ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K |
---|---|
管理番号 | 1087618 |
審判番号 | 不服2002-9529 |
総通号数 | 49 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1998-10-20 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2002-05-27 |
確定日 | 2003-11-26 |
事件の表示 | 平成 9年特許願第339895号「N-置換複素環誘導体を含有する医薬組成物」拒絶査定に対する審判事件[平成10年10月20日出願公開、特開平10-279566]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成3年3月20日(パリ条約による優先権主張1990年3月20日、仏国、1990年8月8日、仏国)の出願である特願平3-506471号(以下、「原出願」という。)の一部を平成9年12月10日に新たな特許出願としたものであって、その請求項1乃至2に係る発明は、平成11年11月18日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 「【請求項1】有効成分として、2-n-ブチル-4-スピロシクロペンタン-1-[(2’-(テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル)メチル]-2-イミダゾリン-5-オンまたは酸及び塩基とのそれらの塩の少なくとも1種を含む、アンジオテンシンII拮抗剤。 【請求項2】利尿剤とともに含まれる、請求項1記載のアンジオテンシンII拮抗剤。」 2.原査定の理由 一方、原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1及び2に係る発明に対応する薬理試験結果について、発明の詳細な説明において、具体的にどの化合物がいかなる数値を示すかが明らかにされていないので、本願明細書の記載は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないというものである。 3.当審の判断 医薬についての用途発明においては、一般に、物質名、化学構造だけからその用途を予測することは困難であるから、出願時の技術常識及び出願当初の明細書に記載された作用の説明等からでは、含有成分がその医薬用途として機能することが推認できない場合には、明細書に有効量、投与方法、製剤化方法が記載されている場合であっても、それだけでは当業者は当該医薬が実際にその用途として使用できるか否かを知ることができないので、明細書に特定の薬理試験の結果である薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をして、その用途を裏付ける必要がある。 これを本願についてみると、出願当初の明細書には、一般式(I)(式は省略)で示される一連の化合物(請求項1乃至2に係る発明の有効成分として記載されている2-n-ブチル-4-スピロシクロペンタン-1-[(2’-(テトラゾール-5-イル)ビフェニル-4-イル)メチル]-2-イミダゾリン-5-オン(以下、「本願有効成分」という。)が包含されている。)について、包括的に、投与量、投与方法、製剤化方法が記載されているにとどまり、本願有効成分はもとより上記一連の化合物中の特定の化合物に対する具体的な薬理試験方法及び薬理データは一切記載されていない。そして、出願時の技術常識を考慮しても、本願有効成分がアンジオテンシンII拮抗剤として使用できる程度に本願明細書の発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。(なお、本願は分割出願であるので、「出願時」というときは、原出願時をいう。) 請求人は、平成11年11月18日付け意見書において、本願有効成分は、1989年に開発された非ペプチド性のアンジオテンシンII拮抗剤であるデュポン社のDUP-753およびその代謝物であるExp-3174と置換テトラゾールビフェニル環が同じ点で類似しており、本来アンジオテンシンII拮抗剤として開発されたものであるから、その構造から効果がある程度予測でき、出願時の技術常識から本願有効成分がアンジオテンシンII拮抗剤として機能することが推認できる、と主張している。しかしながら、当該意見書に添付された参考資料1(続医薬品の開発3巻、株式会社廣川書店発行、平成4年9月25日、第130及び131頁)には、DUP-753が1989年秋に発表されたこと、Exp-3174については、「最近、DUP-753そのものよりも体内で酸化された代謝物Exp-3174の方がAII拮抗作用が強いことがわかり、」と記載されているが、DUP-753及びExp-3174の構造のいかなる部分がアンジオテンシンII拮抗作用を発揮するために必要なのかについての記載はない(なお、Exp-3174については、参考資料1のみから原出願日前に公知であったと認めることもできない。)。そして、この点に関して、原出願の出願当初の明細書にも従来技術に関する記載が一切ないことから、出願時において、置換テトラゾールビフェニル環を有する化合物がアンジオテンシンIIに対する拮抗作用を有する、という技術常識があったとは認められないので、請求人のかかる主張は認められない。 また、請求人は、平成14年10月18日付け上申書において、原出願の出願当初の明細書(本願明細書の【0004】が対応)には、「この発明の化合物はアンジオテンシンIIに拮抗する非ペプチド化合物である。」と明記されており、上記一連の化合物がアンジオテンシンII拮抗剤として開発されたことを示しており、さらに、本願有効成分は、原出願の出願当初の明細書の請求項7に具体的に記載されている化合物であるから、アンジオテンシンII拮抗剤として優れていたことは明らかである、と主張している。しかしながら、アンジオテンシンII拮抗剤を目的として開発されたことと、開発された化合物がアンジオテンシンII拮抗剤としての所望の効果を奏するものか否かは別異の問題であり、特に、医薬についての用途発明については、通常、物質名、化学構造だけからその用途を予測することは困難であるから、明細書に特定の薬理試験の結果である薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載が求められることは上述したとおりであり、化合物名が具体的に記載されていれば足りるものではない。 さらに、請求人は、平成14年5月27日付け審判請求書において、薬理データについて、本願明細書の【0043】に具体的な数字の記載がある、と主張し、上記上申書において、「出願当初の明細書には薬理試験のデータとして、IC50は「10-6Mより小さい」とだけしか記載がありませんが、これは出願当初に記載されていた化合物全部についてのものであります。イルベサルタン(審決注:本願有効成分)は最も好ましい化合物として具体的に記載があったのであり、その値は10-9のオーダーで、これは「10-6Mより小さい」との要件を満たすものであります。」と主張している。しかしながら、本願明細書には、上記一連の化合物中の特定の化合物に対する具体的な薬理試験方法及び薬理データが一切記載されていない以上、単に、IC50の上限値のみを包括的に記載しただけでは、上記一連の化合物全部についての薬理データを記載したものとは認めることはできない。そうすると、本願有効成分のIC50が10-9Mオーダーで「10-6Mより小さい」との要件を満たしているという本願出願後に明らかにされた事実のみから、出願当初の明細書に本願有効成分の薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がされているものとすることはできない。 請求人は、上記意見書に実験結果記録書を添付して、本願有効成分のアンジオテンシンIIに対する拮抗作用を説明している。しかしながら、「当業者が請求項に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に、発明の詳細な説明が記載されている」とは、出願時の技術常識を前提にしているところ、出願時の技術常識を考慮しても、本願有効成分がアンジオテンシンII拮抗剤の有効成分として機能すると推認できる程度に本願明細書の発明の詳細な説明が記載されていないことは上述のとおりであるから、その後にその点が明らかにされたとしても、本願有効成分についてのアンジオテンシンII拮抗剤に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に、発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。 4.むすび したがって、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2003-06-24 |
結審通知日 | 2003-07-01 |
審決日 | 2003-07-16 |
出願番号 | 特願平9-339895 |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(A61K)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 星野 紹英、冨永 保、植原 克典 |
特許庁審判長 |
森田 ひとみ |
特許庁審判官 |
松浦 新司 小柳 正之 |
発明の名称 | N-置換複素環誘導体を含有する医薬組成物 |
代理人 | 田村 恭生 |
代理人 | 青山 葆 |
代理人 | 大角 美佐子 |