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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G05D
管理番号 1085930
審判番号 不服2002-4098  
総通号数 48 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1996-11-01 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2002-03-08 
確定日 2003-10-24 
事件の表示 平成 7年特許願第109183号「位置決め装置」拒絶査定に対する審判事件[平成 8年11月 1日出願公開、特開平 8-286758]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成7年4月11日の出願であって、平成14年1月29日付けで拒絶査定がなされ、平成14年3月8日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに、平成14年3月22日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成14年3月22日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成14年3月22日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
平成14年3月22日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本願の明細書における特許請求の範囲の請求項1は、
「X方向およびY方向に移動可能な移動体、前記移動体を移動させる駆動手段、前記移動体のX方向およびY方向に配置され前記移動体の位置を測定するレーザ干渉計、および前記レーザ干渉計の測定値をフィードバックさせて前記移動体を所定の目標位置へ移動させるべく前記駆動手段に対し制御信号を出力する位置決め制御手段を有する位置決め装置において、
前記位置決め制御手段の補償器の位置フィードバックゲインを前記レーザ干渉計で測定した移動体の位置に応じて変化させながら設定する位置フィードバックゲイン設定手段を具備することを特徴とする位置決め装置。」
と補正された。
これは、補正前の請求項1に記載した発明を特定する事項である「位置測定手段」を、「移動体のX方向およびY方向に配置され」た「レーザ干渉計」に限定し、同じく「ゲイン」を「位置フィードバックゲイン」に限定し、さらに、「移動体の位置」を「レーザ干渉計で測定した移動体の位置」に限定するものであって、特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて以下に検討する。

(2)引用文献
ア.原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭62-203203号公報(昭和62年9月7日公開。以下「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。

(ア)「この発明は、モータなどの駆動系によって運動する物体の位置や速度を制御するためのサーボ回路に関する。」(1頁右下欄3〜5行)

(イ)「しかし、制御対象の特性が、位置によって変化する、というようなものもある。
例えば、第5図に示すようなクランク機構の場合がそうである。
モータおよび減速機51よりなる駆動系に、クランク53が取付けられている。これは中心52のまわりに円運動する。中心52を通る直線上に、ガイド54が設けられている。
クランク53の端部にはピン57により連接棒55が回動自在に取付けられている。連接棒55の他端はピン58によって、ガイド54にそって動くようになっている。物体56はピン58に於て連接棒55とつながっている。物体56はガイド54の中を往復運動するが、(モータ)減速機回転角θによって、その慣性が異なってくる。
位置θ1付近では、物体56の慣性は殆ど作用しない。位置θ2付近では、物体56の慣性が大きく作用する。
サーボ系では、運動体の運動が直線運動であっても回転運動であっても、変位の値のことを位置という。位置は、したがって距離と回転角の両方を含む。
第5図のクランク機構のように、位置によって慣性などが変化する運動系では、位置ゲイン、速度ゲインを一定とする従来のサーボ回路によっては、良い応答性を広い位置範囲で得ることが困難になることがある。」(2頁右上欄9行〜左下欄15行)

(ウ)「本発明のサーボ回路は、位置によってゲインを切換えるため、位置をアドレスとして、その位置に対応したゲインを記憶させたゲインメモリを用いて、このような問題を解決しようとする。
・・・位置指令値と位置測定値の差である位置偏差に位置ゲインPを乗じたものと、速度測定値に速度ゲインを乗じたものとの和を出力とするものであって、位置測定値をアドレスとして参照されるゲインメモリを有し、位置ゲインPと速度ゲインDの少なくとも一方が、ゲインメモリの出力によって与えられるようになっている。」(2頁右下欄20行〜3頁左上欄13行)

(エ)「第1図は本発明を位置制御に適応した実施例を示す構成図である。
これは、位置測定値Xmがディジタル信号で得られる位置センサ(図示せず)、および速度測定値Vmがアナログ信号で得られる速度センサ(図示せず)を用いる場合の例である。たとえば、ロータリエンコーダなどを位置センサとし、タコジェネレータなどを速度センサとする場合などである。
この回路の主要な構成は、減算回路1、ゲインメモリ2、加算回路3、D/A乗算器4、D/A乗算器5などである。
減算回路1は、コンピュータなどから与えられる位置指令値Xrと、位置測定値Xmの差である位置偏差δx=Xr-Xmを算出する。
ゲインメモリ2は、位置ゲインP、速度ゲインDを記憶しているメモリである。これらは、位置Xの函数として記憶されている。このため、位置をアドレスとして、そのアドレスの示す場所に、対応する位置ゲインP、速度ゲインDが記憶されている。ここが、本発明の特徴ある点である。位置Xの函数として、ゲインP(X)、D(X)が予め決定されており、アドレスがXである場所に、P(X)、D(X)が記憶されているわけである。位置測定値Xmをアドレス入力につなぐと、なんらの変換を要することなく、直ちにゲインP(X)、D(X)が出力される。ゲインを求めるにあたって、演算による時間遅れがない。
D/A乗算器4は、位置偏差δxと位置ゲインPの積を算出する。つまりPδxを求める。
D/A乗算器5は、速度測定値Vmと速度ゲインDの積を算出する。つまりDVmを求める。
加算回路3は、上記の2つの積の和を求めることにより駆動力指令値fを求める。」(3頁左上欄14行〜左下欄7行)

イ.引用文献に記載のものでは、制御の対象を、モータなどの駆動系によって直線運動や回転運動を行う運動体とし、従来技術に関連する例示として、クランク機構を挙げており、制御対象の運動体は、直線方向や回転方向に移動可能なものであり、モータなどの駆動手段により移動されるものといえる。
また、第1図に記載されるものは、位置に関する制御回路であって、位置測定値が、位置指令値と位置測定値とを減算する減算回路1に入力されていることから、位置測定値はフィードバックされているといえる。
さらに、第1図のものでは、モータなどの駆動手段に対して位置制御のための駆動力指令値fが出力されることから、運動体を目標位置に移動させるべく駆動手段に対し制御信号を出力する位置決め制御手段を有するもので、これらの装置を位置決め装置といえる。
また、位置ゲインPは、ゲインメモリ2から運動体の測定位置に対応して選択され、D/A乗算器4で乗算された結果が加算回路3を通じて駆動力指令値fとなるものであるから、ゲインメモリ2、乗算器4、加算回路3における位置ゲインPを、測定された運動体の位置に応じて位置ゲインPを変化させながら設定する設定手段が存在することも明らかである。

ウ.以上から、引用文献には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「直線方向や回転方向に移動可能な運動体、前記運動体を移動させる駆動手段、前記運動体の移動方向への位置を測定するロータリエンコーダなどの位置センサ、および前記位置センサの測定値をフィードバックさせて前記運動体を所定の目標位置へ移動させるべく前記駆動手段に対し制御信号を出力する位置決め制御手段を有する位置決め装置において、
前記位置決め制御手段のゲインメモリ2、D/A乗算器4、加算回路3の位置ゲインPを前記位置センサで測定した運動体の位置に応じて変化させながら設定する位置ゲインP設定手段を具備する位置決め装置。」

(3)対比
本願補正発明と引用文献に記載の発明を対比すると、後者の「運動体」、「ゲインメモリ2、D/A乗算器3、加算回路3」、「位置ゲインP」は、前者の「移動体」、「補償器」、「位置フィードバックゲイン」に相当し、また、後者の「位置センサ」及び前者の「レーザ干渉計」とも位置測定器であるといえることから、
両発明は、
「移動可能な移動体、前記移動体を移動させる駆動手段、前記移動体の移動方向への移動位置を測定する位置測定器、および前記位置測定器の測定値をフィードバックさせて前記移動体を所定の目標位置へ移動させるべく前記駆動手段に対し制御信号を出力する位置決め制御手段を有する位置決め装置において、
前記位置決め制御手段の補償器の位置フィードバックゲインを前記位置測定器で測定した移動体の位置に応じて変化させながら設定する位置フィードバックゲイン設定手段を具備する位置決め装置。」
である点で一致し、次の点において相違している。

(相違点)
本願補正発明においては、移動体の移動方向がX方向及びY方向であり、位置測定器はレーザ干渉計であって、移動体のX方向及びY方向に配置されるのに対し、引用文献に記載の発明においては、移動方向は直線方向や回転方向であり、クランク機構が例示されており、その移動の位置測定器は、ロータリエンコーダなどの位置センサである点

(4)判断
(1)相違点について
ア.引用文献には、移動体の移動に関しては、直線運動及び回転運動を同時に行うクランク機構が例示されているが、上記(2)ア(イ)のとおり、制御対象の特性が位置によって変化するものの例として、クランク機構を挙げているもので、引用文献に記載された上記発明を適用可能な制御対象は、その特性が位置によって変化するもので、フィードバックゲインをその対象の位置によって変更することが可能なものであれば、特にクランク機構だけに限られるものでないことは明らかである。
一方、本願補正発明も、明細書の【発明が解決しようとする課題】の欄に、「XYステージ1は、XYステージ1の位置によって機械的特性が変化することは避けられない。このため、上記従来例ではXYステージ1の位置にかかわらず補償器4のゲインが固定であるため、・・・というような不具合がある。本発明の目的は、この従来技術の問題点に鑑み、XYステージのすべての位置において、安定、かつ高精度な位置決め装置を提供することにある。」と記載されるように、制御対象のX方向Y方向への移動において、その特性が位置によって変化するものであることから、そのフィードバックゲインを位置によって変化させるもので、引用文献に記載の発明と共通するものである。
また、位置制御を行うべき移動体の移動方向としてX方向及びY方向であることは、周知の技術に過ぎない。

イ.そうすると、引用文献に記載の発明において、移動体の移動方向をX方向及びY方向とすることに、何らの困難性も認められない。
また、X方向及びY方向移動体の位置制御において、位置測定器として、移動体のX方向及びY方向に配置されたレーザ干渉計を用いることは、例えば、特開平5-10748号公報、特開平1-106118号公報にも示されるように周知の技術に過ぎない。

ウ.したがって、相違点に関する本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものと認められる。

(2)以上から、本願補正発明は、引用文献に記載の発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第4項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3.本願発明について
(1)以上のとおり、平成14年3月22日付けの手続補正は却下されたため、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成13年12月13日付けの手続補正書により補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、次のとおりである。
「 X方向およびY方向に移動可能な移動体、前記移動体を移動させる駆動手段、前記移動体の位置を測定する位置測定手段、および前記位置測定手段の測定値をフィードバックさせて前記移動体を所定の目標位置へ移動させるべく前記駆動手段に対し制御信号を出力する位置決め制御手段を有する位置決め装置において、
前記位置決め制御手段の補償器のゲインを前記移動体の位置に応じて変化させながら設定するゲイン設定手段を具備することを特徴とする位置決め装置。」

(2)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献には、上記2(2)のとおりのものが記載されている。

(3)対比、判断
本願発明の構成要件は、上記2で検討した本願補正発明に全て含まれており、本願補正発明は、本願発明をさらに限定したものである。
したがって、本願補正発明が、上記のとおり、引用文献に記載の発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-08-26 
結審通知日 2003-08-27 
審決日 2003-09-09 
出願番号 特願平7-109183
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G05D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森林 克郎  
特許庁審判長 城戸 博兒
特許庁審判官 大野 覚美
村上 哲
発明の名称 位置決め装置  
代理人 伊東 哲也  

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