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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J 審判 査定不服 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B41J |
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管理番号 | 1084144 |
審判番号 | 不服2001-17286 |
総通号数 | 47 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1999-08-03 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2001-09-27 |
確定日 | 2003-09-18 |
事件の表示 | 平成10年特許願第321934号「マルチノズルプレート」拒絶査定に対する審判事件[平成11年 8月 3日出願公開、特開平11-207967]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成4年1月20日に出願された特願平4-7087号出願(以下、「原出願」という)の一部を特許法第44条第1項の規定により分割して平成10年11月12日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という)は、平成15年4月21日付けで補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1(以下、「本願請求項1」という)に記載された次のとおりのものと認める。 「インクジェット記録装置の噴射ヘッドに適用されるマルチノズルプレートにおいて、該マルチノズルプレートは隣接ノズル間の距離が27μm以上であることを特徴とするマルチノズルプレート。」 第2.記載不備について 1.拒絶理由(理由1)の概要 これに対して、当審が平成15年3月5日付けで通知した拒絶理由の理由1は、「隣接ノズル間の距離が27μm以上」に関する部分については、概要、次のとおりである。 すなわち、本願明細書段落0047において隣接開口間距離が27μm以上であればよいとしていることは、同段落0044に記載のように、開口形成部材であるノズルプレートの厚さを50μm、開口であるノズルの径を250μmとし、インクとしてヒューレットパッカード社製のDesk Jet用インクと同等の物性を持つビークル(インクから染料成分を除去した無色透明染体)を使用し、発熱体に入力する信号をパルス幅6μ秒で連続駆動周波数1kHzとする条件に基づくものであり、その評価基準は、同段落0045,0046における表1に係る記載のように、製作可否について精度よく開口を形成できたか否か、飛翔性能についてインク滴が飛翔方向を乱さずに直進したか否かというものであるが、上記条件を変えても、上記評価基準における精度の良い開口形成やインク滴を直進できる隣接開口間距離の値が普遍的に27μm以上の範囲内になるとは、上記段落0044〜0047の記載を含む明細書全体の記載からでは認めることができないため、本願発明における27μm以上の数値範囲の限定が意義を有するには、上述した条件が必須の構成要件即ち特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項であるところ、本願請求項1にはこの事項の記載がないから、本願は特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていないものである。 2.請求人の意見 上記拒絶理由の理由1に対して、請求人は、平成15年4月21日付けで意見書を提出し、次のように意見を述べている(同意見書で用いられている丸数字の1,2,3は1),2),3)で置き換える)。 「【0044】に記載の条件とは、インクジェット噴射記録を行うことのできる1条件を示したものでありますが、インクジェット噴射記録を行うことのできる条件とは、具体的には、良好なインク飛翔滴が形成される条件であります。この良好なインク飛翔滴が形成される条件とは、1)良好な滴形成ができること、2)その滴が狙い通りの紙面上の位置に着弾すること(=直進飛翔すること)、3)直進飛翔が安定して飛翔できるように充分な速度があること、であります。 この条件のうち、本発明は、2)のその滴が狙い通りの紙面上の位置に着弾すること、すなわち、直進飛翔することを良否の判断基準としたものであります。ここで、直進飛翔することは、他の2つの条件.すなわち、1)良好な滴形成ができること、3)直進飛翔が安定して飛翔できるように充分な速度があることと違って、噴射ヘッドの液滴噴射駆動源である発熱体の駆動条件(【0044】に記載しているパルス幅とか駆動周波数など)とは無関係であります。 つまり、1)および3)は、インク滴を作る条件、また、その滴の飛翔速度であるため、発熱体への入力条件に依存するものでありますが、2)の直進飛翔する条件は、ノズルが良好な形状であるか否かで決まるものであり、発熱体の駆動条件とは関係のないものであります。 そこで、水道の蛇口から水が連続的に流れている(落下している)現象を例に挙げて説明します。水道の蛇口から水が流れている(落下している)状態というのは、液滴形成とは関係のない現象であります(連続的に流れており、液滴を形成しているわけではありませんから)。今、水道の蛇口を変形させたとすると、水が流れている(落下している)方向はどうなるでしょうか。変形度合いにもよりますが、おそらく流れる方向が曲がるでしょう。そして、このように流れる方向が曲がるという現象は、蛇口が変形したからであるという理解が正しいということに疑いをはさむ余地はないと思います。 次に、この水道の蛇口を断続的に開閉を行うとどうなるでしょうか。水が出たり出なかったりします。これはちょうどインクジェット記録のインク滴形成に相当します。すなわち、水が出る時というのはインク滴が形成、噴射される時であります。この時、水はまっすぐ出るでしょうか?蛇口が変形しているわけですから当然、曲がって出るでしょう。 以上の説明より、蛇口が変形していれば、水が連続的に流れ出る場合であっても、断続的に流れ出る場合であっても、その流れる方向は曲がるということが普遍的に生じることである、ということが明確になったと思います。 話を本発明に戻しますと、本発明では、隣接開口間距離が27μmより小さいと飛翔滴が直進しません(表1より)。これは上記水道の蛇口の例で説明しましたように、発熱体の駆動条件(これは水道の例でいうと連続的に流れる場合と断続的に流れる場合が相当します)とは関係がなく、ノズルの変形によるものであります。 以上の説明より明らかなように、「隣接開口間距離を27μm以上であればよい」というのは、ノズルの変形(形状良好性)と噴射の方向が直進するか否かという関係を評価しているため、【0044】に記載の条件時においてのみ成立することではなく、どのような場合においても、成立する(飛翔が直進する…○、直進しない…×)条件であります。」 3.当審の判断 本願請求項1に記載された「隣接ノズル間の距離が27μm以上」は、少なくとも本願明細書段落0044に記載された条件、すなわち、開口形成部材(以下においては「ノズルプレート」ともいう)の厚さ50μm、開口(以下においては「ノズル」ともいう)の径250μm、インクとしてヒューレットパッカード社製のDesk Jet用インクと同等の物性を持つビークル(インクから染料成分を除去した無色透明染体)、発熱体に入力させる信号パルス幅6μ秒、連続駆動周波数1kHzという条件に基づくものであり、また、その条件におけるノズルの径が250μmであることからみて、隣接するノズル同士の中心間距離についてのものではなく、隣接するノズル同士の縁間距離についてのものであることは明らかである。 上記「隣接ノズル間の距離が27μm以上」であれば良いとする根拠は、本願明細書段落0045の表1において、ステンレス板フォトエッチングとポリサルフォンの成形とステンレス板打ち抜きとポリサルフォンへのエキシマレーザ照射というノズルプレートの材料と加工手段の組み合わせ毎の「製作可否」と「飛翔性能」の判定が、「隣接開口間距離」が27μm以上では全て「○」即ち良好になることが示されていることにあり、同段落0046には、「製作可否」の判定が精度の良い開口を形成できたか否か、「飛翔性能」の判定が飛翔方向を乱さずに直進したか否かについてのものであって、「隣接開口間距離」が小さすぎると精度の良い開口を形成できない旨、同段落0047にはステンレス箔の打ち抜き加工の場合に「隣接開口間距離」が27μm以上であれば良いことが判る旨記載されているが、どのような場合でも即ち隣接ノズル間の距離以外の他の条件によらず隣接ノズル間の距離が27μm以上でありさえすれば「製作可否」と「飛翔性能」の判定が良いことについては本願明細書全体の記載をみても示唆されていない。 そこで検討するに、上記「隣接ノズル間の距離が27μm以上」であることを主要な構成要件とする本願発明の目的・効果は、本願明細書段落0025,0026,0028,0053などに記載されているように、マルチノズルプレートについて量産性や低コスト化や加工時の変形防止を従来よりも優れたものにすることにある。 マルチノズルプレートにおける隣接ノズル間の距離については、複数のノズルが並ぶ方向での印字密度なども考慮して決めるべきものではあるが、一般論として、隣接するノズル同士が離れていればいるほど、一つ一つのノズルの加工が容易になると共に、あるノズルの加工による隣接する他のノズルの形成あるいは形状への影響が小さくなって各ノズルの形成精度が良くなることは技術常識的に従来から明らかなことであり、ノズルの加工が容易になって形成精度が良くなれば、「製作可否」と「飛翔性能」の判定も当然に良好になると共に、上述した量産性や低コスト化や加工時の変形防止もより優れたものにし得ることは明らかである。 これに対し、本願請求項1における上記「隣接ノズル間の距離が27μm以上」は、特に上限を定めずに「以上」としている点において、上記技術常識的に従来から明らかなことに対応する範囲を含むものであり、その規定だけでは、従来よりも優れたものにするという点において本願発明の目的・効果を達成できないものと認められる。 すなわち、上記「隣接ノズル間の距離が27μm以上」における特に上限の定めのない「以上」の範囲について上記技術常識的に従来から明らかなことを考慮してもなお、本願発明がその目的・効果に係る上記従来よりも優れたものにするという点を達成しているというには、本願明細書段落0044に記載された上記条件の全てあるいはその幾つかのもとにいえることと考えざるを得ず、そのような条件が特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項であるところ、本願請求項1にはこの事項の記載がないものである。 次に、上記「隣接ノズル間の距離が27μm以上」における下限値である「27μm」に着目して検討を進めるに、下限値を27μmとする根拠は、上述したように、本願明細書段落0045の表1にあり、隣接ノズル間の距離が27μmのときに「製作可否」と「飛翔性能」の判定が共に良好でなければならないが、どのような場合でも即ち隣接ノズル間の距離以外の他の条件によらず、隣接ノズル間の距離が27μmであれば「製作可否」と「飛翔性能」の判定が必ず良好となることについては本願明細書全体の記載をみても示唆されていないことは前示のとおりである。 「製作可否」即ちノズル開口を精度良く形成できるか否かがノズルプレートの材料や加工手段にも左右されることは技術常識といえるところ、表1はノズルプレートの材料と加工手段の組み合わせを4種類しか示しておらず、ノズルプレートの材料や加工手段には表1に示す以外にも種々あって、加工手段との組み合わせの例示の数が必要十分とはいえないため、このことだけでも、他の条件によらず隣接ノズル間の距離が27μmであれば「製作可否」の判定が必ず良好となることが普遍的にいえるとは認め難い。 さらに検討するに、本願明細書段落0048〜0051には、上記表1の「隣接開口間距離」欄を「開口部近傍厚さ」欄に置き換えた表2に係る記載があり、表2における「製作可否」は表1の場合と同じ意味合いであって、その判定は開口部近傍の厚さ即ちノズルプレートの厚さにも影響されることが示され、かつ、隣接ノズル間の距離が27μmであればノズルプレートの厚さの影響を無視できる旨の記載もないことから、表2に係る記載を勘案すると、少なくとも、ノズルプレートの厚さの条件によらず隣接ノズル間の距離が27μmであれば「製作可否」の判定が必ず良好となることが普遍的にいえるとは認められないものである。 ところで、本願が分割出願に係ることは前示のとおりであるが、原出願の出願当初の明細書(以下、「原出願明細書」という)においては、原出願明細書段落0085の表3及び同段落0089の表4が、それぞれ、本願明細書における上記表1及び表2に対応する。 上記表3に係る原出願明細書段落0086〜0087には、「飛翔性能」についての判定「×」が、駆動により生成した気泡の隣接するもの同士の互いの干渉により飛翔滴が直進せずに飛翔方向が乱れてしまった場合を示し、この干渉を防ぐには「隣接開口間距離」をノズルの径の1/10以上にしなければならないことが記載されてはいるが、本願明細書段落0047におけるように「隣接開口間距離」が27μm以上であればよい旨の記載はないものである。 また、上記表4に係る原出願明細書段落0090には、飛翔滴の良好な飛翔のためにはノズルプレートの厚さをノズルの開口面積の平方根より薄くする必要があることが記載されている。 これらの原出願明細書における記載を勘案すると、「飛翔性能」の判定についてはノズルの径やノズルプレートの厚さが影響すると考えられるため、ノズルの径やノズルプレートの厚さの条件によらず隣接ノズル間の距離が27μmであれば「飛翔性能」の判定が必ず良好となることが普遍的にいえるとは認められないものである。 さらに、これらの原出願明細書の記載に関連して本願明細書の段落0044と表1の記載をみると、段落0044におけるノズルプレートの厚さ50μmは径を250μmとするノズルの開口面積の平方根より薄く、かつ、ノズルの径250μmの1/10以上の「隣接開口間距離」は25μm以上であることから、表1において「隣接開口間距離」の27μm以上で「飛翔性能」の判定が「○」であることは、本願明細書段落0044に記載されたノズルプレートの厚さとノズルの径からすれば当然にそうなることを示しているにすぎず、これらノズルプレートの厚さとノズルの径の条件がどのような場合であっても「隣接開口間距離」の27μm以上で「飛翔性能」の判定が「○」となることまで示すものとはいえない。 以上のことから、上記「隣接ノズル間の距離が27μm以上」における下限値である「27μm」に着目して検討してみても、隣接ノズル間の距離が27μmであれば「製作可否」と「飛翔性能」の判定が共に必ず良好になると普遍的にいえるためには、少なくとも、本願明細書段落0044に記載されたノズルプレートの厚さとノズルの径に係る条件が必要であり、そのような条件が特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項であるところ、本願請求項1にはこの事項の記載がないものである。 なお、請求人による前示意見には、「隣接ノズル間の距離が27μm以上」における上限の定めのない「以上」に関しても、ノズルプレートの厚さとノズルの径の「製作可否」と「飛翔性能」の判定への影響に関しても、参酌すべきものが見当たらない。 第3.容易性について 1.本願発明 本願発明は前示第1.に示したとおりである。 2.引用例 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の分割のもととなった前示原出願の出願日前に頒布された特開昭57-208250号公報(以下、「引用例」という)には、次の事項が記載されている(記載中、「・・・」は中略を示す)。 なお、当審による前示平成15年3月5日付け拒絶理由通知には末尾に原査定の拒絶の理由が解消されているものではない旨付言している。 a.「a、パンチプレス法により、金属シートに・・・微細孔を有するオリフイスバツクシートを得る工程、b、パンチプレス法により、金属シートに・・・微細孔を形成し・・・オリフイスシートを得る工程、および、c、・・・両シートを・・・一体化する工程とから成ることを特徴とするインクジエツトノズルの制作方法。」(1頁左下欄5行〜右下欄1行) b.「本発明は・・・詳しくはコンピユータに連動するインクジエツトプリンタにおけるインクジエツトノズルの新規かつ改良された制作方法に関するものである。一般に、インクジエツトプリンタのヘツドにおけるインクジエツトノズルは、その孔径が数10ミクロン程度の微細孔をもつて構成されている。」(1頁右下欄3〜9行) c.「従来法のように単一プレートにノズルを形成するのではなく2枚の金属シートを積層一体化」(2頁右下欄2〜3行) d.「厚さがt1が150〜500μmのたとえばステンレススチールからなるシート1」(2頁右下欄8〜9行) e.「厚さt2が50〜100μmのステンレススチールからなるシート11」(3頁右上欄末行〜左下欄2行) f.「上記したオリフイスプレートの製作についても、たとえばドリル法、レーザービーム法、放電加工法、電子ビーム法、エツチング法等種々の方法が考えられるが、ドリル法は非生産的であるうえに微細孔の周縁にカケ落ちが生じ易く、その他の方法ではいずれも微細孔の内面形状を一定直径を有する円滑なものとし難いのである。」(3頁右下欄3〜9行) g.「通常インクジエツトプリンタのヘツドにおけるインクジエツトノズルは、複数個設けられ」(4頁左上欄6〜8行) h.「本発明によれば理想形に近いインクジエツトノズルを高い寸法精度のもとに再現性よく製作でき、特にインクジエツトに乱流を生じさせない」(4頁右上欄末行〜左下欄2行) これらの記載を含む明細書及び図面の記載からみて、引用例には次の発明が記載されていると認められる。 「インクジェットプリンタのヘッドに適用されるインクジェットノズルが複数個設けられたプレート。」 3.対比 本願発明(前者)と引用例記載の発明(後者)とを対比するに、後者の「インクジェットプリンタ」、「ヘッド」、「インクジェットノズルが複数個設けられたプレート」は、それぞれ、前者の「インクジェット記録装置」、「噴射ヘッド」、「マルチノズルプレート」に対応するから、両者は、「インクジェット記録装置の噴射ヘッドに適用されるマルチノズルプレート」である点において一致し、次の点で相違する。 <相違点>前者では「隣接ノズル間の距離が27μm以上」であるのに対して、後者は定かでない点。 4.当審の判断 本願発明においては、上記「隣接ノズル間の距離が27μm以上」には、精度の良い開口を形成でき且つ飛翔滴の飛翔方向を乱さずに直進させることができるという意義があるとしている(本願明細書段落0045〜0047参照)。 しかし、前示第2.の3.でも述べたように、マルチノズルプレートにおける隣接ノズル間の距離については、複数のノズルが並ぶ方向での印字密度なども考慮して決めるべきものではあるが、一般論として、隣接するノズル同士が離れていればいるほど、一つ一つのノズルの加工が容易になると共に、あるノズルの加工による隣接する他のノズルの形成あるいは形状への影響が小さくなって各ノズルの形成精度が良くなることは技術常識的に従来から明らかであり、それに伴い飛翔滴の直進性が良くなることも明らかである。 してみると、上記「隣接ノズル間の距離が27μm以上」は、特に上限を定めずに「以上」としている範囲において格別意義を有するものではなく、かつ、そのような範囲に隣接ノズル間の距離を設計することが従来困難であったともいえないから、上記相違点は技術常識的に従来から明らかであったことに基づいて当業者が容易になし得た設計の変更である。 さらにいえば、上記「隣接ノズル間の距離が27μm以上」における下限値である「27μm」に着目してみるに、やはり、前示第2.の3.で述べたように、種々ある設計条件の中の隣接ノズル間の距離のみについて規定するだけでは、他の条件によらず必ず精度の良い開口を形成でき且つ飛翔滴の飛翔方向を乱さずに直進させることができるとはいえず、隣接ノズル間の距離が「27μm」であることに格別意義を有するものではなく、かつ、隣接ノズル間の距離を「27μm」に設計することが従来困難であったともいえないことから、上記相違点は「27μm」を含めて当業者が必要に応じて適宜なし得た設計の変更であるといえる。 そして、上記相違点に係る構成を備えた本願発明の作用効果も引用例の記載や技術常識等からみて格別のものとはいえないから、本願発明は引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4.むすび 以上のとおりであり、本願は、明細書の記載に上記第2.で示した不備が認められ、特許法第36条第5項第2号に規定する要件を満たしていないものであるから、拒絶を免れない。 また、本願発明は、上記第3.で述べたように、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2003-07-16 |
結審通知日 | 2003-07-17 |
審決日 | 2003-07-29 |
出願番号 | 特願平10-321934 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B41J)
P 1 8・ 534- WZ (B41J) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 菅藤 政明 |
特許庁審判長 |
小沢 和英 |
特許庁審判官 |
津田 俊明 番場 得造 |
発明の名称 | マルチノズルプレート |
代理人 | 柏木 慎史 |