ベンゾキノン、フェナジンメトサルフェート、メチレンブルー、フェロセン誘導休などがあげられる。電子伝達体は、これらの一種または二種以上が使用される。
上記酵素および電子伝達体は、試料液に溶解させてもよく、試薬層を基板などに固定することによって試料液に溶けないようにしてもよい。酵素および電子伝達体を固定化する場合、試薬層は、以下に挙げる親水性高分子を含有することが好ましい。
【0011】
試薬層に含ませる親水性高分子には、種々のものが使用される。例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリリジン等のポリアミノ酸、ポリスチレンスルホン酸、ゼラチンおよびその誘導体、アクリル酸またはその塩のポリマー、メタアクリル酸またはその塩のポリマー、スターチおよびその誘導体、無水マレイン酸またはその塩のポリマーなどがあげられる。その中でも、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロースが好ましい。
【0012】
以下の実施例においては、試料液の供給検知、アスコルビン酸、あるいは溶存酸素検出のための第3の電極への印加電位を500mV、あるいは-1300mVとしたが、これに限定されることはない。また、応答電流を得るための作用極への印加電位を500mVとしたが、これに限定されることはなく、一連の反応の結果生じた電子伝達体の還元体を酸化できる電位であればよい。電流値を測定する時間についても、実施例に記載の特定値に限定されることはない。
また、実施例では、電極系の例を図示したが、電極形状、電極およびリードの配置、センサ部材の組み合わせ方法等はこれらに限定されるものではない。
実施例では、第3の電極の電極材料としてカーボンについて述べたが、これに限定されることはなく、他の導電性材料や銀/塩化銀電極なども使用できる。
【0013】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明する。
《実施例1》
バイオセンサの一例としてグルコースセンサについて説明する。図1は、試薬層を除いたグルコースセンサの分解斜視図である。
一方の絶縁性基板1には、作用極2および対極4が設けられ、さらにこれらに電気的に接続されたリード3および5がそれぞれ設けられている。もう一方の絶縁性基板11には、第3の電極7が設けられ、さらに電極7に電気的に接続されたリード8が設けられている。基板1には、作用極2および対極4を覆うように、外周が対極4の外周に沿った円形の試薬層(図示しない)が設けられている。図中、6および9は絶縁層である。
このグルコースセンサは、ポリエチレンテレフタレートからなる2枚の絶縁性基板1および11と、前記両基板の間にサンドイッチされるスペーサ12とから組み立てられる。これらが図1の中の破線で示すような位置関係をもって接着されてグルコースセンサが構成される。
スペーサ12には、試料液供給路を形成するスリット13が形成され、また、一方の絶縁性基板11には空気孔10が形成されている。両基板1、11を間にスペーサ12を挟んで積層し接着すると、両基板1、11、およびスペーサ12によって、試料液供給路となる空間部(図示しない)が形成される。この空間部は、始端部となるスリットの解放端部14が試料液供給口となり、終端部は空気孔10に連通する。
ここで、基板11とスペーサ12の組み合わせは、上記のカバー部材に相当するものであり、この例では2つの部材で構成されているが、スペーサ12のスリット13に相当する溝を設けた1つの部材で構成することもできる。
【0014】
上記グルコースセンサは以下のようにして作製した。
ポリエチレンテレフタレートからなる絶縁性基板1上に、スクリーン印刷により銀ペーストを印刷しリード端子3および5をそれぞれ形成した。もう一方の絶縁性基板11上にも銀ペーストを印刷し、リード端子8を形成した。次に、樹脂バインダーを含む導電性カーボンペーストを絶縁性基板1上に印刷して作用極2を形成した。同様に、第3の電極7をもう一方の絶縁性基板11上に形成した。作用極2および第3の電極7はそれぞれリード端子3および8と電気的に接触している。
次に、絶縁性基板1および11上に、絶縁性ペーストを印刷してそれぞれ絶縁層6および9を形成した。絶縁層6および9は、それぞれ作用極2および第3の電極7の外周部を覆っており、これによって作用極2および第3の電極7の露出部分の面積は一定に保たれる。絶縁層6および9は、それぞれリード端子3、5、および7の一部を覆っている。
次に、樹脂バインダーを含む導電性カーボンペーストを絶縁性基板1上に印刷して対極4を形成した。対極4は、リード端子5と電気的に接触している。
次に、作用極2および対極4上に、酵素としてGOD、電子伝達体としてフェリシアン化カリウムを含有する水溶液を滴下し、乾燥させることにより、試薬層を形成した。
【0015】
さらに前記試薬層上に、試料液の試薬層への供給をより一層円滑にするために、レシチンの有機溶媒溶液、例えばトルエン溶液を、試料液供給口14から試薬層上にわたって広げ、乾燥させることによりレシチン層を形成した。
しかしながら、レシチン層を第3の電極7に接触するように配置した場合には、応答のばらつきが大きくなる。これは、第3の電極7の表面がレシチン層により変化を来たし、それに起因するものと思われる。
次に、両基板1、11およびスペーサ12を、図1中の一点鎖線で示すような位置関係をもって接着することによりグルコースセンサを作製した。
第3の電極7、作用極2および対極4が同一平面上に配置された場合、第3の電極7上の一部を試薬層が覆ってしまい、測定結果に誤差を生じる場合があった。しかしながら、上記のようなセンサ系では、第3の電極7が、作用極2および対極4と対向する位置に配置されるために、上記のような試薬層形成に起因する誤差が大幅に低減される。
【0016】
上記のセンサを専用測定器に装着し、対極4を基準にして第3の電極7に500mVの電位を印加した。この電位を印加した状態で、妨害物質としてアスコルビン酸を含むグルコース水溶液3μlを、試料液として試料液供給口14より供給した。試料液は空間部を通って空気孔10にまで達し、電極系上の試薬層が溶解した。
試料液の供給と同時に、第3の電極7と対極4間の電気的変化に基づいて、すなわち、前記両電極が試料液により液絡したことに基づいて、液の供給を検知するシステムが動作することにより、測定タイマーが始動した。この時、第3の電極7と対極4との間に電位は印加され続けており、試料液の供給が検知されてから一定時間経過後に、第3の電極7と対極4間の電流値を測定した。この電流値は、妨害物質として含まれるアスコルビン酸の酸化反応に起因し、その濃度に対して比例関係を与えた。第3の電極7と対極4間の電流値を測定した後、両電極間の電圧印加を解除した。
【0017】
上述したように、第3の電極7は、作用極2および対極4と対向する位置に配置されており、第3の電極7上には試薬層が配置されていない。よって、酵素反応の結果生成したフェロシアン化イオンが第3の電極7近傍に到達するまでには、若干の時間を必要とする。すなわち、フェロシアン化イオン到達までの時間内における第3の電極7と対極4間の電流値は、主にアスコルビン酸の濃度のみを反映する。
さらに、試料液の供給を検知してから25秒後、対極4を基準にして作用極2に500mVの電位を印加し、作用極2と対極4間に流れる5秒後の電流値を測定した。
試薬層を溶解した試料液中のフェリシアン化イオン、グルコース、およびGODが反応し、その結果、グルコースがグルコノラクトンに酸化され、フェリシアン化イオンがフェロシアン化イオンに還元される。このフェロシアン化イオンの濃度は、グルコースの濃度に比例する。試料液の検知から30秒後の作用極2と対極4間の電流は、フェロシアン化イオンと、あらかじめ存在するアスコルビン酸の酸化反応に起因する。すなわち、アスコルビン酸が測定結果に正の誤差を与えることとなる。しかしながら、上述したように、第3の電極7と対極4間の電流値は主にアスコルビン酸の濃度のみを反映する。そこで、その結果に基づき測定結果を補正することにより、アスコルビン酸の影響を除去し正確なグルコース濃度を求めることができる。
【0018】
《実施例2》
試薬層が、さらに、カルボキシメチルセルロース(以下CMCと略称する)を含むこと以外は全て実施例1と同様にしてグルコースセンサを作製し、実施例1と同様の測定を行った。
まず、基板1の作用極2および対極4上に、CMCの水溶液を滴下し、乾燥することによりCMC層を形成した。次に、酵素および電子伝達体の混合水溶液を前記CMC層上に滴下すると、CMC層は一度溶解し、その後の乾燥過程で酵素などと混合された形で試薬層を形成する。しかし、攪拌等を伴わないため完全な混合状態とはならず、電極系表面はCMCのみによって被覆された状態となる。すなわち、酵素および電子伝達体などが電極系表面に接触しないので、電極系表面へのタンパク質の吸着などを防ぐことができる。
その結果、センサ応答のばらつきが減少した。
【0019】
《実施例3》
図2は、試薬層を除いたグルコースセンサの分解斜視図である。
一方の絶縁性基板1上には作用極2およびカーボン層15を、もう一方の絶縁性基板11上には第3の電極7および対極4を、実施例1と同様の方法にてそれぞれ形成した。さらに、試薬層およびレシチン層を作用極2およびカーボン層15上に実施例2と同様にして形成した。ここで、カーボン層15は、電極としては機能していない。しかしながら、作用極2の周囲にカーボン層15を配置することにより、試薬層の形成が容易になる。実施例1と同様に、両基板1、11およびスペーサ12を貼り合わせることにより、グルコースセンサを作製した。
次に、実施例1と同様に、アスコルビン酸が混在するグルコース溶液を用いて、グルコース濃度の測定を行った。その結果、アスコルビン酸の影響を除去し正確なグルコース濃度を求めることができた。
グルコース濃度が高濃度域(約1000mg/dl以上)の場合は、作用極2-対極4間の電流値も増加する。すなわち、対極4上で生成する副生成物も多量になるために、作用極の周囲に対極を配置した場合、副生成物がセンサ応答に影響を与える場合がある。本実施例のような電極配置を導入すると、そのような影響が軽減される。
【0020】
《実施例4》
図3は、試薬層を除いたグルコースセンサの分解斜視図である。
一方の絶縁性基板1上には作用極2および第3の電極7を、もう一方の絶縁性基板11上には対極4dを、実施例1と同様の方法にてそれぞれ形成した。さらに、試薬層およびレシチン層を実施例2と同様にして対極4d上に形成した。実施例1と同様に、両基板1、11およびスペーサ12を貼り合わせることにより、グルコースセンサを作製した。
次に、実施例1と同様に、アスコルビン酸が混在するグルコース水溶液を用いて、グルコース濃度の測定を行った。その結果、アスコルビン酸の影響を除去し正確なグルコース濃度を求めることができた。
本実施例の場合は、対極4dの電極面積を作用極2および第3の電極7に比べてより広く保つことができる。また、対極4d上に試薬層が配置されているために、電位印加時の基準電極電位がより安定する。
これらの効果により、センサ応答のばらつきが軽減された。
【0021】
《実施例5》
実施例2と同様にしてグルコースセンサを作製した。
専用測定器にセンサを装着し、対極4を基準にして第3の電極7に-1300mVの電位を印加した。この電位を印加した状態で、空気飽和状態のグルコース水溶液3μlを、試料液として試料液供給口14より供給した。試料液は空間部を通って空気孔10にまで達し、電極系上の試薬層が溶解した。
試料液の供給と同時に、対極4と第3の電極7間の電気的変化に基づいて液の供給を検知するシステムが動作することにより、測定タイマーが始動した。この時、対極4と第3の電極7間に電位は印加され続けており、試料液の供給を検知してから一定時間経過後に、対極4と第3の電極7間の電流値を測定した。この電流値は溶存酸素の還元反応に起因し、アルゴンにて脱気したグルコース溶液を供給した場合には、その還元電流は激減した。対極4と第3の電極7間の電流値を測定した後、両電極間の電圧印加を解除した。
【0022】
上述したように、第3の電極7上には試薬層が配置されていない。よって、試薬層に含有するフェリシアン化イオンが第3の電極7近傍に到達するまでには、若干の時間を必要とする。すなわち、フェリシアン化イオン到達までの時間内における対極4と第3の電極7間の電流値は、主に溶存酸素濃度のみを反映する。
さらに、試料液検知から25秒後、第3の電極7を基準にして作用極2に500mVの電位を印加し、対極4と作用極2間の5秒後の電流値を測定した。
液中のフェリシアン化イオン、グルコース、およびGODが反応し、その結果、グルコースがグルコノラクトンに酸化され、フェリシアン化イオンがフェロシアン化イオンに還元される。一方、この反応の競争反応として、グルコノラクトンと過酸化水素が生成する酵素反応が、酸素を電子伝達体として同時に進行する。さらに、この反応にて生成する過酸化水素は、フェロシアン化イオンをフェリシアン化イオンに再酸化する。結果として、フェロシアン化イオンの酸化電流に基づいてグルコース濃度を測定する場合、溶存酸素は測定結果に負の誤差を与える。
しかしながら、上述したように、対極4と第3の電極7間の電流値は主に溶存酸素濃度のみを反映する。そこで、その結果に基づき測定結果を補正することで、溶存酸素の影響を除去し正確なグルコース濃度を求めることができる。
【0023】
《実施例6》
実施例2と同様にしてグルコースセンサを作製した。
専用測定器にセンサを装着し、対極4を基準にして第3の電極7に500mVの電位を印加した。この電位を印加した状態で、空気飽和状態のアスコルビン酸を含むグルコース水溶液3μlを、試料液として試料液供給口14より供給した。試料液は空間部を通って空気孔10にまで達し、電極系上の試薬層が溶解した。
試料液の供給と同時に、電極系の対極4と第3の電極7間の電気的変化に基づいて液の供給を検知するシステムが動作することにより、測定タイマーが始動した。この時、対極4と第3の電極7間に電位は印加され続けている。
【0024】
さらに、試料液の供給を検知してから2秒経過後、第3の電極7への印加電位を-1300mVにステップした。-1300mVに電位をステップする直前、および-1300mVにステップしてから3秒後の、二点における対極4と第3の電極7間の電流値を測定した。-1300mVに電位をステップする直前の電流値は、主としてアスコルビン酸濃度に依存する。一方、-1300mVにステップしてから3秒後の電流値は、主として溶存酸素濃度に依存する。
試料液供給から2秒後、および5秒後の対極4と第3の電極7間の電流値を測定した後、両電極間の電圧印加を解除した。
さらに、試料液検知から25秒後、第3の電極7を基準にして作用極2に500mVの電位を印加し、対極4と作用極2間の5秒後の電流値を測定した。
上述したように、対極4と第3の電極7間の電流値は主にアスコルビン酸および溶存酸素濃度を反映するため、その電流値に基づき両物質の濃度を求めることができる。そこで、その結果に基づき測定結果を補正することにより、アスコルビン酸および溶存酸素の影響を除去し、正確なグルコース濃度を求めることができる。
【0025】
【発明の効果】
以上のように本発明によると、高い信頼性を有するバイオセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例におけるグルコースセンサの試薬層を除去した状態の分解斜視図である。
【図2】
本発明の他の実施例におけるグルコースセンサの試薬層を除去した状態の分解斜視図である。
【図3】
本発明のさらに他の実施例におけるグルコースセンサの試薬層を除去した状態の分解斜視図である。
【符号の説明】
1、11 絶縁性基板
2 作用極
3 作用極リード端子
4、4d 対極
5 対極リード端子
6、9 絶縁層
7 第3の電極
8 第3の電極リード端子
10 空気孔
12 スペーサ
13 試料液供給路を形成するスリット
14 試料液供給口
15 カーボン層
 
訂正の要旨 a.訂正事項1
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項1において、「と対向する前記作用極または前記対極」を、
「に接することなく前記第3の電極と対向する面上に形成された電極」と訂正する。
b.訂正事項2
特許請求の範囲の減縮を目的として、特許請求の範囲の請求項2において、「と対向する前記作用極または前記対極」を、
「に接することなく前記第3の電極と対向する面上に形成された電極」と訂正する。
c.訂正事項3
段落【0006】において、
「と対向する前記作用極または前記対極」を、
「に接することなく前記第3の電極と対向する面上に形成された電極」と訂正する。
d.訂正事項4
誤記の訂正を目的として、段落【0009】において、
第10行の「酸化」を「還元」と訂正し、さらに、
第13〜14行の「酸化」を「還元」と訂正する。
e.訂正事項5
誤記の訂正を目的として、特許請求の範囲の請求項1、および段落【0006】において、
「電子伝導体」を「電子伝達体」と訂正する。
異議決定日 2003-06-20 
出願番号 特願平10-239853
審決分類 P 1 652・ 121- YA (G01N)
P 1 652・ 537- YA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 谷垣 圭二黒田 浩一  
特許庁審判長 後藤 千恵子
特許庁審判官 河原 正
渡部 利行
登録日 2002-01-11 
登録番号 特許第3267936号(P3267936)
権利者 松下電器産業株式会社
発明の名称 バイオセンサ  
代理人 石井 和郎  
代理人 石井 和郎  

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