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審決分類 審判 全部申し立て 発明同一  C10M
管理番号 1084893
異議申立番号 異議2001-72515  
総通号数 47 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1999-10-19 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-09-12 
確定日 2003-09-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第3145360号「非塩素系フロン冷媒用冷凍機油」の請求項1〜5に係る特許に対する特許異議申立てについてした平成14年4月16日付け取消決定に対し、東京高等裁判所において決定取消の判決(平成14年(行ケ)第299号、平成15年7月16日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり決定する。 
結論 特許第3145360号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第3145360号の請求項1〜5に係る発明についての出願は、平成1年12月28日に出願された特願平1-341244号の一部を平成11年3月11日に新たな特許出願としたものであって、平成13年1月5日にその特許権の設定登録がなされ、その後、株式会社ジャパンエナジーより特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年3月18日に訂正請求がなされ、平成14年4月16日付けで請求項1ないし5に係る特許を取り消すとの決定がなされた。
これに対して、本件特許の特許権者により、当該取消決定の取消しを求める訴えが東京高等裁判所に提起された(平成14年(行ケ)第299号)後、請求項1ないし5について特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正を求める訂正審判の請求がなされ、当審で同請求を訂正2003-39073号事件として審理したところ、平成15年6月10日に、「特許第3145360号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおりに訂正することを認める。」との審決がなされ、この審決は平成15年6月20日に確定した。そして、東京高等裁判所において決定取消の判決(平成14年(行ケ)第299号、平成15年7月16日判決言渡)があり、同判決は確定した。

2.本件発明
本件特許の請求項1ないし請求項5に係る発明は、前記訂正審決により訂正された明細書及び図面の記載からみて、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5(以下、「本件発明1」〜「本件発明5」という。)に記載された以下のとおりである。

「【請求項1】ペンタエリスリトールと 2-エチルヘキサン酸および 3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるエステルを主成分とし流動点が-10℃以下であることを特徴とする非塩素系フロン冷媒用冷凍機油(但し、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステルおよびエポキシ化植物油からなる群より選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物を含有する場合を除く)。
【請求項2】前記ペンタエリスリトールと 2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるエステルを基油とする請求項1に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。
【請求項3】冷凍機油全量に対し、リン酸エステル、酸性リン酸エステル、酸性リン酸エステルのアミン塩、塩素化リン酸エステルおよび亜リン酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも 1種のリン化合物0.1〜5.0重量%を必須成分として含有する請求項1または2に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。
【請求項4】前記エステルの100℃における動粘度が 2〜150 cStであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。
【請求項5】前記エステルの25℃における体積抵抗率が4×1014Ωcm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。」

3.特許異議申立ての理由の概要
(1)特許異議申立人株式会社ジャパンエナジーは、証拠として下記の甲第1号証ないし甲第3号証を提出し、訂正前の本件請求項1ないし請求項5に係る発明は分割の要件を具備しないので本件の出願日は実際の出願日となり、それ以前に頒布された甲第1号証に記載された発明と同一あるいは同号証に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第1項又は第2項の規定により特許を受けることができないものであり[理由1]、また、仮に分割の要件を具備するとしても、訂正前の本件請求項1ないし請求項4に係る発明は、本件特許出願の日前の特許出願の願書に最初に添付した明細書(甲第2号証)に記載された発明であるから特許法第29条の2により特許を受けることができないものであるとし[理由2]、これらの発明の特許は、特許法第113条第1項第2号の規定により取り消されるべきものであると主張している。


甲第1号証:特開平3-200895号公報(分割出願である本件出願の原 出願の公開公報)

甲第2号証:特願平1-172001号の願書に最初に添付した明細書
[平成元年7月5日出願の特願平1-172001号、および、特願平 1-172002号を優先権主張の基礎出願とする特願平2-718 93号の公開公報(特開平3-128992号公報)により公開され たとみなされる。] (以下、「先願明細書」という。)

甲第2a号証:特開平3-128992号公報(特願平1-172001号 、及び、特願平1-172002号を優先権主張の基礎出願とする特 願平2-71893号の公開公報)(以下、「公報」という。)

甲第3号証:「冷凍」1985 8月号(VOL.60 NO.694)
795-802頁 昭和60年8月15日発行、社団法人日本 冷凍協会 (以下、「参考資料1」という。)

4.証拠の記載
先願明細書に記載される事項
(以下、先願明細書に記載される事項は、特願平1-172001号の出願について出願公開がされたものとみなされた特開平3-128992号公報(甲第2a号証参照)によって示す。)
先願-イ.「炭素数15以下、3価以上の多価アルコール1種類以上と、炭素数2〜18の直鎖又は分枝の1価脂肪酸1種類以上、・・・を原料として得たエステルを主成分とする水素含有フロン冷媒用潤滑油。」(公報1頁 特許請求の範囲 請求項1)

先願-ロ.「本発明の目的は、特に新しい冷媒であるHFC-134a、HFC-134、HFC-152aなどの塩素を含まない水素含有フロン冷媒に対して広い温度範囲で相溶性に優れ、かつ電気絶縁性が高く、さらに吸湿性の低い冷凍機用潤滑油を提供する。」(公報2頁左下欄10〜15行)

先願-ハ.「3価のアルコール例として・・・4価以上のアルコール例として、ペンタエリスリトール、・・・ペンタエリスリトールの縮合物・・・などが挙げられる。」(公報3頁左上欄3〜15行)

先願-ニ.「1価脂肪酸の炭素数を2〜18に制限するのは、炭素数が19以上になると、HFC-134aと合成後のエステルとの相溶性が極端に悪くなるためであり、1価脂肪酸として好ましいものは炭素数3〜10の直鎖または分枝のものである。例示すると、・・・2-エチルヘキサン酸、・・・、3,5,5-トリメチルヘキサン酸・・・などがある。本発明においては、これら1価脂肪酸の1種類以上を適宜混合して、特定の多価アルコールとの間でエステル反応を生ぜしめ、各種冷凍機の要求する望ましい物理特性を満足するエステルを得るものである。」(公報3頁左上欄末2行〜3頁右上欄17行)

先願-ホ.「第4表 供試エステル(実施例9〜17)」と表題が付与された供試エステル一覧表中に下記エステルとその動粘度が記載されている。
A-9 :ペンタエリスリトールとイソノナン酸のエステル
A-11:ペンタエリスリトールとプロピオン酸とステアリン酸のエステル
A-12:ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸のエステル
A-14:ジペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸とプロピオン酸 のエステル
A-15:ジペンタエリスリトールとイソブタン酸とイソステアリン酸のエ ステル
A-9の40℃の動粘度は125.4cSt
A-12の40℃の動粘度は42.3cSt (公報7頁 第4表)

先願-ヘ.「また従来、冷凍機油に使用されている・・・摩耗防止剤・・・を適宜添加し得ることも勿論のことである。」(公報4頁右上欄2〜4行)

先願-ト.「(発明の効果)・・・本発明の冷凍機用潤滑油は水素含有フロン冷媒に対し充分な相溶性を維持しかつ高い電気絶縁性を有し、総合性能にも優れている」(公報10頁左上欄9行〜末行)

先願-チ.「第6表 供試油の評価結果(実施例9〜17)」と表題が付与された供試油の評価結果一覧表中に下記エステルの80℃での体積抵抗率(Ω・cm)、二層分離温度(℃)(前者の数値が低温、後者の数値が高温)、吸湿性(水分,ppm)が記載されている。
A-9 :ペンタエリスリトールとイソノナン酸のエステル
体積抵抗率6.5×1013、二層分離温度-38、80以上、 吸湿性292
A-11:ペンタエリスリトールとプロピオン酸とステアリン酸のエステル
体積抵抗率7.6×1012、二層分離温度-50以下、80以上 吸湿性344
A-12:ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸とのエステル
体積抵抗率1.7×1013、二層分離温度-50以下、80以上 吸湿性331
A-14:ジペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸とプロピオン酸 のエステル
体積抵抗率2.6×1012、二層分離温度-40以下、80以上 吸湿性325
A-15:ジペンタエリスリトールとイソブタン酸とイソステアリン酸のエ ステル
体積抵抗率1.4×1012、二層分離温度-50以下、80以上 吸湿性339」 (公報9頁 第6表)
(なお、上記摘記事項「先願-イ」〜「先願-チ」と同様の趣旨の事項は、先願明細書(特願平1-172001号)にも記載されている。)

参考資料1に記載される事項
参1-イ.「4.冷凍機油の品質動向・・・4.1基材の多様化 冷凍機油としては、従来から低温流動性、・・・が重視されてきたこともあり、もっぱらナフテン系鉱油が使用されてきた。・・・パラフィン系原油を原料とする場合には、・・・通常の潤滑油の脱ろう装置での処理では表3に示すように流動点・・・が高くて使用に耐えないため、深冷脱ろう装置を用いてこれらの改善を行なう必要がある。」(798頁右欄10行〜799頁左欄21行)

参1-ロ.「表3 油の種類による低温特性の相違」とタイトルの付いた表3中の「流動点℃」の欄に、パラフィン系油は-15.0、深冷脱ろうパラフィン系油は-30.0、低精製ナフテン系油は-37.5、高精製ナフテン系油は-37.5と記載されている。(799頁左欄 表3)

参1-ハ.「表3 油の種類による低温特性の相違」とタイトルの付いた表3中の「粘度」の欄に、各種冷凍機油の40℃cStと100℃cStの関係が下記のように記載されている。
パラフィン系油 40℃cSt 31.6
100℃cSt 5.42
深冷脱ろうパラフィン系油 40℃cSt 33.4
100℃cSt 5.54
低精製ナフテン系油 40℃cSt 29.3
100℃cSt 4.27
高精製ナフテン系油 40℃cSt 32.8
100℃cSt 4.96
(799頁左欄 表3)

参1-ニ.「潤滑性の改善のための添加剤としては、ロータリーコンプレッッサー用冷凍機油として、すでにTCPを代表とするリン酸エステルが実用化されているが、・・・亜リン酸エステルの添加が効果的であるとの報告がある。」(801頁左欄10〜16行(表4を除く))

参1-ホ.「2.冷凍機油に要求される性能・・・電気絶縁油としての特性が要求され、・・・」(795頁 右欄末3行〜796頁 左欄末18行)

甲第1号証に記載される事項
省略

甲第2a号証に記載される事項
先願明細書に記載される事項として摘記した摘示事項に同じ

5.理由1の主張(本件特許に係る出願の出願日、及び、特許法第29条)について
本件特許第3145360号に係る出願は、平成1年12月28日にしたもとの特許出願である特願平1-341244号(以下、「原出願」という。)の一部を平成11年3月11日に新たな特許出願(以下、「本件出願」という。)としてなされたものである。
そこで、訂正後の本件請求項1〜5に係る発明である本件発明1〜5について、分割の適法性を検討する。
原出願の分割時の願書に添附した明細書(特開平3-200895号公報、及び、平成10年9月8日発行の「特許法第17条の2の規定による補正の掲載」参照)(以下、「原出願明細書」という。)には、その特許請求の範囲の請求項1に、

「1.一般式

[式中、R1〜R4は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数3〜11の直鎖アルキル基、炭素数3〜15の分枝アルキル基および炭素数6〜12のシクロアルキル基よりなる群から選ばれる基を示し、直鎖アルキル基の割合は全アルキル基に対し60%以下であり、またnは1〜3の整数を示す]で表されるペンタエリスリトールエステルを主成分とすることを特徴とする非塩素系フロン冷媒用冷凍機油。」が記載されている。
上記非塩素系フロン冷媒用冷凍機油の主成分であるペンタエリスリトールあるいはその縮合物のエステルは、該エステルを形成するアシル基中のR1〜R4のアルキル基が「同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数3〜11の直鎖アルキル基、炭素数3〜15の分枝アルキル基および炭素数6〜12のシクロアルキル基よりなる群から選ばれる基を示し、直鎖アルキル基の割合は全アルキル基に対し60%以下」であることから、本件発明1の「ペンタエリスリトールと 2-エチルヘキサン酸および 3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物からなるエステル」を包含するものであり、具体例にペンタエリスリトールと、2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物からなるエステルが記載されている(公報7頁右上欄1〜4行 実施例3)。
また、流動点に関しては、「本発明のペンタエリスリトールエステルを主成分とする冷凍機油は、通常、冷凍機油として使用されている程度の・・・流動点を有していればよいが、低温時の冷凍機油の固化を防ぐためには流動点が-10℃以下、好ましくは-20℃〜-80℃であることが望ましい。」(公報6頁左下欄14〜19行)と記載されている。

以上にみられるとおり、「2-エチルヘキサン酸」2モルと「3,5,5-トリメチルヘキサン酸」2モルの等モル混合物からなるペンタエリスリトールテトラエステルが実施例として記載されていること、そして、流動点が-10℃以下であることが望ましいと記載されていることを勘案すると、原出願明細書には本件発明1は記載されているというべきである。
また、本件発明2についても、原出願明細書の請求項2に基油とすることが記載されているので原出願の明細書に記載されているといえる。
さらに、本件発明3についても、原出願明細書の請求項5に、本件請求項3に記載されるリン化合物及びその配合量と同じリン化合物及び配合量が記載されているので、本件発明3は原出願明細書に記載されているといえる。
本件発明4、5についても、原出願明細書に、「動粘度は100℃において2〜150cSt・・・であるのが望ましい」と記載され(4頁右上欄末2行〜末1行)、また、ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸2モルと3,5,5-トリメチルヘキサン酸2モルとのテトラエステルの絶縁特性(25℃における体積抵抗率)は4.0×1014Ω・cmであることも記載(第1表の実施例3の項)されていることから、本件発明4、5も原出願明細書に記載されているといえる。

さらに、本件発明1〜5は、特許権の設定登録が確定した原出願の発明
「【請求項1】一般式

[式中、R1〜R4は同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数6〜7の直鎖アルキル基、炭素数6〜15の分枝アルキル基および炭素数6〜12のシクロアルキル基よりなる群から選ばれる基を示し、直鎖アルキル基の割合は全アルキル基に対し60%以下であり、またnは1〜3の整数を示す]で表されるペンタエリスリトールエステルを主成分として50重量%を超える量含有し、冷凍機油全量に対し、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステルおよびエポキシ化植物油からなる群から選ばれる少なくとも1種のエポキシ化合物0.1〜5.0重量%を必須成分として含有することを特徴とする非塩素系フロンのみからなる冷媒用冷凍機油(但し、冷凍機油中に含まれるネオペンチルポリオールエステルが、エステルを構成する全脂肪酸中に炭素原子数2〜6の脂肪酸を20モル%以上含有し、かつネオペンチルポリオ ールの水酸基1個に対する脂肪酸の炭素原子数の平均が6以下である場合を除く)。」と同一でもない。
したがって、本件出願は、二以上の発明を包含する原出願の一部を新たな特許出願としたもので、適法になされた分割出願であり、本件出願の出願日は、原出願の出願日である平成1年12月28日であるものと認める。
よって、異議申立人の上記理由1の主張は、根拠のないものである。

6.理由2の主張(特許法第29条の2)について
〔本件発明1について〕
本件発明1の非塩素系フロン冷媒用冷凍機油は、流動点が-10℃以下で、該冷凍機油の主成分であるエステルは、ペンタエリスリトールと 2-エチルヘキサン酸および 3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるものである。
ここで、先願明細書に記載されている発明について検討する。
先願明細書には、「本発明の目的は、特に新しい冷媒であるHFC-134a、HFC-134、HFC-152aなどの塩素を含まない水素含有フロン冷媒に対して広い温度範囲で相溶性に優れ、かつ電気絶縁性が高く、さらに吸湿性の低い冷凍機用潤滑油を提供する。」(摘示事項「先願-ロ」参照)として、 請求項1には、「炭素数15以下、3価以上の多価アルコール1種類以上と、炭素数2〜18の直鎖又は分枝の1価脂肪酸1種類以上、・・・を原料として得たエステルを主成分とする水素含有フロン冷媒用潤滑油。」(摘示事項「先願-イ」参照)が記載され、また、「4価以上のアルコール例として、ペンタエリスリトール、・・・ペンタエリスリトールの縮合物・・・が挙げられ」(摘示事項「先願-ハ」参照)、さらに、「1価脂肪酸の炭素数を2〜18に制限するのは、炭素数が19以上になると、HFC-134aと合成後のエステルとの相溶性が極端に悪くなるためであり、」(摘示事項「先願-ニ」参照)とし、「1価脂肪酸として好ましいものは炭素数3〜10の直鎖または分枝のものである。」(摘示事項「先願-ニ」参照)と記載されている。
そして、「例示すると、・・・2-エチルヘキサン酸、・・・、3,5,5-トリメチルヘキサン酸・・・などがある。」(摘示事項「先願-ニ」参照)ことと、併せて「本発明においては、これら1価脂肪酸の1種類以上を適宜混合して、特定の多価アルコールとの間でエステル反応を生ぜしめ、各種冷凍機の要求する望ましい物理特性を満足するエステルを得るものである。」(摘示事項「先願-ニ」参照)と記載されている。
しかし、上記したように「1価脂肪酸として好ましいものは炭素数3〜10の直鎖または分枝のものである。」と記載しながらも、実施例では炭素数3〜10の分枝脂肪酸として、2-エチルヘキサン酸(A-12)、および、3,5,5-トリメチルヘキサン酸に相当するイソノナン酸(A-9)、イソブタン酸(A-15)しか使用していない(摘示事項「先願-ホ」参照)。
また、1価の脂肪酸を2種類混合使用する例に、直鎖脂肪酸同士を混合して使用する例(エステルA-11)、ジペンタエリスリトールのエステルではあるが、2-エチルヘキサン酸を直鎖脂肪酸と混合して使用する例(エステルA-14)、あるいは、分枝脂肪酸同士を混合して使用する例(エステルA-15)がある(摘示事項「先願-ホ」参照)。
そして、2-エチルヘキサン酸を直鎖脂肪酸と混合して使用する例(エステルA-14)よりも、2-エチルヘキサン酸を単独で使用する例(A-12)、あるいは、3,5,5-トリメチルヘキサン酸を単独で使用する例(A-9)の方が体積抵抗率を始めとして優れた効果がある(摘示事項「先願-チ」参照)。
このように、先願明細書には、エステルを形成する脂肪酸として2-エチルヘキサン酸、および、3,5,5-トリメチルヘキサン酸が優れた性能のものであることが実施例を伴って記載されると同時に、2種の脂肪酸を併用することについても、直鎖脂肪酸と分枝脂肪酸との併用例に限らずその他の併用例も実施例を伴って記載されている。
そうしてみると、先願明細書から、塩素を含まない水素含有フロン冷媒用冷凍機油の主成分とするペンタエリスリトールのエステルとして、実施例A-9とA-12の酸を併用したエステル、すなわち「ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるエステル」が把握しえる。
また、先願明細書に、先願発明の潤滑油は摩耗防止剤を適宜添加し得ること(摘示事項「先願-ヘ」参照)、水素含有フロン冷媒に対し充分な相溶性を維持しかつ高い電気絶縁性を有し、総合性能にも優れていること(摘示事項「先願-ト」参照)も記載されている。
したがって、先願明細書には、「ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるエステルを主成分とし、摩耗防止剤が適宜添加された、水素含有フロン冷媒に対し充分な相溶性を維持しかつ高い電気絶縁性を有し、総合性能にも優れ、塩素を含まない水素含有フロン冷媒用冷凍機油」(以下、「先願発明」という。)が記載されているとすることができる。

なお、イソノナン酸は分枝構造の炭素数9のカルボン酸という意味で使用されることもあるが、分枝構造の炭素数9のカルボン酸として先願明細書中に具体的に記載されているのは3,5,5-トリメチルヘキサン酸のみであることから(摘示事項「先願-ニ」参照)、先願明細書のイソノナン酸(A-9)は3,5,5-トリメチルヘキサン酸であると解すべきである。
また、A-15のイソステアリン酸が表中直鎖脂肪酸の欄に記載されるが、A-15のイソステアリン酸をステアリン酸の誤りであるとする必然性もないから、表記どおりイソステアリン酸であると解すべきである。

ここで、本件発明1と先願発明を対比する。
本件発明1の「非塩素系フロン冷媒用冷凍機油」は、先願発明の「塩素を含まない水素含有フロン冷媒用冷凍機油」に相当するから、本件発明1と先願発明とは「ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるエステルを主成分とする非塩素系フロン冷媒用冷凍機油」の点で一致し、冷凍機油の流動点が、本件発明1では「-10℃以下」と規定されているのに対し、先願発明では流動点に関する規定がされていない点、及び、ペンタエリスリトールと反応させる2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物の混合割合が、本件発明1では、等モル混合物とされているのに対し、先願発明では混合割合が何ら規定されていない点で相違する。
ここで上記の相違点について考えると、先願明細書から、前述したように、ペンタエリスリトールと反応してエステルを形成する酸として「 2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物」が把握し得、また、この酸の組合せではないが実施例において種々の割合の混合酸が用いられていることから各種の混合割合が把握し得るものの、先願明細書には「ペンタエリスリトールと2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の混合物からなるエステル」において混合割合を特定比率(等モル)とすることは記載されておらず、記載されているに等しい事項であるとすることもできない。さらには、2-エチルヘキサン酸および3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物によりエステル化されたペンタエリスリトールを主成分とする冷凍機油が-10℃以下の流動点をもつ冷凍機油と成り得ることも先願明細書に記載されている事項、もしくは、記載されているに等しい事項ではない。
したがって、本件発明1は、先願発明と同一でない。
よって、理由2の主張は、根拠のないものである。

[本件発明2について]
本件発明2は、本件発明1で「ペンタエリスルトールと2-エチルヘキサン酸および 3,5,5-トリメチルヘキサン酸の等モル混合物とからなるエステル」を「主成分」としているのに対し、これを「基油」とするものであるが、「主成分」と「基油」とに実質的な差はない。
したがって、本件発明2も、本件発明1と同じ理由により、先願発明と同一でない。
よって、理由2の主張は、根拠のないものである。

[本件発明3〜5について]
本件発明3〜5は、実質的に本件発明1または2の冷凍機油について技術的に限定を付すものにすぎず、本件発明1、2が先願発明とは同一ではないので、本件発明3〜5も同一ではない。
よって、理由2の主張は、根拠のないものである。

7.むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては本件発明1ないし5の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし5の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、本件発明1ないし5に係る発明の特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めないから、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2002-04-16 
出願番号 特願平11-65193
審決分類 P 1 651・ 161- Y (C10M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 藤原 浩子伊藤 幸司  
特許庁審判長 雨宮弘治
特許庁審判官 鈴木紀子
後藤圭次
登録日 2001-01-05 
登録番号 特許第3145360号(P3145360)
権利者 新日本石油株式会社
発明の名称 非塩素系フロン冷媒用冷凍機油  
代理人 関口 鶴彦  
代理人 藤野 清也  
代理人 吉見 京子  
代理人 藤野 清規  
代理人 伊東 辰雄  
代理人 伊東 哲也  

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