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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B41J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B41J
管理番号 1086343
異議申立番号 異議2002-71178  
総通号数 48 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1993-11-09 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-05-09 
確定日 2003-09-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3227226号「画像形成装置」の請求項1乃至4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3227226号の請求項1乃至4に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3227226号の請求項1乃至4に係る発明についての出願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成4年10月16日(優先日、平成4年2月20日)の出願であって、平成13年8月31日にその特許権の設定の登録がなされ、その特許について、深田悟、キヤノン株式会社及び井澤直子より特許異議の申し立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成14年11月19日に訂正請求(後日取下げ)がなされ、上記各申立人に対して審尋がなされ、申立人井澤直子により平成15年2月5日に、また、申立人深田悟により平成15年2月10日に、それぞれ回答書が提出された後、再度の取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年7月8日に訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否
(1)訂正の内容
特許権者の求めている訂正の内容は、以下のとおりである(訂正箇所にアンダーラインを付した。)。
a.訂正事項a
特許請求の範囲の
「【請求項1】 独立に変調可能な3つ以上のレーザービームを2次元状に配置された発光部より射出する光源と、前記の3つ以上のレーザービームの各々の方向を周期的に偏向するレーザービーム偏向器と、前記の3つ以上のレーザービームを被走査面に結像させる走査光学系とを有する光走査装置を用い、前記の偏向された3つ以上のレーザービームによる走査方向とは概ね直角方向にその表面が相対移動する像担持体上に潜像を形成する画像形成装置において、前記の3つ以上のレーザービームの本数をnとし、前記像担持体上に結んだ結像スポットの番号を走査方向とは直交方向に先頭から順にS1乃至Snとし、結像スポットS1より、各結像スポットS2乃至Snへの走査方向とは直角に計った距離をL2乃至Lnとすると、L2乃至Lnの各々を走査線ピッチpで除した値D2乃至Dnがほぼ整数であり、さらにこのD2乃至Dnをnで除した剰余M2乃至Mnが互いに異なるn未満の自然数であるような光走査装置を用いることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】 前記光源は、その素子基板面に対し略垂直な光軸を有するようなレーザービームを射出し、前記各発光部は個別にその点灯及び光量を制御可能な半導体レーザーアレイであることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】 前記結像スポットS1乃至Snのうちの少なくとも2つ以上が、前記像担持体の送り方向に平行な同一の直線上にあることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項4】 前記結像スポットS1乃至Snの走査方向において占める位置が前記3つ以上のレーザービーム本数nより少ない数の箇所にあり、かつ走査方向に等間隔であり、さらに走査方向に同じ位置を占める各々の結像スポットの副走査方向の間隔も等しいことを特徴とする請求項3記載の画像形成装置。」
を、
「【請求項1】 独立に変調可能な3つ以上のレーザービームを2次元状に配置された発光部より射出するモノリシック半導体レーザーアレイと、前記の3つ以上のレーザービームの各々の方向を周期的に偏向するレーザービーム偏向器と、前記の3つ以上のレーザービームを前記発光部の配置に対応した2次元状に配列されたスポットとして被走査面に結像させる走査光学系とを有する光走査装置を用い、前記の偏向された3つ以上のレーザービームによる走査方向とは概ね直角方向にその表面が相対移動する像担持体上に潜像を形成する画像形成装置において、前記の3つ以上のレーザービームの本数をnとし、前記像担持体上に結んだ結像スポットの番号を走査方向とは直交方向に先頭から順にS1乃至Snとし、結像スポットS1より、各結像スポットS2乃至Snへの走査方向とは直角に計った距離をL2乃至Lnとすると、L2乃至Lnの各々を走査線ピッチpで除した値D2乃至Dnがほぼ整数であり、さらにこのD2乃至Dnをnで除した剰余M2乃至Mnが互いに異なるn未満の自然数であり、かつD2乃至Dnをnで除した商のうち少なくとも1つが1以上であるような光走査装置を用いることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】 前記モノリシック半導体レーザーアレイは、その素子基板面に対し略垂直な光軸を有するようなレーザービームを射出し、前記各発光部は個別にその点灯及び光量を制御可能な半導体レーザーアレイであることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】 前記結像スポットS1乃至Snのうちの少なくとも2つ以上が、前記像担持体の送り方向に平行な同一の直線上にあることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項4】 前記結像スポットS1乃至Snの走査方向において占める位置が前記3つ以上のレーザービーム本数nより少ない数の箇所にあり、かつ走査方向に等間隔であり、さらに走査方向に同じ位置を占める各々の結像スポットの副走査方向の間隔も等しいことを特徴とする請求項3記載の画像形成装置。」
と訂正する。
b.訂正事項b
段落【0030】の
「【課題を解決するための手段】
本発明の画像形成装置は、独立に変調可能な3つ以上のレーザービームを2次元状に配置された発光部より射出する光源と、前記の3つ以上のレーザービームの各々の方向を周期的に偏向するレーザービーム偏向器と、前記の3つ以上のレーザービームを被走査面に結像させる走査光学系とを有する光走査装置を用い、前記の偏向された3つ以上のレーザービームによる走査方向とは概ね直角方向にその表面が相対移動する像担持体上に潜像を形成する画像形成装置において、前記の3つ以上のレーザービームの本数をnとし、前記像担持体上に結んだ結像スポットの番号を走査方向とは直交方向に先頭から順にS1乃至Snとし、結像スポットS1より、各結像スポットS2乃至Snへの走査方向とは直角に計った距離をL2乃至Lnとすると、L2乃至Lnの各々を走査線ピッチpで除した値D2乃至Dnがほぼ整数であり、さらにこのD2乃至Dnをnで除した剰余M2乃至Mnが互いに異なるn未満の自然数であるような光走査装置を用いることにより、上記課題を達成するものである。」
を、
「【課題を解決するための手段】
本発明の画像形成装置は、独立に変調可能な3つ以上のレーザービームを2次元状に配置された発光部より射出するモノリシック半導体レーザアレイと、前記の3つ以上のレーザービームの各々の方向を周期的に偏向するレーザービーム偏向器と、前記の3つ以上のレーザービームを前記発光部の配置に対応した2次元状に配列されたスポットとして被走査面に結像させる走査光学系とを有する光走査装置を用い、前記の偏向された3つ以上のレーザービームによる走査方向とは概ね直角方向にその表面が相対移動する像担持体上に潜像を形成する画像形成装置において、前記の3つ以上のレーザービームの本数をnとし、前記像担持体上に結んだ結像スポットの番号を走査方向とは直交方向に先頭から順にS1乃至Snとし、結像スポットS1より、各結像スポットS2乃至Snへの走査方向とは直角に計った距離をL2乃至Lnとすると、L2乃至Lnの各々を走査線ピッチpで除した値D2乃至Dnがほぼ整数であり、さらにこのD2乃至Dnをnで除した剰余M2乃至Mnが互いに異なるn未満の自然数であり、かつD2乃至Dnをnで除した商のうち少なくとも1つが1以上であるような光走査装置を用いることにより、上記課題を達成するものである。」
と訂正する。
c.訂正事項c
段落【0031】の
「さらに、前記光源は、その素子基板面に対し略垂直な光軸を有するようなレーザービームを射出し、前記各発光部は個別にその点灯及び光量を制御可能である半導体レーザーアレイであること、また、前記結像スポットS1乃至Snのうちの少なくとも2つ以上が、前記像担持体の送り方向に平行な同一の直線上にあること、あるいは、前記結像スポットS1乃至Snの走査方向において占める位置が前記3つ以上のレーザービーム本数nより少ない数の箇所にあり、かつ走査方向に等間隔であり、さらに走査方向に同じ位置を占める各々の結像スポットの副走査方向の間隔も等しいこと、等によっても上記課題は達成される。」
を、
「さらに、前記モノリシック半導体レーザーアレイは、その素子基板面に対し略垂直な光軸を有するようなレーザービームを射出し、前記各発光部は個別にその点灯及び光量を制御可能であること、また、前記結像スポットS1乃至Snのうちの少なくとも2つ以上が、前記像担持体の送り方向に平行な同一の直線上にあること、あるいは、前記結像スポットS1乃至Snの走査方向において占める位置が前記3つ以上のレーザービーム本数nより少ない数の箇所にあり、かつ走査方向に等間隔であり、さらに走査方向に同じ位置を占める各々の結像スポットの副走査方向の間隔も等しいこと、等によっても上記課題は達成される。」
と訂正する。
d.訂正事項d
段落【0011】における「後の述べる面倒れ補正光学系」及び【0063】における「SiO2誘導体多組膜反射層」を、それぞれ、「後に述べる面倒れ補正光学系」及び「SiO2誘導体多層膜反射層」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項aに関して、
申立人井澤直子は、平成15年2月5日付の回答書において、特許明細書における「以上に述べたような実施例を実現するためには、2次元状に発光部が配列された半導体レーザーアレイが必須である。もちろん、従来の技術の説明のところで触れたような端面発光型のレーザーアレイを2つ並べても本発明の効果に変わりないが、1つの半導体チップ上に2次元状に発光部が配列されたモノリシック構造が望ましい。このような半導体レーザーアレイには、いわゆる面発光半導体レーザーを用いるのがより好ましい。」(段落【0061】参照)の記載では、モノリシック構造が実現できる手段が記載されていないこと、および、当該記載から、光源が直接且つ一義的にモノリシック半導体レーザアーレイを意味すると解釈できないことから、光源をモノリシック半導体レーザーアレイに限定することは許されない旨の主張(平成15年2月5日付回答書5頁12行〜6頁7行参照。以下、「主張A」という。)をし、また、「D2乃至Dnをnで除した商のうち少なくとも1つが以上である」ことは、当該記載が、特許明細書に全くなく、且つ特許明細書の記載から一義的に導かれることではないので特許明細書又は図面に記載された事項の範囲内でない旨の主張(同7頁9行〜8頁末行参照。以下、「主張B」という。)をしている。
申立人深田悟は、「発光部の配置に対応した2次元状に配列されたスポット」の内容は、特許明細書に発光部の配置についての記載がないから、特許明細書に記載されていなかった事項であると共に不明瞭である旨の主張(平成15年2月10日付回答書3頁22行〜4頁18行参照。以下、「主張C」という。)をしている。
まず、上記主張A及びCについてみるに、一枚の基板状に形成される半導体レーザーアレイすなわちモノリシック半導体レーザーアレイ自体は、本件の優先日当時、後述する刊行物2,4にみられるように従来周知であり、光源をモノリシック半導体レーザーアレイとすることは、上記記載から明らかであるから、主張Aは妥当でない。
また、発光部の配置とスポットの配列に関する、特許明細書の「半導体レーザーアレイの発光部の間隔δとスポットの間隔Δは光学系の結像倍率Mによって、どちらか一方から他方が一義的に決まってしまうので、発光部の間隔を自由に選択できるようにするためには、このスポットの間隔はなるべく多くの値がとれる事が望ましい。・・・図5に示す場合ではスポットS1とS2、S3、S4の間隔は走査線ピッチpで表すと1p、10p、11pとなり、図6に示す場合ではそれぞれ2p、7p、9pとなる。」(段落【0050】参照)の記載から、発光部の配置とスポットの配列は、相互に対応していると共に、両者は相似関係にあることも、当該記載及び本件請求項1乃至4に係る発明が結像スポットの配列を規定することにより半導体レーザーアレイ取付の角度精度を緩和させること課題としていることからみて、明らかであるから、主張Cも妥当でない。
次に、上記主張Bについてみるに、「D2乃至Dnをnで除した商のうち少なくとも1つが1以上である」の意味についてみるに、請求項1の記載から、D2乃至Dnが、先頭の結像スポットS1より、結像スポットS2乃至Snへの走査線ピッチ方向の各距離を走査線ピッチp単位で表したものであること、n本のレーザービームを、隙間なくすなわち1pの等間隔で同時に走査させ結像させた場合、先頭の結像スポットS1と後尾の結像スポットSnの走査線ピッチ方向の距離が(n-1)pで、Dnをnで除した商が0になることを勘案すると、「D2乃至Dnをnで除した商のうち少なくとも1つが1以上である」とは、同時に走査されるn本のレーザービーム相互の間隔が走査線ピッチp以上のものが含まれていることを意味していることは明らかである。
ところで、特許明細書には、「図3に本発明の画像形成装置の一実施例に用いる光走査装置における、被走査面における走査線と結像スポットの関係を示す。この実施例では同時に4本のレーザービームで走査する。走査線はピッチpで等間隔に走査される。図中でレーザービームの結像スポットS1〜S4は左より右へ周期的にほぼ一定の速度で移動してゆく。被走査面は図中に示した方向に一定の速度で移動してゆく。この2つの移動の組み合わせにより2次元走査が実現される。走査するスポットの位置がどのような位置関係にあろうとも、被走査面の移動速度は1走査周期当たり4走査線分である。・・・被走査面全面がくまなくかつ、等間隔の走査線で埋め尽くされていく。・・・ここでスポットS1と他の3つのスポットS2、S3、S4との副走査方向に見た間隔は、走査線ピッチpで表すと、それぞれ2p、9p、11pとなる。これをスポットの数(すなわち同時に走査する走査線の数)4で除した剰余は、それぞれ2、1、3である。このようにある1つのスポットから他のスポットまでの副走査方向に計った距離を走査線ピッチで除し、さらに同時に走査する走査線の数で除した剰余が互いに異なる自然数であれば、必ず重なること無く等間隔の走査線で被走査面を埋める事ができる。」(段落【0042】〜【0046】参照)と記載され、特許明細書に添付した図面には、4つのスポットの場合、スポットS1と他の3つのスポットS2、S3、S4との副走査方向に見た間隔が、1p、10p、11p(図5)、2p、7p、9p(図6)、2p、9p、11p(図8)となる結像スポットと走査線の配置例、9つのスポットの場合、1p、2p、6p、7p、8p、12p、13p、14p(図7)となる結像スポットと走査線の配置例及び3つのスポットの場合、5p、10p(図9)となる結像スポットと走査線の配置例が、記載されている。
そして、これらに記載される結像スポットと走査線の配置例は、D2乃至Dnをnで除した商のうち少なくとも1つが1以上であることを示していることは明らかである。
この点に関して、申立人井澤直子は、D2=2,D3=9,D4=11をn=4で除しても、n+1=5で除しても、n-1=3で除しても結果は同じであるから、「D2乃至Dnをnで除した商のうち少なくとも1つが1以上である」ことは、特許明細書の上記記載から一義的に導かれることでなく、特許明細書に記載されていないことである旨主張しているが、同時走査されるレーザービームの本数であるnで除することは、同時に走査されるn本のレーザービーム相互の間隔が1p以上のものが含まれている否かを決める基準を見出すことに意味があるのであり、n以外のもので除すことに意味がないから、この主張Bも採用できない。
してみると、上記訂正事項aは、特許明細書又は図面に記載されていた範囲内で、特許請求の範囲の請求項1において、光源が、モノリシック半導体アレイであると限定し、また、結像スポットの配列が、D2乃至Dnをnで除した商のうち少なくとも1つが以上であるとを限定し、さらに、発光部の配置と被走査面に結像されるスポットの配列が対応していることを明確にしたしたものである。
ゆえに、上記訂正事項aは、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
上記訂正事項b及びcは、上記訂正事項a伴い、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、発明の詳細な説明の記載を訂正したものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。
また、上記訂正事項dは、誤記の訂正を目的とするものである。
さらに、上記訂正事項a乃至dは、いずれも、実質的に特許請求の範囲を拡張変更するものでない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、平成11年改正前の特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議申し立てについての判断
(1)申立の理由の概要
ア.申立人深田悟は、本件請求項1乃至4に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された発明と同一または、同号証に記載された発明と下記甲第2号証に記載の従来技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条の規定により特許受けることができない旨の主張をしている。

甲第1号証:特開昭56-109314号公報
甲第2号証:伊賀健一「レーザ光学の基礎」、昭和63年2月25日オーム社発行、204〜206頁、「13・4半導体レーザの将来」の項参照
イ.申立人キヤノン株式会社は、本件請求項1に係る発明は、下記の甲第2号証に記載された発明と同一または同号証に記載された発明と下記甲第1号証乃至甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた、また、本件請求項2乃至4に係る発明は、下記甲第1乃至5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条の規定により特許を受けることができない旨の主張をしている。

甲第1号証:特公昭62-59506号公報
甲第2号証:特公昭58-8627号公報
甲第3号証:特開昭64-75239号公報
甲第4号証:特開昭63-1147号公報
甲第5号証:特開昭64-42667号公報

ウ.申立人井澤直子は、本件請求項1乃至4に係る発明は、下記の甲第1号証乃至同号証及び下記甲2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に特許を受けることができない旨の主張をしている。

甲第1号証:特公昭58-8627号公報
甲第2号証:特公平1-45065号公報

(2)本件発明
本件請求項1乃至4に係る発明(以下、「本件発明1乃至4」という。)は、上記訂正によって訂正された明細書の特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載されたとおりのものである(上記訂正事項a参照。)。

(3)対比判断
本件発明1と上記甲各号証に記載された発明とを対比すると、
上記甲各号証のいずれにも、本件発明1の構成要件である、
『独立に変調可能な3つ以上のレーザービームを2次元状に配置された発光部より射出するモノリシック半導体レーザーアレイの前記発光部の配置に対応した被走査面における結像スポットの配列が、前記の3つ以上のレーザービームの本数をnとし、前記像担持体上に結んだ結像スポットの番号を走査方向とは直交方向に先頭から順にS1乃至Snとし、結像スポットS1より、各結像スポットS2乃至Snへの走査方向とは直角に計った距離をL2乃至Lnとすると、L2乃至Lnの各々を走査線ピッチpで除した値D2乃至Dnがほぼ整数であり、さらにこのD2乃至Dnをnで除した剰余M2乃至Mnが互いに異なるn未満の自然数であり、かつD2乃至Dnをnで除した商のうち少なくとも1つが1以上である』
点について、記載も示唆もされていない。
因みに、キヤノン株式会社の提出した甲第3号証である特開昭64-75239号公報及び井澤直子の提出した甲第2号証である特公平1-45065号公報には、独立に変調可能な3つ以上のレーザービームを1次元状に配置された発光部より射出するモノリシック半導体レーザーアレイの前記発光部の配置に対応した被走査面における結像スポットの配列が、前記の3つ以上のレーザービームの本数をnとし、前記像担持体上に結んだ結像スポットの番号を走査方向とは直交方向に先頭から順にS1乃至Snとし、結像スポットS1より、各結像スポットS2乃至Snへの走査方向とは直角に計った距離をL2乃至Lnとすると、L2乃至Lnの各々を走査線ピッチpで除した値D2乃至Dnがほぼ整数であり、さらにこのD2乃至Dnをnで除した剰余M2乃至Mnが互いに異なるn未満の自然数であり、かつD2乃至Dnをnで除した商のうち少なくとも1つが1以上であるようにすることが、記載されているといえるが、これを、特公昭58-8627号公報(上記キヤノン株式会社の提出した甲第2号証でありかつ井澤直子の提出した甲第1号証である)及び特開昭63-1147号公報(上記キヤノン株式会社の提出した甲第4号証である)に記載された、独立に変調可能な3つ以上のレーザービームを2次元状に配置された発光部より射出するモノリシック半導体レーザーアレイを用いる画像形成装置に適用することについて、何ら記載も示唆もされておらず、このことは当該技術分野において、周知のことでもない。
そして、本件発明1は、上記『』内の点を構成要件とすることにより、本件特許明細書に記載された「2.主走査方向、副走査方向の2次元的に結像スポットを配置することにより、半導体レーザーアレイもしくは被走査面の送り方向の取付の角度精度を緩和でき、装置の製造が容易となる。また、許容できる誤差が大きいということは製造後の変形、劣化、環境変動に対する余裕も大きいということを意味し、装置の信頼性を向上させる。3.光源(半導体レーザーアレイ)から被走査面にいたる光路中での各レーザービーム相互の最大の間隔が1直線上に結像スポットを配置する従来のものに比べて小さくなる、すなわち3つ以上のビームの占める断面積を小さくすることができ、偏向器の偏向面の大きさや、光路中の各レンズの大きさを小さくすることができ、装置の小型化、軽量化、低価格化に大きく寄与する。同様に、半導体レーザーアレイの大きさも必要最小限とすることができる。4.半導体レーザーアレイ上の発光部間隔や発光部の配置に自由度があり、素子をモノリシックの基板上に構成する上で最適な間隔と配置をとることができ、より性能・信頼性が高い半導体レーザアレイを用いることができる。」(段落【0070】〜【0072】)という上記甲各号証のいずれにも記載されていない作用効果を奏するものである。
また、申立人井澤直子は、平成15年2月5日付け回答書で、特開昭63-198387号公報を提出し、該公報で紹介されている文献として、「レーザと光エレクトロニクス国際会議(CLEO’86)テクニカルダイジェスト:TUB2J.Nワアルポール他(Monolithic 2D Arrays of High Power GaInAcP/InP Surface Emittinng Lasers P64 (1986))を提出し、該文献に記載されている、16個のレーザ素子を4×4の配列で集積化したモノリシック2次元半導体レーザアレイを、解像度300dpi、被走査面上でのスポットの大きさを100μmとするレーザプリンタ走査光学系に適用した際に必然的に飛び越し操作方式になると主張しているが、該文献には、2次元半導体レーザアレイをどういう構成のレーザプリンタ走査光学系に使用するのか等について、何ら記載されておらず、当該主張は採用できない。
したがって、本件発明1は、上記甲各号証に記載されたものから当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。
また、本件発明2乃至4は、本件発明1を引用し、その構成要件を全て備えるものであるから、本件発明1の上記判断と同様に、上記甲各号証に記載されたものから、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、特許異議申し立ての理由及び証拠方法によっては、本件請求項1乃至4に係る発明についての係る特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1乃至4に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1乃至4に係る発明についての特許は、拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
画像形成装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】独立に変調可能な3つ以上のレーザービームを2次元状に配置された発光部より射出するモノリシック半導体レーザーアレイと、前記の3つ以上のレーザービームの各々の方向を周期的に偏向するレーザービーム偏向器と、前記の3つ以上のレーザービームを前記発光部の配置に対応した2次元状に配列されたスポットとして被走査面に結像させる走査光学系とを有する光走査装置を用い、前記の偏向された3つ以上のレーザービームによる走査方向とは概ね直角方向にその表面が相対移動する像担持体上に潜像を形成する画像形成装置において、前記の3つ以上のレーザービームの本数をnとし、前記像担持体上に結んだ結像スポットの番号を走査方向とは直交方向に先頭から順にS1乃至Snとし、結像スポットS1より、各結像スポットS2乃至Snへの走査方向とは直角に計った距離をL2乃至Lnとすると、L2乃至Lnの各々を走査線ピッチpで除した値D2乃至Dnがほぼ整数であり、さらにこのD2乃至Dnをnで除した剰余M2乃至Mnが互いに異なるn未満の自然数であり、かつD2乃至Dnをnで除した商のうち少なくとも1つが1以上であるような光走査装置を用いることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】前記モノリシック半導体レーザーアレイは、その素子基板面に対し略垂直な光軸を有するようなレーザービームを射出し、前記各発光部は個別にその点灯及び光量を制御可能であることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】前記結像スポットS1乃至Snのうちの少なくとも2つ以上が、前記像担持体の送り方向に平行な同一の直線上にあることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項4】前記結像スポットS1乃至Snの走査方向において占める位置が前記3つ以上のレーザービーム本数nより少ない数の箇所にあり、かつ走査方向に等間隔であり、さらに走査方向に同じ位置を占める各々の結像スポットの副走査方向の間隔も等しいことを特徴とする請求項3記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は複数のレーザービームの走査を行なうレーザービーム走査装置を用いて像担持体上に潜像を形成する画像形成装置に関し、特に被走査面上の走査線と結像スポットの配置に関する。
【0002】
【従来の技術】
光走査装置、特に半導体レーザーを用いたレーザー走査装置は、その構造の簡素さ、高速性、解像度の高さから、画像表示装置や画像記録装置などの画像形成装置に広く用いられてきた。なかでも電子写真プリンターの露光装置として最適なものであり、レーザービームプリンターとして多くの製品が上市されている。
【0003】
ところが近年の画像形成装置の高速化や高解像度化の要求が高まりつつあり、走査速度の向上が望まれている。高速の走査を実現するためには速度の速い偏向装置が必要になるが、たとえば偏向装置として回転多面鏡を用いる場合、回転数の高速化には上限がある。その解決策の1つとして、例えば特開昭51-100742に示すように、独立に変調可能な複数のレーザービームを走査し、1回の走査で複数の走査線を同時に走査するいわゆるマルチビーム走査装置を用いた画像形成装置が提案されている。
【0004】
このような複数のレーザービームを用いた従来の光走査装置の例を図11に示す。複数のレーザービームを射出する光源としては、以前はガスレーザーを変調器で時分割したり、ビームスプリッターを用いる場合や、複数の光源を用いる方法も考案されたが、現在では構造の簡易さと装置が小さくできるため、半導体レーザーアレイ1が多く用いられる。これは、単一(すなわちモノリシック)の素子基板の上に複数のダイオードが形成してあり、個々のダイオードに流す電流を個別に制御することにより、ここの半導体レーザーの点灯を独立に制御するものである。
【0005】
ここで半導体レーザーアレイの構造について詳しく説明する。従来実用に供されてきた半導体レーザーアレイの構造図を図12に示す。図12において接合層51より放出される光は、素子基板の両端の反射面52で反射され接合層51の中を往復しレーザー発振を起こす。一方光が往復する方向と直交する方向には、屈折率もしくは利得が異なるようになっており、光が反射される事はなく発振しない。この両端の反射面52は一般に高い反射率が必要であり、半導体基板のへき開によって作られる。両面の反射面52のうち一方は他方に比べやや反射率が低く、レーザービーム53が射出される。このように半導体基板面とは直交する端面よりレーザービームが射出されるため、「端面発光レーザー」とも呼ばれる。
【0006】
アレイ状の半導体レーザーではこの帯状の接合層が複数並列に並べられており、その発光部も端面上に1列に並んでおり、平行なレーザービームが射出される。半導体レーザーアレイ1を射出された各レーザービームはコリメータレンズ2によって平行なレーザービームに整形される。これらのレーザービームは回転多面鏡3によってその方向を周期的に繰り返し偏向される。偏向されたレーザービームは走査レンズ4によって被走査面上に結像スポット6を結ぶ。
【0007】
被走査面には像担持体5が置かれ、レーザーが照射された部分の表面の電荷が消失し、その部分に選択的に現像剤を静電的に付着させる事により現像される。さらにこの現像剤は転写材(多くの場合紙)にやはり静電気的に転写され、最後にローラーなどで圧力を加えながら溶融定着される。
【0008】
レーザービームプリンターでは、出力画像はコンピュータの出力として画像を形成するので、多くの場合デジタル的な2値画像であって、画像は縦横一定の間隔に並んだ画素(ドット)によって表される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
以下、従来の代表的な画像形成装置における簡単な数値を例示しながら本発明の解決しようとする課題を提示する。以降の画像形成方法の説明の中で、被走査面は走査線とはほぼ直角に移動することを前提とし、走査線の方向を「主走査方向」、被走査面内で主走査方向とほぼ直交する方向、すなわち被走査面の送り方向を「副走査方向」と呼ぶものとする。
【0010】
各結像スポットが被走査面を上を走査する走査線は互いにほぼ平行となる。また、光源の半導体レーザーアレイの発光部は一直線上に一列に並んでいるので、被走査面上での結像スポットもほぼ一直線上に並ぶ。
【0011】
この被走査面上で一列に並んだ結像スポットの隣接するものの間隔は、光源となる半導体レーザーアレイ上における各結像スポットに対応する発光部の間隔δに、各レーザービームが経由する光学系の結像倍率Mを乗じた値になる。この結像倍率Mはほぼ前記の走査レンズ4の焦点距離Fsをコリメータレンズ2の焦点距離Fcで除した値に等しい。なお、図11においては、後に述べる面倒れ補正光学系を含んでいるが、これを走査レンズ、コリメータレンズに含んで焦点距離を考えれば良い。
【0012】
走査線の間隔pは、通常、副走査方向の画素(ドット)ピッチに等しい。この画素ピッチはプリンターの解像度の逆数で表され、たとえば300dpi(dot per inch:1インチ[25.4mm]あたりのドット数)であれば84.7μmである。一方、先に述べたコリメータレンズの焦点距離fc=10mm、走査レンズの焦点距離fs=160mmとすると、光学系の結像倍率は16倍になる。また、半導体レーザーアレイにおける素子基板端面での発光部の間隔δは小さくても100μm程度である。よって、被走査面上での結像スポットの間隔Δは1.6mmになる。つまり、結像スポットの間隔は走査線間隔よりははるかに大きいため、被走査面全体を一定のピッチの走査線で埋めて行くためには、以下に述べる2つの方法が考えられる。
【0013】
まず第1の方法は特開昭54-158251に示すように結像スポットを結んでできる直線を一定角度傾けて、各走査線のタイミングを一定時間ずつずらしながら走査する方法である。4本のレーザービームで走査を行なう場合の被走査面上での結像スポットと走査線の位置関係を図13に示す。各結像スポットS1〜S4は互いに隣合う走査線を一定の時間の遅延を伴いながら走査してゆく。この走査線と結像スポットS1〜S4がなす直線の傾きγは、図でも明らかなように結像スポットの間隔Δと走査線ピッチpより、sinγ=p/Δとなる。先に示した数値例では、γは約3.0°となる。
【0014】
ところがレーザービームプリンターなどの画像形成装置では、隣接する走査線のピッチ誤差をある一定の値以下に抑えないとムラ等の形で表れて画像品質をそこねてしまう。ここに説明した例の場合、走査線4本ごとに画像の濃淡が生ずる事になり、非常に見苦しいものになってしまう。
【0015】
そのため、例えば全ての走査線間隔の誤差を10%以内にすることが求められる場合、この例では4本の隣接する走査線を描くので、最大ピッチの3倍(つまり3p)をpの1/10以下の誤差、3.3%以下に抑えなければならない。前述の式より角度γの誤差も当然3.3%以下、すなわち0.10°以下に抑えねばならぬ事になる。ところがこのような小さな角度誤差に半導体レーザーアレイの取付角度もしくは被走査面の送り方向を調整するのは容易な事ではない。
【0016】
そこで実際には、上記のような調整を行って走査線のピッチをある程度の値に調整した後に、一度に走査する走査線の本数分だけ被走査面を送るよう送り速度を微調整することが必須となる。しかし、この送り速度を微調整可能にすると、画像形成プロセス全体のタイミングに影響を与えるため、装置の設計が難しくなる。
【0017】
また、各結像スポットS1〜S4のそれぞれがが主走査方向のある一点(例えば図13に示すAのライン)を通過する時間には差があるため、画像データによってレーザーを変調する場合、その結像スポットの間隔に応じた遅延を正確に生じさせてデータを転送する必要がある。よって、主走査方向に画素の位置を正確にそろえるためには走査線毎の遅延量を正確に設定する必要があるが、例えば図13においてS1〜S4の主走査方向の間隔は3p/tanγであらわされ、先の例では約1.598mmとなり、約18.8画素分に相当する。先の例で説明したのと同じ理由で各ドットの主走査方向のずれも一定の誤差以下に抑える必要がある。一般的には主走査方向への画素のずれの許容値は走査線のピッチ誤差の許容値よりは緩くなるが、最低でも画素ピッチの半分以下にするのが望ましい。この場合その値は約43μmであるので遅延量の許容誤差は0.043/1.598で約2.7%以下でなければならない。現在の技術では、このような正確な遅延量を電気的に設定する事は可能であるが、必然的にレーザー駆動回路の構成は複雑なものになってしまう。また、光学系のパラメータや機構部の寸法のばらつきによる結像倍率のばらつきも勘案すると、この値に収めるのは難しくなる。
【0018】
第2の方法としては、特開昭56-110960で開示されているように走査線とは直角に結像スポットを並べて、一定数の走査線おきに走査してゆく方法がある。図14にこの方法による走査線と結像スポットの位置関係を示す。この方法によれば、副走査方向に一列に結像スポットが並ぶので走査中での各画素間に遅延は必要でなく同じタイミングでレーザーを変調してゆけば良い。前記の公報によれば、同時に描く走査線の数mに整数kを乗じた値に1を加えた数の走査線分だけ結像スポットの間隔をおいて走査する。以下、より詳しくこの方法における走査の順番について述べる。
【0019】
図14においてk=2であるので、最初の走査では4本あるレーザービームの結像スポットの内、スポットS1によって走査線L1が走査される。つぎの第2回走査では被走査面は走査線4本分だけ移動しているので、スポットS1によって走査線L5が描かれる。さらに第3回の走査ではスポットS1によって走査線L9を走査する。次の4回目の走査においてスポットS1は走査線L13を走査するが、ここではじめてスポットS2のレーザーが同時変調され走査線L4を走査する。この各走査におけるスポットと走査線の対応を表にすると下表のようになる。このように被走査面上で隣合う走査線は異なる走査で描かれるので、画像データの送り出しには特別の工夫が必要になる。
【0020】
【表1】

【0021】
さらに、先に数値をあげた例を当てはめれば、発光部の間隔δを100μm以上確保するためには、kを5以上にしなければならない。図14の例に再び戻ると、結像スポットS1とS4は被走査面上では2.286mm離れているが、描かれた走査線は隣合う事になる。このとき結像スポットS1〜S4がなす直線が走査線と直角方向にわずかでも傾いていると、隣合う走査線で画素の位置が主走査方向にずれる事になる。例えば図14に示した例では、図15に示す如く傾いた場合、走査線L1とL2において、スポットS1とS4のずれがhだけ生ずる。つまり第1の方法とまったく同様に、半導体レーザーアレイの取付角度もしくは被走査面の送り方向を精密に調整しなければならない。
【0022】
また、前記のkの値は整数しか取り得ないので、被走査面上での結像スポットの間隔Δは走査線ピッチpのm×k+1倍(先の例では4本のビームで走査したのでm=4)の値になるように走査装置を設計する必要がある。ところが、光学系の結像倍率Mは、半導体レーザーアレイから射出されるビームの拡がり角と被走査面での結像スポットの大きさが決まればほぼ無条件に決まってしまうため、半導体レーザーアレイ上の発光部の間隔δはp×(m×k+1)/Mの値しか取り得ず、設計的な自由度がなく、素子の構造上最適な発光部間隔にすることができない。例えば、前述の例に基づいてδを100μm前後の値にするには、k=4のときδ=90.0μm、k=5のときδ=111.1μm、k=6のときδ=132.3μmとなり、δ=100μmであるとか、δ=120μmにはできない。
【0023】
さらに、先の第1の方法の場合と同様に、この結像スポットの間隔Δの精度が低いと、走査線間隔に周期的な誤差が生じ、画像の濃度ムラとなって表れてしまう。ところが、このように副走査方向に結像スポットを並べた場合、間隔Δを微調整する方法がないため、第1の方法のところで述べたように、被走査面の送り速度を調整する方法でしか走査線ピッチの微調整ができないため、装置の設計がより困難になる。
【0024】
以上の第1の方法、第2の方法とも、4本のレーザービームで同時に書き込む場合について説明したが、レーザービームの本数が増えるのに比例して上記の問題もより困難なものになることは、容易に推察できる。例えば10本ものレーザービームを同時に走査するのは、ここで述べた方法を用いる限り、現在の技術では事実上不可能といってよい。
【0025】
以上で述べたように上記の第1、第2どちらかの方法を用いた場合、
1.走査線の間隔を微小に調整するのが、困難であるか、もしくは全く不可能であり、被走査面の送り速度の微小な調整を余儀なくされる。
【0026】
2.結像スポット間隔(Δ)が主走査方向に距離を持つ場合、各レーザーを変調させる画像データに時間的な遅延を正確に与える必要が生じ、レーザー駆動回路の構成が複雑になる。
【0027】
3.結像スポットの間隔がきまり、光学系の結像倍率が決まると、半導体レーザーアレイの発光部の間隔の設計に自由度がなくなる。
【0028】
等の問題があった。また、上記の問題は同時に走査するビームの数(すなわちm)が増加するにつれてより深刻になるのは明らかである。
【0029】
そこで本発明の目的は、微妙で精密な調整を必要とすることなく、かつ簡素な構成のレーザー駆動回路を用いて、半導体レーザーアレイを用いた複数のレーザービームによって走査を行うための、走査線と結像スポットの位置関係を明らかにし、高速な走査の可能な画像形成装置を得る事にある。
【0030】
【課題を解決するための手段】
本発明の画像形成装置は、独立に変調可能な3つ以上のレーザービームを2次元状に配置された発光部より射出するモノリシック半導体レーザアレイと、前記の3つ以上のレーザービームの各々の方向を周期的に偏向するレーザービーム偏向器と、前記の3つ以上のレーザービームを前記発光部の配置に対応した2次元状に配列されたスポットとして被走査面に結像させる走査光学系とを有する光走査装置を用い、前記の偏向された3つ以上のレーザービームによる走査方向とは概ね直角方向にその表面が相対移動する像担持体上に潜像を形成する画像形成装置において、前記の3つ以上のレーザービームの本数をnとし、前記像担持体上に結んだ結像スポットの番号を走査方向とは直交方向に先頭から順にS1乃至Snとし、結像スポットS1より、各結像スポットS2乃至Snへの走査方向とは直角に計った距離をL2乃至Lnとすると、L2乃至Lnの各々を走査線ピッチpで除した値D2乃至Dnがほぼ整数であり、さらにこのD2乃至Dnをnで除した剰余M2乃至Mnが互いに異なるn未満の自然数であり、かつD2乃至Dnをnで除した商のうち少なくとも1つが1以上であるような光走査装置を用いることにより、上記課題を達成するものである。
【0031】
さらに、前記モノリシック半導体レーザアレイは、その素子基板面に対し略垂直な光軸を有するようなレーザービームを射出し、前記各発光部は個別にその点灯及び光量を制御可能であること、また、前記結像スポットS1乃至Snのうちの少なくとも2つ以上が、前記像担持体の送り方向に平行な同一の直線上にあること、あるいは、前記結像スポットS1乃至Snの走査方向において占める位置が前記3つ以上のレーザービーム本数nより少ない数の箇所にあり、かつ走査方向に等間隔であり、さらに走査方向に同じ位置を占める各々の結像スポットの副走査方向の間隔も等しいこと、等によっても上記課題は達成される。
【0032】
【作用】
本発明の画像形成装置によれば、半導体レーザーアレイから放射された3つ以上(n本)のレーザービームを偏向器で偏向し、走査レンズを介して、被走査面にスポットを結像させ高速の走査を行なう。1走査周期当たりの被走査面の副走査方向への送り量は、必ず走査線ピッチのn倍である。走査線に対して結像スポットを配置する際に、その副走査方向の間隔を走査線ピッチで割った値がほぼ整数となるように設定し、さらに前記の整数をレーザービームの本数nで割った剰余が互いに異なるようにさえすれば、被走査面が副走査方向へ送られていっても、走査線は重なること無く、所定のピッチで書き込まれてゆく。各結像スポットは一つの直線上に並ぶ必要はないので、結像特性から要求される最適な光学結合倍率により近い形で光源の配置を決定する事ができる。また、結像スポット間の距離の最小値を大きく確保しながら、最大値を小さくなるような、光源の配置を自由に選ぶ事ができる。
【0033】
【実施例】
本発明によるによる画像形成装置の一実施例を以下に説明する。
【0034】
図1は本発明の一実施例による画像形成装置の特徴をもっともよく表す光走査装置部分の概観図を示す。ここで半導体レーザーアレイ21の複数の発光部から出射した複数のレーザービームは、コリメータレンズ2によって所定のビーム直径を持つレーザービームにコリメート(平行化)される。このレーザービームは回転多面鏡3に入射し、その回転に伴って、各々偏向される。走査レンズ4を通過したレーザービームは被走査面に置かれた像担持体5上でスポット6に結像する。レーザービームを集束して結像状態にあるということは、ガウスビームのビームウエスト位置にあることを意味し、スポットは円または楕円状で中心を頂点とするガウス分布状の光強度分布を持っている。なお、半導体レーザーアレイ21の構造については後ほど詳しく説明する。
【0035】
レーザービームの偏向範囲内でかつ被走査面の走査には関与しない位置に反射ミラー11が設けられており、この反射ミラー11で反射されたレーザービームは光検出器12に入射する。光検出器12でレーザービームを検出するためには、走査期間中で光検出器12にレーザービームが偏向される直前にレーザーを点灯させ、本来の走査に必要の走査範囲中手前で消灯させる制御が行われる。この光検出器より出力される水平同期信号により、画像データに応じたレーザーの変調開始が制御される。
【0036】
走査レンズ4の機能は大きく分けて2つある。1番目の機能はどの走査位置においても、レーザービームを走査平面上に結像させる結像機能である。特に解像度が高く結像するレーザーのスポットの大きさが小さい場合は、焦点深度が浅くなるため、光学的な像面湾曲(この場合、非点収差を含む)の補正機能が重要になる。2番目の機能は、いわゆる「fθ機能」であって、回転鏡によって等角速度で偏向されるレーザービームを像担持体上での等線速の走査に変換する働きを有する。
【0037】
一般に走査器に回転多面鏡を用いる場合、回転軸に対する各鏡面の平行度誤差(いわゆる「面倒れ」)により、反射されたレーザービームの結像点は副走査方向に大きく変位してしまう。これを避けるため従来から「倒れ補正光学系」と呼ばれる光学系により、副走査方向に同一の位置に結像することができる。これは、光学的な共役点の一方から出た光線は他方の共役点に必ず集束するという原理を用い、結像面(被走査面)と偏向面を光学的な共役点とするための光学系を設けることで実現している。ただし、この共役関係は走査面とは垂直な面内でのみ成り立てばよいので、走査光学系としてはアナモフィックなものになる。具体的に本実施例では図1中のトロイダルレンズ8がこの機能を担っている。
【0038】
このような共役型の倒れ補正光学系を持つ場合、レーザービームは偏向面上に主走査方向に長い線像として結像する。このため、コリメータレンズの後ろ側に走査面と直角な面内でのみ光学的なパワーを持つシリンドリカルレンズ7を設けて線像を偏向面の上に結像させる。
【0039】
以上に述べたように走査光学系はアナモフィックな光学系ではあるが、光源から結像面までを通してみると、結像倍率は走査面とその直交する方向でほぼ等しい。従って以下の実施例の説明の中では、結像倍率に関しては特に走査面内であるか否かを区別しない。
【0040】
次に画像形成のプロセスついて説明する。図2は本発明の一実施例における画像形成装置の印刷プロセスを示した図である。転写材101上に印刷結果を得るプロセスはいわゆる電子写真プロセスによっている。像担持体5には、半導体レーザーを光源に用いた電子写真プリンタでは長波長側に増感した有機感光体(OPC)が多く用いられる。この像担持体5はまず、帯電器102で一定の表面電位に帯電されたのち、レーザービーム走査装置103によって光書込すなわち露光が行なわれる。このレーザービーム走査装置103から画像情報に従って光強度が各々独立に変調された複数のレーザービーム104が像担持体5を軸方向に走査し、露光部のみに表面電位を打ち消す電荷を発生させ、その部分の表面電位の絶対値は小さくなる。結果として像担持体上には画像に応じた表面電位の分布、すなわち静電潜像が形成される。静電潜像は現像器105によって表面電位によって選択的に現像剤を付着させることによって現像される。この現像剤は転写器106によって転写材101(通常は紙)に転写される。転写材101は、定着器107によって熱圧力定着され排出される。
【0041】
次に結像スポットと走査線の位置関係について説明する。
【0042】
図3に本発明の画像形成装置の一実施例に用いる光走査装置における、被走査面における走査線と結像スポットの関係を示す。この実施例では同時に4本のレーザービームで走査する。走査線はピッチpで等間隔に走査される。図中でレーザービームの結像スポットS1〜S4は左より右へ周期的にほぼ一定の速度で移動してゆく。被走査面は図中に示した方向に一定の速度で移動してゆく。この2つの移動の組み合わせにより2次元走査が実現される。走査するスポットの位置がどのような位置関係にあろうとも、被走査面の移動速度は1走査周期当たり4走査線分である。
【0043】
いま走査線を被走査面の移動方向先端からL1、L2、L3、・・・と呼ぶことにする。まず最初の走査では、スポットS1によって走査線L4、スポットS2によって走査線L2が走査される。走査中は画像データに応じてレーザーの点灯/非点灯もしくは画像濃度に応じた強度変調が行われる。この変調もしくは点灯制御の開始は、すでに述べた光検出器12より得られる水平同期信号を基準として行われる。このときスポットS3、S4は走査に寄与しないためレーザーは動作しない。
【0044】
次の走査ではスポットS1によって走査線L8、スポットS2によって走査線L6が走査される。しかし、スポットS3、S4はやはり走査に関与しない。さらに次の走査ではスポットS1によって走査線L12、スポットS2によって走査線L10が走査される。このときになって初めてスポットS3によって走査線L3、スポットS4によって走査線L1が走査され、4つのレーザービームが同時に動作する。以後この動作を繰り返してゆく事で被走査面全面がくまなくかつ、等間隔の走査線で埋め尽くされていく。走査ごとの結像スポットと走査線の対応関係を下表に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
ここでスポットS1と他の3つのスポットS2、S3、S4との副走査方向に見た間隔は、走査線ピッチpで表すと、それぞれ2p、9p、11pとなる。これをスポットの数(すなわち同時に走査する走査線の数)4で除した剰余は、それぞれ2、1、3である。このようにある1つのスポットから他のスポットまでの副走査方向に計った距離を走査線ピッチで除し、さらに同時に走査する走査線の数で除した剰余が互いに異なる自然数であれば、必ず重なること無く等間隔の走査線で被走査面を埋める事ができる。
【0047】
ここで副走査方向のスポットS1とS3、S2とS4の間隔は9pである。また、スポットS1とS2、S3とS4の主走査方向の間隔Eは任意に設定できる。スポットS1とS3、S2とS4は主走査方向には同じ位置に存在するので、それぞれ2つは同じタイミングで画像データを転送し、スポットS1、S3に比べてS2、S4への画像データの転送の時間を遅延させればよい。
【0048】
図4に画像データの転送に関する回路ブロック図を示す。画像メモリ61には走査によって書き込むべき画像データが画素(ドット)毎に2値データとして収められている。図4においてレーザービームが光検出器12を横切るとパルス状の水平同期信号Hsyncが発生し、そのパルスは2つの遅延回路51、52に入力される。遅延回路51では一定時間の遅延された遅延信号が選択回路53に出力される。読みだし開始信号が選択回路に入力されている状態であれば、遅延信号を基準に所定の走査線の画像データをレーザー駆動回路54、56に転送する。レーザー駆動回路54、55、56、57は半導体レーザーアレイ21の各発光部41、42、43、44に接続されており、点灯時には所定の光量になるようにそれぞれが独立してレーザーの駆動電流の制御をおこなう。
【0049】
発光部41、42、43、44から射出されるレーザービームはそれぞれスポットS1、S2、S3、S4に対応している。遅延回路51で生じる遅延時間は、遅延回路52で生ずる遅延時間に対して、図3中の距離Eを走査速度で割った時間分だけ短く設定されており、スポットS1〜S4は被走査面上では主走査方向に同じ位置に画素を形成できる。
【0050】
すでに従来の技術の説明のところで述べたように、半導体レーザーアレイの発光部の間隔δとスポットの間隔Δは光学系の結像倍率Mによって、どちらか一方から他方が一義的に決まってしまうので、発光部の間隔を自由に選択できるようにするためには、このスポットの間隔はなるべく多くの値がとれる事が望ましい。そして、前記の要件に従えば、この実施例を考えると図5に示す場合ではスポットS1とS2、S3、S4の間隔は走査線ピッチpで表すと1p、10p、11pとなり、図6に示す場合ではそれぞれ2p、7p、9pとなる。従来技術の課題としてあげた例のように、発光部間隔δを100μm前後に設定しようとした場合、スポットS1とS3(S2とS4も同様)の間隔Δは18p、19p、21pに設定可能で、このときの発光部の間隔は95.3μm、100.5μm、111.1μmと相当に細かく選択できることがわかる。
【0051】
このように副走査方向の結像スポットの間隔、そして半導体レーザーアレイ上での発光部の間隔は全く無制限ではないものの、実用上充分な範囲で値を選択できる。一方、主走査方向の結像スポットの間隔は、前記の2つの遅延回路の遅延時間の差の設定により任意に設計できる。
【0052】
本実施例のように結像スポットを平行四辺形状に配置した場合、走査線の間隔の精度は光学系の結像倍率、半導体レーザーアレイ上の発光部間隔、走査線に対するスポットの作る平行四辺形の角度の3つの要因できまる。このうち前の2つは従来の技術と同等であるのでここでは説明しない。
【0053】
3つ目の要因に上げた、結像スポットがなす平行四辺形の角度について以下に説明する。すでに従来技術の課題の1番目の方法のところで述べたのと同じく、走査線のピッチpの誤差を10%以内にするためには、本発明のこの実施例では、図3においてE・tanγをpの10%以内としなければいけない。いま発光部の間隔を100μmとすればΔは1.6mmであるので、Eも1.6mm程度に設定するのが望ましい。よって上記のγの誤差は0.30°以内にすればよい。これは先の従来技術の課題のところで示した値の約1/3である。つまり、結像スポットの間隔の3つ分を考慮しなければならないか、この実施例のように1つ分だけでよいかの相違によって、角度誤差の許容値が緩和される。
【0054】
また、後で述べるような面発光型の半導体レーザーアレイにおいては、発光部からのレーザービームの拡がり角が小さくできるので光学系全体の結像倍率を小さくすることができ、より角度誤差は許容される。
【0055】
全く同様のことが結像スポットの主走査方向での位置精度についても言え、S1とS3がなす直線の走査線に対する垂直度は非常に緩和される。しかし、すでに述べたように結像スポットの主走査方向への位置精度は副走査方向に比較して要求精度が低いため、走査線間隔(副走査方向)のみを管理すれば充分である。
【0056】
また、このように4つのスポットが平行四辺形状に並ぶため、光軸に垂直な断面を取ると4本のレーザービームは相互に近接しているので、直線状に並ぶ場合に比べて、コリメータレンズ、倒れ補正レンズ、走査レンズ、偏向器の反射面など光学部品の有効径を小さくすることができる。同様に半導体レーザーアレイのチップの大きさも小さくすることができる。
【0057】
また、複数のレーザービームの光路が各レンズにおいて相互に大きく隔たる場合には、レンズの各収差がそれぞれのビームに作用し、例えば各走査線の被走査面での湾曲の度合いがことなり、隣合う走査線が平行にならなくなってしまうことがあるが、本発明では既に述べたようにレーザービームが相互に隣接しているため、このようなことはない。
【0058】
以上の実施例では4つの結像スポットを平行四辺形状に配置したが、例えば図7に示すように9つの結像スポットを3つずつ並べてることも可能である。この場合、被走査面は走査線9本分づつ副走査方向に送られてゆく。上記のように4つの場合に比べて配列の精度的な面で2倍厳しくなるが、従来技術の課題のところで述べたように、9つの結像スポットを1列に配置して走査を行なうことは精度的に不可能といってよいのに比べれば充分実用的であると言える。
【0059】
また、他の実施例として図8は結像スポットが正方形をなすように配置した例で、4つのレーザーへ画像データを転送する際の遅延量が4つ全て異なるという点では不利であるが、半導体レーザーアレイ上の発光部の配置を正方形にできるため、レーザーアレイの素子基板の方向性がなくなり製造が容易になるという利点がある。
【0060】
さらに、別の実施例として3つのレーザービームで走査を行なう場合、図9に示すように配置すれば、スポットS2とS3は同じタイミングで画像データを書き込めばよく、また、3つのスポットを正三角形状に配置できるので、半導体レーザーアレイ上の発光部の間隔を相互に等しい位置に置くことができるため、素子基板上で発光部相互の熱あるいは光学的な干渉がある場合でも相互に均等にできる。
【0061】
以上に述べたような実施例を実現するためには、2次元状に発光部が配列された半導体レーザーアレイが必須である。もちろん、従来の技術の説明のところで触れたような端面発光型のレーザーアレイを2つ並べても本発明の効果に変わりないが、1つの半導体チップ上に2次元状に発光部が配列されたモノリシック構造が望ましい。このような半導体レーザーアレイには、いわゆる面発光半導体レーザーを用いるのがより好ましい。この面発光半導体レーザーでは、レーザービームの出射部の断面積が、従来の端面発光型の半導体レーザーに比べて大きくとれるため、レーザービームの拡がり角は小さくなる。
【0062】
この様な面発光半導体レーザーでは電流及び光を効率的にレーザー共振器の中に閉じこめることが出来るので、1つの発光部当りの発熱を減少させると同時に、複数の発光部が隣りあった場合の相互の光学的、電気的及び熱的干渉を少なくすることが出来る。よって発光部の間隔も従来の半導体レーザーに比べ、小さくすることが出来る。
【0063】
図10はこの面発光型半導体レーザーアレイの素子基板上に2次元的に配置された発光部のうちの1つの断面図であって、GaAs基板22の上にまず組成の違う2種のAlGaAs層を数10層積層した半導体多層膜反射層23を形成し、その上にそれぞれAlGaAsからなるクラッド層24、活性層25、クラッド層26、コンタクト層27を積層し、最後にSiO2誘電体多層膜反射層28が形成されている。またGaAs基板22の裏面全体及び、表面の誘電体多層膜反射層のまわりに窓状の電極29、30が形成されており全体が光共振器を構成している。活性層で発生した光は基板面と垂直方向に、上下の反射層27、23の間を往復し発振するので、そのレーザービーム31の光軸は基板面に対してほぼ垂直となる。
【0064】
光共振器の回りには埋め込み層32としてII-VI族の化合物半導体が埋め込まれている。II-VI族の化合物半導体としては、II族元素としてZn、Cd、Hg、VI族元素としてO、S、Se、Teを2〜4元素組み合わせ、また、その化合物の格子定数も前記のクラッド層24、活性層25、クラッド層26からなる半導体層の格子定数に合わせるのが望ましい。このII-VI族の化合物半導体は電気抵抗が非常に大きいため、電流を光共振器のなかに効率的に閉じこめると同時に、光共振器を構成しているAlGaAs半導体層とは屈折率に差があるため、光共振器の内部で素子の基板面に垂直もしくはそれに近い角度で進む光はこの埋め込み層32との界面で全反射し効率的に閉じこめられる。このため、このような半導体レーザーを用いれば、従来の半導体レーザーに比べて大変小さい電流でレーザー発振が始まる。すなわち、しきい値電流が低く、素子基板での損失熱量が少ない。GaAs基板22の上にダイオードが形成されており、活性層25で発生した光は、反射層23と28の間を往復し発振し、2つの反射層の中で僅かに反射率の小さい反射層28から、レーザービーム31として素子の基板面に対して垂直に射出する。
【0065】
以上に説明した実施例は、本発明の一実施例に過ぎず、実施例中の構成要素を他のもの置き換えても全く同等の効果を有する。たとえば、偏向装置としては回転多面鏡のほか、ガルバノミラーやホログラムディスクなど光の方向を周期的に偏向できるものであれば、上記実施例と同等の効果を有する。また、光学系の構成においてコリメータレンズ、走査レンズ、倒れ補正光学系は必須のものではなく、その有無は本発明の効果に影響を与えない。
【0066】
既に示した実施例における走査線に対する結像スポットの配置も、技術的な効果が最大となる例を少数示しただけであり、本発明の請求の範囲に記載された条件を満たすものであれば、従来の技術に比べて充分な効果をもつ。
【0067】
あるいは、先の実施例で示した面発光型レーザーの素子の構造は、実現可能な1つの例示であって、他の構造であっても全く同等の効果を発揮する。
【0068】
さらに、本発明の画像形成装置の応用範囲は、プリンタ、複写機等の印刷装置のみならず、ファクシミリ、ディスプレイにおいても全く同様な効果を有することは言うまでもない。
【0069】
【発明の効果】
以上に述べたように本発明の画像形成装置においては、
1.3つ以上のレーザービームを走査する場合、いくつかの結像スポットを主走査方向に同じ位置に置くことにより、画像データを同じ遅延量で書き込むことができ回路を簡素化できる。
【0070】
2.主走査方向、副走査方向の2次元的に結像スポットを配置することにより、半導体レーザーアレイもしくは被走査面の送り方向の取付の角度精度を緩和でき、装置の製造が容易となる。また、許容できる誤差が大きいということは製造後の変形、劣化、環境変動に対する余裕も大きいということを意味し、装置の信頼性を向上させる。
【0071】
3.光源(半導体レーザーアレイ)から被走査面にいたる光路中での各レーザービーム相互の最大の間隔が1直線上に結像スポットを配置する従来のものに比べて小さくなる、すなわち3つ以上のビームの占める断面積を小さくすることができ、偏向器の偏向面の大きさや、光路中の各レンズの大きさを小さくすることができ、装置の小型化、軽量化、低価格化に大きく寄与する。同様に、半導体レーザーアレイの大きさも必要最小限とすることができる。
【0072】
4.半導体レーザーアレイ上の発光部間隔や発光部の配置に自由度があり、素子をモノリシックの基板上に構成する上で最適な間隔と配置をとることができ、より性能・信頼性が高い半導体レーザアレイを用いることができる。
【0073】
本発明において、特に面発光型の半導体レーザーアレイを光源として用いた場合、2次元状の結像スポットの配置を容易に実現でき、かつ発光部の間隔も従来に比べて小さくできるので上記の効果を最大限に発揮できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例による画像形成装置に用いられる光走査装置の概観図である。
【図2】本発明の一実施例における画像形成装置の印刷プロセスの概略図である。
【図3】本発明の一実施例における結像スポットと走査線の配置図である。
【図4】本発明の一実施例のおける画像データの転送に関する回路ブロック図である。
【図5】本発明の一実施例における結像スポットと走査線の他の配置例を示す配置図である。
【図6】本発明の一実施例における結像スポットと走査線のさらに他の配置例を示す配置図である。
【図7】本発明の一実施例における結像スポットと走査線の他の配置例を示す配置図である。
【図8】本発明の一実施例における結像スポットと走査線の他の配置例を示す配置図である。
【図9】本発明の一実施例における結像スポットと走査線の他の配置例を示す配置図である。
【図10】本発明の一実施例に用いた面発光半導体レーザーアレイの1つの発光部の断面図である。
【図11】従来の画像形成装置に用いられる光走査装置の概観図である。
【図12】従来の実施例における端面発光半導体レーザーの概念図である。
【図13】従来の実施例における結像スポットと走査線の配置図である。
【図14】従来の他の実施例における結像スポットと走査線の配置図である。
【図15】従来の他の実施例における結像スポットと走査線の傾きの説明図である。
【符号の説明】
1、21 半導体レーザーアレイ
2 コリメータレンズ
3 回転多面鏡
4 走査レンズ
5 像担持体
6 結像スポット
7 シリンドリカルレンズ
8 トロイダルレンズ
9 走査線
11 反射ミラー
12 光検出器
41、42、43、44 発光部
51、52 遅延回路
53 選択回路
54、55、56、57 レーザー駆動回路
61 画像メモリ
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-08-19 
出願番号 特願平4-278936
審決分類 P 1 651・ 113- YA (B41J)
P 1 651・ 121- YA (B41J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 尾崎 俊彦  
特許庁審判長 砂川 克
特許庁審判官 鈴木 秀幹
番場 得造
登録日 2001-08-31 
登録番号 特許第3227226号(P3227226)
権利者 セイコーエプソン株式会社
発明の名称 画像形成装置  
代理人 小花 弘路  
代理人 菅井 英雄  
代理人 米澤 明  
代理人 白井 博樹  
代理人 米澤 明  
代理人 青木 健二  
代理人 飯高 勉  
代理人 韮澤 弘  
代理人 白井 博樹  
代理人 岸田 正行  
代理人 水本 敦也  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 内田 亘彦  
代理人 韮澤 弘  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 菅井 英雄  
代理人 阿部 龍吉  
代理人 青木 健二  
代理人 飯高 勉  
代理人 蛭川 昌信  
代理人 内田 亘彦  

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