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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B41M
管理番号 1084732
異議申立番号 異議2001-70976  
総通号数 47 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-02-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-03-29 
確定日 2003-06-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3094119号「窯業系板材への印刷方法並びに装置」の請求項1ないし3、6ないし8に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3094119号の請求項1、2に係る特許を取り消す。 同請求項3、6ないし8に係る特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
特許第3094119号の請求項1ないし8に係る発明は、平成7年7月14日に特許出願され、平成12年8月4日にその設定登録がなされ、その後、特許異議申立(申立人杉崎筆雄、請求項1〜3、6〜8に対して)がなされ、平成13年9月6日付けで取消理由通知(請求項1、2に対して)がなされ、その指定期間内である平成13年11月19日に訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否
1.訂正の内容
(1).訂正事項
(A).特許請求の範囲の請求項1中の「前記塗布ロール上の押圧面の」との記載を、
「芯とこの芯の回りに配された二層の弾性体からなり、芯側の第一層の硬度を第2層の硬度より低くした塗布ロールを用い、この塗布ロール上の押圧面である前記第二層の弾性材の表面に、略円柱状のそれぞれ独立した穴の開口部である穿孔ドットを設け、この」と訂正する。

(B).特許請求の範囲の請求項2中の「塗布ロールに設けた押圧面の」との記載を、
「前記塗布ロールが芯とこの芯の回りに配された二層の弾性体からなり、芯側の第一層の硬度を第2層の硬度より低く、この塗布ロールの押圧面である前記第二層の弾性材の表面に、略円柱状のそれぞれ独立した穴の開口部である穿孔ドットを設け、この」と訂正する。

(C).明細書の段落番号0005中の「前記塗布ロール上の押圧面の」との記載を、
「芯とこの芯の回りに配された二層の弾性体からなり、芯側の第一層の硬度を第2層の硬度より低くした塗布ロールを用い、この塗布ロール上の押圧面である前記第二層の弾性材の表面に、略円柱状のそれぞれ独立した穴の開口部である穿孔ドットを設け、この」と訂正する。

(D).明細書の段落番号0006中の
「塗布ロールに設けた押圧面の」を、
「前記塗布ロールが芯とこの芯の回りに配された二層の弾性体からなり、芯側の第一層の硬度を第2層の硬度より低く、この塗布ロールの押圧面である前記第二層の弾性材の表面に、略円柱状のそれぞれ独立した穴の開口部である穿孔ドットを設け、この」と訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項(A)、(B)について
請求項1及び2を訂正する、訂正事項(A)、(B)は、それぞれ次の訂正事項(a)、(b)を含むものである。
(a).塗布ロールとして、「芯とこの芯の回りに配された二層の弾性体からなり、芯側の第一層の硬度を第2層の硬度より低く」することを特定する。
(b).穿孔ドットとして、「略円柱状のそれぞれ独立した穴の開口部」であることを特定する。
以下に検討する。
訂正事項(a)、(b)は、それぞれ特許請求の範囲において、塗布ロール及び穿孔ドットを特定するものであるから、いずれも、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項(a)は、本件明細書の段落番号0016の、「版ロール1の内部構造を断面図として図2に示した。10は柄模様を凸面11に形成した弾性のあるゴムスリーブ層であり、12は発泡ゴム層であり、13は鉄芯である。ゴムスリーブ層10の平均的な厚さは5mm乃至15mmの範囲としショア硬度計による硬度20度乃至40度が適切である。又、発泡ゴム層12は厚さ10mm乃至30mmの範囲とし、アスカ式スポンジ硬度計にて1度乃至15度を適切な硬度とした。」の記載、及び、訂正事項(b)は、段落番号0017の、「図2における凸面11は柄模様を形成しているが、その平面図を図3に示した。ドット14はレーザーなどで彫刻された略円柱状の穴であり開口部が凸面11に等間隔に配設され」の記載によりそれぞれ支持されているから、訂正事項(a)及び(b)は新規事項の追加には該当しないし、特許請求の範囲を拡張あるいは変更するものでもない。
したがって、訂正事項(A)、(B)は、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加には該当しないし、特許請求の範囲を拡張あるいは変更するものでもない。

(2)訂正事項(C)、(D)について
訂正事項(C)、(D)は、上記特許請求の範囲の訂正に伴って生じた、特許請求の範囲と詳細な説明中の記載の不整合部分を整合させる訂正であるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、また、これらの訂正は、実質的に内容に変更はなく、新規事項の追加には該当しないし、特許請求の範囲を拡張あるいは変更するものでもない。

3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.本件発明
前述II.のとおり、本件明細書の訂正請求は認められるから、本件請求項1ないし8に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明8」という。)は、訂正請求書に添付された全文訂正明細書の、特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 定量のインキあるいは塗料などの色彩原料を、弾性に富む塗布ロールに供給し、該塗布ロール上の色彩原料を板材に塗布するに際し、芯とこの芯の回りに配された二層の弾性体からなり、芯側の第一層の硬度を第2層の硬度より低くした塗布ロールを用い、この塗布ロール上の押圧面である前記第二層の弾性材の表面に、略円柱状のそれぞれ独立した穴の開口部である穿孔ドットを設け、この穿孔ドット数を64個/cm2乃至900個/cm2に設定して塗布することを特徴とする窯業系板材への印刷方法。
【請求項2】 定量のインキあるいは塗料などの色彩原料を板材に塗布するための塗布ロールと、塗布ロールに色彩原料を供給するための供給手段と、板材を塗布ロールとの間で挟み搬送するための受けロールからなる窯業系板材の印刷装置であって、前記塗布ロールが芯とこの芯の回りに配された二層の弾性体からなり、芯側の第一層の硬度を第2層の硬度より低く、この塗布ロールの押圧面である前記第二層の弾性材の表面に、略円柱状のそれぞれ独立した穴の開口部である穿孔ドットを設け、この穿孔ドット数を64個/cm2乃至900個/cm2としたことを特徴とする印刷装置。
【請求項3】 塗布ロールが、凹凸面よりなる柄模様を構成する版ロールであって、その構成が鉄芯と二層の弾性材からなり、第一層が硬度1度乃至硬度15度にて厚さが10mm乃至30mmの発泡ゴム材であり、第二層が硬度20度乃至40度にて厚さが5mm乃至15mmのゴム材である請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】 色彩原料を均一にするために、版ロールをに接触して第二のメッシュロールを配設したことを特徴とする請求項3に記載の印刷装置。
【請求項5】 定量の色彩原料を供給するメッシュロールの線数に対し、色彩原料を均一にするための第二のメッシュロールの線数が同数かあるいは10%少ない本数の範囲で構成される請求項4に記載の印刷装置。
【請求項6】 塗布ロールが鉄芯と二層の弾性材からなり、第一層が厚さ10mm乃至30mm、ゴム硬度が1度乃至15度の発泡ゴム材であり、第二層が厚さ5mm乃至15mm、ゴム硬度が20度乃至40度のゴム材である請求項2に記載の印刷装置。
【請求項7】 被塗布面の形態が凹凸状の成形面のみ、あるいは機械的加工面も含む板材のための塗布ロールの穿孔ドット数を64個/cm2乃至225個/cm2とした請求項3から請求項6のいずれか1の項に記載の印刷装置。
【請求項8】 被塗布面の形態が平滑な成形面あるいは機械的加工面を有する板材のための塗布ロールの穿孔ドット数を600個/cm2乃至900個/cm2とした請求項3から請求項6のいずれか1の項に記載の印刷装置。」

IV.特許異議の申立ての概要
特許異議申立人 杉崎筆雄は、証拠として、
甲第1号証(新・印刷一般、以下、「刊行物4」という。)、
甲第2号証(特開昭56-147664号公報、以下、「刊行物1」という。)、
甲第3号証(実願昭55-93409号(実開昭57-16348号)のマイクロフイルム、以下、「刊行物5」という。)を提示し、
理由1:本件発明1〜3、6〜8は、甲第1〜3号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、
理由2:請求項1の記載は明確ではなく、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしていない出願に対してされたものであるから、
本件特許は、取り消すべきである旨主張している。

V.本件発明1及び2について
1.刊行物に記載された事項
当審が通知した取消理由に引用された刊行物1(特開昭56-147664号公報)、刊行物2(Technical Report No.61 高機能コーティングの実際技術 第2章 2.3.1 樹脂コーティングの方法(52〜56頁)、第3章 2.塗工方式の基本形(83〜90頁) 株式会社シーエムシー 1984年9月25日発行)、刊行物3(特開昭57-144553号公報)には、以下の事項が記載されている。
(刊行物1)
(1a)「(1)硬度が13〜30°とされた、ロール半径50〜100mmのゴムロールの表面に塗料を供給し、これを凹凸模様を有する無機質製板材の表面に押圧して回転させることを特徴とする無機質板材の凹凸面の凸部塗装方法。」(特許請求の範囲)
(1b)「この発明は無機質板材の凹凸面の凸部塗装方法に関する。
従来、外装用化粧板として表面に凹凸模様の付された無機質性建材が広く用いられている。」(第1頁左下欄第11〜14行)
(1c)「ロールコータに軟質なものを用いロールの弾性変形を利用して建材表面の凹凸面の凸部表面のみに塗装を行うことも考えられるが、建材の厚さむら、あるいはそりに起因してロールの圧着力が増加した場合、塗料が過多に流失し、凸部表面より流れ落ち、かえって模様を見苦しくしてしまう欠点がある。この発明は上記に鑑み、成形精度があまり良好とされ得ない無機質製板材の凹凸表面の凸部表面のみに着色塗装を容易に行うことができる塗装方法を得ることを目的としてなされたものであって、硬度が13〜30°とされた、ロール半径50〜100mmのゴムロールの表面に塗料を供給し、これを凹凸模様を有する無機質製板材の表面に押圧して回転させることを特徴とするものである。」(第1頁右欄第18行〜第2頁右上欄第14行)
(1d)「この発明の無機質建材の凹凸面の凸部塗装方法は、適宜手段によって成形硬化された凹凸模様付無機質建材1の凸部表面に、硬度が13°〜30°とされたゴム層2を有する、ロール半径Dが50〜100mmとされたゴムロール3の表面に塗料を供給し、これを押圧して凸部表面のみに塗装を行うように構成されている。」(第2頁左上欄第18行〜右上欄第4行)

(刊行物2)
(2a)「樹脂コーティングには、その目的においてさまざまな方法がある・・・・・一般にはグラビアロールコーターが主体であり、他にロールコーター、リバースロールコーター・・・・・などがあり・・・・・グラビアロールコーターが多用される理由としては、(1)構造が単純である。(2)必要とする塗布重量が簡単に得られる。(3)材料速度の変化に対し塗布重量の変動が少なく安定している。などが挙げられる。またグラビアロールの代表的なセル構造は図2.2.5に示すように、(1)格子型 (2)プラミッド型 (3)斜線型などがあり、中でも格子型が最も多く使用されている。格子型のメッシュ及び深度と塗布重量の関係を表2.2.4に示す。」(第52頁下から第7行〜第55頁第6行)
(2b)「2.3 グラビアコーター グラビアコーターも広く用いられているコーターであり、操作が簡単で安定した塗工量が得られるコーターとして知られている。・・・・・塗工量は2〜40g/m2(Wet)程度でグラビアロールのセルによって決まる。」(第87頁末行〜第88頁下から第16行)
(2c)表2.2.4には、メッシュ200〜75、65(line/inch)において、Wet塗布量がそれぞれ4〜18、24(gr/m2)であること
(2d)図3.2.11には、セルの各形状、特に、格子型は略柱状(上下の辺の長さは多少異なる)であることを示す 図面

(刊行物3)
(3a)「(1)金属製ローラ外周全面に密な状態でメッシュ状凹部を有し、且つ該メッシュ状凹部の一部に樹脂組成物層を有し、プリントすべき図柄を構成していることを特徴とするローラ捺染用彫刻ローラ。・・・(3)前記メッシュ状凹部がタイラー標準で40乃至200メッシュである特許請求の範囲第1項記載のローラ捺染用彫刻ローラ。」(特許請求の範囲)
(3b)「ロール表面上のこのメッシュ状凹部はタイラー標準で20乃至400メッシュであることが・・・・・好適である。」(第2頁左下欄下から第4行〜右下欄第1行)

2.対比・判断
2-1.本件発明1について
本件発明1と刊行物1の特許請求の範囲に記載された発明(上記摘記事項(1a)参照、以下、「刊行物1発明」という。)とを対比すると、刊行物1発明の「塗料」、「ロール」、「ロールの表面」は、それぞれ、本件発明1の「塗料などの色彩原料」、「塗布ロール」、「塗布ロール上の押圧面である第二層の弾性材の表面」に相当するから、両者は、「塗料などの色彩原料を、塗布ロールに供給し、該塗布ロール上の色彩原料を板材に塗布する印刷(塗装)方法」の点で一致し、次のa〜cの点で相違する。
相違点a.塗布する対象である板材は、本件発明1が、「窯業系板材」としているのに対し、刊行物1発明が、「無機質板材」としている点。
相違点b.塗布ロールとして、本件発明1が、「弾性に富む」とし、また、「芯とこの芯の回りに配された二層の弾性体からなり、芯側の第一層の硬度を第2層の硬度より低くした」としているのに対し、刊行物1発明が、「硬度が13〜30°のゴムロール」としている点。
相違点c.塗布ロール表面は、本件発明1が、「略円柱状のそれぞれ独立した穴の開口部である穿孔ドットを設け、この穿孔ドット数を64個/cm2乃至900個/cm2」としているのに対し、刊行物1発明が、ロール表面の穿孔ドットについて言及していない点。

以下相違点について検討する。
(1).相違点aについて
本件の従来の技術の項には、「窯業系板材の種類は、けい酸カルシウム板、フレキシブルボード、繊維強化セメント板、発泡コンクリート板など・・・・・現場に移送されて建築物に装着される・・・・内装材にあっては表面が平滑な板材が、外装材には粗面なものがあり」と記載され、一方、刊行物1には、「従来、外装用化粧板として表面に凹凸模様の付された無機質性建材が広く用いられている。」(摘記事項(1b)参照)と記載され、本件の「外装材である無機質板材」と、刊行物1の「外装用化粧板である無機質性建材」とに実質的な差異はないから、刊行物1の「無機質板材」に代えて「窯業系板材」とすることに、当業者が格別の創意を要したものとすることはできない。

(2).相違点bについて
本件の実施例では、弾性に富む塗布ロールとして、硬度が1乃至40のゴムロールが用いられており、一方、刊行物1の、「硬度が13〜30°のゴム」は、弾性に富むものであると認められるから、この点で実質的な差異はない。
また、塗布用ロールとして、芯とこの芯の回りに配された二層の弾性体からなり、芯側の第一層の硬度が第二層の硬度より低いものを用いることは、従来より知られており(例えば、特開昭58-14969号公報等参照)、これを刊行物1発明に適用することに当業者が格別の創意を要したものとすることはできない。

(3).相違点cについて
塗布方法として、ロールコーターを使用するものと共に、グラビアコーター(20〜400メッシュの格子型等のセルを有するもの)を使用するものは周知(刊行物2及び3等参照)であるから、刊行物1に記載される塗布方法において、ロールコーターに代えてグラビアコーターを使用することに当業者が格別の創意を要したものとすることはできない。
また、グラビアコーターに使用するグラビア版(ロール)は、塗布量を変化するために、その深さを変化させること、すなわちインクのセルを柱状にすることは、最も一般的に行われていること(上記刊行物4等参照)であるし、セルの上から見た形状は、当業者が必要に応じて適宜決定しうるものであって、円形とすることも従来より知られていた(例えば、特開平2-139060号公報等参照)
更に、メッシュにより塗布量が変わることも従来より知られている(刊行物2及び3等参照)ことであって、均一に塗布される、塗布量ないしメッシュ等を決定することは、当業者ならば当然行う程度のことであるし、決定した、64個/cm2(約20メッシュに相当)〜900個/cm2(約76メッシュに相当)という値も、刊行物2及び3等にも記載される周知の範囲である。
そして、穿孔ドット(セル)の形状を円柱状とし、更にその数を限定したことによる効果も当業者が容易に予期し得る程度のものであって、格別顕著であるとすることはできない。

2-2.本件発明2について
本件発明2と刊行物1発明とを対比すると、本件発明2は、本件発明1の「印刷方法」とほぼ同様の構成を有する「印刷装置」に関する発明であるから、上記2-1.本件発明1について、の項で述べたのと同様に、両者は、上記a〜cの点で相違し、更に、次のd、eの点で相違する。
相違点d.本件発明2は、「塗布ロールと、塗布ロールに色彩原料を供給するための供給手段と、板材を塗布ロールとの間で挟み搬送するための受けローラからなる印刷装置」、としているのに対し、刊行物1発明が、「塗装方法」であって、「塗布ロールに色彩原料を供給するための供給手段」と、「板材を塗布ロールとの間で挟み搬送するための受けローラ」について具体的な記載がないない点。
(相違点dについて)
塗布ロールを有する印刷(塗装)装置において、塗布ロールに色彩原料を供給するための色彩原料の供給手段、及び、塗布する対象である板材を搬送する手段を設けることは、通常行われていることであるから、色彩原料の供給手段及び受けローラからなる印刷装置とすることに当業者が格別の創意を要したものとすることはできない。

2-3.まとめ
したがって、本件発明1及び2は、本件出願前に頒布された刊行物である、上記刊行物1〜3に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

VI.本件発明3及び6〜8について
1.刊行物に記載された事項
特許異議申立人が提示した証拠である、刊行物1には、上記、V.本件発明1及び2について、の項に記載した事項が記載されている。また、刊行物4及び5には、次の事項が記載されている。
(刊行物4)
(4a)「3.グラビア印刷
グラビアの印刷は,液状インキをつけ,腐食によって作った凹部以外の部分のインキをドクターでかき取り,被印刷体に転移する方式である(図6-38)。
グラビア印刷機は小型の枚葉紙印刷機から大型の巻取り紙多色両面刷りの輪転機にいたるまでいろいろの形式のものがある。現在行われているグラビア印刷の一般的な機構は図に示したとおりで,原理はインキ溜の中に入っているインキ着けローラから版シリンダに多量に版面にインキが塗布され,ドクターによってインキがかき落とされ,腐食を受けた凹部だけにインキは残る。この版面と圧シリンダの間に紙がはさまれ,円圧によってインキが転移する。」(第96頁第4〜13行)
(4b)「(2)コンタクトスクリン・・・・・コンタクトスクリンには,ボケ型スクリンとコンベンショナルグラビア用に使われるソリッドライン型スクリン(白線スクリン)の2つがある・・・・・(3)コンタクトスクリンの種類と特徴・・・・・特殊スクリンとして網目の形状が砂目・波型・同心円・単線・レンガ積状などがある。スクリン線数も1インチにつき65・80・100・175・200線などと各種揃っている。」(第71頁第5行〜第7行)
(4c)「8.木目(もくめ)印刷
天然の美しい木目模様を,建築用材・家具類・電気製品などに生かすために印刷加工するもので,紙面に木目模様を印刷して,壁紙やふすま紙に用いることからはじまり,ベニヤ板の表面を目止めして,さらに平滑に仕上げ,下地塗装してから,ベニヤ板に直接印刷する方法と,紙面または塩化ビニルに印刷してから,メラミンまたはポリエステル樹脂加工をして,はり合わせて(ラミネート),化粧板を作る方法がある。
前者はグラビアオフセット方式で,後者はグラビア方式で印刷を行う。この完全連続模様を印刷するために,版面は継ぎ目なしのものを作る。絵がらは木目の写真から写真製版し,主版および補助の色版を作り,着色紙に印刷すると,木目の調子をよく出すことができる。」(第118頁第5〜15行)

(刊行物5)
(5a)「本考案は段ボールシート等の表面に印刷するフレキソ印刷機において、印刷面の印刷カスレを防止する装置に関するものである。」(明細書第1頁第12〜14行)
(5b)「(実施例) 硬度JIS40°、・・・厚さ7mmのゴム印版の下に、ネオプレーン単泡スポンジ(厚さ2mm、硬度JIS15°、・・・)を置いて、圧縮強度を測定し」(第4頁下から第2行〜第5頁第2行)
(5c)「本考案は上述のようにゴム印版と版胴との間に、該ゴム印版の硬度より低い硬度を有する弾性部材を介在させるという極めて簡単な構成で、従来の単にゴム印版だけのものに比較して、印版の厚さに多少のムラがあったとしても、印版がシートに接触する圧力か比較的低接圧で、且つその変化もゆるやかであるので、シートの印刷面のカスレが皆無となると共にマージナルゾーンを解消し、極めて鮮明な印字面が得られる」(明細書第5頁下から第2行〜第6頁第8行)

2.対比・判断
2-1.本件発明3及び6について
本件発明3及び6は、どちらも、本件発明2の塗布ロールの二層の弾性材を「第一層が厚さ10mm乃至30mm、ゴム硬度が1度乃至15度の発泡ゴム材であり、第二層が厚さ5mm乃至15mm、ゴム硬度が20度乃至40度のゴム材」と、技術的に限定するものである。
それに対して、上記刊行物4には、グラビア印刷について、特にグラビア用スクリーンの線数等について、あるいは木目印刷をグラビア印刷で行うことについて、刊行物1には、ゴム層を有するロールによる、無機質建材への塗布について、また、刊行物5には、フレキソ印刷機の版胴とゴム印版との間に弾性部材を介在させることについて、それぞれ記載されている。
しかしながら、何れの刊行物にも、塗布ロール(グラビアロールを含む)として、芯とこの芯の回りに配された二層の弾性体からなるものであって、特に各層の弾性体として、その厚さ及びゴム硬度を、上記の、本件発明3及び6のような、技術的に限定したものに関しての記載はないし、示唆もされていない。
したがって、本件発明3及び6が、上記刊行物1、4及び5に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

2-2.本件発明7及び8について
本件発明7及び8は、本件発明3〜6の印刷装置(本件発明4及び5は本件発明3を引用して記載している。)を、更に「被塗布面の形態が凹凸状の成形面のみ、あるいは機械的加工面も含む板材のための塗布ロールの穿孔ドット数を64個/cm2乃至225個/cm2とした」(本件発明7)、「被塗布面の形態が平滑な成形面あるいは機械的加工面を有する板材のための塗布ロールの穿孔ドット数を600個/cm2乃至900個/cm2とした」(本件発明8)と、技術的に限定するものであるから、上述したように、本件発明3及び6が、上記刊行物1、4及び5に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明7及び8は、本件発明3及び6について、の判断と同様の理由により、刊行物1、4及び5に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

VII.むすび
以上のとおり、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第1項第2号に該当し、取り消すべきものである。
また、本件発明3及び6〜8の特許については、取り消す理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
窯業系板材への印刷方法並びに装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 定量のインキあるいは塗料などの色彩原料を、弾性に富む塗布ロールに供給し、該塗布ロール上の色彩原料を板材に塗布するに際し、芯とこの芯の回りに配された二層の弾性材からなり、芯側の第一層の硬度を第二層の硬度より低くした塗布ロールを用い、この塗布ロール上の押圧面である前記第二層の弾性材の表面に、略円柱状のそれぞれ独立した穴の開口部である穿孔ドットを設け、この穿孔ドット数を64個/cm2乃至900個/cm2に設定して塗布することを特徴とする窯業系板材への印刷方法。
【請求項2】 定量のインキあるいは塗料などの色彩原料を板材に塗布するための塗布ロールと、塗布ロールに色彩原料を供給するための供給手段と、板材を塗布ロールとの間で挟み搬送するための受けロールからなる窯業系板材の印刷装置であって、前記塗布ロールが芯とこの芯の回りに配された二層の弾性材からなり、芯側の第一層の硬度が第二層の硬度より低く、この塗布ロールの押圧面である前記第二層の弾性材の表面に、略円柱状のそれぞれ独立した穴の開口部である穿孔ドットを設け、この穿孔ドット数を64個/cm2乃至900個/cm2としたことを特徴とする印刷装置。
【請求項3】 塗布ロールが、凹凸面よりなる柄模様を構成する版ロールであって、その構成が鉄芯と二層の弾性材からなり、第一層が硬度1度乃至硬度15度にて厚さが10mm乃至30mmの発泡ゴム材であり、第二層が硬度20度乃至40度にて厚さが5mm乃至15mmのゴム材である請求項2に記載の印刷装置。
【請求項4】 色彩原料を均一にするために、版ロールに接触して第二のメッシュロールを配設したことを特徴とする請求項3に記載の印刷装置。
【請求項5】 定量の色彩原料を供給するメッシュロールの線数に対し、色彩原料を均一にするための第二のメッシュロールの線数が同数かあるいは10%少ない本数の範囲で構成される請求項4に記載の印刷装置。
【請求項6】 塗布ロールが鉄芯と二層の弾性材からなり、第一層が厚さ10mm乃至30mm、ゴム硬度が1度乃至15度の発泡ゴム材であり、第二層が厚さ5mm乃至15mm、ゴム硬度が20度乃至40度のゴム材である請求項2に記載の印刷装置。
【請求項7】 被塗布面の形態が凹凸状の成形面のみ、あるいは機械的加工面も含む板材のための塗布ロールの穿孔ドット数を64個/cm2乃至225個/cm2とした請求項3から請求項6のいずれか1の項に記載の印刷装置。
【請求項8】 被塗布面の形態が平滑な成形面あるいは機械的加工面を有する板材のための塗布ロールの穿孔ドット数を600個/cm2乃至900個/cm2とした請求項3から請求項6のいずれか1の項に記載の印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、窯業系板材の表面に柄模様などを印刷する印刷方法及びその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
窯業系板材の種類は、けい酸カルシウム板、フレキシブルボード、繊維強化セメント板、発泡コンクリート板など多種に亘るが、これらの板材は工場にて模様などの印刷や、塗装が施されたものが現場に移送されて建築物に装着される場合が多く内装材にあっては表面が平滑な板材が、外装材には粗面なものがあり、凹凸感をデザインの一部として取り入れられたものが使われている。又、このような板材は、デザイン効果と耐久性の観点からその表面が樹脂系塗料やインキで被覆され、単一的な色調をもつものにおいては、フローコータ、ロールコータ、スプレーなどの手段で塗装されたものが最も広く使用されている。一方、繊細な柄模様を付与するには印刷機とりわけグラビヤオフセット印刷機、フレキソ印刷機、スクリーン印刷機などが多用される。しかしながらこれらの印刷機は、板材の表面がある程度平滑であることが必須条件であり、表面が粗く、凹凸状の成形面を有する板材への印刷は塗料の板材への付着において均一性を欠き商品価値の高いものを得ることができない。
【0003】
この改善策として印刷機の塗布ロールの硬度を下げることやスポンジロールを用いたりなどして、ある程度の柄模様や単一色を施すことについては行われるが、単に硬度の変更だけでは、インキや塗料などの着色原料の塗布量が凸部分では極端に多くなり、凹部分では反対に少なくなる。従って塗料が均一に付着されずに柄模様などの鮮明さが損なわれる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
解決しようとする課題は、表面が粗く凹凸状の成形面や機械加工面を有する板材にも均一な膜厚にて柄模様を転写しうる印刷方法及び装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、定量のインキあるいは塗料などの色彩原料を、弾性に富む塗布ロールに供給し、該塗布ロール上の色彩原料を板材に塗布するに際し、芯とこの芯の回りに配された二層の弾性材からなり、芯側の第一層の硬度を第二層の硬度より低くした塗布ロールを用い、この塗布ロール上の押圧面である前記第二層の弾性材の表面に、略円柱状のそれぞれ独立した穴の開口部である穿孔ドットを設け、この穿孔ドット数を64個/cm2乃至900個/cm2に設定して塗布することで鮮明な印刷を行うようにする。
【0006】
上記方法を達成するための装置として、定量のインキあるいは塗料などの色彩原料を板材に塗布するための塗布ロールと、塗布ロールに色彩原料を供給するための供給手段と、板材を塗布ロールとの間で挟み搬送するための受けロールからなる印刷装置であって、前記塗布ロールが芯とこの芯の回りに配された二層の弾性材からなり、芯側の第一層の硬度が第二層の硬度より低く、この塗布ロールの押圧面である前記第二層の弾性材の表面に、略円柱状のそれぞれ独立した穴の開口部である穿孔ドットを設け、この穿孔ドット数を64個/cm2乃至900個/cm2としたことを特徴とするものである。
【0007】
又、塗布ロールは、凹凸面よりなる柄模様を構成する版ロールであって、その構成が鉄芯と二層の弾性材からなり、第一層が硬度1度乃至硬度15度にて厚さが10mm乃至30mmの発泡ゴム材であり、第二層が硬度20度乃至40度にて厚さが5mm乃至15mmのゴム材に設定する。
【0008】
更に、版ロール上の色彩原料を均一に維持するために、版ロールに接触して第二のメッシュロールを配設している。
【0009】
なお、定量の色彩原料を供給するメッシュロールの線数に対し、色彩原料を均一にするための第二のメッシュロールの線数が同数かあるいは10%少ない本数の範囲で構成するようにした。
【0010】
塗布ロールの構成は、鉄芯と二層の弾性材からなり、第一層が厚さ10mm乃至30mmの発泡ゴム材であり、第二層が厚さ5mm乃至15mmでゴム硬度が20度乃至40度の範囲のゴム材に設定することで被塗布面に均一な接圧を付与することができる。
【0011】
又、被塗布面の形態が凹凸状の成形面かあるいは機械的加工面が含まれる場合には塗布ロールの穿孔ドット数を64個/cm2乃至225個/cm2とすることで均等な塗布量を付与することができ、又、比較的平滑な被塗布面に対しては、600個/cm2乃至900個/cm2のドット数に設定することで繊細な柄模様を印刷することが可能である。
【0012】
【作用】
上記のように構成された印刷装置を用いれば窯業系板材の表面が凹凸状の成形面を形成していても、版ロールが二層の異なる硬度のゴム材で構成されているので、版の凹凸面に対する追随性がよくほぼ一定の圧力を与えることができると共に、適切なドット数を選択することにより凸部分と凹部分の色彩原料の転移量をほぼ等量にすることができるので1つの絵柄が同一濃度で転写できる。又、ドット数を密にすることで繊細な絵柄を印刷することができる。
【0013】
1つのドットを形成する穴の直径と深さについては特に言及していないが、通常ドットが同一密度の場合、穴の直径が大きくて深い方が塗布量は増大し、又、穴の直径を同一にして密度をあげると塗布量は増大する。しかしながら密度が定まれば、穴の大きさには自ずと限界が生じ、深さについてはあまり深くても塗料やインキが転移せず残留して洗浄できなくなる。従ってこの両者の関係は穴の直径と深さがほぼ同一の方が穴の容量が大きくて且つ転移させやすいことになる。又、ドット数が225個乃至600個の範囲は汎用の印刷機や塗装機として用いればより好適な印刷が可能である。
【0014】
【実施例1】
図1は、本発明の一実施例印刷装置における各ロールの配置を示す側面図である。1は塗布ロールとしての版ロール、2は色彩原料7を一定量供給する定量供給メッシュロール、3は色彩原料搬送ロール、4は色彩原料の全体的な量を調整する調整ロール、9は色彩原料を供給するパイプである。6は版ロール1の圧力を受けながら板材8を搬送する受けロールである。通常は上記ロール配置で印刷されるのであるが、窯業系板材の表面を印刷するとき、板材が巾455mm、長さ3030mmの標準的サイズを用いる場合は、版ロールが一回転以上回転することになり色彩原料の移転量に変化をきたすのである。もっとも版ロールの直径を1m以上にするとよいかに思われるが、直径1mを越える版ロールはきわめて高価なものとなり、印刷機への着脱は大掛かりな装置を必要とする。
【0015】
本発明においてはこれら問題点を解決するべく種々のテストを行った結果、版ロール1と並行に第二のメッシュロール5を接触回転させることで、一定濃度の印刷が行えることを見出した。しかもメッシュロール5の線数はメッシュロール2の線数と同数か10%程度少ない線数の範囲がきわめて有効であることを実験的につきとめたのである。
【0016】
版ロール1の内部構造を断面図として図2に示した。10は柄模様を凸面11に形成した弾性のあるゴムスリーブ層であり、12は発泡ゴム層であり、13は鉄芯である。ゴムスリーブ層10の平均的な厚さは5mm乃至15mmの範囲としショア硬度計による硬度20度乃至40度が適切である。又、発泡ゴム層12は厚さ10mm乃至30mmの範囲とし、アスカ式スポンジ硬度計にて1度乃至15度を適切な硬度とした。ゴムスリーブ層は円筒状であり、補助装置(図示せず)を利用して着脱自在にしているので柄の交換は容易に行うことができる。
【0017】
又、図2における凸面11は柄模様を形成しているが、その平面図を図3に示した。ドット14はレーザーなどで彫刻された略円柱状の穴であり開口部が凸面11に等間隔に配設され、ドット数は1cm2の面積に存在する数で密度を表すようにしている。本発明においては、ドット数を64個乃至900個の範囲で良好な結果を得ており、板材の表面が凹凸状の粗い成形面に印刷する場合は64個/cm2乃至225個/cm2の範囲が良好な結果を示し、研磨面のような平滑面を印刷する場合は625個/cm2乃至900個/cm2の範囲のものが精巧な印刷を行うことができる。
【0018】
メッシュロール2及び第二のメッシュロール5における線密度は交差する2方向の細い溝の密度を表すが、本発明においてメッシュロール2の線密度を60本/cm乃至120本/cmとしているが第二のメッシュロール5においては54本/cm乃至120本/cmが良好な結果を示し、メッシュロール5においては40本/cm乃至120本/cmの範囲が実用的な効果を示した。メッシュロール2と第二のメッシュロール5の線数に関しては一定の関連性があることが実験の結果判明した。すなわちメッシュロール2の線数に対して第二のメッシュロール5の線数は同数かあるいは10%少ない本数の範囲に定めると板材上に均一な所定の濃度で印刷することができるのである。これ以外の条件下では版ロールの一回転目と二回転目以降の柄の印刷濃度が変わり、場合によっては色彩原料が流れ出したりして絵柄の鮮明さが失われる。
【0019】
【実施例2】
図4は、窯業系板材15の一部断面を示している。巾455mm、長さ3030mm、厚さ16mmの板材にて、被印刷面側に凹凸状の粗い成形面16がある。溝17はルータにより巾8mm、深さ6mmに加工された機械加工溝である。本実施例では凹凸の成形面16に印刷する場合を説明する。板材15の表面全体をウレタンエナメル(黒色)でスプレー塗装し乾燥させ第一層21とした。次に特殊スポンジロールコータで溝17以外の面全体をウレタンエナメルでレンガ色に塗装し第二層22とした。上記特殊スポンジロールコータは図5に側面図として示すもので、塗布ロール18とドクターロール19と受けロール20で構成される。第一層21は塗料であり本実施例ではウレタンエナメルである。ドクターロール19及び受けロール20はスチール製でクロムメッキが施されたロールであるが、塗布ロール18は次のような構成となっている。すなわち、中心部は鉄芯18-1であり、第一層18-2は、発砲ゴム質でできており厚さは15mm、ゴム硬度は1度のものを使用した。更に第二層18-3はゴム硬度30度、厚さ8mmにてドット数700個/cm2の窪みを彫刻したゴムスリーブで被覆されている。ロールは動力によりそれぞれ矢印方向に回転させる。従来のスポンジロールを用いた場合は板材の表面の凸部では塗布量が極端に多くなり、凹部では極端に少なくなる傾向があり実際問題として発砲発泡率を一定に常時維持することは、不可能である。本実施例ではドットが彫刻によるので塗布量を一定に制御することが可能であり、二層構造としたので板材表面の凹凸面に対しドット内に含まれる塗料を移転させるので塗布量が均一に制御される。従って凹凸の成形面16に対し一定の塗膜厚が得られ濃度差の少ない塗色が得られる。
【0020】
上記ロールコータのドット数は625個/cm2乃至900個/cm2程度が良好な結果を示すが、これは好ましい範囲を提示するもので徐々にドット数を少なくすると塗布面が点となって識別できるようになり300以下では十分な塗膜が得られない。又、900個/cm2以上になってくると従来のスポンジロールと同様の性質を示すようになりドットによる塗布量の制御は難しくなる。
【0021】
次に本発明になる印刷装置を用いて柄模様の印刷を行うところを説明する。印刷条件としては、2の供給メッシュロールに線数60本/cmのメッシュロールを選び、第二のメッシュロール5には線数60乃至54本/cmのメッシュとした。版ロール1の構成は発泡ゴムとして厚さ15mm、硬度1度に設定し、ゴム材でなるゴムスリーブ層は厚さ8mm、硬度30度としドット数を200個/cm2乃至225個/cm2に設定した。本実施例ではドット数を300/cm2以上にすると柄模様としての濃淡が再現できず板材表面の凸部が凹部に比較し濃く印刷され商品価値が低下する。印刷用の色彩原料としては、アクリル樹脂20%、顔料15%、ブチルセロソルブ65%のインキを使用し、ブチルセロソルブの添加量を調整して12〜13秒/NK#2の粘度として用いて印刷層の第三層23を形成した。
【0022】
【実施例3】
次に平滑な面を有する窯業系板材に印刷する例を説明する。6mm厚のけい酸カルシウム板にシーラ処理をほどこし、UV目止め処理後サンダーで研磨し平滑な面を形成し更にエナメル塗装された平滑な化粧板上に大理石模様を印刷する場合図1に示すメッシュロール2のメッシュの線数を120本/cmに設定しインクの供給量を前出の実施例に比較して少量にとどめ更に第二のメッシュロール5の線数が同数の120本/cmのロールを使用した。又、版ロール1の構成は発泡ゴム層12をゴム硬度15度、厚さ15mmとし、ゴム材からなるゴムスリーブ層10を硬度30度、厚さ8mm、ドット数900個/cm2にて柄模様を形成した。搬送ロール3と調整ロール4の間にアクリル樹脂20%、顔料15%、ブチルセロソルブ65%からなるインキを粘度13秒/NK#2に調整してパイプ9により投入した。先ず供給メッシュロール2で定量のインキが版ロール1に供給され柄模様が上述のけい酸カルシウム化粧板上に転移される。この後印刷を終了した部分は第二のメッシュロール5と接触することになるが、このメッシュロール5は版ロール上の余剰のインキを除去して版ロール1上のインキの残量を一定にする役割を果たす。このロールの作用により版ロール1が一回転目と二回転目以降の印刷濃度に差が生じず板材全体に均一な印刷を行うことができる。第二のメッシュロール5の線数がどの範囲まで有効なのかテストした結果、供給メッシュロール2の線数に対し同数か若しくは10%程少ない本数までは有効に作用することがつきとめられた。
【0023】
【実施例4】
本発明になる印刷装置の効果を立証するために、同一板材と同一インキを用いて印刷の比較を行った。先ずテストを簡単にするために版ロール1の作成にあたり第一層が発泡ゴムで硬度1度にて厚さ10mmと30mm、及び第一層が硬度15度にて厚さ10mmと30mmにてそれぞれ鉄芯の直径を調整して外径250mmのロールを作成する。ついで円筒状のゴムスリーブを内径250mmにして、ゴム硬度20度にて厚さ5mmと15mm、ゴム硬度40にて厚さ5mmと15mmを用意し、それぞれにドット数64個/cm2の部分と225個/cm2の部分に分割し窪みをレーザー彫刻機を用いて彫刻し、ゴムスリーブを発泡ゴムロールに着脱して本発明が規定するゴム硬度と厚さの関係を網羅しテストを行った。この場合版ロール1の外径は二種類となるが図1の受けロール6を上下させて接圧を調整した。インキは、アクリル樹脂20%、顔料15%、ブチルセロソルブ65%からなるものを使用しブチルセロソルブを約50%添加して12乃至13秒/NK#2に調整して用いた。
【0024】
次いで窯業系板材の表面がゆず肌状で凹凸状をなし、高い部分のピッチが5mm高低差2mm程度の板を用意して凹凸状面を全面ウレタンエナメルでスプレー塗装してテスト板とした。
【0025】
先ず第6図に本発明になる印刷装置と上述した条件の版ロールの各種類を用いて印刷した板材30の断面を拡大して示した。ゴム硬度や厚さ及びドット数により若干の差異は生ずるが概ね凸部に一定の膜厚を形成している。31は上述のインキである。
【0026】
図7に、通常のグラビアオフセット印刷機を用いて印刷を行ったものを示す。この場合の印刷ロールはゴム硬度40度であるが表面が平滑であるから凸部頂点付近のインキ31-1は印刷が崩れる状態となり膜厚を持たせることができない。
【0027】
図8はスクリーン印刷機を用いた例であるが、スクリーン32を通して通過するインキは、凸部ではインキ31-2が板材へ移行するが、凹部ではインキがスクリーンに留まることになりスクリーンを汚すので繰り返して印刷することができない。33はナイフである。
【0028】
【発明の効果】
以上説明したように窯業系の板材で特にサイディングとよばれる外装材はその表面が成形面として構成されるので意匠性も高く従って凹凸状の起伏のある表面を持っている場合が多い。これらの表面を単一色で塗装することは塗装手段もフローコータ、スプレーなど種々用意されているが、近年更に高い意匠性を要求されるようになった。本発明の印刷装置はこの要求に充分こたえることができると共に版ロールの構成は新規なロールコータとして均一な塗膜厚を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の一実施例印刷装置における各ロールの配置を示す側断面図。
【図2】
版ロールの内部構造を示す断面図。
【図3】
凸面を拡大して示す平面図。
【図4】
本発明の印刷方法により製造された窯業系板材の一例を示す断面図。
【図5】
特殊スポンジロールコータを示す側面図。
【図6】
本発明の印刷方法に得られた板材を示す拡大断面図。
【図7】
グラビアオフセット印刷機を用いて印刷を行った場合の板材を示す拡大断面図。
【図8】
スクリーン印刷機を用いて板材の印刷を行っている状態を示す拡大断面図。
【符号の説明】
1 版ロール
2 定量供給ロール
3 色彩原料搬送ロール
4 調整ロール
5 第二のメッシュロール
6 受けロール
7 色彩原料
8 窯業系板材
10 ゴムスリーブ層
11 凸面
12 発泡ゴム層
13 鉄芯
14 ドット
15 窯業系板材
16 成形面
17 溝
18 塗布ロール
20 受けロール
21 第一層
22 第二層
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-04-15 
出願番号 特願平7-178564
審決分類 P 1 652・ 121- ZD (B41M)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 畑井 順一  
特許庁審判長 佐田 洋一郎
特許庁審判官 番場 得造
六車 江一
登録日 2000-08-04 
登録番号 特許第3094119号(P3094119)
権利者 壽工業株式会社
発明の名称 窯業系板材への印刷方法並びに装置  
代理人 蔦田 璋子  
代理人 蔦田 正人  
代理人 蔦田 正人  
代理人 蔦田 璋子  

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