• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て その他  A01C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01C
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01C
管理番号 1086341
異議申立番号 異議2002-71438  
総通号数 48 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1998-07-07 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-06-07 
確定日 2003-08-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3237754号「農作業機における姿勢制御用センサ零点補償制御装置」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3237754号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3237754号の請求項1及び2に係る発明についての出願は、平成3年1月31日に出願した特願平3-32306号の一部を平成10年1月27日に新たな特許出願とし、平成13年10月5日にその発明について特許権の設定登録がなされ、その後、本件請求項1及び2に係る発明の特許に対し、平成14年6月7日に溝畑典宏より特許異議の申立てがなされ、取消の理由を通知したところ、その指定期間内である平成14年11月25日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2-1.訂正の内容
(1) 訂正事項a
特許請求の範囲について、「【特許請求の範囲】
【請求項1】 農作業機の姿勢変動を検出するための、角速度センサ、加速度センサ等の姿勢制御用センサと、該姿勢制御用センサの検出値に応じてアクチェータにて前記作業機の姿勢制御を実行する姿勢制御手段とを備えた農作業機において、
作動中において検出される前記姿勢制御用センサの複数回の出力値を記憶させ、その複数回の出力値から演算された平均値をもって零点とする制御手段を備えたことを特徴とする農作業機における姿勢制御用センサ零点補償制御装置。
【請求項2】 農作業機の姿勢変動を検出するための、角速度センサ、加速度センサ等の姿勢制御用センサと、該姿勢制御用センサの検出値に応じてアクチェータにて前記作業機の姿勢制御を実行する姿勢制御手段とを備えた農作業機において、
作動中における前記姿勢制御用センサの複数回の出力値を記憶させ、その複数回の出力値から演算された平均値をもって零点とし、この零点を農作業中の適宜時間間隔毎に更新するように制御する制御手段を備えたことを特徴とする農作業機における姿勢制御用センサ零点補償制御装置。」を、
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 農作業機の姿勢変動を検出するための、角速度センサ、加速度センサ等の姿勢制御用センサと、該姿勢制御用センサの検出値に応じてアクチェータにて前記作業機の姿勢制御を実行する姿勢制御手段とを備えた農作業機において、 作動中における前記姿勢制御用センサの複数回の出力値を記憶させ、その複数回の出力値から演算された平均値をもって零点とし、この零点を農作業中の適宜時間間隔毎に更新するように制御する制御手段を備えたことを特徴とする農作業機における姿勢制御用センサ零点補償制御装置。」と訂正する。

(2)訂正事項b
明細書の段落【0008】及び【0009】の記載について、「【0008】
【課題を解決するための手段】前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明の農作業機における姿勢制御用センサ零点補償制御装置は、農作業機の姿勢変動を検出するための、角速度センサ、加速度センサ等の姿勢制御用センサと、該姿勢制御用センサの検出値に応じてアクチェータにて前記作業機の姿勢制御を実行する姿勢制御手段とを備えた農作業機において、作動中において検出される前記姿勢制御用センサの複数回の出力値を記憶させ、その複数回の出力値から演算された平均値をもって零点とする制御手段を備えたものである。
【0009】また、請求項2に記載の発明の農作業機における姿勢制御用センサ零点補償制御装置は、農作業機の姿勢変動を検出するための、角速度センサ、加速度センサ等の姿勢制御用センサと、該姿勢制御用センサの検出値に応じてアクチェータにて前記作業機の姿勢制御を実行する姿勢制御手段とを備えた農作業機において、作動中における前記姿勢制御用センサの複数回の出力値を記憶させ、その複数回の出力値から演算された平均値をもって零点とし、この零点を農作業中の適宜時間間隔毎に更新するように制御する制御手段を備えたものである。」(本件特許公報2頁4欄11〜32行)とあるのを、
「【0008】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明の農作業機における姿勢制御用センサ零点補償制御装置は、農作業機の姿勢変動を検出するための、角速度センサ、加速度センサ等の姿勢制御用センサと、該姿勢制御用センサの検出値に応じてアクチェータにて前記作業機の姿勢制御を実行する姿勢制御手段とを備えた農作業機において、作動中における前記姿勢制御用センサの複数回の出力値を記憶させ、その複数回の出力値から演算された平均値をもって零点とし、この零点を農作業中の適宜時間間隔毎に更新するように制御する制御手段を備えたものである。」と訂正する。

(3) 訂正事項c
明細書の段落【0011】の記載について、「【0011】そして、請求項2に記載の発明によれば、農作業中の適宜時間間隔毎に、前記平均値を演算した結果の零点を更新するので、農作業機を朝から夕方まで使用する時のように、温度変化により零点がずれた場合にも、その都度零点補償が自動的に実行できるから、姿勢制御の精度が一段と向上して円滑な姿勢制御を実現できる効果を有するのである。」(本件特許公報2頁4欄45行〜5欄1行)とあるのを、
「【0011】そして、農作業中の適宜時間間隔毎に、前記平均値を演算した結果の零点を更新するので、農作業機を朝から夕方まで使用する時のように、温度変化により零点がずれた場合にも、その都度零点補償が自動的に実行できるから、姿勢制御の精度が一段と向上して円滑な姿勢制御を実現できる効果を有するのである。」と訂正する。

2-2.訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aは、特許請求の範囲に記載された請求項1に係る発明を削除して、元の請求項2に係る発明を請求項1に係る発明としたものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした明細書の訂正に該当する。
上記訂正事項b及びcは、上記訂正事項aと整合を図るものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とした明細書の訂正に該当する。
そして、上記訂正事項aの訂正における構成は、元の請求項2に記載されているから、上記訂正事項aないしcは、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

2-3.むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立てについての判断
3-1.申立ての理由の概要
特許異議申立人は、下記の証拠を提示し、本件発明の特許は次の理由により取り消されるべきである旨を主張している。
(1)本件請求項1及び2に係る発明は、甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

甲第1号証:特開平2-216412号公報
甲第2号証:「計測技術」,1990年6月号,平成2年6月5日日本工業出版発行,88〜95頁
甲第3号証:「トランジスタ技術SPECIAL No.17」,1989年9月1日CQ出版株式会社発行,102〜105頁
甲第4号証:特開平2-296514号公報
甲第5号証:特開昭64-26161号公報
甲第6号証:特開平2-218916号公報

(2)本件請求項1及び2に係る発明は、甲第7号証に記載された同日出願発明に記載された発明と同一であるから、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。

甲第7号証:特願平10-14060号(特許第3237753号)

(3)本件請求項1及び2に係る発明は、特願平3-32306号の出願(以下、「原出願」という。)から分割されたものであり、本件請求項1に係る発明は、原出願の特許公報である特許第2919096号公報(甲第8号証)の特許請求の範囲請求項2に係る発明と同一であり、原出願に記載されていた2以上の発明を分割したものではなく、1の発明を分割したものであるから、適法な分割出願とは言えない。
よって、本件出願は不適法な分割出願であり、出願日の遡及の利益を享受することができないものであるから、本件請求項1及び2に係る発明の出願日は実際に出願された平成10年1月27日となる。
ゆえに、本件請求項1に係る発明が記載されている原出願の公開公報である甲第9号証は本件出願前に頒布された刊行物となるから、本件請求項1及び2に係る発明は、出願前に頒布された刊行物である甲第9号証に記載された発明である。

甲第9号証:特開平4-349806号公報

3-2.本件発明
上記2.で示したように上記訂正が認められるから、本件特許第3237754号の請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、平成14年11月25日に提出された訂正請求書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】 農作業機の姿勢変動を検出するための、角速度センサ、加速度センサ等の姿勢制御用センサと、該姿勢制御用センサの検出値に応じてアクチェータにて前記作業機の姿勢制御を実行する姿勢制御手段とを備えた農作業機において、
作動中における前記姿勢制御用センサの複数回の出力値を記憶させ、その複数回の出力値から演算された平均値をもって零点とし、この零点を農作業中の適宜時間間隔毎に更新するように制御する制御手段を備えたことを特徴とする農作業機における姿勢制御用センサ零点補償制御装置。」

3-3.特許法第29条第2項について
3-3-1.甲号証に記載された発明
(1)上記甲第1号証には、次の事項が記載されている。
(1-a).「走行機体(18)に相対変位自在に対地作業装置(1)を連結するとともに、その走行機体(18)又は前記対地作業装置(1)の少なくとも何れか一方に水平基準面に対するそれらの変位を検出する変位センサ(14)を設けてある作業機であって、前記変位センサ(14)を、光式ジャイロ変位センサ(13)と重力式変位センサ(11)とで構成してある作業機。」(1頁左下欄5〜12行)
(1-b).「ただし、前記光ファイバー式ジャイロは互いに逆向きに進行する光の位相差を検出するものであるから、光が発信された時点からの相対傾斜角を測定するものであり、累積誤差がでる。
そこで、前記した重力式のセンサを使用して、例えば、この重力式センサが走行機体の水平状態を検出した時点で、前記光ファイバー式ジャイロからの検出値の累積値をクリアーして、0点補正することによって、累積誤差を解消できる。」(2頁右上欄11〜20行)
(1-c).「そして、前記変位センサ(14)からの信号に基づいて作業時にはローリング角設定器(12)で決められた対地ローリング角に維持するよう、前記ローリングシリンダ(7)の伸縮作動量を制御装置(17)で演算し、この演算値となるようにストロークセンサ(15)からの信号に基づいてローリング制御を行うよう制御装置(17)の基本的な動作がセットされている。
前記変位センサ(14)としては、重力式の水平センサ(11)と光フィバー式ジャイロ(13)で構成し、走行機体(18)に取付けられている。」(3頁左上欄6〜16行)
(1-d).「測定方法としては、前記光ファイバー式ジャイロ(13)が相対傾斜角を検出する毎にその角度を加減算して積算を行う。そして、前記水平センサ(11)が水平状態を検出し、その状態が1〜2秒続けば光ファイバー式ジャイロ(13)による検出積算値をクリアーして0点補正する。
したがって、光ファイバー式ジャイロ(13)の積算誤差を解消できる。」(3頁右上欄12〜19行)

(2)上記甲第2号証には、次の事項が記載されている。
(2-a).「そして従来はジャイロと言えば船舶・航空機、あるいは研究用とその市場は限られていたが、近年家電製品、アンテナの方向制御等、多くの新たな用途も出現している。
一方、傾斜計も古くから建設・土木等の世界で使用されているが、近年メカトロニクス、船舶、自動車等においても計測・制御用として用いられている。」(88頁左欄8〜14行)
(2-b).「第7図に電源投入時からの室温でのドリフトの時間依存の様子を、第8図には周囲温度を-10〜+50℃変化させた時のドリフトの様子を示す。第7図より安定後のドリフトは30mV/hであるが、安定するまでに電源投入後10分程度かかっている。また、上記温度範囲に於いては、ドリフトは±0.6Vである。
これらの欠点は、長時間の連続使用時、出力を積分して位置の情報として取り出す場合、角速度の絶対値を必要とする場合等大きな問題である。しかし短時間の使用で絶対値ではなく比較値を得たい場合、または以下に示す三つの方法等により補正できる場合には、これらの欠点はあまり問題とはならない。ワトソン社の角速度センサーはこれらの補正が行えるよう、テスト出力とゼロ入力の端子が用意されている。
(1)絶対値ではなく、比較値としての角速度測定が要求される場合、出力信号を“Washout”あるいは“AC-Coupling”することが有効である。これらは長時間の継続的ドリフトを修正する。第9図 に“Washout”回路の1例を示す。」(91頁左欄末行〜92頁左欄14行)

(3)上記甲第3号証の105頁〈図G〉の「(a)反転型」には、ゼロ点補正回路が示されている。

(4)上記甲第4号証には、次の事項が記載されている。
(4-a).「(1) 駆動用圧電バイモルフ素子と第1の検知用バイモルフ素子とを互いに直交接合してなる第1の振動ユニット、及びモニタ-用圧電バイモルフ素子と第2の検知用バイモルフ素子とを互に直交接合してなる第2の振動ユニットからなりかつ前記第1,第2の振動ユニットを検知軸に沿って互に平行になるように前記駆動用圧電バイモルフ素子と前記モニター用圧電バイモルフ素子の自由端どうしを連結板で連結して音叉構造とした角速度センサと、・・・車両の姿勢を制御する車両用サスペンション制御装置。
(3) 車両の上下方向の変位を検出するセンサは、車両の加速度を検出する加速度センサからなることを特徴とする請求項(1)記載の車両用サスペンション制御装置。
(4) 角速度センサを複数個配置し、車両の走行する路面に平行でかつ車両のロール変位検出軸を持つ第1のセンサと、車両のピッチ変位検出軸を持つ第2のセンサとを設けたことを特徴とする請求項(1)記載の車両用サスペンション制御装置。」(1頁左下欄5行〜右下欄16行)
(4-b).「第2図は上述したセンサ、制御ユニット、アクチュエ-夕を車両に実装した図で、第1の角速度センサ11xは車両の進行方向であるX軸を検出軸になるよう取付けられており車両のロール方向の変位を検出する。第2の角速度センサ11yは車両の車幅方向であるY軸を検出軸になるように取付けられており車両のピッチ方向の変位を検出する。」(3頁右下欄18行〜4頁左上欄4行)

(5)上記甲第5号証には、次の事項が記載されている。
(5-a).「そのため従来の走行経路表示装置では、自動車の停止のたびごとにそのときの角速度センサによる角速度検出値をドリフト分として検知し、その検知されたドリフトを単純にその後の走行時における角速度センサの出力から差し引くことにより角速度センサによる角速度検出値の零点調整を逐次行なわせるようにしている。」(2頁右上欄6〜12行)
(5-b).「また、本発明は、自動車などの移動体の停止中に角速度センサから出力される角速度検出値を順次重みづけしたうえで平均化処理してその平均値をドリフト分としてその後の走行時における角速度センサの出力から差し引くようにして角速度センサの零点調整の精度を向上させるようにする」(2頁左下欄17行〜右下欄2行)
(5-c).「また、自動車の停止状態が検知されたときには、信号処理装置8はそのときドリフト補正された偏角信号Δθ-Dを零としてその累積加算が行なわれないようにする。」(3頁左下欄下から9〜6行)
(5-d).「特に本発明による角速度センサの零点調整方法では、信号処理装置8において、自動車の停止状態が検知されたときにA・D変換器3から送られてくる偏角信号Δθを読込んで順次重みづけしたうえで平均化する低域通過フィル夕処理を実行させることにより、停止期間中における偏角信号Δθに平均値を角速度センサ1のドリフト値Dとして記憶させるようにしている。」(3頁左下欄末行〜右下欄8行)

(6)上記甲第6号証には、次の事項が記載されている。
(6-a).「温度変化によってセンサ出力の零点が変動する温度ドリフト等のドリフトは、角速度センサの性能向上のうえで大きな問題となっており、これを極力なくすことが望まれるが、従来の角速度センサは、上記の通り角速度センサの角速度検出軸(以下、センサ軸という)を固定的に設置しており、角速度が加わっていない状態における出力をドリフト出力として零点の調整を行っている。しかしながら、このような零点ドリフト補正方法では、角速度センサを使用中に零点ドリフトの補正を行うことができないので、センサ出力の信頼性が低下する。
本発明は上記従来の欠点を解消するためになされたもので、角速度センサを使用中にもセンサ出力の零点ドリフトを補正することのできる角速度センサの補正方法を提供することを目的とする。」(2頁左上欄2〜17行)
(6-b).「本発明は、角速度センサの角速度検出軸Kを被検出軸zに対して随時傾斜させ、その傾斜角θと、この時のセンサ出力Eθと、角速度センサの角速検出軸Kを被検出軸zと平行にした時のセンサ出力Eoとに基づいて角速度センサ出力の零点ドリフト補正を行うことを特徴とする角速度センサの補正方法である。」(2頁左上欄19行〜右上欄5行)
(6-c).「角速度が加わっている間にも、つまり角速度センサの使用中にもセンサ出力の零点ドリフトを補正することができ、常に、加わった角速度に対応する正しいセンサ出力Erを得ることができる。」(2頁右上欄19行〜左下欄3行)
(6-d).「一定の時間間隔ごとに傾斜させる間欠的な傾斜のさせ方、あるいは常時揺動させる連続的なさせ方、あるいは、必要に応じて傾斜させる方法など、任意である。」(2頁右下欄7〜10行)

3-3-2.対比・判断
本件発明と上記3-3-1.に摘記した事項から把握される甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明を比較すると、
甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明は、少なくとも本件発明を特定する事項である「作動中における前記姿勢制御用センサの複数回の出力値を記憶させ、その複数回の出力値から演算された平均値をもって零点とし、この零点を農作業中の適宜時間間隔毎に更新するように制御する制御手段を備えた」構成をまったく備えていない。
そして、上記構成が自明であるとも、本件特許が出願された時点で周知であるということもできない。
したがって、本件発明は甲第1号証ないし甲第6号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3-4.特許法第39条第2項について
3-4-1.同日に出願された発明
本件発明についての出願と同日に出願されたと認められる同日出願発明(特願平10-14060号[特許第3237753号]の請求項1に係る発明。甲第7号証。)は、次のとおりのものである。
「農作業機の姿勢変動を検出するための、角速度センサ、加速度センサ等の姿勢制御用センサを設け、該姿勢制御用センサの検出値に応じてアクチェータにて農作業機の姿勢制御を実行するように構成して成る制御装置において、
該制御装置には各種演算を実行する中央処理装置を備え、前記農作業の実行中には、前記制御装置に前記姿勢制御用センサの信号を複数回入力し、前記中央処理装置にて前記姿勢制御用センサの入力値を平均化処理して、当該姿勢制御用センサの零点補償制御を実行することを特徴とする農作業機における姿勢制御用センサ零点補償制御装置。」

3-4-2.対比・判断
本件発明と同日出願発明とを比較すると、
本件発明における「作業機の姿勢制御を実行する姿勢制御手段」が、
同日出願発明の「農作業機の姿勢制御を実行するように構成して成る制御装置」に相当する。
したがって、両者は「農作業機の姿勢変動を検出するための、角速度センサ、加速度センサ等の姿勢制御用センサと、該姿勢制御用センサの検出値に応じてアクチェータにて前記作業機の姿勢制御を実行する姿勢制御手段とを備えた農作業機において、
作動中における前記姿勢制御用センサの複数回の出力値を記憶させ、その複数回の出力値から演算された平均値をもって零点とする制御手段を備えたことを特徴とする農作業機における姿勢制御用センサ零点補償制御装置。」である点で一致し、
本件発明は「零点を農作業中の適宜時間間隔毎に更新するように制御する」構成であるのに対して、
同日出願発明は上記構成を有しない点で相違する。
上記相違点について検討すると、
同日出願発明において、上記相違点が実質的に記載されているとは認められない。
したがって、本件発明は同日出願発明と同一ではない。

3-5.特許法第29条第1項第3号について
異議申立人は、本件請求項1及び2に係る発明は、原出願から分割されたものであり、本件請求項1に係る発明は、原出願である特許第2919096号(甲第8号証)の請求項2に係る発明と同一であり、原出願に記載されていた2以上の発明を分割したものではなく、1の発明を分割したものであるから、適法な分割出願とは言えず、本件発明の出願日は実際に出願された平成10年1月27日となる旨を主張する。
しかしながら、上記2.で示したように、平成14年11月25日に提出された訂正請求により、請求項1に係る発明が削除され、元の請求項2に係る発明を請求項1に係る発明とする訂正がなされている。
よって、本件発明は、原出願の請求項2に係る発明と同一ではなく、適法な分割出願であり、出願日の遡及の利益を享受することができる。
したがって、甲9号証に記載された発明は本件出願前に頒布された刊行物ではないから、本件発明は特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないとは言えない。

3-6.むすび
以上のとおりであるから、異議申立の理由及び証拠によっては本件発明についての特許を取り消すことができない。
また、他に本件発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認められない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
農作業機における姿勢制御用センサ零点補償制御装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 農作業機の姿勢変動を検出するための、角速度センサ、加速度センサ等の姿勢制御用センサと、該姿勢制御用センサの検出値に応じてアクチェータにて前記作業機の姿勢制御を実行する姿勢制御手段とを備えた農作業機において、作動中における前記姿勢制御用センサの複数回の出力値を記憶させ、その複数回の出力値から演算された平均値をもって零点とし、この零点を農作業中の適宜時間間隔毎に更新するように制御する制御手段を備えたことを特徴とする農作業機における姿勢制御用センサ零点補償制御装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、圃場に苗を植付けする田植機等の農作業機の左右水平姿勢を保持(ローリング姿勢制御)したり、この農作業機の前後水平姿勢を保持(ピッチング姿勢制御)するための姿勢制御用センサに関し、該姿勢制御用センサの零点補償を実行する制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、乗用型田植機により圃場に苗を植付ける場合、走行機体の前部または後部に苗植装置を左右回動及び前後回動可能に装着し、苗植装置には、その進行方向左右に適宜間隔で植付機構を設け、田植機の進行につれて上下回動する植付機構にて苗植装置における苗載台の苗マットを適宜株数ごとに分割しながら圃場面に植付けるように構成することは、例えば、先行技術の特開平2-135015号公報や特公昭57-27682号公報に開示されており、この特開平2-135015号公報では、苗植装置の左右水平姿勢を保持する制御(ローリング制御)の際の検出手段として、苗植装置とその下方のフロートとの間に設けた接地圧センサの検出信号を利用することが開示されている。
【0003】
また特公昭57-27682号公報では、苗植装置の前後傾動姿勢を無くするように略水平状に姿勢保持しようとする姿勢制御(ピッチング制御)に際して、傾斜センサ(傾斜角度検出センサ)の検出信号を利用することが開示されている。
しかしながら、この種のセンサだけでは、苗植装置の姿勢変動程度を的確に把握できず、姿勢制御に遅れが生じる等の不都合があるため、本出願人は、先に、特願平2-223376号において、苗植装置に、その傾きの速度を検出することができる速度センサ(角速度センサ)や、苗植装置の傾きの加速度を検出できる加速度センサを設けることを提案した。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、前記姿勢制御用センサでは、電源をONにしてから出力信号が安定するまでの時間が掛かるという起動特性及び環境の温度により出力信号の零点が変動するという温度ドリフト特性がある。つまり、これらのセンサにおいては、変位(傾斜角度、角速度、加速度)等の姿勢変動自体がない状態であっても、出力信号の零点が大きく変動するという問題がある。
【0005】
また、前記田植機等の農作業機においては、他の精密機械とは異なり、作業開始のスイッチを入れると、すぐに作業を実行するのが通常であり、前記の零点補償を一々実行するのは、煩わしいという問題がある。特に、姿勢制御用センサの種類が多くなると、その一つのセンサごとに零点補償を実行するとすれば、益々作業が煩わしくなる。
【0006】
さらに、この種の農作業機においては、野外の作業が中心で、この農作業機に取付く前記姿勢制御用センサも温度等の環境変化の影響を受け易いから、早朝の作業開始時に零点補正(零点補償)しても、昼からの作業再開ときにはその零点補償を再度実行しなければならないという煩わしさがある。
それにも拘らず、このような零点補正を実行しないで、作業機を作動させると、前記姿勢制御の精度が悪化し、苗植装置においてはその左右での苗植え深さにばらつきが出る等の農作業に不都合が生じるのであった。
【0007】
そこで、本発明では、この種の農作業機においては、連続運転状態はまれであり、作業動作(走行しながらの苗植作業動作)の間に非作業動作(走行停止して苗マット継ぎ足し作業する動作等)が入ることから、農作業機が中立状態、例えば左右水平姿勢状態となることが度々あることに鑑み、この現象を利用して姿勢制御用センサの零点補償を行うこと、および、この種の姿勢制御用センサの出力信号値が正負の値を採りうるものであることを利用して零点補償を実行することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明の農作業機における姿勢制御用センサ零点補償制御装置は、農作業機の姿勢変動を検出するための、角速度センサ、加速度センサ等の姿勢制御用センサと、該姿勢制御用センサの検出値に応じてアクチェータにて前記作業機の姿勢制御を実行する姿勢制御手段とを備えた農作業機において、作動中における前記姿勢制御用センサの複数回の出力値を記憶させ、その複数回の出力値から演算された平均値をもって零点とし、この零点を農作業中の適宜時間間隔毎に更新するように制御する制御手段を備えたものである。
【0009】
【0010】
【発明の作用及び効果】
このように、請求項1に記載の発明によれば、農作業機の左右ローリングまたと前後ピッチングのように水平に対して変動する姿勢の程度を検出する姿勢制御用センサの出力信号値は、当該農作業機の時計方向回動時と反時計方向回動時とで、正負反対の値を採るから、作動中の前記姿勢制御用センサ前記姿勢制御用センサの出力信号を複数サンプリングして、その複数回の検出値の平均値を採れば、その平均値は本来的な零点に極めて近いものとなり、人手を煩わすことなく、零点補償を自動的に実行することができるという効果を奏する。
【0011】
そして、農作業中の適宜時間間隔毎に、前記平均値を演算した結果の零点を更新するので、農作業機を朝から夕方まで使用する時のように、温度変化により零点がずれた場合にも、その都度零点補償が自動的に実行できるから、姿勢制御の精度が一段と向上して円滑な姿勢制御を実現できる効果を有するのである。
【0012】
【発明の実施の形態】
次に、図面を参照しながら本発明を具体化した実施形態(走行機体と苗植装置とからなる農作業機としての田植機に適用した実施例)について説明すると、図において1は乗用型田植機における走行機体を示し、該走行機体1は、車体フレーム2とその前部側に取付く前車輪3,3と後部側に上下回動自在なスイングケース4,4を介して取付く後車輪5,5とからなり、車体フレーム2の上面には操縦座席6と操縦ハンドル7とを備え、車体フレーム2前部上面のエンジン8の駆動力を、動力伝達部ケース9内の変速機構およびスイングケース4,4を介して後車輪5を駆動する構成である。
【0013】
前記走行機体1の後部に平行リンク機構11を介して上下動自在に取付く苗植装置10は、中央伝動ケース12と、この中央伝動ケース12の左右両側に、伝動軸を内挿した連結パイプ12aを介して適宜間隔で取付く植付伝動ケース14,14と、上端が走行機体に近付くように傾斜配設する横往復動自在な苗載台15とからなり、左右両植付伝動ケース14の後部左右両側には、苗載台15下端の苗取り出し口と圃場面17との間で植え付け爪が昇降する苗植付機構16が設けられている。
【0014】
また、平行リンク機構11を走行機体1側の油圧シリンダ13にて大きく昇降駆動する。
前記平行リンク機構11は、トップリンク18と左右一対のロワーリンク19,19とから成り、トップリンク18の基端は車体フレーム2に立設する門型フレームにピン枢着され、トップリンク18,ロワーリンク19,19の各先端が取付く門型支柱20は、苗植装置10におけるヒッチ部21のローリング軸22と回動自在に連結されて、苗植装置10は、その下面のフロート10aが圃場面を滑走するように、ローリング軸22を中心にして走行機体1の左右に上下回動(ローリング)できる構成である。
【0015】
左右両植付伝動ケース14,14に突出するガイド部23,23に苗載台15の裏面下端のレール24に摺動自在に被嵌する一方、苗載台15の裏面上部側の案内レール25は前記左右両植付伝動ケース14,14から突設した一対の支柱26,26上端のコロ部27,27にそれぞれ摺動自在に被嵌する。
前記門型支柱20に取付くブラケット28には、ローリング制御用アクチェータである横往復型の油圧シリンダ29を固定し、該油圧シリンダ29における左右移動自在なピストンロッド30の両端を前記左右一対の支柱26,26に取付く連結杆32に自在継手部31を介して回動自在に装着してある。
【0016】
前記エンジン8からの動力は、主クラッチ33を介して動力伝達部ケース9内の変速機構に伝達し、後車輪5を駆動する一方、PTO軸34を介して苗植装置10に伝達される。
なお、符号35は主クラッチ33のオンオフ用アクチェータ、36は走行変速用アクチェータ、37は走行クラッチ用アクチェータである。
【0017】
前記操縦ハンドル7に関連したステアリングギアボックス38から突出する前後揺動自在なアーム39の回動にて操作できる制御弁40は、油圧回路41における油圧シリンダ42を作動させるもので、この首振り自在な油圧シリンダ42に連結したステアリング機構43におけるステアリングアーム44は、回動支点45廻りに回動自在であり、該ステアリングアーム44に連結する一対のタイロッド46,46にて前車輪3,3の向きを変更して操向操作できる機構であり、油圧回路41におけるもう一つの電磁ソレノイド制御弁47は自動操向制御用であり、符号48は前記ローリング(水平姿勢)制御用の電磁ソレノイド制御弁である。
【0018】
また符号49は走行機体の操向角度を検出するために前記回動支点45箇所に設けたポテンショメータ等からなるステアリングセンサで、該ステアリングセンサ49の出力信号を、後述するマイクロコンピュータ等の電子制御式の制御手段69に入力する。
【0019】
符号51は、苗植装置10等の作業機の圃場面に対する左右傾斜角度を検出するため、苗植装置10の適宜箇所に設けた傾斜センサで、該傾斜センサ51は、図6に示すように、ケース52内に軸53を中心に回動自在な振子54付きの可動コイル55を設けると共に、R0,R1,R2からなるブリッジ回路と、発光素子であるLED1と、LED2、及び受光素子PT1,PT2の左右一対のフオトカプラと外部電源Eとからなる。
【0020】
傾斜センサ51が水平状態では受光素子PT1,PT2の受光量が等しくブリッジ回路はバランスしている。傾斜角度(θ1)傾斜すると、振子54は重力方向(鉛直方向)になるように残り、光遮断板54aにて一方の受光素子PT1の受光は遮断され、他方の受光素子PT2は光を受けてONとなり、ブリッジ回路のバランスが崩れて電流が可動コイル55に流れ、その電流により可動コイル55に生じる回転トルクと振子54の重量によるモーメントが平衡したところ(θ2)で当該振子54が停止し、そのときの電流値(I)が出力信号となり、これは傾斜角度(θ1)に比例するものである(図6参照)。
【0021】
図7に示す符号58は、音叉振動型の角速度センサで、圧電バイモルフからなる駆動素子59とモニタ素子60との底部を連結ブロック61で連結する一方、前記駆動素子59とモニタ素子60とに、同じく圧電バイモルフからなる検知素子62,63を各々直交結合して音叉構造を形成したもので、駆動素子59にのみ電圧を印加して振動させると、連結ブロック61を介してモニタ素子60が振動する。モニタ素子60の振動振幅・位相をモニタすることで印加電圧を制御するという振動帰還制御方式にて駆動振動の周波数の安定を図る。
【0022】
そして、この安定状態で、角速度センサに図7のセンサ軸64回りに角速度ωの回転運動があると、検知素子62,63の振動方向(X-X方向)と直角の方向にコリオリの力Fcが生じる。このコリオリの力により撓みを生じた駆動素子59とモニタ素子60側の各々検知素子62,63からその撓みに応じた電圧を検出できるから、これにより角速度を検出することができるのである。
【0023】
符号65は、苗植装置10のローリング軸22の近傍に設けた加速度センサで、苗植装置10がローリング軸22の軸心を中心に左右回動するときの加速度を検出することができ、ケース内に薄い円板状のピエゾプラスチックフイルムを振動子として装着してあり、円周上を固定したダイヤフラム構造のため加速度方向の垂直・水平成分の分離ができるものである。
【0024】
図8は前記苗植装置10の左右ローリング姿勢を示し、図9の(a),(b),(c)は、前記苗植装置10が左右水平状態であるA点から左側のB点まで傾いた後、前記A点に復帰し、さらに該A点から右側のD点まで傾く姿勢変動をする(苗植装置10がA点を中心にして左右に振り子運動する)ときの、傾斜センサ51、角速度センサ58、加速度センサ65の出力信号の状態を示す。即ち、傾斜センサ51の出力信号は、図9の(a)に示すように、横軸に時間を採り、縦軸に出力信号を採る。このとき、苗植装置10が図8でA点からB点方向に左下り傾斜するとき、零点より上側の+の値を採る。
【0025】
図9の(b)に示すように、横軸に時間を採り、角速度センサ58の出力信号(縦軸に採る)は、反時計方向回動のときの角速度に対して正値、時計方向回動のときに対して負値とする。図9の(c)に示すように、横軸に時間を採り、角加速度センサ65の出力信号(縦軸に採る)は、時計方向回動時の増速で正勾配とし、反時計方向回動時の増速で負勾配とする。
【0026】
符号66、67、68は、前記各センサ51、58、65に対応させて設けた増幅回路付きのA/D変換器である。
図3に示す制御手段69は、8ビットの1チップマイクロプロセッサ等からなるマイクロコンピュータであって、姿勢制御のためのファジィ推論等のプログラム制御を実行するものであり、各種演算及びファジィ推論の演算を実行する中央処理装置(CPU)と、初期値や制御プログラムを予め記憶する読み取り専用メモリ(ROM)と、時間的に変化する入力信号等をそのつど記憶し演算時に出す読み書き可能メモリ(RAM)と、入出力部に接続するインターフェイス等を備えている。
【0027】
インターフェイスの入力部には、前記各センサ51、58、65からの出力信号、および、走行クラッチの切り替え作動に連動したクラッチスイッチ70の信号を入力する。
走行クラッチ用アクチェータ37の操作に応じて作動するクラッチスイッチ70の出力信号は、走行クラッチが切り(走行停止)のときONとなり、走行クラッチが入り(走行中)は、OFF信号を出す。
【0028】
インターフェイスの出力部には、前記操舵操作のための油圧シリンダ42を駆動する制御弁47の電磁ソレノイド71,72のほか、ローリング制御のための制御弁48に対する電磁ソレノイド73,74を接続する。
【0029】
次に、前記姿勢変動を検出する姿勢制御用センサのうち角速度センサ58の零点を補正する、いわゆる零点補償の制御装置とその調節方法について述べる。
該零点補償制御装置は、前記マイクロコンピュータ等の制御手段69を使用するものであり、マイクロコンピュータでのプログラムによる、ソフト的調節方法を採用する。
【0030】
図10は角速度センサ58の感度特性を示し、前述したように、反時計方向回動のときの角速度(°/s)に対して出力信号(V:電圧)を正値とし、時計方向回動のときの角速度に対して出力信号が負値なる直線的増加関数である。
また、図11は、角速度センサ58の起動時間特性を示し、角速度センサ58への電源投入からの時間経過(分)に応じて、角速度が零のときの当該角速度センサ58の出力信号値が零点からどの程度ずれているかの状態を示す。
【0031】
この図から理解できるように、電源投入の初期段階では、被検出物(この場合苗植装置10)に角速度が生じていないのに、出力信号値は有限値(零でない)を示し、時間経過に従って出力信号値は零点に近づく。
図12はいわゆる温度ドリフト特性を示し、角速度零状態での角速度センサ58の設置した箇所の環境温度(℃)による当該角速度センサ58の出力信号値が零点からどの程度ずれているかを示すものである。このセンサでは、20℃近傍において出力信号値は零であり、温度上昇につれて負値側にずれ、温度低下につれて正値側にずれる。
【0032】
このように、角速度センサの出力信号値が零点からずれている状態のまま、姿勢制御を実行すると、苗植装置の姿勢は正常であるのに、悪い方向に姿勢制御されてしまい、制御の精度が低下する。この不都合を解消するための零点補償の方式として本願は2種類採用する。
また、田植機等の農作業機においては、連続運転状態はまれであり、作業動作(走行しながらの苗植作業動作)の間に非作業動作(走行停止して苗マット継ぎ足し作業する動作等)が入ることから、農作業機が中立状態、例えば左右水平姿勢状態となることが度々あることに鑑み、この現象を利用して姿勢制御用センサの零点補償を行うこと、および、この種の姿勢制御用センサの出力信号値が正負の値を採りうるものであることを利用して零点補償を実行する。
【0033】
零点補償の制御方法の一つは、田植機が走行していない状態では、苗植装置の姿勢が安定して左右水平姿勢を採ることができること、つまりその状態では角速度センサの出力信号値は本来的に零点に近づくであろうことに鑑み、また、角速度センサの設置された環境温度の変化が電源投入からの時間経過につれて生じることを考慮して、走行機体に設けた走行クラッチの入り切り操作を検出するクラッチセンサ、又は、車速を検出する車速センサを設け、走行クラッチの切り時間帯、又は走行停止時間帯に同期させて前記姿勢制御用センサである角速度センサの検出値を複数回読み取り、その平均値を零点とし、前記走行クラッチの操作ごと又は走行停止ごとに、前記零点を更新するのである。
【0034】
この零点補償の制御を図13(タイムチャート)および図14と図15のフローチャートに従って説明する。
図13(a)は走行クラッチの入り(動力伝達あり)と切り(動力伝達なし、)の状態を示し、図13(b)は 走行機体1の速度の変化を示す。また図13(c)は角速度センサ58の出力信号値を示す。これらの図において、横軸は時間経過である。
【0035】
図13において、t0は走行クラッチを入りから切りに切替え操作してから走行機体1が停止するまでの時間であり、t1は走行クラッチを切りに切り替え操作してから角速度センサ58の出力信号値読み取り開始までの待ち時間、t2は角速度センサ58の出力信号値読み取り所要時間である。このt2時間内に前記角速度センサ58の出力信号値を複数回読み取る。例えば一回の出力信号値読み取り所要時間であるサンプリング時間を6ms程度とするとき、50回程度とし、t2時間を300ms〜500ms程度とする。
【0036】
そして、前記待ち時間t1が走行機体1の停止までの時間t0より大きくなるように設定する。従って、走行クラッチの切り状態の時間が前記待ち時間t1より短い場合には、零点補償を実行しない(図13におけるt3の箇所参照)。
【0037】
図14はメインフローチャートで、スタートに続きステップS1でローリング制御の初期値設定や前記のt0,t1,t2等の時間を判断するためのタイマーの初期値設定をする(t←0)。
次にステップS2で姿勢制御を実行するための自動スイッチ75がONであるか否かを判別し、自動スイッチ75がOFFであるときは(S2:OFF)、手動スイッチ(図示せず)により作業者が手動で姿勢の変更を行うことができる(ステップS3)。
【0038】
ステップS2で自動スイッチ75がONのとき、次いでステップS4で苗植装置10を作動させる植付けスイッチ76のON・OFFを判別し、これがOFFのときには、自動の姿勢制御を実行する必要はない。
前記ステップS4でONと判断すると、とりあえず、苗植装置10が静止状態での前記角速度センサ58の初期出力信号値Voを零点として読み取り(ステップS5)、姿勢制御を実行しつつ苗植作業を行う(ステップS6)。
【0039】
なお、その後、作業者が苗植え作業の中断や自動姿勢制御の中断を実行するため、植付けスイッチ76や自動スイッチ75を切り替えることがある。植付けスイッチ76をOFFにすれば(ステップS7)、苗植え作業の中断であると判断し、苗植装置10が左右水平状態となるように、油圧シリンダ29を作動させて強制的に中央復帰させる(ステップS8)。
【0040】
また、ステップS9で自動スイッチ75がOFF(自動姿勢制御を停止)であると判断するとき、次いでステップS10で走行クラッチ操作に連動するクラッチスイッチ70のON・OFFにて走行クラッチの入り・切りを判断する。
このステップS10でクラッチスイッチ70がOFF(走行中)であると判断すると、前記ステップS2の前に戻る。クラッチスイッチ70がON(走行停止)であると判断する(例えば苗マット継ぎ足し作業のための苗植作業中断等)と、後述する零点補償のサブルーチンを実行(ステップS11)した後、ステップS2の前に戻る。
【0041】
前記ステップS7およびステップS9で、植付けスイッチ76も自動スイッチ75もONの状態において、ステップS12でクラッチスイッチ70がON(走行停止)であると判断すると、前記と同様に零点補償のサブルーチンを実行する(ステップS13)。これは、例えば、苗植装置10を圃場に下ろした状態で一時停止するような場合である。
【0042】
次に図15に示す零点補償のサブルーチンフローチャートについて説明すると、スタートに続くステップP1では、クラッチスイッチ70がON(走行停止)からタイマーが作動し、時間tをカウント開始する。次いでステップP2で、前記タイマーの時間tがt0(走行機体1の走行停止に要する時間)を越えたか否かを判別する。越えていない(no)のときには、零点補償を実行しないので、エンドとなる。
【0043】
ステップP2でt>t0のときには、ステップP3で、タイマーの時間tが時間t1(角速度センサ58の出力信号値読み取り開始までの待ち時間)を越えたか否かを判別する。そして、t>t1のときには、角速度センサ58の出力信号値読み取りを複数回実行すべく、読み取り回数n(その初期値は0である)に「1」を加えて(ステップP4)、角速度センサ58の出力信号値Vnを読み取り(ステップP5)、読み取り回数nをカウントする(ステップP6)。ついで、ステップP7にて、時間tが時間t2(角速度センサ58の出力信号値読み取り所要時間)を経過したか否かを判別し、経過するまでステップP4からステップP6までを繰り返す。
【0044】
ステップP7で、t>t2であると判断すると(P7:yes)、前記複数回読み取った出力信号値Vnの平均値Vaを演算し、記憶させる(ステップP8)。
次に、ステップP9でクラッチスイッチ70がOFFに切り替えられた(走行再開する)か否かを判別し、走行再開すると判断したときには(P9:yes)、前記演算された平均値Vaを古い平均値Vaと置き換える更新を実行する(ステップP10)。この更新された新しい平均値Vaを、走行機体1の走行停止中における苗植装置10の左右水平状態時における角速度センサ58の出力信号値(零点)であるとする、零点補償を実行するのである(ステップP11)。
【0045】
このようにすれば、苗植装置10が左右水平姿勢をとることが自然である、走行機体1の走行停止状態における、角速度センサ58の複数回の出力信号値の平均値を採用することで、その零点を正確に検出できる。また、田植機の走行停止ごとに前記平均値を更新するので、田植機を朝から夕方まで使用する時のように、温度変化により零点がずれた場合にも、その都度、零点補償が自動的に実行できるから、姿勢制御の精度が一段と向上する。
【0046】
なお、前記実施例において、走行機体1の走行停止状態と走行状態を判別する手段としてクラッチスイッチ70を利用したが、これに代えて、車速センサの検出値を利用しても良い。
【0047】
零点補償を実行する他の方式は、苗植装置の左右ローリングの変動速度程度を検出するためには、これに装着する角速度センサの出力信号値は、前述したように、苗植装置の時計方向回動時と反時計方向回動時とで、正負反対の値を採るものであることが必要である一方、ローリングする苗植装置が安定状態になるには、左右往復揺動することが多いことに鑑みて、角速度センサの作動中であっても、複数回の検出値の平均値を採るものである。このようにすると、その平均値は本来的な零点に極めて近いものとなる。
【0048】
この実施例としては、苗植え作業を実行中に前記角速度センサ58の出力信号値Vnを複数回検出(サンプリング)・記憶し、その平均値を演算して、その平均値を零点とみなすものである。
角速度センサ58の出力信号の一回当たりのサンプリング所要時間は略6ms(ミリ秒)、苗植装置10が左右に揺れる振幅時間は、苗植作業速度や圃場の土の硬質、軟質等により相違するが、300ms〜800ms程度であるから、前記平均値をとるのに必要なサンプリング所要時間を約10秒程度とすることで、苗植装置が複数回の左右往復揺動するときの出力信号値(正負の値)を多数サンプリングできる。従って、零点補償の精度が向上する。
【0049】
なお、日中において、気温の変化の早さ、ひいては温度ドリフトで零点が変動する早さ、換言すると、零点補償に影響する程の温度変化に要する時間は、前記10秒よりはるかに長いと考えられるので、これより長い時間間隔例えば30秒〜1分程度ごとに前記演算された平均値を更新することで、時間経過に伴う環境の温度変化での温度ドリフトにも対処することができる。
【0050】
前記実施例では、いずれも苗植装置10に搭載された角速度センサ58について説明したが、傾斜センサ51や、加速度センサ65についても同様に姿勢の変動に応じて正負の値を採り得るから、零点補償を実行することができるのは言うまでもない。
さらに、前記傾斜センサ、角速度センサ及び加速度センサを使用して、苗植装置の前後回動姿勢の変動を検出して、ピッチング姿勢制御を実行する場合にも適用できる。このようにローリング姿勢制御やピッチング姿勢制御において、傾斜センサと角速度センサと加速度センサの検出結果を用いてファジィ推論を適用し、苗植装置と走行機体との間に装架した姿勢修正駆動手段のアクチェータを作動させる制御を実行する場合にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
乗用型田植機の側面図である。
【図2】
乗用型田植機の平面図である。
【図3】
苗植装置と走行機体との連結部の要部側面図である。
【図4】
制御装置のブロック図と油圧回路を含む作用説明図である。
【図5】
図3のV-V視図である。
【図6】
傾斜センサのブロック図である。
【図7】
角速度センサの斜視図である。
【図8】
苗植装置のローリング状態を示す説明図である。
【図9】
(a)は左右の傾斜角度の変動状態を示す図、(b)は角速度の変動状態を示す図、(c)は加速度の変動状態を示す図である。
【図10】
角速度センサの感度特性を示す図である。
【図11】
角速度センサの電源投入後の零点変動を示す図である。
【図12】
角速度センサの温度ドリフト特性を示す図である。
【図13】
タイムチャートである。
【図14】
メインフローチャートである。
【図15】
サブルーチンフローチャートである。
【符号の説明】
1 走行機体
3,5 車輪
10 苗植装置
15 苗載台
16 植付機構
11 リンク機構
22 ローリング軸
51 傾斜センサ
58 角速度センサ
65 加速度センサ
69 制御手段
70 クラッチスイッチ
75 自動スイッチ
76 植付スイッチ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-08-11 
出願番号 特願平10-14061
審決分類 P 1 651・ 5- YA (A01C)
P 1 651・ 113- YA (A01C)
P 1 651・ 121- YA (A01C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 山田 昭次吉田 英一  
特許庁審判長 藤井 俊二
特許庁審判官 瀬津 太朗
渡部 葉子
登録日 2001-10-05 
登録番号 特許第3237754号(P3237754)
権利者 ヤンマー農機株式会社
発明の名称 農作業機における姿勢制御用センサ零点補償制御装置  
代理人 石井 暁夫  
代理人 東野 正  
代理人 石井 暁夫  
代理人 北村 修一郎  
代理人 西 博幸  
代理人 西 博幸  
代理人 東野 正  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ