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審決分類 |
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する B32B 審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する B32B 審判 訂正 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降) 訂正する B32B 審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する B32B 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する B32B |
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管理番号 | 1087157 |
審判番号 | 訂正2003-39114 |
総通号数 | 49 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1993-02-02 |
種別 | 訂正の審決 |
審判請求日 | 2003-06-10 |
確定日 | 2003-09-18 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3068924号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 特許第3068924号に係る明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 |
理由 |
I.手続きの経緯及び請求の要旨 1.手続きの経緯 特許第3068924号の発明は、平成3年11月20日(優先権主張 平成2年11月29日 日本)に出願され、平成12年5月19日に設定登録(請求項の数2)されたものである。その後、特許異議の申立てがあり、取消理由が通知され、明細書の訂正請求が平成14年6月21日付でなされ、該訂正請求に対して訂正拒絶理由が通知され、平成15年3月12日付で手続補正書が提出されたが、手続補正書は採用できない、そして、訂正請求は適法なものとは認められないとして、平成15年4月18日付で取消し決定がされた。その後、取消決定取消訴訟が提起される一方、平成15年6月10日に、訂正審判(本件)が請求されたものである。 2.請求の要旨 請求人は、請求の理由において、「訂正事項a 平成14年6月21日にした訂正請求はこの度取下げられたので」と記載しているが、訂正請求の取下げが、その手続きをすることができる期間内に適法にされたとはいえないから、平成14年6月21日にした訂正請求についての取下げがあったことを前提とすることはできないと認められる。しかしながら、平成15年4月18日付でした取消し決定は確定していないため、該訂正請求の取下げの有無に拘わらず、本件訂正審判の訂正の対象となる明細書は、異議決定時における訂正前の特許明細書であるから、実質上、本件訂正審判の訂正事項には誤りはないと認められる。 本件訂正審判の請求の要旨は、特許第3068924号(平成12年5月19日設定登録)の明細書を、平成15年6月10日付け審判請求書に添付した訂正明細書のとおり、すなわち、訂正事項(a)及び訂正事項(b)のとおり訂正することを求めるものである。 訂正事項(a)特許請求の範囲の「【請求項1】基体上に酸化物膜、Agを主成分とする膜、酸化物膜、と順次積層された少なくとも(2n+1)層(n≧1)からなる熱線遮断膜において、該熱線遮断膜のX線回折図における立方晶Agの(111)回折線の積分幅βi(°)が180λ/(dπcosθ)≦βi ≦180λ/(dπcosθ)+0.15の範囲にあることを特徴とする熱線遮断膜。ただし、d(Å)はAgを主成分とする膜の膜厚、λ(Å)は測定X線波長、θはブラッグ角を示す。 【請求項2】前記Agを主成分とする膜と酸化物膜との界面に、Agの結晶性の不完全性を低減させる介在層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の熱線遮断膜。」を 「【請求項1】基体上にZnO膜、Agを主成分とする膜、ZnO膜が(2n+1)層(n≧1)で順次積層された熱線遮断膜において、前記各Agを主成分とする膜の膜厚は80〜160Åであり、該熱線遮断膜のX線回折図における立方晶Agの(111)回折線の積分幅βi(°)が180λ/(dπcosθ)≦βi ≦180λ/(dπcosθ)+0.15の範囲にあることを特徴とする白濁や白色斑点が形成されていない熱線遮断膜。ただし、d(Å)はAgを主成分とする膜の膜厚、λ(Å)は測定X線波長、θはブラッグ角を示す。」と訂正する。 訂正事項(b)明細書【0008】の「【課題を解決するための手段】本発明は、上述の課題を解決すべくなされたものであり、基体上に酸化物膜、銀を主成分とする膜、酸化物膜、と順次積層された少なくとも(2n+1)層(n≧1)からなる熱線遮断膜において、該熱線遮断膜のX線回折図における立方晶Agの(111)回折線の積分幅βi (°)が、180λ/(dπcosθ)≦βi ≦180λ/(dπcosθ)+0.15、好ましくは180λ/(dπcosθ)≦βi ≦180λ/(dπcosθ)+0.10、最も好ましくは180λ/(dcosθ)≦βi ≦180λ/(dπcosθ)+0.05の範囲にあることを特徴とする熱線遮断膜を提供する。ただし、上式において、d(Å)はAgを主成分とする膜の膜厚、λ(Å)は測定X線波長、θはブラッグ角である。」 を 「【課題を解決するための手段】本発明は、上述の課題を解決すべくなされたものであり、基体上にZnO膜、Agを主成分とする膜、ZnO膜が(2n+1)層(n≧1)で順次積層された熱線遮断膜において、前記各Agを主成分とする膜の膜厚は80〜160Åであり、該熱線遮断膜のX線回折図における立方晶Agの(111)回折線の積分幅βi(°)が180λ/(dπcosθ)≦βi ≦180λ/(dπcosθ)+0.15、好ましくは180λ/(dπcosθ)≦βi ≦180λ/(dπcosθ)+0.10、最も好ましくは180λ/(dcosθ)≦βi ≦180λ/(dπcosθ)+0.05の範囲にあることを特徴とする白濁や白色斑点が形成されていない熱線遮断膜を提供する。ただし、上式において、d(Å)はAgを主成分とする膜の膜厚、λ(Å)は測定X線波長、θはブラッグ角である。」と訂正する。 II.当審の判断 1.訂正の目的の適否、新規事項、実質拡張・変更の存否について 上記訂正事項(a)を、請求項1の記載に関する訂正事項(a-1)〜(a-4)と請求項2の削除に関する訂正事項(a-5)に分割して検討する。 訂正事項(a-1)基体側から見て、基体に近い酸化物膜(酸化物膜2)、基体から遠い酸化物膜(酸化物膜4)について、それぞれ、ZnO膜とすること、を内容とする訂正は、特許明細書の段落【0044】の「酸化物膜2や酸化物膜4が、ZnOからなる1層からなる場合」、段落【0047】の「酸化物膜2の材料は、・・・・ZnO・・・・これらのなかでも、生産性を考慮すると、ZnO膜」、段落【0049】の「酸化物膜4としては、上述の酸化物膜2と同様の膜が使用できる。」、及び段落【0054】〜【0059】の実施例1、2のの記載(ZnO膜、Ag膜、ZnO膜)を根拠とするものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 訂正事項(a-2)「ZnO膜」、「Agを主成分とする膜」及び「ZnO膜」が(2n+1)層で順次積層されたとすること、を内容とする訂正は、特許明細書の段落【0035】の図1(a)の3層の例、図1(b)の(2n+1)層の例、上記段落【0044】の記載、上記段落【0047】の記載、上記段落【0049】の記載、及び上記段落【0054】〜【0059】の実施例1、2の記載を根拠とするものであって、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 訂正事項(a-3)各Agを主成分とする膜の膜厚を80〜160Åとすることを、内容とする訂正は、特許明細書の段落【0036】の「Ag膜3の膜厚は、Agの熱線遮断性能および可視光線透過率とのかねあいを考慮して80〜160Å」、段落【0039】の「Agを主成分とする膜3が複数層ある場合は、各Ag膜3の平均の膜厚を式(180λ/(dπcosθ)≦βi ≦180λ/(dπcosθ)+0.15)における膜厚dとしてよい」の記載を根拠とするものであって、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 訂正事項(a-4)熱線遮断膜について、白濁や白色斑点が形成されていないとすることを、内容とする訂正は、特許明細書の段落【0004】〜【0005】の「従来のLow-Eガラスは、空気中の湿分・・・・により、白色斑点や白濁を生じる・・・・従来のLow-Eガラス(膜構成:ZnO/Ag/ZnO/ガラス)の劣化部を詳しく調査したところ、・・・・Agが著しく粒成長していることがわかった。これらのことから、白濁発生のメカニズムは、・・・・破損した表面および大きなAg粒子により光が散乱されて白濁してみえること」の記載、段落【0009】〜【0012】の「本発明は、Ag結晶の不完全性を改良し、Agを安定化させることにより、耐湿性を改善させるものである。・・・・従来のZnO/Ag/ZnO/ガラスという膜構成のLow-E膜について耐湿試験を行った。・・・・表1より、Ag(111)回折線は、耐湿試験後、積分幅βiが大幅に小さくなり、回折ピークがかなりシャープとなることがわかる。これはAg結晶子径が著しく増大していることをあらわしている。」の記載、段落【0022】〜【0024】の「Agが膜厚方向に完全な結晶であれば、Ag(111)回折線の積分幅は図2の実線とほぼ一致するはずである。しかし・・・・従来のLow-E膜の積分幅の実測値は、実線より大きくなっている。積分幅が大きくなる主な理由としては、Ag結晶が完全な結晶ではなく、不均一歪、欠陥などの不完全性を含むことが挙げられる。これらの結晶性の不完全性により、・・・・結果として、前述の耐湿劣化が起きやすくなり、白濁や白色斑点が生じると考えられる。・・・・本発明では、湿気による白濁を押さえるには、Ag結晶の不完全性の低減が有効であることを見出した。」の記載、段落【0030】の「耐湿試験により劣化し白濁した従来のLow-E膜と、本発明によるAg結晶の不完全性を低減したLow-E膜は、従来の劣化前のLow-E膜と比較すると、どちらもAg(111)回折線の積分幅が小さい。しかし、・・・・本発明によるAg結晶の不完全性の除去によって積分幅が狭くなっている場合は、図4のように、耐湿試験後もピークの形がほとんど変らずなめらかである。」の記載及び上記段落【0054】〜【0059】の実施例1、2の記載を根拠するものであって、耐湿試験により劣化し白濁した従来のLow-E膜と区別するためのものであるので、特許請求の範囲の減縮及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。 また、訂正事項(a-5)請求項2を削除することを、内容とする訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そして、訂正事項(a)による訂正は、願書に添付した明細書の記載の範囲内のものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項(b)による訂正は、訂正事項(a)による訂正に伴い、その記載を整合させるためのものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして、訂正事項(b)による訂正は、願書に添付した明細書の記載の範囲内のものであって、特許請求の範囲の実質的に拡張するものでもない。 2.独立特許要件について 本件の独立特許要件については、特許異議申立(異議2001-70265)においてされた、特許法第36条第4項及び第5項第2号に規定する要件を満足していないとして、記載された取消理由(1)〜(4)に基づいて、判断することとする。 2-1.取消理由の内容 (1)特許明細書の請求項1には「立方晶Agの(111)回折線の積分幅βi(°)が180λ/(dπcosθ)≦βi ≦180λ/(dπcosθ)+0.15の範囲にあること」と記載されており、一方、発明の詳細な説明には、「耐湿試験により劣化し白濁した従来のLow-E膜と、本発明によるAg結晶の不完全性を低減したLow-E膜は、従来の劣化前のLow-E膜と比較すると、どちらもAg(111)回折線の積分幅が小さい。しかし、図3、図4からわかるように、X線回折プロファイルに明確な違いが現れる。・・また、上述のように、従来のLow-E膜が劣化した時は、Agの粒径増大やAgの結晶の凝集が、SEM(走査型電子顕微鏡)により観察でき、本発明のLoW-E膜とは明確に区別できる。」(段落【0030】、【0031】)と記載されている。そして、このような「X線回折プロファイル」や「SEM」による観察について請求項1には何ら規定されておらず、βiについてのみ限定された同項の記載からは、本件発明に係るAg結晶と従来品が劣化したものとを区別し得ない。 (2)請求項2には「Agの結晶性の不完全性を低減させる介在層 」と記載されているが、実施例2及び3には、介在層としてTi膜を付加したLow-E膜の方がAg(111)回折線の積分幅βiの値が大きく、結晶性が不完全であることが示されている。 (3)請求項1には「Agを主成分とする膜、酸化物膜、と順次積層された少なくとも(2n+1)層(n≧1)からなる熱線遮断膜」と記載されているが、「少なくとも」とは、他にどのような場合が包含されることを意味しているのか不明である。(全体が偶数層となる場合、また、請求項2に記載されたような介在層を有する場合には、もはや(2n+1)層ではなくなる。請求項1の記載からは、このようなものが含まれるのか否か不明。) (4)請求項1の記載において、「n≧2」の場合、「Agを主成分とする膜の膜厚」とされる「d」として、どのような数値を採るのか不明である。 2-2.本件発明 訂正明細書の請求項1に係る発明(以下、本件発明という。)は、本件審判請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。 「【請求項1】基体上にZnO膜、Agを主成分とする膜、ZnO膜が(2n+1)層(n≧1)で順次積層された熱線遮断膜において、前記各Agを主成分とする膜の膜厚は80〜160Åであり、該熱線遮断膜のX線回折図における立方晶Agの(111)回折線の積分幅βi(°)が180λ/(dπcosθ)≦βi ≦180λ/(dπcosθ)+0.15の範囲にあることを特徴とする白濁や白色斑点が形成されていない熱線遮断膜。ただし、d(Å)はAgを主成分とする膜の膜厚、λ(Å)は測定X線波長、θはブラッグ角を示す。」 2-3.判断 2-3-1取消理由(1)について βiについてのみを限定した請求項1の記載からは、本件発明に係るAg結晶と従来品が劣化したものとを区別し得ないとされた点の記載不備に関しては、訂正審判による訂正により、本件発明の熱線遮断膜は、Ag結晶(立方晶)の(111)回折線の積分幅βiのみではなく、「白濁や白色斑点が形成されていない」熱線遮断膜であることが特定され、この点で、従来品が劣化したもの(Ag結晶(立方晶)の(111)回折線の積分幅βiは、所定の数値範囲であるが、白濁や白色斑点が生じたもの)と明確に区別することができるので、請求項1の熱線遮断膜を特定する構成と本件明細書に記載した発明の目的及び効果との関係は明確であるから、該記載不備は解消したものと認められる。 2-3-2取消理由(2)について 請求項2の「Agの結晶性の不完全性を低減させる介在層 」の記載に関しては、訂正審判による訂正により、問題とされた請求項2は削除されたから、「Agの結晶性の不完全性を低減させる介在層 」を含む熱線遮断膜についての記載不備は解消したものと認められる。 また、請求項1に係る、ZnO膜、Agを主成分とする膜、ZnO膜が(2n+1)層(n≧1)で順次積層された熱線遮断膜は、ZnO自身が「Agの結晶性の不完全性を低減させる介在層」としての機能を有すること(段落【0043】)から、「Agの結晶性の不完全性を低減させる介在層」を介在させる余地はないものと認められる。 2-3-3取消理由(3)について 請求項1における「酸化物膜、Agを主成分とする膜、酸化物膜、と順次積層された少なくとも(2n+1)層(n≧1)からなる熱線遮断膜」の記載に関しては、訂正審判による訂正により、「少なくとも」なる記載が削除されると共に、積層された熱線遮断膜における、膜の内容は、「ZnO膜」、「Agを主成分とする膜」及び「ZnO膜」と、特定された。その結果、請求項1の積層される膜の層数(2n+1)の規定における層の計数法は、該「ZnO膜」、「Agを主成分とする膜」及び「ZnO膜」に基づいてされ、この場合は、3層(2n+1)(n=1)、5層(2n+1)(n=2)のように特定され、その積層構成も明確である。 また、請求項1には、「Agの結晶性の不完全性を低減させる介在層」が介在しないから、(2n+1)層の層数に該「Agの結晶性の不完全性を低減させる介在層」を考慮する余地はないと認められる。 2-3-4取消理由(4)について 請求項1の記載において、「n≧2」の場合、「Agを主成分とする膜の膜厚」とされる「d」に関しては、訂正審判による訂正により、各「Agを主成分とする膜3」の膜厚範囲は80〜160Åと特定されているから、式においてd(Å)は、その範囲内のものであることは明らかであり、「Agを主成分とする膜3」が複数層ある場合は、段落【0039】の記載から、膜厚範囲80〜160Åである各Ag膜3の平均膜厚とするのであるから、dの膜厚は80〜160Åが範囲内であることは明らかである。 したがって、「n≧2」の場合について、「Agを主成分とする膜の膜厚」とされる「d」の範囲は明確である。 以上のとおり、本件明細書の記載に関して、特許請求の範囲には、発明の構成に欠くことができない事項のみが記載され、また、明細書の発明の詳細な説明の項には、請求項に記載した発明を当業者が容易に実施できる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されていると認められるから、本件明細書は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満足している。 3.むすび したがって、訂正後の発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。 III.むすび 以上のとおりであるから、本件審判請求は、平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2号、第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第2項及び第3項の規定に適合する。 よって、結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 熱線遮断膜 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 基体上にZnO膜、Agを主成分とする膜、ZnO膜が(2n+1)層(n≧1)で順次積層された熱線遮断膜において、前記各Agを主成分とする膜の膜厚は80〜160Åであり、該熱線遮断膜のX線回折図における立方晶Agの(111)回折線の積分幅βi(°)が180λ/(dπcos θ)≦βi≦180λ/(dπcos θ)+0.15の範囲にあることを特徴とする白濁や白色斑点が形成されていない熱線遮断膜。ただし、d(Å)はAgを主成分とする膜の膜厚、λ(Å)は測定X線波長、θはブラッグ角を示す。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】 本発明は耐久性、特に耐湿性に優れた熱線遮断膜に関するものである。 【0002】 【従来の技術】 基体表面に酸化物膜、Ag膜、酸化物膜を積層した3層膜、または酸化物膜、Ag膜、酸化物膜、Ag膜、酸化物膜を順次積層した5層膜等の(2n+1)層(n≧1)からなる膜は、Low-E膜と呼ばれる熱線遮断膜であり、Low-E膜を形成したガラスは、Low-Eガラスと呼ばれている。 【0003】 Low-Eガラスは、室内からの熱線を反射することにより室内の温度低下を防止できる機能ガラスであり、暖房負荷を軽減する目的で、複層ガラス化されて、おもに寒冷地で用いられている。また、太陽熱の熱線遮断効果も有するため、合わせガラス化されて、自動車ガラスにも採用されている。透明でありかつ導電性を示すため、電磁遮蔽ガラスとしての用途もある。導電性プリント等からなるバスバー等の通電加熱手段を設ければ、防曇、防氷用の通電加熱ガラスとして使用できる。 【0004】 従来のLow-Eガラスは、空気中の湿度や合わせガラスとする場合の中間膜に含まれる水分により、白色斑点や白濁を生じるため、複層ガラスや合わせガラスとする前の、単板での長期保管やハンドリングに注意を要していた。 【0005】 従来のLow-Eガラス(膜構成:ZnO/Ag/ZnO/ガラス)の劣化部を詳しく調査したところ、最上層酸化物膜にシワ、ひび、剥離等の破損が起きていることがわかった。また、Agが著しく粒成長していることがわかった。これらのことから、白濁発生のメカニズムは、最上層酸化物膜が内部応力に耐えきれず、Ag膜との界面から剥離、破損し、次にAgの粒径が増大し、かかる破損した表面および大きなAg粒子により光が散乱されて白濁してみえることを見いだした。 【0006】 このため、本発明者は、耐湿性改善策として、酸化物膜の内部応力低減がきわめて効果的であることを見いだした(特願平3-191063号)。これにより耐久性はかなり改善されたが、さらに向上させる必要がある。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は、従来技術が有していた上記の欠点を解決し、耐久性、特に耐湿性の優れた熱線遮断膜付きガラスを提供しようとするものである。 【0008】 【課題を解決するための手段】 本発明は、上述の課題を解決すべくなされたものであり、基体上にZnO膜、Agを主成分とする膜、ZnO膜が(2n+1)層(n≧1)で順次積層された熱線遮断膜において、前記各Agを主成分とする膜の膜圧は80〜160Åであり、該熱線遮断膜のX線回折図における立方晶Agの(111)回折線の積分幅βi(°)が180λ/(dπcos θ)≦βi≦180λ/(dπcos θ)+0.15、好ましくは180λ/(dπcos θ)≦βi≦180λ/(dπcos θ)+0.10、最も好ましくは180λ/(dπcos θ)≦βi≦180λ/(dπcos θ)+0.05の範囲にあることを特徴とする白濁や白色斑点が形成されていない熱線遮断膜を提供する。ただし、上式において、d(Å)はAgを主成分とする膜の膜厚、λ(Å)は測定X線波長、θはブラッグ角である。 【0009】 本発明は、Ag結晶の不完全性を改良し、Agを安定化させることにより、耐湿性を改善させるものである。また、内部応力の低い酸化物膜4と組み合わせれば、耐湿性をより向上させることができる。 【0010】 Agの安定性とLow-E膜の劣化の関係について以下に詳しく述べる。 従来のZnO/Ag/ZnO/ガラスという膜構成のLow-E膜について耐湿試験を行った。耐湿試験は、50℃、相対湿度95%の雰囲気中に6日間放置するというものである。耐湿試験後のLow-E膜には、白色斑点や白濁が生じていた。耐湿試験前後のLow-E膜をX線回折法で調べた。立方晶Agの(111)回折線について、回折角2θ(X線回折ピークの重心位置)、結晶面間隔d111、積分幅βiをそれぞれ表1に示す。 【0011】 【表1】 【0012】 表1より、Ag(111)回折線は、耐湿試験後、積分幅βiが大幅に小さくなり、回折ピークがかなりシャープとなることがわかる。これは、Agの結晶子径が著しく増大していることをあらわしている。Agの粒径増大や凝集は耐湿試験後Low-E膜のSEM(走査型電子顕微鏡)観察によっても確認された。このことから、Ag膜は変化しやすく不安定であるといえる。 【0013】 このようなAgの不安定性のためLow-E膜が劣化しやすくなるのは、以下の2つの理由によると考えられる。 【0014】 第1に、Agと酸化物界面での膜の剥離が起きやすくなり、最上層酸化物膜の破損も起きやすくなる。このようにして酸化物膜が剥離し、破損した部分が白濁してみえる。(この現象は、当然、酸化物膜の内部応力が大きいほど顕著である。酸化物膜の内部応力を低くすれば、劣化を抑えられることは特願平3-191063号で詳しく述べた。) 【0015】 第2に、酸化物膜破損に加え、前述のAgの粒径増大、凝集が加わり、白濁の程度が一段と激しくなる。これもAgの不安定さが原因である。 Agが安定化すると、Agと酸化物との界面での膜の剥離が起きにくくなるため最上層酸化物膜の破損が起きにくくなる、また最上層酸化物膜の剥離が起きてもAgが著しく粒成長および凝集しないため白濁の程度が軽くて済む、という効果をもたらす。結果としてLow-E膜の劣化が抑えられると考えられる。 【0016】 以上より、Low-E膜の耐久性改良のためには、Agの安定化が不可欠であることがわかる。 【0017】 X線回折線の様子からAgの結晶状態について推察し、Agの安定性との関係について以下に述べる。 【0018】 シェラーは、一般的な結晶に関し、結晶に不完全性がなくプロファイルの拡がりが結晶子の大きさだけによると仮定し、その大きさが均一であることを前提として以下の実験式を導いている。 Dhkl=K・180λ/(πβicos θ) Dhkl:hkl面に垂直方向の結晶子の大きさ(Å)、K:定数(=1)、λ:測定X線波長(Å)、βi:積分幅(°)、θ:ブラッグ角(2θがピーク位置)。 【0019】 一般に、スパッタリング(以下、単にスパッタともいう)法で作成したAg膜は、(111)面が基体に平行に配向しやすい。したがって、通常、Ag(111)回折線のみが観察される。 【0020】 Agが膜厚方向(基体と垂直な方向、以下同じ)に完全な結晶であれば膜厚方向の結晶子サイズは膜厚と同じ大きさである。上述のような(111)面配向膜の場合、結晶子サイズD111と膜厚は等しくなる。したがって、膜厚と積分幅は次の式に従う。 d=D111=180λ/(πβicos θ) すなわち、 βi=180λ/(dπcos θ) (1) 【0021】 図2に、Agの膜厚とAg(111)回折線の積分幅の関係を示す。実線は(1)式を表す。各点は、従来のZnO/Ag/ZnO/ガラスにおける実測値である。 【0022】 Agが膜厚方向に完全な結晶であれば、Ag(111)回折線の積分幅は図2の実線とほぼ一致するはずである。しかし、図2より、従来のLow-E膜の積分幅の実測値は、実線より大きくなっている。 【0023】 積分幅が大きくなる主な理由としては、Ag結晶が完全な結晶ではなく、不均一歪、欠陥などの不完全性を含むことが挙げられる。 これらの結晶性の不完全性により、Agが不安定となり剥離や粒成長が起きやすくなる。結果として、前述の耐湿劣化が起きやすくなり、白濁や白色斑点が生じると考えられる。 【0024】 本発明では、湿気による白濁を抑えるには、Ag結晶の不完全性の低減が有効であることを見出した。 耐湿試験前のLow-E膜の立方晶Ag(111)回折線の積分幅βi、Low-E膜の耐湿試験後の積分幅の耐湿試験前の積分幅に対する変化率、および耐湿性の関係を表2に示す。 【0025】 最上層ZnO膜とAg膜はすべて同一条件で作成した。Ag膜の膜厚は100Åであり、最上層ZnO膜の内部応力は1.2×1010dyn/cm2である。サンプル4および5は成膜後200〜300℃の加熱処理を施したものである。これらのサンプルをX線回折法で調べたところ、加熱処理前後で、六方晶ZnO(002)回折線のピーク位置の変化はほとんどなく、これよりZnO膜の内部応力の変化はほとんどないと思われる。 【0026】 耐湿性は、50℃、相対湿度95%の雰囲気中に6日間放置するという試験を行い評価した。評価基準は、膜の端部付近に白濁が無く、直径1mm以上の白色斑点が現れなければ○、膜の端部付近に白濁が無く、直径1mm〜2mmの白色斑点が現れたものを△、膜の端部付近に白濁が存在するまたは直径2mm以上の白色斑点が現れたものを×とした。 【0027】 【表2】 【0028】 表2より耐湿性は耐湿試験前のLow-E膜のAgの(111)回折線の積分幅に依存することがわかる。すなわち、耐湿試験前のAgの(111)回折線の積分幅が小さい方が耐湿性が良好であることがわかる。これは、Ag結晶が完全な結晶に近い(結晶の不完全性が少ない)方が耐湿試験前後でAg(111)回折線の変化が少なく安定であることを意味する。 【0029】 図3、図4にそれぞれサンプル2、サンプル5のX線回折図における耐湿試験前後のAg(111)回折線のプロファイルの変化を示す。なお、図3、図4においては、耐湿試験前後のプロファイルの変化をわかりやすく示すために、耐湿試験後のプロファイルは、耐湿試験前のプロファイルに対してずらして示してある。また、図3、図4は、プロファイルの相対的な変化を抜き出して示したものであり、強度に関しては、必ずしも絶対的な値を表すものではない。 【0030】 耐湿試験により劣化し白濁した従来のLow-E膜と、本発明によるAg結晶の不完全性を低減したLow-E膜は、従来の劣化前のLow-E膜と比較すると、どちらもAg(111)回折線の積分幅が小さい。しかし、図3、図4からわかるように、X線回折プロファイルに明確な違いが現れる。耐湿試験により劣化して白濁したものは、図3のようにピークトップがシャープになる。本発明によるAg結晶の不完全性の除去によって積分幅が狭くなっている場合は、図4のように、耐湿試験後もピークの形がほとんど変らずなめらかである。 【0031】 また、上述のように、従来のLow-E膜が劣化した時は、Agの粒径増大やAgの結晶の凝集が、SEM(走査型電子顕微鏡)により観察でき、本発明のLoW-E膜とは明確に区別できる。 【0032】 通常、Agの膜厚によって膜厚方向の結晶子サイズが異なるので当然積分幅も異なる。したがって、最適なAg結晶の積分幅の値も、Agの膜厚により異なってくる。表3にZnO/Ag/ZnO/ガラスという膜構成のLow-E膜における、Agの膜厚が異なる時のAg(111)回折線の積分幅と耐湿性の関係を示す。耐湿性の評価基準は上記表1と同様である。 【0033】 【表3】 【0034】 表3の( )内の値は、図2の実線上にあたる理想的な値であり、CuKα線(λ=1.54Å)によるX線回折の場合の、Ag粉末の(111)回折線のピーク位置2θ=38.11を(1)式にあてはめた値である。表3より、いずれの膜厚においても、積分幅が狭くなり、( )内の数値に近づくほど耐湿性が良好となることがわかる。 【0035】 図1に本発明の熱線遮断膜の代表例の断面図を示す。図1(a)は、3層からなる熱線遮断膜の断面図、図1(b)は、(2n+1)層からなる熱線遮断膜の断面図、図1(c)は、Agを主成分とする膜3と酸化物膜2の間に介在層5を形成した熱線遮断膜の断面図である。1は基体、2は酸化物膜、3はAgを主成分とする膜(以下Ag膜3ということもある)、4は、基体からみて、基体から最も離れたAg膜3(A)の反対側に形成された酸化物膜(B)、5はAgの結晶性の不完全性を低減させる介在層である。 【0036】 Agを主成分とする膜3の材料としては、Ag膜、またはAu、Cu、Pdのうちの少なくとも一つを含むAgを主成分とする膜が使用できる。 Ag膜3の膜厚は、Agの熱線遮断性能および可視光透過率とのかねあいを考慮して80〜160Å、特に90〜120Åが好ましい。 【0037】 本発明の熱線遮断膜においては、該熱線遮断膜のX線回折図における立方晶Agの(111)回折線の積分幅βi(°)が、180λ/(dπcos θ)≦βi≦180λ/(dπcos θ)+0.15、好ましくは180λ/(dπcos θ)≦βi≦180λ/(dπcos θ)+0.10、最も好ましくは180λ/(dπcos θ)≦βi≦180λ/(dπcos θ)+0.05の範囲にあればよい。ただし、d(Å)はAgを主成分とする層3の膜厚、λ(Å)は測定X線波長、θはブラッグ角(2θがピーク位置)である。 【0038】 なお、本明細書におけるX線回折分析は、リガク社のX線回折装置、RU200-RINT(回折線湾曲結晶モノクロメーター付、リガク CN2726A1)を用いて行った。CuKα線を利用し、0.002°のステップスキャニングで測定した。積分幅βiの値を算出する際、光学系によるプロファイルの拡がりの影響を除くための補正を行っている。 【0039】 本発明のLow-E膜において、Agを主成分とする膜3が複数層ある場合は、各Ag膜3の平均の膜厚を、式(180λ/(dπcos θ)≦βi≦180λ/(dπcos θ)+0.15)における膜厚dとしてよいと考えられる。 【0040】 本発明は、結晶化したAg膜に関して、その結晶の不完全性の低減によりAg膜の耐湿性を向上するものである。よって、本発明は、結晶性のAg膜について特に効果が発揮される。結晶性の高いAg膜のX線回折においては、(111)回折線のピークは顕著に現れ、ピークトップの強度Iは、バックグラウンドの強度IBに対して、 I-IB≧0.5nIB (2) (ここで、nは、Agを主成分とする膜3の層数) となるような、大きな値となることが多い。 【0041】 ただし、(2)式は、Agを主成分とする膜3が2層以上ある場合、各層の膜厚がほぼ等しい場合に関するものであって、各層の膜厚が大きく異なる場合は、(2)式にあてはまらないこともある。I-IB<0.5nIBであるような、小さなピーク強度Iを示すAg膜は、一部分のみが結晶化している状態、または、アモルファス状態であると考えられる。本明細書のAgのX線回折データ(実施例、比較例、表1〜3のデータを含む)は、(2)式を満足するような、顕著なピークが現れたプロファイルに関する値である。 【0042】 結晶の不完全性が低減されたAg膜3を形成する方法として、成膜中または成膜後の約200℃以上の加熱処理や、Ag膜3と酸化物膜との界面の片面または両面に、Agの結晶性の不完全性を低減させる介在層5を形成する方法が挙げられる。また、Ag膜3の成膜条件や介在層5の種類および成膜条件にも依存すると考えられる。それぞれの具体的な条件は、成膜装置に応じて選べばよく特に限定されない。 【0043】 かかるAgの結晶性の不完全性を低減させる介在層5としては、結晶化しやすく、基板に平行な結晶面における原子間距離がAg格子のものと近い膜が好ましい。C軸が基盤に垂直に配向しやすい六方晶系、または(111)面配向をしやすい立方晶系(面心立方、ダイヤモンド型、NaCl型)の膜はAgの結晶化を促す傾向にある。例えば、(001)面配向の強いTi、Zr、ZnOや、(111)面配向の強いTiN、ZrN、Pt、Au、Al、Pdが挙げられる。 【0044】 同じ膜材料でも、その作成方法やさらにその下にある層(酸化物膜2)の結晶状態によって結晶性や配向性が異なり、それによりAgの安定性も異なってくる。なお、酸化物膜2や酸化物膜4が、ZnOからなる1層からなる場合や、多層からなっていてもAg膜3との界面にZnO膜を有する場合には、これらのZnO膜が介在層5と同様の効果を示すので、介在層5は存在しなくてもよい。 【0045】 介在層5の膜厚は、特に限定されない。薄ければ、Agの結晶性の不完全性低減効果は小さくなる。厚ければ、熱線遮断膜全体の色調に影響をおよぼす、可視光透過率が小さくなるなどの問題があり好ましくない。これらを考慮すると10〜40Åが好ましい。 【0046】 なお、介在層5は、結晶化したAg膜に関して、その結晶の不完全性を低減する膜であって、従来知られている核形成層(nucleating layer、すなわち、核形成を促す下地層であり、例えば、その上にごく薄い連続膜を形成する場合などに用いられる)とは、異なるものである。 【0047】 酸化物膜2の材料は、特に限定されない。ZnO、SnO2、TiO2等やこれらの複合酸化物、またはこれらに他の元素を添加した酸化物、などの1層からなる膜、これらの膜の2種以上を含む積層膜、等が使用できる。これらのなかでも、生産性を考慮すると、ZnO膜、SnO2膜、Al、Si、B、Ti、Sn、Mg、Crのうち少なくとも一つをZnとの総量に対し合計10原子%以下添加したZnO膜、または、ZnOとSnO2を交互に2層以上積層させた多層膜が好ましい。 【0048】 酸化物膜2はAg膜3の結晶状態に、直接、または介在層5を介して間接的に影響を与える。Ag膜3の結晶化を促すには結晶質の膜が好ましい。 【0049】 酸化物膜4としては、上述の酸化物膜2と同様の膜が使用できる。さらに、本発明のLow-E膜を内側にし、プラスチック中間膜を介してもう一枚の基体と積層して合わせガラスとする場合に、かかるプラスチック中間膜との接着力の調整または耐久性向上の目的で、中間膜と接する層として、100Å以下の酸化物膜(例えば、酸化クロム膜)を形成する場合があるが、このような膜を含めて2層以上の構成とすることもできる。 【0050】 酸化物膜4の内部応力が大きいと、膜が剥離し、破損しやすくなり、Ag膜3(特にAg膜(A))の劣化が起きやすい。したがって、酸化物膜4全体の内部応力は1.1×1010dyn/cm2以下であることが好ましい。また、酸化物膜4がZnOを主成分とする膜を有する場合には、内部応力の観点から、CuKα線を用いたX線回折法による六方晶ZnOの(002)回折線2θ(重心位置)の値が33.88°以上35.00°以下であることが好ましい。 【0051】 特に、酸化物膜、金属膜、酸化物膜、金属膜、酸化物膜、という5層構成、または5層以上の膜構成の熱線遮断膜の場合、酸化物膜4以外の酸化物膜2も内部応力が1.1×1010dyn/cm2以下の膜であることが、耐湿性向上の点で望ましい。 【0052】 酸化物膜2および酸化物膜4の膜厚は、熱線遮断膜全体の色調、可視光透過率を考慮すると、200〜700Åが望ましい。積層膜の場合も、合計200〜700Åであればよく、それぞれの層の膜厚は限定されない。 【0053】 本発明における基体1としては、ガラス基板の他、プラスチック等のフィルムや基板も使用できる。 【0054】 【実施例】 (実施例1) RFスパッタリング法により、ガラス基板上にZnO膜、Ag膜、ZnO膜をそれぞれ450Å、100Å、450Åの膜厚で、順次積層させた。本実施例は、第1層のZnO膜を、基板温度200℃で成膜した例である。 【0055】 ターゲットは、ZnO、Agを用い、アルゴンガスによりスパッタリングを行った。第1層ZnOの成膜はスパッタ圧力5.0×10-2Torr、スパッタ電力密度(RF電力密度、以下同じ)は1.8W/cm2、基板温度は200℃で行った。Agの成膜はスパッタ圧力3.0×10-3Torr、スパッタ電力密度は1.1W/cm2、基板温度は室温で行った。第3層ZnOの成膜はスパッタ圧力1.0×10-2Torr、スパッタ電力密度は1.8W/cm2、基板温度は室温で行った。 【0056】 得られたLow-E膜をX線回折法で調べたところ、Ag(111)回折線の積分幅βiは0.98°であった。 上記Low-E膜について、50℃、相対湿度95%の雰囲気中に放置するという耐湿試験(以下の実施例、比較例においても同様の試験である)を行った。耐湿試験6日後の外観は、一部に無視できる程度のごく微小の斑点は見られたものの、目立った白色斑点および白濁は観察されず良好であった。 【0057】 (実施例2) 実施例1と同様のRFスパッタリング法により、ガラス基板上にZnO膜、Ag膜、ZnO膜をそれぞれ450Å、100Å、450Åの膜厚で、順次積層させた。本実施例は、成膜後に240℃で真空加熱処理した例である。 【0058】 ターゲットは、ZnO、Agを用い、アルゴンガスによりスパッタリングを行った。基板温度は室温とした。第1層ZnOおよび第3層ZnOの成膜はスパッタ圧力1.0×10-2Torr、スパッタ電力密度は1.8W/cm2、Agの成膜はスパッタ圧力3.0×10-2Torr、スパッタ電力密度は1.1W/cm2とした。成膜後の膜を240℃で1時間真空加熱処理を行った。加熱処理後のLow-E膜をX線回折法で調べたところ、Ag(111)回折線の積分幅βiは0.95°であった。 【0059】 このLow-E膜の耐湿試験6日後の外観は、微小斑点は見られたものの、目立った白色斑点および白濁は観察されず良好であった。 また、上述の耐湿試験前の膜を内側にして、もう1枚のガラス板とポリビニルブチラール中間膜を介して積層して合わせガラスとし、この合わせガラスについて同様の耐湿試験を行った。耐湿試験14日後の合わせガラスは、白濁や斑点がまったく生じておらず、耐湿性は大変良好であった。 【0060】 (実施例3) 実施例1と同様のRFスパッタリング法により、ガラス基板上にZnO膜、Ti膜、Ag膜、ZnO膜をそれぞれ450Å、40Å、100Å、450Åの膜厚で、順次積層させた。本実施例は、介在層5としてTi膜を形成し、また、Low-E膜を成膜後、真空加熱処理した例である。 【0061】 ターゲットは、ZnO、Ti、Agを用い、アルゴンガスによりスパッタリングを行った。基板温度は室温であった。第1層ZnOおよび第4層ZnOの成膜はスパッタ圧力1.0×10-2Torr、スパッタ電力密度は1.8W/cm2、Agの成膜はスパッタ圧力3.0×10-3Torr、スパッタ電力密度は1.1W/cm2、Tiの成膜はスパッタ圧力3.0×10-3Torr、スパッタ電力密度は1.8W/cm2とした。成膜後のLow-E膜を200℃で1時間真空加熱処理を行った。 【0062】 加熱処理後のLow-E膜をX線回折法で調べたところ、Ag(111)回折線の積分幅βiは1.03°であった。このLow-E膜の耐湿性は、上記実施例と同様良好であった。 【0063】 (実施例4) 実施例1と同様のRFスパッタリング法により、ガラス基板上にAlドープZnO膜、Ag膜、AlドープZnO膜をそれぞれ450Å、100Å、450Åの膜厚で、順次積層させた。本実施例は、酸化物膜2、酸化物膜4としてAlドープZnO膜を形成し、また、Low-E膜の成膜後、真空加熱処理した例である。 【0064】 ターゲットは、Znとの総量に対しAlを3.2原子%含む酸化物、Agを用い、アルゴンガスによりスパッタリングを行った。基板温度は室温であった。第1層AlドープZnOおよび第3層AlドープZnOの成膜はスパッタ圧力1.0×10-2Torr、スパッタ電力密度は1.8W/cm2、Agの成膜はスパッタ圧力3.0×10-3Torr、スパッタ電力密度は1.1W/cm2である。成膜後の膜を240℃で1時間真空加熱処理を行った。 【0065】 加熱処理後のLow-E膜をX線回折法で調べたところ、Ag(111)回折線の積分幅βiは0.96°であった。このLow-E膜の耐湿試験6日後の外観は、肉眼では白色斑点が全く見られず、非常に良好であった。 【0066】 (比較例1) 実施例2と同様のRFスパッタリング法により、ガラス基板上にZnO膜、Ag膜、ZnO膜をそれぞれ450Å、100Å、450Åの膜厚で、順次積層させた。 ターゲットは、ZnO、Agを用い、アルゴンガスによりスパッタリングを行った。ZnO、Ag成膜の際のスパッタ圧力、基板温度、スパッタ電力密度は実施例2と同様である。本比較例では、実施例2のような成膜後の真空加熱処理は行わなかった。 【0067】 得られたLow-E膜をX線回折法で調べたところ、Ag(111)回折線の積分幅βiは1.12°であった。耐湿試験6日後のLow-E膜は、直径1mm以上のはっきりした白色斑点も見られた。 以上の膜(耐湿試験前)について、実施例2と同様にして合わせガラスとした後に耐湿試験を行った。耐湿試験14日後の合わせガラスは、端の方から6mm程度白濁が現れていた。 【0068】 (比較例2) 実施例3と同様のRFスパッタリング法により、ガラス基板上にZnO膜、Ti膜、Ag膜、ZnO膜をそれぞれ450Å、40Å、100Å、450Åの膜厚で、順次積層させた。 ターゲットは、ZnO、Ti、Agを用い、アルゴンガスによりスパッタリングを行った。ZnO、Ti、Ag成膜の際のスパッタ圧力、基板温度、スパッタ電力密度、基板温度は実施例3と同様である。本比較例においては、実施例3のような、成膜後の真空加熱処理は行わなかった。 【0069】 得られたLow-E膜をX線回折法で調べたところ、Ag(111)回折線の積分幅βiは1.25°であった。このLow-E膜の耐湿試験6日後の外観は、白濁および直径1mm以上のはっきりした白色斑点が見られた。 【0070】 【発明の効果】 本発明によるLow-E膜は、耐湿性が著しく改善されている。このため、合わせガラス化や、複層ガラス化する前の、単板での取扱が容易になると考えられる。また単板での室内長期保存も可能となる。さらに、自動車用、建築用熱線遮断ガラスの信頼性向上につながる。また、合わせガラスとした際にも中間膜が含有している水分によって劣化することがないので、自動車用、建築用等の合わせガラスの耐久性が向上する。 【0071】 本発明の熱線遮断膜は、Agを主成分とする膜を有しているため、熱線遮断性能とともに導電性もある。したがって、本発明の熱線遮断膜は、この導電性を利用して、種々の技術分野に使用できる。例えば、エレクトロニクス分野においては電極として(太陽電池の電極などにも使用できる)、通電加熱窓においては発熱体として、窓や電子部品においては電磁波遮蔽膜として、使用できる。 【0072】 場合によっては、本発明の熱線遮断膜は、基体の上に、各種の機能を有する膜を介して形成することもできる。このような場合には、本発明の熱線遮断膜の各膜の最適膜厚を選択するなどにより、その用途に応じて光学性能を調節できる。 【図面の簡単な説明】 【図1】本発明の熱線遮断膜をガラス上に形成した熱線遮断ガラスの例の断面図 【図2】Ag膜の膜厚と立方晶Agの(111)回折線の積分幅の関係を示すグラフ 【図3】サンプル2の耐湿試験前後のAg(111)回折線のプロファイルの変化を示すX線回折図 【図4】サンプル5の耐湿試験前後のAg(111)回折線のプロファイルの変化を示すX線回折図 【符号の説明】 1 基体 2 酸化物膜 3 Agを主成分とする膜 4 酸化物膜(B) 5 介在層 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2003-08-14 |
結審通知日 | 2003-08-19 |
審決日 | 2003-09-05 |
出願番号 | 特願平3-331363 |
審決分類 |
P
1
41・
832-
Y
(B32B)
P 1 41・ 854- Y (B32B) P 1 41・ 856- Y (B32B) P 1 41・ 841- Y (B32B) P 1 41・ 855- Y (B32B) |
最終処分 | 成立 |
特許庁審判長 |
高梨 操 |
特許庁審判官 |
石井 淑久 石井 克彦 |
登録日 | 2000-05-19 |
登録番号 | 特許第3068924号(P3068924) |
発明の名称 | 熱線遮断膜 |
代理人 | 内田 明 |
代理人 | 渡部 崇 |
代理人 | 萩原 亮一 |
代理人 | 内田 明 |
代理人 | 渡部 崇 |
代理人 | 石川 祐子 |
代理人 | 石川 祐子 |
代理人 | 萩原 亮一 |