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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G01N
管理番号 1084927
異議申立番号 異議2002-72113  
総通号数 47 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2001-12-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-08-26 
確定日 2003-09-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第3260739号「生物学的流体の医学的に有意な成分の濃度を測定する装置および方法」の請求項44に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3260739号の請求項44に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3260739号の請求項1ないし47に係る発明についての出願は、1998年(平成10年)12月21日(パリ条約による優先権主張、1997年12月22日外国庁受理、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成13年12月14日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、請求項44に係る発明の特許について、異議申立人松下電器産業株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消しの理由が通知され、平成15年3月6日に特許異議意見書が提出されたものである。

2.本件発明
本件特許の請求項44に係る発明(以下、「本件発明」という)は、本件明細書の特許請求の範囲の請求項44に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項44】生物学的流体の医学的に有意な成分の濃度測定の正確度を高めるための方法であって、流体サンプルを収容するためのセルを設け、該セルには医学的に有意な成分と反応する薬品が入れられ、該反応を評価するための第1および第2の端子を備え、該セルの第1および第2の端子に対し対となる第1および第2の端子を備える器具を設け、該セルの第1および第2の端子を該器具の第1および第2の端子とそれぞれ接触させて配置することで、該器具が前記反応を評価できるようにし、該器具にアセスメントコントローラを備え、該アセスメントコントローラを用いて前記器具の第1および第2の端子に第1の信号を供給し、該第1の信号に対するセルの応答によりサンプルの種類を同定する方法。 」

3.取消理由通知の概要
取消理由通知の概要は、次のようなものである。
「 引用刊行物
刊行物1:特表平8-502589号公報
刊行物2:EP0800086A1号公報(甲第1号証)(1997.10.8日)(刊行物2の翻訳文として参考資料(特開平10-10130号公報)参照)
本件特許の請求項44に係る発明は、刊行物1〜刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件請求項44に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。」

4.引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1
刊行物1には、使い捨てのサンプル帯片を使用するバイオセンシングメータに関し、特にかかる機器が誤った結果を出すことを防ぐために、生物サンプルの分析過程に複数のフェールセーフテストを行う手段を有したり、サンプル帯片の反応領域に充分な量のサンプルが配置されたことを測定する手段などを有するバイオセンシングメータで測定すること(8頁下から3行〜11行)、また、検知電極12と励起電極14の2つの電極を備え、流体サンプルを収納するサンプル凹部を形成し、被検出成分と反応する酵素等の薬品が入れられている「開口20」を有する「サンプル帯片10」を、検知電極12と励起電極14とにそれぞれ電気的に接続される接点を有する「バイオセンシングメータ22」に挿入して、例えば血液中のグルコースと酵素との反応を測定する装置が記載されている(9頁下から4行〜15頁8行、図1〜図5)。

(2)刊行物2
刊行物2には、下記の事項が記載されている。
(イ)電気化学的感知装置の性能を試験する方法(8頁33〜末行の請求項11)
「11.血液試料中の分析対象物の濃度を測定するための、計器および電気化学的感知手段を含む電気化学的感知装置の性能を試験する方法において、次の工程を含む方法:
a)作用電極および参照電極を含み、作用電極が、分析対象物に対して特異的な酵素と、分析対象物と酵素との反応に応答して還元される種である部分的に還元された媒介物とを含む組成物を表面に有するものである感知手段を有する電気化学的感知装置を提供する工程;
b)感知手段の作用電極と参照電極との間に、それらの電極どうしを電気的に接続することができ、既知濃度の分析対象物を含有し、同様な条件の下で血液試料によって提供されるものとは明確に異なる動的な電流プロフィールを提供する対照溶液を配置する工程;
c)電極間に電位を印加して媒介物の少なくとも一部をその酸化形態に戻して 測定可能なバーン電流を得、その電流を測定する工程;
d)電極に印加されている電位を断って、一定の遅延期間だけ開回路とする工程;
e)電極間に第二の電圧を印加し、対照溶液中の電流を測定してリード電流を発生させ、そのリード電流を測定する工程;および
f)血液試料を用いて得られるであろう動的な電流プロフィールとは明確に異なる対照溶液の動的な電流プロフィールを、バーン電流に対するリード電流の比として測定する工程。」
(ロ)従来の技術(2頁5〜14行、特開平10-10130号公報(以下、単に「公開公報」という。)【0001】参照)
「臨床化学の分野は、体液中の種々の物質の検出および定量に関する。この分野の一つの重要な側面において、個体の血液中に自然に生じる物質、例えばコレステロールまたはグルコースの濃度が測定される。臨床化学において血液試料に対してもっともよく使用される分析装置の一つが試験ストリップである。試験ストリップを血液試料と接触させると、試験ストリップに組み込まれた特定の試薬が、測定される分析対象物と反応して、検出可能な信号を発する。信号は、比色センサの場合のように色の変化であってもよいし、電気化学系を使用して分析対象物と試薬系との反応から生じる電子の量を測定する場合のように、試験される血液試料中の分析対象物の濃度に比例する電流の変化であってもよい。試薬系に酵素を使用するような系は、酵素(生物学的物質)と分析対象物との相互作用に依存して検出可能な応答を得るため、「バイオセンサ」と言うこともできる。」
(ハ)発明が解決しようとする課題(3頁54〜56行、公開公報【0021】参照)
「血液ではなく対照溶液が試験されている場合を感知装置に自動的に検出させる対照溶液および電流測定感知装置試験方法を提供することが望ましく、それが本発明の目的である。」
(ニ)課題を解決するための手段(4頁5〜11行、公開公報【0024】参照)
「本発明は、血液試料中の分析対象物の濃度を測定するのに有用である電気化学的感知装置の性能を試験するための対照水溶液である。電気化学的感知装置は、作用電極および参照電極を含む。作用電極は、その表面に、分析対象物に対して特異的な酵素と、分析対象物と酵素との反応に応答して還元される種である媒介物とを含む組成物を有している。分析対象物の濃度は、作用電極を流れる電流の関数として測定される。装置を作動させて血液中の分析対象物の濃度を測定する間に動的な電流プロフィールが生じ、このプロフィールを、感知装置と電気的に接続した計器によって測定する。」
(ホ)血液(WB)および対照に関する試験の電流プロフィール(6頁34〜51行、公開公報【0041】参照)
「B.(Aの血液試料およびAの対照溶液を用いる試験)
計器がオンであり、センサが感知位置にある状態、すなわちセンサの電極上の接触パッドが計器の電子回路と接触している状態で、電極に0.4ボルトの電位を付した。試料(血液または対照溶液)を、グルコースの存在下で前記の電子化学的反応に介在して電子を提供するグルコースオキシダーゼおよびフェリシアン化物を担持する作用電極を備えたセンサに付した。試料によって濡れると、計器は電流スパイクを検出し、30秒間継続する試験のタイミングを開始した。この最初の10秒間はバーン期間であった。試験開始後10秒目に、バーン電流(i burn)を記録し、電極に印加される電位を断って電極間を開回路とした。「待機期間」と言う開回路状態を10秒間維持して、グルコースと試薬との反応を進行させた。試験開始後20秒目に、0.4ボルトの電位を再び電極に印加して、10秒間のリード期間を開始させた。試験開始後30秒目に、リード電流(i read)を記録し、電極に印加される電位を断った。これで試験を完了した。図1は、血液(WB)および対照に関する試験の電流プロフィールを示す。記録された電流は次のとおりであった。
WB iburn=1586(nA) iread=1127(nA)
対照 iburn=865(nA) iread=955(nA)」
(ヘ)計器による対照試料の検出(6頁53〜58行、公開公報【0042】参照、図1)
「C.(計器による対照試料の検出)
図1から、対照溶液を用いて得られる動的な電流プロフィールが血液を用いて得られるものとは明確に異なることを見てとれる。バーン電流は、対象の場合には、時間とともにゆっくりした単調な増加を示すが、血液試料の場合には、試験開始直後を除き、時間とともに速やかな減衰を示す。バーン電流に対するリード電流の比を使用すると、電流プロフィールにおける差を定量化することができる。」
そして、図1には、バーン期間であっても、リード期間であっても、血液(WB)と対照(USER CNTROL)の場合で、異なる電流プロフィールが得られることが、記載されている。

5.本件発明と刊行物1記載の発明との対比・検討
(1)刊行物1記載の発明
刊行物1の2つの電極のあるサンプル収納凹部を有する「サンプル帯片10」は、流体サンプルを収容するためのセルであって、該セルには医学的に有意な成分と反応する薬品が入れられており、該反応を評価するための第1および第2の端子を備えているものであるし、該反応を評価するため、前記2つの電極にそれぞれ電気的に接続される接点を有する「バイオセンシングメータ22」は、該セルの第1および第2の端子に対し対となる第1および第2の端子を備える器具に相当し、該セルの第1および第2の端子を該器具の第1および第2の端子とそれぞれ接触させて配置することで、該器具が前記反応を評価できるものである。また、刊行物1記載のセルと器具を使用した方法においても、生物学的流体の医学的に有意な成分の濃度測定の正確度を高めようとしているものである。
そうすると、刊行物1には、「生物学的流体の医学的に有意な成分の濃度測定の正確度を高めるための方法であって、流体サンプルを収容するためのセルを設け、該セルには医学的に有意な成分と反応する薬品が入れられ、該反応を評価するための第1および第2の端子を備え、該セルの第1および第2の端子に対し対となる第1および第2の端子を備える器具を設け、該セルの第1および第2の端子を該器具の第1および第2の端子とそれぞれ接触させて配置することで、該器具が前記反応を評価できるようにした方法」が記載されている。

(2)一致点、相違点
ここで、本件発明と刊行物1記載の発明とを対比すると、両者は、
(一致点)
「生物学的流体の医学的に有意な成分の濃度測定の正確度を高めるための方法であって、流体サンプルを収容するためのセルを設け、該セルには医学的に有意な成分と反応する薬品が入れられ、該反応を評価するための第1および第2の端子を備え、該セルの第1および第2の端子に対し対となる第1および第2の端子を備える器具を設け、該セルの第1および第2の端子を該器具の第1および第2の端子とそれぞれ接触させて配置することで、該器具が前記反応を評価できるようにした方法。」
である点で一致するが、次の点で相違する。
(相違点)
本件発明では、「該器具にアセスメントコントローラを備え、該アセスメントコントローラを用いて前記器具の第1および第2の端子に第1の信号を供給し、該第1の信号に対するセルの応答によりサンプルの種類を同定する」のに対し、刊行物1には、該器具であるバイオセンシングメータにアセスメントコントローラを備え、該アセスメントコントローラを用いて前記器具の第1および第2の端子に第1の信号を供給し、該第1の信号に対するセルの応答によりサンプルの種類を同定することは記載されていない点。

(3)相違点についての検討
そこで、前記相違点について検討する。
器具の端子対に測定条件に応じて種々の電気信号を供給する際、器具にアセスメントコントローラを備え、それを用いて端子対に与える電気信号を制御するようなことは、電気信号を用いた測定において普通に行われている事項にすぎない。
また、刊行物2には、使用しているバイオセンサ等の器具、装置についての図示など具体的な記載はないが、電気化学的セルの作用電極と参照電極との間に所定の信号を付与するためには、それらの電極とそれぞれ接触されて配置される端子対を備えた信号の供給や、取り出しを行える器具が必要なことは、技術的に当然のことであるから、前記記載(イ)、(ホ)の記載からして、刊行物2には、流体サンプルを収容し、医学的に有意な成分と反応する薬品が入れられ、該反応を評価するための第1および第2の端子を備えたセルに存在する液体が、サンプルであるか、対照であるかを、該セルの第1および第2の端子に対し対となる第1および第2の端子を備える器具を用いて、該セルの第1および第2の端子を該器具の第1および第2の端子とそれぞれ接触させて配置することで、該器具の第1および第2の端子から供給された信号に対するセルの応答により、同定するようにしていることが開示されている。
刊行物2の前記記載(ホ)の試験では、2種類の信号をセルの電極、即ち端子に供給して、セルに収納させた液体の種類をサンプルであるか、対照であるか同定しているが、図1の電流プロフィールからみて、第1に供給された「0.4ボルトの電位」による「バーン電流」だけでも、「サンプルの種類を同定する」ことができることが可能な、電流プロフィールの相違があることは、刊行物2に図示されている。
そして、セルに収納された液体がサンプルではないのに、サンプルであるとしてその測定信号をサンプル測定結果として取り扱うことは、濃度測定の正確度を損なうことは明らかである。
そうすると、刊行物1に記載された装置を用いる際に、セルの第1および第2の端子に対し対となる第1および第2の端子を備える器具に、アセスメントコントローラを備え、該アセスメントコントローラを用いて前記器具の第1および第2の端子に第1の信号を供給し、該第1の信号に対するセルの応答によりサンプルの種類を同定するようにして、サンプルの種類を同定し、生物学的流体の医学的に有意な成分の濃度測定の正確度をより高めるようにすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る範囲内の事項である。

(4)相違点についての検討結果
したがって、本件発明は、刊行物1〜刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、請求項44に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるので、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-05-06 
出願番号 特願2000-525749(P2000-525749)
審決分類 P 1 652・ 121- Z (G01N)
最終処分 取消  
前審関与審査官 郡山 順  
特許庁審判長 後藤 千恵子
特許庁審判官 河原 正
渡部 利行
登録日 2001-12-14 
登録番号 特許第3260739号(P3260739)
権利者 ロシュ ダイアグノスティックス コーポレーション
発明の名称 生物学的流体の医学的に有意な成分の濃度を測定する装置および方法  
代理人 平木 祐輔  
代理人 関谷 三男  
代理人 阿部 伸一  
代理人 渡辺 敏章  
代理人 清水 善廣  
代理人 辻田 幸史  

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