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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01H |
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管理番号 | 1087620 |
審判番号 | 不服2001-23518 |
総通号数 | 49 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1993-08-03 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2001-12-28 |
確定日 | 2003-11-26 |
事件の表示 | 平成 4年特許願第299122号「ハタケシメジの人工栽培方法」拒絶査定に対する審判事件[平成 5年 8月 3日出願公開、特開平 5-192055]について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、平成4年10月13日の出願(国内優先権主張平成3年10月14日)であって、その請求項1、2に係る発明は、平成15年8月27日付の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載されたとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は次のとおりのものである。 「ハタケシメジK-3303(FERMBP-4347)、ハタケシメジK-3304(FERMBP-4348)、及びハタケシメジK-3305(FERMBP-4349)から選択される菌株を必須の菌株として人工交配することにより得られる菌株である、ハタケシメジF-623(FERMP-13165)、ハタケシメジF-1154(FERMP-13166)、ハタケシメジF-1488(FERMP-13167)、及びこれらの変異株から選択される、IFO 30260菌株と比較した場合、菌床人工栽培で形状のより優れた子実体形成能を有すると共に、ハタケシメジK-3303(FERMBP-4347)、ハタケシメジK-3304(FERMBP-4348)、及びハタケシメジK-3305(FERMBP-4349)と比較して子実体の呈味性が向上したハタケシメジ菌株。」(以下、「本願発明」という。) 2.特許法第29条第2項の判断の基準日 国内優先権主張の元となる出願(特願平3-291957号)には、ハタケシメを人工交配することにより得られる菌株としてはF-585株についてのみ記載されており、本願発明の菌株である、ハタケシメジF-623(FERMP-13165)、ハタケシメジF-1154(FERMP-13166)、ハタケシメジF-1488(FERMP-13167)については記載されていない。 したがって、本願発明についての特許法第29条第2項の判断の基準日は実際の出願日である平成4年10月13日と認定した。 3.刊行物の記載事項 これに対して、当審の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物には、次の事項が記載されている。 (1)特開平4-211308号公報(以下、「刊行物1」という。)には、 「菌株の検討は、以下のごとく行った。PGY液体培地……100mlにハタケシメジ各菌株を接種して、25℃で10日間培養し液体種菌とした。ポリプロピレン製の広口培養ビン(850ml)に、腐葉土50g、鋸屑50g、米糠100gに水350gを加えて良く混合し、……固形培養基を調製した。これに上記の各液体種菌を20mlずつ接種し、……培養基に見掛け上菌糸がまわるまで培養し、更に30日間培養を続け熟成させた。次に、菌かきをして培養基の上部から約1cmほどの菌糸層を除いてから、水道水をビン口まで加えて3時間放置後排水し、照度20ルックス、温度15℃、湿度90%の条件下で子実体原基が形成されるまで培養を続けた。原基が形成された培養基は、次に照度500ルックス、温度15℃、湿度90%の条件下で成熟子実体が得られるまで培養を続け、ハタケシメジの各菌株における子実体収量、総栽培日数、子実体の形状について調べた。 その結果を表1に示す。」(段落【0007】)、 「表1で明らかなように、供試した菌株のうち、K-3303株、K-3304株、K-3305株の3株は、総栽培日数約90日と短かく、収量も約140g以上と多く、その栽培子実体も、傘色、柄色、形状等天然採取物と同等であり、特に優れた性状を示した。」(段落【0010】)と記載され、表1には、K-3303、K-3304、K-3305は、IFO 30260より子実体の形が優れていることが示されている。 これらの記載からみて、刊行物1には、「IFO 30260菌株と比較した場合、菌床人工栽培で形状のより優れた子実体形成能を有する菌株であるハタケシメジK-3303(FERMBP-4347)、ハタケシメジK-3304(FERMBP-4348)、及びハタケシメジK-3305(FERMBP-4349)」の発明が記載されていると認める。 (2)日本林学会関西支部第41回大会講演集 1990年 285〜287頁(以下、「刊行物2」という。)には、「ハタケシメジの栽培試験」について記載され、 「本試験では菌かき処理と菌かきをせず、覆土処理による収量の比較をしたが、明らかに菌かき処理の方が収量が多かった。また、覆土をすることにより、覆土した鹿沼土が子実体の内部に入り込むものがあり、ハタケシメジの発生には覆土処理の効果はないと思われる。」(286頁21〜24行)、 「本試験に供試した菌株は奈良県林試保存菌株NLO-003であるが、子実体の形質、特に柄の長さが短く、……貧相である。高価格で販売するには、均整のとれた美形の菌株を育成しなければならない。」(286頁下から3〜1行)と記載されている。 (3)特開昭63-273467号公報(以下、「刊行物3」という。)には、優れた子実体を形成するリオフイラム ウルマリウム(注:ブナシメジ)を人工交配により形成することが記載され、人工交配方法について次のように記載されている。 「野生株2株の交配は常法により以下のごとく行つた。 例えば、……リオフイラム ウルマリウムLu1-8の子実体のカサ部を柄より切り離し、……放置すると、胞子が落下する。滅菌水をシャーレに加えて胞子懸濁液を作り、……PGY寒天平板培地……に植菌し、25℃で7〜10日間培養する。該培地より発芽した一核菌糸を実体顕微鏡下で分離し、約50の一核菌糸を得た。同様に処理したリオフイラム ウルマリウムLu1-17より、約50の一核菌糸を得た。 両株の一核菌糸をPGY寒天平板の中央付近に約1cm離して播種し、25℃にて7日間培養後、コロニーの一部をとり、光学顕微鏡下で二核化を確認したものをPGY寒天斜面培地に分離した。このようにして、リオフイラム ウルマリウム……の交配株約100株を得た。該100株のうち、成長速度の早い20株を選択し、……発生した子実体より優良なものを5株選び、再度……子実体を得、最良なものとして1菌株を選び、リオフイラム ウルマリウムM-8171と命名した。」(4頁右上欄4行〜左下欄11行)。 4.対比、判断 刊行物1には、菌床人工栽培方法で、IFO 30260より優れた子実体が形成される菌株として、K-3303、K-3304及びK-3305が記載されている。 ところで、市場価値の優れた菌株を育成することは、刊行物2に記載されているように当然のことであり、食用であるハタケシメジを育成する際に、呈味性の優れた菌株を育成することも、自明の課題である。 そして、本願発明のハタケシメジが属する担子菌において、人工交配により交配親より優れた性質の菌株を育種することは、刊行物3に記載されているように周知であり、刊行物1記載の優れた子実体形成能を有するハタケシメジK-3303、K-3304、K-3305を用いて、より呈味性の優れたハタケシメジ新菌株を人工交配により作成しようとすることは当業者が容易に想到しうることである。 また、呈味性は、香り、味及び食感を総合して評価されるものであるが、香りや味に関与する成分、食感に関与する組織の密度等には、多数の因子(遺伝子)が関与しており、交配により育成された株において、呈味性にバラツキが生じ、交配親よりも呈味性の優れた子実体が発生することは予想されることであって、本願発明は、交配により育成された菌株の中から、K-3303、K-3304、K-3305と同等の優れた子実体形成能を有し、これらの交配親よりも呈味性の優れた菌株を選び出しただけのことであり、当業者が容易になしうるというべきである。 そして、本願発明の菌株の呈味性の向上の程度は、K-3303、K-3304、K-3305の呈味性又はこれらと交配した菌株の呈味性から予測される程度のことと認められる。 したがって、本願発明は、本願出願前に頒布された刊行物1記載の発明に、刊行物2、3記載の技術を適用して当業者が容易に発明をすることができたものである。 5.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2003-10-02 |
結審通知日 | 2003-10-03 |
審決日 | 2003-10-16 |
出願番号 | 特願平4-299122 |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A01H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉田 佳代子 |
特許庁審判長 |
村山 隆 |
特許庁審判官 |
渡部 葉子 山口 由木 |
発明の名称 | ハタケシメジの人工栽培方法 |
代理人 | 細田 芳徳 |