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審決分類 審判 一部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C23F
審判 一部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C23F
審判 一部申し立て 2項進歩性  C23F
管理番号 1084880
異議申立番号 異議2001-71806  
総通号数 47 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1994-02-08 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-06-25 
確定日 2003-09-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第3119943号「循環不凍液/冷却剤の再腐食防止方法および再腐食防止剤」の請求項1〜45に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3119943号の請求項1〜4、9〜14、45に係る発明の特許を取り消す。 同請求項5〜8、15〜44に係る発明の特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯
本件特許第3119943号(平成4年7月1日出願、平成12年10月13日設定登録。)は、その請求項1〜45に係る発明(以下、「本件発明1〜45」という。)の特許に対して、異議申立人岩田壮史により特許異議の申立てがなされ、取消理由が通知されたものである。

[2]本件発明
本件特許の請求項1〜45に係る発明は、その明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1〜45に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
下記の(イ)および(ロ)の特徴を有するものである、内燃機関から得られた、少なくとも1種の腐食防止剤を含み、循環操作を経た循環不凍液/冷却剤の再腐食防止方法。
(イ)予め選択された有効腐食防止量において、再腐食防止剤パッケ一ジの化学組成を、前記の循環不凍液/冷却剤の化学組成に、および前記再腐食防止済みの循環不凍液/冷却剤の化学組成に、に関係づける(correlating)ことからなり、
(ロ)その場合の関係づけを、少なくとも一種の腐食防止剤(この腐食防止剤は、前記循環不凍液/冷却剤中の腐食防止剤を含む)を前記内燃機関の冷却機構中の少なくとも一種の金属の腐食防止に有効な量で加えることによって行ない、これによって、前記の予め選択された腐食防止性を有する、再腐食防止済みの、不凍液/冷却剤を形成させる。
ここにおいて、加えられた腐食防止剤(これは、前記循環不凍液/冷却剤中の前記再腐食防止剤に相当するものである)は、前記再腐食防止剤パッケ一ジ中で、有効腐食防止量未満の、前記循環不凍液/冷却剤中の前記腐食防止剤の残留濃度に応じて、その濃度が高まるようにし、そして
ここにおいて、前記関係づけにおいては、ホウ酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、シリコーン、アゾールおよびモリブデン酸塩からなるグループから選択された少なくとも一種の成分の濃度の関係づけを行なう。
【請求項2】
再腐食防止済みの、循環不凍液/冷却剤のpHが、8.5〜11.5であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
再腐食防止済みの、循環不凍液/冷却剤のpHが、9.0〜10.5であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
再腐食防止済みの、循環不凍液/冷却剤が、予め選択された保存アルカリ度を有することを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
循環操作が、5重量%〜95重量%の多価アルコールを含有する水性組成物の処理を含んでなり、この水性組成物は内燃機関の冷却機構から採取した不凍液/冷却剤であって、pH値を有し、かつ、少なくとも一種の重金属を含むものである、下記の特徴を有する請求項1に記載の方法。
(i)この冷却機構から不凍液/冷却剤を取出し、次いで有効量のpH調節剤を加えることにより、水性組成物のpHを4.0〜7.5に調節してpH調節済み組成物を形成させ、そこに有効量の当該重金属のための有効量の沈殿剤を加えて沈殿を形成させる工程。
【請求項6】
循環操作が、下記の追加の工程を含んでなることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
(ii)pH調節済み組成物に、有効量の凝固剤および有効量の凝集剤を加えて、少なくとも一種の重金属を含む沈殿物を形成させる工程、および
(iii)pH調節済み組成物を第一の渡過手段を通過させて、重金属含有沈殿物を前記pH調節済み組成物から除去する工程。
【請求項7】
循環操作が、下記の追加の工程を含んでなることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
(iv)前記工程(iii)のpH調節済み組成物を40ミクロンより大きな物質を物理的に分離するのに有効な第二の渡過手段を経由させる工程、(v)前記工程(iv)から得たpH調節済み組成物を前記pH調節組成物から多価アルコ一ル以外の有機化合物を除去するのに有効な有機分離手段を経過させる工程、
(vi)前記pH調節済み組成物を0.2ミクロンより大きな物質を物理的に分離すのに有効な第三の渡過手段を経由させる工程、および、
(vii)前記工程(vi)のpH調節済み組成物を前記pH調節済み組成物中に存在する少なくとも一つの可溶化された重金属を除去するのに有効なイオン交換体を経由させる工程。
【請求項8】
循環操作が、下記の追加の工程を含んでなることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
(viii)前記工程(i)の最終pH調節済み組成物から沈殿物の部分をすくい取る工程。
【請求項9】
水性組成物が、自動車の内燃機関の冷却機構から採取した、重金属を含む、多価アルコール含有不凍液/冷却剤であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
多価アルコールが、エチレングリコールであることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
エチレングリコールが、30〜70体積%の量で存在することを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
冷却機構が、自動車の冷却機構であり、重金属が、鉛、モリブデン、鉄、亜鉛および銅からなるグルーブから選択された少なくとも一種の重金属であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
多価アルコールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセロール、ブテングリコール、プロピレングリコールのモノ酢酸エステル、グリセロールのモノエチルエーテル、グリセロールのジメチルエーテル、アルコキシアルカノールおよびそれらの混合物からなるグループから選択されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
多価アルコールが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールおよびそれらの混合物からなるグループから選択されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(i)におけるpHを、4.5〜7.0に調節することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項16】
pH調節剤が、有機酸、無機酸、酸性有機塩、酸性無機塩およびそれらの混合物からなるグル一プから選択されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項17】
pH調節剤が、硝酸、リン酸、硫酸、塩酸、カルボン酸およびそれらの混合物からなるグループから選択されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
pH調節剤が、硝酸であることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
沈殿剤が、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、硝酸アルミニウムおよびそれらの混合物からなるグループから選択されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項20】
凝集剤が、陽イオン系凝集剤からなるグループから選択されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項21】
凝固剤が、陽イオン系凝固剤からなるグループから選択されることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項22】
凝固剤が75ppm〜300ppmであり、凝集剤が25ppm〜300ppmであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項23】
水性組成物が、内燃機関の冷却機構から得られ、5体積%〜95体積%のエチレングリコールを含み、150ppmまでの鉛を含み、pH調節剤が硝酸であり、沈殿剤がAI(NO3)3.9H2Oであり、凝固剤が75ppm〜300ppmで存在し、凝集剤が25ppm〜300ppmで存在することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項24】
第一の渡過手段が、100ミクロンより大きい物質を分離するのに有効なものであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項25】
(a)第一の濾過手段が100ミクロンより大きい物質を分離するのに有効なものであり、
(b)40ミクロンより大きい物質を分離するのに有効な第二の濾過手段を設け、
(c)活性炭フィル夕一を含んでなる有機分離手段を設け、
(d)5ミクロンより大きい物質を分離するのに有効な第三の濾過手段を設け、
(e)少なくとも一種の重金属を除去するのに有効な陽イオン交換手段を含んでなるイオン交換体を設けることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項26】
循環操作が、18〜45℃の有効温度で実施されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項27】
循環操作が、内燃機関の冷却機構から得た、5重量%〜95重量%の、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールおよびそれらの混合物からなるグループから選択された多価アルコールを含み、鉛、モリブデン、鉄、亜鉛および銅からなるグループから選択された少なくとも一つの可溶化された重金属を含む水性の不凍液/冷却剤組成物の処理を含んでなり、この操作が、下記の工程を含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
(i)有効量のpH調節剤を加えることにより、前記不凍液/冷却剤組成物のpHを4.0〜7.5に調節して、pH調節済み組成物を形成させ、また有効量の前記重金属の沈殿物を形成するのに有効な量の沈殿剤を加える工程、
(ii)前記pH調節済み組成物に、有効量の少なくとも一つの凝固剤および凝集剤を加えて、重金属含有沈殿物を形成させる工程、
(iii)前記工程(ii)のpH調節済み組成物および前記重金属含有沈殿物を第一の濾過手段を通過させて、100ミクロンより大きい前記重金属含有沈殿物を除去する工程、
(iv)前記工程(iii)のpH調節済み組成物を40ミクロンより大きな物質を物理的に分離するのに有効な第二の濾過手段を経由させる工程、(v)前記工程(iv)からのpH調節済み組成物を前記pH調節済み組成物の前記多価アルコ-ルから有機化合物を除去するのに有効な有機分離手段を経由させる工程、
(vi)前記pH調節済み組成物を5ミクロンより大きな物質を物理的に分離するのに有効な第三の渡過手段を経由させる工程、および
(vii)前記工程(vi)のpH調節済み組成物を前記工程(vi)からのpH調節済み組成物中に存在する少なくとも一種の可溶化された重金属を除去するのに有効な陽イオン交換手段を経過させる工程、
【請求項28】
循環操作が、下記の追加の工程を含むことを特徴とする、請求項27に記載の方法。
(viii)前記工程(vii)のpH調節済み組成物を水除去手段を経過させて前記pH調節組成物から10重量%〜100重量%の前記水を除去する工程。
【請求項29】
重金属が鉛であることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
多価アルコ一ルが、エチレングリコールおよびジエチレングリコールの混合物からなることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
エチレングリコールが、30〜70体積%の量で存在することを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
冷却機構が自動車の冷却機構であり、重金属が鉛のグル-プから選択される少なくとも1種の重金属であることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項33】
多価アルコールが、プロピレングリコールであることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項34】
工程(i)におけるpHが、4.5〜7.5であることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項35】
pH調節剤が、有機酸、無機酸、酸性有機塩、酸性無機塩およびそれらの混合物からなるグループから選択される少なくとも一種のpH調節剤であることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項36】
pH調節剤が、硝酸、リン酸、硫酸、塩酸、カルボン酸およびそれらの混合物からなるグル一プから選択されることを特徴とする、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
pH調節剤が、硝酸であることを特徴とする、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
沈殿剤が、塩化物、硫酸塩、リン酸塩、硝酸アルミニウムおよびそれらの混合物からなるグループから選択されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項39】
凝集剤が、陽イオン系凝集剤からなるグループから選択されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項40】
凝固剤が、陽イオン系凝固剤からなるグループから選択されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項41】
凝集剤が陰イオン系凝集剤であり、凝固剤が陰イオン系凝固剤であることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項42】
凝固剤が75ppm〜300ppmであり、凝集剤が25ppm〜100ppmであることを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項43】
不凍液/冷却剤の組成物が、5体積%〜95体積%のエチレングリコールを含み、250ppmまでの鉛を含み、PH調節剤が硝酸であり、沈殿剤がAI(NO3)3.9H2Oであり、凝固剤が75ppm〜300ppmの有効量で存在し、凝集剤が25ppm〜300ppmの有効量で存在することを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項44】
沈殿物が、水性の不凍液/冷却剤組成物からの鉛を含むことを特徴とする、請求項27に記載の方法。
【請求項45】
ケイ酸塩が、再腐食防止済み循環不凍液/冷却剤中で塩基安定化させたオルガノポリシロキサン類であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。」

[3]特許異議申立ての理由の概要
異議申立人岩田壮史は、本件発明1〜45は、甲第1〜13号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であって、本件発明1〜45の特許は取り消されるべきものである旨主張している。

[4]取消理由の概要
本件発明1〜4、9〜14、及び45は刊行物1(甲第1号証)、刊行物2(甲第2号証)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であって、本件発明1〜4、9〜14、及び45の特許は取り消されるべきものであり、また、本件発明45の特許は、同法第36条第4項又は第5項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

[4]甲第1〜12号証に記載された事項
(1)甲第1号証
甲第1号証の米国特許第4946595号明細書には、
「本願発明の別目的は、最終的に約9.5から10.5のpHを示す改善され、リサイクルされたクーラント組成物の提供である。」(2欄38〜41行)、
「このプロセスは、そのクーラント組成物を、組成物内に存在する不都合な溶解金属から酸化金属を形成させるに充分な量の1または2以上の知られた酸化剤と接触させ、粒子状の酸化金属沈殿物を形成させるステップと、クーラント組成物を、組成物内に存在する不都合な有機酸と反応させるのに充分な量の1または2以上の知られた塩形成剤と接触させ、粒子状の塩沈殿物を形成させるステップと、クーラント組成物を、粒子状の沈殿物及び/又は二価の溶解金属を排除することができる適当なフィルター膜あるいはイオン交換媒体等の他の分離手段でフィルター処理するステップと、クーラント組成物に、リン酸塩、フォスフォネート(phosphonates)、ケイ酸塩、ホウ酸塩、一亜硝酸塩、硝酸塩、アゾール、変性アクリレート及びモリブデートで成る群から選択された1または2以上の適当な腐蝕防止剤を添加するステップと、クーラント組成物内に、最終溶液のpHを約9.5から10.5に調整するのに充分な量の1または2以上の知られたバッファ剤を導入し、本システムから排出する前に、オリジナルのクーラント組成物の性能よりも優れ、好適には、抑制された不凍液が当初に加えられたとき本システム内に存在する循環クーラント組成物よりも優れた腐蝕防止性能を備えたリサイクルされたクーラント組成物を提供するステップとをを含んでいる。」(2欄50行〜3欄12行)、
「その後にアルコール及び/又はグリコール成分、好適には100そのエチレングリコールがクーラントの凍結防止性能を約-34゜Fに再生するのに充分な量でクーラント組成物に加えられる。」(3欄13〜17行)、
「化学添加剤は、クーラント組成物内での酸化量と沈殿量とを最大とする本願発明の方法の実施のために開発された。この化学添加剤は、ゼオライト軟化水または脱鉱物水のごとき溶剤と、不都合な有機酸あるいは無機酸を中和し、またはそれらと塩沈殿物を形成するためのアルカリ金属水酸化物と、リサイクルされたクーラントのpHを約9.5から10.5に増加させるバッファとして使用するホウ酸塩と、クーラント組成物の腐蝕防止性能を回復させるための腐蝕防止剤として亜硝酸塩、モリブデン酸塩またはアゾールと、エンジンでのキャビテーションを防止する界面活性剤と、ポリマー状陰イオン分散剤と、堆積物制御剤と、リサイクルされたクーラントからの金属イオンの沈殿を遅らせる結合剤とを含んでいる。」(3欄18〜36行)、
「不凍液またはクーラント分野で知られたどのような水溶性アルコール及びグリコールも利用できる。それらには、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングルコール、グリセロール、及び様々なグリコールエーテルが含まれる。エチレングリコールとジエチレングリコールの混合物は特に好適である。」(3欄46〜53行)
「瀑気処理に加えて、1または2以上の知られた塩形成剤、すなわち塩基が、クーラント溶液に存在する有機酸または無機サン副産物と反応するのに充分な量で使用されたクーラントに加えられ、それらの塩の沈殿物が形成される。そのような酸はグリコール成分の分解で形成される。」(4欄16〜24行)、
「適当な塩基の添加で、固形塩沈殿物の形成が発生する。これは使用されたクーラント溶液から容易に排除される。代表的な塩基は次のものである。水酸化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物、アミン及びアルカリ土金属水酸化物である。水酸化カリウムや水酸化ナトリウムのごときアルカリ金属水酸化物が好適である。アルカリ金属塩として沈殿する典型的な酸はグリコール酸、ホルム酸、シュウ酸、グリコキシル酸及び酢酸等である。溶液に添加される特定塩形成剤の量とタイプは単純な化学量考察で決定される。」(4欄34〜47行)、
「酸化金属と金属塩が使用されたクーラント溶液内で沈殿を開始すると、溶液から沈殿物を取り除くために適当なフィルター膜または他の分離手段が使用される。高流速タイプで化学的に不活性である再使用可能なフィルターが、使用済不凍液の沈殿した不純物と劣化副産物を排除するのに使用される。好適には、溶液は直列に並べられた少なくとも2体のフィルター(すなわち、1‐5ミクロン及び/又は20‐30ミクロン)を通過する。」(4欄48〜66行)、
「フィルター処理中に、使用されたクーラントが充分にリサイクルされているか、あるいは再調整されているかを知るためにアルカリ性溶液のための標準媒質範囲テスト紙を使用して溶液のpHが測定される。リサイクルされたクーラントは典型的には9.5から10.5の範囲のpHを有している。好適には約10.0である。一般的にリサイクル処理はこのpHが得られたときに完了したと見なされる。その後は、リサイクルされたクーラント組成物の凍結防護性能が通常のリフラクトメータを使用して測定される。例えば、50-50のエチレングリコールと水の混合物を有したクーラント組成物は約‐華氏34゜までの凍結防止を提供する。使用されたクーラント組成物は典型的には劣化した凍結防止性能を有し、普通は約0゜Fまでの保護しか提供しない。製造業社の仕様にまで不棟性能を戻すため、すなわち、-10゜Fから-34゜Fにまで戻すため、エチレングリコール及び/又はアルコールが加えられてクーラント溶液と混合される。」(5欄10〜28行)、
「酸化剤、塩形成剤、腐蝕防止剤、及びバッファ剤を本明細書にて解説するようにクーラント溶液に個別に加えることができる。しかし、個々の成分を1体の添加組成物とすることも本発明は想定している。このため、化学添加剤組成物が開発された。」(5欄48〜63行)、
「酸化剤、塩形成剤、腐蝕防止剤、及びバッファ剤は1体の化学添加剤となるように組み合わされてクーラントに添加されることを特徴とする請求項1記載の方法。化学添加剤は重量%で、a.約0.5から約15%の1または2以上の知られた塩形成剤と、b.約0.1から約15%の1または2以上の知られた腐蝕防止剤と、c.クーラント溶液のpHを約9.5から約10.5に維持するのに充分な量のバッファ組成物と、d.残りの水性溶剤と、を含んでいることを特徴とする請求項1記載の方法。」(請求項21及び22)が記載されている。
さらに、「内燃機関冷却システム内で使用された使用済み冷却剤をそのシステムから除去後、物理的及び化学的に処理し、好ましくない不純物、分解副生成物、溶解した金属、汚染物、沈泥、塩及び他の好ましくない浮遊粒状物質を除去する方法」(2欄42〜48行)の冷却剤、使用済み冷却剤及び使用済み冷却剤に溶解した金属について、それぞれ「冷却剤は凍結点を下げる量の少なくとも1種のアルコール、少なくとも1種のグリコール又は1種以上のアルコール及びグリコールの混合物と水を含有する。アルコール、グリコール又はアルコール-グリコール混合物は水性冷却剤中約20〜90体積%、好ましくは約50体積%含んでいる。」(3欄39〜46行)、「使用済み冷却剤は、部分的・・・に分解を受けた不凍液を含有する冷却剤をいう。」(3欄54〜58行)及び「使用済み冷却剤に溶解した金属は、典型的には、鉄、銅、亜鉛、アルミニウム、鉛及び鋼を含んでいる。」(3欄61〜67行)が記載されている。

(2)甲第2号証
甲第2号証の特開昭57-117338号公報には、その特許請求の範囲(1)及び(5)に、処理を必要とする冷却液中の化学的添加剤のレベルを測定し、その化学的添加剤のレベルが所定の値以下に減少したとき、化学的添加剤が所定のレベルとなるように、冷却液中に、溶解される固型の処理化学物質(31)(例えば循環する冷却液中の腐食防止剤)を含む化学的処理溶液を加える旨開示され、さらに以下の事項が記載されている。
「冷却装置の構成要素、特に放熱器を保護するため溶液に腐食防止剤を添加する。これら防腐剤には一般にリン酸塩、ホウ酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、ケイ酸塩またはヒ酸塩の如き無機塩の一種またはそれ以上の種類の混合物と、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾールまたはメルカプトベンゾチアゾールの如き有機化合物とである」(2頁左下欄1〜11行)、
「腐食を防止するには、防止剤の濃度を、もし冷却液が漏洩によるか沸騰により失われるかもしくは防止剤の効率が時間の経過につれて低下する場合に生じる腐食問題を防止するため、適当なレベルに保持する必要がある。この問題を解決するため、防止剤の濃度は正しく測定し必要の場合には追加の防止剤を加える必要がある。」(2頁右下欄5〜11行)

(3)甲第3号証
甲第3号証の特公昭55-33952号公報には、その特許請求の範囲及び実施例に、採取した不凍液/冷却剤に塩酸や硫酸などのpH調節剤を有効量加えることにより、pHを4.0〜14に調節してpH調節済み組成物を形成させ、そこに有効量の当該重金属のための有効量の塩化物、硫酸塩、硝酸アルミニウムなどの沈殿剤を加えて沈殿を形成させる旨記載されている。

(4)甲第4、5号証
甲第4号証の特開昭51-21503号公報の特許請求の範囲及び4頁12〜14行、並びに甲第5号証の特開昭61-266690号公報の5頁左下欄3〜4行には、pH調節済み組成物に、有効量の凝固剤及び有効量の凝集剤を加えて、少なくとも一種の重金属を含む沈殿物を形成させる工程、及びpH調節済み組成物を第一の濾過手段を通過させて、重金属含有沈殿物を前記pH調節済み組成物から除去する旨記載されている。

(5)甲第6、7号証
甲第6号証の特開昭57-71688号公報の3頁右上欄11行〜左下欄1行、並びに甲第7号証の特開昭61-188865号公報の特許請求の範囲及び2頁右上欄17行〜左下欄2行には、濾過後の濾液をイオン交換体に通すことが周知の技術である旨記載されている。

(6)甲第8号証
甲第8号証の特開昭53-124499号公報には、pH調節済み組成物から沈殿物の部分をすくい取ることが周知の技術である旨記載されている。

(7)甲第9号証
甲第9号証の特開昭53-90653号公報には、pH調節済み組成物を水除去手段を経過させることが周知の技術である旨記載されている。

(8)甲第10号証
甲第10号証の特開昭54-86443号公報の特許請求の範囲には、鉛などの重金属を含む、多価アルコール含有不凍液/冷却剤が処理液として記載されている。

(9)甲第11、12号証
甲第11号証の特開昭54-128495号公報及び甲第12号証の特開昭55-62133号公報には、廃液中の重金属の沈殿技術において、pH調整剤に硝酸を用いることが記載されている。

(10)甲第13号証
甲第13号証の特公昭39-18318号公報には、オルガノポリシロキサン類でケイ酸塩を塩基安定化させることが記載されている。

[5]対比・判断
(1)本件発明1〜4、9〜14、及び45について
当審において、本件発明1〜4、9〜14、及び45は甲第1、2号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、また本件特許明細書の請求項45の記載及び発明の詳細な説明の記載は明りょうでない旨の取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは何らの応答もない。
そして、上記の取消理由は妥当なものと認められるので、本件発明1〜4、9〜14、及び45についての特許は、特許法第29条第2項の規定及び同法第36条第4項又は第5項の規定に違反してされたものである。

(2)本件発明5〜8、15〜44について
(2-1)本件発明5、15、16、及び19
甲第3号証に示すように、pH調整剤を添加後に硝酸アルミニウムなどの沈殿剤を添加する重金属の沈殿技術は周知の技術であるにしても、甲第1〜3号証のいずれにも、本件発明5のように、有効量のpH調整剤を加えることにより、水性組成物のpHを4.0〜7.5に調節してpH調節済み組成物を形成させ、そこに有効量の重金属のための有効量の沈殿剤を加えて沈殿させることについては何らの記載もないし示唆もされていないから、本件発明5は、甲第1、2号証に記載の発明に上記周知の技術を適用しても容易に想到することはできない。
そして本件発明5は、廃不凍液/冷却剤のpHを4.0〜7.5に調節することにより、廃不凍液/冷却剤中に存在する重金属の沈殿を促進し、同時にpHを十分高く調節して重金属化合物の酸による溶解を最小に抑える、という特許明細書に記載の顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明5は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできない。
また、本件発明15、16、及び19は、本件発明5を引用する発明であって、本件発明5の構成要件を全て含むものであるから、本件発明5が甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができない以上、本件発明15、16、及び19についても甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできない。

(2-2)本件発明6、20〜22、24、及び26
甲第3〜5号証に示すように、pH調節済み組成物有効量の凝固剤及び有効量の凝集剤を加えて沈殿物を形成し、これを濾過手段によって除去する廃液処理技術は周知の技術であるにしても、本件発明6、26は本件発明5を引用する発明であり、また本件発明20〜22、及び24は本件発明6を引用する発明であって、いずれも本件発明5の構成要件を全て含むものであるから、本件発明5が甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができない以上、本件発明6、20〜22、24、及び26についても甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできない。

(2-3)本件発明7、25、27、30、31、33〜35、38〜42、及び44
甲第6、7号証に示すように、濾過後に濾液をイオン交換体に通すことは周知の技術であるにしても、本件発明7は本件発明5を引用する発明であり、本件発明25は本件発明6を引用する発明であって、いずれも本件発明5の構成要件を全て含むものであるから、本件発明5が甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができない以上、本件発明7、25についても甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできない。
また、本件発明27は本件発明1を引用する発明であって、本件発明5と同様の構成要件である、有効量のpH調整剤を加えることにより、不凍液/冷却剤組成物のpHを4.0〜7.5に調節して、pH調節済み組成物を形成させ、また有効量の重金属の沈殿物を形成するのに有効な量の沈殿剤を加える工程を構成要件の一つとしており、甲第1、2、6、7号証のいずれにも上記の工程については何らの記載もないし示唆もされていないから、本件発明27は、甲第1、2号証に記載の発明に上記周知の技術を適用しても容易に想到することはできない。
そして、本件発明27は、本件発明5と同様の、廃不凍液/冷却剤のpHを4.0〜7.5に調節することにより、廃不凍液/冷却剤中に存在する重金属の沈殿を促進し、同時にpHを十分高く調節して重金属化合物の酸による溶解を最小に抑える、という特許明細書に記載の顕著な効果を奏するものである。
したがって、本件発明27は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできない。
また、本件発明30、33〜35、38〜42、及び44は本件発明27を引用し、本件発明31は本件発明30を引用する発明であって、本件発明27の構成要件を全て含むものであるから、本件発明27が甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができない以上、本件発明30、31、33〜35、38〜42、及び44についても甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできない。

(2-4)本件発明8
甲第8号証に示すように、pH調節済み組成物から沈殿物の部分をすくい取ることは周知の技術であるにしても、本件発明8は本件発明5を引用する発明であって、本件発明5の構成要件を全て含むものであるから、本件発明5が甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができない以上、本件発明8についても甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできない。

(2-5)本件発明28
甲第9号証に示すように、pH調節済み組成物を水除去手段に通すことは周知の技術であるにしても、本件発明28は本件発明27を引用する発明であって、本件発明5と同様の構成要件を全て含むものであるから、本件発明5が甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができない以上、本件発明28についても甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできない。

(2-6)本件発明29、32
甲第10号証に示すように、自動車の内燃機関の冷却機構から採取した多価アルコール含有不凍液/冷却剤中に鉛などの重金属を含むことが周知の事項であるにしても、本件発明29、32は本件発明27を引用する発明であって、本件発明5と同様の構成要件を全て含むものであるから、本件発明5が甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができない以上、本件発明29、32についても甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできない。

(2-7)本件発明17、18、23、36、37、及び43
甲第11、12号証に示すように、pH調整剤に硝酸を用いて廃液中の重金属を沈殿させることは周知の技術であるにしても、本件発明17は本件発明16を引用し、本件発明18は本件発明17を引用し、本件発明23は本件発明6を引用する発明であって、本件発明5の構成要件を全て含むものであるから、本件発明5が甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができない以上、本件発明17、18、及び23についても甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできないし、さらに本件発明36は本件発明35を引用し、本件発明37は本件発明36を引用し、本件発明43は本件発明本件発明27を引用する発明であって、いずれも本件発明5と同様の構成要件を全て含むものであるから、本件発明5が甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができない以上、本件発明36、37、及び43についても甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることはできない。

[6]むすび
以上のとおりであるから、請求項1〜4、9〜14、及び45に係る発明の特許については、特許法第29条第2項及び同法第36条第4項又は第5項の規定により拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであり、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項5〜8、15〜44に係る発明の特許については、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるとすることはできないし、しかも他に拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものであるとする理由を発見しない。
したがって、平成6年法律第116号附則第14条の規定に基づく、平成7年政令第205号第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-05-07 
出願番号 特願平4-197673
審決分類 P 1 652・ 531- ZC (C23F)
P 1 652・ 534- ZC (C23F)
P 1 652・ 121- ZC (C23F)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 小川 進  
特許庁審判長 関根 恒也
特許庁審判官 雨宮 弘治
伊藤 明
登録日 2000-10-13 
登録番号 特許第3119943号(P3119943)
権利者 プレストーン、プロダクツ、コーポレーション
発明の名称 循環不凍液/冷却剤の再腐食防止方法および再腐食防止剤  
代理人 後藤 昌弘  
代理人 佐藤 一雄  
代理人 小野寺 捷洋  
代理人 佐々木 晴康  

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