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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性 無効としない F24D
管理番号 1084016
審判番号 無効2003-35045  
総通号数 47 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2002-04-05 
種別 無効の審決 
審判請求日 2003-02-10 
確定日 2003-09-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第3362028号発明「遠赤外線パネルヒータユニット」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明

本件特許第3362028号発明「遠赤外線パネルヒータユニット」(平成12年9月21日出願、平成14年10月18日設定登録。)は、明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の各請求項に記載されたとおりの次のものである。
「【請求項1】少なくともアルミ板を用いた遠赤外線放射板と面状発熱体と金属板の押さえ板とを重ね合わせたものをヒータ取り付けパネルに組み込んだ構造を備える遠赤外線パネルヒータユニットにおいて、前記面状発熱体と押さえ板との間に断熱材を配するとともに、前記押さえ板の主面に熱膨張による押さえ板の反りが前記遠赤外線放射板の反りと同じ方向になるような環形のビード加工または円形の凸部を施したことを特徴とする遠赤外線パネルヒータユニット。
【請求項2】押さえ板の主面の上下左右に直線状のビード加工が施されていることを特徴とする請求項1に記載の遠赤外線パネルヒータユニット。
【請求項3】押さえ板がアルミ蒸着鋼板であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の遠赤外線パネルヒータユニット。」
なお、上記請求項1〜3に係る各発明を、以下、「本件発明1」〜「本件発明3」といい、これらをまとめて「本件発明」という。

2.審判請求人の主張の概要

(1)本件発明1について
ア)「面状発熱体と押さえ板との間に断熱材を配する」構成については、甲第1号証に本件発明と同じパネルヒータを用いた遠赤外線暖房機における面上発熱体の背面側に「板状断熱材」が設けられた構造が開示されているから、本件発明の出願前に公知の事項である。
イ)「押さえ板の主面に・・・環形のビード加工または円形の凸部を施したこと」については、環形のビード加工又は円形の凸部によって高温になる押さえ板を強化して、中心部の歪みを少しでも防止できないかとしたものである。
金属加工、特にプレス加工において、プレスする際に生じる金属板の歪みを防いだり、金属板を強化するためにビードという細い溝を形成したり、種々の形状のくぼみを形成する加工方法であるビード加工やエンボス加工は、甲第2号証の2、同号証の3、甲第3号証の2、甲第4号証の3の各刊行物に示されているように、広く行われている技術である。
金属若しくは琺瑯のやかん、鍋、ブリキ製のバケツの底には環状の窪みや底部を窪ませた内側に円形の凸部を設ける方法がとられることがあるが、これもビード加工の1つであり、甲第5号証の1、同号証の2、甲第6号証の各写真は、琺瑯製のやかん、ステンレス製の鍋の底の部分に施された環形のビード加工と円形の凸部を示している。
甲第7号証マイクロフィルムには、本件発明と同じパネルヒータ(暖房機)において、琺瑯加工板に熱線をプリントしたパネルに対向して、このパネル側に絞り加工によって突出させたビード部を形成したパネルを接合させることによって、このパネルの発熱による反りを防止する技術が開示されている。
ウ)「熱膨張による押さえ板の反りが前記遠赤外線放射板の反りと同じ方向になる」ことについて、発明の詳細な説明によると、環形のビード加工又は円形の凸部を設けることによって、熱膨張による押さえ板の反りが遠赤外線放射板の反りと同じ方向になるとされるが、ビード加工は、金属板を変形し難くするためのものであって、都合の良いように変形させるためのものではないから、これによって押さえ板全体が変形するはずがない。熱による歪みが円の中央部に集中するとしても、このような熱による歪みを生じさせないようにするためにビード加工がされるものであるから、前後いずれの方向にも反ることはない。特に高温になる中心部は、環形のビード及び円形の凸部によって熱による膨張を押さえられるのであるから何の加工をしなかった場合よりも反りが少なくてすむのである。したがって、甲第5、第6号証が示すように、やかんや鍋でも、かかるビード加工がされている。環形のビード及び円形の凸部の周縁のところでその内側の金属の伸びが押さえられ環形のビード及び円形の凸部の内部のみで変形が生じ、中心部分が主面側に若干高く、いわば凸レンズ状に膨らむような事態が生じるとしても、このようなケースは常識的な温度では考えられない。このように金属面の変形が仮に若干あるとしても、本件の図5にあるような押さえ板全体が主面側に反ることは起こり得ない。
仮に、本件発明1の押さえ板は、「環形のビード加工または円形の凸部を施したこと」によって反りが生じるのであれば、やかんや鍋のビード加工も同じ構成要件から成るものであるから、同じ作用効果が生じるはずである。加熱されれば、金属が伸びて反りが生じることは自明であり、その場合に凸部を設ければ、その凸部部分が伸びようとして、凸部の方向に更に突出していこうとすることも金属の性質としては自明のことである。本件発明1の構成要件はすべて従来技術であって、そこから生じる効果も自明である。
したがって、本件発明1は、甲第1号証記載の発明並びに甲第2号証ないし第7号証が例示する周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について
ア)〜ウ)については本件発明1について主張したとおりである。
「押さえ板の主面の上下左右に直線状のビード加工が施されていること」については、直線状のビード加工は、環形のビード加工又は円形の凸部を加工する工程で周辺に歪みが生じるのを押さえるために施されたものにすぎないのであって、甲第4号証の2の記載、同号証の3の図6.3が示すとおり、プレス加工の際に生じる歪みを防止するための技術として周知である。
したがって、本件発明2は、甲第1号証記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明3について
ア)〜ウ)については本件発明1について主張したとおりである。
「押さえ板がアルミ蒸着鋼板であること」については、甲第8号証の1ないし6が示すとおり、出願前から公知のものであり、その用途が石油ストーブのような本件発明と同じ暖房機にあること(甲第8号証の3)、その特性として耐熱性(甲第8号証の4)と熱反射性があること(甲第8号証の5)も知られていたものである。そうすると、本件発明3は、甲第1、第8号証記載の各発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1ないし3に係る本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

〔証拠方法〕
甲第1号証:特開2000-240959号公報(平成12年9月8日公開)
甲第2号証の1:太田 哲著、プレス加工の基礎知識、日刊工業新聞社、2001年1月31日初版12冊発行、表カバー(1982年2月25日初版1冊発行)
甲第2号証の2:同20頁
甲第2号証の3:同131頁
甲第2号証の4:同奥付
甲第3号証の1:(社)日本金属プレス工業協会編、山口文雄著、プレス加工の工程設計、日刊工業新聞社、2002年5月15日発行、表カバー
甲第3号証の2:同77頁
甲第3号証の3:同奥付
甲第4号証の1:日本塑性加工学会編、わかりやすいプレス加工、日刊工業新聞社、2000年5月23日発行、表カバー
甲第4号証の2:同77頁
甲第4号証の3:同84頁
甲第4号証の4:同奥付
甲第5号証の1:写真1、写真2
甲第5号証の2:写真3、写真4
甲第6号証:写真5、写真6
甲第7号証:実願平2-37715号(実開平3-129824号)のマイクロフィルム
甲第8号証の1:(日新製鋼製品資料)アルスター鋼板、日新製鋼株式会社、2000年2月作成、表紙
甲第8号証の2:同1頁
甲第8号証の3:同4頁
甲第8号証の4:同10頁
甲第8号証の5:同12頁
甲第8号証の6:同裏表紙

3.被請求人の反論の概要

(1)本件発明1について
ア)甲第1号証の図2における裏板40を「押さえ板」と同視すれば、図2における板状断熱材34は、「面状発熱体と押さえ板との間の断熱材」に相当する。
イ)やかんや鍋に施されたビード加工や甲第7号証のパネルに設けられたビード加工は、本件発明1の「環形のビード加工」又は「円形の凸部」とは目的と作用効果が全く異なるものである。やかんや鍋の底に施された円形のビード加工は、プレス加工上の問題や物理的強度を補強して変形を防止する目的の外に、ガスの炎が無駄に外に出ないようにする目的、更に意匠的意味で施されるものである。甲第7号証のパネルのビード部は、複数の横長の短冊状のものであり、対向する発熱パネルとビード部分を重合接触させることで両者の一体化を強めて全体の変形を小さくすることを目的とするものである。
これに対し、本件発明1の「環形のビード加工または円形の凸部」は、熱膨張による押さえ板及び面状発熱体の反り(変形)の方向性を規制するために施されたものであって、ビード加工の従来の目的である歪み取りや補強(変形防止)を目的とするものではない。単純に変形防止の目的であるならば、本件発明1のような環形の形状とする必然性はなく、甲第7号証の第2図に示されるようなパネルに直線的なビードを多数設けた構成、甲第3号証の2の図4.2.1(a)に図示された形状のビード加工を施せば足り、且つそれが好ましい形状であると考えられる。
ウ)請求人は、ビード加工は金属板を変形し難くするためのものであって、都合のいいように変形させるための技術ではないから、これによって押さえ板全体が変形するはずがないと主張するが、何の証拠も提出されていない。被請求人は、押さえ板の主面に環状のビード加工又は円形の凸部を設けることにより、必ず前方に反るという特性を発見したのである。この作用を奏する証拠として乙第1、第2号証を提出する。

(2)本件発明2について
本件発明2における直線状のビード加工それ自体は公知技術であるが、本件発明2は本件発明1をすべて構成要件とするものであるから、本件発明1が特許適格性を有するものである以上、本件発明2も当然に特許適格性を有するものである。

(3)本件発明3について
本件発明3は、押さえ板がアルミ蒸着鋼板であることのみをもって進歩性があるのではなく、本件発明1をすべて構成要件とするものであるから、本件発明1が特許適格性を有するものである以上、本件発明3も当然に特許適格性を有するものである。

〔証拠方法〕
乙第1号証:遠赤外線パネルヒータユニット、押さえ板(円形の凸部加工有り)の実験データのまとめ
乙第2号証:遠赤外線パネルヒータユニット、押さえ板(平板;円形の凸部加工無し)の実験データのまとめ
乙第3号証:株式会社アールシーエスの遠赤外線輻射式暖房器550型分解図
乙第4号証:遠赤外線パネルヒーターユニット断面の状態模型図
乙第5号証:アールシーエス発明の遠赤外線パネルヒーターユニットと従来技術ユニットの比較正面写真
乙第6号証:画像とヒストグラム、押さえ板円形凸
乙第7号証:画像とヒストグラム、押さえ板平板
乙第8号証:乙第1、第2号証の測定データの取得条件についての補強資料

4.甲第1号証公報

4-1.甲第1号証公報の記載

甲第1号証によれば、本件発明の出願前に頒布された特開2000-240959号公報には、下記の記載がある。
a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】面状発熱体を有し、上記面状発熱体の表面に表面板が設けられ、この表面板の外側面に耐熱性の装飾が施され、上記面状発熱体の裏面側には熱反射材が設けられていることを特徴とするパネルヒーター。
・・・・
【請求項5】上記面状発熱体及び上記熱反射材の背面側には、板状断熱材が設けられていることを特徴とする請求項1,2,3または4記載のパネルヒーター。」
b)「この発明は、観賞用の装飾等が施され、屏風や壁掛けとして飾ることができるパネルヒーターに関する。」(段落【0001】)
c)「図1〜図3はこの実施形態のパネルヒーター10を示すもので、パネルヒーター10は、板状の表面板12を有し、表面板12の表に装飾用の絵柄14が設けられている。表面板12の周縁部は額縁である枠部材16で囲まれている。枠部材16の材質は、木やアルミ、樹脂等適宜選択しうる。表面板12は、図3に示すように取付板である三層構造のアルミ複合板18と、和紙20と、絹布22が順に糊等で貼り付けられている。アルミ複合板8は、アルミの板の間に発泡樹脂等を挟んだものである。」(段落【0010】〜【0011】)
d)「そして、表面板12の、枠部材16で囲まれる部分の裏側には、セラミックシート26を介して面状発熱体28が設けられている。面状発熱体28は、例えば、100vで40℃〜70℃の範囲のものを使用し、40℃,50℃,60℃,70℃等、適した温度となるようにあらかじめ規定する。この面状発熱体28は、温度上昇とともに抵抗値が上がり発熱量が落ちる自己温度制御機能を備え、いわゆるPTC特性を有した抵抗体材料からなり、表面板12の温度が所定の温度となるように特性が設定されている。」(段落【0012】)
e)「面状発熱体28の裏側にはさらにセラミックシート30が設けられ、セラミックシート30の裏側には、アルミ箔がコーティングされた熱反射材である熱反射シート32が設けられている。熱反射シート32の裏側には、難燃性のスチレン等の板状断熱材34が設けられている。板状断熱材34と、面状発熱体28、セラミックシート26,30、熱反射シート32の周縁部には、枠部材16等を補強し熱により変形しない補強枠材36が設けられている。補強枠材36と枠部材16との間には、断熱セラミックシート38が設けられている。セラミックシート26,30,38により面状発熱体の絶縁が確実に図られ、さらに遠赤外線輻射を可能としている。
そして、板状断熱材34と補強枠材36の裏側面には、アルミ板と樹脂の複合材である断熱アルミ材で作られている裏板40が設けられ、裏板40は、枠部材16に図示しない取り付け具で係止されている。」(段落【0013】〜【0015】)
f)「次に、この実施形態のパネルヒーター10の組立方法について説明する。まず、表面板12の表面に、墨や絵の具(特に顔料系)等で直接絵柄14を設ける。絵柄14は、手で描いても印刷してもよい。墨や絵の具が乾燥した後、表面板12を枠部材16にセットし、セラミックシート26,30、面状発熱体28、熱反射シート32、板状断熱材34、補強枠材36を所定の順に枠部材16内側にセットし、最後に裏板40で係止する。そして、たとえば、枠部材16に壁掛け用の紐等を取り付けて、壁に飾る。」(段落【0016】)
g)「この実施形態のパネルヒーター10の作用は、面状発熱体28の熱がセラミックシート26、表面板12に伝わって、表面板12から輻射熱が放出され、周囲や室内を暖かくする。また、面状発熱体28が発熱すると、セラミックシート26,30が暖められて特に遠赤外線が発生し、透過力の高い遠赤外線により、より効果的に身体を温める。
この実施形態のパネルヒーター10によれば、表面板12に装飾用の絵柄14が設けられ、室内や周囲を飾るとともに、表面板12からの遠赤外線等の輻射熱で周囲や室内の空気や人の体を暖かくする。また、表面板12の、面状発熱体28側の面には、アルミ複合板18が設けられているため、絹布22と絵柄14は熱により変質したり損傷を受けることがない。」(段落【0017】〜【0018】)

4-2.甲第1号証公報に記載された発明

上記a)〜g)に摘示した甲第1号証公報の記載及び図1〜3が図示するところによれば、同公報には、次の発明が記載されていると認められる。
「アルミ板の間に発泡樹脂等を挟んだ三層構造のアルミ複合板、和紙20、絹布22が順に貼り付けられた表面板12、面上発熱体28、該面状発熱体の上下に具備されたセラミックシート26,30、熱反射シート32、アルミ板と樹脂の複合材である断熱アルミ材の裏板40とを重ね合わせたものを枠部材16に組み込んだ構造を備えるパネルヒーターにおいて、前記面状発熱体と裏板との間に板状断熱材34を配したパネルヒーター。」

5.本件発明1について

5-1.対比・一致点・相違点

甲第1号証公報の上記e)及びg)に摘示した記載によれば、セラミックシート26,30は遠赤外線を発生して輻射するものであるから、本件発明1の「遠赤外線放射板」に相当する。また、甲第1号証公報に記載された「面状発熱体28」は、本件発明1の「面状発熱体」に相当し、以下、「裏板40」は「押さえ板」に、「枠部材16」は「ヒータ取り付けパネル」に、「板状断熱材34」は「断熱材」に、「パネルヒーター」は「遠赤外線パネルヒータユニット」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲第1号証公報記載の発明との一致点及び相違点は、次のとおりであると認められる。
【一致点】
「遠赤外線放射板と面状発熱体と押さえ板とを重ね合わせたものをヒータ取り付けパネルに組み込んだ構造を備える遠赤外線パネルヒータユニットにおいて、前記面状発熱体と押さえ板との間に断熱材を配する遠赤外線パネルヒータユニット。」
【相違点】
(1)本件発明1は、「少なくともアルミ板を用いた」遠赤外線放射板を備えたものであるのに対し、甲第1号証公報に記載された発明は、アルミ板の間に発泡樹脂等を挟んだ三層構造のアルミ複合板、和紙20、絹布22が順に貼り付けられた表面板12と、面状発熱体の上下に具備された遠赤外線放射板とを備えたものである点。(以下「相違点A」という。)
(2)本件発明1は、「金属板の」押さえ板を備えたものであるのに対し、甲第1号証公報に記載された発明は、アルミ板と樹脂の複合材である断熱アルミ材の押さえ板を備えたものである点。(以下「相違点B」という。)
(3)本件発明1は、「押さえ板の主面に熱膨張による押さえ板の反りが前記遠赤外線放射板の反りと同じ方向になるような環形のビード加工または円形の凸部を施した」ものであるのに対し、甲第1号証公報に記載された発明は、押さえ板にかかる構成が施されていない点。(以下「相違点C」という。)

5-2.相違点の検討

相違点Cについて、請求人は、要するに、環形のビード加工又は円形の凸部を施することは周知技術であると主張して、甲第2号証の1〜甲第7号証を提出しているので、以下、提出された各証拠について検討する。

(1)甲第2号証の1〜4について

甲第2号証の1〜4は、その初版1冊は本件発明の出願前に頒布された刊行物であって、甲第2号証の2及び3には、絞り過程で材料の流動を制御するなどの目的で、ビードを付けることが記載されているが、「環形のビード加工」又は「円形の凸部」の記載も示唆もないし、被加工面の反りを図ることの記載も示唆もないものでしかない。

(2)甲第3号証の1〜3について

甲第3号証の1〜3は、本件発明の出願後に頒布された刊行物であるが、その内容が仮に本件発明の出願時に技術水準を示すものであるとしても、甲第3号証の2には、図4.2.1(a)における丸数字2で示された例として、一種の環形のエンボス・ビードのパターンが図示されているとはいえ、(被加工)面の強化策として使われるものであるとの記載があるのみで、ビードが加工された面、すなわち被加工物の面の反りを図ることの記載も示唆もないものである。

(3)甲第4号証の1〜4について

甲第4号証の1〜4は、本件発明の出願前に頒布された刊行物であって、甲第4号証の3の図6.3(b)には、自動車インナドアパネル(SPCE)の例として、中央の凹凸部とその上下左右に直線状のビード加工が施された例が図示されているが、甲第4号証の2には、ビードにより材料の流れを制御し、変形状態を変えて破断を避けることが記載されていることを勘案するば、上記ビード加工は、材料の流れを制御し、変形状態を変えて破断を避け、肉余りの抑制、張力付加による形状制御を目的とするものであって、被加工面の反りを図ることの記載も示唆もないものである。。

(4)甲第5号証の1及び2について

甲第5号証の1及び2は、家庭用のやかんの底面に環形のビード加工が施された事実を示す写真であるが、そこに撮影されたやかんが仮に本件発明の出願前に公然実施されたものであるとしても、やかんの場合、底面が反ることは通常好ましくないものと認めれるので、やかんに施されたビード加工は、被加工面の反りを図ったものではないと認められる。

(5)甲第6号証について

甲第6号証は、家庭用の鍋の底面に円形の凹部(見方によれば凸部と認められる。)が施された事実を示す写真ではあるが、そこに撮影された鍋が仮に本件発明の出願前に公然実施されたものであるとしても、鍋の場合、底面が反ることは通常好ましくないものと認めれるので、鍋の底面に施された円形の凹部は、被加工物の面の反りを図ったものではないと認められる。

(6)甲第7号証について

甲第7号証は、パネルヒーターの考案に関する実願平2-37715号(実開平3-129824号)のマイクロフィルムであるから、本件発明の出願前に頒布された刊行物であるが、そこには、次の記載がある。

a)「本考案はパネルヒーター、特に絶縁性を有する琺瑯加工仮に熱線をプリント形成してなるパネルヒーターに関するものである。」(明細書1頁17〜19行)

b)「本考案は二枚のパネルを重合させて形成するものであって、前記する二枚のパネルのうち一方のパネルには、重合面となる内側面に発熱線を印刷或いは、貼着等によって形成させており、また他方のパネルには、絞り加工等によって内側に突出させたビード部が形成されており、かつ、前記突出させたビード部は、対面するパネルの発熱線に接触しない部位に形成されているものであるパネルヒーターの構造を考案の要点としている。」(明細書4頁15行〜5頁3行)

c)「発熱線3を付着形成したパネル1の面は、通電による温度上昇に伴って内側に変形するが、本考案では、このパネル1に重合する他方のパネル2の内側面に突出形成したビード21…21部分がパネル1の面に重合接触させることによって両者の一体化が強められ、パネルヒーター全体の変形を極めて小さいものとすることができる特徴がある。」(明細書8頁14行〜9頁1行)

甲第7号証マイクロフィルムの上記a)〜c)に摘示した記載及び第1図〜第4図が図示するところによれば、同マイクロフィルムに開示された発明は、二枚のパネルを重合させて形成するパネルヒーターにおいて、発熱線が設けられていない一方のパネルの面に平行な直線状の4本のビード21を形成し、このビード部分が、発熱線が設けられている他方のパネルの面に重合接触することにより、二枚のパネルの一体化を強めて、パネルヒーター全体の変形を極めて小さいものとしているものであると認められる。そうすると、同マイクロフィルムには、「環形のビード加工」又は「円形の凸部」のいずれも記載されていないし、仮に同マイクロフィルムに開示された平行な直線状の4本のビードを出発点として「環形のビード加工」又は「円形の凸部」に設計変更しようとすると、いずれも発熱線3の付着形成された部分を横切ることになるか、又は重合接合できないことになるという不都合が生じるから、このように変更することを想到することは容易ではないというべきであるし、また、同マイクロフィルムのビードは、パネルの剛性を増して変形を妨げることにあって、ビードが形成された面の反りを図ったものではないことは明らかである。

これに対し、本件発明1は、「遠赤外線放射板と面状発熱体と金属板の押さえ板とを重ね合わせたものをヒータ取り付けパネルに組み込んだ構造を備え」て、「前記押さえ板の主面に環形のビード加工または円形の凸部を施したこと」により、熱膨張による押さえ板の伸びによる力を、環形のビード加工又は円形の凸部において吸収し、かつ、その吸収した力を押さえ板の面に対してほぼ垂直な方向に転じて、押さえ板の反りを発生せしめるという作用を奏するものと認められるところ、審判請求人が提出した上記証拠のいずれにも、このような押さえ板の熱膨張を利用した反りを積極的に発生させることについての記載も示唆もないのである。

(8)審判請求人の主張について

審判請求人は、環形のビード及び円形の凸部の周縁のところでその内側の金属の伸びが押さえられ環形のビード及び円形の凸部の内部のみで変形が生じ、中心部分が主面側に若干高く、いわば凸レンズ状に膨らむような事態が生じるとしても、このようなケースは常識的な温度では考えられないこと、また、このように金属面の変形が仮に若干あるとしても、本件の図5にあるような押さえ板全体が主面側に反ることは起こり得ないことを主張する。
しかし、断熱材を介するとはいえ、押さえ板は面状発熱体からの熱を受けてその温度が相当程度上昇することには違いないし、その温度上昇により押さえ板が膨張することにも変わりがないものであるから、通常の面状発熱体を用いた場合においても押さえ板に施された環形のビード加工又は円形の凸部の中心部分が主面側に若干高くなるように膨らむような作用を、少なくとも環形のビード加工又は円形の凸部の形状を適宜工夫することにより、奏するものと認められる。また、本件発明の図5は、願書に添付された図面であって、設計図のように正確に描かれたものではないので、押さえ板が図5が図示するような形状のとおり正確に反るものではないとしても、それをもって本件発明1の作用効果を否定することはできない。

また、審判請求人は、本件発明1の押さえ板は、「環形のビード加工または円形の凸部を施したこと」によって反りが生じるのであれば、やかんや鍋のビード加工も同じ構成要件から成るものであるから、同じ作用効果が生じるはずであること、加熱されれば、金属が伸びて反りが生じることは自明であり、その場合に凸部を設ければ、その凸部の部分が伸びようとして、凸部の方向に更に突出していこうとすることも金属の性質としては自明のことであると主張する。
しかし、本件の全証拠をみても、環形のビード加工又は円形の凸部を施すことにより、その中心部分を若干高くなるように膨らませるという作用を記載したり示唆するものはないし、やかんや鍋の底面に施された環形のビード加工又は円形の凸部は、熱膨張を吸収する目的はあっても、それを利用して反りを生じさせることを目的とするものではないと認められる。このような目的の相違に加えて、パネルヒーターとやかんや鍋とは技術分野が異なるものであるから、やかんや鍋の底面に施された環形のビード加工、円形の凸部を甲第1号証公報のパネルヒーターに適用することは当業者であっても容易であったとすることはできないのである。加熱により金属が伸びて反りが生じることは当業者には自明であるとしても、本件発明1は、遠赤外線放射板と面状発熱体と金属板の押さえ板とを重ね合わせて取り付けパネルに組み込んだ構造において、押さえ板の主面に環形のビード加工又は円形の凸部を施したことにより、熱膨張による押さえ板の伸びによる力を、環形のビード加工又は円形の凸部において吸収し、かつ、その吸収した力を利用して押さえ板の反りを発生せしめるという作用を奏するものであり、このような作用効果をすべて自明であったものとすることはできないというべきである。

(9)まとめ

したがって、相違点A及びBについて検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証〜甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6.本件発明2及び3について

本件発明2及び3は、いずれも本件発明1の構成をすべて含み、更に構成を加えて限定するものであるから、本件発明1が上記のとおりその容易想到性が否定される以上、本件発明2及び3も、甲第1号証〜甲第8号証の6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

7.むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし3に係る発明の特許を無効とすることができない。審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担するものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2003-08-05 
出願番号 特願2000-287584(P2000-287584)
審決分類 P 1 112・ 121- Y (F24D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川向 和実  
特許庁審判長 橋本 康重
特許庁審判官 佐野 遵
久保 克彦
登録日 2002-10-18 
登録番号 特許第3362028号(P3362028)
発明の名称 遠赤外線パネルヒータユニット  
代理人 羽鳥 亘  
代理人 梅村 莞爾  
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