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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61M
管理番号 1083160
異議申立番号 異議2001-71203  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1991-11-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-04-20 
確定日 2003-08-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第3100974号「体外循環全血液からLDLおよび内毒素のような生物巨大分子を除去するための吸着剤」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3100974号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第3100974号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成2年10月3日(パリ条約による優先権主張1989年10月3日 ドイツ国)に特許出願され、平成12年8月18日に特許権の設定登録がなされ、その後、その特許について 異議申立人 辻邦夫 より特許異議申立てがなされ、取消理由通知がなされ、平成14年1月18日に意見書が提出されたものである。

2.特許異議申立てについての判断
2-1.本件発明
本件特許第3100974号の請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」及び「本件発明2」という。)は、次のとおりのものであると認められる。
「【請求項1】粒径範囲が50〜250μmであり、除去限界が少なくとも5×106ダルトンであるアクリル酸および/またはメタクリル酸のエステルあるいは(メタ)アクリルアミドのホモ-、コ-またはタ-ポリマーで形成された実質的に球形の非凝集性多孔性担体物質に、スペーサーを介して有機リガンドが共有結合してなることを特徴とする全血液から生物巨大分子を除去するための吸着剤。
【請求項2】スペーサーが、二重結合を含まないことを特徴とする請求項1に記載の吸着剤。」
なお、設定登録時の明細書(以下、「特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1には「非凝縮性」と記載されているが、これは、特許明細書全体の記載からみて「非凝集性」の誤記と認められるので、上記のとおり認定した。

2-2.引用刊行物に記載された発明
当審が通知した取消理由で引用した、本件出願前国内において頒布された刊行物である刊行物1(特開昭59-102436号公報)及び刊行物2(「ゲル濾過用充填剤 TSK-GEL トヨパール」東洋曹達工業株式会社 1982年発行 1〜5頁)には、各々、下記の事項が記載されている。

刊行物1には、「吸着体」について以下の事項が記載されている。
「球状蛋白質の排除限界分子量が100万以上1億以下のポーラスポリマーハードゲルに、リポ蛋白に親和性を有するポリアニオン化合物を固定してなるリポ蛋白吸着体。」(特許請求の範囲第1項)
「本発明は・・・・血液あるいは血漿、血清中からリポ蛋白、特に低密度リポ蛋白(LDL)を選択的に吸着除去するための吸着体に関する。」(第1頁右下欄3〜6行)
「本発明に用いるに適した担体は、1)耐圧性であること、2)比較的大きな径の細孔を有することが必要であり、ポリマーハードゲルは本発明に最も適した担体である。」(第2頁左下欄15〜18行)
「次に要求される性質は比較的大きな径の細孔を有することである。すなわちLDLは分子量が少なくとも100万以上といわれる巨大分子であり、これを吸着除去するためにはLDLが細孔内に侵入できることが必要である。」(第2頁左下欄11〜15行)
「細孔径の目安として排除限界分子量を用いるのが適当である。排除限界分子量とは・・・ゲル浸透クロマトグフィーにおいて細孔内に進入できない(排除される)分子のうち最も小さい分子量をもつものの分子量をいう。・・・排除限界分子量は対象とする化合物の種類により異なることが知られており、・・・球状蛋白質(ビールスを含む)を用いて得られた値を用いるのが適当である。」(第3頁左上欄4行〜同頁右上欄1行)
「本発明に適したポリマーハードゲルの代表例としては、・・・架橋ポリアクリレート、・・・・等の合成高分子や・・・・等があげられるが、これらに限定されるわけではない。」(第3頁左下欄20行〜同頁右下欄9行)
「本発明に用いるに適したリポ蛋白に親和性を有するポリアニオン化合物の代表例としては、ヘパリン、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、・・・ポリリン酸等があげられる。」(第3頁右下欄12行〜第4頁左上欄4行)
「リポ蛋白に親和性を有する化合物(リガンド)を担体に固定する方法としては既知の種々の方法を用いることができる。すなわち物理的吸着法、イオン結合法、共有結合法等である。・・・滅菌時あるいは治療中にリガンドが脱離しないことが重要であるので結合の強固な共有結合法が望ましく、・・・。また必要によりスペーサーを担体とリガンドの間に導入してもよい。」(第4頁左上欄7〜16行)
「本発明による吸着体を治療に用いるには種々の方法がある。最も簡便な方法としては患者の血液を体外に導出して血液バッグ等に貯め、これに本発明の吸着体(粒子)を混合してLDLを除去した後、フィルターを通して吸着体(粒子)を除去し血液を患者に戻す方法がある。・・・次の方法は吸着体をカラムに充填し、体外循環回路に組み込みオンラインで吸着除去を行うものである。処理方法には全血を直接かん流する方法と、・・・がある。本発明による吸着体は、いずれの方法にも用いることができるが、・・・オンライン処理に最も適している。」(第4頁右上欄3〜17行)
さらに、第4頁右下欄4行〜第5頁左上欄7行には、実施例1として、
「架橋アクリレートゲル(全多孔性のハードゲル)であるトヨパール・・・(球状蛋白質の排除限界分子量(以下蛋白質の排除限界と略称する)・・・HW65(蛋白質の排除限界5,000,000、粒径50〜100μm)、HW75(蛋白質の排除限界50,000,000、粒径50〜100μm)各10mlに飽和NaOH水溶液6ml、エピクロルヒドリン15mlを加え撹拌しながら50℃で2時間反応しエポキシ化ゲルを得た。このゲルに濃アンモニア水20mlを加え50℃で2時間撹拌しアミノ基を導入した。
次にへパリン200mgを10mlの水に溶解しpH4.5に調整した後、・・・ヘパリン固定化ゲルを得た。」ことが、また、第5頁右上欄16〜20行には、実施例3として、「ヘパリンをコンドロイチンポリ硫酸にかえた他は実施例1と同じ方法でコンドロイチンポリ硫酸固定化トヨパールゲルHW65を得た。」ことが記載されている。
そして、刊行物1の実施例1に記載された「トヨパールHW65、HW75各10mlに飽和NaOH水溶液6ml、エピクロルヒドリン15mlを加え撹拌しながら50℃で2時間反応しエポキシ化ゲルを得た。このゲルに濃アンモニア水20mlを加え50℃で2時間撹拌しアミノ基を導入した。次にへパリン200mgを10mlの水に溶解しpH4.5に調整した後、・・・、ヘパリン固定化ゲルを得た。」ことは、坦体であるトヨパールHW65,HW75にスペーサーを介してヘパリンを共有結合させたことに他ならず、またこのスペーサーが二重結合を含まないことも明らかであるから、刊行物1には、
球状蛋白質の排除限界分子量5,000,000で粒径50〜100μmの架橋アクリレートゲル(全多孔性のハードゲル)であるトヨパールHW65、及び球状蛋白質の排除限界分子量50,000,000で粒径が50〜100μmの架橋アクリレートゲル(全多孔性のハードゲル)であるトヨパールHW75なる坦体に二重結合を含まないスペーサーを介してリガンドを共有結合してなる全血液からリポ蛋白、特に低密度リポ蛋白(LDL)を除去するための吸着体。
なる発明が記載されているものと認められる。

刊行物2には、「ゲル濾過用充填剤 TSK-GEL トヨパール」について記載されており、特に、
第3頁「3.材質・形状」の「2.形状」の項には「トヨパールは、写真(図3)のように、球状をしています。しかも狭い範囲で分級しているので、粒子の大きさは非常によくそろっています。」として図3に「トヨパールFineグレードの顕微鏡写真」が示されている。なるほど、トヨパールが非凝集性であることは明示されていないが、この図3の写真と、本件特許明細書に添付された第4図とを対比すると、図3の写真の粒子の状態は、担体物質が非球形で粒子凝集の結果不整状態となっている粒子構造を示す図である図a)の状態より、担体物質が球形の場合の粒子構造を示す図である図b)の状態に似ており、トヨパールは球状で非凝集性のものであると認められる。
また、第3頁の「4.試料の溶出特性」の「1.タンパク質」の項には、「トヨパールは、酵素等の高分子たんぱくの分離に使用することが比較的多く、好評を博しています。」なる記載がある。

2-3.対比、判断
[本件発明1の特許について]
本件発明1(前者)と刊行物1に記載された発明を対比すると、後者における「球状蛋白質の排除限界分子量」、「担体」、「リガンド」、「リポ蛋白、特に低密度リポ蛋白(LDL)」は、各々、後者における「除去限界」、「担体物質」、「有機リガンド」、「生物巨大分子」に相当するものであり、後者の「吸着体」も吸着剤といえるものである。そして、本件特許明細書を検討しても、前者における「粒径範囲」について格別な定義はなく、その実施例1において担体物質として粒径が70〜150μmのものを用いることが記載されていることからみて、前者における「粒径範囲が50〜250μmであり」とは、粒径が50〜250μmの間で正規分布を示すことをいうものではなく、単に、粒径が50〜250に範囲内にあることをいうにすぎないものと認められる。よって、両者は、
粒径範囲が50〜100μmであり、除去限界が少なくとも5×106ダルトンであるアクリル酸および/またはメタクリル酸のエステルあるいは(メタ)アクリルアミドのホモ-、コ-またはタ-ポリマーで形成された多孔性担体物質に、スペーサーを介して有機リガンドが共有結合してなる全血液から生物巨大分子を除去するための吸着剤。
で一致し、
前者は、坦体物質が実質的に球形の非凝集性であるのに対して、後者は、かかる事項について特定がない点において相違する。
上記相違点について検討すると、上述したように、刊行物1に記載された発明において、担体物質の形状については特定がないものの、その粒径は50〜100μmである。担体物質の粒径が特定されていることからみて、常識的には刊行物1に記載された発明における担体物質の形状は粒状であると認められる。そして、一般に、粒状なる形状は球形に近い形状であるといえる。さらに、刊行物2には、高分子たんぱくのゲル濾過用分離剤の形状が球状で非凝集性であることが記載されている。
これらのことから、刊行物1に記載された発明において、坦体物質の形状を刊行物2に記載の実質的に球形の非凝集性のものとすることは、当業者が容易に想到し得たことであると認められる。
そして、この担体物質の形状を実質的に球形の非凝集性のものとしたことにより当業者が予測し得ない格別顕著な効果が奏されたものは認められない。
なお、本件特許明細書には、添付された第1図を根拠として、担体物質の形状を実質的に球形の非凝集性のものとしたことにより良好な血液適合性が得られる旨記載されている。しかし、本件特許明細書に添付された第1図は、担体物質として、球形のものを用いた場合と、非球形のものとして「不規則な形態の凝集塊」を用いた場合とを比較した結果を示したものであり、この非球形のものとして用いられた「不規則な形態の凝集塊」は、「粒状」と比べはるかに球形と異なる形状であるから、第1図の結果を以て、本件発明1の効果が当業者にとって予測し得ないものであるとは直ちに認めることはできない。
したがって、本件請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1の特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

[本件発明2の特許について]
本件発明2は、本件発明1に、「スペーサーが、二重結合を含まない」なる構成を附加したものである。
しかし、刊行物1に記載された発明は、上記「2-2.引用刊行物に記載された発明」の項で述べたとおり、スペーサーが二重結合を含まないものであるから、本件発明2と引用例1に記載された発明との相違点は、上記[本件発明1の特許について]で挙げた点のみである。
そして、この相違点については、上記[本件発明1の特許について]で述べたとおりである。
したがって、本件発明2は、刊行物1及び2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2の特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

2-4.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1及び本件発明2は、いずれも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件発明1及び本件発明2についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-04-23 
出願番号 特願平2-266144
審決分類 P 1 651・ 121- Z (A61M)
最終処分 取消  
前審関与審査官 山中 真  
特許庁審判長 梅田 幸秀
特許庁審判官 千壽 哲郎
岡田 和加子
登録日 2000-08-18 
登録番号 特許第3100974号(P3100974)
権利者 フレセニウス アーゲー
発明の名称 体外循環全血液からLDLおよび内毒素のような生物巨大分子を除去するための吸着剤  
代理人 山本 亮一  

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