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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1087409
審判番号 不服2001-4640  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-08-10 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2001-03-26 
確定日 2003-11-05 
事件の表示 平成 2年特許願第246008号「毛様体神経栄養因子」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年 8月10日出願公開、特開平 5-199879]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.出願の経緯及び本願発明
本願は、1990年9月14日(パリ条約による優先権主張1989年9月15日、米国)を出願日とする出願であって、その請求項1〜10に係る発明は、当審で提出された手続補正書によって補正された明細書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1〜10に係る発明(以下、これらを各々「本願発明1〜10という。」)は次の通りである。

「【請求項1】 生物学的に活性な毛様体神経栄養因子(CNTF)であって、以下の配列:
【化1】

を有するラットCNTFをコードするポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む、毛様体神経栄養因子、ただし、該アミノ酸配列は、
【化2】

または
【化3】

のいずれでもない。
【請求項2】 細菌中で生物学的に活性な毛様体神経栄養因子を産生するための方法であって、以下の工程:
(a)請求項1に記載のポリヌクレオチドを含む細菌性発現ベクターでトランスフェクトされた細菌細胞を培養する工程であって、ここで該細菌性ベクターが、該細菌細胞中で複製され得、そして該細菌細胞中での該DNAの発現を指示して、毛様体神経栄養因子を産生させ得る工程;
(b)毛様体神経栄養因子を該細菌細胞中で産生させる工程;および
(c)該細菌細胞から該生物学的に活性な毛様体神経栄養因子を回収する工程、
を包含する、方法。
【請求項3】 前記細菌がE.coliである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】 前記細菌性発現ベクターが、NRRLに受託番号B-18701で寄託されているpRPN40である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】 細菌性発現ベクターであって、請求項1に記載のポリヌクレオチドを含み、ここで該細菌性発現ベクターが、細菌細胞中で複製され得、そして該細菌細胞中での該DNAの発現を指示して、毛様体神経栄養因子を産生させ得る、細菌性発現ベクター。
【請求項6】 pRPN40と称され、そしてNRRLに受託番号B-18701で寄託されている、請求項5に記載の細菌性発現ベクター。
【請求項7】 請求項5に記載の細菌性発現ベクターでトランスフェクトされた、細菌細胞。
【請求項8】 請求項6に記載の細菌性発現ベクターでトランスフェクトされた、細菌細胞。
【請求項9】 前記細菌がE.coliである、請求項7または8に記載の細菌細胞。
【請求項10】 請求項2-4のいずれかに記載の方法により得られる毛様体神経栄養因子を、薬学的に受容可能な希釈剤とともに含む、薬学的組成物。」

II.引用例
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先権主張日前の他の国際出願(以下「先願」という)であって、その出願後に国際公開された特願平2-502273号(特表平4-502916号公報(国際公開第90/7341号パンフレット)参照)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲若しくは図面(図面の中の説明に限る)、及び、これらの書類の出願翻訳文又は国際出願日における図面(図面の中の説明を除く)には、以下の発明が記載されている。
そして、当該発明はパリ条約による優先権主張の基礎とする1989年9月8日付け米国特許出願第404533号明細書に記載されているものであるから、当該発明の優先日は、本願のパリ条約による優先権主張日である1989年9月15日よりも前の1989年9月8日と認められるところ、以下(i)当該先願発明の優先権主張日に米国に出願された米国特許出願第404533号明細書と、(ii)上記先願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲若しくは図面(図面の中の説明に限る)、及び、これらの書類の出願翻訳文又は国際出願日における図面(図面の中の説明を除く)との共通する部分を「先願明細書」という。

先願明細書には、坐骨神経由来のウサギ毛様体神経栄養因子(SN-CNTF)の精製タンパクの一部アミノ酸配列から得られる縮重オリゴヌクレオチドプローブからウサギ及びヒトのCNTF遺伝子をクローニングする手法が開示されており(実施例4)、かつ、それぞれのCNTF遺伝子の塩基配列と、それに対応するアミノ酸配列も記載されている(図11、図12)。また、ウサギCNTF遺伝子をベクターに組み込み、動物細胞において発現させ、ウサギCNTFを精製取得後、その活性を確認したことも記載されている(実施例5、実施例6)。
さらに、先願明細書には、「本発明の更なる目的はSN-CNTFをコードする動物およびヒト遺伝子をクローニングするためにcDNAおよびゲノムライブラリーのスクリーニングを容易にするプローブを提供することである。本発明の他の目的は、動物およびヒトCNTFの核酸および対応するアミノ酸配列を提供することである。本発明の他の目的は、ヒトまたは動物CNTFの核酸および対応するアミノ酸配列を提供することである。」(参照公報第3頁右下欄第10〜18行)、「本発明のいくつかの好ましい実施態様の他の好適な特徴によれば、SN-CNTFプローブがSN-CNTFのcDNAおよびゲノムライブラリーをスクリーニングするために提供される。」(参照公報第3頁右下欄末行〜第4頁左上欄第3行)、「本発明のいくつかの好ましい実施態様の他の好適な特徴によれば、生物学的に活性な動物またはヒトCNTFを生産するための組換え発現系が提供される」(参照公報第4頁第7〜9行)、「SN-CNTFをコードする動物およびヒト遺伝子をクローニングするために、本発明にしたがって、cDNAおよびゲノムライブラリーのスクリーニングを容易にするオリゴヌクレオチドプローブを作製するのに十分なアミノ酸配列が得られている。」(参照公報第6頁第1〜5行)とも記載されている(これらの記載をまとめて「記載A」という。)。
また、先願明細書には、ラットにもSN-CNTFが存在することが公知であったことが記載されている(参照公報第3頁右上欄第14〜17行)。

III.当審の判断
(1)本願発明1について
本願発明1には、「生物学的に活性な毛様体神経栄養因子(CNTF)であって、以下の配列:【化1】(塩基配列は省略)を有するラットCNTFをコードするポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列を含む、毛様体神経栄養因子」なる、本願明細書において実際にクローニングされた塩基配列及びアミノ酸配列を特定した「ラットCNTF遺伝子」のみならず、それから広がった、それ自体の配列を特定しない広範な遺伝子に対応する毛様体神経栄養因子の発明が包含される。
このことは、本件請求人が平成13年6月5日付け提出の審判請求書の手続補正書において、「本願発明のCNTFタンパク質が生物学的に活性な変異体を含み得る」旨、主張し、及び、平成13年4月25日付け提出の手続補正書において「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド」なる記載を書き加えることの根拠として挙げている、「同様に、本発明のCNTFタンパク質またはそのフラグメントまたは誘導体は、一次アミノ酸配列として、機能的に等価のアミノ酸残基で配列内の残基を置換し、その結果サイレントな変化を生じた。変化された配列を含めた実質的に第1および7図に示すアミノ酸配列の全体または一部を含有するものを包含するがそれらに限定されない。」(本願明細書の第90頁第5〜12行)、「さらに、CNTF分子の完全な性質解明に基づいて、CNTFの生物学的機能の一部または全体のアゴニストまたはアンタゴニストとして作用することができるCNTFの新規ペプチドフラグメント、誘導体または突然変異体を開発することができる。」(本願明細書第107頁第13行〜17行)、「EcoRI制限エンドヌクレアーゼで消化したヒトゲノムDNAを厳格な条件下でサザンブロットハイブリッド形成させると、約10kbの単一のDNAフラグメントがラットCNTFプローブと弱い相同性を示すことが示された(第6図、パネルB)」(本願明細書第132頁第9〜13行、以下「記載B」という)という記載からもうかがえる。
ただし、本願発明1の範囲からは、先願明細書にヒトCNTFのアミノ酸配列として記載されている【化2】のポリペプチド、及び、同じく先願明細書にウサギCNTFのアミノ酸配列として記載されている【化3】のポリペプチドが除かれている。
したがって、本願発明1には、先願明細書に具体的にアミノ酸配列自体が記載されているCNTFは含まれていない。

(2)先願明細書に記載されている発明との対比
本件請求人は、平成13年6月5日付け提出の審判請求書の手続補正書において、先願明細書に記載されている【化2】及び【化3】のCNTFは本願発明1から除かれているから、本願発明1と先願明細書に記載の発明とは構成が異なる旨、主張している。
しかしながら、先願明細書に記載されている発明を認定するにあたっては、先願明細書に記載されているに等しい事項も勘案すべきものであり、また、特許法第29条の2における、本願発明と先願明細書に記載の発明との同一性の判断においては、両者に相違があっても、それが課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)である場合は実質的に同一なものとすべきである。
以下、そのような点を考慮しつつ、本願発明1と先願明細書に記載された発明を対比・検討する。

(2―1)先願の優先日当時、遺伝子改変技術やハイブリダイゼーション法が周知であった点からの検討
先願優先日当時、有効な作用を奏するポリペプチドをコードする遺伝子において、周知の「欠失・置換・付加」技術を用いて改変体を種々作成したり、周知のハイブリダイゼーション法を用いるなどして相同性の高い遺伝子を得、それらを発現させて、オリジナルのポリペプチドと同等の作用を有するポリペプチドを提供することは、当業者における周知慣用の技術であったと認められる。
そして、(イ)本願明細書の上記「記載B」に示された、「ラットCNTFプローブ」と「厳格な条件下」(「ストリンジェントな条件下」に該当)で「サザンブロットハイブリッド」(「ハイブリダイズ」に相当)させて得られるヒトゲノムDNAのセグメントからヒトCNTF遺伝子がクローニングされたことが本願明細書に開示されていること、及び、(ロ)実際のラットCNTF遺伝子の塩基配列と、ウサギCNTF及びヒトCNTF遺伝子の塩基配列とが高い配列相同性を有することを考慮すると、ウサギCNTFあるいはヒトCNTF遺伝子の欠失・置換・付加体や、ウサギCNTFあるいはヒトCNTF遺伝子とハイブリダイズする遺伝子の中には、本願発明1に含まれる、ラットCNTF遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子があるとするのが相当であるから、本願発明1には、上記先願明細書に記載の事項に、当業者における上記周知慣用技術が付加されたにすぎない発明も包含されている。

(2-2)先願明細書の記載からの検討
また、上記「記載A」にも示したとおり、先願明細書には、具体的に開示されているウサギ、ヒトのCNTF遺伝子のクローニング、その塩基配列、対応するアミノ酸配列を有するCNTFの提供のみならず、ウサギの上位概念にあたる「動物一般」のCNTF遺伝子の塩基配列、対応するアミノ酸配列を有するCNTFの提供も目的とすることが記載されており、さらに、当該明細書に開示のCNTFアミノ酸配列から得られるオリゴヌクレオチドプローブを利用することにより、「動物一般」のcDNAライブラリーやゲノムライブラリーをスクリーニングしてクローニングすることが目的であることが記載されている。
したがって、先願明細書において具体的に開示されている、ウサギCNTFのアミノ酸配列由来のオリゴヌクレオチドプローブを用いて為されたヒトCNTF遺伝子のクローニング手法を、ウサギ以外の「動物一般」のCNTF遺伝子のクローニングに適用することを目的とすることも、先願明細書には明確に記載されていたといえる。そして、先願明細書には「動物」の例として、ウサギ以外に「ラット」に坐骨神経由来のCNTFが存在することが開示されているのであるから、先願優先日当時の当業者のクローニングに関する周知または慣用の技術、すなわちラットの特定細胞に対するゲノムライブラリーやcDNAライブラリーの構築方法が周知であった点も考慮すると、上記先願明細書においてヒトCNTF遺伝子のクローニングに適用されている手法を、ラットCNTF遺伝子のクローニングに適用することも先願明細書には実質的に記載されていたと解することができる。
そして、先願明細書には、ウサギCNTF由来のオリゴヌクレオチドプローブから実際にヒトCNTF遺伝子がクローニングされたことが開示されており、ウサギCNTF遺伝子と本願明細書に記載されたラットCNTF遺伝子との塩基配列相同性が、ウサギCNTF遺伝子とヒトCNTF遺伝子との塩基配列相同性よりも高いことをふまえると、同じくウサギCNTF由来のプローブによりラットCNTF遺伝子、及び、ラットCNTF遺伝子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることのできる配列相同性を有する遺伝子についても、同様にして当然クローニングをすることができたと解される。

(2-3)効果の検討
本願発明1は、上記(1)に記載のとおり、実際にクローニングされた「ラットCNTF遺伝子」のみならず、実際に得ておらず、それ自体の配列を特定しない広範な遺伝子に対応する毛様体神経栄養因子の発明をも包含するものであり、かつ、本願発明1から除外された先願明細書に記載の遺伝子【化2】、【化3】と同様の性質を有するものも含まれると認められるから、そのような大きな概念の発明全体について新たな効果を奏するものとは認めることができない。

したがって、本願発明1は先願明細書に記載された発明と同一である。

(3)当審における審尋で示したその他の点
以上のとおり、本特許出願は、拒絶査定に記載した上記理由により拒絶すべきものであるが、平成15年2月5日付けの当審の審尋において示したとおり、本願発明1に含まれる「ラットCNTF」については、以下(A)及び(B)の理由からも拒絶されるべきものである点を、念のため付記する。
(A)ラットCNTFは、Brain Research, Vol.367(1986)P.282-286(文献1)の第283頁、The Journal of Cell Biology, Vol.108,No.5(1989 May)P.1807-1816(文献2)の第1808頁のNeurotrophic Factorsの項に記載されているとおり、既に十分に単離精製されていたものと認められる。
してみると、本願発明1に含まれるラットCNTFは、文献1又は2に記載されたものである。

(B)遺伝子工学の分野において、純度の高いタンパクが得られたときに、精製されたタンパクのN末端等のアミノ酸配列を決定し、そのタンパクのN末端のアミノ酸配列に対応する合成ヌクレオチドや、タンパクに対する抗体などを用いて、通常のクローニング方法により、そのタンパクを産生することが公知の細胞から作製したDNAライブラリーから、そのタンパクをコードするDNAを得ることは当業者が通常に行うことである。
したがって、文献1又は2において単離精製されたラットCNTFのN末端のアミノ酸配列を用い、そのタンパクを産生することがこれらの文献に記載されているとおり公知のラット坐骨神経細胞から、同タンパクをコードするDNAをクローニングすることは当業者が容易に為し得たことである。また、クローニングしたDNAを用いて、周知方法により組換えDNAベクターを作成し、それにより形質転換させた細胞を作成すること、また、その細胞にDNAに対応するポリペプチドを産生させることも当業者が通常に行うことである。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明を見ても、本願発明1に記載のポリペプチドが、文献1又は2に記載の事項及び当業者の技術常識から期待される程度を超えて優れた効果を奏するものとも認められない。
よって、これらの請求項に記載の発明は、文献1又は2に記載の事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。

そして、上記平成13年4月25日付け提出の手続補正書に対して、当審では上記(1)、(2-1)、(2-3)、(3)の点について審尋で回答を求めたが、本件請求人からは何の回答もなされなかった。

IV.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の本願発明について検討するまでもなく、本特許出願は特許法第49条の規定により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-06-04 
結審通知日 2003-06-05 
審決日 2003-06-23 
出願番号 特願平2-246008
審決分類 P 1 8・ 161- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 深草 亜子六笠 紀子  
特許庁審判長 種村 慈樹
特許庁審判官 田村 聖子
佐伯 裕子
発明の名称 毛様体神経栄養因子  
代理人 山本 秀策  
代理人 山本 秀策  

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