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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G05D
管理番号 1086404
異議申立番号 異議2003-70007  
総通号数 48 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-01-06 
確定日 2003-08-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3298069号「ステージの位置制御装置及び速度制御装置」の請求項1ないし4に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3298069号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯

特許出願 平成11年5月20日
特許権設定登録 平成14年4月19日
特許異議申立て 平成15年1月 6日(申立人 横田貞則)
取消理由通知 平成15年3月12日(平成15年3月24日発送)
訂正請求 平成15年5月22日

2.訂正の適否

2-1 訂正の内容

イ.訂正事項a
発明の名称に係る記載
『【発明の名称】 ステージの位置制御装置及び速度制御装置』
を.
『【発明の名称】 ステージの位置制御装置』
と訂正する。

ロ.訂正事項b
特許請求の範囲の請求項1に係る記載
『【請求項1】 ガイド系として静圧軸受け方式を用いたリニアモータにより少なくとも1軸方向に駆動されるステージの位置制御装置であって、前記ステージの位置を検出するための位置検出器から得られる位置検出値と位置指令値とに基づいて前記リニアモータを制御するフィードバック制御系による位置制御装置において、
前記位置検出値と前記位置指令値との差により前記リニアモータの電流目標値を生成するPID制御器と外乱オブザーバとを含み、
前記外乱オブザーバは、外乱オブザーバ制御プログラムにより高速演算を実行する信号処理手段を有し、
該信号処理手段は、前記リニアモータへの電流指令値からトルク指令値をフィルタリングするフィルタ機能と、前記位置検出値から推定負荷入力トルクを推定する入力トルク推定フィルタ機能と、前記フィルタリングされた前記トルク指令値と前記推定された推定負荷入力トルクとの差分により推定負荷外乱トルクを算出する機能と、算出された推定負荷外乱トルクに前記リニアモータのトルク定数の逆数を乗算して電流補正値を算出する機能とを有し、
算出された電流補正値により前記電流目標値を補正して電流指令値として前記リニアモータに与えるようにしたことを特徴とするステージの位置制御装置。』
を、
『【請求項1】 ガイド系として静圧軸受け方式を用いたリニアモータにより少なくとも1軸方向に駆動されるステージの位置制御装置であって、前記ステージの位置を検出するための位置検出器から得られる位置検出値と位置指令値とに基づいて前記リニアモータを制御するフィードバック制御系による位置制御装置において、
前記位置検出値と前記位置指令値との差により前記リニアモータの電流目標値を生成するPID制御器と外乱オブザーバとを含み、
前記外乱オブザーバは、外乱オブザーバ制御プログラムにより高速演算を実行する信号処理手段を有し、
該信号処理手段は、前記リニアモータへの電流指令値にリニアモータのトルク定数Kt を乗算してトルク指令値を得ると共にフィルタリングするフィルタ機能と、リニアモータと負荷とを含んだ機構の入力トルクから位置への伝達関数1/Js2の逆モデルJnom s2に基づいて前記位置検出値から推定負荷入力トルクを推定する入力トルク推定フィルタ機能と、前記フィルタリングされた前記トルク指令値と前記推定された推定負荷入力トルクとの差分により推定負荷外乱トルクを算出する機能と、算出された推定負荷外乱トルクに前記リニアモータのトルク定数Kt の逆数1/Kt を乗算して電流補正値を算出する機能とを有し、
算出された電流補正値により前記電流目標値を補正して電流指令値として前記リニアモータに与えるようにしたことを特徴とするステージの位置制御装置。』
と訂正する。

ハ.訂正事項c
特許請求の範囲の請求項3に係る記載
『【請求項3】 ガイド系として静圧軸受け方式を用いたリニアモータにより少なくとも1軸方向に駆動されるステージの速度制御装置であって、前記ステージの速度を検出するための速度検出器から得られる速度検出値と速度指令値とに基づいて前記リニアモータを制御するフィードバック制御系による速度制御装置において、
前記速度検出値と前記速度指令値との差により前記リニアモータの電流目標値を生成するPID制御器と外乱オブザーバとを含み、
前記外乱オブザーバは、外乱オブザーバ制御プログラムにより高速演算を実行する信号処理手段を有し、
該信号処理手段は、前記リニアモータへの電流指令値からトルク指令値をフィルタリングするフィルタ機能と、前記速度検出値から推定負荷入力トルクを推定する入力トルク推定フィルタ機能と、前記フィルタリングされた前記トルク指令値と前記推定された推定負荷入力トルクとの差分により推定負荷外乱トルクを算出する機能と、算出された推定負荷外乱トルクに前記リニアモータのトルク定数の逆数を乗算して電流補正値を算出する機能とを有し、
算出された電流補正値により前記電流目標値を補正して電流指令値として前記リニアモータに与えるようにしたことを特徴とするステージの速度制御装置。』
を削除する。

ニ.訂正事項d
特許請求の範囲の請求項4に係る記載
『【請求項4】 請求項3記載の速度制御装置において、前記PID制御器に並列に、前記速度指令値にあらかじめ定められた制御ゲインを乗じるFF制御器が接続されていることを特徴とするステージの速度制御装置。』
を削除する。

ホ.訂正事項e
段落0001に係る記載
『【発明の属する技術分野】 本発明は、モータ及び負荷で構成される機構の移動及び位置決めを制御する位置制御装置及び速度制御装置に関し、特に、少なくとも1軸方向に駆動されるステージの駆動制御に適した位置制御装置及び速度制御装置に関する。』
を、
『【発明の属する技術分野】 本発明は、モータ及び負荷で構成される機構の移動及び位置決めを制御する位置制御装置に関し、特に、少なくとも1軸方向に駆動されるステージの駆動制御に適した位置制御装置に関する。』
と訂正する。

へ.訂正事項f
段落0009に係る記載
『本発明の他の課題は、上記の性能を持つステージの速度制御装置を提供することにある。』
を削除する。

ト.訂正事項g
段落0010に係る記載
『【課題を解決するための手段】 本発明は、ガイド系として静圧軸受け方式を用いたリニアモータにより少なくとも1軸方向に駆動されるステージの位置制御装置であって、前記ステージの位置を検出するための位置検出器から得られる位置検出値と位置指令値とに基づいて前記リニアモータを制御するフィードバック制御系による位置制御装置において、前記位置検出値と前記位置指令値との差により前記リニアモータの電流目標値を生成するPID制御器と外乱オブザーバとを含み、前記外乱オブザーバは、外乱オブザーバ制御プログラムにより高速演算を実行する信号処理手段を有し、該信号処理手段は、前記リニアモータへの電流指令値からトルク指令値をフィルタリングするフィルタ機能と、前記位置検出値から推定負荷入力トルクを推定する入力トルク推定フィルタ機能と、前記フィルタリングされた前記トルク指令値と前記推定された推定負荷入力トルクとの差分により推定負荷外乱トルクを算出する機能と、算出された推定負荷外乱トルクに前記リニアモータのトルク定数の逆数を乗算して電流補正値を算出する機能とを有し、算出された電流補正値により前記電流目標値を補正して電流指令値として前記リニアモータに与えるようにしたことを特徴とする。』
を、
『【課題を解決するための手段】 本発明は、ガイド系として静圧軸受け方式を用いたリニアモータにより少なくとも1軸方向に駆動されるステージの位置制御装置であって、前記ステージの位置を検出するための位置検出器から得られる位置検出値と位置指令値とに基づいて前記リニアモータを制御するフィードバック制御系による位置制御装置において、前記位置検出値と前記位置指令値との差により前記リニアモータの電流目標値を生成するPID制御器と外乱オブザーバとを含み、前記外乱オブザーバは、外乱オブザーバ制御プログラムにより高速演算を実行する信号処理手段を有し、該信号処理手段は、前記リニアモータへの電流指令値にリニアモータのトルク定数Kt を乗算してトルク指令値を得ると共にフィルタリングするフィルタ機能と、リニアモーと負荷とを含んだ機構の入力トルクから位置への伝達関数1/J s2 の逆モデルJnom s2 に基づいて前記位置検出値から推定負荷入力トルクを推定する入力トルク推定フィルタ機能と、前記フィルタリングされた前記トルク指令値と前記推定された推定負荷入力トルクとの差分により推定負荷外乱トルクを算出する機能と、算出された推定負荷外乱トルクに前記リニアモータのトルク定数Kt の逆数1/Kt を乗算して電流補正値を算出する機能とを有し、算出された電流補正値により前記電流目標値を補正して電流指令値として前記リニアモータに与えるようにしたことを特徴とする。』
と訂正する。

チ.訂正事項h
段落0011に係る記載
『本発明はまた、ガイド系として静圧軸受け方式を用いたリニアモータにより少なくとも1軸方向に駆動されるステージの速度制御装置であって、前記ステージの速度を検出するための速度検出器から得られる速度検出値と速度指令値とに基づいて前記リニアモータを制御するフィードバック制御系による速度制御装置にも適用され得る。』
を削除する。

リ.訂正事項i
段落0012に係る記載
『この場合、前記速度検出値と前記速度指令値との差により前記リニアモータの電流目標値を生成するPID制御器と外乱オブザーバとを含む。前記外乱オブザーバは、外乱オブザーバ制御プログラムにより高速演算を実行する信号処理手段を有し、該信号処理手段は、前記リニアモータへの電流指令値からトルク指令値をフィルタリングするフィルタ機能と、前記速度検出値から推定負荷入力トルクを推定する入力トルク推定フィルタ機能と、前記フィルタリングされた前記トルク指令値と前記推定された推定負荷入力トルクとの差分により推定負荷外乱トルクを算出する機能と、算出された推定負荷外乱トルクに前記リニアモータのトルク定数の逆数を乗算して電流補正値を算出する機能とを有する。そして、算出された電流補正値により前記電流目標値を補正して電流指令値として前記リニアモータに与える。』
を削除する。

ヌ.訂正事項j
段落0013に係る記載
『なお、前記PID制御器に並列に、前記位置あるいは速度指令値にあらかじめ定められた制御ゲインを乗じるFF制御器が接続されていても良い。』
を、
『なお,前記PID制御器に並列に、前記位置指令値にあらかじめ定められた制御ゲインを乗じるFF制御器が接続されていても良い。』
と訂正する。

ル.訂正事項k
段落0015に係る記載
『【作用】 本発明では、外乱オブザーバ制御プログラムを追加することで外乱そのものを加速度のレベルで推定し、これを指令値から差し引くことで本質的に外乱をキャンセルすることが可能となる。よって、汎用部品や一般の実装方法でも同様の効果が期待でき、定速性等において高い性能を実現することが可能となる。しかも、外乱オブザーバ自体はコンピュータ制御プログラムであり、コスト面でも有利である。このような外乱オブザーバ制御方式を用いた位置あるいは速度制御装置は、特に高性能精密ステージに適している。』
を、
『【作用】 本発明では、外乱オブザーバ制御プログラムを追加することで外乱そのものを加速度のレベルで推定し、これを指令値から差し引くことで本質的に外乱をキャンセルすることが可能となる。よって、汎用部品や一般の実装方法でも同様の効果が期待でき、定速性等において高い性能を実現することが可能となる。しかも、外乱オブザーバ自体はコンピュータ制御プログラムであり、コスト面でも有利である。このような外乱オブザーバ制御方式を用いた位置制御装置は、特に高性能精密ステージに適している。』
と訂正する。

ヲ.訂正事項m
段落0024に係る記載
『図1に示す制御装置のブロック線図を図2に示す。図2を用いて外乱オブザーバ10の作用を説明する。図2中の箱の中に記入されている符号のうち、11、12、33に記入されているのは、図1に示されている対応する構成要素の伝達関数を示し、16はモータMのトルク定数、17はモータMと負荷Lを含んだ機構の伝達関数、18はモータMのトルク定数の逆数である。』
を、
『図1に示す制御装置のブロック線図を図2に示す。図2を用いて外乱オブザーバ10の作用を説明する。図2中の箱の中に記入されている符号のうち、11、12、33に記入されているのは、図1に示されている対応する構成要素の伝達関数を示し、16はモータMのトルク定数Kt 、17はモータMと負荷Lを含んだ機構の伝達関数1/Js2、18はモータMのトルク定数Kt の逆数1/Kt である。』と訂正する。

ワ.訂正事項n
段落0025に係る記載
『ローパスフィルタ11は、モータドライバ34へのトルク指令値でc を外乱抑制周波数帯域でフィルタリングし、トルク指令推定値eτc を算出する。入力トルク推定フィルタ12はモータMと負荷Lを含んだ機構の入力トルクから位置への伝達関数16の逆モデルに基づいて位置検出値xより入力トルク(τc+τd)の推定値(eτc+eτd)を求める。この入力トルク推定フィルタ12もローパスフィルタ11と同様のフィルタ特性を持たせ、外乱抑制周波数帯城のみの入力トルク推定値(eτc+eτd)を算出する。』
を、
『ローパスフィルタ11は、モータドライバ34への電流指令値ic にモータMのトルク定数Kt を乗じることでトルク指令値τc を算出すると共にトルク指令値τc を外乱抑制周波数帯域でフィルタリングし、トルク指令推定値eτc を算出する。入力トルク推定フィルタ12はモータMと負荷Lを含んだ機構の入力トルクから位置への伝達関数17の逆モデルJnom s2 に基づいて位置検出値xより入力トルク(τc+τd)の推定値(eτc+eτd)を求める。この入力トルク推定フィルタ12もローパスフィルタ11と同様のフィルタ特性を持たせ、外乱抑制周波数帯域のみの入力トルク推定値(eτc+eτd)を算出する。』
と訂正する。

カ.訂正事項o
段落0026に係る記載
『更に、モータトルク定数逆モデル14においてトルク指令推定値eτcと、入力トルク推定値(eτc+eτd)との差分eτd により外乱トルク推定値eでdを算出する。演算された外乱トルク推定値eτd にモータMのトルク定数の逆数を乗じ、電流補正値eidを算出する。減算器15において、電流目標値icから電流補正値eidを減じ、モータドライバ34への電流指令値irとする。』
を、
『更に、モータトルク定数逆モデル14においてトルク指令推定値etcと、入力トルク推定値(eτc+eτd)との差分eτd により外乱トルク推定値eでdを算出する。演算された外乱トルク推定値eでdにモータMのトルク定数Ktの逆数1/Kt を乗じ、電流補正値eidを算出する。減算器15において、電流目標値ic から電流補正値eidを減じ、モータドライバ34への電流指令値irとする。』
と訂正する。

ヨ.訂正事項p
段落0031に係る記載
『【発明の効果】 本発明によれば、装置のハードウエア構成を変更することなく、装置の外乱を推定し補償することで、定速性、位置決め時間の性能向上を図ることのできる位置制御装置及び速度制御装置を提供することができる。』
を、
『【発明の効果】 本発明によれば、装置のハードウエア構成を変更することなく、装置の外乱を推定し補償することで、定速性、位置決め時間の性能向上を図ることのできる位置制御装置を提供することができる。』
と訂正する。


2-2 訂正の適否

訂正事項aについて
訂正事項aは、速度制御装置に係る請求項3、4を削除する訂正事項c,dに整合するように、発明の名称から「速度制御装置」を削除するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。訂正事項aは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。訂正事項aは、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。

訂正事項bについて
請求項1についての訂正事項bは、「前記リニアモータへの電流指令値からトルク指令値をフィルタリングするフィルタ機能」を「前記リニアモータへの電流指令値にリニアモータのトルク定数Kt を乗算してトルク指令値を得ると共にフィルタリングするフィルタ機能」と限定し、「前記位置検出値から推定負荷入力トルクを推定する入力トルク推定フィルタ機能」を「リニアモータと負荷とを含んだ機構の入力トルクから位置への伝達関数1/Js2の逆モデルJnom s2に基づいて前記位置検出値から推定負荷入力トルクを推定する入力トルク推定フィルタ機能」と限定し、「リニアモータのトルク定数の逆数」を「リニアモータのトルク定数Kt の逆数1/Kt」と限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。訂正事項bの「前記リニアモータへの電流指令値にリニアモータのトルク定数Kt を乗算してトルク指令値を得ると共にフィルタリングするフィルタ機能」「リニアモータと負荷とを含んだ機構の入力トルクから位置への伝達関数1/Js2の逆モデルJnom s2に基づいて前記位置検出値から推定負荷入力トルクを推定する入力トルク推定フィルタ機能」「リニアモータのトルク定数Kt の逆数1/Kt」は、いずれも段落0023、段落0024、段落0025、段落0026及び図1,図2の記載より明らかな事項であり、訂正事項bは、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。そして、訂正事項bは、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。よって、訂正事項bは、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。

訂正事項cについて
訂正事項cは、特許請求の範囲の請求項3の削除であって、特許法第120条の4第2項但し書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第120条の4第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合する。

訂正事項dについて
訂正事項dは、特許請求の範囲の請求項4の削除であって、特許法第120条の4第2項但し書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許法第120条の4第3項で準用する第126条第2項及び第3項の規定に適合する。

訂正事項e乃至pについて
その他の訂正事項e乃至pにつていも、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項の規定に適合するものである。

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法120条の4第第2項及び同条第3項において準用する特許法第126条第2項及び第3項までの規定に適合するので、上記訂正を認める。


3.異議申立てについての判断

3-1 本件発明

上記のとおり、訂正は認められるから、本件特許の発明(請求項1、請求項2)は、訂正された特許明細書の請求項1、2に記載された次のとおりのものである。

【請求項1】
ガイド系として静圧軸受け方式を用いたリニアモータにより少なくとも1軸方向に駆動されるステージの位置制御装置であって、前記ステージの位置を検出するための位置検出器から得られる位置検出値と位置指令値とに基づいて前記リニアモータを制御するフィードバック制御系による位置制御装置において、
前記位置検出値と前記位置指令値との差により前記リニアモータの電流目標値を生成するPID制御器と外乱オブザーバとを含み、
前記外乱オブザーバは、外乱オブザーバ制御プログラムにより高速演算を実行する信号処理手段を有し、
該信号処理手段は、前記リニアモータへの電流指令値にリニアモータのトルク定数Kt を乗算してトルク指令値を得ると共にフィルタリングするフィルタ機能と、リニアモータと負荷とを含んだ機構の入力トルクから位置への伝達関数1/Js2の逆モデルJnom s2に基づいて前記位置検出値から推定負荷入力トルクを推定する入力トルク推定フィルタ機能と、前記フィルタリングされた前記トルク指令値と前記推定された推定負荷入力トルクとの差分により推定負荷外乱トルクを算出する機能と、算出された推定負荷外乱トルクに前記リニアモータのトルク定数Kt の逆数1/Kt を乗算して電流補正値を算出する機能とを有し、
算出された電流補正値により前記電流目標値を補正して電流指令値として前記リニアモータに与えるようにしたことを特徴とするステージの位置制御装置。
(以下、本件発明1という。)

【請求項2】請求項1記載の位置制御装置において、前記PID制御器に並列に、前記位置指令値にあらかじめ定められた制御ゲインを乗じるFF制御器が接続されていることを特徴とするステージの位置制御装置。


3-2 申立の理由の概要

特許異議申立人横田貞則は、
甲第1〜甲第5号証(下記引用刊行物1〜5)を提示して、本件の請求項1-4に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから特許法第113条第2項に該当するので取り消されるべきものである
旨主張している。


3-3 取消理由通知で引用された刊行物に記載された発明

引用刊行物
刊行物1(甲第1号証):特開平5-308044号公報
刊行物2(甲第2号証):特開平10-277771号公報
刊行物3(甲第3号証):特開平9-238489号公報
刊行物4(甲第4号証):特開平8-331879号公報
刊行物5(甲第5号証):特開平5-122970号公報

引用刊行物に記載された発明

刊行物1:段落0037-段落0040には、
「【0037】【実施例1】図1は本発明の一実施例に係る精密位置決め装置の概略図である。この図において、1は空気軸受などの非接触の案内手段、2は駆動手段であるリニアモータ、3はリニアモータ2によって駆動される搬送物体、4は定盤、5はレーザ干渉計などの搬送物体の位置計測手段、7は第一の制御手段、8は外乱力を推定する第二の制御手段、すなわち外乱オブザーバである。9は微分器、10はダンパ、11はコイルばね、12および13はモード切換えスイッチ、14は速度モード直列補償器、15は位置モード直列補償器である。
【0038】上記構成において、第一の制御手段7は、定盤4に固定された位置検出手段5によって得られた搬送物体3の定盤4に対する変位x1 と目標位置RP との偏差eP に応じて、速度制御モード補償器14と位置制御モード補償器15を、切換えスイッチ12、13によって切換える。それぞれのモードの補償器はPIDなどの一般的な直列補償器である。この第一の制御手段7と第二の制御手段8の指令の和である制御指令uは、定盤4に固定されているリニアモータ2へ供給されることにより推進力fが生じる。定盤4はダンパ10とコイル11で床部より支持されている。
【0039】また、非接触式の案内手段1は定盤4に固定され、リニアモータ2のムーバと一体となっている搬送物体3は、案内手段1に対して微小量だけ浮上しており、上記推進力fによりリニアモータ2と案内手段1によってx方向に非接触に移動する。しかしこのとき推進力fの反力に伴う定盤4の横揺れに起因する搬送物体3の振動や、搬送物体3のヨーイング(図1においてz軸まわり回転)やピッチング(y軸まわりの回転)などの並進運動以外の姿勢の乱れが生じるため、第一の制御手段7だけでは位置決めに時間がかかってしまう。こうした影響を除去するために設けられるのが第二の制御手段8であり、位置計測手段5によって得られた搬送物体の位置情報を微分器9により微分して速度情報v1 を得、これと制御指令uとを用いて定盤振動やピッチングおよびローリングなどによる外乱力の推定値Fdeを求め、これを補償するために制御量u”を第一の制御手段7の出力u’に上乗せする。
【0040】つぎに具体的な数値解析によって、定盤振動やピッチング、ローリングなどの回転振動に対する本実施例の効果を明確に示す。まず図1の構成をブロック図に直すと図7のようになる。図7では第一の制御手段7をディジタルで構成したブロックになっており、速度モードではPI補償、位置制御モードではPID補償を行なっている。制御対象である非接触式の搬送物体3および定盤4は2自由度の連成系としてモデル化を行なっており、搬送物体3は並進運動による変位xP に加えて、回転運動の中で特に問題となるヨーイング動作による影響xthも考慮している。図1および7において、RV は指令速度、RP は指令位置、Tはサンプリング周期、KP1は速度制御モード比例ゲイン、Ki1は位置制御モード積分ゲイン、KP2は位置制御モード比例ゲイン、Ki2は位置制御モード積分ゲイン、KD2は位置制御モード微分ゲイン、Z-1は遅れ演算子、HOLDはホールダ、sは微分演算子、kt はリニアモータ推力定数、m1 は搬送物体質量、ktnはリニアモータ推力定数公称値、m1nは搬送物対質量公称値、g0 はオブザーバゲイン、lrは搬送物体重心から右の力作用点までの長さ、L1 は搬送物体重心から左の力作用点までの長さ、L2 は搬送物体重心から位置計測点までの長さ、m2 は定盤質量、c1 ,c2 ,cy は粘性定数、k1 ,k2 ,ky はバネ定数、xthはピッチングによるx方向変位、xP は並進運動によるx方向変位、x1 は位置計測手段による搬送物体の変位である。」と記載され、
段落0047には、「【0047】さて図11において、101は静圧軸受や転がり軸受などの案内手段、102は並進駆動手段であるリニアモータ、103はリニアモータ102によって駆動される粗動ステージ、104はθ方向の姿勢補正を行なうための姿勢補正駆動手段、105は姿勢補正駆動手段104によって駆動される微動ステージ、106は定盤、107はレーザ干渉計などによる並進方向の位置計測手段、108は微動ステージ105の姿勢を計測する姿勢計測手段、109は第一の制御手段、110は姿勢補正のための第三の制御手段、111は外乱を推定するために実施例1で用いられた第二の制御手段、すなわち図1で用いたものと同様の外乱オブザーバ、120は姿勢計測手段108の出力を用いた第一の修正手段、121は姿勢補正制御系の動特性を考慮した第二の修正手段、112は第一の修正手段120および第二の修正手段124による修正手段を設けた外乱オブザーバ、113はダンパ、114はばね、115は微分器、116および117はモード切り替えスイッチ、118は速度モードにおけるPI直列補償器、119は位置モードにおけるPID直列補償器、122は第三の制御手段110における直列補償器である。さらに粗動ステージ103とそれに搭載された微動ステージ105、姿勢補正駆動手段104および姿勢計測手段108とを併せて単にステージと呼ぶことにする。」と記載されている。
以上の記載、図1の記載、及び図7の記載からみて、刊行物1には、
「a1.空気軸受などの非接触の案内手段1によって、案内され、リニアモータ2によって駆動される搬送物体3」
「b1.位置計測手段5によって得られた搬送物体3の定盤4に対する変位x1と目標位置Rpとに基づいて、リニアモータ2への制御指令uを算出する第一の制御手段7、第二の制御手段8
c1.変位x1と目標位置Rpとの偏差ep に応じて切り替えられ、リニアモータ2への制御指令uを算出する位置制御モード補償器15(PIDの一般的な直列補償器)
d1.外乱を推定する演算を行う信号処理手段である第二の制御手段(外乱オブザーバ)8i1.制御量u”を第一の制御手段7の出力u'に加算して得られた制御指令uをリニアモータ2へ供給すること」
「第二の制御手段(外乱オブザーバ)8は、
e1.リニアモータ2への制御指令uにリニアモータ推力定数公称値ktnを乗じる機能と、
f1.位置計測手段5によって得られた搬送物体3の変位xlを微分器9により微分して速度情報を得、これに搬送物質量公称値mln、オブザーバゲインg0を乗じる機能と、
g1.これら2つの機能によって得られた2つの値の差分を取り、外乱力の推定値Fdeを求める機能と、
h1.外乱力の推定値Fdeにリニアモータ推力定数公称値ktnの逆数を乗じて、外乱を補償するための制御量u”を得る機能を有すること」
「外乱オブザーバを用いて制御されるステージが、静圧軸度や転がり軸受などの案内手段を有すること」
が記載されている。

刊行物2:段落0009には、
「【0009】【発明の実施の形態】本発明によるX-Yステージの一例を図2を参照して説明する。図2において、このX-Yステージは、ベース20上に、トッププレート21とそれをX軸方向-Y軸方向に案内するリニアベアリングと3組のリニアモータとを組み合わせて構成される。ベース20上に配置された2本のYリニアベアリング22とY軸方向駆動用の2組のY1リニアモータ23、Y2リニアモータ24とその可動部を共用するYリニアベアリング25とによりY軸方向の案内系が構成されている。なお、トッププレート21は、これに搭載されるワークよりもやや小さくなるような開口を有している。これは、レーザ加工時にはレーザ光がワークを透過するからである。」と記載され、
段落0013-段落0015には、
「【0013】図1を参照して、本発明の好ましい実施の形態による位置制御装置について説明する。前述したように、トッププレート21の位置検出を、Y1リニアモータ23側面のY1リニアエンコーダ31及びY2リニアモータ24側面のY2リニアエンコーダ32と、Xリニアモータ27側面のXリニアエンコーダ33とで行う。Xリニアモータ27に対する制御は、Xリニアエンコーダ33の位置検出値をフィードバックしてX軸位置指令値との偏差を検出し、この偏差をX位置制御器11に与える。X位置制御器11では、この偏差に基づいてX軸に関する制御量指令値を作成する。一方、Y1リニアモータ23に対する制御は、Y1リニアエンコーダ31の位置検出値をフィードバックしてY軸位置指令値との偏差を検出し、この偏差をY1位置制御器12に与える。Y1位置制御器12では、この偏差に基づいてY1軸に関する制御量指令値を作成する。同様にして、Y2リニアモータ24に対する制御は、Y2リニアエンコーダ32の位置検出値をフィードバックしてY軸位置指令値との偏差を検出し、この偏差をY2位置制御器13に与える。Y2位置制御器13では、この偏差に基づいてY2軸に関する制御量指令値を作成する。
【0014】ここで、Y1リニアモータ23,Y2リニアモータ24のフィードバック制御ループには、Y1位置制御器12、Y2位置制御器13の後段にそれぞれ、トッププレート21のX軸方向の位置検出値に応じた補正ゲイン要素14,15を付加して、Y1位置制御器12、Y2位置制御器13からの制御量指令値に補正ゲインを乗算することで、加工点回りの回転運動の発生を防ぐ構成としている。
【0015】また、Xリニアモータ27,Y1リニアモータ23,Y2リニアモータ24の各制御ループにそれぞれ、外乱オブザーバを用いた外乱補償器16,17,18を付加し、リニアベアリングガイドの摩擦特性の変動等の外乱要因をキャンセルする構成としている。外乱補償器16,17,18から出力される電流指令値はそれぞれ、Xリニアモータ27用のモータアンプ19-1、Y1リニアモータ23用のモータアンプ19-2、Y2リニアモータ24用のモータアンプ19-3に与えられ、各モータアンプは与えられた電流指令値に基づいて対応するリニアモータの制御を行う。」と記載され、
段落0024-段落0025には、
「【0024】更に、Xリニアモータ27,Y1リニアモータ23,Y2リニアモータ24の各制御系に付加された外乱補償器16,17,18の詳細を、Xリニアモータ27に適用した場合について図5に示す。まず、2次低域通過型フィルタ(Gs)からなるフィルタ16-1を用いて、位置制御器から出力された制御量指令値をフィルタリングする。また、Xリニアモータ27及び負荷を擬似した制御対象の逆モデル(Ms2 /Kf、ここで、MsはXリニアモータ27及び負荷の質量、Kfはモータ推力定数)及び2次低域通過型フィルタ(Gs)から成るフィルタ16-2を用いて、Xリニアエンコーダ33にて検出された位置検出値より制御対象に印加されている実推力値指令値を推定する。
【0025】そして、減算器16-3によりフィルタ16-1、16-2の出力の差分をとることにより、制御対象に印加されている外乱力を推定し、この推定外乱力を減算器16-4により制御量指令値から減算することにより、外乱力を補償する。このように、実推力推定時の制御対象モデルとして、リニアモータ及び負荷の質量からなるモデルを用いることで、リニアベアリングの案内摩擦の変動等を外乱力として推定し補償することができる。これは、Y1リニアモータ23,Y2リニアモータ24の場合についても同様である。」と記載されている。
すなわち刊行物2には、以下のことが記載されている。
a2.リニアベアリングとリニアモータとを組み合わせて構成される案内系により、少なくとも1軸方向(例えばX方向)に駆動されるステージの位置制御装置
b2、c2.ステージの位置を検出するXリニアエンコーダ33から得られる位置検出値をフィードバックしてX軸位置指令値との偏差を検出し、この偏差をX位置制御器11 に与えてXリニアモータ27を制御する位置制御装置
d2.Xリニアモータ27の制御ループに外乱オブザーバを用いた外乱補償器16を付加すること
e2.外乱補償器16は、2次元低域通過型フィルタ(Gs)からなるフィルタ16-1を用いて、位置制御器から出力された制御指令値をフィルタリングする機能と、
f2.Xリニアモータ27及び負荷を凝似した制御対象の逆モデル(Ms2/Kf、ここで、MsはXリニアモータ27及び負荷の質量、Kfモータ推力定数)及び2次低域通過型フィルタ(Gs)から成るフィルタ16-2を用いて、Xリニアエンコーダ33にて検出された位置検出値より制御対象に印加されている実推力値指令値を推定する機能と、
g2.減算器16-3によりフィルタ16-1、16-2の出力の差分をとることにより、制御対象に印加されている外乱力を推定する機能と、
i2.この推定外乱力を減算器16-4により制御量指令値から減算することにより、外乱力を補償するものであり、外乱補償器16から出力される電流指令値は、Xリニアモータ27用のモータアンプ19-1に与えられ、各モータアンプは与えられた電流指令値に基づいてリニアモータの制御を行うこと

刊行物3:段落0003-段落0010には、
「【0003】図7に示すブロック線図を用いて従来例を説明する。図示しない制御装置より出力された速度指令値ωref は、加算器7によリモータ速度帰還出力ωfbと加算された後、比例積分器5に入力される。比例積分器5は、比例ゲインKp と、積分ゲインKI とを持っている。
【0004】比例積分器5の出力は、モータ1に対する電流指令値Iref であり、加算器8で電流補償値ΔIc と加算され、新たな電流指令値Ic となる。
【0005】電流指令値Ic は加算器9により、モータ1の電機子電流検出値の符号を反転した値と加算された後、低速増幅器10に入力され、所定の電力に増幅され、増幅器10の出力でモータ1を駆動する。
【0006】モータ1は、電機子部13の電機子インダクタンスL、電機子抵抗値R、トルク定数部11のトルク定数KT 、逆起電力定数部12の逆起電力定数KE 、回転子14の慣性モーメントJM として図7のブロック線図に示している。尚、モータ1の粘性定数は小さいものとして省略してある。
【0007】前記モータ1からは、検出出力として電機子電流IM 、モータ速度ωM が出力され、また入力として外乱トルクTd が存在する。モータ1のモータ速度ωM は、速度帰還増幅器6で所定の値に増幅され加算器7により速度指令値ωref から減算される。
【0008】図7に示す外乱トルクオブザーバ2では、検出された電機子電流IM をトルク定数KT の公称値KTn(添字のnは公称値nomina1を表す、以下同じ)に乗じて得たモータ1の発生トルクの推定値と、検出されたモータ速度ωM をモータ回転子14の慣性モーメントJM の積分特性の逆モデルを模擬してなる微分器23により、モータ速度ωM を微分して得られたモータ1の発生トルクの推定値とを加算器22に入力し、二つのトルクの推定値の差を外乱トルクTd の推定値Td 0 として下記数1の式で求める。微分器23ではモータ1の回転子14の慣性モーメントJM の公称値JMnとする。尚、数1において、sはラプラス演算子である。
・・・
【0010】そして、求めた外乱トルクTd の推定値Td 0 を打ち消すように、この外乱トルクTd の推定値Td 0 に、増幅器3によりトルク定数KT の公称値KTnの逆数1/KTnを乗じ、増幅器3の出力である電流補償値ΔIc を加算器8により電流指令値Iref と加算することにより、電流指令値Iref を補償し、補償された新たな電流指令値Ic として出力する。」と記載されている。
すなわち、刊行物3には外乱トルクオブザーバ2と増幅器3を用いて、モータへの電流指令値を補償する制御装置が記載されている。

刊行物4:段落0006、段落0021-段落0024には、比例積分(PI)制御器9を用いた制御系に外乱オブザーバを用いたモータの制御装置において、比例積分(PI)制御器9と並列にフィードフォワード制御部10を接続することが記載されている。

刊行物5:
段落0023には、「【0023】外乱トルク補償手段30は基本的にいわゆる外乱オブザーバ方式の外乱トルク補償手段であり、モータトルクモデル31と、負荷トルク逆モデル32と、モータトルク逆モデル33と、ローパスフィルタ34と、本実施例の特徴部である外乱トルク推定値補正手段35を含んで構成されている。モータトルクモデル31はモータ11が電圧指令値Vin従って駆動されたときに発生するモータトルクを推定する模擬特性関数である。負荷トルク逆モデル32は、モータ11と負荷12からなる機械系の入力トルクを速度検出値ωから推定する模擬特性関数である。それらのトルク推定値の差が外乱トルクに対応するものであり、加算手段36で外乱トルク推定値として求められる。モータトルク逆モデル33はトルクの次元を電圧指令値の次元に変換するものである。速度制御手段22及び外乱トルク補償手段30は、マイクロコンピュータを用いて構成することができる。」と記載されている。
すなわち、刊行物5には、外乱オブザーバ方式の外乱トルク補償手段を備えたモータ制御装置において、外乱トルク補償手段を、マイクロコンピュータを用いて構成することが記載されている。


3-4 引用刊行物に記載された発明との対比・判断

本件発明1と刊行物1ないし5に記載された発明とを対比すると、後者のいずれにも、
「リニアモータへの電流指令値にリニアモータのトルク定数Kt を乗算してトルク指令値を得る」こと、「リニアモータと負荷とを含んだ機構の入力トルクから位置への伝達関数1/Js2の逆モデルJnom s2に基づいて前記位置検出値から推定負荷入力トルクを推定する」こと、「算出された推定負荷外乱トルクに前記リニアモータのトルク定数Kt の逆数1/Kt を乗算する」ことの3つの機能の組み合わせを備えるという点については記載がされておらず、示唆もされていない。
そして、本願発明1は、上記3つの機能の組み合わせを備えることにより、外乱オブザーバで使用する逆制御対象モデルが慣性負荷のみに限定されると共に外乱オブザーバ制御の各制御ブロックでの演算時間が均等化されることから演算処理時間の増大が防止されることを通じて、明細書に記載された効果である(外乱オブザーバ制御による)「定速性、位置決め時間の性能向上」の程度において顕著なものが奏されるものと認める。
したがって、本件発明1は、刊行物1ないし5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

本件の請求項2に係る発明は、上記で検討した本件発明1を引用するものであるから、上記と同じ理由により、刊行物1ないし5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。


4.結論
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし2に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ステージの位置制御装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ガイド系として静圧軸受け方式を用いたリニアモータにより少なくとも1軸方向に駆動されるステージの位置制御装置であって、前記ステージの位置を検出するための位置検出器から得られる位置検出値と位置指令値とに基づいて前記リニアモータを制御するフィードバック制御系による位置制御装置において、
前記位置検出値と前記位置指令値との差により前記リニアモータの電流目標値を生成するPID制御器と外乱オブザーバとを含み、
前記外乱オブザーバは、外乱オブザーバ制御プログラムにより高速演算を実行する信号処理手段を有し、
該信号処理手段は、前記リニアモータへの電流指令値にリニアモータのトルク定数Ktを乗算してトルク指令値を得ると共にフィルタリングするフィルタ機能と、リニアモータと負荷とを含んだ機構の入力トルクから位置への伝達関数1/Js2の逆モデルJ nom s2に基づいて前記位置検出値から推定負荷入力トルクを推定する入力トルク推定フィルタ機能と、前記フィルタリングされた前記トルク指令値と前記推定された推定負荷入力トルクとの差分により推定負荷外乱トルクを算出する機能と、算出された推定負荷外乱トルクに前記リニアモータのトルク定数Ktの逆数1/Ktを乗算して電流補正値を算出する機能とを有し、
算出された電流補正値により前記電流目標値を補正して電流指令値として前記リニアモータに与えるようにしたことを特徴とするステージの位置制御装置。
【請求項2】 請求項1記載の位置制御装置において、前記PID制御器に並列に、前記位置指令値にあらかじめ定められた制御ゲインを乗じるFF制御器が接続されていることを特徴とするステージの位置制御装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、モータ及び負荷で構成される機構の移動及び位置決めを制御する位置制御装置に関し、特に、少なくとも1軸方向に駆動されるステージの駆動制御に適した位置制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種のステージの位置制御装置としては、例えば図7に示すようなPID制御方式によるもの、あるいは図8に示すようなPID制御及びFF制御方式によるものが知られている。
【0003】
図7において、PID制御方式においては、負荷Lであるステージを駆動するモータMに位置検出器31を設けてステージの位置を検出する。位置検出値xは減算器32において位置指令値xcとの差がとられ、この差信号がPID制御器33に入力される。PID制御器33は、差信号によりモータドライバ34に電流目標値icを与える。モータドライバ34はトルク指令値τcを出力する。
【0004】
図8において、PID制御及びFF制御方式においては、PID制御器33に並列にFF制御器35が接続され、加算器36によりPID制御器33の出力にFF制御器35の出力が加算される。FF制御器35は、位置指令値xcと位置検出値xとを一致させるように位置指令値xcにあらかじめ定められた制御ゲインを乗じるものである。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようなPID制御方式あるいは、PID制御及びFF制御方式によるステージでは、外部からの不要な振動の混入、モータのコギングやケーブル系テンションの影響による外乱によって定速性、位置決め時間等の性能を劣化させていた。
【0006】
このような外乱を抑えるためにはサーボ系のゲインを高め、相対的に外乱のレベルを減少させる方法がとられる。しかし、サーボ系のゲインを高めると、制御系の安定性の面での問題を生じる。
【0007】
このような事情から、実際の外乱抑制のポイントは、高度な外部振動防止対策、外乱の少ない高性能モータやケーブル実装の工夫、機械系の高精度化等の対策での対応であり、コスト的に問題であった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、装置のハードウェア構成を変更することなく、装置の外乱を推定し補償することで、定速性、位置決め時間の性能向上を図ることのできるステージの位置制御装置を提供することにある。
【0009】
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ガイド系として静圧軸受け方式を用いたリニアモータにより少なくとも1軸方向に駆動されるステージの位置制御装置であって、前記ステージの位置を検出するための位置検出器から得られる位置検出値と位置指令値とに基づいて前記リニアモータを制御するフィードバック制御系による位置制御装置において、前記位置検出値と前記位置指令値との差により前記リニアモータの電流目標値を生成するPID制御器と外乱オブザーバとを含み、前記外乱オブザーバは、外乱オブザーバ制御プログラムにより高速演算を実行する信号処理手段を有し、該信号処理手段は、前記リニアモータへの電流指令値にリニアモータのトルク定数Ktを乗算してトルク指令値を得ると共にフィルタリングするフィルタ機能と、リニアモータと負荷とを含んだ機構の入力トルクから位置への伝達関数1/Js2の逆モデルJ nom s2に基づいて前記位置検出値から推定負荷入力トルクを推定する入力トルク推定フィルタ機能と、前記フィルタリングされた前記トルク指令値と前記推定された推定負荷入力トルクとの差分により推定負荷外乱トルクを算出する機能と、算出された推定負荷外乱トルクに前記リニアモータのトルク定数Ktの逆数1/Ktを乗算して電流補正値を算出する機能とを有し、算出された電流補正値により前記電流目標値を補正して電流指令値として前記リニアモータに与えるようにしたことを特徴とする。
【0011】
【0012】
【0013】
なお、前記PID制御器に並列に、前記位置指令値にあらかじめ定められた制御ゲインを乗じるFF制御器が接続されていても良い。
【0014】
【0015】
【作用】
本発明では、外乱オブザーバ制御プログラムを追加することで外乱そのものを加速度のレベルで推定し、これを指令値から差し引くことで本質的に外乱をキャンセルすることが可能となる。よって、汎用部品や一般の実装方法でも同様の効果が期待でき、定速性等において高い性能を実現することが可能となる。しかも、外乱オブザーバ自体はコンピュータ制御プログラムであり、コスト面でも有利である。このような外乱オブザーバ制御方式を用いた位置制御装置は、特に高性能精密ステージに適している。
【0016】
【発明の実施の形態】
図6を参照して、本発明が適用される高性能精密ステージ機構を1軸について説明する。精密ステージには種々の形態が考えられ、通常は、X軸用ステージとY軸用ステージとを直交するように積み上げてX-Yステージが構成されるが、ここでは説明の便宜上、1軸について図示、説明する。勿論、本発明は1軸あるいは2軸、更には3軸以上のステージ機構にも適用可能である。
【0017】
精密ステージ機構は、アルミ、鋳鉄、グラナイト等のベース上にリニアモータ21による駆動系とスライドガイド22によるガイド系を取り付け、スライドガイド22に可動ステージ23を組み付け、可動ステージ23上にワークを載せる構成となる。駆動系には、直接直線運動を実現するリニアモータの代わりに、回転型モータとボールねじにより回転運動を直線運動に変換する方式が採用されることもある。ガイド系については、一般に使用される接触式のボール/ローラベアリング方式と空気静圧軸受け(エアースライダ)方式に大別されるが、高精度品では空気静圧軸受けが有利である。
【0018】
後で述べる本発明の外乱オブザーバを考えた場合は、各部の機械剛性が高い必要があり、静圧軸受け方式を用いたリニアモータによるダイレクトドライブ構成の精密ステージ機構が最もその効果が期待できる。
【0019】
可動ステージ23の位置の検出はリニアエンコーダ24によって行われる。この種のリニアモータでは、可動部に検出器を持たせ、ガイド部(固定部)にリニアスケールを固定して、移動距離に対応したパルス数をカウントすることで相対的な位置を計算する。勿論、リニアエンコーダ以外、例えばレーザ干渉計でも同じ機能を実現することができる。
【0020】
制御部20にはDSP(ディジタル信号処理プロセッサ)などの高速プロセッサを用いる。制御部20は、図7、図8で説明したようなPID制御器あるいは、PID制御器およびFF制御器を持ち、演算結果をモータドライバに与えるためのアナログ出力ポート、リニアエンコーダ21からの検出信号を受ける入力ポートを備えた汎用のサーボ制御ボードで実現される。
【0021】
本発明では、このような汎用のサーボ制御ボードに対し、更に外乱オブザーバ制御プログラムを付加することで実現される。
【0022】
図1を参照して、PID制御方式による位置制御装置に本発明を適用した第1の実施の形態について説明する。図6の制御部20はPID制御器33と外乱オブザーバ10とで構成される。PID制御器33は、位置指令値xcと位置検出値xとを一致させるようにその偏差(xc-x)に対し、比例(P)、積分(I)、微分(D)処理を加え、モータドライバ34への電流目標値icを演算する。
【0023】
外乱オブザーバ10は、ローパスフィルタ11によりフィルタリングされたモータドライバ34へのトルク指令値τcと、入力トルク推定フィルタ12により位置検出値xから推定された推定負荷入力トルクとの差を減算器13で演算し、得られた差分によりモータトルク定数逆モデル14において推定負荷外乱トルクに相当する電流値を算出する。そして、減算器15により推定負荷外乱トルクに相当する電流値を電流目標値icから減算することで、外乱トルクを打ち消すように電流目標値icを補正し、モータドライバ34への電流指令値irを算出する。なお、モータドライバ34に与えられるのは電流指令値icであるが、ローパスフィルタ11ではこの電流指令値icに定数Ktを乗じることでトルク指令値τcを得る。
【0024】
図1に示す制御装置のブロック線図を図2に示す。図2を用いて外乱オブザーバ10の作用を説明する。図2中の箱の中に記入されている符号のうち、11、12、33に記入されているのは、図1に示されている対応する構成要素の伝達関数を示し、16はモータMのトルク定数Kt、17はモータMと負荷Lを含んだ機構の伝達関数1/Js2、18はモータMのトルク定数Ktの逆数1/Ktである。
【0025】
ローパスフィルタ11は、モータドライバ34への電流指令値icにモータMのトルク定数Ktを乗じることでトルク指令値τcを算出すると共にトルク指令値τcを外乱抑制周波数帯域でフィルタリングし、トルク指令推定値eτcを算出する。入力トルク推定フィルタ12はモータMと負荷Lを含んだ機構の入力トルクから位置への伝達関数17の逆モデルJ nom s2に基づいて位置検出値xより入力トルク(τc+τd)の推定値(eτc+eτd)を求める。この入力トルク推定フィルタ12もローパスフィルタ11と同様のフィルタ特性を持たせ、外乱抑制周波数帯域のみの入力トルク推定値(eτc+eτd)を算出する。
【0026】
更に、モータトルク定数逆モデル14においてトルク指令推定値eτcと、入力トルク推定値(eτc+eτd)との差分eτdにより外乱トルク推定値eτdを算出する。演算された外乱トルク推定値eτdにモータMのトルク定数Ktの逆数1/Ktを乗じ、電流補正値eidを算出する。減算器15において、電流目標値icから電流補正値eidを減じ、モータドライバ34への電流指令値irとする。
【0027】
図3は、本発明をPID制御及びFF制御方式による位置制御装置に適用した第2の実施の形態を示した図であり、図1の構成にFF制御器35が付加されている。FF制御器35は、位置指令値xcと位置検出値xとを一致させるように位置指令値xcに対し制御ゲインを乗じ、加算器36によりPID制御器33からの出力に加え、モータドライバ34への電流目標値icを演算する。その他の構成要素の作用は、図1、図2で説明した第1の実施の形態と同様である。
【0028】
具体的には、本発明を静圧軸受け(エアースライダ)方式+リニアモータの精密ステージ機構に適用し、定速性に対する効果を計測した例を図4に示す。図4は、一定速度時の追従誤差変動を示している。外乱オブザーバ10を加えることで誤差変動を減少させることが可能となる。外乱要因は、主にリニアモータ(一般の回転モータでも同様)の磁気回路の不均一さから生じる推力リップルとケーブル系のテンションの変動によるものと思われる。これらは通常の商品を考えた場合、一般的に必ず存在するものであり、最近の装置の高精度化に伴い問題となるケースが増加している。本発明は、このような問題に対し有効である。
【0029】
本発明を静圧軸受け(エアースライダ)方式+リニアモータの精密ステージ機構に適用し、位置決め特性に対する効果を計測した例を図5に示す。図5は150mmのステップ移動時の位置偏差を示している。外乱オブザーバ10を含まない制御では位置決め時に定盤(ベース)振動に起因する残留振動が存在するが、外乱オブザーバ10を加えることで残留振動を効果的に抑制させることが可能となる。通常、X-Yステージ機構は、床振動の除去のため除振された定盤上に固定されており、位置決め時の残留振動は一般的に必ず存在するものであり、装置の高スループット化の際に問題となる。本発明は、この問題に対しても有効である。
【0030】
以上、本発明を精密ステージ機構に適用して説明したが、本発明は対象物を移動及び位置決めする装置の速度制御方式及び位置制御方式にも広く応用可能である。すなわち、本発明を速度制御方式に適用する場合には、位置指令値は速度指令値となり、位置検出器31に代えて、速度検出器が用いられる。そして、入力トルク推定フィルタ12は、モータMと負荷Lを含んだ機構の入力トルクから速度への伝達関数の逆モデルに基づいて速度検出器で検出される速度より負荷入力トルクを推定する。
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、装置のハードウェア構成を変更することなく、装置の外乱を推定し補償することで、定速性、位置決め時間の性能向上を図ることのできる位置制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明をPID制御方式に適用した場合の位置制御系の構成を示したブロック図である。
【図2】
図1のブロック線図である。
【図3】
本発明をPID制御及びFF制御方式に適用した場合の位置制御系の構成を示したブロック図である。
【図4】
本発明を静圧軸受け方式+リニアモータの精密ステージ機構に適用し、定速性に対する効果を計測した例を示した図である。
【図5】
本発明を静圧軸受け方式+リニアモータの精密ステージ機構に適用し、位置決め特性に対する効果を計測した例を示した図である。
【図6】
本発明が適用されるステージ機構を1軸について示した図である。
【図7】
従来のPID制御方式による位置制御系の構成を示したブロック図である。
【図8】
従来のPID制御及びFF制御方式による位置制御系の構成を示したブロック図である。
【符号の説明】
10 外乱オブザーバ
11 ローパスフィルタ
12 入力トルク推定フィルタ
13、15、32 減算器
14 モータトルク定数逆モデル
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-08-01 
出願番号 特願平11-140002
審決分類 P 1 651・ 121- YA (G05D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 森林 克郎  
特許庁審判長 三友 英二
特許庁審判官 牧 初
村上 哲
登録日 2002-04-19 
登録番号 特許第3298069号(P3298069)
権利者 住友重機械工業株式会社
発明の名称 ステージの位置制御装置  
代理人 後藤 洋介  
代理人 後藤 洋介  
代理人 池田 憲保  
代理人 池田 憲保  

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