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審決分類 審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
審判 全部申し立て 5項1、2号及び6項 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
管理番号 1087955
異議申立番号 異議2002-72642  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1996-01-23 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-10-29 
確定日 2003-10-14 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3278532号「半導体装置の製造方法」の請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3278532号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯・本件発明
特許第3278532号の請求項1ないし2に係る発明についての出願は、平成6年7月8日に特許出願され、平成14年2月15日にその特許の設定登録がなされ、その後、富田洋司より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年4月22日に意見書が提出され、再度取消理由通知がなされ、その指定期間である平成15年8月21日に訂正請求がなされたものである。
たものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正事項
特許請求の範囲の請求項1及び2を、
「 【請求項1】 基板上に形成され、凹凸部を有する被研磨膜に、研磨粒子と表面活性剤を含む研磨剤を施す工程と、
前記被研磨膜の表面が平坦となるまで前記被研磨膜を研磨する工程と
を具備し、
前記被研磨膜は、SiO2、SiON、SiOF、ホウ素リン珪酸ガラス、およびリン珪酸ガラスからなる群より選ばれた1種からなり、前記研磨粒子は主成分としてCeO2を含み、前記表面活性剤は、COOH(カルボキシル基)およびCOOM1(M1はカルボキシル基の水素原子と置換して塩を形成し得る原子もしくは官能基)からなる群より選ばれた少なくとも1つの親水基を有する有機化合物であり、前記研磨剤は、前記被研磨膜の凸部の膜厚と凹部の膜厚との差が小さくなると、凸部及び凹部の研磨がともに実質的に進まなくなるように作用することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】 基板上に形成され、凹凸部を有する被研磨膜に、研磨粒子と表面活性剤を含む研磨剤を施す工程と、
前記被研磨膜の表面が平坦となるまで前記被研磨膜を研磨する工程と
を具備し、
前記被研磨膜は、SiO2、SiON、SiOF、ホウ素リン珪酸ガラス、およびリン珪酸ガラスからなる群より選ばれた1種からなり、前記表面活性剤は、COOH(カルボキシル基)およびCOOM1(M1はカルボキシル基の水素原子と置換して塩を形成し得る原子もしくは官能基)からなる群より選ばれた少なくとも1つの親水基を有する有機化合物であり、前記研磨剤は、前記被研磨膜の凸部の膜厚と凹部の膜厚との差が小さくなると、凸部及び凹部の研磨がともに実質的に進まなくなるように作用することを特徴とする半導体装置の製造方法。」と訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無および拡張・変更の存否
上記訂正は、特許請求の範囲の請求項1及び2において、
「前記研磨剤は、前記被研磨膜の凸部の膜厚と凹部の膜厚との差が小さくなると、凸部及び凹部の研磨がともに実質的に進まなくなるように作用する」事項を付加して限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、上記訂正は、特許明細書の段落【0030】及び図4の記載に基づくものであり、新規事項の追加に該当せず、かつ、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。
3 むすび
したがって、上記訂正は、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書及び第2項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
第3 特許異議の申立てについての判断
1.申立ての理由の概要
特許異議申立人富田洋司は、甲第1号証として審査段階で提出された平成13年7月9日付け意見書を、甲第2号証として米国特許第5,264,010号明細書およびその部分訳を、甲第3号証として特開平5-326469号公報を、甲第4号証として特開平4-291724号公報を提示して以下のように主張している。
(1)特許法第29条について
請求項1ないし2に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と同一であり、又は甲第2ないし4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし2に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであって、取り消すべきものである。
(2)特許法第36条について
甲第1号証である本件の審査段階で提出された平成13年7月9日付け意見書の記載「本願発明において、研磨剤に添加される表面活性剤は、通常、研磨粒子を溶媒中に均一に分散させるために用いられる分散剤としてではなく、ディッシングを防止するために用いられている。単に研磨粒子を溶媒中に均一に分散させるために用いるような少量ではディッシングを防止することはできない。」(第3頁第4〜7行)、及び「・・・また、表面活性剤の量については、本発明では、本願明細書段落番号【0028】に示すように、6.0重量%を用いる記載があるが、引用例1においては、50ppm即ち0.005重量%と極めて低い濃度で用いており、このように低濃度では、分散剤としては効果はあるが、本発明の効果を得ることは出来ないことが見出されている。」(第6頁第2〜6行)からみて、表面活性剤をデイッシング防止のため含有させるのであれば当然その含有量を規定すべきであり、また、それについて説明されるべきであって、このような点が明細書に全く記載されてないので、請求項1ないし2に係る特許は、特許法第36条第4項及び第5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、取り消すべきものである。
2.本件発明
本件特許の請求項1ないし2に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明2」という。)は、訂正明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された次のとおりのものと認める。
「 【請求項1】 基板上に形成され、凹凸部を有する被研磨膜に、研磨粒子と表面活性剤を含む研磨剤を施す工程と、
前記被研磨膜の表面が平坦となるまで前記被研磨膜を研磨する工程と
を具備し、
前記被研磨膜は、SiO2、SiON、SiOF、ホウ素リン珪酸ガラス、およびリン珪酸ガラスからなる群より選ばれた1種からなり、前記研磨粒子は主成分としてCeO2を含み、前記表面活性剤は、COOH(カルボキシル基)およびCOOM1(M1はカルボキシル基の水素原子と置換して塩を形成し得る原子もしくは官能基)からなる群より選ばれた少なくとも1つの親水基を有する有機化合物であり、前記研磨剤は、前記被研磨膜の凸部の膜厚と凹部の膜厚との差が小さくなると、凸部及び凹部の研磨がともに実質的に進まなくなるように作用することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】 基板上に形成され、凹凸部を有する被研磨膜に、研磨粒子と表面活性剤を含む研磨剤を施す工程と、
前記被研磨膜の表面が平坦となるまで前記被研磨膜を研磨する工程と
を具備し、
前記被研磨膜は、SiO2、SiON、SiOF、ホウ素リン珪酸ガラス、およびリン珪酸ガラスからなる群より選ばれた1種からなり、前記表面活性剤は、COOH(カルボキシル基)およびCOOM1(M1はカルボキシル基の水素原子と置換して塩を形成し得る原子もしくは官能基)からなる群より選ばれた少なくとも1つの親水基を有する有機化合物であり、前記研磨剤は、前記被研磨膜の凸部の膜厚と凹部の膜厚との差が小さくなると、凸部及び凹部の研磨がともに実質的に進まなくなるように作用することを特徴とする半導体装置の製造方法。」
3.特許法第29条違反について
(1)甲号証記載の発明
ア.甲第2号証:
a「本発明の研磨剤組成物は約30から約50、好ましくは約42.5から約48.0パーセントの酸化セリウムよりなる。この組成物で使用される酸化セリウムは約100〜2,000nm粒径、好ましくは約100〜500nmの粒径を有し、最も好ましくは約100〜300nmの粒径を有する。」(第3欄第46〜55行)
b「この研磨剤組成物と水に加えて、更に種々の活性剤あるいは活性剤化合物の混合物が含まれる。活性剤化合物は懸濁剤として作用し、本組成物の調製に寄与するものである。活性剤の添加は、本研磨組成物を含有する水性スラリーがチクソトロピックな組成物の形態をとるようにさせるものである。更に、活性剤化合物はポリッシュあるいは平坦化されるワークピース表面に「耐傷」効果を与えるものと思われ、よって、研磨剤に起因する表面欠点の広がりを減少するのである。
活性剤化合物は、水系スラリー中に、水系スラリーの重量に対して約0.01から2.0%、好ましくは約0.015から0.15%含まれる。適切な活性剤化合物には、当業者に公知な種々の非イオン、アニオン、カチオンまたは両性活性剤が含まれる。特別な用途に対する最適な活性剤の使用については、本願発明の開示に基づき、当業者にとっては明瞭なことである。しかしながら、オクチルフェニレンエチレンオキサイド、ノニルフェニルエチレンオキサイド、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェノールエーテル、ノニルフェノルポリエーテル、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレート、ポリ(オキシ-1,2エタンジイル)アルファ(-ノニルフェニル)オメガヒドロキシ、エトキシ化脂肪族エステル、カルボン酸の塩、ポリアミンアミド、アニオン性あるいはイオン性を持ったポリマーのアルキルアンモニウム塩、ポリカルボン酸、アクリル酸コポリマーおよびこれらの混合物を活性剤として用いることが好ましい。」(第4欄第66行〜第5欄30行)
c「本方法の用途としては種々のワークピースのポリッシングの用途が無限にあるが、本方法は半導体製造における、連結された集積回路のポリッシングおよび平坦化に好ましく使用される。本組成物は、溝、孔、谷に加えて様々なサイズ、形状と硬度を有する絶縁層を所定の平坦度にまで研磨するのに用いられる。非結晶シリカ等の絶縁層のポリッシングを行なったら、タングステン等の電導層が集積面の上に、例えばケミカルベーパーデポジション法により堆積される。この面は更に、所定の限度まで平坦化あるいはポリッシングされる。
このように、本組成物は、半導体ウエーハの複雑な異方性の複合面に、半導体技術に必要な著しく平坦で水平な表面を与えるために用いることができる。本組成物は、所定の平坦度を有する半導体ウエーハの表面ポリッシングに用いることができる。面の上にはワークピースの一部でも残ることなく、その下には欠陥のない電子構成部分が存在しなくてはならない。その表面は、ウエーハ中に有害な欠陥を実質的に引き起こすことのない平坦度にまで平坦化される。このように、本方法は、電子デバイス集積密度が相対的に少ないあるいは多い領域を持つ半導体ウエーハのポリッシングあるいは平坦化のために用いられ、そのワークピースの表面は複数のステップおよびステップ間の複数の段差を有するものである。」(第6欄第4〜35行)
以上の記載事項から、甲第2号証には、
「基板上に形成され、凹凸部を有する被研磨膜に、研磨剤組成物と活性剤化合物を含む研磨剤を施す工程と、
前記被研磨膜の表面が平坦となるまで前記被研磨膜を研磨する工程と
を具備し、
前記被研磨膜は、絶縁層や電導層であり、前記研磨剤組成物は酸化セリウムを含み、前記活性剤化合物は、公知な種々の数多くの非イオン、アニオン、カチオン又は両性活性剤が含まれ、好ましい活性剤の一つとしてカルボン酸塩や、ポリカルボン酸が含まれ、前記活性剤化合物は、懸濁剤として作用し、研磨剤組成物の調整に寄与するものであり、平坦化されるワークピース表面に耐傷効果を与えるものである半導体装置の製造方法。」の発明が記載されていると認める。
イ.甲第3号証:
a「【作用】本発明による半導体装置の製造方法であれば、絶縁膜、例えばシリコン酸化膜やシリコン窒化膜等を酸化セリウムを含む所定の研磨剤によって研磨するので、該絶縁膜を高速で研磨することができる。」(第2欄第47〜50行)
b 「図1(e)に示す如く、全面に層間絶縁膜として厚さ1μmのSiO2膜5を形成する。ここで、SiO2 膜5の表面にはポリシリコン配線3に対応して段差が生じた。」(第4欄第3〜6行)
c 「表2にシリコンを熱酸化した膜厚1μmのシリコン酸化膜およびリンとホウ素を高濃度に含む膜厚1μmのシリコン酸化膜(以下BPSGと呼ぶ)を平均粒径2.5μm、最大粒径12.0μmの酸化セリウムを含む粉体1wt%を水に懸濁させた研磨剤を用いて0.5μm研磨した後の、原子吸光法による不純物分析の結果を示す。」(第4欄第44〜50行)
ウ.甲第4号証:
a「【産業上の利用分野】本発明は、半導体の製造過程におけるシリコンウエハーの鏡面研摩時にヘイズを生成せしめない研摩方法に関する。」(第1欄第11〜13行)
b「ノニオン界面活性剤、又はスルホン酸塩型、硫酸エステル酸型、燐酸エステル塩型あるいはカルボン酸塩型アニオン界面活性剤を、シリコンウエハー研摩時に、アルカリ性コロイダルシリカ又は水に分散させたパウダーシリカ研摩液と供流することによってヘイズの発生しないシリコンウエハーが得られる」(第2欄第22〜27行)
c「本発明で使用できるアニオン界面活性剤としては、スルホン酸型、硫酸エステル型、カルボン酸塩型、燐酸エステル塩型である。・・・界面活性剤の共流時のポリッシャー上での濃度は、アルカリ性コロイダルシリカ又は水に分散させたパウダー状シリカのシリカ固形分に対して上記各種界面活性剤の有効成分総量で10ppm〜1重量%水溶液が良い。」(第3欄第16〜37行)
(2)対比・判断
ア.本件発明1について
本件発明1と甲第2号証ないし甲第4号証に記載の発明とを対比すると、
甲第2号証に記載の発明は、被研磨膜が絶縁層や電導層であって、その材質が特定されてなく、表面活性剤(活性剤化合物)についても、活性剤の一つとしてカルボン酸塩や、ポリカルボン酸が含まれているとしても、表面活性剤は、懸濁剤として作用して研磨剤組成物の調整に寄与するものであって、平坦化されるワークピース表面に耐傷効果を与えるものであるにすぎず、結局、シリコン酸化膜系の被研磨膜とカルボン酸型表面活性剤との組み合わせによる特異的相互作用としてのディッシング防止作用については開示されていない。
甲第3号証に記載の発明は、凹凸面を有するシリコン酸化膜やシリコン窒化膜等の被研磨膜を、酸化セリウムを含む研磨剤により高速で研磨するものであって、研磨剤に表面活性剤が含まれていることについては不明である。
甲第4号証に記載の発明は、シリコンウエハーをシリカを含む研磨液で研磨する際に、界面活性剤を供流することにより、シリコンウエーハ表面のヘイズを防止しようとするものであって、表面活性剤(界面活性剤)であるアニオン界面活性剤の一つとしてカルボン酸塩型等のものが含まれているとしても、凹凸面を有する被研磨膜を研磨するものでなく、また、シリコンウエハー研磨時に、研磨液に表面活性剤を供流するものであって、表面活性剤を用いることの技術的意義が本件発明1とは異なるものである。
したがって、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明は本件発明1と一部共通する事項が認められるものの、いずれも、本件発明1の構成要件である、
「凹凸部を有する被研磨膜に、研磨粒子と表面活性剤を含む研磨剤を施して前記被研磨膜の表面が平坦となるまで研磨する行程を具備し、被研磨膜は、SiO2、SiON、SiOF、ホウ素リン珪酸ガラス、およびリン珪酸ガラスからなる群より選ばれた1種からなり、表面活性剤は、COOH(カルボキシル基)およびCOOM1(M1はカルボキシル基の水素原子と置換して塩を形成し得る原子もしくは官能基)からなる群より選ばれた少なくとも1つの親水基を有する有機化合物であり、研磨剤は、前記被研磨膜の凸部の膜厚と凹部の膜厚との差が小さくなると、凸部及び凹部の研磨がともに実質的に進まなくなるように作用すること」を備えておらず、当該構成要件により、本件発明1は、特定のシリコン酸化膜系の被研磨膜の凹凸面を、特定のカルボン酸型表面活性剤と研磨粒子を含む研磨剤により研磨した場合、凹部にも研磨が進行して被研磨膜の中央部が凹むというディッシングを効果的に防止することができるという効果を奏するものであり、本件発明1が甲第2号証に記載の発明であるとすることはできないばかりか、甲第2号証ないし甲第4号証に記載の発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ.本件発明2について
本件発明2と甲第2号証ないし甲第4号証に記載の発明とを対比すると、本件発明2は、本件発明1の構成要件である「研磨粒子は主成分としてCeO2を含み」を除いたものであるから、上記の本件発明1との対比と同様に、甲第2号証ないし甲第4号証に記載された発明は本件発明2と一部共通する事項が認められるものの、いずれも、本件発明2の構成要件である、
「凹凸部を有する被研磨膜に、研磨粒子と表面活性剤を含む研磨剤を施して前記被研磨膜の表面が平坦となるまで研磨する行程を具備し、被研磨膜は、SiO2、SiON、SiOF、ホウ素リン珪酸ガラス、およびリン珪酸ガラスからなる群より選ばれた1種からなり、表面活性剤は、COOH(カルボキシル基)およびCOOM1(M1はカルボキシル基の水素原子と置換して塩を形成し得る原子もしくは官能基)からなる群より選ばれた少なくとも1つの親水基を有する有機化合物であり、研磨剤は、前記被研磨膜の凸部の膜厚と凹部の膜厚との差が小さくなると、凸部及び凹部の研磨がともに実質的に進まなくなるように作用すること」を備えておらず、当該構成要件により、本件発明2は、凹凸部を有する被研磨膜を研磨した場合、凹部にも研磨が進行して被研磨膜の中央部が凹むというディッシングを効果的に防止することができるという効果を奏するものであり、本件発明2が甲第2号証に記載の発明であるとすることはできないばかりか、甲第2号証ないし甲第4号証に記載の各発明から容易に発明をすることができたものとはいえない。
4.特許法第36条違反について
上記訂正請求により、研磨粒子と表面活性剤を含む研磨剤について、「被研磨膜の凸部の膜厚と凹部の膜厚との差が小さくなると、凸部及び凹部の研磨がともに実質的に進まなくなるように作用する」ことが特定された。そして、本件各発明は、被研磨膜である酸化シリコン系材料と、研磨剤に含まれるカルボン酸又はその塩との相互作用による特異現象の知見に基づくものであって、必ずしも研磨剤の成分の量的関係を発明の本質とするものでなく、技術思想として完成していると認められるので、特許異議申立人の主張は採用することができない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件の請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない、
また、他に本件発明1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
半導体装置の製造方法
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 基板上に形成され、凹凸部を有する被研磨膜に、研磨粒子と表面活性剤を含む研磨剤を施す工程と、
前記被研磨膜の表面が平坦となるまで前記被研磨膜を研磨する工程と
を具備し、
前記被研磨膜は、SiO2、SiON、SiOF、ホウ素リン珪酸ガラス、およびリン珪酸ガラスからなる群より選ばれた1種からなり、前記研磨粒子は主成分としてCeO2を含み、前記表面活性剤は、COOH(カルボキシル基)およびCOOM1(M1はカルボキシル基の水素原子と置換して塩を形成し得る原子もしくは官能基)からなる群より選ばれた少なくとも1つの親水基を有する有機化合物であり、前記研磨剤は、前記被研磨膜の凸部の膜厚と凹部の膜厚との差が小さくなると、凸部及び凹部の研磨がともに実質的に進まなくなるように作用することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】 基板上に形成され、凹凸部を有する被研磨膜に、研磨粒子と表面活性剤を含む研磨剤を施す工程と、
前記被研磨膜の表面が平坦となるまで前記被研磨膜を研磨する工程と
を具備し、
前記被研磨膜は、SiO2、SiON、SiOF、ホウ素リン珪酸ガラス、およびリン珪酸ガラスからなる群より選ばれた1種からなり、前記表面活性剤は、COOH(カルボキシル基)およびCOOM1(M1はカルボキシル基の水素原子と置換して塩を形成し得る原子もしくは官能基)からなる群より選ばれた少なくとも1つの親水基を有する有機化合物であり、前記研磨剤は、前記被研磨膜の凸部の膜厚と凹部の膜厚との差が小さくなると、凸部及び凹部の研磨がともに実質的に進まなくなるように作用することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、半導体装置の製造方法に係り、基板表面の平坦化工程、特に、層間絶縁膜の平坦化工程、埋め込み金属配線の形成工程、埋め込み素子分離膜の形成工程、または埋め込みキャパシタ形成工程等において使用される研磨方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在の超々大規模集積回路では、トランジスタおよび他の半導体素子を縮小して実装密度を高める傾向にある。このため、種々の微細加工技術が研究・開発されており、既にデザインルールにおいては、サブハーフミクロンのオーダーとなっている。
【0003】
そのような厳しい微細化の要求を満たすために開発されている技術の一つにCMP(ケミカルメカニカルポリッシング)技術がある。この技術は、半導体装置の製造工程において、例えば層間絶縁膜の平坦化、プラグ形成、埋め込み金属配線形成、埋め込み素子分離、埋め込みキャパシタ形成等を行う際に必須となる技術である。
【0004】
図16(A)〜(E)は、CMP技術を用いた層間絶縁膜の平坦化工程を示す断面図である。まず、図16(A)に示すように、凸部の割合が基板全体の50%であるシリコン基板1上に絶縁膜としてシリコン酸化膜2を形成し、シリコン酸化膜2上に通常のフォトリソグラフィー法およびエッチング法により、幅0.3μm、高さ0.4μmの第1のAl配線3を形成する。次いで、図16(B)に示すように、プラズマCVD法により、厚さ1.3μmのシリコン酸化膜4を形成した後、これにポリッシング処理を施してシリコン酸化膜4の平坦化を行う。このときの断面形状の変化を図16(C)〜(E)に示す。図16(C)は理想的な位置でポリッシング処理が終了した場合の断面形状を示し、図16(D)および(E)は過剰にポリッシング処理が施された場合の断面形状を示す。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来のポリッシング技術では、ポリッシング速度が経時的に変化するため、ポリッシング処理を図16(C)に示すような理想的な位置で停止することが非常に困難である。また、Al配線間のスペースが広い、すなわちシリコン酸化膜4が幅広の場合には、シリコン酸化膜の中央部が優先的にポリッシングされてしまい、いわゆるディッシングが発生してしまう。
【0006】
また、図16(D)に示すように過剰にポリッシングされたときには、シリコン酸化膜4上に形成した第2のAl配線(図示せず)と第1のAl配線3との間の耐圧が劣化する。さらに、図16(E)に示すように過剰にポリッシングされたときには、第1のAl配線3の断線が生じてしまうことがある。
【0007】
このような問題を解決するために、図17に示すように、幅広いシリコン酸化膜4上に、被研磨物(ここではシリコン酸化膜)より研磨速度が遅い物質、例えばSi3N4等からなる耐研磨膜5を形成する方法が提案されている(特開平5-315308号公報)。しかしながら、この方法では、選択比(Si3N4膜の研磨速度/シリコン酸化膜の研磨速度)が大きくとれないという問題があり、さらに耐研磨膜5の形成・除去等の工程が増えるという問題がある。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、ディッシングを発生させることなく、所望の凸状部のみを効率よく研磨することができる研磨方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、被研磨膜と相互作用が非常に強い有機化合物を研磨液に加えることにより、研磨中における被研磨膜の凹部表面と研磨布の表面との間の平均的な間隔が研磨粒子の平均粒径より広くなり、あるいは研磨中における被研磨膜と研磨液との間の摩擦係数が研磨布と研磨液との間の摩擦係数よりも大きくなり、これにより凹凸を有する被研磨膜の凸状部だけが優先的にポリッシングされ、表面が平坦になるとポリッシング速度が遅くなることを見出だし本発明をするに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の態様は、基板上に表面に凹凸部を有する被研磨膜を形成する工程と、前記被研磨膜を有する基板を研磨定盤の研磨布に押圧し、研磨粒子を含む研磨液を前記被研磨膜と前記研磨布との間に供給しながら、前記基板と前記研磨定盤を相対的に動かして前記被研磨膜を研磨する工程とを具備し、研磨中における前記被研磨膜の凹部表面と前記研磨布の表面との間の平均的な間隔を前記研磨粒子の平均粒径より広く設定することを特徴とする研磨方法である。
【0011】
また、本発明の第2の態様は、基板上に表面に凹凸部を有する被研磨膜を形成する工程と、前記被研磨膜を有する基板を研磨定盤の研磨布に押圧し、研磨粒子を含む研磨液を前記被研磨膜と前記研磨布との間に供給しながら、前記基板と前記研磨定盤を相対的に動かして前記被研磨膜を研磨する工程とを具備し、研磨中における前記被研磨膜と前記研磨液との間の摩擦係数が前記研磨布と前記研磨液との間の摩擦係数よりも大きくなるようにすることを特徴とする研磨方法である。
【0012】
また、本発明の第3の態様は、基板上に表面に凹凸部を有する被研磨膜を形成する工程と、前記被研磨膜を有する基板を研磨定盤の研磨布に押圧し、研磨粒子を含む研磨液を前記被研磨膜と前記研磨布との間に供給しながら、前記基板と前記研磨定盤を相対的に動かして前記被研磨膜を研磨する工程とを具備し、前記研磨液に、COOH(カルボキシル基)、COOM1(M1はカルボキシル基の水素原子と置換して塩を形成し得る原子もしくは官能基)、SO3H(スルホ基)、およびSO3M2(M2はスルホ基の水素原子と置換して塩を形成し得る原子もしくは官能基)からなる群より選ばれた少なくとも1つの親水基を有する分子量100以上の有機化合物を添加することを特徴とする研磨方法である。
【0013】
また、本発明の第4の態様は、基板上に表面に凹凸部を有する被研磨膜を形成する工程と、前記被研磨膜を有する基板を研磨定盤の研磨布に押圧し、研磨粒子を含む研磨液を前記被研磨膜と前記研磨布との間に供給しながら、前記基板と前記研磨定盤を相対的に動かして前記被研磨膜を研磨する工程とを具備し、供給する研磨液の粘度を研磨中に変化させることを特徴とする研磨方法である。
【0014】
ここで、第1〜第4の態様において、基板の材料としては、シリコン、石英、サファイア、Al2O3、III-V族化合物等を用いることができる。被研磨膜としては、SiO2、α-Si、poly-Si、SiON、SiOF、BPSG(Boro-Phospho-Silicate Glass)、PSG(Phospho-Silicate Glass)、SiN、Si3N4、Si、Al、W、Ag、Cu、Ti、TiN、Au、Pt等を主として含む膜を用いることができる。
【0015】
研磨粒子としては、SiO2、CeO2、Al2O3、Fe2O3、SiC、SiN、ZrO2、TiO2等を主成分とするものを用いることができ、この研磨粒子を純水等の分散媒に分散させることにより研磨液が構成される。研磨粒子の平均粒径は、0.01〜5.0μmであることが好ましい。これは、研磨粒子の平均粒径が0.01μm未満であるとポリッシング速度が低くなりすぎ、5.0μmを超えると被研磨膜の傷の原因となるからである。
【0016】
研磨布としては通常使用されているものを用いることができる。また、研磨の際の押圧力や供給量、基板と研磨定盤の相対回転速度については通常の条件を採用することができる。
【0017】
第1の態様において、研磨中における被研磨膜の凹部表面と研磨布の表面との間の平均的な間隔が研磨粒子の平均粒径より広くなるとは、凹部または平坦な被研磨膜を研磨したときの研磨速度がほぼ飽和している状態を意味する。具体的には、図5において低粘度側からの接線と高粘度側からの接線との交点、すなわち粘度2.6cP以上のことである。その交点付近でなだらかに変化しているのは、粒径にバラツキがあるからである。
【0018】
第2の態様において、研磨中における被研磨膜と研磨液との間の摩擦係数を研磨布と研磨液との間の摩擦係数よりも大きくなるとは、研磨布を備えた研磨定盤にかかるトルクが飽和している状態を意味する。
【0019】
第3の態様において研磨液に添加する有機化合物としては、高分子ポリカルボン酸アンモニウム塩または高分子ポリスルホン酸アンモニウム塩であることが好ましい。また、これらの有機化合物に含まれる親水基としては、-COOH(カルボキシル基)、-COOM(M:カルボキシル基の水素原子と置換して塩を形成し得る原子もしくは官能基、例えば-Na,-NH4)、-SO3H(スルホ基)、-SO3M(M:スルホ基の水素原子と置換して塩を形成し得る原子、例えば-Na,-NH4)等を挙げることができる。特に、これらの親水基のうち、-COOM、-SO3H、-SO3Mが水に良く溶解するので好ましい。また、これらの有機化合物の分子量は100以上であることが好ましい。これは、有機化合物の分子量が100未満であると後述する停滞層を形成しづらくなるからである。なお、研磨液に添加する上記有機化合物の量は、研磨液の粘度が2.6〜4.5cPとなるように適宜設定することが好ましい。
【0020】
第4の態様において、供給する研磨液の粘度を調整する方法としては、異なる粘度の研磨液を収容した2つ以上の研磨液供給タンクを用い、それぞれの研磨液供給タンクからの供給を切り換える方法等を用いることができる。
【0021】
なお、本発明の第1〜第4の態様においては、被研磨膜に加わる荷重、すなわち基板を研磨定盤に押し付ける圧力(押圧力)、研磨液に含まれる研磨粒子の粒径、研磨粒子を分散させた研磨液の粘度、および基板と研磨定盤の回転数を適宜設定して上記第1〜第4の態様の要件を満足するようにしてもよい。ここで、基板の回転数の調整は、真空チャックホルダ等を基板支持に用いる場合、該ホルダの回転数を調整することにより行う。
【0022】
【作用】
本発明の研磨方法においては、被研磨膜と相互作用が強い有機化合物、例えば、カルボキシル基やスルホ基等の親水基を有する分子量100以上の有機化合物を研磨液に添加することにより、被研磨膜の凹部表面において停滞層が形成され、研磨中における被研磨膜の凹部表面と研磨布の表面との間の平均的な間隔が研磨粒子の平均粒径より広くなる。
【0023】
このため、研磨においては、被研磨膜の凹部のポリッシングに有効に作用する研磨粒子の数が見掛け上少なくなるので、被研磨膜の凸部が優先的にポリッシングされ、さらに、被研磨膜の表面が平坦になるにしたがってポリッシング速度が遅くなる。したがって、ディッシングの発生を防止しながら、研磨終点でポリッシングを停止することができ、すなわちポリッシング膜厚を制御することができ、凸部のみを除去して被研磨膜の表面を平坦にすることができる。
【0024】
また、本発明の研磨方法においては、研磨中における被研磨膜と研磨液との間の摩擦係数を研磨布と研磨液との間の摩擦係数よりも大きくすることによっても、上記の如くポリッシングの制御を行うことができ、精度良く被研磨膜表面の平坦化を行うことができる。
【0025】
さらに、本発明の研磨方法においては、被研磨膜と相互作用が強い上記有機化合物を添加することにより、供給する研磨液の粘度を調整することができる。したがって、研磨中にポリッシング速度を変化させることもでき、研磨の制御性が向上する。例えば、研磨の途中で研磨液に上記した有機化合物を添加することにより、研磨の途中までポリッシング速度を大きくすると共に、研磨の最終段階で被研磨膜の表面平滑度を向上させることができる。
【0026】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面を参照して具体的に説明する。
(実施例1)まず、図1(A)に示すように、凸部の割合が基板全体の50%であるシリコン基板11上に絶縁膜としてシリコン酸化膜12を形成し、シリコン酸化膜12上に通常のフォトリソグラフィー法およびエッチング法により、幅0.3μm、高さ0.4μmのAl配線13を形成する。次いで、図1(B)に示すように、プラズマCVD法により、厚さ1.3μmのシリコン酸化膜14を形成して試料20を作製した。なお、図中15は凸部を示し、16は凹部を示す。
【0027】
次いで、この試料20に図2に示す研磨装置を用いてCMPを施して層間絶縁膜の平坦化を行った。この装置は、回転可能な研磨定盤21と、研磨定盤21上に貼付された研磨クロス22と、研磨定盤21の上方に配置されており、回転可能な真空チャックホルダ23と、研磨液タンクに接続され、吐出部が研磨クロス22近傍まで延出した研磨液供給用配管24とから構成されている。試料20は、研磨クロス22に被研磨面が対向するように真空チャックホルダ23に真空チャックされる。また、研磨液供給用配管24は、研磨液の供給量を制御する手段を備えている。なお、研磨クロス22には、樹脂含浸不織布からなる厚さ1.2mm、硬度85のものを用いた。
【0028】
CMPにおいて、研磨液としては、平均粒径0.6μmの酸化セリウム粒子を、純水に1.0重量%の割合で分散させ、これにポリカルボン酸アンモニウム塩6.0重量%を加え、オストワルド計で粘度を測定して3.0cPに粘度調整を行ったものを用いた。また、研磨条件は、研磨圧力300gf/cm2、研磨定盤および真空チャックホルダの回転数100rpmとした(以後、この条件をポリッシングの標準条件という)。なお、試料20が研磨クロス22に当接するときの圧力は、圧縮空気により任意に制御できるようになっている。
【0029】
本発明の研磨方法を用いて試料20をポリッシングした場合の断面形状の経時変化を図3(A)〜(C)に示す。図3(A)は、60秒ポリッシング処理を施した後の断面形状、図3(B)は、120秒ポリッシング処理を施した後の断面形状を示す。図3(B)に示すように、凸部がポリッシングされて平坦な表面が得られた後は、図3(C)に示すように、ポリッシングがほとんど進行せず、常に理想的な断面形状が得られる。また、図3(C)から分かるように、ディッシングも大幅に抑制される。
【0030】
この場合の凸部と凹部の残り膜厚の経時変化を図4に示す。図4には比較のために、平均粒径0.6μmの酸化セリウム粒子を、純水に1.0重量%の割合で分散させてなる粘度1.0cPの研磨剤を用いて標準条件でCMPを行った結果を併記した。図4から分かるように、本発明の研磨方法によれば、凸部15の膜厚と凹部16の膜厚との間の差が小さくなる(図中の円部)と、凸部15および凹部16のポリッシングが共に進まなくなる。このため、理想的な残り膜厚でポリッシングを停止することが可能になり、さらにディッシングを抑制することができる。これは、ポリカルボン酸アンモニウム塩が研磨液に添加されていることにより、研磨中におけるシリコン酸化膜の主面と研磨クロスの主面との間の平均的な間隔が酸化セリウム粒子の平均粒径(0.6μm)より広くなる、もしくは研磨中におけるシリコン酸化膜と研磨液との間の摩擦係数が研磨クロスと研磨液との間の摩擦係数よりも大きくなることに起因すると考えられる。すなわち、シリコン酸化膜の主面と研磨クロスの主面との間の平均的な間隔が広がると、酸化セリウム粒子がシリコン酸化膜面に作用しにくくなり、このため、研磨液粘度に反比例して徐々にポリッシング速度が低下する。そして、上記間隔がある一定以上に広がると、ポリッシング速度は飽和する。この状態でポリッシングを行うと、酸化セリウム粒子が凸部に優先的に作用し、凹凸が緩和された後は作用しなくなり、膜厚の制御性が良くディッシングが抑制されると考えられる。
【0031】
これに対して、従来の研磨方法によれば、凸部15の膜厚と凹部16の膜厚との間の差が小さくなっても、凸部15および凹部16のポリッシングが進行してしまう。
【0032】
次に、研磨液に添加したポリカルボン酸アンモニウム塩の効果を調べるために、ポリカルボン酸アンモニウム塩の添加量を調整して粘度を変えた研磨液を用いて図1(B)に示す試料20に標準条件でCMP処理を施した。この結果を図5および図6に示す。
【0033】
図5は、凸部15および凹部16のポリッシング速度と研磨液粘度との関係を示すグラフである。図5から分かるように、ポリカルボン酸アンモニウム塩の添加量が増加するにつれてポリッシング速度が減少する。具体的には、凹部16のポリッシング速度は2.6cP以上で飽和し、凸部15のポリッシング速度は2.0cP付近で急速に減少し、5.0cP以上で飽和する。
【0034】
図6は、CMP処理後の膜における面内均一性および面内最大段差と研磨液粘度との関係を示すグラフである。図6から分かるように、粘度が1.5〜4.5cPの範囲では、面内の均一性が良く、かつ面内のばらつきも小さく、理想的な断面形状が得られた。
【0035】
したがって、ポリカルボン酸アンモニウム塩を研磨液に添加して粘度を高くすることにより、凸部15および凹部16をポリッシングする選択比が大きくなり、凸部15のみを優先的にポリッシングすることができ、粘度が1.4〜4.5cPにおいて面内均一性が向上する。しかも、粘度が2.6〜4.5においては、表面が平坦になったときにポリッシングが進行しなくなるので、研磨終点で制御性良くポリッシングを停止させることができる。
【0036】
次に、研磨液に添加したポリカルボン酸アンモニウム塩の効果をさらに詳しく調べるために、ポリカルボン酸アンモニウム塩、エタノールまたは分子量20000〜30000のポリビニルアルコールを添加してなる研磨液を用いて図1(B)に示す試料20に標準条件でCMP処理を施した。その結果を図7に示す。図7は、凹部16のポリッシング速度と研磨液粘度との関係を示すグラフである。図7から分かるように、ポリカルボン酸アンモニウム塩を添加した研磨液を用いた場合は、上述したように2.0cP付近でポリッシング速度は飽和する。ポリカルボン酸アンモニウム塩を添加した研磨液が図7に示すような特性を示すので、凸部15のみを優先的にポリッシングし、表面が平坦になったときにポリッシングが進行しなくなると考えられる。これに対して、エタノールまたはポリビニルアルコールを添加した研磨液を用いた場合は、粘度が高くなるにしたがってポリッシング速度が減少する直線となる。
【0037】
次に、ポリカルボン酸アンモニウム塩の添加と研磨液粘度との関係を回転粘度計およびオストワルド計により調べ、その結果を図8に示す。図8から分かるように、ポリカルボン酸アンモニウム塩が増加すると、研磨液粘度が直線的に増加する。したがって、ポリカルボン酸アンモニウム塩が添加された研磨液は、ニュートン粘性流体であることが分かる。なお、回転粘度計により測定された値は、オストワルド計により測定された値より小さい。これは、研磨剤のガラスとの間の相互作用が大きいために、見掛けの粘度が大きくなったからである。
【0038】
次に、上述した結果から推察される本発明の研磨方法の作用について説明する。図9(A)は、本発明の研磨方法により図1(B)に示す試料20にCMP処理を施した場合を示す断面図である。図9(A)から分かるように、所定量のポリカルボン酸アンモニウム塩が添加されている研磨液をCMP処理に使用すると、研磨液の粘性によりシリコン酸化膜14の主面と研磨クロス22との間の間隔が広がる。このとき、凸部15では、研磨粒子31によりポリッシングが進行する。一方、凹部16では、シリコン酸化膜14の主面と研磨クロス22との間の間隔が研磨粒子31の平均粒径よりも広くなり、研磨粒子31を包含する研磨液32からなる停滞層33が形成される。このため、凹部16のポリッシングに有効に作用する研磨粒子の数が見掛け上少なくなる。これにより、凸部15が優先的にポリッシングされ、シリコン酸化膜14の表面が平坦になったときにポリッシングが進行しなくなる。
【0039】
これに対して、図9(B)は、エタノールまたはポリビニルアルコールを添加した研磨液を用いて図1(B)に示す試料20にCMP処理を施した場合を示す断面図である。図9(B)から分かるように、研磨液の粘性によりシリコン酸化膜14の主面と研磨クロス22との間の間隔が広がるが、凹部16には停滞層は形成されない。このため、研磨粒子31は、凸部15および凹部16に同じように作用する。したがって、凸部15と凹部16との間でポリッシングの選択比を取ることが困難となる。この場合、凹部16に作用する研磨粒子の数を減少させるためには、研磨液の粘度をさらに高くすればよいが、凸部15をポリッシングする速度まで遅くなるので好ましくない。
【0040】
次に、表面が平坦になった後にポリッシングが進行しなくなる現象をさらに詳しく検討した。ここでは、使用する研磨粒子の粒径または研磨圧力を変化させたときの研磨液粘度の変化について調べた。試料には、図10に示すように、シリコン基板41上にプラズマCVD法により厚さ1μmのシリコン酸化膜42を形成したもの、すなわち平坦な表面を有するものを用いた。
【0041】
まず、研磨粒子の粒径を変えたときの研磨液粘度とポリッシング速度との関係を調べた。その結果を図11に示す。なお、研磨液としては、平均粒径が2.0μmの酸化セリウム粒子を純水に1.0重量%の割合で分散させてなるものを使用した。また、研磨条件は上記標準条件を採用し、被研磨膜には図1(B)に示す試料20を用いた。図11から分かるように、表面が平坦になった後にポリッシングがほとんど進行しなくなる現象が生じるグラフ上の領域(以下、特異領域という)は、平均粒径が0.6μmの酸化セリウム粒子を用いた場合に比べて高粘度側にシフトしている。
【0042】
次に、研磨圧力を変化させたときの研磨液粘度とポリッシング速度との関係を調べた。その結果を図12に示す。なお、研磨液としては、平均粒径が0.6μmの酸化セリウム粒子を純水に1.0重量%の割合で分散させてなるものを使用した。また、研磨条件は研磨圧力以外は上記標準条件と同様とし、被研磨膜には図1(B)に示す試料20を用いた。図12から分かるように、特異領域は、研磨圧力が高くなるにしたがい高粘度側にシフトした。
【0043】
このように、特異領域は、研磨粒子の粒径および研磨圧力に依存して変化することが分かった。なお、本実施例において得られた効果は、ポリカルボン酸アンモニウム塩の分子量が100以上、より好ましくは500以上である場合において同様に得られた。また、その分子量が3000以下である場合に一層効果を発揮した。
(実施例2)次に、本発明の研磨方法を埋め込み金属配線の形成に適用した場合について説明する。まず、図13(A)に示すように、シリコン基板51上に絶縁膜としてシリコン酸化膜52を形成し、このシリコン酸化膜52表面に幅0.4〜10μm、深さ0.4μmの配線用の溝を形成し、その上にスパッタリング法により厚さ0.6μmの多結晶のAl膜53を形成した後、熱処理を施してAlを溝に埋め込んで試料60を作製した。
【0044】
次いで、この試料60に図2に示す研磨装置を用いてCMPを施して埋め込み金属配線を形成した。CMPにおいて、研磨液としては、平均粒径0.05μmのシリカ粒子を、純水に1.0重量%の割合で分散させて粘度2.1cPのコロイド状としたものを用いた。また、研磨条件は、実施例1の標準条件を採用した。
【0045】
図13(B)に示す断面形状が得られるまでポリッシングを行い、その後研磨液にポリカルボン酸アンモニウム塩を6重量%の割合で加えて研磨液粘度を4.0cPに調整し、その他は同じ条件で再びポリッシングを行った。このようなポリッシングを行うことにより、図13(C)に示すように、ディッシングが生じることなく表面が平坦な埋め込み金属配線を形成することができた。
【0046】
このように、従来の研磨方法を用いた場合には、たとえ理想的なポイントでポリッシングを停止したとしても、図13(D)に示すように、幅広い金属配線部でAl膜53のディッシングが発生するが、本発明の研磨方法によれば、段差が小さい、あるいは幅広い金属配線部においてもポリッシング速度が低下せず、しかもディッシングが大幅に抑制される。
(実施例3)次に、本発明の研磨方法をコンタクト形成に適用した場合について説明する。まず、図14(A)に示すように、シリコン基板71上に絶縁膜としてシリコン酸化膜72を形成し、このシリコン酸化膜72表面に幅0.4μm、深さ0.4μmの配線用の溝を形成し、その上にCVD法により厚さ0.6μmのタングステン73を形成して試料80を作製した。
【0047】
次いで、この試料80に図2に示す研磨装置を用いてCMPを施してコンタクトを形成した。CMPにおいて、研磨液としては、平均粒径0.05μmのアルミナ粒子を、純水に1.0重量%の割合で分散させ、高分子ポリスルホン酸塩を添加し、粘度3.0cP、pH5としたものを用いた。また、研磨条件は、実施例1の標準条件を採用した。このようなポリッシングを行うことにより、図14(B)に示す断面形状を経て図14(C)に示すように、ディッシングが生じることなく表面が平坦なコンタクトを形成することができた。
【0048】
このように、従来の研磨方法を用いた場合には、たとえ理想的なポイントでポリッシングを停止したとしても、図14(D)に示すように、タングステン膜73のディッシングが発生するが、本発明の研磨方法によれば、段差が小さい、あるいは大きい凸部を有する被研磨膜においてもポリッシング速度が低下せず、しかもディッシングが大幅に抑制される。
【0049】
本実施例においては、ポリスルホン酸アンモニウム塩のpHは3.5であるため、研磨液にポリスルホン酸アンモニウム塩を添加することにより、タングステンのポリッシングの際に化学的な作用が付与される。このため、タングステン膜73上の傷を抑制することができる。また、ポリッシング中には、シリコン酸化膜72に停滞層が形成されるので、シリコン酸化膜72上の傷も抑制することができる。
【0050】
ここで、研磨液粘度の変化に対する研磨定盤のモータ電流値を図15に示す。図15から分かるように、研磨液粘度が上昇するにしたがいモータ電流値が小さくなった。これは、研磨液粘度が上昇することにより、タングステンのような硬い金属と研磨クロスとの間の摩擦係数が減少することを意味する。したがって、本発明の研磨方法によれば、ポリッシング中の研磨クロスの劣化を防止することができる。
【0051】
本発明は上記実施例1〜3に限定されることはなく、種々の変形が可能である。例えば、研磨粒子として、Fe2O3粒子、SiC粒子、SiN粒子、ZrO2粒子、TiO2粒子を用いても上記と同様の効果を得ることができる。また、ポリッシング速度を高くするために、研磨液にKOH、NaOH、NH4OH等のアルカリやHCl等の酸を加えても上記と同様の効果を得ることができる。さらに、研磨液の温度を0〜90□の範囲で変化させても上記と同様の効果を得ることができる。
【0052】
なお、本発明は上記実施例に限定されることはない。上記実施例1〜3においては、被研磨膜がシリコン酸化膜、Al膜、タングステン膜である場合について説明しているが、被研磨膜がAg膜、Cu膜、Si膜、Si3N4膜である場合も上記と同様の効果を得ることができる。
【0053】
また、研磨において用いる被研磨膜と相互作用が強い有機化合物も、上記実施例に限定されることはなく、被研磨膜と研磨液との間で表面活性剤となるものを用いてもよい。
【0054】
また、被研磨膜の凸部表面と研磨布の表面との間の平均的な間隔は、研磨粒子の平均粒径以下となることがポリッシング速度、ポリッシング選択比等の点で好ましく、例えば5.0cP以下が好ましい。
【0055】
さらに、本発明は、位相シフトマスクやX線マスク等の露光用マスクの吸収パターン(W,Cr等)の形成に対しても適用することが可能である。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【0056】
【発明の効果】
以上説明した如く本発明の研磨方法は、研磨液に少なくとも1つの親水基を有する分子量100以上の有機化合物を添加することにより、研磨中における被研磨膜の主面と研磨布の主面との間の平均的な間隔を研磨粒子の平均粒径より広く設定し、または研磨中における被研磨膜と研磨液との間の摩擦係数を研磨布と研磨液との間の摩擦係数よりも大きくなるようにするので、ディッシングを発生させることなく、所望の凸状部のみを効率よく研磨することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
(A),(B)は本発明の研磨方法に供される被研磨膜の形成を説明するための断面図。
【図2】
本発明の研磨方法に使用される研磨装置を示す概略図。
【図3】
(A)〜(C)は本発明の研磨方法によりポリッシングされた試料の断面形状を示す断面図。
【図4】
凸部および凹部のポリッシングによる残り膜厚の経時変化を示すグラフ。
【図5】
凸部および凹部のポリッシング速度と研磨液粘度との関係を示すグラフ。
【図6】
ポリッシング後の膜における面内均一性および面内最大段差と研磨液粘度との関係を示すグラフ。
【図7】
凹部のポリッシング速度と研磨液粘度との関係を示すグラフ。
【図8】
ポリカルボン酸アンモニウム塩の添加と研磨液粘度との関係を示すグラフ。
【図9】
(A)は本発明の研磨方法のメカニズムを説明するための図、(B)は従来の研磨方法を説明するための図。
【図10】
本発明の研磨方法に供される被研磨膜を示す断面図。
【図11】
研磨粒子の粒径が変化した場合のポリッシング速度と研磨液粘度との関係を示すグラフ。
【図12】
研磨圧力が変化した場合のポリッシング速度と研磨液粘度との関係を示すグラフ。
【図13】
(A)〜(D)は本発明の研磨方法を埋め込み金属配線の形成に適用した場合を示す断面図、従来の研磨方法で埋め込み金属配線の形成に適用した場合を示す断面図。
【図14】
(A)〜(D)は本発明の研磨方法をコンタクト形成に適用した場合を示す断面図、従来の研磨方法でコンタクト形成に適用した場合を示す断面図。
【図15】
研磨液粘度の変化に対する研磨定盤のモータ電流値を示すグラフ。
【図16】
(A)〜(E)は従来の研磨方法を説明するための断面図。
【図17】
従来の研磨方法を説明するための断面図。
【符号の説明】
11,41,51,71…シリコン基板、12,14,42,52,72…シリコン酸化膜、13…Al配線、15…凸部、16…凹部、20,60,80…試料、21…研磨定盤、22…研磨クロス、23…真空チャックホルダ、24…研磨液供給用配管、31…研磨粒子、32…研磨液、33…停滞層、53…Al膜、73…タングステン膜。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-09-24 
出願番号 特願平6-157385
審決分類 P 1 651・ 531- YA (H01L)
P 1 651・ 113- YA (H01L)
P 1 651・ 534- YA (H01L)
P 1 651・ 121- YA (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 鈴木 充  
特許庁審判長 小池 正利
特許庁審判官 鈴木 孝幸
林 茂樹
登録日 2002-02-15 
登録番号 特許第3278532号(P3278532)
権利者 株式会社東芝
発明の名称 半導体装置の製造方法  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 中村 誠  
代理人 鈴江 武彦  
代理人 河野 哲  
代理人 中村 誠  
代理人 河野 哲  

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