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審決分類 審判 全部申し立て 5項3号及び6項 請求の範囲の記載形式不備  C08G
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  C08G
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  C08G
管理番号 1086477
異議申立番号 異議2001-71257  
総通号数 48 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-06-22 
種別 異議の決定 
異議申立日 2001-04-23 
確定日 2003-04-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第3102026号「電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料」の請求項1及び2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3102026号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。 
理由 【1】手続きの経緯
本件特許第3102026号に係る発明は、平成2年11月7日に特願平2-301668号として出願されたものであって、その特許について平成12年8月25日に設定登録がなされ、その後、赤塚慶太より特許異議の申立てがなされ、平成13年8月20日付けで特許権者に取消理由通知がなされ、平成13年10月30日付けで特許権者より特許異議意見書及び訂正請求書が提出なされ、平成13年11月12日付けで特許異議申立人に審尋通知がなされ、平成14年1月25日付けで特許異議申立人より回答者が提出され、平成14年10月1日付けで特許権者に訂正拒絶理由通知がなされ、平成14年12月10日付けで特許権者より意見書及び手続補正書(訂正請求書)が提出されたものである。
【2】訂正の適否についての判断
〈1〉訂正請求に対する補正の適否について
特許権者は、訂正請求に対して次の補正をするものである。
〔1〕訂正請求書の訂正事項(4)を削除する。
〔2〕訂正請求書の請求の原因(4)も併せ削除する。
〔3〕訂正請求書の訂正事項(5)〜(15)をそれぞれ訂正事項(4)〜 (14)とする。
〔4〕訂正請求書の請求の原因(5)〜(15)をそれぞれ請求の原因 (4)〜(14)とする。
そして、上記補正〔1〕は、訂正請求書の訂正事項(4)、即ち、本件特許明細書第6頁第10行〜第11行(本件特許公報第2頁第3欄第47行〜第49行)の「得られた樹脂をエピクロルヒドリンによりエポキシ化したものなどがある。」を「得られた樹脂をエピクロルヒドリンによりエポキシ化するなどの方法により得られるものがある。」と訂正するものを削除するものであるから、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
また、上記補正〔3〕は、上記補正〔1〕により訂正請求書の訂正事項(4)が削除された結果、これ以下の訂正請求書の訂正事項の番号である(5)〜(15)を順次繰り上げ、それぞれ訂正事項(4)〜(14)と訂正するものであるから、訂正請求書の要旨を変更するものではない。
そして、上記補正〔2〕は上記補正〔1〕に伴い必要がなくなった訂正請求書の訂正の原因(4)を削除し、また、上記補正〔4〕は上記補正〔3〕に伴い訂正請求書の請求の原因(5)〜(15)をそれぞれ請求の原因(4)〜(14)とするものであるから、これらの補正も訂正請求書の要旨を変更するものではない。
してみると、上記補正〔1〕〜〔4〕は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第131条第2項の規定に適合する。
〈2〉訂正の内容、訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
平成14年12月10日付けで提出された手続補正書(訂正請求書)により補正されて訂正請求書の訂正事項(4)が削除されるとともに訂正請求書の訂正事項の番号である(5)〜(15)が順次繰り上げられて(4)〜(14)になったので、補正後の訂正事項は(1)〜(14)となった。
そして、これ等の訂正事項の内、訂正拒絶理由が通知されているのは、補正後の訂正事項の番号の(1)、(6)、(13)及び(14)である。そこで、これ等の訂正事項について以下訂正の可否を判断する。
〔1〕訂正事項(1)について
(1)訂正の内容
本件特許明細書における特許請求の範囲の
「1.(A)下記式(I)で示されるエポキシ化合物を主成分として含有するエポキシ樹脂、

(nは1〜10の実数)
(B)1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物及び
(C)55体積%以上の無機充填剤を含有し、
(A)成分のエポキシ樹脂が式(I)の化合物のn=0である成分が5重量%以下で、かつ、式(I)で示されるエポキシ化合物の重量平均分子量が3000以下の成分が50重量%以上であることを特徴とする電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。
2.(A)成分のエポキシ樹脂が式(I)で示されるエポキシ化合物の重量平均分子量が3000以下の成分が、(C)成分の充填剤を除く成形材料組成物の15〜60重量%である請求項1記載の電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。」

「1.(A)下記式(I)で示されるエポキシ化合物を主成分として含有するエポキシ樹脂、

(nは1〜10の実数)
(B)1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物及び
(C)55体積%以上の無機充填剤を含有し、
(A)成分の式(I)で示されるエポキシ化合物を主成分として含有するエポキシ樹脂が式(I)の化合物のn=0である成分が5重量%以下で、かつ、式(I)で示されるエポキシ化合物中にスチレン換算の重量平均分子量3000以下の成分が50重量%以上であることを特徴とする電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。
2.(A)成分の式(I)で示されるエポキシ化合物を主成分として含有するエポキシ樹脂中の式(I)で示されるエポキシ化合物のスチレン換算の重量平均分子量3000以下の成分が、(C)成分の充填剤を除く成形材料組成物の15〜60重量%である請求項1記載の電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。」と訂正する。
(2)訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正中「式(I)で示されるエポキシ化合物中にスチレン換算の重量平均分子量3000以下の成分が50重量%以下であること」が何を意味するかは依然として不明瞭である。なるほど「スチレン換算の」という文言が挿入されたが、これは単に分子量を測定する際にポリスチレンを標準試料として換算された分子量であること表示するに過ぎず、訂正前の記載である「式(I)で示されるエポキシ化合物の重量平均分子量が3000以下の成分が50重量%以下であること」が何を意味するのかということの不明瞭さが該訂正によって解消されるものでもない。また「の」という記載が「中に」という記載になったが、それによって上記の意味する内容が明瞭になったと言えない。
そして、特許権者は訂正拒絶理由通知に対する意見書において、取消理由通知に対する特許異議意見書に添付した参考資料3を挙げてエポキシ化合物中の「スチレン換算の重量平均分子量3000以下の成分」の割合の算出がどのように行われたのかを説明しているが、その説明によればスチレン換算の分子量3000(注、「重量平均」ではない)で分けて、その溶出面積割合からその割合を求めているのであり、その分ける点はあくまでも「分子量」であり「重量平均分子量」ではないから、依然として意味の不明瞭さは残っており、それが「スチレン換算の」という文言を加えたからといって、その意味の不明瞭さが解消されるわけではない。
さらに付言すれば、一般に重量平均分子量とは種々の分子量を持つ同族体の集合体(混合物)の全体の分子量を重量平均値で表したものであるから、その集合体(混合物)においては重量平均分子量は1つであり2つ以上の重量平均分子量が存在することは理論上あり得ないことである(平均すればその値は1つしかない。)。
なるほど、特定の一の重量平均分子量を有する高分子化合物において特定の分子量以上あるいは以下の分子量のものが何%以上あるいは何%以下存在すると言うことはあり得ることではある(上記参考資料3の第1頁の「分子量3000以上あるいは以下の成分」と言う記載は正にこのような場合のことである。)が、一の種々の分子量を持つ同族体の混合物(例えば本件の式(I)のエポキシ化合物)において、平均分子量は1つしかあり得ないのであるから、特定の重量平均分子量以下のものが何%以上あると言うことは、複数の平均分子量のものがあることに他ならないのであり、これは相互に相容れないことであって、あり得ないことである。
特許権者は、単に「分子量」と言うと分子式から計算した値と解されるおそれがあり、GPCで測定した重量基準の分子量であることを明確にするために「スチレン換算の重量平均分子量」としたと言うが、「スチレン換算の重量平均分子量」の中に依然として「平均」という用語が残っている限り概念上の矛盾は解消されない。
それ故、訂正事項(1)に関する訂正前の記載はもともと不備があるところ、訂正後のものは訂正前のものに比べ単に分子量の測定方法(より具体的に言えば数値の算出方法)を単にスチレン換算としただけであって、上記の「重量平均分子量が唯一であること」と「重量平均分子量3000以下の成分が50重量%以上である」と言うことの間の本質的な矛盾を何ら解決したものではない。
してみると、訂正事項(1)による訂正によって何ら明細書の記載が明瞭になった訳でないから、訂正事項(1)は明りょうでない記載の釈明を目的とするものではなく、また、当然のことであるが特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとも、また、誤記の訂正を目的とするものであるとも言えない。
したがって、訂正事項(1)による訂正は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号。以下「平成6年改正法」という。)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合しないので、認められない。
〔2〕訂正事項(6)について
(1)訂正の内容
訂正事項(6)は、本件明細書第7頁第7行〜第8行(本件特許公報第3頁第5欄第1行〜第2行)の「エポキシ化合物の重量平均分子量が3000を超える成分が」を「式(I)で示されるエポキシ化合物中で、スチレン換算の重量平均分子量3000を超える成分が」と訂正するものである。
(2)訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項(6)による訂正は、実質的には訂正事項(1)と同趣旨のものであるから、〔1〕で述べたのと同様な理由により平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合しないので、認められない。
〔3〕訂正事項(13)について
(1)訂正の内容
訂正事項(13)は、本件明細書第15頁第4行(本件特許公報第4頁第7欄第29行)及び本件明細書第16頁第9行(本件特許公報第4頁第7欄第45行)の「で表される重量平均分子量3000以下の成分」を「で表され、スチレン換算の重量平均分子量3000以下の成分」と訂正するものである。
(2)訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項(13)による訂正は、実質的には訂正事項(1)と同趣旨のものであるから、〔1〕で述べたのと同様な理由により平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合しないので、認められない。
〔4〕訂正事項(14)について
(1)訂正の内容
訂正事項(14)は、本件明細書第16頁第1行〜第2行(本件特許公報第4頁第8欄第30行〜第31行)の「石英ガラス粉(70重量部)を配合し、」を「石英ガラス粉(70重量%)を配合し、」と訂正するものである。
(2)訂正の目的の適否、訂正の範囲の適否及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
先ず、「石英ガラス粉(70重量%)を配合し、」という記載が本件明細書に記載されていた事項か否か検討する。
「石英ガラス粉(70重量%)」なる記載は本件明細書の実施例のみならず、本件明細書の何処にも記載のない事項である。また、石英ガラスが包含される無機充填剤についても、その割合が重量%で記載されている箇所は本件明細書には存在しない。
また、訂正事項(14)による訂正は実施例1の記載に関するものであり、本件明細書における実施例1には「……、エポキシ当量305のエポキシ樹脂(A)80重量部、……、エポキシ当量375の臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂20重量部、……、水酸基当量106のフェノールノボラック樹脂34重量部、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(1.5重量部)、カルナバワックス(2重量部)、カーボンブラック(1重量部)、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(2重量部)、石英ガラス粉(70重量部)を配合し、」と記載されており、この記載を見る限りでは誤記と思われる記載や不明瞭な記載もなく、すべて「重量部」で統一されており(実際の配合上の便宜のためにすべての配合成分を「部」で統一的に表示することは極く普通のことである。)、何ら不自然な記載が見当たらない。
さらに、訂正事項(14)は、「部」を「%」とするものであるが、他の配合成分がすべて「部」で表示されているのに対し、石英ガラス粉末だけが「%」であると言うのは不自然であるばかりでなく、実施例は実際に実験を行った結果を記載するところであってみれば、実際の配合を行なう際は統一的な単位で計量して配合するのが便利で普通であり、ここだけ「%」であるというのは配合の際の便宜を考えると考えにくいことであり、更に、単に「重量%」と言うだけでは何に対しての重量%なのか(例えば、全体に対してなのか、全樹脂成分に対してなのか、エポキシ樹脂成分に対してなのか、)不明であり、何らかの注釈が必要であるにも拘わらずそれが無いのも腑に落ちないところである。
なるほど、配合する各成分の重量をその比重で割って容積を算出し、組成物全体に占める石英ガラス粉の体積%を算出した場合に、実施例1は特許請求の範囲の「55体積%以上」を満足しないかも知れないが、それは実施例1が特許請求の範囲の発明の実施例でないと言うだけであって、それをもって直ちに誤記があったと言うことにはならない。
特許権者は、特許異議意見書で、そこに添付した参考資料2(実験成績証明書)を示し、70重量部を配合したものではスパイラルフロー、高温強度、吸水率が本件特許明細書の第1表の実施例2におけるものと大きく異なるのに対し、70重量部でなく70重量%になるように(328重量部)配合したものは本件願書に添付した明細書の第1表の実施例2におけるものとほぼ同様な値が得られているので、70重量部は70重量%の誤りであると主張する。
しかし、仮に「70重量部」の記載に誤りがあったとしても、「70」と言う数字に誤りがあったのか、「重量部」に誤りがあったのか、更に、その「重量部」についても、「重量」が誤りなのか(例えば容量、体積)、或いは「部」が誤りなのか、色々の場合が考えられるから、上記特許異議意見書における特許権者の主張をもって「重量部」が「重量%」の誤記であったと直ちに結論付けることはできない。
また、特許権者は、訂正拒絶理由に対する意見書で「70重量部」は参考資料2の実験結果からすると要求性能を満たさず誤りだと主張している。この主張はスパイラルフローの値が正しいと言う前提に立つものと思われるが、スパイラルフローの値が誤っていることも必ずしも否定できないので、かかる特許権者の主張は受け入れ難いし、更に付言すれば、そもそも、実施例の記載は本件のような実験に負うところの多い化学の分野の発明では極めて重要な記載事項であり、追試の結果と違っていたからと言って易々その訂正が認められるような性質の事柄ではない。
また、特許権者は、訂正拒絶理由に対する意見書で、本件明細書の比較例1(石英ガラス粉70重量部使用)も同様な配合内容で石英ガラス粉70重量%使用の参考資料6の比較例1も同様な特性値を示すことからも、70重量部は70重量%の誤記であることはわかる旨主張するが、実施例1と比較例1では別の事項であるから、これをもって本件明細書の実施例1における「70重量」が「70重量%」の誤記であるとは直ちには言えない。
特許権者は、訂正拒絶理由に対する意見書で本件発明と共通の発明者の発明になる参考試料4〜9の特許公報を挙げ、これ等の明細書の実施例ではすべて石英ガラス粉末が「重量%」で表示されており、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明では「体積%(容量%)」で表示されているから、石英ガラス粉末については「重量%」であっても不自然ではない旨主張するが、不自然か否かはさておくとしても、本件発明と共通する発明者の手になる特許明細書においてしばしば「石英ガラス粉末」だけが他の成分と異なり「重量%」で記載されたという状況があったとしても、それをもって本件明細書の実施例1における「70重量部」が「70重量%」以外の何者でもないとの結論がそれから直ちに導き出されるものでもない。
また、特許権者は、訂正拒絶理由に対する意見書において、参考資料10「半導体封止樹脂の高信頼性」(株式会社技術情報協会、1990年1月31日発行)の「エポキシ樹脂封止材料は表1-1に示した様に、およそ10種類の素材の混合物となっている。基本的にはエポキシ樹脂が約17〜19%、硬化剤8〜10%、充填剤(シリカ)70〜75%で構成され、」との記載にあるように、一般の半導体封止材料では充填剤は70〜75重量%で、70重量部では充填剤の量が少なすぎ封止剤としての要求性能を満たさない旨主張するが、明細書は新規な発明について記載するものであるから、その実施例で記載されたものが従来周知のものと違っていたからと言って、それだけで直ちに従来周知のものに合うように訂正することができると言うものでもない。
以上のとおりであるから、訂正事項(14)の訂正は、誤記の訂正を目的とするものでもなく、当然ながら明りょうでない記載の釈明を目的とするものでもないし、ましてや、特許請求の範囲の記載でないから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものでもない。
したがって、訂正事項(14)の訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合しないので、認められない。
〔5〕むすび
以上のとおりであるから、平成13年10月30日付けで提出された訂正請求書による訂正請求による訂正は、平成6年改正法附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年改正法による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合しないので、認められない。
【3】特許法第36条第3項、第4項及び第5項についての判断
〈1〉本件明細書の記載
【2】で述べたとおり、本件の平成13年10月30日付けで提出された訂正請求書による訂正請求による訂正が認められないものであるから、本件発明は本件特許の設定登録時の本件特許明細書に記載されたものに基づいて判断されることとなる。
〔1〕本件特許明細書における特許請求の範囲
「1.(A)下記式(I)で示されるエポキシ化合物を主成分として含有するエポキシ樹脂、

(nは1〜10の実数)
(B)1分子中に2個以上のフェノール性水酸基を有する化合物及び
(C)55体積%以上の無機充填剤を含有し、
(A)成分のエポキシ樹脂が式(I)の化合物のn=0である成分が5重量%以下で、かつ、式(I)で示されるエポキシ化合物の重量平均分子量が3000以下の成分が50重量%以上であることを特徴とする電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。
2.(A)成分のエポキシ樹脂が式(I)で示されるエポキシ化合物の重量平均分子量が3000以下の成分が、(C)成分の充填剤を除く成形材料組成物の15〜60重量%である請求項1記載の電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料。」
〔2〕本件特許明細書における発明の詳細な説明
(1)「更に、エポキシ化合物の重量平均分子量が3000を超える成分が50重量%を超えると成形時の流動性に支障をきたすことがわかった。」(明細書第7頁第7行〜第9行、本件特許公報第3頁第5欄第1行〜第3行)、
(2)「ここで、重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定した分子量分布から求めたものである。ここで使用したGPCは東洋曹達製HLC801型、カラムは同社製TSK-Gel(G4000H8 1本、G2000H6 3本)であり、溶剤はテトラヒドロフランを用い、流速1.5ml/分の条件で測定を行い、スチレン換算の重量平均分子量とした。」(明細書第7頁第13行〜第8頁第1行、本件特許公報第3頁第5欄第6行〜第13行)、
(3)「実施例1
主たる成分として、構造式
……
で表される重量平均分子量3000以下の成分の含有量が72重量%、α-ナフチルグリシジルエーテルの含有量が2.0重量%であるエポキシ当量305のエポキシ樹脂(A)80重量部、……、エポキシ当量375の臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂20重量部、……、水酸基当量106のフェノールノボラック樹脂34重量部、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(1.5重量部)、カルナバワックス(2重量部)、カーボンブラック(1重量部)、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(2重量部)、石英ガラス粉(70重量部)を配合し、……エポキシ樹脂成形材料を作製した。」(明細書第15頁第1行〜第16頁第5行、本件特許公報第4頁第8欄第17行〜第33行)。
2.記載不備についての判断
特許請求の範囲及び発明の詳細な説明に記載された「式(I)で示されるエポキシ化合物の重量平均分子量が3000以下の成分が50重量%以上であること」の意味は明瞭でなく、理解することができない、また、どのようなものがこれに該当するのかもわからない。即ち、この記載の文脈からは「式(I)で示される化合物」の中に「重量平均分子量が3000以下の成分」があることになるが、一体それは何なのか、理解に苦しむところである。「式(I)で示される化合物」もそれ自身で全体で1つの重量平均分子量を有しているはずであり、それにも拘わらずもう1つの重量平均分子量が同一の化合物に存在することは腑に落ちないことである。
付言すれば、一般に重量平均分子量とは種々の分子量を持つ同族体の集合体(混合物)の全体の分子量を重量平均値で表したものであるから、その集合体(混合物)においては重量平均分子量は1つであり2つ以上の重量平均分子量が存在することは理論上あり得ないことである(平均すればその値は1つしかない。)。
なるほど、特定の一の重量平均分子量を有する高分子化合物において特定の分子量以上あるいは以下の分子量のものが何%以上あるいは何%以下存在すると言うことはあり得ることではある(上記参考資料3の第1頁の「分子量3000以上あるいは以下の成分」と言う記載は正にこのような場合のことである。)が、一の種々の分子量を持つ同族体の混合物(例えば本件の式(I)のエポキシ化合物)において、平均分子量は1つしかあり得ないのであるから、特定の重量平均分子量以上のものが何%以上あると言うことは、複数の平均分子量のものがあることに他ならないのであり、これは相互に相容れないことであって、あり得ないことである。
本件明細書発明の詳細な説明には「重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定した分子量分布から求めたものである。」こと及び「スチレン換算の重量平均分子量とした。」ことが記載されているが、これらの記載は重量平均分子量の測定法がGPCにより行われたこととそれがスチレン換算の値で表示されたものであることを示すだけであり、このような発明の詳細な説明の記載を参酌しても、先に述べた「式(I)で示されるエポキシ化合物の重量平均分子量が3000以下の成分が50重量%以上であること」の意味が明瞭になるものでもない。
以上のとおりであるから、かかる特許請求の範囲の記載では本件発明の内容が不明瞭でそれを特定することができないから(当然ながら先行技術との対比判断もできない。)、発明の構成に欠くことのできない事項が記載されていたと言うことはできないばかりか、当業者が容易にこの発明を実施し得る程度に明細書が記載されていたと言うこともできない。
また、本件請求項2の記載も本件請求項1を引用しているので記載不備の点は本件請求項2は本件請求項1と同様である。
よって、本件特許明細書の記載は、特許法第36条第3項、第4項及び第5項に規定する記載要件を満足していない。
【4】むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1及び2に係る発明は、特許法第36条第3項、第4項及び第5項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件請求項1及び2に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認められる。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、上記のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-02-18 
出願番号 特願平2-301668
審決分類 P 1 651・ 534- ZB (C08G)
P 1 651・ 535- ZB (C08G)
P 1 651・ 531- ZB (C08G)
最終処分 取消  
前審関与審査官 小林 均  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 石井 あき子
中島 次一
登録日 2000-08-25 
登録番号 特許第3102026号(P3102026)
権利者 日立化成工業株式会社
発明の名称 電子部品封止用エポキシ樹脂成形材料  
代理人 三好 秀和  

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