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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D21H
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  D21H
管理番号 1084890
異議申立番号 異議2002-71149  
総通号数 47 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-02-04 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-04-24 
確定日 2003-10-01 
異議申立件数
事件の表示 特許第3235419号「紙塗工用共重合体ラテックスの製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3235419号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 I.本件発明
本件特許第3235419号は、平成7年7月14日に出願され、平成13年9月28日にその特許権の設定登録がなされたものであって、その請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】(a)脂肪族共役ジエン系単量体20〜70重量%、(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.5〜10重量%、(c)アミド基含有エチレン系不飽和単量体0.5〜10重量%、(d)これらと共重合可能な他の単量体10〜79重量%(ただし、(a)+(b)+(c)+(d)=100重量%)からなる単量体を乳化重合するにあたり、(c)アミド基含有エチレン系不飽和単量体を除く全単量体の重合転化率が20%から90%までの間において、(c)アミド基含有エチレン不飽和単量体を連続的に添加することを特徴とする紙塗工用共重合体ラテックスの製造方法。」
II.申立ての理由の概要
特許異議申立人株式会社テキコ(以下、「申立人」という。)は、甲第1号証(特公平5-41757号公報)を提出し、
(1)本件発明は、甲1号証に記載された発明と同一の発明であるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してされたものである、
(2)本件発明は、甲1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである、
旨主張する。
III.甲第1号証の記載内容
ア.「顔料100重量部に対して、
(i)エチレン系不飽和カルボン酸5〜40重量%、脂肪族共役ジエン5〜40重量%、エチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル10〜50重量%及びアルケニル芳香族化合物10〜70重量%からなる単量体混合物(イ)5〜35重量部を乳化重合させ、
(ii)得られた共重合体ラテツクスの存在下、脂肪族共役ジエン20〜70重量%、アルケニル芳香族化合物30〜80重量%及びエチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステルとシアン化ビニルから選ばれる1種以上の単量体0〜50重量%からなる単量体混合物(ロ)63〜94重量部を添加し重合させ、
(iii)上記(ii)の単量体混合物の重合の開始後であつてかつ重合が実質的に終了していない間において不飽和酸アミド(ハ)1.5〜6重量部を(イ)、(ロ)、(ハ)の合計100重量部になるように添加し重合させて得られた共重合体ラテツクスであつてその平均粒子径が0.06〜0.35μmでトルエン不溶分が55〜98重量%である共重合体ラテツクスを上記顔料結合剤として10〜35重量部含有することを特徴とする紙被覆組成物。」(特許請求の範囲)
イ.「第2段階で用いられる単量体混合物(ロ)・・・・さらに該単量体混合物の重合開始後であつてかつ重合が実質的に終了していない間(重合転化率5〜95%、好適には10〜70%の範囲)において不飽和酸アミド1.5〜6重量部を添加して重合が行われる。」(第3頁第6欄第10〜19行)
ウ.「また不飽和酸アミドは第2段目の重合が実質的に終了する前に好ましくは重合転化率が約95%に達する前に一括してもしくは分割添加して、または連続して重合反応系に加えても良い。第2段目の重合反応終了後に添加するとラテツクスが粘度がたかくなつたり塗工紙の耐水性、着肉性が悪くなる。」(第3頁第6欄第30〜35行)
エ.「本発明の共重合体ラテツクスの製造法においては第1段階、第2段階のいずれも公知の一括、分割、連続添加重合法が行われる。」(第3頁第6欄第36〜38行)、
オ.実施例1には、第1段階の単量体の重合後、第2段階の単量体混合物を連続添加重合し、この第2段階の重合開始3時間後(第2段階の転化率18%)にアクリルアミド3部を一括添加し重合させたことが記載されている。
IV.対比・判断
1.申立人の主張(1)について
共重合体ラテツクス製造のために、甲第1号証の(i)及び(ii)の工程で使用される単量体である、脂肪族共役ジエン、エチレン系不飽和カルボン酸、不飽和酸アミド、エチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル、アルケニル芳香族化合物及びシアン化ビニルにおいて、「脂肪族共役ジエン」、「エチレン系不飽和カルボン酸」、「不飽和酸アミド」及び「エチレン系不飽和カルボン酸アルキルエステル、アルケニル芳香族化合物及びシアン化ビニル」は、本件発明における「(a)脂肪族共役ジエン系単量体」、「(b)エチレン系不飽和カルボン酸単量体」、「(c)アミド基含有エチレン系不飽和単量体」及び「(d)これらと共重合可能な他の単量体」にそれぞれ相当するから、両者は、「(i)脂肪族共役ジエン系単量体、エチレン系不飽和カルボン酸及び共重合可能な他の単量体からなる単量体混合物から乳化重合により予め形成した重合体の存在下に、(ii)脂肪族共役ジエン系単量体及び共重合可能な他の単量体からなる単量体混合物を重合させて共重合体ラテツクスを得る製造方法において、アミド基含有エチレン系不飽和単量体の使用とその添加時期を特定する製造方法」で一致するが、
(a)アミド基含有エチレン系不飽和単量体の添加時期(開始と終りまでの時期)について、本件発明が「アミド基含有エチレン系不飽和単量体を除く全単量体の重合転化率が20〜90%までの間」と特定しているのに対して、甲第1号証に記載された発明では、「上記(ii)の単量体混合物の重合開始後であってかつ重合が実質的に終了しない間(重合転化率約5〜95%、好適には10〜70%の範囲)」としている点、
(b)アミド基含有エチレン系不飽和単量体の添加方法について、本件発明が「連続的に添加すること」を特定しているのに対して、甲第1号証に記載された発明では、添加方法は「一括してもしくは分割して、または連続して反応系に加えてもよい」とし、添加方法を特に限定していない点、で少なくとも相違する。
まず、相違点(a)を検討する。
上記相違点(a)に関して、申立人は、甲第1号証で好適とされる重合転化率の10〜70%の範囲が、本件発明の「アミド基含有エチレン系不飽和単量体を除く全単量体の重合転化率が20〜90%までの間」と重複する部分があることから、一致するとしているが、本件発明は、甲第1号証に記載されていない、添加時期である、「アミド基含有エチレン系不飽和単量体を除く全単量体の重合転化率が20〜90%までの間」を、「20%」を開始の時期の下限値及び「90%まで」を終わりの時期の上限値として選定したもので、その数値範囲の選定に意義のあることは、本件特許明細書の段落【0011】の「重合転化率が20%未満で、(c)成分が添加された場合は、べとつき防止性、機械的安定性の改良効果が十分に発現されず、一方、90%を越えて、(c)成分が添加された場合では、ラテックスの粘度や紙塗工用組成物の粘度が高くなり過ぎて作業性が低下する」の記載及び実施例4(重合転化率が20%の時点から90%の時点にわたり連続的に添加した、最終的な重合転化率は97〜99%)と比較例4(重合転化率が92%の時点から連続的に添加開始した、97%のに時に重合終了)の実験結果を対比すると、添加開始時期(及び結果としての終わりの時期)の相違により、共重合体ラテツクスの粘着性及び機械的安定性の性質において、顕著な差が生じることが認められる。
また、上記相違点(b)に関して、甲第1号証は、添加方法として、一括、分割及び連続添加を同列の方法として記載し、その実施例において「一括」添加の例だけを記載しているのに対して、本件発明は、その明細書の段落【0012】の「重合転化率が20%から90%の間において、(c)成分を一括添加した場合は、連続添加に比べて、べとつき防止性、機械的安定性の改良効果が十分に発現しない。」と記載しており、一括添加法と連続添加法とでは、得られる共重合体ラテツクスの粘着性及び機械的安定性の性質において、差違が生じることを明記している。
そうすると、甲第1号証には、上記相違点(a)及び(b)についての開示があるとはいえないから、本件発明は、甲第1号証に記載されたものとすることはできない。
なお、申立人は、甲第1号証における、アミド基含有エチレン系不飽和単量体の添加時期のアミド基含有エチレン系不飽和単量体を除く全単量体の転化率を、計算により、「第1段階の単量体が5部、第2段階単量体が94部であって第2段階の重合率が70%の場合・・・・・は、全体の重合率としては5+65.8=70.8%となる。また、第1段階の単量体が35部、第2段階単量体が63部であって第2段階の重合率が10%の場合・・・・・は、全体の重合率としては35+6.3=41.3%となる。」であるから、「5%から41.3%」ないし「5%から70.8%」で添加時期が完全に一致する旨主張するが、本件発明の添加時期(重合転化率20〜90%までの間)とは重複する範囲があるものの、「5〜20%未満」の範囲では重複せず、完全に一致するとはいえないから、甲第1号証の好適な範囲「10〜70%」の記載に基づく、申立人の主張は採用することができない。
2.申立人の主張(2)について
前記「1.申立人の主張(1)について」で述べたように、本件発明(前者)と甲第1号証に記載された発明(後者)とを対比すると、少なくとも、上記した相違点(a)及び相違点(b)がある。
この相違点(a)について、検討する。
甲第1号証は、「重合転化率約5〜95%、好適には10〜70%の範囲」とされるだけで、本件発明で特定される範囲外の「5〜20%未満の範囲」、及び「90%を越え95%の範囲」についても、「20〜90%の範囲」と同等に扱い、そして、その理由を記載することなく、単に好適な範囲として「10〜70%」の範囲を記載しているだけであるから、「20〜90%の範囲」を選定すること、及びそれによる効果を示唆するところがあるとはいえない。
また、相違点(b)についても、甲第1号証は、添加方法として、一括、分割及び連続添加を同列の方法として記載して、その実施例において「一括」添加の例だけを記載するだけであるから、「連続的に添加」を選定すること、及びそれによる効果を示唆するところがあるとはいえない。
一方、本件発明は、少なくとも、相違点(a)及び(b)の点を要件とすることにより、「共重合体ラテツクスの粘着性の低減(べとつき防止性)、共重合体ラテツクスの機械的安定性」において、顕著な効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
V.むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-09-11 
出願番号 特願平7-201396
審決分類 P 1 651・ 121- Y (D21H)
P 1 651・ 113- Y (D21H)
最終処分 維持  
特許庁審判長 高梨 操
特許庁審判官 鴨野 研一
石井 克彦
登録日 2001-09-28 
登録番号 特許第3235419号(P3235419)
権利者 JSR株式会社
発明の名称 紙塗工用共重合体ラテックスの製造方法  
代理人 大渕 美千栄  
代理人 布施 行夫  
代理人 井上 一  

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