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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B 審判 全部申し立て 発明同一 B32B |
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管理番号 | 1088020 |
異議申立番号 | 異議2001-72569 |
総通号数 | 49 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1997-11-18 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-09-19 |
確定日 | 2003-10-14 |
異議申立件数 | 2 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第3146973号「ラミネート板及びこれを用いた製缶方法」の請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 訂正を認める。 特許第3146973号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 |
理由 |
I.手続の経緯 本件特許第3146973号は、平成8年5月1日の出願であって、平成13年1月12日に、請求項1〜11に係る発明について特許権の設定登録がなされ、その後、東洋紡績株式会社及び渡辺由里子から特許異議申の申立があり、取消理由を通知したところ、その指定期間内である平成14年12月24日に特許異議意見書とともに訂正請求書が提出された。そして、訂正請求書に対して、補正指令を通知したところ、平成15年7月28日付で手続補正書が提出された。 II.手続補正の適否についての判断 手続補正は、訂正請求書における明らかな誤記を補正するものであるから、訂正請求書の要旨を変更するものではなく、特許法第120条の4第3項において準用する同法第131条第2項に適合する。 III.訂正の適否についての判断 1.訂正の内容 訂正事項は次のとおりである。 訂正事項a-1.特許請求の範囲の【請求項1】中の「20重量%以下の着色剤粒子を含有し、且つ着色剤粒子を前記中間層より低い濃度で含有するポリエステル系樹脂外表面層(B)及びポリエステル系樹脂下地層(C)との積層フィルム層から成る」とあるのを「20重量%以下(但し0重量%を除く)の着色剤粒子を含有し、且つ着色剤粒子を前記中間層より低い濃度で含有する、ポリエステル系樹脂外表面層(B)及びポリエステル系樹脂下地層(C)との積層フィルム層から成り、水性クーラントを用いることなく、缶胴部をラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化する絞りしごき成形に用いられる」と訂正する。 訂正事項a-2.特許請求の範囲の【請求項2】中の「外表面層(B)及び下地層(C)の着色剤含有量が0乃至18重量%である」との記載を「外表面層(B)及び下地層(C)の着色剤含有量が0乃至18重量%(但し0重量%を除く)である」と訂正する。 訂正事項a-3.段落番号【0012】の記載を「【課題を解決するための手段】 本発明によれば、金属板と金属板の表面に施された熱可塑性樹脂層とから成る製缶用ラミネート板において、前記熱可塑性樹脂層が、10重量%以上の着色剤粒子を含有するポリエステル系樹脂中間層(A)と、20重量%以下(但し0重量%を除く)の着色剤粒子を含有し、且つ着色剤粒子を前記中間層よりも低い濃度で含有する、ポリエステル系樹脂外表面層(B)及びポリエステル系樹脂下地層(C)との積層フィルム層から成り、水性クーラントを用いることなく、缶胴部をラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化する絞り及びしごき成形に用いられることを特徴とする製缶用ラミネート板が提供される。」と訂正する。 訂正事項a-4.段落番号【0018】中の「前記中間層より低い濃度(ゼロも含む)で含有する」の記載を「前記中間層より低い濃度で含有する」と訂正する。 訂正事項a-5.段落番号【0092】中の「20重量%以下の着色剤粒子を含有し、」の記載を「20重量%以下(但し0重量%を除く)の着色剤粒子を含有し、」と訂正する。 訂正事項b-1.特許請求の範囲の【請求項8】中の「20重量%以下の着色剤粒子を含有し」とあるのを、「20重量%以下(但し0重量%を除く)の着色剤粒子を含有し」と訂正し、同じく「積層フィルム層が少なくとも外面になるように、絞り及びしごき成形に付する」とあるのを、「積層フィルム層が少なくとも外面になるように、水性クーラントを用いることなく、缶胴部をラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化する絞り及びしごき成形に付する」と訂正する。 訂正事項b-2.特許請求の範囲の請求項9を削除する。 訂正事項b-3.特許請求の範囲の請求項10を「請求項9」と訂正し、且つ訂正前の請求項10中の「請求項8又は9記載の」との記載を「請求項8記載の」と訂正する。 訂正事項b-4.特許請求の範囲の請求項11を「請求項10」と訂正し、且つ訂正前の請求項11中の「請求項8乃至10の何れかに記載の」との記載を「請求項8又は9記載の」と訂正する。 訂正事項b-5.段落番号【0013】の記載を、「本発明によればまた、金属板と金属板の表面に施された熱可塑性樹脂層とから成り且つ前記熱可塑性樹脂層が、10重量%以上の着色剤粒子を含有するポリエステル系樹脂中間層(A)と、20重量%以下(但し0重量%を除く)の着色剤粒子を含有し、且つ着色剤粒子を前記中間層よりも低い濃度で含有する、ポリエステル系樹脂外表面層(B)及びポリエステル系樹脂下地層(C)との積層フィルム層から成るラミネート板を、ポンチとダイスとの間で、前記積層フィルム層が少なくとも外面になるように、水性クーラントを用いることなく、缶胴部をラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化する絞り及びしごき成形に付すことを特徴とするシームレス缶の製造方法が提供される。」と訂正する。 訂正事項b-6.段落番号【0015】の記載を、「本発明の製缶方法では、 7.しごき成形を2乃至60%、特に5乃至60%のしごき率となるように行うこと、 8.絞りしぎき成形を、ラミネート板を常温乃至265℃の温度に維持して、好適には外表面層のポリエステル系樹脂の融点よりも少なくとも5℃低い温度に維持して、行うこと、 が好ましい。」と訂正する。 訂正事項c-1.段落番号【0082】中の「実施例1」の記載を「実験例1」に訂正する。 訂正事項c-2.段落番号【0083】中の「実施例6」の記載を「実験例6」に、「実施例1」の記載を「実験例1」に訂正する。 訂正事項c-3.段落番号【0085】中の「実施例1」の記載を「実験例1」に訂正する。 訂正事項c-4.段落番号【0087】中の「実施例4」の記載を「実験例4」に訂正する。 訂正事項c-5.段落番号【0088】中の「実施例4」の記載を「実験例4」に訂正する。 訂正事項c-6.段落番号【0089】中の「実施例5」の記載を「実験例5」に訂正する。 訂正事項c-7.段落番号【0090】中の「実施例1」の記載を「実験例1」に訂正する。 訂正事項c-8.段落番号【0024】中の「また、実験例13に示す様に」の記載を削除する。 2.判断 (1)訂正事項a-1.〜a-5.による訂正ついて 訂正事項a-1.における、ポリエステル系樹脂外表面層(B)及びポリエステル系樹脂下地層(C)について、「20重量%以下(但し0重量%を除く)に着色粒子を含有し、且つ着色粒子を前記中間層よりの低い濃度で含有する、」の限定を付す訂正は、訂正前の請求項2の「外表面層(B)及び下地層(C)の着色剤含有量が0乃至18重量%である」の記載、訂正前の実験例1〜6の記載(着色剤含有量について、外表面層(B)及び下地層(C)が、共に0重量%の例(実験例2,5)や、共に15重量%の例(実験例1、6))、及び段落【0025】の「中間層に着色剤を高濃度で含有させ、外表面層(B)及び下地層(C)に低濃度で含有させること」の記載を根拠とするものである。 訂正事項a-1.における、金属板と金属板の表面に施された熱可塑性樹脂層(積層フィルム層)とから成る製缶用ラミネート板について、その製缶法に「水性クーラントを用いることなく、缶胴部をラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化する絞り及びしごき成形に付す」の限定を付す訂正は、訂正前の請求項8の「ラミネート板を、絞り及びしごき成形に付すること」、請求項9の「絞り及びしごき成形に際し、缶胴部を積層ラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化する」、段落【0015】の「絞り及びしごき成形に際し、缶胴部を缶底部の厚みの10乃至70%・・に薄肉化すること」及び段落【0064】の「潤滑剤を含有する水性クーラント(当然冷却も兼ねる)を使用することもできるが、操作の簡単さの点では避けた方がよい」の記載を根拠とするものである。そして、訂正事項a-1による訂正は、特許法第29条第1項第3号及び同法第29条の2の取消理由通知において引用された発明との同一性を回避するためのものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項b-1.〜b-6.による訂正について 訂正事項b-1.による請求項8の訂正は、ポリエステル系樹脂外表面層(B)及びポリエステル系樹脂下地層(C)について、着色剤含有量について、及び製缶法について限定を付すものであって、請求項1と同様に、引用発明との同一性を回避するためのものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項b-2.による訂正は請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項b-5.〜b-6.による訂正は、訂正事項b-1による訂正に伴い、また、訂正事項b-.3〜b-4.による訂正は、訂正事項b-2による訂正に伴い、明細書の記載の不整合を正すもので、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項c-1.〜c-8.による訂正について 訂正事項c-1.〜c-7.による訂正は、表1の記載からすれば、実施例の番号は、存在しないから、誤記の訂正を目的とするものに該当し、訂正事項c-8.による訂正は、表1には存在しない実験番号13を記載しているのを削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。そして、訂正事項c-1.〜c-8.による訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の4第2項及び同条第3項において準用する同法第126条第2項から第4項までの規定に適合するので、訂正請求を認める。 IV.本件発明 訂正は認められるので、本件の請求項1〜10に係る発明は、訂正後の請求項1〜10に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。 「【請求項1】 金属板と金属板の表面に施された熱可塑性樹脂層とから成る製缶用ラミネート板において、前記熱可塑性樹脂層が、10重量%以上の着色剤粒子を含有するポリエステル系樹脂中間層(A)と、20重量%以下(但し0重量%を除く)の着色剤粒子を含有し、且つ着色剤粒子を前記中間層より低い濃度で含有する、ポリエステル系樹脂外表面層(B)及びポリエステル系樹脂下地層(C)との積層フィルム層から成り、水性クーラントを用いることなく、缶胴部をラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化する絞りしごき成形に用いられることを特徴とする製缶用ラミネート板。 【請求項2】 中間層(A)の着色剤粒子含有量が10乃至70重量%であり、且つ外表面層(B)及び下地層(C)の着色剤含有量が0乃至18重量%(但し0重量%を除く)である請求項1記載のラミネート板。 【請求項3】 着色剤粒子が二酸化チタンであることを特徴とする請求項1または2記載のラミネート板。 【請求項4】 前記中間層(A)と前記外表面層(B)または下地層(C)との厚みの比が2:1乃至100:1の範囲にある請求項1乃至3の何れかに記載のラミネート板。 【請求項5】 積層フィルムの厚みが2乃至50μmの範囲にある請求項1乃至4の何れかに記載のラミネート板。 【請求項6】 前記ポリエステル系樹脂がエチレンテレフタレート、エチレンイソフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレンイソフタレート及びエチレンナフタレートから成る群より選択された少なくとも1種のエステル単位を主体とするポリエステルである請求項1乃至5の何れかに記載のラミネート板。 【請求項7】 外表面層(B)のポリエステル系樹脂が180乃至270℃の融点を有する請求項1乃至6の何れかに記載のラミネート板。 【請求項8】 金属板と金属板の表面に施された熱可塑性樹脂層とから成り且つ前記熱可塑性樹脂層が、10重量%以上の着色剤粒子を含有するポリエステル系樹脂中間層(A)と、20重量%以下(但し0重量%を除く)の着色剤粒子を含有し、且つ着色剤粒子を前記中間層よりも低い濃度で含有するポリエステル系樹脂外表面層(B)及びポリエステル系樹脂下地層(C)との積層フィルム層から成るラミネート板を、ポンチとダイスとの間で、前記積層フィルム層が少なくとも外面となるように、水性クーラントを用いることなく、缶胴部を積層ラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化する絞り及びしごき成形に付することを特徴とするシームレス缶の製造方法。 【請求項9】しごき成形を2乃至60%のしごき率となるように行う請求項8記載の製造方法。 【請求項10】絞りしごき成形を、成形直後の缶胴温度を常温乃至融点より5℃低い温度に維持して行う請求項8又は9記載の製造方法。」 V.特許異議申立人の主張の概要 1.特許異議申立人東洋紡績株式会社(以下、申立人Aという)は、甲第1号証〜甲第3号証を提出して、(1)訂正前の本件特許請求の範囲の請求項1〜3及び5〜7に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明から、又は、甲第3号証及び甲第2号証に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件請求項1〜3及び5〜7に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである、旨の主張をしている。 2.特許異議申立人渡辺由里子(以下、申立人Bという)は、(1)訂正前の本件特許請求の範囲の請求項1〜11に係る発明は、甲第1号証(特開平9-323393号公報)として公開され、優先権主張の基礎となった特許出願の明細書(甲第2号証(特願平8-82575号))に記載された発明と同一であるから、訂正前の本件請求項1〜11に係る発明の特許は、特許法第29条の2第1項の規定に違反して特許されたものである、(2)訂正前の本件特許請求の範囲の請求項1〜11に係る発明は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の本件請求項1〜11に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである、旨の主張をしている。 証拠方法: (申立人A提出分) 甲第1号証 特表平2-501645号公報(以下、刊行物1という) 甲第2号証 特開平6-297644号公報(以下、刊行物2という) 甲第3号証 特表平10-509104号(以下、刊行物3という) (申立人B提出分) 甲第1号証 特開平9-323393号公報 甲第2号証 特願平8-82575号(以下、先願明細書という) 甲第3号証 特開平7-238176号公報(以下、刊行物4という) 甲第4号証 特開平6-297644号公報(刊行物2と同じ) VI.先願明細書及び刊行物1〜4の記載 a.先願明細書には、成形用二軸延伸ポリエステルフイルムに関して次の記載がなされている。 a-1.「【請求項1】 光沢度が25〜110%かつ光学濃度/厚み(μm)が0.04〜0.1である積層ポリエステルフィルムであって、着色剤を20〜50重量%含有するポリエステルからなるA層と、A層より着色剤含有量が少ないB層とを少なくとも1層積層してなることを特徴とする成形用二軸延伸ポリエステルフイルム。」(特許請求の範囲請求項1) a-2.「請求項5】 B層の着色剤含有量が1〜25重量%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の成形用二軸延伸ポリエステルフイルム。」(特許請求の範囲請求項5)、 a-3.「金属板に熱ラミネート後に成形されることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の成形用二軸延伸ポリエステルフイルム。」(特許請求の範囲請求項8) a-4.「本発明における金属板ラミネートフィルムを2ピース、3ピースなどの缶に成形する際には、A層側を金属板にラミネートし、B層を比ラミネート面とすることが耐削れ性の点で好ましい。さらに密着性の点で好ましくは、積層構成がB層/A層/B層であることが望ましく、金属との密着性をさらに改良する上ではC層を積層したB層/A層/C層であることが望ましい。C層としては、C層融点とA層の融点の差の絶対値が10℃以下であることが望ましく、さらに、金属とC層の間に他の層が介在してもよい。また、上記積層構成以外の構成であっても良い。」(段落【0023】) a-5.「金属板に本発明のフィルムをラミネートする際には、金属板を加熱して融着させる方法、フィルムまたは金属板にプライマーコートをしてラミネートする方法などが挙げられるが、金属板に本発明のフィルムをラミネートする際には、金属板の逆面に他のフィルムをラミネートしてもよい。 本発明の成形用二軸延伸フィルムは、絞り成形やしごき成形によって製造されるツーピース金属缶、及び3ピース缶の外面被覆用に好適に使用することができる。」(段落【0031】〜【0032】) a-6.実施例1(段落【0049】及び【0063】の表1の実施例1参照)には、鋼板の一方の面には、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート延伸フィルムを、他方の面には、A層用ポリエステル(ポリエステルにシクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエチレンテレフタレートに酸化チタンを混合したマスタペレットをイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートで稀釈して、酸化チタン含有量を30重量%としたもの)及びB層用ポリエステル(ポリエステルにシクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエチレンテレフタレートに酸化チタンを混合したマスタペレットをイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレートで稀釈して、酸化チタン含有量を15重量%としたもの)を用いて作製したB層/A層/B層(積層比1/10/1)の延伸フィルムを、両面ラミネートしたものについて、絞り成形機(成形比(最大厚み/最小厚み)=2.0)で缶を得て、美麗性の程度により成形性を試験した試験結果はA、缶を100缶製缶した後の白粉の発生量の程度により耐削れ性を試験した試験結果はA、製缶後、100缶を6色印刷し、印刷後の美麗性の程度により印刷性を試験した試験結果はA、であったことが示されている。(段落【0044】〜【0048】参照) (なお、上記先願明細書の記載(摘示記載a-1.〜a-6.)に対応した記載が、申立人Bの甲第1号証の特許請求の範囲請求項1、請求項7、請求項10、段落0024、段落0032、段落0033、段落0044〜段落0049、段落0050、段落0065にされている。) b.刊行物1には、積層金属シートについて、次の記載がなされている。 b-1.「1.複合フィルムを金属シートの少なくとも一方の主要表面に接着した金属シートを有する積層金属シートであって、上記フィルムが: (A1)金属シートの天然の色を補償するためのトナーと白色ピグメントを混入させた熱可塑性ポリマーの内側層と、 (B1)白色ピグメントの濃度が層(A1)の白色ピグメントの濃度よりも低いことを特徴とする積層金属シート。 ・・・・・・・・・・・ 3.内側層(A1)及び外側層(B1)のそれぞれが、ポリエステル、ボリオレフィン及びポリアミドから選ばれている請求項1又は2に記載の積層金属シート。 ・・・・・・・・・・・ 6.上記内側層(A1)と金属シートとの間に接合樹脂の別の層(A2)が設けてあり、該接合樹脂層が内側層を(A1)を金属シートに接着するための層として作用する請求項1ないし5のいずれか1項に記載の積層金属シート。 ・・・・・・・・・・・ 9.層(A2)の接合樹脂が、エチレングリコールとイソフタル酸及びテレフタル酸とのコポリマー、あるいは、エチレングリコール及びシクロヘキサンジメタノールとテレフタル酸とのコボリマーであり、層(A1)がポリエステルである請求項6に記載の積層金属シート。 10.内側層(A1)の白色ピグメントの量が,内側層の重量を基にして、重量比を基にして、重量比で2〜30%である請求項1ないし9のいずれか1項に記載の積層金属シート。 11.外側層(B1)の白色ピグメントの量は、外側層の重量を基にして、重量比で2〜15%である請求項1ないし10のいずれか1項に記載の積層金属シート。 12.外側層(B1)及び内側層(A1)のそれぞれにおける白色ピグメントが二酸化チタンである請求項1なし、し11のいずれか1項に記載の積層金属シート。」(特許請求の範囲請求項1〜12) b-2.「錫メッキ鋼板やアルミニウムなどの一般的な缶製造材料は、審美的な理由から白色着色コーティングで被覆した物が広く使用されている。」(第2頁左下欄第17行〜第20行) b-3.「本発明による積層金属シートの実施例が第1図に示されており、その図では、金属シート(M)の一方の側だけを内側ポリマー層(A1)と外側ポリマー層(B1)で被覆した構造の断面が略図的に示されている。」(第3頁左下欄下から第5〜2行) b-4.「本発明による好ましい積層金属シートでは、内側層(A1)が金属シートに対して、内側層(A1)と金属シートとの接合樹脂の層(A2)により接合される。同様に、層(A1)、(B1)が同時押し出しにおいて充分には接合されていない場合、外側層(B1)を内側層(A1)に対して接合樹脂層(B2)により接合することが好ましい。・・・・・(A1)(B1)がポリエステルの場合接合樹脂層(A2)、(B2)は実質的に非結晶性のポリエステルであることが好ましい。」(第3頁右下欄第7〜19行) b-5.「一般に内側層(A1)の白色ピグメントの量は、内側層の重量を基にして、重量比で2〜30%であり、一方、外側層(B1)の白色ピグメントの量は、一般に、外側層の重量を基にして2〜15%である。あらゆる一般的な白色ピグメント材料を上記白色ピグメントとして使用することができる。好ましい白色ピグメントは、平径粒子寸法(粒径)が0.1〜2ミクロンの二酸化チタンである。・・・・・一般に40ミクロンのフィルムでは、内側層(A1)が約20〜30ミクロンの厚さであり、その二酸化チタン添加レベルは重量比で20%である。」(第4頁左下欄第11〜19行) b-6.「フィルムは、金属ストリップの反対側の主要表面に熱可塑性コーティングを備えた金属ストリップに積層化された。積層体は以下の物品に成形された・・・・・(ii)65mm×101mmの絞り再絞り食品用缶(第3図に図示)・・・・・(v)直径68mmの絞り・壁部しごき飲料用缶(第5図に図示)・・・・・積層体の白色コーティングは、優れた審美的な外観と優れた成形性と、内側コーティングとしての良好な基材寿命性と、物品に対する良好な外部的保護性とを有していることが分かった。」(第5頁左上欄第25行〜第6頁右下欄第12行) c.刊行物2には、金属貼り合わせ用フイルムに関して、次の記載がなされている。 c-1.「【請求項1】樹脂A、B、C層よりなる3層積層フイルムであって、中央層Bが衝撃吸収層であることを特徴とする金属貼り合わせ用フイルム。 【請求項2】前記A層がポリエステル系2軸延伸フイルムであり、C層が熟融着性である請求項1の金属貼り合わせ用フイルム。 【請求項3】前記中央層Bが、粒子高充填層である請求項1の金属貼り合わせ用フイルム。」 c-2.「成形加工性、保香性、さらには耐衝撃性に優れ、充分に実用に供し得る、金属貼り合わせ用フィルムを提供することを目的とする。」(段落【0004】) c-2.「本発明における樹脂A、B、Cとしては、ポリエステル系樹脂、ナイロン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、アイオノマーなどの変性オレフィン樹脂、ボリビニルアルコールおよびその共重合体、アクリル系樹脂単体およびその混合物等を挙げることができる。」(段落【0006】) c-3.「特にその中でも、ポリエステル共重合体を主体とするものが好ましい。この共重合ポリエステルとしては、特に限定されないが、代表的なものとして以下の例を挙げることができる。酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族二塩基酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、ドデカジオン酸のような脂肪族ジカルボン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環族ジカルボン酸等が例示できる。又アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオールのような脂肪族ジオールを挙げることができる。これらを1種以上組み合わせて使用される。例えば好ましい例として、酸成分としてテレフタル酸75モル%以上、アルコール成分としてエチレングリコール85モル%以上よりなるポリエステル共重合体を挙げることができる。」(段落【0007】) c-4.「本発明においては、中央層Bを衝撃吸収層とする必要がある。衝撃吸収層とは、文字通り衝撃を吸収する層を意味する。・・・・代表的な方法としては、・・・・・・(2)B層が凝集破壊し衝撃を吸収する方法。・・・・・方法をその代表例として挙げることができる。」(段落【0008】) c-5.「上記(2)の具体例としては、A層/B層/C層が・・・・ポリエステル/粒子高充填ポリエステル/ポリエステルなどのように無機あるい有機粒子添加層を中央層に設けた積層体、・・・・・が挙げられる。」(段落【0010】) c-6.「本発明の層A,B、Cには、各種滑剤を添加しても良い。滑剤の例としては、・・・・アルミナ、二酸化チタン、・・などを挙げることができる。」(段落【0012】) c-8.「次に、本発明の代表的製法を説明するが、これに限定されるものではない。所定の粘度(通常は固有粘度にて0.45〜1.50)を有する樹脂A、B、Cに適宜滑剤処方を施した後、必要に応じ乾燥する。該乾燥原料A、B、Cを3台の押出機を用いて各々溶融混合する。脱気孔を有する押出機を用いる場合は乾燥を省略してもよいし、又押出機途中で各種添加剤を添加してもよい。該樹脂A、B、Cを溶融状態で積層後、冷却ロール上でフイルムに成形する。延伸して使用する場合、常温〜200℃の範囲で2.0〜10.0倍縦方向に延伸し、必要に応じ常温〜200℃の範囲で2.0〜10.0倍横方向に延伸し、常温〜300℃の範囲で必要に応じ弛緩しつつ熱処理を行う。樹脂A、B、Cの積層は上述したように行ってもよいし、縦一軸延伸フイルム上に溶融状態でラミネート積層してもよい。又、一軸延伸後に横層し、さらに横方向に延伸を行ってもよい。また、積層後同時二軸延伸を施してもよい。」(段落【0019】) c-9.実施例4には、A層として、ポリエチレンテレフタレートとイソフタル酸との比を特定のものとした樹脂に二酸化ケイ素を0.10重量%を添加したもの、B層として、ポリエチレンテレフタレートとイソフタル酸との比を特定のものとした樹脂に二酸化チタンを7.0重量%を添加したもの、C層として、ポリエチレンテレフタレートとイソフタル酸との比を特定のものとした樹脂に二酸化ケイ素を0.10重量%を添加したもの、を積層し延伸したフィルムを、金属板に貼り合わせた、フィルム貼り合せ金属板から、絞り加工により缶を成形したこと、そして、中央層Bが衝撃吸収層として構成される、という要件に適合するものは、深絞り加工性、耐衝撃性(レトルト処理前、レトルト処理後)、味覚保香性共に優れていたこと(段落【0020】、【0022】、【0023】〜【0026】、【0027】及び【0028】の表1の実施例4参照) d.刊行物3には、高分子フィルムに関して、記載がなされている。 e.刊行物4には、金属板ラミネート用白色ポリエステルフィルム及びその製造方法に関して、次の記載がなされている。 e-1.「【請求項1】 エチレンテレフタレートを主体としてなるポリエステル(I)とブチレンテレフタレートを主体としてなるポリエステル(II)が重量比で50:50〜90:10で混合されてなり、かつ着色剤を20〜50重量%含有し、フィルムのヤング率が50〜350kg/mm2 であることを特徴とする金属板ラミネート用白色ポリエステルフィルム。」(特許請求の範囲請求項1) e-2.「【請求項4】 着色剤が酸化チタン、亜鉛華、硫酸亜鉛、リトポンから選ばれた白色無機粒子であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の金属板ラミネート用白色ポリエステルフィルム。」(特許請求の範囲請求項4) e-3.「本発明は金属板ラミネート用白色ポリエステルフィルムに関するものである。更に詳しくは、金属とのラミネート後に、絞り成型加工、あるいは、しごき成型加工する際において、良好なラミネート加工性、接着性、成形性、衝撃性、滑り性を有し、さらに白色隠蔽性に優れた、特に、成形加工によって製造される金属缶に好適な金属板ラミネート用白色ポリエステルフィルムに関するものである。」(段落【0001】) e-4.「さて、本発明の好ましい態様として、上記着色剤を含有したポリエステル(I)、(II)で構成されたフィルムA層に融点が150〜230℃のエチレンテレフタレートを主体としたポリエステル(III)からなるB層が積層された積層フィルムの構成となすことが好ましい。かかる積層構造とすることにより、剛性を始めとする機械特性や耐熱性を損なうことなく、エポキシ系接着剤、エポキシ-エステル系接着剤、アルキッド系接着剤などの接着プライマー層を介在せしめることなく、容易に金属板と熱接着することができる。かかるポリエステル(III)としては、エチレンテレフタレート単位を50モル%以上、好ましくは60モル%以上、より好ましくは80モル%以上からなるポリエステルであり、共重合成分は前記ポリエステル(I)と同様のものを用いることができるが、なかでも、イソフタル酸が特に好ましい。 さらにまた、本発明の他の好ましい態様として、上記着色剤を含有したポリエステル(I)、(II)で構成されたフィルムA層に融点が220℃以上のエチレンテレフタレートを主体としたポリエステル(IV)からなるC層が積層された積層フィルムの構成となすことも好ましい。かかる積層構造となし、C層を外面(金属板と直接接触する面とは反対の面)とすることにより、耐衝撃性、味特性を良好にすることができる。かかるポリエステル(IV)としては、エチレンテレフタレート単位を好ましくは85モル%以上からなるポリエステルであり、共重合成分は前記ポリエステル(I)と同様のものを用いることができるが、なかでも、イソフタル酸が好ましい。なお、かかるC層に取扱い性や成形加工を向上させるために必要により無機粒子および/または有機粒子を添加してもよい。」 (段落【0024】〜【0025】) e-5.「(5)成形性 ポリエステルフィルムの接着面とTFS板とを加熱・加圧ラミネートし、絞りダイスとポンチを用いて深絞り加工し、径Dが100mm、深さhが130mmの絞り比(h/D)1.0のカップ(側面無継目缶)を得た。このカップ内に1%の食塩水を入れて、全体を80℃に加熱して24時間放置後、缶内に発生するサビの状況から成形性を判断した。」(段落【0043】) VII.特許異議申立についての判断 1.申立人Bの申立理由(1)について (1)請求項1に係る発明と先願明細書に記載された、成形用二軸延伸ポリエステルフィルムをラミネートした金属板とを対比すると、製缶用ラミネート板を使用する製缶条件として、請求項1に係る発明は、「水性クーラントを用いることなく、缶胴部をラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化する絞りしごき成形に用いられる」を特定するものであるのに対して、先願明細書には、このような条件が記載されていないで点で相違する。 また、先願明細書の成形用二軸延伸ポリエステルフィルムをラミネートした金属板から絞り成形機で缶を成形したとの記載から、水性クーラントを用いることなく、缶胴部をラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化する絞りしごき成形したことが自明であるとはいえない上、慣用手段であるとは認められない。 したがって、請求項1に係る発明は、先願明細書に記載された発明であるとはいえない。 (2)請求項2〜7に係る発明は、請求項1を引用して、それぞれ限定を付すものであり、請求項1に係る発明で述べた理由と同様の理由で相違するから、それぞれ、先願明細書に記載された発明であるとはいえない。 (3)請求項8は、請求項1と同様に製缶条件として、「水性クーラントを用いることなく、缶胴部を積層ラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化する絞り及びしごき成形に付すること」を要件とするから、そして、請求項9〜10に係る発明は請求項8を引用して、それぞれ限定を付すものであるから、請求項1に係る発明で述べた理由と同様の理由で相違するから、それぞれ、先願明細書に記載された発明であるとはいえない。 2.申立人Bの申立理由(2)について 摘示記載e-1.〜e-5.から、刊行物4には、A層にのみ着色剤を20〜50重量%含有している、C層フィルム/A層の白色フィルム/B層フィルムからなるポリエステル系積層フィルムをB層側を金属板にラミネートした製缶用ラミネート板が記載されているといえる。 請求項1に係る発明と刊行物4に記載された発明とを対比すると、後者におけるC層、A層及びB層は、それぞれ、前者における外表面層、中間層及び下地層に対応するから、両者は、「金属板と金属板の表面に施された熱可塑性樹脂層とから成る製缶用ラミネート板において、前記熱可塑性樹脂層が、10重量%以上の着色剤粒子を含有するポリエステル系樹脂中間層(A)と、ポリエステル系樹脂外表面層(B)及びポリエステル系樹脂下地層(C)との積層フィルム層から成る、絞りしごき成形に用いられる製缶用ラミネート板」で一致するが、(1)外表面層及び下地層について、前者は、「20重量%以下(但し0重量%を除く)の着色剤粒子を含有し、且つ着色剤粒子を前記中間層より低い濃度で含有すること」を特定しているのに対して、後者では、C層フィルムには無機粒子を添加しても良いと記載されるものの、C層フィルム及びB層フィルムに着色剤を含有させることは記載されていない点、(2)製缶用ラミネート板を使用した製缶条件として、前者は「水性クーラントを用いることなく、缶胴部をラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化すること」を特定しているのに対して、後者では、その様な条件を明記していない点で相違する。 刊行物2には、食料缶等の缶胴に使用し得る金属貼り合わせ用フィルムとして、ポリエステル樹脂のA、B、C層よりなる3層積層フィルムが記載され、各層には、各種「滑剤」を添加することができると記載されているが、滑剤と着色剤とは機能が異なるから、滑剤を添加することができる旨の記載が、A、B及びC層に「着色剤粒子」を添加することを示唆するとは認められないから、上記相違点(1)の構成は、刊行物2の記載から当業者が容易に導き出すことができた事項であるとはいえない。 そして、請求項1に係る発明は、相違点(1)及び(2)により、明細書の段落0019及び0020に記載されるように、製缶に際して、加工具、特にしごきリングの摩耗を低減させ、フィルム層の削れを防止して、隠蔽性、密着性及び耐腐食性に優れた被覆シームレス缶を製造できる、という効果を奏したものといえる。 したがって、請求項1に係る発明は、刊行物4及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認めることはできない。 (2)請求項2〜7に係る発明は、請求項1を引用して、それぞれ限定を付すものであり、また、請求項8〜10に係る発明は、請求項1の製缶用ラミネート板を用いるシームレス缶の製造方法の発明であるから、請求項1に係る発明で述べた理由と同様の理由により、刊行物4及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認めることはできない。 3.申立人Aの申立理由について 摘示記載b-1.〜b-6.からすると、刊行物1には、金属シート/層A2(接合樹脂層)/層A1(トナーと白色ピグメントを混入させた熱可塑性ポリマー層)/層B1(白色ピグメントを混入させた熱可塑性ポリマー層)の積層金属シートにおいて、(A1)(B1)がポリエステルで、(A2)が実質的に非晶質のポリエステルで、内側層(A1)の白色ピグメントの量は、2〜30重量%であり、一方、外側層(B1)の白色ピグメントの量は、2〜15重量%であって、層B1の白色ピグメントの濃度が層A1の白色ピグメントの濃度よりも低い、製缶用積層金属シートが記載されているといえる。 請求項1に係る発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、後者における層A2、層A1及び層B1は、それぞれ、前者における下地層、中間層及び外表面層に対応するから、両者は、「金属板と金属板の表面に施された熱可塑性樹脂層とから成る製缶用ラミネート板において、前記熱可塑性樹脂層が、10重量%以上の着色剤粒子を含有するポリエステル系樹脂中間層(A)と、ポリエステル系樹脂外表面層(B)及びポリエステル系樹脂下地層(C)との積層フィルム層から成る、絞りしごき成形に用いられる製缶用ラミネート板」で一致するが、(1)外表面層及び下地層について、前者は、「20重量%以下(但し0重量%を除く)の着色剤粒子を含有し、且つ着色剤粒子を前記中間層より低い濃度で含有すること」を特定しているのに対して、後者では、層B1については、着色剤を含有させることは記載されるが、層A2に着色剤を含有させることは記載されていない点、(2)製缶用ラミネート板を使用した製缶条件として、前者は「水性クーラントを用いることなく、缶胴部をラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化すること」を特定しているのに対して、後者では、その様な条件を明記していない点で相違する。 刊行物2には、食料缶等の缶胴に使用し得る金属貼り合わせ用フィルムとして、ポリエステル樹脂のA、B、C層よりなる3層積層フィルムが記載され、各層には、各種「滑剤」を添加することができると記載されているが、滑剤と着色剤とは機能が異なるから、滑剤を添加することができる旨の記載が、A、B及びC層に「着色剤粒子」を添加することを示唆するとは認められないから、上記相違点(1)の構成は、刊行物2の記載から当業者が容易に導き出すことができた事項であるとはいえない。 そして、請求項1に係る発明は、相違点(1)及び(2)により、明細書の段落0019及び0020に記載されるように、「製缶に際して、加工具、特にしごきリングの摩耗を低減させ、フィルム層の削れを防止して、隠蔽性、密着性及び耐腐食性に優れた被覆シームレス缶を製造できる」という効果を奏したものといえる。 したがって、請求項1に係る発明は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認めることはできない。 また、(2)請求項2〜7に係る発明は、請求項1を引用して、それぞれ限定を付すものであり、また、請求項8〜10に係る発明は、請求項1の製缶用ラミネート板を用いるシームレス缶の製造方法の発明であるから、請求項1に係る発明で述べた理由と同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認めることはできない。 なお、申立人Aは、訂正前の請求項1〜11に係る発明は、甲第3号証及び甲第2号証に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張するが、甲第3号証(刊行物3)は、本件の出願日後に頒布された刊行物であるから、特許法第29条第2項違反を理由とする申立の証拠としては、妥当なものとはいえないから、その主張は採用することはできない。 VIII.結び 以上のとおりであるから、特許異議申立人の理由および証拠によって請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 ラミネート板及びこれを用いた製缶方法 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 金属板と金属板の表面に施された熱可塑性樹脂層とから成る製缶用ラミネート板において、前記熱可塑性樹脂層が、10重量%以上の着色剤粒子を含有するポリエステル系樹脂中間層(A)と、20重量%以下(但し0重量%を除く)の着色剤粒子を含有し、且つ着色剤粒子を前記中間層よりも低い濃度で含有する、ポリエステル系樹脂外表面層(B)及びポリエステル系樹脂下地層(C)との積層フィルム層から成り、水性クーラントを用いることなく、缶胴部をラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化する絞り及びしごき成形に用いられることを特徴とする製缶用ラミネート板。 【請求項2】 中間層(A)の着色剤粒子含有量が10乃至70重量%であり、外表面層(B)及び下地層(C)の着色剤含有量が0乃至18重量%(但し0重量%を除く)である請求項1記載のラミネート板。 【請求項3】 着色剤粒子が二酸化チタンであることを特徴とする請求項1又は2記載のラミネート板。 【請求項4】 前記中間層(A)と前記外表面層(B)または下地層(C)との厚みの比が2:1乃至100:1の範囲になる請求項1乃至3の何れかに記載のラミネート板。 【請求項5】 積層フィルムの厚みが2乃至50μmの範囲にある請求項1乃至4の何れかに記載のラミネート板。 【請求項6】 前記ポリエステル系樹脂がエチレンテレフタレート、エチレンイソフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレンイソフタレート及びエチレンナフタレートから成る群より選択された少なくとも1種のエステル単位を主体とするポリエステルである請求項1乃至5の何れかに記載のラミネート板。 【請求項7】 外表面層(B)のポリエステル系樹脂が180乃至270℃の融点を有する請求項1乃至6の何れかに記載のラミネート板。 【請求項8】 金属板と金属板の表面に施された熱可塑性樹脂層とから成り且つ前記熱可塑性樹脂層が、10重量%以上の着色剤粒子を含有するポリエステル系樹脂中間層(A)と、20重量%以下(但し0重量%を除く)の着色剤粒子を含有し、且つ着色剤粒子を前記中間層よりも低い濃度で含有する、ポリエステル系樹脂外表面層(B)及びポリエステル系樹脂下地層(C)との積層フィルム層から成るラミネート板を、ポンチとダイスとの間で、前記積層フィルム層が少なくとも外面になるように、水性クーラントを用いることなく、缶胴部をラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化する絞り及びしごき成形に付することを特徴とするシームレス缶の製造方法。 【請求項9】 しごき成形を2乃至60%のしごき率となるように行う請求項8記載の製造方法。 【請求項10】 絞りしごき成形を、成形直後の缶胴温度を常温乃至融点より5℃の低い温度に維持して行う請求項8又は9記載の製造方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は、製缶用ラミネート板及びこのラミネート板を使用したシームレス缶の製造方法に関するもので、より詳細には、絞りしごき加工に際して、加工具の磨耗を低減させると共にフィルム層の削れを減少させることができ、しかも外面の隠蔽性に優れた被覆シームレス缶を製造できる製缶用ラミネート板及びこのラミネート板を用いるシームレス缶の製造方法に関する。 【0002】 【従来の技術】 従来、側面無継目缶(サイド・シームレス缶)としては、アルミニウム板、ブリキ板或いはティン・フリー・スチール板等の金属素材を、絞りダイスとポンチとの間で少なくとも1段の絞り加工に付して、側面継目のない胴部と該胴部に、継目なしに一体に接続された底部とから成るカップに形成し、次いで所望により前記胴部に、しごきポンチとダイスとの間でしごき加工を加えて、容器胴部を薄肉化したものが知られている。また、しごき加工の代わりに、再絞りダイスの曲率コーナ部で曲げ伸ばして側壁部を薄肉化することも既に知られている(特公昭56-501442号公報)。 【0003】 また、側面無継目缶の有機被覆法としては、一般に広く使用されている成形後の缶に有機塗料を施す方法の他に、成形前の金属素材に予め樹脂フィルムをラミネートする方法が知られており、特公昭59-34580号公報には、金属素材にテレフタル酸とテトラメチレングリコールとから誘導されたポリエステルフィルムをラミネートしたものを用いることが記載されている。また、曲げ伸ばしによる再絞り缶の製造に際して、ビニルオルガノゾル、エポキシ、フェノリクス、ポリエステル、アクリル等の被覆金属板を用いることも知られている。 【0004】 外面被覆樹脂フィルムに予め着色剤を含有させ着色したシームレス缶を製造することも公知であり、出願人の提案にかかる実公平6-16739及び6-16740号公報には、内側から外側に、クリヤポリエステル系分子配向フィルム層/接着剤/表面処理鋼板/接着剤/二酸化チタン含有ポリエステル系分子配向フィルム層/印刷インキ層/仕上げニス層の積層体から成るシームレス缶及びクリヤポリエステル系分子配向フィルム層/接着剤/表面処理アルミ合金板/接着剤/二酸化チタン含有ポリエステル系分子配向フィルム層/印刷インキ層/仕上げニス層の積層体から成るシームレス缶が夫々記載されている。 【0005】 特開平6-39980号公報には、平均粒径が2.5μm以下の滑剤を1重量%以下含有する特定の共重合ポリエステル層と、平均粒径が2.5μm以下の充填剤を5乃至30重量%含有する特定の共重合ポリエステル層とを積層して成る金属板貼り合わせ成形加工用ポリエステルフィルムが記載されている。 【0006】 特開平8-3334号公報には、シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート単位を20モル%以上含有して成るポリエステル(I)とエチレンテレフタレートを主体として成るポリエステル(II)とが重量比で100:0〜10:90で混合されて成り、且つ着色剤を15〜50重量%含有して成る層に、融点が150〜230℃のエチレンテレフタレートを主体として成るポリエステル(III)から成る層が積層されて成り、フィルムのヤング率が50〜350kg/mm2であることを特徴とする金属板ラミネート白色ポリエステルフィルムが記載されている。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】 シームレス缶の外面に存在する二酸化チタン含有ポリエステル系分子配向フィルム層は、クロム表面処理層を隠蔽して、印刷インキ層を浮き立たせ、絞り再絞り加工に際してしわ押さえ力の伝達を良好にして缶胴のしわの発生を防止し、防錆力を補助する等の望ましい作用を行うものではあるが、未だ以下の問題が存在することがわかった。 【0008】 即ち、着色剤粒子含有樹脂外層による隠蔽力を増大させるには、二酸化チタン等の着色剤粒子の含有量を増大させる必要があるが、着色剤粒子の含有量を増大させると、絞り成形やしごき成形に際して、外層樹脂フィルムの削れを生じたり、或いは成形工具の摩耗を生じたりする欠点があり、この傾向は、素材節約や軽量化のため、缶胴部の薄肉化の程度を大きくするぼど一層顕著となる。 【0009】 一般に、しごきリングは、炭化タングステン等の超硬で形成されているが、このような超硬でも、多数缶成形後には、数ミクロンのオーダーの欠落を生じる場合があり、工具にこのような欠落が生じると、シームレス缶のボトム窪みが発生したり、成形後の缶のポンチからの抜け不良或いは破胴等を生じることになる。 【0010】 また、樹脂ラミネート板を使用する製缶法では、成形後の缶胴を、洗浄処理を行うことなく、内容物充填に用いることが一般的であるが、前述したフィルムに削れが生じると、金属缶の外観を損なうのみならず、これがダストとして内容物中に混入するという不都合もある。 【0011】 従って、本発明の目的は、製缶に際して、加工具、特にしごきリングの磨耗を低減させ、フィルム層の削れを防止して、隠蔽性、密着性及び耐腐食性に優れた被覆シームレス缶を能率よく製造できる製缶用ラミネート板及び製缶方法を提供することにある。 【0012】 【課題を解決するための手段】 本発明によれば、金属板と金属板の表面に施された熱可塑性樹脂層とから成る製缶用ラミネート板において、前記熱可塑性樹脂層が、10重量%以上の着色剤粒子を含有するポリエステル系樹脂中間層(A)と、20重量%以下(但し0重量%を除く)の着色剤粒子を含有し、且つ着色剤粒子を前記中間層よりも低い濃度で含有するポリエステル系樹脂外表面層(B)及びポリエステル系樹脂下地層(C)との積層フィルム層から成り、水性クーラントを用いることなく、缶胴部をラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化する絞り及びしごき成形に用いられることを特徴とする製缶用ラミネート板が提供される。 【0013】 本発明によればまた、金属板と金属板の表面に施された熱可塑性樹脂層とから成り且つ前記熱可塑性樹脂層が、10重量%以上の着色剤粒子を含有するポリエステル系樹脂中間層(A)と、20重量%以下(但し0重量%を除く)の着色剤粒子を含有し、且つ着色剤粒子を前記中間層よりも低い濃度で含有する、ポリエステル系樹脂外表面層(B)及びポリエステル系樹脂下地層(C)との積層フィルム層から成るラミネート板を、ポンチとダイスとの間で、前記積層フィルム層が少なくとも外面になるように、水性クーラントを用いることなく、缶胴部をラミネート板の素厚の10乃至70%に薄肉化する絞り及びしごき成形に付することを特徴とするシームレス缶の製造方法が提供される。 【0014】 本発明に用いる製缶用ラミネート板においては、 1.中間層(A)の着色剤粒子含有量が10乃至70重量%、特に15乃至70重量%であり、外表面層(B)及び下地層(C)の着色剤含有量が0乃至18重量%(但し0重量%を除く)、特に0乃至15重量%(但し0重量%を除く)であること、且つ中間層(A)の着色剤含有量より少ないこと、 2.着色剤粒子が二酸化チタンであること、 3.前記中間層(A)と前記外表面層(B)または下地層(C)との厚みの比が2:1乃至100:1の範囲、特に5:1乃至100:1の範囲にあること、 4.積層フィルムの厚みが2乃至50μm、特に5乃至50μmの範囲にあること、 5.前記ポリエステル系樹脂がエチレンテレフタレート、エチレンイソフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレンイソフタレート及びエチレンナフタレートから成る群より選択された少なくとも1種のエステル単位を主体とするポリエステルであること、 6.外表面層(B)のポリエステル系樹脂が180乃至270℃、特に200乃至270℃の融点を有すること、 が好ましい。 【0015】 本発明の製缶方法では、 7.しごき成形を2乃至60%、特に5乃至60%のしごき率となるように行うこと、 8.絞りしごき成形を、ラミネート板を常温乃至265℃の温度に維持して、好適には外表面層のポリエステル系樹脂の融点よりも少なくとも5℃低い温度に維持して、行うこと、 が好ましい。 【0016】 【発明の実施形態】 本発明の製缶用ラミネート板の一例の断面構造を示す図1において、このラミネート板1は、金属基板2と、金属基板の容器外面となる面に接着された積層樹脂層3とから成っている。金属基板の容器内面となるべき面には、他の樹脂層4が接着されて設けられている。積層樹脂層3は、中間層(A)5、外表面層(B)6及び下地層(C)7から成っている。又、金属基板の容器内面となるべき側に、上記積層フィルム層を設けてもよい。 【0017】 本発明の製缶用ラミネート板の他の例の断面構造を示す図2において、このラミネート板1を構成する金属基板2、積層樹脂層3及び他の樹脂層4は、図1の場合と同様であるが、積層樹脂層3は接着用プライマー層8を介して、また他の樹脂層4は接着プライマー層9を介して、それぞれ金属基板に接着されている。 【0018】 本発明では、前記中間層(A)5が10重量%以上の着色剤粒子を含有するポリエステル系樹脂から成っており、一方、外表面層(B)6及び下地層(C)7の両方が、20重量%以下の着色剤粒子を含有し、且つ着色剤が前記中間層より低い濃度で含有するポリエステル系樹脂から成っている。 【0019】 樹脂外面被覆による金属板の隠蔽力を増大させるためには、樹脂中の着色剤粒子の濃度を増大させる必要があることは、既に指摘したとおりであるが、本発明では、缶の外面となるべきポリエステル系樹脂被覆層を中間層(A)と外表面層(B)及び下地層(C)との積層フィルム層とし、上記中間層(A)には10重量%以上の多量の着色剤粒子を配合して隠蔽力を向上させ、一方外表面層(B)には中間層は20重量%以下の低い着色剤粒子を配合し、且つ中間層(A)よりも低い濃度で着色剤粒子を配合することにより、絞りしごき加工時における工具の摩耗を防止し、また、加工時におけるフィルムの削れ乃至磨耗を防止することができる。 【0020】 また、下地層(C)にも中間層よりも低い濃度で着色剤を含有させることにより、金属基体との密着性を向上させ、ラミネートの加工性を向上させ、成形後の缶の耐腐食性を向上させることができる。 【0021】 添付図面図3を参照されたい。図3は、樹脂被覆金属板についてモデル回転摩擦試験(又は動摩擦試験という、詳細は後述する)を行った場合の結果、即ち外表面層の二酸化チタンの含有量と、回転摩擦係数及び鋼球磨耗体積、被覆表面との関係を示している。 【0022】 この結果によると、二酸化チタンの含有量が増大するにつれて、回転摩擦係数も鋼球摩耗体積も共に増大するが、鋼球磨耗体積は二酸化チタンの含有量が20重量%を越える付近から急激に大きくなっている。又、外表面層の表面状態を顕微鏡観察した結果、二酸化チタンの含有量が増大するにつれてフィルムの削れが増大していた。これらが外表面層(B)の着色剤粒子の含有量を20重量%以下としている一つの理由である。 【0023】 後述する実験例7を参照されたい。一定量の二酸化チタンを単一のポリエステル層に含有させた(含有量25重量%)フィルムを張り合わせたラミネート板を絞りしごき成形に付した場合、缶成形後には、ボトム凹み、抜け不良が発生し、実際にしごきリングには疵の発生も認められるのに対して、中間層、外表面層、下地層から成る積層フィルムとし、上記と同じ量の二酸化チタンを中間層に、外表面層及び下地層には中間層より低い濃度の二酸化チタンを配合したラミネート板を絞りしごき加工に付した場合には、上記の成形不良は全く認められず、しごきリングの疵れも全く認められないのである。(実験例3を参照) 【0024】 ポリエステルフィルムを下層と上層との2層構成とし、下層には高濃度で二酸化チタンを含有させ(含有量35重量%)、上層には低濃度の二酸化チタンを含有させたラミネート板を絞りしごき成形に付した場合には、実缶についてデンティングテストを行ったとき、フィルム層の剥離と、貯蔵中のフィルム下腐食(UFC)を発生することが認められたのに対して、上記の3層フィルムのラミネート板では、デンティングテストでもフィルム剥離が認められず、UFCの発生も全く認められなかった。これは、着色剤含有量の少ない下地層(C)が金属基体との接着性に優れていると共に、この下地層(C)が衝撃緩和層として作用するためと考えられる。 【0025】 本発明において、中間層(A)に着色剤を高濃度で含有させ、外表面層(B)及び下地層(C)に低濃度で含有させることは、積層フィルムの製膜、金属板へのラミネーション及び絞りしごき加工性の点でも幾多の利点をもたらす。即ち、この多層フィルムは、対称或いは対称に近い構造となっているため、製膜が容易であり、更に金属へのラミネーションに際しても歪みを生ずることがなく、良好な作業性をもって積層及び接着を行うことができる。また、歪みの少ない状態でフィルムが積層されていること及び着色剤を低濃度で含有する外表面層(B)及び下地層(C)が加工力が過度に増大するのを防ぐため、しごき成形性を向上させ、製缶速度を増大させることができる。 【0026】 [金属板] 本発明では、金属板としては各種表面処理鋼板やアルミニウム等の軽金属板が使用される。 【0027】 表面処理鋼板としては、冷圧延鋼板を焼鈍後二次冷間圧延し、亜鉛メッキ、錫メッキ、ニッケルメッキ、電解クロム酸処理、クロム酸処理等の表面処理の一種または二種以上行ったものを用いることができる。好適な表面処理鋼板の一例は、電解クロム酸処理鋼板であり、特に10乃至200mg/m2の金属クロム層と1乃至50mg/m2(金属クロム換算)のクロム酸化物層とを備えたものであり、このものは塗膜密着性と耐腐食性との組合せに優れている。表面処理鋼板の他の例は、0.5乃至11.2g/m2の錫メッキ量を有する硬質ブリキ板である。このブリキ板は、金属クロム換算で、クロム量が1乃至30mg/m2となるようなクロム酸処理或いはクロム酸-リン酸処理が行われていることが望ましい。 【0028】 更に他の例としては、アルミニウムメッキ、アルミニウム圧接等を施したアルミニウム被覆鋼板が用いられる。 【0029】 軽金属板としては、所謂アルミニウム板の他に、アルミニウム合金板が使用される。耐腐食性と加工性との点で優れたアルミニウム合金板は、Mn:0.2乃至1.5重量%、Mg:0.8乃至5重量%、Zn:0.25乃至0.3重量%、及びCu:0.15乃至0.25重量%、残部がAlの組成を有するものである。これらの軽金属板も、金属クロム換算で、クロム量が20乃至300mg/m2となるようなクロム酸処理或いはクロム酸/リン酸処理が行われていることが望ましい。 【0030】 金属板の素板厚、即ち缶底部の厚み(tB)は、金属の種類、容器の用途或いはサイズによっても相違するが、一般に0.10乃至0.50mmの厚みを有するのがよく、この内でも表面処理鋼板の場合には、0.10乃至0.30mmの厚み、また軽金属板の場合には0.15乃至0.40mmの厚みを有するのがよい。 【0031】 [ポリエステル系積層フィルム] 本発明に用いる積層フィルムは、少なくとも中間層(A)、外表面層(B)及び下地層(C)の三層を有し、中間層(A)が10重量%以上の着色剤を含有し、外表面層(B)及び下地層(C)が20重量%以下の着色剤粒子を含有し、且つ外表面層及び下地層の濃度が中間層より低い濃度で着色剤含有量を有する限り、任意の構成をとることができる。 【0032】 着色剤(顔料)の適当な例は次の通りである。 黒色顔料カーボンブラック、アセチレンブラック、ランブラック、アニリンブラック。 黄色顔料黄鉛、亜鉛黄、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、ネーブルスイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローG、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマンネントイエローNCG、タートラジンレーキ。 燈色顔料赤口黄鉛、モリブテンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、インダスレンブリリアントオレンジRK、ベンジジンオレンジG、インダスレンブリリアントオレンジGK。 赤色顔料ベンガラ、カドミウムレッド、鉛丹、硫化水銀カドミウム、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウオッチングレッドカルシウム塩、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミン3B。 紫色顔料マンガン紫、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキ。 青色顔料紺青、コバルトブルー、アルカリブルーレーキ、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダスレンブルーBC。 緑色顔料クロムグリーン、酸化クロム、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキ、ファナルイエローグリーンG。 白色顔料亜鉛華、酸化チタン、アンチモン白、硫化亜鉛。 体質顔料バライト粉、炭酸バリウム、クレー、シリカ、ホワイトカーボン、タルク、アルミナホワイト。 【0033】 着色剤の粒径は、一般に0.1乃至2.5μm、特に0.1乃至2.0μmの範囲にあることが、好ましい。即ち、粒径があまり大きいと、絞りしごき加工性が悪くなる傾向があり、一方粒径があまりにも小さいと隠蔽力が低下する傾向がある。 【0034】 本発明の目的に特に好適な着色剤は、二酸化チタン特にルチル型或いはアナターゼ型の二酸化チタンであり、このものは白色で大きい隠蔽力を有している。 【0035】 ポリエステル系樹脂としては、エチレンテレフタレート、エチレンイソフタレート、ブチレンテレフタレート、ブチレンイソフタレート及びエチレンナフタレートから成る群より選択された少なくとも1種のエステル単位を主体とするポリエステルであることが、絞りしごき加工性、機械的強度、耐腐食性、耐熱性等の点で好ましく、このポリエステルは、ホモポリエステルでも、上記エステル単位の2種以上或いは、上記エステル単位の1種以上と他のエステル単位の1種以上とから成る共重合ポリエステルでもよく、更にこれらのポリエステルの2種以上のポリエステルブレンド物でもよい。 【0036】 また、積層フィルムの中間層(A)、外表面層(B)及び下地層(C)を構成するポリエステルは、互いに共通のものでも、或いは互いに異なるものでもよい。例えば、中間層(A)を構成するポリエステルは、着色剤の分散が容易に行えるように、比較的低融点のポリエステルとし、外表面層(B)を構成するポリエステルは、耐熱性を有するように、比較的高融点のポリエステルとすることができる。また、下地層(C)を構成するポリエステルは、比較的低融点の熱接着性のあるポリエステルとすることができる。 【0037】 外表面層(B)のポリエステル系樹脂は180乃至270℃、特に200乃至270℃の融点を有することが、容器の耐熱性と、フィルム層の機械的性質と加工性の点で好ましい。 【0038】 本発明に用いるポリエステル系樹脂は、テレフタル酸を主体とする二塩基酸とエチレングリコールを主体とするジオールとから誘導されたホモポリエステル或いは共重合ポリエステルであることが好ましい。 【0039】 テレフタル酸以外の二塩基酸としては、イソフタール酸、P-β-オキシエトキシ安息香酸、ナフタレン-2,6-ジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4’-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等を挙げることができ。 【0040】 また、エチレングリコール以外のジオール成分としては、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物などのグリコール成分を挙げることができる。 【0041】 これらのホモポリエステル或いは共重合ポリエステルは、フィルム形成範囲の分子量を有するべきであり、溶媒として、フェノール/テトラクロロエタン混合溶媒を用いて測定した固有粘度〔η〕は0.5乃至1.5、特に0.6乃至1.5の範囲にあるのがよい。 【0042】 本発明において、中間層(A)の着色剤粒子含有量が10乃至70重量%、特に15乃至70重量%であり、且つ外表面層(B)及び下地層(C)の着色剤含有量が0乃至18重量%、特に0乃至15重量%であること、且つ外表面層(B)及び下地層(C)が中間層(A)よりも着色剤含有量の濃度が小さいことが好ましい。中間層(A)の着色剤含有量が上記範囲よりも低い場合には、隠蔽力を高く維持しつつ絞りしごき成形性を良好にするという本発明の利点が失われ、一方上記範囲よりも高いと、絞りしごき成形時にフィルム層破断等のトラブルを生じやすい。また、外表面層(B)及び下地層(C)の着色剤濃度が上記範囲よりも高いと、工具の磨耗性が大きくなったり、金属との密着性が低下したりする。 【0043】 前記中間層(A)と前記外表面層(B)または下地層(C)との厚みの比が2:1乃至100:1の範囲、特に5:1乃至100:1の範囲にあることが好ましい。中間層(A)の厚み比が上記範囲よりも小さいと、著しく隠蔽力が不足する傾向があり、外表面層(B)或いは下地層(C)の厚み比が上記範囲よりも少ないと、工具の摩耗傾向が大きくなり、また金属との密着性も低下する傾向がある。 【0044】 また、積層フィルムの全体の厚みが2乃至50μm、特に5乃至50μmの範囲にあることが好ましく、上記範囲よりも薄いときには、耐腐食性が十分ではなく、一方上記範囲よりも大きいときには、絞りしごき性が低下する傾向がある。 【0045】 ポリエステル系積層フィルムは一般に二軸延伸されていることが好ましいが、未延伸のものでもよい。二軸配向の程度は、X線回折法、偏光蛍光法、複屈折法、密度勾配管法密度等でも確認することができる。フィルムの2軸延伸の程度は、密度法結晶化度が10乃至50%程度であるのがよい。 【0046】 勿論、このポリエステル系積層フィルムには、それ自体公知のフィルム用配合剤、各種帯電防止剤、滑剤等を公知の処方に従って配合することができる。 【0047】 一般に必要でないが、接着用プライマーを用いる場合には、フィルムへの接着用プライマーとの密着性を高めるために、二軸延伸ポリエステル積層フィルムの表面をコロナ放電処理しておくことが一般に望ましい。コロナ放電処理の程度は、そのぬれ張力が44dyne/cm以上となるようなものであることが望ましい。この他、フィルムへのプラズマ処理、火炎処理等のそれ自体公知の接着性向上表面処理やウレタン樹脂系、変性ポリエステル樹脂系等の接着性向上コーティング処理を行っておくことも可能である。 【0048】 尚、缶内面側となる側に設ける他の樹脂層としては、必要に応じて着色剤を配合してもよいが、上記と同様なポリエステル系フィルムが使用される。このフィルムは単層フィルムでも、積層フィルムであってもよい。 【0049】 [ラミネートの製造方法] 本発明に用いるポリエステル-金属ラミネート板は、ポリエステル系積層フィルムを下地層(C)の面で金属に熱接着させることにより製造することができる。また、別法として、前述した積層構成のポリエステルを多層多重ダイスを通して溶融押出し、この押出物で金属基板にコートすることができる。 【0050】 ポリエステル-金属ラミネート板の製造方法を説明するための図4において、金属板2を加熱ロール10により用いるポリエステルの融点(Tm)近傍の温度(T1)に加熱し、ラミネートロール11、11間に供給する。一方、缶外面側にあたるポリエステル多層フィルム12は、供給ロール13から巻きほぐされラミネートロール11、11間に、又、缶内面側にあたるポリエステル系フィルム14は供給ロール15から巻きほぐされラミネートロール11、11間に、双方が金属板2をサンドイッチする位置関係で供給される。ラミネートロール11、11は、加熱ロール10よりも若干低い温度(T2)に保たれており、金属板2の両面にポリエステルフィルムを熱接着させる。ラミネートロール11、11の下方には、形成されるラミネート16を急冷するための冷却水17を収容した水槽が設けられており、この水槽中にラミネートを導くガイドローラ18が配置されている。ラミネートロール11、11と冷却水16との間には一定の間隔のギャップ19を形成し、このギャップ19に保温機構20を設けて、一定の温度範囲(T3)に保持し、接着を促進するようにすることができる。 【0051】 金属板の加熱温度(T1)は、一般にTm-50乃至Tm+100℃、特にTm-50乃至Tm+50℃の温度が適当であり、一方ラミネートロール11の温度(T2)は、T1-300乃至T1-10℃、特にT1-250乃至T1-50℃の範囲が適当である。ラミネートロール通過後のラミネート板を、保温域で保温するのが有効であり、この保持温度(T3)は、ラミネートロール11の温度T2を基準にして、T2+5℃乃至T2-50℃、特に二軸延伸フィルムの場合はフィルムヒートッセット温度℃乃至Tm-5℃、叉は未延伸フィルムの場合はTg+5℃乃至Tm℃の範囲が適当である。上記温度T2への保持時間は0.1乃至10秒、特に0.1乃至3秒が適当である。 【0052】 ポリエステルフィルムと金属素材の間に所望により設ける接着プライマーは、金属素材とフィルムとの両方に優れた接着性を示すものである。密着性と耐腐食性とに優れたプライマー塗料の代表的なものは、種々のフェノール類とホルムアルデヒドから誘導されるレゾール型フェノールアルデヒド樹脂と、ビスフェノール型エポキシ樹脂とから成るフェノールエポキシ系塗料であり、特にフェノール樹脂とエポキシ樹脂とを50:50乃至5:95重量比、特に40:60乃至10:90の重量比で含有する塗料である。 【0053】 接着プライマー層は、一般に0.01乃至10μmの厚みに設けるのがよい。接着プライマー層は予め金属素材上に設けてよく或いは予めポリエステルフィルム上に設けてもよい。 【0054】 [シームレス缶の製造] 本発明では、上記の積層ポリエステル-金属ラミネート板をポンチとダイスとの間で、有底カップに絞り-深絞り成形し、深絞り段階で曲げ伸しとしごきによりカップ側壁部の薄肉化を行なうことによりシームレス缶を製造する。この絞りしごき加工で、缶胴のフィルム層において、適当な一軸配向が付与されることによって、耐腐食性や密着性に優れたポリエステル積層フィルム層を、シームレス缶の側壁部に形成させるには、薄肉化のための変形を、缶軸方向(高さ方向)の荷重による変形(曲げ伸ばし)と缶厚み方向の荷重による変形(しごき)との組み合わせでしかもこの順序に行うことが重要である。 【0055】 ラミネート板の絞り-しごき成形は次の手段で行われる。即ち、図5に示す通り、被覆金属板から成形された前絞りカップ21は、このカップ内に挿入された環状の保持部材22とその下に位置する再絞り-しごきダイス23とで保持される。これらの保持部材22及び再絞り-しごきダイス23と同軸に、且つ保持部材22内を出入し得るように再絞り-しごきポンチ24が設けられる。再絞り-しごきポンチ24と再絞り-しごきダイス23とを互いに噛みあうように相対的に移動させる。 【0056】 再絞り-しごきダイス23は、上部に平面部25を有し、平面部の周縁に曲率半径の小さい作用コーナー部26を備え、作用コーナー部に連なる周囲に下方に向けて径の増大するテーパー状のアプローチ部27を有し、このアプローチ部に続いて小曲率部28を介して円筒状のしごき用のランド部(しごき部)29を備えている。ランド部29の下方には、逆テーパ状の逃げ30が設けられている。 【0057】 前絞りカップ21の側壁部は、環状保持部材22の外周面31から、その曲率コーナ部32を経て、径内方に垂直に曲げられて環状保持部材22の環状底面33と再絞りダイス23の平面部25とで規定される部分を通り、再絞りダイス23の作用コーナ部26により軸方向にほぼ垂直に曲げられ、前絞りカップ21よりも小径の深絞りカップに成形される。この際、作用コーナー部26において、コーナー部26と接する側の反対側の部分は、曲げ変形により伸ばされ、一方、作用コーナー部と接する側の部分は、作用コーナー部を離れた後、戻し変形で伸ばされ、これにより側壁部の曲げ伸ばしによる薄肉化が行われる。 【0058】 曲げ伸ばしにより薄肉化された側壁部は、その外面が径の次第に増大する小テーパー角のアプローチ部27と接触し、その内面がフリーの状態で、しごき部29に案内される。側壁部がアプローチ部を通過する工程は続いて行うしごき工程の前段階であり、曲げ伸ばし後のラミネート板を安定化させ、且つ側壁部の径を若干縮小させて、しごき加工に備える。即ち、曲げ伸ばし直後のラミネート板は、曲げ伸ばしによる振動の影響があり、フィルム内部には歪みも残留していて、未だ不安定な状態にあり、これを直ちにしごき加工に付した場合には、円滑なしごき加工を行い得ないが、側壁部の外面側をアプローチ部27と接触させてその径を縮小させると共に、内面側をフリーの状態にすることにより、振動の影響を防止し、フィルム内部の不均質な歪みも緩和させて、円滑なしごき加工を可能にするものである。 【0059】 アプローチ部27を通過した側壁部は、しごき用のランド部(しごき部)29と再絞り-しごきポンチ24との間隙に導入され、この間隙(C1)で規制される厚みに圧延される。最終側壁部の厚みC1は積層体元厚(t)の10乃至70%、特に10乃至65%の厚みとなるように定めるが、厚みの減少率の内、98乃至40%C、特に95乃至40%が曲げ伸ばしにより、残りの2乃至60%、特に5乃至60%がしごきにより与えられるようにすることが、ポリエステルの配向のバランスの点で好ましい。尚、しごき部導入側の小曲率部28は、しごき開始点を有効に固定しながら、しごき部29への積層体の導入を円滑に行うものであり、ランド部29の下方の逆テーパ状の逃げ30は、加工力の過度の増大を防ぐものである。 【0060】 再絞り-しごきダイス23の曲率コーナー部26の曲率半径Rdは、曲げ伸ばしを有効に行う上では、ラミネートの肉厚(t)の2.9倍以下、特に2.5倍以下であるべきであるが、この曲率半径があまり小さくなるとラミネートの破断が生じることから、ラミネートの肉厚(t)の1倍以上、特に1.2倍以上であるべきである。 【0061】 テーパー状のアプローチ部27のアプローチ角度(テーパー角度の1/2)αは1乃至8°、特に1.5乃至5.0°を有するべきである。このアプローチ部角度が上記範囲よりも小さいと、ポリエステルフィルム層の配向緩和やしごき前の安定化が不十分なものとなり、アプローチ部角度が上記範囲よりも大きいと、曲げ伸ばしが不均一な(戻し変形が不十分な)ものとなり、何れの場合もフィルムの割れや剥離を生じる。 【0062】 小曲率部28の曲率半径Riは、しごき開始点の固定有効に行う上では、ラミネートの肉厚(t)の0.3倍以上、20倍以下であるべきであるが、この曲率半径があまり小さくなるとラミネートの破断が生じる。 【0063】 しごき用のランド部29と再絞り-しごきポンチ24ポンチとクリアランスは前述した範囲にあるが、ランド長Lは、一般に0.5乃至3mm、特に0.7乃至1.5mmの長さを有しているのがよい。この長さが上記範囲よりも大きいと加工力が過度に大きくなる傾向があり、一方上記範囲よりも小さいとしごき加工後の戻りが大きく、好ましくない場合がある。 【0064】 シームレス缶を製造するに際して、表面のポリエステル層は十分な潤滑性能を付与するものであるが、より潤滑性を高めるために、各種油脂類或いはワックス類等の潤滑剤を少量塗布しておくことができる。勿論、潤滑剤を含有する水性クーラント(当然冷却も兼ねる)を使用することもできるが、操作の簡単さの点では避けた方がよい。 【0065】 また、絞りしごき加工時の温度(製缶終了直後の缶温度)は、常温から樹脂の融点Tm以下の範囲にあることが好ましい。このため、工具の加温を行ったり、或いは逆に冷却を行うことが好ましい。 【0066】 次いで絞り成形後の容器を、少なくとも一段の熱処理に付することができる。この熱処理には、種々の目的があり、加工により生じるフィルムの残留歪を除去すること、加工の際用いた潤滑剤を表面から揮散させること、表面に印刷した印刷インキを乾燥硬化させること等が主たる目的である。この熱処理には、赤外線加熱器、熱風循環炉、誘導加熱装置等それ自体公知の加熱装置を用いることができる。また、この熱処理は一段で行ってもよく、2段或いはそれ以上の多段で行うこともできる。熱処理の温度は、180乃至270℃の範囲が適当である。熱処理の時間は、一般的にいって、1秒乃至10分のオーダーである。 【0067】 熱処理後の容器は急冷してもよく、また放冷してもよい。即ち、フィルムや積層板の場合には急冷操作が容易であるが、容器の場合には、三次元状でしかも金属による熱容量も大きいため、工業的な意味での急冷操作はたいへんであるが、本発明では急冷操作なしでも、結晶成長が抑制され、優れた組合せ特性が得られるのである。勿論、所望によっては、冷風吹付、冷却水散布等の急冷手段を採用することは任意である。 【0068】 得られた缶は、所望により、一段或いは多段のネックイン加工に付し、フランジ加工を行って、所望により胴壁部にパネル加工等の後加工を行って、巻締用の缶とする。 【0069】 【実施例】 本発明を次の例で説明する。本発明の特性値は以下の測定法による。 【0070】 ▲1▼素板厚に対する缶側壁部の厚み積層ラミネー卜板の素板厚をt0、成形後の缶側壁部の厚みをt1としたとき、素板厚に対する缶側壁部の厚み(%)は、t1/t0×100より求めた。 【0071】 ▲2▼しごき率の算出方法図5に示した通り、ラミネート板の絞り-しごき成形途中の、作用コーナー部26を経た直後の板厚をta、しごき加工を経たランド部29の直後の板厚をtbとするとき、しごき率は下記式より求める。 しごき率(%)=(ta-tb)/ta×100 【0072】 ▲3▼モデル回摩擦試験(又は動摩擦試験) 工具摩耗のモデル評価を行うために、回転速度を60公転/分とした鋼球を積層ラミネート板の外表面層にあたる側に鋼球を接触させて回転摩擦試験を行った。鋼球にかかる荷重Wを506.7gとし、一回公転毎に一方向に約0.45mmずらして常に新しい表面を走査させた。この走査を1分40秒間行ったときの回転摩擦抵抗(又は同摩擦抵抗)Fr(g)を測定した。回転摩擦抵抗の測定例を図6に示した。モデル回転摩擦試験より、以下に示す回転摩擦係数(又は、動摩擦係数)、鋼球摩耗量、フィルム表面の削れ評価を行った。測定は常温で行った。 【0073】 ▲3▼-a.回転摩擦係数の算出方法 回転摩擦係数μrは、回転摩擦抵抗をFr(g)、鋼球にかかる荷重をW(g)としたとき、下記式より求めた。 μr=Fr/W 【0074】 ▲3▼-b.鋼球摩耗量の算出方法 モデル回転摩擦試験に供した鋼球の摩耗痕の測定から鋼球摩耗体積を近似した。使用した鋼球の半径をrとし、鋼球面に現れた円形摩耗痕の直径をdとする。摩耗痕が円形でない場合は平均化した値をdとした。体積は幾何学的に、 V≒π/64×(d4/r-d6/24/r3) で求められ、これを鋼球摩耗体積とした。ここで使用した鋼球は半径r=2.5mm、ビッカース硬度HV=980であった。 【0075】 ▲3▼-c.フィルム表面の削れ評価 モデル回転摩擦試験に供したフィルム表面を顕微鏡観察し、フィルムの削れ状態を○、△、×で評価した。評価基準とした削れの程度は、 ○:小〜中程度の削れ、(フィルムに亀裂は無い) △:大きい削れ、叉はフィルムに亀裂を生じる ×:フィルムが破れる で定義し、○を実用範囲とした。 【0076】 ▲4▼製缶温度測定 絞り-しごき成形直後の缶を、アゲマ社製サーモビジョン870により測定し、この温度を製缶温度とした。 【0077】 ▲5▼貯蔵試験 相対湿度80%、37℃の温度で貯蔵試験を行い3ヶ月後の缶の状態を調べた。 【0078】 実験例1 素板厚0.18mm、調質度DR6のTFS(電解クロム酸処理鋼板)の片面(容器の外面となるべき面)に表1に示す厚み25μm、融点225℃のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート積層二軸延伸フィルムを、他方の面(容器の内面となるべき面)に厚み25μm、融点225℃のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート二軸延伸フィルムを、板温235℃、ラミネートロール温度160℃、通板速度20m/分で熱ラミネートし、直ちに水冷を行ってラミネート金属板を得た。このラミネート金属板の両面にワックス系潤滑剤を塗布し、直径166mmの円形ブランクを打ち抜き、浅絞りカップを得た。次いでこの浅絞りカップを再絞りしごきを行い深絞りしごきカップを得た。この深絞りしごきカップの諸特性は以下の通りであった。 カップ径 60mm カップ高さ 128mm 素板厚に対する缶側壁部の厚み 65% しごき率 12% この深絞りカップを常法に従いドーミング成形を行い、215℃にて熱処理を行った後、カップを放冷後、トリミング加工、曲面印刷及び焼き付け乾燥、ネッキング加工、フランジング加工を行って350g用シームレス缶を得た。連続で10万缶製缶した結果は表1に示したが、製缶状態は安定しており、缶外面のフィルムの削れなどの外観不良は見られなかった。深絞りしごき成形直後の缶温はサーモビジョン測定により95℃であった。一方、用いた積層ラミネート板について、容器の外面となる面のモデル回転摩擦試験を前述に示した様に行った結果、小〜中程度の削れが生じたがフィルムに亀裂は生じなかった。評価結果は良好で実用範囲内と判断した。 【0079】 実験例2 表1の実験例2に示したイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート積層二軸延伸フィルムを外面となるべき面に使用した以外は実験例1と同様に行い、350g用シームレス缶を得た。連続で10万缶製缶した結果を表1に示したが、製缶状態は安定しており、缶外面のフィルムの削れなどの外観不良は見られなかった。深絞りしごき成形直後の缶温は90℃であった。一方、用いた積層ラミネート板について、容器の外面となる面のモデル回転摩擦試験を前述に示した様に行った結果、削れの程度は小さく、評価結果は良好で実用範囲内と判断した。 【0080】 実験例3 表1の実験例3に示したイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート積層二軸延伸フィルムを外面となるべき面に使用し、板温を240℃とした以外は実験例1と同様に行い、350g用シームレス缶を得た。連続で10万缶製缶した結果を表1に示したが、製缶状態は安定しており、缶外面のフィルムの削れなどの外観不良は見られなかった。深絞りしごき成形直後の缶温は90℃であった。一方、用いた積層ラミネート板について、容器の外面となる面のモデル回転摩擦試験を前述に示した様に行った結果、削れの程度は小さく、評価結果は良好で実用範囲内と判断した。 【0081】 実験例4 素板厚0.280mmに表1の実験例4に示したイソフタル酸共重合積層二軸延伸フィルムを外面となるべき面に使用し、内面となるべき面に融点235℃のポリブチレンテレフタレート30重量%を含むイソフタル酸共重合二軸延伸フィルムを、板温を245℃、ラミネートロール温度を120℃とした以外は実験例1と同様に積層ラミネート板を得て、このラミネート板を直径162mmの円板に打ち抜き、浅絞りカップを得た。次いで、このカップを薄肉化再絞り-しごき加工を行いカップを得た。この深絞りしごきカップの諸特性は以下の通りであった。 カップ径 52mm カップ高さ 135mm 素板厚に対する缶側壁部の厚み 75% しごき率 10% 実験例1と同様に行い、250g用シームレス缶を得た。連続で10万缶製缶した結果は表1に示したが、製缶状態は安定しており、缶外面のフィルムの削れなどの外観不良は見られなかった。深絞りしごき成形直後の缶温は110℃であった。一方、用いた積層ラミネート板について、容器の外面となる面のモデル回転摩擦試験を前述に示した様に行った結果、小〜中程度の削れが生じ、評価結果は良好で実用範囲内と判断した。 【0082】 実験例5 素板厚0.240mmに表1の実験例5に示したポリエチレンナフタレート・ポリエチレンテレフタレート共重合積層二軸延伸フィルムを外面となるべき面に使用し、内面となるべき面に融点250℃のポリエチレンナフタレート・ポリエチレンテレフタレート共重合二軸延伸フィルムを、板温を280℃、ラミネートロール温度を160℃とした以外は実験例1と同様に積層ラミネート板を得て、このラミネート板を直径143mmの円板に打ち抜き、浅絞りカップを得た。次いで、このカップを薄肉化再絞り-しごき加工を行いカップを得た。この深絞りしごきカップの諸特性は以下の通りであった。 カップ径 52mm カップ高さ 112mm 素板厚に対する缶側壁部の厚み 73% しごき率 13% この深絞りしごきカップを陰圧缶用のドーミング成形に賦し、更にドーミング成形後の熱処理温度を245℃とした以外は実験例1と同様に行い、200g用シームレス缶を得た。連続で10万缶製缶した結果は表1に示したが、製缶状態は安定しており、缶外面のフィルムの削れなどの外観不良は見られなかった。深絞りしごき成形直後の缶温は125℃であった。一方、用いた積層ラミネート板について、容器の外面となる面のモデル回転摩擦試験を前述に示した様に行った結果、削れの程度は小さく評価結果は良好で実用範囲内と判断した。 【0083】 実験例6 表1の実験例6に示したイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート積層樹脂構成で外面となるべき面に、厚み30μm、融点225℃のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を内面となるべき面に共押出コートし、ラミネート板を得た以外は実験例1と同様に行い、350g用シームレス缶を得た。連続で10万缶製缶した結果は表1に示したが、製缶状態は安定しており、缶外面のフィルムの削れなどの外観不良は見られなかった。深絞りしごき成形直後の缶温は95℃であった。一方、用いた積層ラミネート板について、容器の外面となる面のモデル回転摩擦試験を前述に示した様に行った結果、小〜中程度の削れではあったがフィルムに亀裂は無く、評価結果は良好で実用範囲内であると判断した。 【0084】 実験例7 表1の実験例7に示したイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート積層二軸延伸フィルムを外面となるべき面に使用した以外は実験例1と同様に行い、350g用シームレス缶を得た。連続で9万缶程度から缶外面のフィルム削れが多発し、安定した製缶状態が得られなかった。缶の外観状態は実用性に適さないと判断した。しごきリング表面に疵が付いていた。深絞りしごき成形直後の缶温は90℃であった。一方、用いた積層ラミネート板について、容器の外面となる面のモデル回転摩擦試験を前述した様に行った結果、フィルムの削れが大きく、更にフィルムに亀裂や破れを生じていた。このため実用には適さないと判断した。 【0085】 実験例8 表1の実験例8に示したイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート積層二軸延伸フィルムを外面となるべき面に使用した以外は実験例1と同様に行い、350g用シームレス缶を得た。連続で9万缶程度から缶外面のフィルム削れが多発し、安定した製缶状態が得られなかった。缶の外観状態は実用性に適さないと判断した。しごきリング表面に疵が付いていた。深絞りしごき成形直後の缶温は80℃であった。 【0086】 一方、用いた積層ラミネート板について、容器の外面となる面のモデル回転摩擦試験を前述に示した様に行った結果、フィルムの削れが大きく、更にフィルムに亀裂や破れを生じていた。このため実用には適さないと判断した。 【0087】 実験例9 表1の実験例9に示したイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート積層二軸延伸フィルムを外面となるべき面に使用し、しごき率を1%にした以外は実験例4と同様に行い、250g用シームレス缶を得た。深絞りしごき成形直後の缶温は160℃であった。連続で5万缶程度から缶外面のフィルム削れが多発し、安定した製缶状態が得られなかった。缶の外観状態は実用に適さないと判断した。しごきリング表面に若干疵が付いていた。又、印刷焼き付け工程でフィルムの溶融が生じ印刷品質が劣っていた。 【0088】 実験例10 表1の実験例10に示したイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート積層二軸延伸フィルムを外面となるべき面に使用し、成形直後の缶温が270℃になる様に工具温度を加温調した以外は実験例4と同様に行い、250g用シームレス缶を製缶した。製缶直後から外面フィルムが工具に融着し、連続製缶が不能であった。 【0089】 実験例11 表1の実験例11に示したポリエチレンナフタレート・ポリエチレンテレフタレート共重合積層二軸延伸フィルムを外面となるべき面に使用し、成形直後の缶温が10℃になる様に工具温度を冷却温調した以外は実験例5と同様に行い、200g用シームレス缶を製缶した。製缶直後から破胴したり、デラミが生じたために連続製缶が不能であった。 【0090】 実験例12 表1の実験例12に示したイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート積層二軸延伸フィルムを外面となるべき面に使用した以外は実験例1と同様に行い、350g用シームレス缶を得た。製缶後の缶のフランジ先端部にデラミを生じた。又、相対湿度80%、37℃で3ヶ月経時した結果、ネック部から巻締め部にかけてフィルム下腐食がみられ、実用に適さないと判断した。 【0091】 【表1】 【0092】 【発明の効果】 本発明によれば、熱可塑性樹脂層が10重量%以上の着色剤粒子を含有するポリエステル系樹脂中間層(A)と、20重量%以下(但し0重量%を除く)の着色剤粒子を含有し、且つ着色剤粒子を前記中間層より低い濃度で含有する、ポリエステル系樹脂外表面層(B)及びポリエステル系樹脂下地層(C)との積層フィルム層を、絞りしごき成形に付することによって、製缶に際して、加工具、特にしごきリングの磨耗を低減させ、フィルム層の削れを防止して、隠蔽性、密着性及び耐腐食性に優れた被覆シームレス缶を能率よく製造できる。 【図面の簡単な説明】 【図1】 製缶用ラミネート板の断面構造の一例を示す図である。 【図2】 製缶用ラミネート板の断面構造の一例を示す図である。 【図3】 外表面層の酸化チタン含有量と回転摩擦係数(又は動摩擦係数)及び鋼球摩耗体積との関係を示す図である。 【図4】 ラミネート金属板の製造装置の概略図である。 【図5】 ラミネート金属板の絞り-しごき成形の説明図である。 【図6】 モデル回転摩擦試験(又は動摩擦試験)における回転摩擦抵抗(又は動摩擦抵抗)の測定例を示す図である。 【符号の説明】 1 ラミネート板 2 金属基板 3 積層樹脂層 4 他の樹脂層 5 中間層(A) 6 外表面層(B) 7 下地層(C) 8 接着用プライマー層 9 接着用プライマー層 10 加熱ロール 11,11 ラミネートロール 12 ポリエステル多層フィルム 13 供給ロール 14 ポリエステル系フィルム 15 供給ロール 16 ラミネート 17 冷却水 18 ガイドローラ 19 ギャップ 20 保温機構 21 前絞りカップ 22 保持部材 23 再絞り-しごきダイス 24 再絞り-しごきポンチ 25 平面部 26 作用コーナー部 27 アプローチ部 28 小曲率部 29 ランド部 30 逆テーパ状の逃げ 31 外周面 32 曲率コーナ部 33 環状底面 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2003-09-22 |
出願番号 | 特願平8-110868 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YA
(B32B)
P 1 651・ 161- YA (B32B) |
最終処分 | 維持 |
特許庁審判長 |
高梨 操 |
特許庁審判官 |
須藤 康洋 石井 克彦 |
登録日 | 2001-01-12 |
登録番号 | 特許第3146973号(P3146973) |
権利者 | 東洋製罐株式会社 |
発明の名称 | ラミネート板及びこれを用いた製缶方法 |
代理人 | 奥貫 佐知子 |
代理人 | 小野 尚純 |
代理人 | 奥貫 佐知子 |
代理人 | 小野 尚純 |