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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  H05B
管理番号 1086436
異議申立番号 異議2002-71911  
総通号数 48 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-08-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-08-05 
確定日 2003-08-25 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3254323号「有機ELデバイス」の請求項1、2、4ないし9に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3254323号の請求項1、2、4ないし9に係る特許を維持する。 
理由 〔1〕訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1に記載される「該保護層が気相成膜法により」を、
「該保護層が素子作製時の真空環境を破ることなく気相成膜法により」と訂正する。
イ.訂正事項b
特許請求の範囲の請求項9に記載される「該保護層を気相成膜法により」を、
「該保護層を素子作製時の真空環境を破ることなく気相成膜法により」と訂正する。
ウ.訂正事項c
発明の詳細な説明の段落【0010】に記載される「該保護層が気相成膜法により」を、
「該保護層が素子作製時の真空環境を破ることなく気相成膜法により」と訂正する。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正事項a、bは、気相成膜法を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、「素子作製時の真空環境を破ることなく」の記載は、願書に添付した明細書の段落【0029】、【0034】に記載されていたものと認められるから、新規事項の追加に該当しない。
上記訂正事項cは、訂正事項a、bの訂正にともない、記載を整合する訂正であるから、明りょうでない記載に釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当しない。
そして、上記いずれの訂正事項も実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条ただし書、及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

〔2〕特許異議申立てについての判断
(1)本件発明
上記〔1〕で示したように上記訂正が認められるから、本件の請求項1、2、4〜9に係る発明(以下、「本件発明1、2、4〜9」という。)は、上記訂正に係る訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1、2、4〜9に記載された次のとおりのものである。
なお、請求項3に係る発明は、特許異議申立てされていない。
「【請求項1】基板上に第1の電極、有機発光材料を含有する有機固体層、および第2の電極を順次積層してなる有機EL素子と、この有機EL素子の外側に設けられた保護層とを備え、前記保護層が吸収率1%以上の吸収性物質と吸水率0.1%以下の防湿性物質とからなり、かつ、該保護層が素子作製時の真空環境を破ることなく気相成膜法により形成された層であることを特徴とする有機ELデバイス。
【請求項2】保護層が、吸水性物質からなる層と防湿性物質からなる層との積層構造をとる、請求項1に記載の有機ELデバイス。
【請求項4】吸水性物質が吸水率100%以上の高吸収性高分子である、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の有機ELデバイス。
【請求項5】吸収性物質が吸水率400%以上の高吸収性高分子である、請求項4に記載の有機ELデバイス。
【請求項6】吸収性物質が吸収率1000%以上の高吸収性高分子である、請求項4または請求項5に記載の有機ELデバイス。
【請求項7】吸収性物質がポリビニルアルコールである、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の有機ELデバイス。
【請求項8】気相成膜法が真空蒸着法である、請求項1〜請求項7のいずれかに記載の有機ELデバイス。
【請求項9】有機EL素子の外側に、吸水率1%以上の吸水性物質と吸水率0.1%以下の防湿性物質とからなる保護層を素子作製時の真空環境を破ることなく気相成膜法により形成することを特徴とする有機EL素子の封止方法。」

(2)申立ての理由の概要
異議申立人・鈴木正和は、本件発明1、2、4〜9は、甲第1、2号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当該発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきと主張している。

(3)甲号各証に記載された発明
ア.甲第1号証(特開平4-233192号公報)には、有機エレクトロルミネッセンスデバイスに関して、図1〜4とともに以下の事項が記載されている。(ア-1)「有機ELデバイスにおける発光層への水分や酸素の侵入は、有機ELデバイスを構成する積層構造体、すなわち2つの電極間に少なくとも発光層を介在させてなる積層構造体を、適当な物質からなる保護層で被覆することにより防止することができる。ここでいう適当な物質とは、発光層の特性の劣化を防止するうえからは防湿性に優れるとともに酸素透過性に劣り、色の制限は特にはないが、保護層を設けた面を発光面とする場合には透明であることが必要で、さらには電気絶縁性に優れた物質である。…このような条件を満たす物質としては、Si3N4、SiO2、Al2O3等の窒化物あるいは酸化物があり、これらの物質からなる保護膜は物理的蒸着法や化学的蒸着法により成膜することができるが、この場合には、発光層の材料である蛍光性の有機固体の機械的熱的強度が低いために、蒸着により蛍光性の有機固体が物理的に損傷してしまい、高輝度、高寿命の有機ELデバイスが得られなくなる。また、上述の窒化物あるいは酸化物からなる保護膜の熱膨張率と蛍光性の有機固体の熱膨張率とは大きく異なるため、このような保護膜により積層構造体を被覆した場合には、熱膨張率の違いから保護膜にひび割れが生じてしまい、十分な保護効果が得られない。」(段落【0008】、【0009】)
(ア-2)「本発明は上記目的を達成するためになされたものであり、本発明の有機ELデバイスは、互いに対向する2つの電極間に蛍光性の有機固体からなる発光層が少なくとも介在してなる積層構造体を有する有機エレクトロルミネッセンスデバイス(有機ELデバイス)において、前記積層構造体の外表面が、テトラフルオロエチレンと少なくとも1種のコモノマーとを含むモノマー混合物を共重合させて得られる共重合体からなる1層または複層構造のフッ素系高分子薄膜により被覆されていることを特徴とするものである。…以下、本発明を詳細に説明する。本発明の有機ELデバイスの特徴は、上述のように、この有機ELデバイスを構成する積層構造体の外表面が特定のフッ素系高分子薄膜により被覆されている点にあり、これにより、発光層への水分や酸素の侵入を防止するものである。」(段落【0013】、【0014】)
(ア-3)「本発明の有機ELデバイスにおいては、互いに対向する2つの電極間に蛍光性の有機固体からなる発光層が少なくとも介在してなる積層構造体の外表面が、上述したテトラフルオロエチレンと少なくとも1種のコモノマーとを含むモノマー混合物を共重合して得られる共重合体からなるフッ素系高分子薄膜により被覆されている。このフッ素系高分子薄膜による積層構造体の被覆は、例えば、キャスト法、スピンコート法、蒸着法等により行うことができる。このときのフッ素系高分子薄膜の下限は、1nm好ましくは10nmである。膜厚を1nm未満とした場合には、いずれの方法によっても均一な薄膜を得ることが困難である。また上限は、目的とする有機ELデバイスの用途やフッ素系高分子薄膜の成膜方法により異なるため特定することはできないが、蒸着法の場合は生産性等の点から100μm程である。キャスト法ならば100μm以上の膜厚の膜でも比較的簡単に成膜することができる。」(段落【0030】)
(ア-4)「例えば、上述したフッ素系高分子薄膜により被覆される積層構造体の構成は、従来の有機ELデバイスと同様に、下記1)〜4)のいずれかの構成とすることができる。
1)電極(陰極)/発光層/正孔注入層/電極(陽極)
2)電極(陽極)/発光層/電子注入層/電極(陰極)
3)電極(陽極)/正孔注入層/発光層/電子注入層/電極(陰極)
4)電極(陽極または陰極)/発光層/電極(陰極または陽極)
ここで、正孔注入層、電子注入層とはそれぞれ、電荷の注入性、電荷の輸送性、電荷に対する障害性のいずれかを有する層である。これらの層の材料は、有機材料である。…このような積層構造体は、通常、基板上に形成されるが、基板および積層構造体の大きさ、形状、材質等も、面光源、グラフィックディスプレイの画素、テレビ画像表示装置の画素等、目的とする有機ELデバイスの用途に応じて適宜選択される。」(段落【0037】、【0038】)
上記の記載及び図面を総合すると、甲第1号証には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「基板上に電極、有機発光材料を含有する発光層、および電極を順次積層してなる積層構造体と、この積層構造体を被覆したフッ素高分子薄膜とを備え、前記フッ素高分子薄膜が蒸着法により形成された層である有機ELデバイス。」

イ.甲第2号証(特開昭57-165994号公報)には、電場発光素子に関して、第1〜3図とともに以下の事項が記載されている。
(イ-1)「第1図は、本発明の実施例1を示す交流電場発光素子の要部断側面図であり、(1)はたとえばガラス基板、プラスチックフィルム等から成る透明絶縁板、(2)はたとえば面積抵抗が数KΩ/□以下のInO2やSnO2等の金属酸化物の薄膜、金パラジウム等の金属の薄膜や網目状の穴の形成されたアルミ箔等から成る透明電極、(3)はたとえば銀等の金属粉を有機高分子や無機質の結着剤中に分散させたものやアルミ、銅等の金属の薄膜から成る対向電極、(4)は発光体で、たとえばZnSにCuやMnの活性剤とCl、Se等の付活性剤から成る蛍光体粉末を有機高分子結着剤中に分散させたり、蛍光体の薄膜を蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等によって形成される。(5)は絶縁層で、TiO2やBaTiO2等の高誘電率粉末を有機高分子結着剤中に分散させたり、前記高誘電率粉末やY2O3を蒸着法、スパッタリング法等によって形成される。(6)はナイロン6、ナイロン66等から成る吸水性のフィルムで、該フィルム(6)の表裏には三フッ化塩化エチレン(7)とポリエチレン(8)とがラミネート接着されており、前記フィルム(6)と三フッ化塩化エチレン(7)とポリエチレン(8)とから成る三層によって防湿保護用フィルムが形成される。」(公報第2頁左上欄第7行〜右上欄第10行)

(4)対比・判断
ア.本件発明1について
本件発明1と引用発明を対比すると、後者の「発光層」、「積層構造体」、「フッ素高分子薄膜」、「蒸着法」は、前者の「有機固体層」、「有機EL素子」、「保護層」、「気相成膜法」にそれぞれ相当するものと認められ、前者の発光層は、有機発光材料を含有しているから、
両者は、「基板上に第1の電極、有機発光材料を含有する有機固体層、および第2の電極を順次積層してなる有機EL素子と、この有機EL素子の外側に設けられた保護層とを備え、該保護層が気相成膜法により形成された層である有機ELデバイス」の点で一致しており、以下の点で相違する。
(相違点)
前者は、「保護層が吸収率1%以上の吸収性物質と吸水率0.1%以下の防湿性物質とからなり、かつ、該保護層が素子作製時の真空環境を破ることなく」気相成膜法により形成された層であるのに対して、後者は、保護層がフッ素高分子薄膜を蒸着法により形成された層である点。
ところで、引用発明における蒸着法が真空環境で行われる成膜法であることは自明な事項といえるから、引用発明における保護層は、真空環境を破ることなく気相成膜法により形成された層である点で、本件発明1と実質的に一致するといえる。しかしながら、引用発明におけるフッ素高分子薄膜は、発光層への水分や酸素の侵入を防止するためのものであるから、本件発明1における防湿性物質に相当し、吸収性物質に相当するものとはいえない。
そして、甲第2号証について検討しても、『保護層が吸収率1%以上の吸収性物質と吸水率0.1%以下の防湿性物質とからなり、かつ、該保護層が「素子作製時の真空環境を破ることなく」気相成膜法により形成された層』である点は、記載されていない。
そして、本件発明1は、上記相違点、すなわち、吸収性物質と防湿性物質とを併せ持つ保護層を「素子作製時の…破ることなく…形成された層」として具備させた構成を有することにより、「長期間に亘って実用的な発光特性を示すものを容易に得ることができる」という明細書に記載の効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明1は、引用発明および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

イ.本件発明2、4〜8について
本件発明2、4〜8は、本件発明1を引用した発明であるから、本件発明1が引用発明および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができない以上、本件発明2、4〜8も引用発明および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

ウ.本件発明9について
本件発明9と引用発明を対比すると、以下の点で相違する。
(相違点)
前者は、「吸収率1%以上の吸収性物質と吸水率0.1%以下の防湿性物質とからなる保護層を素子作製時の真空環境を破ることなく」気相成膜法により形成されたものであるのに対して、後者は、保護層がフッ素高分子薄膜を蒸着法により形成された層である点。
甲第2号証について検討しても、「吸収率1%以上の吸収性物質と吸水率0.1%以下の防湿性物質とからなる保護層を素子作製時の真空環境を破ることなく」気相成膜法により形成されたものである点は、記載されていない。
そして、本件発明9は、上記相違点を有することにより、「長期間に亘って実用的な発光特性を示すものを容易に得ることができる」という明細書に記載の効果を奏するものと認められる。
したがって、本件発明9は、引用発明および甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

〔3〕むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1、2、4〜9についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1、2、4〜9についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
有機ELデバイス
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上に第1の電極、有機発光材料を含有する有機固体層、および第2の電極を順次積層してなる有機EL素子と、この有機EL素子の外側に設けられた保護層とを備え、前記保護層が吸水率1%以上の吸水性物質と吸水率0.1%以下の防湿性物質とからなり、かつ、該保護層が素子作製時の真空環境を破ることなく気相成膜法により形成された層であることを特徴とする有機ELデバイス。
【請求項2】 保護層が、吸水性物質からなる層と防湿性物質からなる層との積層構造をとる、請求項1に記載の有機ELデバイス。
【請求項3】 保護層が吸水性物質と防湿性物質との混合物からなる1層構造をとる、請求項1に記載の有機ELデバイス。
【請求項4】 吸水性物質が吸水率100%以上の高吸水性高分子である、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の有機ELデバイス。
【請求項5】 吸水性物質が吸水率400%以上の高吸水性高分子である、請求項4に記載の有機ELデバイス。
【請求項6】 吸水性物質が吸水率1000%以上の高吸水性高分子である、請求項4または請求項5に記載の有機ELデバイス。
【請求項7】 吸水性物質がポリビニルアルコールである、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の有機ELデバイス。
【請求項8】 気相成膜法が真空蒸着法である、請求項1〜請求項7のいずれかに記載の有機ELデバイス。
【請求項9】 有機EL素子の外側に、吸水率1%以上の吸水性物質と吸水率0.1%以下の防湿性物質とからなる保護層を素子作製時の真空環境を破ることなく気相成膜法により形成することを特徴とする有機EL素子の封止方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、エレクトロルミネッセンス(EL)デバイスに係り、特に有機ELデバイスに関する。
【0002】
【従来の技術】
EL素子には無機EL素子と有機EL素子とがあり、いずれのEL素子も自己発光性であるために視認性が高く、また完全固体素子であるために耐衝撃性に優れるとともに取扱いが容易である。このため、グラフィックディスプレイの画素やテレビ画像表示装置の画素、あるいは面光源等としての研究開発および実用化が進められている。有機EL素子は、有機発光材料を含有する有機固体層を互いに対向する2つの電極(陽極と陰極)の間に介在させてなる積層構造体を基板上に形成したものであり、前記有機固体層が有機発光材料からなる発光層のみの1層構造のものや、正孔注入層/発光層、発光層/電子注入層、正孔注入層/発光層/電子注入層のような複数層構造のもの、あるいは正孔注入層と電子注入層のいずれか一方または両方に有機発光材料を混合した1〜2層構造のもの等が開発されている。電極材料としては、陰極にはYb,Mg,Al,In等、仕事関数の小さい物質が通常用いられ、陽極にはAu,Ni,ITO等、仕事関数の大きい物質が通常使用される。また、発光面側の電極は、発光した光が透過できるように透明または半透明であり、基板側を発光面とする素子では基板として透明基板または半透明基板が用いられる。
【0003】
このような有機EL素子は、有機発光材料に注入された電子と正孔とが再結合するときに生じる発光を利用するものである。このため有機EL素子は、有機固体層、特に発光層の厚さを薄くすることにより例えば4.5Vという低電圧での駆動が可能で応答も速いといった利点や、輝度が注入電流に比例するために高輝度のEL素子を得ることができるといった利点等を有している。また、有機発光材料の種類を変えることにより、青、緑、黄、赤の可視域すべての色の発光が得られている。有機EL素子は、このような利点、特に低電圧での駆動が可能であるという利点を有していることから、現在、実用化のための研究が進められている。
【0004】
ところで、有機EL素子で発光材料や正孔注入材料、電子注入材料に用いる有機固体は水分、酸素等に弱い。また、通常有機固体層上に設けられる対向電極(陰極)は、酸化により特性が劣化し易い。このため、従来の有機EL素子を大気中で駆動させると発光特性が急激に劣化する。したがって、実用化にあたっては有機EL素子の長寿命化を図る必要があり、そのためには有機固体層に水分や酸素等が侵入しないように、また対向電極が酸化されないように素子を封止する必要がある。
【0005】
このような有機EL素子の封止方法としては、膜厚0.1〜20μmのパラキシレン薄膜を気相重合法により有機EL素子の上に設ける方法(特開平4-137483号公報参照)や、ポリブタジエン等の有機物の膜またはSiO2等の無機物の膜を蒸着法やスパッタリング法により有機EL素子の上に設ける方法(特開平4-73886号公報参照)が提案されているが、これらの方法による封止は未だ不十分である。また、GeO等の無機物の膜を有機EL素子の上に設けた後に、これをガラスの板やフィルムで密封する方法(特開平4-212284号公報参照)も提案されているが、この方法は防湿性が十分であるとはいい難く、素子駆動時に無発光領域(ダークスポット)を生じるという難点を有している。
【0006】
そこで、より効果的な封止方法として、有機EL素子を液状フッ素化炭素で保護する方法が提案されている(特開平4-363890号公報参照)。しかしながら、液状フッ素化炭素には揮発性が有るため、この液状フッ素化炭素により保護された上述の有機EL素子においてもその素子寿命は未だ不十分であり、素子寿命の更なる向上が望まれている。
【0007】
また、無機EL素子の封止方法を有機EL素子に適用することも考えられる。具体的には、防湿性液体(シリコーンオイル)に吸水性物質(シリカゲル)を混入させたもので封止する方法(特開昭62-51191号公報参照)や、バインダーに吸水性物質(シリカゲルやゼオライト、高吸水性樹脂)を混入させたもので封止する方法(特開平4-296381号公報、特開昭63-301484号公報および特開平3-297091号公報参照)等を適用することも考えられる。しかしながら、これらの方法では吸水性物質の分散性や封止に用いる物質層と素子との密着性に問題があり、また、封止を行うためには素子を一旦大気にさらさなくてはならず、この間に素子の劣化が進行するため、その封止効果は不十分である。
【0008】
さらに、防湿性フィルム(ポリ塩化三フッ化エチレン等)と吸湿性フィルム(ナイロン)との積層体で封止する方法(例えば特公昭40-85751号公報および特公昭61-41109号公報参照)を適用することも考えられる。この方法は、有機EL素子の長寿命化を図るうえでかなり有用な方法である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、防湿性フィルムと吸湿性フィルムとの積層体で有機EL素子を封止した場合でも、封止に用いる積層体と素子との密着性に問題があり、また、封止を行うためには素子を一旦大気にさらさなくてはならず、この間に素子の劣化が進行する。このため、この方法で封止して得た有機ELデバイス(封止後の有機EL素子)においても、長期間に亘って実用的な発光特性を維持することは困難である。本発明の目的は、より長期間に亘って実用的な発光特性を示すものを容易に得ることができる有機ELデバイスを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する本発明の有機ELデバイスは、基板上に第1の電極、有機発光材料を含有する有機固体層、および第2の電極を順次積層してなる有機EL素子と、この有機EL素子の外側に設けられた保護層とを備え、前記保護層が吸水率1%以上の吸水性物質と吸水率0.1%以下の防湿性物質とからなり、かつ、該保護層が素子作製時の真空環境を破ることなく気相成膜法により形成された層であることを特徴とするものである。
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の有機ELデバイスは、上述したように有機EL素子の外側に特定の保護層を設けたものである。ここで、前記有機EL素子は有機発光材料を含有する有機固体層を互いに対向する2つの電極(陽極と陰極)の間に介在させてなる積層構造体を基板上に形成したものであればよく、有機EL素子として機能するものであればその層構成および材質は特に限定されるものではない。有機EL素子の代表的な層構成としては基板上の積層順が下記▲1▼〜▲7▼のものが挙げられる。
【0012】
▲1▼陽極/正孔注入層/発光層/電子注入層/陰極
▲2▼陽極/正孔注入層/発光層/陰極
▲3▼陽極/発光層/電子注入層/陰極
▲4▼陽極/発光層/陰極
▲5▼陽極/正孔注入材料・有機発光材料・電子注入材料の混合層/陰極
▲6▼陽極/正孔注入材料・有機発光材料の混合層/陰極
▲7▼陽極/有機発光材料・電子注入材料の混合層/陰極
【0013】
上記▲1▼〜▲7▼の層構成の有機EL素子においては、陽極が本発明でいう第1の電極に相当し、陰極が本発明でいう第2の電極に相当する。ただし、基板上の積層順は上記▲1▼〜▲7▼で例示したものと逆であってもよく、この場合には陰極が本発明でいう第1の電極に相当し、陽極が本発明でいう第2の電極に相当する。また、上記▲1▼〜▲7▼の層構成の有機EL素子においては、陽極および陰極を除いた層が本発明でいう「有機発光材料を含有する有機固体層」に相当する。なお、前記有機固体層が複数層構造をとる場合、各層はそれぞれ2層以上に分かれていてもよい。さらには、特開平4-233192号公報に開示されているように、これらの有機EL素子は蒸着法やスッパタ法等により成膜された保護膜を有しているものであってもよい。
【0014】
上述した有機EL素子の外側に設ける保護層は、前述したように、吸水率1%以上の吸水性物質と吸水率0.1%以下の防湿性物質とからなり、かつ、気相成膜法により形成された層である。ここで、本発明でいう「吸水率」はASTMD570-81(24h試験)に基づいて決定される。本発明の有機ELデバイスを構成する保護層の成分である前記吸水性物質の具体例としては、下記(A)〜(G)のものが挙げられる。
(A)活性炭,ゼオライト(吸水率20%),モレキュラーシーブス,シリカゲル(吸水率20%),活性アルミナ(吸水率15%)等の表面積の大きな無機物。
(B)NbS3,NbSe2,TaSe2等の遷移金属ダイカルコゲナイトやグラファイトのような層状物質。
(C)GeO,CaO等の不飽和酸化物。
(D)CuSO4,NiSO4,LiClO4,パラトルエンスルホン酸ナトリウム,酢酸ナトリウム,クエン酸ナトリウム等、結晶水をもつ化合物。
【0015】
(E)C60(フラーレン)。
(F)ポリビニルアルコール(PVA;吸水率80%),ナイロン6(吸水率9.5%),ナイロン66(吸水率8.5%),アセチルセルロース(吸水率5〜9%),ブチルアセチルセルロース,ポリアミド(吸水率9.5%),ユリア樹脂,ポリエステルサーリンA(アイオノマー),塩化ゴム(吸水率5%)等の有機物。
【0016】
(G)高吸水性高分子。この高吸水性高分子としては吸水率100%以上のものが好ましい。さらに好ましい高吸水性高分子は吸水率400%以上のものであり、吸水率1000%以上のものが特に好ましい。これらの高吸水性高分子はデンプン系、セルロース系および合成ポリマー系に大別することができ、デンプン系およびセルロース系はそれぞれグラフト重合系およびカルボキシメチル系に分けることができる。また、合成ポリマー系はアクリル系、アクリルアミド系、ポリオキシエチレン系等に分けることができる。具体例としては、アラソープ(商品名;荒川化学社製),ワンダーゲル(商品名;花王社製),アクアキープ(商品名;製鉄化学社製),アクアリック(商品名;日本触媒化学社製),ドライテック(Drytech)(商品名;ダウケミカル社製),フェイバー(Favor)(商品名;ストックハウゼン社製),ルカソーブ(Luquasorb)(商品名;BASF社製)等の橋架けポリアクリル酸塩系の高吸水性高分子や、KIゲル(商品名;クラレイソプレン社製)等のイソブチレン/マレイン酸塩系の高吸水性高分子、サンウエット(商品名;三洋化成社製)等のデンプン/ポリアクリル酸塩系の高吸水性高分子、ランシール(商品名;日本エクスラン社製)等のアクリル繊維の加水分解物系の高吸水性高分子、アクアリザーブGP(商品名;日本合成化学社製)等の橋架けPVA(ポリビニルアルコール)系の高吸水性高分子、アクアロン(Aqualon)(商品名;ハーキュレス社製)等の橋架けカルボキシメチル化セルロース系の高吸水性高分子が挙げられる。
【0017】
一方、本発明の有機ELデバイスを構成する保護層の他の成分である前記防湿性物質の具体例としては下記(a)〜(d)のものが挙げられる。
(a)ソーダガラス,白板ガラス,青板ガラス,石英ガラス,アモルファスカーボン,アモルファスシルコン等の無機非晶質物質。
(b)Al,Au等の金属。
(c)ポリエチレン(PE;吸水率0.015%以下),ポリプロピレン(吸水率0.01%以下),ポリ塩化ビニリデン(吸水率0.02%),エチレン酢酸ビニル共重合体(吸水率0.03%),ポリメチルペンテン(吸水率0.01%),ポリスチレン(吸水率0.04%),ポリパラキシレン,パラフィン,ワックス等の有機物。
【0018】
(d)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE;吸水率0.00%),ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE;吸水率0.00%),ポリフッ化ビニリデン(PVDF;吸水率0.04%),テトラフルオロエチレンと六フッ化プロピレンの共重合体樹脂(FEP;吸水率0.01%以下),エチレンとテトラフルオロエチレンの共重合体(ETFE;吸水率0.01%以下),下記(1)の無定形共重合体,下記(2)の含フッ素共重合体等のフッ素系高分子。
【0019】
(1)テトラフルオロエチレンと下式(I)
【化1】

{式中、XおよびX′はF,Cl,またはHであり、これらXおよびX′は同一であっても異なっていてもよい。またRは、-CF=CF-または下式(i)
【化2】

[式中、R′およびR″はF,Cl,-COF,-COO-アルキル基,アルキル基,過フッ化アルキル基,水素置換過フッ化アルキル基(「アルキル基」は炭素数1〜6のアルキル基)である。]を示す。}で表されるコモノマーとの無定形共重合体(吸水率0.00%)。
【0020】
(2)下記一般式(II)
【化3】
CF2=CF-(CF2)n-O-(CF2)m-CF=CF2 (II)
(式中、nおよびmはそれぞれ独立に0〜5の整数であり、かつn+mは1〜6の整数である。)で表される両末端に二重結合を有するパーフルオロエーテルと、このパーフルオロエーテルとラジカル共重合可能なモノマーとをラジカル共重合させて得た、重合主鎖に環状構造を有する含フッ素共重合体(吸水率0.01%)。
【0021】
本発明の有機ELデバイスを構成する保護層は、前述した吸水性物質と上述した防湿性物質とからなるものである。この保護層は、吸水性物質からなる層と防湿性物質からなる層との積層構造をとるものであってもよいし、吸水性物質と防湿性物質との混合物からなる1層構造をとるものであってもよいが、混合物からなる1層構造をとるもののほうがより好ましい。
【0022】
吸水性物質からなる層と防湿性物質からなる層とにより保護層を形成する場合、吸水性物質からなる層は前述した吸水性物質の1種からなる単層または複数層構造であってもよいし、前述した吸水性物質の複数種からなる単層または複数層構造であってもよい。防湿性物質からなる層も同様に、前述した防湿性物質の1種からなる単層または複数層構造であってもよいし、前述した防湿性物質の複数種からなる単層または複数層構造であってもよい。さらに、吸水性物質からなる層と防湿性物質からなる層との総計は最低2であればよく、必要に応じて総計3以上の層を形成してもよい。この場合、防湿性物質からなる層を最外層として配置したほうがより好ましい。吸水性物質からなる層の厚さは1nm〜500μmの範囲から適宜選択可能であり、好ましい厚さは10nm〜100μm、さらに好ましい厚さは100nm〜50μmである。また、防湿性物質からなる層の厚さは5nm〜1000μmの範囲から適宜選択可能であり、好ましい厚さは100nm〜500μm、さらに好ましい厚さは1μm〜100μmである。
【0023】
一方、吸水性物質と防湿性物質との混合物からなる1層構造の層により保護層を形成する場合、この保護層の厚さは5nm〜7mmの範囲から適宜選択可能である。5nm未満では均一な層になりにくく、所望の防湿効果が得づらい。また、7mmを超えると形成に時間がかかり過ぎる。好ましい厚さは20nm〜300μmであり、さらに好ましい厚さは2μm〜200μmである。また、吸水性物質と防湿性物質との混合比は特に限定されないが、防湿性物質の割合を50〜99vol%とすることが好ましい。防湿性物質のさらに好ましい割合は70〜95vol%であり、特に好ましい割合は85〜93vol%である。
【0024】
上述した保護層は有機EL素子の外側に設けられるわけであるが、具体的には基板上に順次積層された第1の電極、有機発光材料を含有する有機固体層、および第2の電極を被覆するように設けられる。ここで、防湿性物質として金属等の電気伝導性物質を用いた場合には、保護層と有機EL素子との間にポリエチレン,ポリスチレン,ポリプロピレン,ポリパラキシレン等の電気絶縁性高分子や、酸化アルミニウム,酸化マグネシウム,酸化ゲルマニウム,窒化ホウ素,窒化アルミニウム等の電気絶縁性無機物等からなる電気絶縁層を設ける必要がある。電気絶縁層の厚さは1nm以上であれば問題ないが、実用上は100nm程度が望ましい。この電気絶縁層の成膜方法は特に限定されるものではないが、保護層と同じく気相成膜法を適用すると、有機EL素子から電気絶縁層、保護層まで一貫した真空下で形成することができるので好ましい。なお、防湿性物質として金属等の電気伝導性物質を使用しない場合には、前記電気絶縁層は不要である。
【0025】
上記保護層は種々の方法により形成することが可能であるが、本発明の有機ELデバイスにおいては気相成膜法により形成されたものに限定される。ここで、本発明でいう「気相成膜法」とは物理蒸着法(PVD法)と化学気相成長法(CVD法)とを総称したものである。本発明で保護層の形成方法を気相成膜法に限定する理由は、以下のとおりである。
【0026】
すなわち、気相成膜法は溶媒等を用いない乾式の成膜法であるので、熱や溶媒に弱い有機EL素子を劣化させることなく保護層を形成することができるからである。また、気相成膜法は分子レベルでの堆積法なので有機EL素子との密着性に優れた保護層を形成することができ、これにより界面からの水分の侵入を防止することが可能になるからである。さらには、有機EL素子の形成から保護層の形成までを一連の真空環境下で行うことが可能になり、有機EL素子を1度も大気にさらすことなく保護層を形成することができるので、大気との接触に起因する有機EL素子の劣化を防止することができるからである。また、吸水性物質と防湿性物質との混合物からなる保護層を形成する場合には、吸水性物質と防湿性物質とを分子レベルで均一に混合することが可能になるので、両者の機能(吸水性と防湿性)が十分に発揮される保護層を形成することができるからである。
【0027】
気相成膜法の1である物理蒸着法の具体例としては、抵抗加熱真空蒸着法、電子ビーム加熱真空蒸着法、高周波誘導加熱真空蒸着、蒸着重合法、プラズマ蒸着法、MBE(分子線エピタキシ)法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法(高周波励起イオンプレーティング法)、スパッタリング法、反応性スパッタリング法等が挙げられる。また、気相成膜法の他の1である化学気相成長法の具体例としては、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、ガスソースCVD法等が挙げられる。これらの気相成膜法の中でも、成膜時の熱等に起因する悪影響が有機EL素子に及ぶことを抑止し易い点から、各種真空蒸着法が好ましい。
【0028】
成膜条件は気相成膜法の種類や保護層の原料の種類等に応じて異なるため、一概に規定することは困難であるが、真空蒸着法により保護層を形成する場合の成膜条件の一例を挙げると次のようになる。すなわち、蒸着前真空度は1×10-2Pa以下、好ましくは6×10-3Pa以下とし、蒸着源の加熱温度は700℃以下、好ましくは600℃以下とし、蒸着速度は50nm/秒以下、好ましくは3nm/秒以下とし、基板温度は200℃以下、好ましくは100℃以下とする。また、保護層を吸水性物質と防湿性物質との混合物により形成する場合、両物質を混合したものを1つの蒸着源に入れ、これを加熱蒸着させることも好ましい方法であるが、各物質をそれぞれ別の蒸着源に入れて個々に加熱蒸発させ、有機EL素子上で混合堆積させる方法のほうがより好ましい。この方法だと混合割合を厳密に制御することができる。
【0029】
上述のようにして有機EL素子の外側に保護層を設けることにより、本発明の有機ELデバイスを得ることができる。この有機ELデバイスは、吸水率1%以上の吸水性物質と吸水率0.1%以下の防湿性物質とからなる保護層が有機EL素子の外側に設けられていることから、有機EL素子への水分の侵入を抑止することができる。また、有機EL素子の形成から保護層の形成までを一連の真空環境下で行うことが可能であり、この場合には有機EL素子を1度も大気にさらすことなく保護層を形成することができるので、大気との接触に起因する有機EL素子の劣化を防止することができる。したがって、本発明の有機ELデバイスの製造にあたって有機EL素子の形成から保護層の形成までを一連の真空環境下で行うことにより、より長期間に亘って実用的な発光特性を維持することができる有機ELデバイスが容易に得られる。
【0030】
なお、本発明の有機ELデバイスは、保護層の外側に特開平5-36475号公報に開示されているようにシールド層を有していてもよい。また、親水基と疎水基を持つ二分子膜からなる保護層を有機EL素子の外側に設けて有機ELデバイスを構成した場合でも、前記二分子膜が防湿性と吸水性を合せ持つことから、本発明の有機ELデバイスと同様の効果を奏するものを得ることができる。
【0031】
【実施例】
以下、本発明の実施例について説明するが、実施例に先だって、有機ELデバイスの構成要素の1つである有機EL素子を以下のようにして作製した。まず、25mm×75mm×1.1mmのサイズのガラス基板上にITO膜を100nmの厚さで成膜したものを透明支持基板として用い、この透明支持基板をイソプロピルアルコールで30分間超音波洗浄した後、純水で30分間洗浄し、最後に再びイソプロピルアルコールで30分間超音波洗浄した。洗浄後の透明支持基板を市販の真空蒸着装置(日本真空技術(株)製)の基板ホルダーに固定し、モリブデン製抵抗加熱ボートにN,N′-ジフェニル-N,N′-ビス-(3-メチルフェニル)-[1,1′-ビフェニル]-4,4′-ジアミン(以下、TPDという。)を200mg入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにトリス(8-キノリノール)アルミニウム(以下、Alqという。)を200mg入れて、真空チャンバー内を1×10-4Paまで減圧した。
【0032】
次に、TPDを入れた前記抵抗加熱ボートを215〜220℃まで加熱し、TPDを蒸着速度0.1〜0.3nm/秒でITO膜上に堆積させて、膜厚60nmの正孔注入層を成膜した。このときの基板温度は室温であった。次いで、正孔注入層が成膜された透明支持基板を真空チャンバーから取出すことなく、正孔注入層の成膜に引続いて発光層の成膜を行った。発光層の成膜は、Alqを入れた前記抵抗加熱ボートを275℃まで加熱し、Alqを蒸着速度0.1〜0.2nm/秒で正孔注入層上に堆積させて、膜厚60nmのAlq層を成膜することで行った。このときの基板温度も室温であった。次に、モリブデン製抵抗加熱ボートにマグネシウム1gを入れ、別のモリブデン製抵抗加熱ボートにインジウム500mgを入れて、真空チャンバー内を2×10-4Paまで減圧した。そして、マグネシウムを入れた前記抵抗加熱ボートを500℃程度に加熱してマグネシウムを約1.7〜2.8nm/sの蒸着速度で蒸発させると共に、インジウムを入れた前記抵抗加熱ボートを800℃程度に加熱してインジウムを約0.03〜0.08nm/sの蒸着速度で蒸発させて、マグネシウムとインジウムとの混合金属からなる膜厚150nmの電極(対向電極)を発光層上に設けた。
【0033】
このようにして、ガラス基板上の層構成が陽極(ITO膜)/正孔注入層/発光層/陰極(Mg・In)である有機EL素子を作製した。この有機EL素子の初期性能は電圧6.5V、電流密度3mA/cm2で輝度100cd/m2を達成し、このときの電力変換効率は1.6 lm/Wであった。
【0034】
実施例1
吸水性物質としてPVA(吸水率80%)を用い、防湿性物質としてテトラフルオロエチレンとパーフルオロ-2,2-ジメチル-1,3-ジオキソールとの無定形共重合体粉末(商品名;テフロンAF、デュポン社製、吸水率0.00%)を用いて、保護層の形成に先だって吸水性物質蒸着源と防湿性物質蒸着源を作製した。吸水性物質蒸着源の作製は、アルミナ製るつぼにPVAを2g入れ、このるつぼの周囲にタングステン製ヒーターを巻き付けることで行った。また防湿性物質蒸着源の作製は、アルミナ製るつぼに前記無定形共重合体粉末を5g入れ、このるつぼの周囲にタングステン製ヒーターを巻き付けることで行った。前述のようにして有機EL素子を作製した後、素子作製時の真空環境を破ることなく前記吸水性物質蒸着源と前記防湿性物質蒸着源とを真空蒸着装置にしこんだ。そして、吸水性物質を0.2nm/秒の蒸着速度で蒸発させると共に防湿性物質を2nm/秒の蒸着速度で蒸発させて、吸水性物質と防湿性物質との混合物からなる厚さ10μmの保護層を有機EL素子の外側に設け、これにより有機ELデバイスを得た。前記保護層における防湿性物質の割合は91vol%であった。
【0035】
実施例2
吸水性物質としてナイロン6(吸水率9.5%)を用いるとともに、防湿性物質としてポリエチレン(出光石油化学(株)製の440M、吸水率0.015%以下)を用いた以外は実施例1と同様にして吸水性物質と防湿性物質との混合物からなる厚さ10μmの保護層を有機EL素子の外側に設け、これにより有機ELデバイスを得た。前記保護層における防湿性物質の割合は91vol%であった。
【0036】
実施例3
吸水性物質としてアラソープ800F(商品名;荒川化学社製、吸水率1500%)を用いるとともに、防湿性物質としてPCTFE(3M社製のKelF、吸水率0.00%)を用いた以外は実施例1と同様にして吸水性物質と防湿性物質との混合物からなる厚さ10μmの保護層を有機EL素子の外側に設け、これにより有機ELデバイスを得た。前記保護層における防湿性物質の割合は91vol%であった。
【0037】
実施例4
保護層の形成に先だって実施例1と同様にして吸水性物質蒸着源および防湿性物質蒸着源を作製した。そして、前述のようにして有機EL素子を作製した後、素子作製時の真空環境を破ることなく前記吸水性物質蒸着源と前記防湿性物質蒸着源とを真空蒸着装置にしこんだ。この後、吸水性物質を2nm/秒の蒸着速度で蒸発させて厚さ5μmの吸水性物質からなる層(PVA層)を有機EL素子の外側に設けた後、防湿性物質を3nm/秒の蒸着速度で蒸発させて厚さ5μmの防湿性物質からなる層(無定形共重合体(テフロンAF)層)をPVA層上に設けた。これにより、吸水性物質からなる層と防湿性物質からなる層との2層構造をとる厚さ10μmの保護層が有機EL素子の外側に形成され、目的とする有機ELデバイスが得られた。
【0038】
比較例1
保護層の原料としてポリエチレン(出光石油化学(株)製の440M、吸水率0.015%以下)のみを用いた以外は実施例1と同様にして厚さ10μmの保護層を有機EL素子の外側に設け、これにより有機ELデバイスを得た。
【0039】
比較例2
保護層の材料として、厚さ50μmのPCTFEフィルム(吸水率0.00%)に厚さ10μmのナイロン6フィルム(吸水率9.5%)を熱ロールにより張り合わせたラミネートフィルムを用意した。そして、前述のようにして作製した有機EL素子を真空蒸着装置から取り出し、この有機EL素子の外側に前記ラミネートフィルムを被着させることで保護層を形成し、これにより有機ELデバイスを得た。なお、保護層の形成は大気中で行い、ラミネートフィルムの縁部は接着剤を用いてガラス基板に張り合わせた。
【0040】
比較例3
保護層の材料として、液状フッ素化炭素の1つであるフロリナートFC-43(商品名;住友スリーエム社製、吸水率0.00%)にシリカゲル(吸水率20%)を混合したものを用意した。そして、前記材料をプラスチック製の容器に入れ、この中に前述のようにして作製した有機EL素子を大気中で浸漬させた。この後、前記容器にプラスチック製の蓋をかぶせ、蓋と容器とのすり合わせ部分を接着剤によりシールして、有機ELデバイスを得た。なお、有機EL素子のリード線は蓋に穴を開けて取り出し、この穴は接着剤で封止した。
【0041】
発光特性試験
実施例1〜実施例4および比較例1〜比較例3で得られた各有機ELデバイスについて、大気中において初期輝度100cd/m2の条件で定電流連続駆動させ、デバイスの半減寿命(輝度が初期輝度の半分に低下するまでに要する時間)および破壊寿命(発光しなくなるまでに要する時間)を測定した。また、試験開始1か月後および1年後の発光の様子を目視により観察した。これらの結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1から明らかなように、実施例1〜実施例3で得られた各有機ELデバイスの半減寿命はいずれも3000時間、また、破壊寿命はいずれも20000時間以上であり、これらの寿命は比較例1〜比較例3で得られた各有機ELデバイスよりも遥かに長い。また、実施例1〜実施例3で得られた各有機ELデバイスの発光の様子については、試験開始1か月後および1年後のいずれにおいても大きな変化は認められない。これらの結果から、実施例1〜実施例3で得られた各有機ELデバイスは長期間に亘って良好な発光特性を維持していることがわかる。一方、比較例1の有機ELデバイスの半減寿命は500時間、破壊寿命は3000時間であり、各実施例の有機ELデバイスよりも遥かに短命である。また、比較例2および比較例3の各有機ELデバイスは比較例1の有機ELデバイスよりも寿命が長いが、実施例1〜実施例3の各有機ELデバイスと比べると遥かに短命である。また、比較例1〜比較例3の各有機ELデバイスは試験開始1か月後において既にダークスポットの発生を認めることができ、この時点で発光特性は低下している。
【0044】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の有機ELデバイスはより長期間に亘って実用的な発光特性を示すものを容易に得ることができるものである。したがって、本発明によればより長期間に亘って実用的な発光特性を示す有機ELデバイスを容易に提供することが可能になる。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-07-24 
出願番号 特願平6-4065
審決分類 P 1 652・ 121- YA (H05B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 高木 彰  
特許庁審判長 大元 修二
特許庁審判官 和泉 等
石川 好文
登録日 2001-11-22 
登録番号 特許第3254323号(P3254323)
権利者 出光興産株式会社
発明の名称 有機ELデバイス  
代理人 東平 正道  
代理人 大谷 保  
代理人 大谷 保  
代理人 東平 正道  

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