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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B09B
管理番号 1083180
異議申立番号 異議2003-70141  
総通号数 46 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-03-02 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-22 
確定日 2003-09-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第3303906号「生ごみと有機性廃水の生物学的処理法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3303906号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件請求項1に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本件発明」という)。
「【請求項1】希釈水を注入して固形物含有量を調整した生ごみを、嫌気性消化槽で嫌気性消化するに際し、該嫌気性消化槽の流出液から浮遊固形物(SS)を固液分離工程で分離し、分離後の流出液を有機性廃水とともに生物学的脱窒素工程に導入して硝化脱窒素処理し、脱窒素処理した処理水を前記生ごみに注入する希釈水として用いることを特徴とする生ごみと有機性廃水の生物学的処理法。」
2.引用刊行物の記載内容
当審の第2回目の取消理由通知で引用した刊行物の記載内容は、以下のとおりである。
(1)刊行物1:「月刊 地球環境」Vol.28 No.6 第58〜61行:特許異議申立人の甲第2号証
(a)「高速メタン発酵技術を中核としたし尿・浄化槽汚泥、生ごみ、汚泥の処理システムを【図3】に示す。【図3】において、廃棄物は各処理工程を経由してすべて資源・エネルギーに変換される。分別収集された生ごみはビニール袋、プラスチック容器が破袋,分別され,メタン発酵工程で順次水分調整,酸発酵,メタン発酵されたのちに脱水分離される。食品工場から排出された夾雑物のない生分解性廃棄物は,直接メタン発酵工程に投入することができる。発酵液は脱水機で固液分離して、分離水は、し尿,汚泥の脱水分離水とともに硝化脱窒処理工程,高度処理工程で脱窒素、脱リン処理が行われる。」(第60頁右欄第6〜19行)
(b)「生ごみのメタン発酵は日本でも古くから研究されているが、発酵脱離液処理施設の建設、処理費用の発生が問題となり,実用化には至らなかった。本システムでは,発酵脱離液をし尿処理装置でし尿とともに処理することによりこの問題を解決できる。」(第61頁左欄第3行〜右欄第5行)
(c)第61頁図3には、資源循環型廃棄物処理システムの一例(概念図)のフローが記載されており、廃棄物の欄で「生ごみ・厨芥 食品加工廃棄物」の処理工程の欄のフローは、順次「前処理」、「高速メタン発酵」、「固液分離」であり、資源・エネルギーの欄で「コンポスト」とされている。また、「廃棄物」の欄で「浄化槽・下水汚泥 農漁業集落排水汚泥 食品排水汚泥 生活雑排水汚泥」の処理工程の欄のフローは、順次「前処理」、「固液分離」であり、廃棄物の欄で「し尿」の処理工程の欄のフローは、順次「前処理」、「硝化脱窒処理」、「高度処理」、「RO」であり、資源・エネルギーの欄で「RO」の場合は「再利用水 中水道」であり、「RO」しない場合は「放流水」とされることが図示されており、上記「生ごみ・厨芥 食品加工廃棄物」のフローにおいて「固液分離」で分岐した「分離水」が、分岐され一方はそのまま「し尿」のフローの「硝化脱窒処理」の前に導入され、他方は「アンモニア分離」の後にやはり「し尿」のフローの「硝化脱窒処理」の前に導入されることが図示されている。また、「浄化槽・下水汚泥 農漁業集落排水汚泥 食品排水汚泥 生活雑排水汚泥」のフローにおいて、「固液分離」後の「汚泥」は、「生ごみ・厨芥 食品加工廃棄物」のフローの「高速メタン発酵」に投入され、「分離水」は「し尿」のフローの「硝化脱窒処理」の前に導入されることが図示されている。また、「生ごみ・厨芥 食品加工廃棄物」のフローの「高速メタン発酵」から発生する「バイオガス」で「バイオガス発電」を行うことが図示されている。また、「生ごみ・厨芥 食品加工廃棄物」のフローの「前処理」は「紙、プラスチック」を分離するものであり、「浄化槽・下水汚泥 農漁業集落排水汚泥 食品排水汚泥 生活雑排水汚泥」と「し尿」のフローの「前処理」は「篩渣」を分離するものであることが図示されている。
(2)刊行物2:特開平6-178995号公報:特許異議申立人の甲第1号証
(a)「【請求項1】アンモニアを含有する有機性廃水の嫌気性消化処理方法において、該有機性廃水を嫌気性消化処理工程で処理して廃水中の有機物をメタンガスに分解し、得られる嫌気性消化処理液からアンモニアを除去し、このアンモニア処理水の一部を前記嫌気性消化処理工程に循環して、被処理液中のアンモニア濃度を希釈することを特徴とする有機性廃水の嫌気性消化処理方法。」(請求項1)
(b)「【従来の技術】し尿等のアンモニアを含有する有機性廃水を嫌気性消化処理して、廃水中の有機物をメタン菌によってメタン化する方法は従来から公知であり、実用的方法として広く採用されてきた。また、下水処理場では最初沈殿池汚泥、余剰活性汚泥を嫌気性処理して減容化する方法も広く行われている。嫌気性消化処理で重要な役割を果たすメタン菌はアンモニア濃度が高いと、その毒性によってメタン菌の活性が低下するため、メタン発酵槽のアンモニア性窒素濃度は1500mg/l以下、好ましくは1000mg/l以下か、さらに低濃度である方が良い。」(第2頁第1欄第16行〜第2欄第9行)
(c)「図1において、原水1は、アンモニア除去工程4から導入された循環アンモニア処理水6とともに嫌気性消化処理工程2に流入し、原水中の有機物がメタン3に還元分解されたのちに、アンモニア除去工程4に導入され、アンモニアが除去される。アンモニア処理水5の一部6は嫌気性処理工程2に循環され、該工程2に流入する原水1のアンモニア濃度を希釈低減する。アンモニア処理水5の残部は放流あるいは更に高度の処理が行われる。嫌気性処理工程2は、従来のガス攪拌等の行われている浮遊式のメタン発酵方式でも、UASB(上向流嫌気性汚泥ろ床)方式などいずれの嫌気性処理方式でも利用することができる。アンモニア除去工程4はアンモニア放散(ストリッピング)法あるいは生物学的硝化脱窒処理法が推奨される。」(第2頁第1欄第49行〜第2欄第41行)
(d)「図2は、アンモニア除去工程に生物学的硝化脱窒処理法を適用した場合の工程図である。図2において、原水1の一部は分注原水7,8として脱窒素槽に移送され、残部は硝化脱窒工程9から流出した循環アンモニア処理水6とともに嫌気性消化処理工程2に流入し、原水中の有機物はメタン3に還元分解されたのちに、返送汚泥10、循環硝化液11とともに嫌気的条件下にある第一脱窒槽12に導入される。循環硝化液11中の硝酸態窒素は、嫌気性消化処理工程2の流出液中の残留BOD成分及び分注原水7中のBOD成分を還元基質として生物学的に脱窒されたのちに、活性汚泥混合液は好気的条件下にある硝化槽13に導入され、アンモニアが硝酸に硝化され、硝化液の一部は第一脱窒槽12に循環される。残部の硝化液は嫌気的条件下にある第二脱窒槽14に流入し、液中の硝酸態窒素は分注原水8中のBOD成分を還元基質として生物学的に脱窒されたのちに、好気的条件下にある再曝気槽15に流入し、残留BODが除去されたのちに、沈殿槽16に流入し、アンモニア処理水5と活性汚泥に分離される。活性汚泥は第一脱窒槽12に返送され、アンモニア処理水5の一部6は嫌気性消化処理工程2に循環される」(第3頁第3欄第33行〜第4欄第15行)
(3)刊行物3:特開平8-57457号公報
(a)「生ごみはその分解途中で、その窒素分がアンモニアに変化するので」(第2頁第2欄第15〜16行)
(4)刊行物4:特開平7-51693号公報
(a)「このため、窒素濃度が高く、C/N比が低い基質のメタン発酵では、総アンモニア濃度と遊離アンモニア濃度が高くなり、遊離アンモニアによるメタン発酵の阻害現象が起りやすくなる。」(第2頁第1欄第50行〜第2欄第3行)
(b)「更に図4に示す低C/N比高窒素成分濃度の基質1に水5を加えて希釈してからメタン発酵槽3に流入する方法は最も実現性の高い手段ではあるが」(第3頁第3欄第6〜8行)
(5)刊行物5:特開平7-136635号公報
(a)「発酵槽内での有機酸負荷の急激な変動、つまり厨芥スラリーの急激な濃度変化を避ける必要がある。」(第2頁第2欄第32〜34行)
3.対比・判断
刊行物1の上記(1)(c)には、資源循環型廃棄物処理システムの一例が記載されているが、ここで、「生ごみ・厨芥 食品加工廃棄物」と「し尿」の処理工程のフローに着目し、本件発明の記載ぶりに則って整理してみると、刊行物1には『「生ごみ・厨芥 食品加工廃棄物」を順次「前処理」、「高速メタン発酵」、「固液分離」し、「固液分離」後の「分離水」を、「前処理」後の「し尿」とともに「硝化脱窒処理」する資源循環型廃棄物処理方法。』という発明(以下、「刊行物1発明」という)が記載されていると云える。
そこで、本件発明と刊行物1発明とを対比すると、刊行物1発明の「し尿」、「高速メタン発酵」、「資源循環型廃棄物処理方法」は、本件発明の「有機性廃水」、「嫌気性消化」、「生ごみと有機性廃水の生物学的処理法」にそれぞれ相当し、また本件発明の実施例においても「前処理工程2」が記載されており(本件特許掲載公報第2頁第4欄第20〜24行)、この「前処理工程2」は、刊行物1発明の「生ごみ・厨芥 食品加工廃棄物」のフローの「前処理」と同じであり、また「し尿」を使用する場合、通常「篩渣」を分離することは当然行うと解されるから、刊行物1発明の「し尿」のフローの「前処理」も格別のこととは云えず、また、刊行物1発明の「高速メタン発酵」は、実施する装置としては当然「槽」を使用して行われ、また「固液分離」は浮遊固形物を分離していると解されるから、結局、両者は「生ごみを、嫌気性消化槽で嫌気性消化し、該嫌気性消化槽の流出液から浮遊固形物(SS)を固液分離工程で分離し、分離後の流出液を有機性廃水とともに生物学的脱窒素工程に導入して硝化脱窒素処理する生ごみと有機性廃水の生物学的処理法」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点:本件発明では、「希釈水を注入して固形物含有量を調整」した「生ごみを嫌気性消化槽で嫌気性消化する」に際し、「脱窒素処理した処理水を生ごみに注入する希釈水として用い」るのに対して、刊行物1発明では、そうはしていない点
次にこの相違点を検討する。
本件明細書に、「嫌気性消化に関与するメタン菌はアンモニアによって阻害される。従って、希釈水16は、脱水分離水12ではなく、アンモニアを除去した脱窒処理水15で固形物濃度とアンモニアを希釈することによって嫌気性消化反応を円滑に進めることができる。」(本件特許掲載公報第2頁第4欄第37〜42行)とされるとおり、本件発明において、希釈水は固形物濃度を希釈するだけでなく、アンモニアも希釈するものと解される。
そこで、この点を検討すると、先ず、刊行物1では「生ごみのメタン発酵は日本でも古くから研究されているが、発酵脱離液処理施設の建設、処理費用の発生が問題となり,実用化には至らなかった。本システムでは,発酵脱離液をし尿処理装置でし尿とともに処理することによりこの問題を解決できる。」(上記(1)(b))と記載されており、刊行物1で問題と認識されているのは、発酵脱離液の問題であるから、刊行物1では、生ごみの嫌気性消化における遊離アンモニアの影響については何も認識されていなかったと云える。
また、刊行物2には、し尿等のアンモニアを含有する有機性廃水の嫌気性消化の際にアンモニア濃度が高いとメタン菌の活性が低下するので(上記(2)(b))、嫌気性消化工程のアンモニア濃度を低下させるために、嫌気性消化後の生物学的硝化脱窒工程(この工程では分注廃水中のBOD成分を還元基質とする)でアンモニアを除去した処理水を、嫌気性消化工程に返送することが記載されている(上記(2)(c)(d))。
しかしながら、刊行物2の「嫌気性消化工程」で対象とされるのは「し尿等」であり、刊行物2には、生ごみの嫌気性消化について、ましてや、生ごみの嫌気性消化の際に遊離アンモニアが問題になることは記載も示唆もされていないと云える。
また、確かに、生ごみが分解しアンモニアを発生すること(刊行物3)や、生ごみをメタン発酵する際に固形物濃度を調整すること(刊行物5)や、アンモニアを含有する有機性廃棄物のメタン発酵では水で希釈すること(刊行物4)が知られているが、これらのことから、生ごみの嫌気性消化の際に遊離アンモニアが問題になることが知られていたとは云えない。
してみると、生ごみの嫌気性消化において、アンモニア濃度の低下を図るために、「脱窒素処理した処理水を生ごみに注入する希釈水として用い」ることは、当業者が容易に想到し得るものであると云うことはできない。
そして、本件発明は、上記相違点により「分離水水質の向上、脱水汚泥含水率の低減、バイオガス発生量の増加を行うことができ、嫌気性消化脱離液の生物学的脱窒処理も経済的に行うことができる」(本件特許掲載公報第4頁第7欄第30〜33行)という効果を奏すると云える。
したがって、本件発明は、上記刊行物1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
また、本件発明は、その他の異議申立理由によっては取り消すことはできない。
4.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、上記結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-08-15 
出願番号 特願平9-227080
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B09B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中野 孝一  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 野田 直人
西村 和美
登録日 2002-05-10 
登録番号 特許第3303906号(P3303906)
権利者 株式会社荏原製作所
発明の名称 生ごみと有機性廃水の生物学的処理法  
代理人 松田 大  

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