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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08F
管理番号 1084873
異議申立番号 異議2003-71360  
総通号数 47 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-03-01 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-23 
確定日 2003-10-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第3349768号「アクリル酸塩系ポリマーの製造方法および組成物」の請求項1,6〜13に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3349768号の請求項1,6〜13に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続きの経緯
本件特許第3349768号は、平成5年6月8日(優先権主張、平成4年6月10日、日本)に出願された特願平5-137580号の出願に係り、平成14年9月13日に設定登録がなされたものである。

[2]特許異議申立人の主張の概要
特許異議申立人菊地信は、本件の出願前頒布された下記甲第1号証〜甲第8号証を提示し、本件請求項1,6〜13に係る発明は、甲第1号証〜甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同請求項に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきである旨、主張している。

甲第1号証:大森英三著「アクリル酸とそのポリマー[I]」株式会社昭 晃堂、昭和51年6月30日、2版発行、34〜37頁
甲第2号証:「化学大辞典7」共立出版株式会社、昭和39年1月15日 発行、441頁
甲第3号証:「Plant/Operations Progress」7巻3号(1988)183〜189頁
甲第4号証:米国特許第2026894号明細書
甲第5号証:米国特許第5223569号明細書
甲第6号証:特開昭55-94334号公報
甲第7号証:特開平3-31306号公報
甲第8号証:特開平2-209906号公報

[3]本件発明
本件請求項1〜13に係る発明は、設定登録時の明細書の請求項1〜13に記載された事項により構成される次のとおりのもの(以下、順次「本件第1発明」、「本件第2発明」・・・「本件第13発明」という。)である。
「【請求項1】 中和率30〜100モル%のアクリル酸塩を50〜100モル%含む水溶性不飽和単量体を調製した後、重合し、さらに必要により乾燥してアクリル酸塩系ポリマーを製造するにあたり、該ポリマーが水溶性樹脂および/または吸水性樹脂から選ばれ、β-ヒドロキシプロピオン酸およびその塩の合計を1,000ppm以下(対単量体)含有する水溶性不飽和単量体を該ポリマーの重合に用いることを特徴とするアクリル酸塩系ポリマーの製造方法。
【請求項2】 該ポリマーが、架橋構造を有する吸水性樹脂である請求項1に記載のポリマーの製造方法。
【請求項3】 中和率30〜100モル%のアクリル酸塩を50〜100モル%含む水溶性不飽和単量体を調製した後、重合し、必要により乾燥して、さらに必須に得られたアクリル酸塩系ポリマーの表面近傍を架橋して表面近傍が架橋されたアクリル酸塩系ポリマーを製造するにあたり、該ポリマーが架橋構造を有する吸水性樹脂であり、β-ヒドロキシプロピオン酸およびその塩の合計を1,000ppm以下(対単量体)含有する水溶性不飽和単量体を該ポリマーの重合に用いることを特徴とする表面近傍が架橋されたアクリル酸塩系ポリマーの製造方法。
【請求項4】 表面近傍の架橋が、多価アルコール類、多価エポキシ化合物、多価アミン化合物、多価アジリジン化合物、アルキレンカーボネート化合物、多価アルデヒド、多価イソシアネート化合物、多価オキサゾリン化合物、ハロエポキシ化合物、多価金属塩よりなる群から選ばれた少なくとも1種の表面架橋剤を使用してなることを特徴とする請求項3に記載のアクリル酸塩系ポリマーの製造方法。
【請求項5】 中和率30〜100モル%のアクリル酸塩を50〜100モル%含む水溶性不飽和単量体を調製した後、重合し、必要により乾燥して、さらに必須に得られたアクリル酸塩系ポリマーの表面近傍を架橋して表面近傍が架橋されたアクリル酸塩系ポリマーを製造するにあたり、該得られたポリマーが架橋構造を有する吸水性樹脂であり、β-ヒドロキシプロピオン酸およびその塩の合計含有量を1000ppm以下(対単量体)含有する水溶性不飽和単量体を該ポリマーの重合に用い、重合後に乾燥して平均粒子径100〜1000μmの架橋構造を有する吸水性樹脂粉末を得て、更に得られた該吸水性樹脂粉末の表面近傍に表面架橋剤としての多価アルコールを添加して100〜300℃で加熱処理することを特徴とする、アクリル酸塩系ポリマーの製造方法。
【請求項6】 該水溶性不飽和単量体が溶液として重合され、重合後のアクリル酸塩ポリマーが更に130℃以上で乾燥させたものである、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】 乾燥後のアクリル酸塩系ポリマーがさらに120〜250℃で加熱処理されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のアクリル酸塩系ポリマーの製造方法。
【請求項8】 β-ヒドロキシプロピオン酸およびその塩の合計含有量が100ppm(対単量体)以下である請求項1〜7のいずれかに記載のアクリル酸塩系ポリマーの製造方法。
【請求項9】 前記アクリル酸塩がアクリル酸ナトリウム塩またはアクリル酸カリウム塩である請求項1〜8のいずれかに記載のアクリル酸塩系ポリマーの製造方法。
【請求項10】 水溶性不飽和単量体を調製後24時間以内に重合することを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】 アクリル酸を蒸留精製後24時間以内に中和や水溶性不飽和単量体の調製に使用することを特徴とする、請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】 アクリル酸の中和工程では、少なくとも一時期は、中和率が100モル%を越える状態を通過させるものである、請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】 該ポリマーの平均粒子径が、300〜600μmである請求項1〜12のいずれか1項に記載の製造方法。」
(なお、本件第2〜第5発明は、特許異議申立ての対象とされていないが、本件第6発明以下で引用されているため、一括して掲載した。)

[4]特許異議申立てについて
[4-1]各刊行物の記載事項
甲第1号証には、アクリル酸の「化学反応性」について記載され、その
「(2) 二重結合の反応性」の「(iii)水との反応」では、


と記載されている。
甲第2号証には、ヒドロアクリル酸がβ-オキシプロピオン酸ともいわれ、エチレンシアンヒドリンを加水分解することにより製造されることが記載されている。
甲第3号証には、「アクリル酸の保存中におけるジアクリル酸の生成」と題して、アクリル酸の保存中におけるジアクリル酸の生成に、保存時間、保存温度、含水量が与える影響について記載される中に、「アクリル酸を重合に必要なpHレベルまでアルカリにより中和をするとDAA(注:ジアクリル酸)のエステル基をケン化することになろう。これは、重合のためのビニル基を持たず不純物として残存するであろう種類のものを製造する(図3で3-ヒドロキシプロピオン酸を生成することが示されている。)ことになろう。それ故、その適用によってはDAAの最小限量を有するAA(注:アクリル酸)を使用することが必要である。」(1頁右欄14行〜2頁左欄本文1行)と記載されている。
甲第4号証には、アクリル酸の製造法についての発明が記載され、当該発明に対する従来技術として、「エチレンシアンヒドリンを水酸化ナトリウムの水溶液で加水分解し、溶液を蒸発させて得られたナトリウムハイドロアクリレートを分離し、そのナトリウムハイドロアクリレートを加熱して脱水し、更に硫酸を用いて蒸留させてアクリル酸にすることがかつて提案されてきた。」と記載されている。
甲第5号証には、自己接着性導電性ゲルについての発明が記載され、重合して当該ゲルの一部となるモノマーについて、「モノマーとして好ましく使用されるものとしては、アクリル酸、メタクリル酸あるいはアリルアクリレートの如きそれらのエステルがある。例えばβ-ヒドロキシプロピオン酸の如きそのような重合可能モノマーの前駆体、これは加熱によりアクリル酸に転換し重合するが、これを重合溶液に導入することも可能である。」(2欄32〜37行)と記載されている。
甲第6号証には、アクリル酸ソーダ塩の精製方法についての発明が記載され、該塩を重合に先立ちキレートイオン交換樹脂で処理することにより極めて溶解性のすぐれた高分子量の重合体が得られることが記載されている。
甲第7号証には、「α,β-不飽和カルボン酸またはその塩を主体とする単量体混合物を、重金属を存在させることなくまたは0.1ppm以下の存在下に重合することを特徴とする吸水性樹脂の製造方法。」(特許請求の範囲)の発明が記載され、「共存する重金属がなぜ未重合単量体の残存に寄与するのか全く不明であるが、重合系内に存在する重金属を一定以下に抑えることによって、樹脂中の未重合単量体が低減するという作用が示されるのであり、この作用は本発明者等がはじめて見出したものである。」(3頁右上欄9〜14行)と記載されている。
甲第8号証には、「(A)中和反応系内におけるアクリル酸の中和率を常に75〜100モル%の範囲内に保ちながらアクリル酸および塩基物質を水に供給して中和反応する工程、
(B)該中和反応系に塩基性物質を供給して該中和反応系内のアクリル酸の中和率を100.1〜110モル%に調整する工程、
(C)該中和反応系内における中和率を100.1〜110モル%の状態に1〜120分間保持して熟成する工程、および
(D)該中和反応系にアクリル酸を供給して該中和反応系内のアクリル酸の中和率を20〜100モル%に調整する工程、
より順次なるアクリル酸と塩基性物質との中和反応によるアクリル酸塩の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)の発明が記載され、「本発明は・・・詳しく述べると、残存モノマー含量が低減されたアクリル酸塩含有重合体の製造に好適に使用できるアクリル酸塩およびこれを用いてアクリル酸塩含有重合体を製造する方法に関するものである。」(2頁右下欄11〜16行)と記載されている。
[4-2]対比・検討
甲第1号証には、アクリル酸の二重結合の反応性について、「水との反応」の項で、アクリル酸が水酸化ナトリウムの作用により水と反応してハイドロアクリル酸(本件第1発明でいう、β-オキシプロピオン酸に該当するものと認められる。)になり、このハイドロアクリル酸は50%硫酸若しくは加熱によりアクリル酸と水に戻ることが、甲第2号証には、ヒドロアクリル酸がβ-オキシプロピオン酸ともいわれ、エチレンシアンヒドリンを加水分解することにより製造されることが、それぞれ記載されているにすぎず、このハイドロアクリル酸(若しくはヒドロアクリル酸)をアクリル酸の重合に際し一定量以下に低減しておくことを示唆する記載はこれら刊行物には見出せない。
甲第3号証には、アルカリによるジアクリル酸中のエステル基の加水分解によりビニル基のない、したがって不純物として残るであろうものを製造する(化学反応を示す図3で3-ヒドロキシプロピオン酸を生成することが記載されている。)ことになろう、との記載はなされているが、甲第5号証には、β-ヒドロキシプロピオン酸は加熱によりアクリル酸となり重合されると記載されているとおり、β-ヒドロキシプロピオン酸がアクリル酸の重合において全くの不純物として留まるものと認識されるものではなく(上記したとおり、甲第1号証にも、ハイドロアクリル酸は加熱によりアクリル酸と水になることが記載されている。)、これら両刊行物には、アクリル酸の重合において、β-オキシプロピオン酸の量に着目し、これを一定値以下にすべきとの示唆はなされていないといわざるを得ない。
甲第4号証には、アクリル酸の従来法による製造法として、これがエチレンシアンヒドリンのアルカリによる加水分解によるナトリウムハイドロアクリレートを経由して製造されることが、甲第6号証には、アクリル酸ナトリウムのキレートイオン交換樹脂による精製法が、そして甲第7号証には、アクリル酸の重合中に存在する重金属が未反応モノマーを形成させるとの認識のもとこれを一定量以下にすることが、それぞれ記載されているに過ぎず、アクリル酸(塩)の重合におけるβ-オキシプロピオン酸の量に関する記載は何らなされていない。
甲第8号証には、アクリル酸塩の製造法として、一旦中和率を100.1〜110モル%にした後、アクリル酸の添加により所望の中和率である20〜100モル%にすることによりその重合後の未反応モノマー含有量の低減化を図ることは記載されているが、原料たるアクリル酸について格別の処理をしたことは記載されておらず、そこで得られているアクリル酸塩がβ-オキシプロピオン酸の含有量について本件第1発明で規定する要件を実質上満たしていると認めることはできない。
以上、甲第1号証〜甲第8号証には、重合に供されるアクリル酸塩モノマーを含むモノマーあるいはモノマー混合物中におけるβ-ヒドロキシプロピオン酸の量に着目し、これを一定値以下に低減化すべきことを示唆する記載を見出すことはできず、まして、これを一定値以下とすることにより生成ポリマー中における未反応モノマーの低減化が図られることは全く記載されていないのであって、そうである以上、これら刊行物記載の発明に基づいて本件第1発明が当業者の容易に発明することができたものとすることはできない。
本件第6〜第13発明は、直接的または間接的に本件第1発明を引用し、これに新たな要件を付加するものに、或いは記載上引用はしないものの、実質上、本件第1発明の構成に新たな要件を付加するものに相当するから、本件第1発明と同様、甲第1号証〜甲第8号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

[5]むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立人の提示した証拠によっては、本件請求項1,6〜13に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1,6〜13に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-09-22 
出願番号 特願平5-137580
審決分類 P 1 652・ 121- Y (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 關 政立佐々木 秀次  
特許庁審判長 柿 崎 良 男
特許庁審判官 石井 あき子
佐 藤 健 史
登録日 2002-09-13 
登録番号 特許第3349768号(P3349768)
権利者 株式会社日本触媒
発明の名称 アクリル酸塩系ポリマーの製造方法および組成物  
代理人 宇谷 勝幸  
代理人 野上 敦  
代理人 藤井 敏史  
代理人 八田 幹雄  
代理人 齋藤 悦子  
代理人 奈良 泰男  

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