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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
管理番号 1088042
異議申立番号 異議2002-71990  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-05-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2002-08-07 
確定日 2003-10-01 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3259082号「血圧監視装置」の請求項1ないし6に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第3259082号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 同請求項4ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第3259082号発明は、平成7年11月2日に特許出願されたものであって、平成13年12月14日にその特許の設定登録がなされ、その後、特許異議申立人内田泰史より特許異議の申立がなされ、平成14年12月24日付けで取消理由通知がなされ、その指定期間内である平成15年3月11日付けで訂正請求がなされたものである。

2.訂正の適否についての判断
2.1 訂正事項
特許権者が求めている訂正の内容は以下のとおりである。
ア.訂正事項a
特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】 カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、
脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、
脈波または心拍数に関する循環動態を計測する循環動態計測手段と、
前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、および前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、逐次計測される前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、または逐次計測される前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分のうち、少なくともいずれか1つが所定閾値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする血圧監視装置。」

「【請求項1】 カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、
脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、
脈波または心拍数に関する循環動態を計測する循環動態計測手段と、
前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、および前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、逐次前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、または逐次前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分がそれぞれの閾値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする血圧監視装置。」
と訂正する。
イ.訂正事項b
特許請求の範囲の請求項2の記載
「 【請求項2】 カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、
脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、
脈波及び心拍数に関する循環動態を計測する循環動態計測手段と、
前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、および前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段とを備え、
前記脈波伝播時間計測手段は、大動脈の脈波を検出する脈波検出手段及び末梢血管の脈波を検出する脈波センサを有し、大動脈での脈波の出現と末梢血管での脈波の出現の時間差を計測し、
前記制御手段は、逐次計測される前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、または逐次計測される前記循環動態計測手段により計測された前記脈波及び前記心拍数に関する循環動態の変動分のうち、少なくともいずれか1つが所定閾値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする血圧監視装置。」

「 【請求項2】 カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、
脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、
脈波振幅、脈波直流分及び心拍数を計測する循環動態計測手段と、
前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、および前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分及び心拍数の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段とを備え、
前記脈波伝播時間計測手段は、大動脈の脈波を検出する脈波検出手段及び末梢血管の脈波を検出する脈波センサを有し、大動脈での脈波の出現と末梢血管での脈波の出現の時間差を計測し、
前記制御手段は、逐次前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、逐次前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の変動分のうち1つでもそれぞれの閾値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする血圧監視装置。」
と訂正する。
ウ.訂正事項c
特許請求の範囲の請求項3の記載
「 【請求項3】 カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、
脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、
脈波及び心拍数に関する循環動態を計測する循環動態計測手段と、
前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、および前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段とを備え、
前記脈波伝播時間計測手段は、心電図R波を検出する心電図R波検出手段及び末梢血管の脈波を検出する脈波センサを有し、心電図R波の出現と末梢血管での脈波の出現の時間差を計測し、
前記制御手段は、逐次計測される前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、または逐次計測される前記循環動態計測手段により計測された前記脈波及び前記心拍数に関する循環動態の変動分のうち、少なくともいずれか1つが所定閾値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする血圧監視装置。」

「 【請求項3】 カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、
脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、
脈波振幅、脈波直流分及び心拍数を計測する循環動態計測手段と、
前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、および前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分及び心拍数の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段とを備え、
前記脈波伝播時間計測手段は、心電図R波を検出する心電図R波検出手段及び末梢血管の脈波を検出する脈波センサを有し、心電図R波の出現と末梢血管での脈波の出現の時間差を計測し、
前記制御手段は、逐次前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、逐次前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の変動分のうち1つでもそれぞれの閾値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする血圧監視装置。」
と訂正する。
エ.訂正事項d
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
オ.訂正事項e
特許請求の範囲の請求項5を削除する。
カ.訂正事項f
特許請求の範囲の請求項6の記載
「【請求項6】 入力手段を備え、
前記制御手段は、この入力手段から入力された前記脈波伝播時間の閾値と前記循環動態の変動分の閾値とを記憶する記憶手段を備え、これらの閾値と、計測された前記脈波伝播時間の変動分と、計測された前記循環動態の変動分とをそれぞれ比較し、その結果に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の血圧監視装置。」

「【請求項4】 入力手段を備え、
前記制御手段は、この入力手段から入力された前記脈波伝播時間の閾値と前記循環動態の変動分の閾値とを記憶する記憶手段を備え、これらの閾値と、計測された前記脈波伝播時間の変動分と、計測された前記循環動態の変動分とをそれぞれ比較し、その結果に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする請求項1に記載の血圧監視装置。」
と訂正し、新請求項4とする。
キ.訂正事項g
特許請求の範囲の請求項6の記載
「【請求項6】 入力手段を備え、
前記制御手段は、この入力手段から入力された前記脈波伝播時間の閾値と前記循環動態の変動分の閾値とを記憶する記憶手段を備え、これらの閾値と、計測された前記脈波伝播時間の変動分と、計測された前記循環動態の変動分とをそれぞれ比較し、その結果に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の血圧監視装置。」

「【請求項5】 入力手段を備え、
前記制御手段は、この入力手段から入力された前記脈波伝播時間、脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の各変動分の閾値を記憶する記憶手段を備え、これらの閾値と、計測された前記脈波伝播時間、脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の変動分とをそれぞれ比較し、その結果に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする請求項2または3に記載の血圧監視装置。」
と訂正し、新請求項5とする。
ク.訂正事項h
本件特許明細書の段落【0009】の記載を
「【0009】
この原理に基づく請求項1の発明は、カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、脈波または心拍数に関する循環動態を計測する循環動態計測手段と、前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、および前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、逐次前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、または逐次前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分がそれぞれの閾値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする。」
と訂正する。
ケ.訂正事項i
本件特許明細書の段落【0010】の記載を
「【0010】
請求項2の発明は、カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、脈波振幅、脈波直流分及び心拍数を計測する循環動態計測手段と、前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、および前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分及び心拍数の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段とを備え、前記脈波伝播時間計測手段は、大動脈の脈波を検出する脈波検出手段及び末梢血管の脈波を検出する脈波センサを有し、大動脈での脈波の出現と末梢血管での脈波の出現の時間差を計測し、前記制御手段は、逐次前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、逐次前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の変動分のうち1つでもそれぞれの閾値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする。
また、請求項3の発明は、カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、脈波振幅、脈波直流分及び心拍数を計測する循環動態計測手段と、前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、および前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分及び心拍数の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段とを備え、前記脈波伝播時間計測手段は、心電図R波を検出する心電図R波検出手段及び末梢血管の脈波を検出する脈波センサを有し、心電図R波の出現と末梢血管での脈波の出現の時間差を計測し、前記制御手段は、逐次前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、逐次前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の変動分のうち1つでもそれぞれの閾値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする。」
と訂正する。
コ.訂正事項j
本件特許明細書の段落【0011】の記載を
「【0011】
請求項4の発明は、請求項1の装置において、入力手段を備え、前記制御手段は、この入力手段から入力された前記脈波伝播時間の閾値と前記循環動態の変動分の閾値とを記憶する記憶手段を備え、これらの閾値と、計測された前記脈波伝播時間の変動分と、計測された前記循環動態の変動分とをそれぞれ比較し、その結果に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする。また請求項5の発明は、請求項2または3に記載の装置において、入力手段を備え、前記制御手段は、この入力手段から入力された前記脈波伝播時間、脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の各変動分の閾値を記憶する記憶手段を備え、これらの閾値と、計測された前記脈波伝播時間、脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の変動分とをそれぞれ比較し、その結果に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする。」
と訂正する。
サ.訂正事項k
本件特許明細書の段落【0025】の記載を
「【0025】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1乃至5に記載の血圧監視装置によれば、従来与えていた被験者への負担を大幅に軽減でき、さらに脈波伝搬時間変動分では検出できない僅かな血圧変動を循環動態変動分で検出できるので、被験者の血圧変動の急変をより正確に監視することができる。」
と訂正する。

2.2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項aは、請求項1の記載中の「逐次計測される前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、または逐次計測される前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分のうち、少なくともいずれか1つが所定閾値を越えたときに、」の記載を「逐次前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、または逐次前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分がそれぞれの閾値を越えたときに、」と訂正することによって、変動分が閾値を越えた場合の態様を少なくするものであるから、特許法第120条の4第2項但し書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(2)訂正事項bおよびcは、請求項2または3の記載中の「脈拍及び心拍数に関する循環動態」の記載を「脈拍振幅、脈拍直流分及び心拍数」と訂正し、「循環動態」の記載を「脈拍振幅、脈拍直流分及び心拍数」と訂正することによって、循環動態の内容を具体的に限定するとともに、
「逐次計測される前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、または逐次計測される前記循環動態計測手段により計測された前記脈波及び前記心拍数に関する循環動態の変動分のうち、少なくともいずれか1つが所定閾値を越えたときに、」の記載を「逐次前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、逐次前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の変動分のうち1つでもそれぞれの閾値を越えたときに、」と訂正することによって、変動分が閾値を越えた場合の態様を少なくするものであるから、特許法第120条の4第2項但し書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3)訂正事項dおよびeは、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(4)訂正事項fおよびgは、訂正前の請求項6を、限定事項をそのままにして引用する請求項が1ないし5であったものを、請求項1のみとして新請求項4とし、また、限定事項のうち「循環動態」の記載を「脈波振幅、脈波直流分、および心拍数」に限定するとともに、引用する請求項を2または3に限定して新請求項5としたものであるから、全体としても特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(5)訂正事項hないしkは、訂正された特許請求の範囲の記載に整合するように、特許明細書の記載を訂正するものであり、特許法第120条の4第2項但し書き第3号に規定する明りょうでない記載の釈明を目的とするものである。

また、訂正事項aないしkは、特許明細書の段落【0009】、【0020】、【0022】ないし【0024】および図面の記載に基づくものであるから、いずれも特許明細書の記載事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質的に特許請求の範囲を拡張しまたは変更するものではない。

2.3 むすび
以上のとおりであるから、前記訂正請求は、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

3.特許異議の申立についての判断
3.1 申立の理由の概要
申立人内田泰史は、本件特許発明に対して、証拠として甲第1号証(特開平7-136136号公報)、甲第2号証(特開昭59-197238号公報)、甲第3号証(特開平4-367648号公報)、甲第4号証(特開平4-200439号公報)、および甲第5号証(特開平9-122087号公報)を提出し、本件請求項1ないし6に係る特許発明は甲第1〜4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものであり、また、本件請求項1ないし3、および5の記載は、補正によって願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲外のものを含むものとなっているので、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、本件請求項1ないし3および5に係る各特許は、特許法第113条第1号の規定により取り消されるべきものである、旨主張している。

3.2 本件発明
上記のとおり訂正が認められたので、本件請求項1ないし5に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】 訂正事項a 参照
【請求項2】 訂正事項b 参照
【請求項3】 訂正事項c 参照
【請求項4】 訂正事項f 参照
【請求項5】 訂正事項g 参照 」

3.3 引用刊行物の記載事項
申立人が提出し、当審が通知した取消理由に引用した刊行物1(特開平7-136136号公報:申立人の提出した甲第1号証)、刊行物2(特開昭59-197238号公報:同 甲第2号証)、刊行物3(特開平4-367648号公報:同 甲第3号証)及び刊行物4(特開平4-200439号公報:同 甲第4号証)には、それぞれ以下の事項が記載されている。
(1)刊行物1
(1a)「【課題を解決するための手段及び作用】
この発明の連続血圧モニタ装置は、生体の一部を圧迫するカフ、このカフを加圧する加圧手段、前記カフの圧力を検出する圧力センサ、前記カフを減圧する排気手段、徐々加圧過程もしくは徐々排気過程で生体情報を検出する手段、前記生体情報に基づいて血圧値を決定する血圧決定手段及び血圧値を表示する表示手段からなる血圧測定装置と、生体の二部位で脈波を検出する脈波検出手段または一方の一部位にて心電波形を検出する心電波形検出手段と、検出された脈波または心電波形から前記生体の二部位間を脈波が伝播する時間または速度を決定する手段と、決定された伝播時間または速度から血圧変動値を決定する手段と、決定された血圧変動値が所定の値になったことを判定する手段とを備え、判定手段出力に応答して、前記測定を開始するようにしている。」(第2頁第2欄第4〜18行)、
(1b)「一般に連続血圧モニタを行うのは、大きく変動した血圧値を知りたいためである。したがって、この連続血圧モニタ装置では、常時は、脈波等の伝播時間(速度)を検出し、この伝播時間等から血圧変動値を決定し、さらにこの血圧変動値が所定値に達したか判定し、一定以上の場合に血圧変動大として、血圧測定装置の動作を開始させ、そこで血圧測定を行う。したがって血圧変動の大なる時にのみ測定がなされ、カフによる生体圧迫があるが、それ以外変動の少ない時は、血圧測定装置を動作させないので、被検者に与える苦痛が軽減でき、無用な測定の繰り返しを回避できる。」(第2頁第2欄第19〜29行)、
(1c)「血圧変動モニタ部20Bにおいて、各脈波センサ10、11で脈波成分を検出すると、図2に示すように、心臓に近い側の脈波センサ10の出力(A)に対し、末梢側に装着された脈波センサ11の出力(B)は、同一波形に対し時間差tを持つ。」(第3頁第3欄第8〜12行)、
(1d)「この処理は、その詳細ルーチンを図5に示しており、先ず、両脈波センサ10、11より脈波信号を取り込み(ステップ31)、取り込んだ両脈波信号が最初のものである場合(ステップST32)、脈波時間差t1 を算出し、記憶する(ステップST33)。その後、所定時間をおいて、両脈波信号を取り込み(ステップST34)、脈波時間差tを算出し、記憶する(ステップST35)。そして、時間差変化量(t?t1 )を算出し(ステップST36)、この時間差変化量に対応して、予め記憶してある血圧変動量テーブルのある算出式より、対応する血圧変動量を算出する(ステップST37)。最後に、脈波時間差tを、次回における前回時間差t1 として記憶し(ステップST38)、メインルーチンにリターンする。…(中略)…。図4に示すメインルーチンに戻ると、算出した血圧変動量を表示器9に表示する(ステップST4)とともに、変動量が予め設定する所定値以上であるか否かを判定し(ステップST5)、・・・。ステップST5で、変動量が所定値以上であると、血圧変動量が大であるので、血圧測定部20Aに血圧測定開始の指令を出し、血圧測定を行い(ステップST6)、測定した最高血圧、最低血圧を表示器9に表示する(ステップST7)。」(第3頁第3欄第40行〜第4欄第17行)
が、それぞれ図面と共に記載されている。
これらの記載から、刊行物1には、「カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、脈波伝播時間を決定するための脈波伝播時間決定手段と、前記脈波伝播時間決定手段により決定された脈波時間差変化量に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、逐次前記脈波伝播時間決定手段により決定された脈波時間差変化量、が所定値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する連続血圧モニタ装置。」が記載されているものと認められる。

(2)刊行物2
(2a)「生体の一部を圧迫するカフ装置と、該カフ装置の圧力変化に関連して該生体の一部において発生する脈波の変化に基づいて血圧値を判定する血圧判定手段とを備えた自動血圧測定装置であって、前記生体の心拍を検出し、該心拍の異常を表す心拍異常信号を出力する心拍異常検出手段と、前記心拍異常信号の発生毎に予め定められた一連の血圧測定ステップを実行し、前記カフ装置に前記生体の一部を圧迫させつつ前記血圧判定手段に血圧値を判定させる血圧判定制御手段と、を含み、前記生体の心拍が異常状態となったときに該生体の血圧値が自動的に測定されるようにされたことを特徴とする自動血圧測定装置。」(第1頁左下欄第5〜17行)、
(2b)「生体の心拍異常時に、血圧測定がなされるのである。しかも、生体の血圧を周期的に測定する従来の自動血圧測定装置に比較して、不必要なときに血圧測定が実行されないので、カフによる圧迫および鬱血が大幅に緩和されるのである。」(第2頁右上欄第10〜15行)、
(2c)「心拍数演算回路40は心拍信号に基づいて単位時間当たりの心拍数を演算し、心拍数信号を心拍数異常検出回路44に供給する。心拍数異常検出回路44はその心拍数信号が表す心拍数と心拍数設定器46から供給される予め定められた心拍数の範囲とを比較し、実際の心拍数がその範囲から外れている場合には、心拍数異常信号BNを出力する。・・・心拍不整検出回路48は心拍周期信号が表す心拍周期を逐次比較し、新たな心拍周期がそれまでの心拍周期に対して、予め設定された比率・・・からはずれた場合に、心拍不整信号BFを出力する。」(第3頁右上欄第2〜18行)、
がそれぞれ図面と共に記載されている。
これらの記載から、刊行物2には、「カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、心拍(心拍数および心拍周期)を検出する心拍異常検出手段と、前記心拍異常検出手段により検出された心拍の異常に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、逐次前記心拍異常検出手段により検出された心拍(心拍数および心拍周期)が予め定められた範囲を外れたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する自動血圧測定装置。」が記載されているものと認められる。

(3)刊行物3
(3a)「【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、生体の動脈から発生する脈波を検出する脈波検出手段と、その生体の一部を圧迫装置にて圧迫することにより生体の血圧値を測定する血圧測定手段と、その脈波検出手段により検出された脈波の大きさとその血圧測定手段により測定された血圧値との間の関係を求める関係決定手段とを備え、前記脈波検出手段により逐次検出される脈波に基づいて前記関係から血圧値を連続的に測定するとともに、その関係を前記血圧測定手段による測定値に基づいて所定時間毎に更新する形式の血圧監視装置であって、(a) 前記脈波検出手段により検出される脈波に基づいて前記生体の血圧変動状態を検出する血圧変動状態検出手段と、(b) 前記血圧変動状態が大きくなる程前記関係の更新間隔を短くする更新間隔変更手段とを含むことにある。」(第2頁第2欄第15〜29行)
(3b)「血圧変動状態が大きくなった場合には、前記一定時間経過するまで待つことなく直ちにカフ10による血圧測定を行う」(第4頁第6欄第17〜19行)、
(3c) 脈波最高値の変動量、脈波振幅の変動量が所定値以上であるときに血圧変動状態が大きいと判定される旨の技術的事項が記載されている。(第5頁第7欄第34行〜第8欄第48行)、
(3d)「互いに隣接する期間の平均値AV’間の平均値差ΔAVが算出される。・・・平均値差ΔAVが前記誤差Dより大きいか否かが判断される。この判断が肯定された場合には、ステップSD5が実行されて血圧変動状態が大きいと判定される」(第6頁第9欄第18〜23行)、
(3e)「脈波の最高値の変化幅が算出されるとともに、それらの脈波データに基づいて1分間当たりの脈波数が算出される。」(第6頁第9欄第43〜45行)、
(3f)「脈波の最高値、最低値、平均値、振幅などを適宜組み合わせて血圧変動状態を検出するようにしてもよい」(第6頁第10欄第25〜27行)、
(3g)「血圧変動状態が比較的小さい場合には圧迫装置の圧迫による生体の負担を好適に低減し得る。」(第2頁第2欄第48〜50行)
が記載されている。
これらの記載から、刊行物3には、「カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、脈波振幅、脈波平均値(直流分)を計測する循環動態計測手段と、前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、逐次前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分、の変動分のうち1つでもそれぞれの閾値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する血圧監視装置。」が記載されているものと認められる。

(4)刊行物4
(4a)「心電波検出部34は、第1図で説明した心電波検出電極8、及び21(裏蓋21)を有しており、例えばその心電波検出電極8に当てがわれた右手指先と、心電波検出電極21に接触している左手首とから心電波(心電図R波)を検出して、その検出した心電波信号を、制御部33に出力する。また、脈拍検出部35は、・・・右手指先の血液の脈流を感知して、脈拍を検出して、その脈拍信号を制御部33に出力する。・・・。上記心電波が体内を瞬時に流れる電気信号であり、R波を発生する心臓の脈動と同時刻に体表面に到達して心電波検出部34により検出されるのに対して、一方の脈拍は、血管の形質その他の理由に起因する抵抗を受けて、送り出された脈動の発生時刻より遅れて体表面、即ち、指先に到達して脈拍検出部35により検出される。制御部33は、心電波検出部34から入力する心電波信号と、脈拍検出部35から入力する脈拍信号とに基づいて両者間の時間差(脈拍の遅れ時間)を検出し、その検出された遅れ時間データと、予め設定されている基準データとに基づいて血圧データを算出し、・・」(第4頁左上欄第1行〜右上欄第20行)、
(4b)「脈拍と心電波とから得られる脈波伝導速度(時間差データ)を測定する」(第10頁左上欄第9〜10行)
(4c)「ステップSE2に進み、心電波(心電図R波)が検出されたか否か判別する。・・・。上記動作により、心電波の検出によりタイマTが始動する。・・・。即ち、タイマTには心電波が検出されてから指先において脈拍が検出されるまでの時間差、即ち脈波速度データが記憶される。」(第12頁左下欄第4行〜右下欄第10行)
が記載されている。
これらの記載から、刊行物4には「心電図R波を検出する心電図R波検出部(手段)及び指先(末梢)血管の脈拍(脈波)を検出する脈拍検出部(脈波センサ)を有し、心電図R波の出現と指先(末梢)血管での脈拍(脈波)の出現の時間差を計測する、脈波伝導速度(時間差データ)測定手段」が記載されているものと認められる。

3.4 対比・判断
(1)請求項1について
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という。)と刊行物1に記載の発明(以下、「引用発明1」という。)とを対比すると、引用発明1における「脈波伝播時間決定手段」、「脈波時間差変化量」、「所定値」、および「連続血圧モニタ装置」が、それぞれ本件発明1における「脈波伝播時間計測手段」、「脈波伝播時間の変動分」、「それぞれの閾値」、および「血圧監視装置」に相当するから、両者は以下の一致点・相違点を有する。
〈一致点〉:
カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、逐次前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、がその閾値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する血圧監視装置。
〈相違点a〉:
本件発明1が、「脈波または心拍数に関する循環動態を計測する循環動態計測手段と、前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、逐次前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分がそれぞれの閾値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する」構成を有するのに対し、引用発明1ではこれを有しない点。

上記相違点について検討する。
刊行物2には、「カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、心拍(心拍数および心拍周期)を検出する心拍異常検出手段と、前記心拍異常検出手段により検出された心拍の異常に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、逐次前記心拍異常検出手段により検出された心拍(心拍数および心拍周期)が予め定められた範囲を外れたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する自動血圧測定装置(血圧監視装置)。」が記載されており、ここで、刊行物2に記載の発明における「心拍(心拍数および心拍周期)」、「心拍異常検出手段」、「心拍の異常に基づいて」、「心拍(心拍数および心拍周期)が予め定められた範囲を外れたとき」、および「自動血圧測定装置」が、それぞれ本件発明1における「心拍数に関する循環動態」、「循環動態計測手段」、「循環動態の変動分に基づいて」、「循環動態の変動分が所定の閾値を越えた場合」、および「血圧監視装置」に相当するから、刊行物2に記載の発明は、上記本件発明1の相違点aに係る構成に相当する構成を有するものと認められる。
刊行物3にも、循環動態が脈波振幅、脈波平均値である以外は、刊行物2と同様の構成を有するものが記載されている。

ここで、一般的に、監視システムにおいて、監視手段を二重化してより安全性を高めることは常套手段であり、人命にかかわる医療用の監視システムにおいてはなおさらのことである。してみると、血圧監視装置においても、監視パラメータとして、脈波伝搬速度の変動量を用いることと、循環動態の変動量を用いることとがともに公知であるなら、血圧監視の安全性を高めるために、上記2種類の監視パラメータをともに用いて監視手段を二重化しようとすることは、当業者なら容易に想到できたことである。
そして、本件発明1は、上記の考えに従って、刊行物1の血圧監視装置と刊行物2または3の血圧監視装置とを単に寄せ集めることによって、血圧の監視手段を二重化したものであって、上記2種類の監視手段がそれぞれ本来有する機能を果たしているにすぎない。
それ故、本件発明1は、刊行物1に記載の発明と刊行物2または3に記載の発明とから当業者が容易に発明できたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(2)請求項2について
請求項2に係る発明(以下、「本件発明2」という。)は、本件発明1における脈波伝搬時間計測手段を「大動脈の脈波を検出する脈波検出手段及び末梢血管の脈波を検出する脈波センサを有し、大動脈での脈波の出現と末梢血管での脈波の出現の時間差を計測」するものに限定し、さらに、「循環動態」を「脈波振幅、脈波直流分及び心拍数」に限定したものである。
よって、本件発明2と引用発明1との一致点は、本件発明1と引用発明1との一致点と同じであり、相違点は、相違点aにおける循環動態を脈波振幅、脈波直流分及び心拍数に限定した相違点a’に加えて、以下の相違点bで相違する。
〈相違点a’〉:
脈波振幅、脈波直流分及び心拍数を計測する循環動態計測手段と、
前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分及び心拍数の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、逐次前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の変動分のうち1つでもそれぞれの閾値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する血圧監視装置。
〈相違点b〉:
脈波伝搬時間計測手段が、本件発明2では、大動脈の脈波を検出する脈波検出手段及び末梢血管の脈波を検出する脈波センサを有し、大動脈での脈波の出現と末梢血管での脈波の出現の時間差を計測するものであるのに対し、引用発明1では特に限定されていない点。

上記相違点について検討すると、
相違点a’については、刊行物2には、循環動態が心拍数であるものについて記載されており、刊行物3には、循環動態が、脈波の振幅および脈波の平均値即ち直流分であるものについて記載されている。よって、上記請求項1についてで述べたとおり、刊行物1に記載の発明に刊行物2および3に記載の発明を単に寄せ集めることにより、当業者が容易になし得たものである。
相違点bについては、刊行物1には、上記摘記事項(1c)に記載のとおり、脈波の伝搬時間は心臓に近い側の脈波センサと末梢側に装着された脈波センサにより測定されることが記載されている。このことから、心臓に近い側の脈波センサを大動脈の脈波を検出する脈波センサとすることは適宜なし得たことにすぎない。
したがって、上記相違点a’およびbは、いずれも当業者が容易になし得たことにすぎず、本件発明2は、刊行物1ないし3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
よって、請求項2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(3)請求項3について
請求項3に係る発明(以下、「本件発明3」という。)は、本件発明1における脈波伝搬時間計測手段を「心電図R波を検出する心電図R波検出手段及び末梢血管の脈波を検出する脈波センサを有し、心電図R波の出現と末梢血管での脈波の出現の時間差を計測」するものに限定し、さらに、「循環動態」を「脈波振幅、脈波直流分及び心拍数」に限定したものである。
よって、本件発明3と引用発明1との一致点は、本件発明1と引用発明1との一致点と同じであり、相違点は、相違点aにおける循環動態を脈波振幅、脈波直流分及び心拍数に限定した相違点a’に加えて、以下の相違点cで相違する。
〈相違点a’〉:「(2)請求項2について」で検討した相違点a’と同じ。
〈相違点c〉:
脈波伝搬時間計測手段が、本件発明3では、心電図R波を検出する心電図R波検出手段及び末梢血管の脈波を検出する脈波センサを有し、心電図R波の出現と末梢血管での脈波の出現の時間差を計測するものであるのに対し、引用発明1では特に限定されていない点。

上記相違点a’については、「(2)請求項2について」で検討したので、相違点cについて検討する。
相違点cについては、心電図R波を検出する心電図R波検出手段及び末梢血管の脈波を検出する脈波センサを有し、心電図R波の出現と末梢血管での脈波の出現の時間差を計測する脈波伝搬時間計測装置は周知(特開平7-31593号公報、実開平7-34804号CDROM、特開平7-116141号公報、特開平4-200439号公報等参照)であるから、引用発明1の脈波伝搬時間計測装置として上記周知技術を用いることは適宜なし得たことである。
よって、本件発明3は、刊行物1ないし3に記載の発明および上記周知技術から当業者が容易に発明できたものである。
したがって。請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

(4)請求項4について
請求項4に係る発明(以下、「本件発明4)という。)は、本件発明1にさらに入力手段と記憶手段に関する構成を構成要件として追加したものである。そして、本件発明1については、上記のとおりであるから、本件発明4で追加された入力手段および記憶手段に関する構成について以下のとおり検討する。
本件発明4では、入力手段とそれぞれの閾値を記憶する記憶手段を有することにより、各変動分に対して個別に状況に応じた適切な閾値を設定することが可能となる。このことによって、特許権者が、平成11年8月2日付けの意見書(「(D)請求項8について」の項参照)で、「このような構成によれば、入力手段により、本装置を操作する医師等の判断により患者の状態に応じて、脈波伝搬時間の変動閾値および循環動態の変動閾値を設定できるため、閾値の高低が、カフによる血圧測定の頻度に関係するから、その測定頻度を随時最適にすることができる。例えば血圧が低い状態から、さらに低い状態になれば危険になると考えられる患者の場合には、閾値はより小さくするのが望ましい。また、意識のある患者はカフによる血圧測定の頻度が高過ぎるとストレスを感じるために、閾値を小さくし過ぎないようにする必要がある。このように患者の状態に応じて閾値を設定できるメリットは大きい。」と述べているように、手術室、集中治療室、救急処置室、人工透析室などの個々の状況に応じた適切な血圧監視が行えるものと認められる。
これに対して、甲号各証には、単一の変動量を用いて血圧監視を行う場合に予め定められた範囲を有することは示されているものの、複数の変動量を用いて血圧監視を行う場合のそれぞれの変動量に対する閾値を総合的に入力する入力手段、およびそれらの閾値を記憶する記憶手段については記載も示唆もされていない。
そして、本件発明4では、上記入力手段および記憶手段を有することによって他の構成と相俟って、上記の効果を奏するものと認められる。
よって、本件発明4が、刊行物1ないし4に記載の発明から当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

(5)請求項5について
請求項5に係る発明(以下、「本件発明5」という。)は、本件発明2または3にさらに入力手段と記憶手段に関する構成を構成要件として追加したものである。そして、本件発明2または3については、上記のとおりであって、本件発明5で追加された入力手段および記憶手段に関する構成については、上記の請求項4についてで述べたと同様である。
よって、本件発明5についても、本件発明4と同様の理由で、刊行物1ないし4に記載の発明から当業者が容易に発明できたものとすることはできない。

3.5 特許法第17条の2第3項違反について
申立人は、特許明細書の特許請求の範囲の記載に関して概略以下の如く主張している。
本件請求項1ないし3、および5の記載は、補正によって願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲外のものを含むものとなっているので、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしておらず、本件請求項1ないし3および5に係る各特許は、特許法第113条第1号の規定により取り消されるべきものである。
即ち、請求項1ないし3の記載中における「脈波伝搬時間の変動分、・・・循環動態の変動分のうち、少なくともいずれか1つが所定閾値を越えたときに、」の記載、および請求項5の記載中における「脈波伝搬時間の変動分、心拍数の変動分、脈波振幅の変動分および脈波直流分の変動分のうち、少なくともいずれか1つが所定閾値を越えた場合に、」の記載に関して、「少なくともいずれか1つが所定閾値を越えたとき(場合)に」の記載は、当初明細書等には記載されておらず、補正によって加えられたものであって、「少なくとも」の記載を加えたことによって、「いずれか1つが所定閾値を越えたとき」とともに、「両方が所定閾値を越えたとき」、即ち「脈波伝搬時間の変動分と循環動態の変動分の両方がともに所定閾値を越えた場合にのみ始めて血圧測定を開始する(換言すれば、いずれか一方が所定閾値を越えただけでは血圧測定を行わない)」ものをも包含することとなるが、このようなものは当初明細書等には記載されていない。

申立人の上記主張に関しては、上記訂正請求が認められ、請求項1ないし3における「少なくとも」の記載は削除され、また、訂正前の請求項5は削除されたことにより、特許法第17条の2第3項違反は解消された。

3.6 むすび
以上のとおりであるから、本件請求項1ないし3に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件請求項1ないし3に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認める。
一方、本件請求項4ないし5に係る特許発明についての特許は、特許異議の申立の理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件請求項4ないし5に係る発明についての特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項4ないし5に係る発明についての特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
血圧監視装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、
脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、
脈波または心拍数に関する循環動態を計測する循環動態計測手段と、
前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、および前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、逐次前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、または逐次前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分がそれぞれの閾値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする血圧監視装置。
【請求項2】 カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、
脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、
脈波振幅、脈波直流分及び心拍数を計測する循環動態計測手段と、
前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、および前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分及び心拍数の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段と、
を備え、
前記脈波伝播時間計測手段は、大動脈の脈波を検出する脈波検出手段及び末梢血管の脈波を検出する脈波センサを有し、大動脈での脈波の出現と末梢血管での脈波の出現の時間差を計測し、
前記制御手段は、逐次前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、逐次前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の変動分のうち1つでもそれぞれの閾値を超えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする血圧監視装置。
【請求項3】 カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、
脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、
脈波振幅、脈波直流分及び心拍数を計測する循環動態計測手段と、
前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、および前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分及び心拍数の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段と、
を備え、
前記脈波伝播時間計測手段は、心電図R波を検出する心電図R波検出手段及び末梢血管の脈波を検出する脈波センサを有し、心電図R波の出現と末梢血管での脈波の出現の時間差を計測し、
前記制御手段は、逐次前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、逐次前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の変動分のうち1つでもそれぞれの閾値を超えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする血圧監視装置。
【請求項4】 入力手段を備え、
前記制御手段は、この入力手段から入力された前記脈波伝播時間の閾値と前記循環動態の変動分の閾値とを記憶する記憶手段を備え、これらの閾値と、計測された前記脈波伝播時間の変動分と、計測された前記循環動態の変動分とをそれぞれ比較し、その結果に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする請求項1に記載の血圧監視装置。
【請求項5】 入力手段を備え、
前記制御手段は、この入力手段から入力された脈波伝播時間、脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の各変動分の閾値を記憶する記憶手段を備え、これらの閾値と、計測された前記脈波伝播時間、脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の変動分とをそれぞれ比較し、その結果に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする請求項2または3に記載の血圧監視装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、手術室、集中治療室、救急処置室、人工透析室などにおいて患者の連続的な血圧監視が必要な分野における血圧監視装置に係り、特に脈波伝播時間により血圧監視を行なう血圧監視装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、被験者の血圧を連続的に測定して血圧の監視を行なう血圧監視装置として、被験者の上腕部などにカフを巻き付けてオシロメトリック法により非観血血圧測定を行なうものや、被験者の動脈に穿刺して観血血圧測定を行なうものがある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来の血圧監視装置にあっては、次のような問題点があった。
(イ)カフによる非観血血圧測定を行なう血圧監視装置では、定時測定で測定周期が長い場合、例えば5分間隔以上の場合にショックによる血圧の急変を見落すことがあった。なお、この対策として測定周期を例えば1分間隔と短くすることで血圧の急変の見落しを少なくできる。しかしながら、測定周期を短くした場合、カフを巻いた部分の血管に負担を与えることになる。
【0004】
(ロ)また、定時計測の場合、必要以上の頻繁なカフの締め付けにより患者に負担を与えてしまう。
(ハ)観血測定を行なう血圧監視装置では、侵襲により被験者に精神的な負担を与えたりする場合がある。また、非観血血圧測定以上に手間を要するのでスタッフにも負担を与えてしまう。
【0005】
そこで本発明は、被験者に負担を与えることなく連続的に安全且つ高精度で血圧を監視できる血圧監視装置を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
以下、本発明の基本的な考え方を説明する。
非観血血圧測定を行なう血圧監視装置の一つに脈波伝播速度(一定距離の脈波伝播時間)を利用して血圧測定を行なうものがある。
脈波伝播速度から血圧が測定できる原理は次の通りである。
図3に示すように、指や耳などの末梢血管側では脈波の特異点が大動脈波の特異点より時間的に遅れて現われる。この遅れ時間が脈波伝播時間である。
一定距離の脈波伝播時間に対応する脈波伝播速度は、血管の容積弾性率の関数として現され、血圧が上がると血管の容積弾性率は増加し、血管壁が硬くなり伝播速度が速くなる。
【0007】
したがって、脈波伝播速度から血圧変動を求めることができる。そして、この脈波伝播時間を逐次測定することで、被験者の血圧変動を監視することができる。この場合、脈波伝播時間の変動分△Tが予め設定した脈波伝播時間変動分閾値△Tsを超えたとき、または心拍数の変動分△HRが予め設定した心拍数の変動分に相当する循環動態変動分閾値△HRsを超えたとき、または末梢血管の脈波の振幅の変動率r1が予め設定した末梢血管の脈波の振幅の変動率に相当する循環動態変動分閾値r1sを超えたとき、または末梢血管の脈波の直流分の変動率r2が予め設定した末梢血管の脈波の直流分の変動率に相当する循環動態変動分閾値r2sを超えたときに、被験者の血圧変動に急変が起こったと判断し、その時点でカフを用いた非観血血圧測定を行なえばよい。
【0008】
この場合、心拍数の変動分△HR、末梢血管の脈波振幅変動率r1および末梢血管の脈波直流変動率r2は循環動態の変動分であり、この変動分は脈波伝播時間の変動分△Tよりもクリチカルであるため、脈波伝播時間では捉えることができないような僅かな血圧値の変化でも捉えることができ、極めて高い精度で血圧変動の急変を監視することが可能になる。
【0009】
この原理に基づく請求項1の発明は、カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、脈波または心拍数に関する循環動態を計測する循環動態計測手段と、前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、および前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、逐次前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、または逐次前記循環動態計測手段により計測された循環動態の変動分がそれぞれの閾値を越えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする。
【0010】
請求項2の発明は、カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、脈波振幅、脈波直流分及び心拍数を計測する循環動態計測手段と、前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、および前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分及び心拍数の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段と、を備え、前記脈波伝播時間計測手段は、大動脈の脈波を検出する脈波検出手段及び末梢血管の脈波を検出する脈波センサを有し、大動脈での脈波の出現と末梢血管での脈波の出現の時間差を計測し、前記制御手段は、逐次前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、逐次前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の変動分のうち1つでもそれぞれの閾値を超えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする。
また、請求項3の発明は、カフを用いて血圧測定を行う血圧測定手段と、脈波伝播時間を計測するための脈波伝播時間計測手段と、脈波振幅、脈波直流分及び心拍数を計測する循環動態計測手段と、前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、および前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分及び心拍数の変動分に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御する制御手段と、を備え、前記脈波伝播時間計測手段は、心電図R波を検出する心電図R波検出手段及び末梢血管の脈波を検出する脈波センサを有し、心電図R波の出現と末梢血管での脈波の出現の時間差を計測し、前記制御手段は、逐次前記脈波伝播時間計測手段により計測された脈波伝播時間の変動分、逐次前記循環動態計測手段により計測された脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の変動分のうち1つでもそれぞれの閾値を超えたときに、前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明は、請求項1の装置において、入力手段を備え、前記制御手段は、この入力手段から入力された前記脈波伝播時間の閾値と前記循環動態の変動分の閾値とを記憶する記憶手段を備え、これらの閾値と、計測された前記脈波伝播時間の変動分と、計測された前記循環動態の変動分とをそれぞれ比較し、その結果に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする。また請求項5の発明は、請求項2または3の装置において、入力手段を備え、前記制御手段は、この入力手段から入力された脈波伝播時間、脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の各変動分の閾値を記憶する記憶手段を備え、これらの閾値と、計測された前記脈波伝播時間、脈波振幅、脈波直流分、および心拍数の変動分とをそれぞれ比較し、その結果に基づいて前記血圧測定手段による血圧測定を行うように制御することを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の血圧監視装置の実施例について説明する。
A.血圧監視装置の構成
図1は本発明に係る血圧監視装置の一実施例の構成を示すブロック図である。この図において、カフ2は被験者の上腕部または指に装着されるように構成され、排気弁3によってその内部が大気に対して開放または閉塞される。このカフ2には、加圧ポンプ4によって空気が供給される。カフ本体には圧力センサ5が取り付けられており、センサ出力がカフ圧検出部6によって検出される。このカフ圧検出部6の出力はA/D変換器7によってディジタル信号に変換され、CPU(中央処理装置)1に取り込まれる。
【0013】
時間間隔検出基準点検出部8は、心電図のR波の発生とほぼ同時に大動脈圧がボトム値となる時点を検出するためのものであり、この検出部8の出力はA/D変換器9によりディジタル信号に変換されてCPU1に取り込まれる。この時間間隔検出基準点検出部8は、被験者の胸部に装着される電極と、この電極が接続される心電図R波検出部とにより構成することができる。なお、この時間間隔検出基準点検出部8を大動脈の脈波を検出する光電脈波センサあるいは圧脈波センサとこのセンサが接続される脈波検出部とにより構成することもできる。
【0014】
光電脈波センサ10は、被験者の例えば指に装着され、末梢血管側の脈波が計測される。この光電脈波センサ10の出力が脈波検出部11に送られることで、被験者の装置部位における脈波が検出される。脈波検出部11は脈波の交流分と直流分とを分離して出力する。脈波の交流分はA/D変換器12によりディジタル信号に変換されてCPU1に取り込まれる。また脈波の直流分はA/D変換器13によりディジタル信号に変換されてCPU1に取り込まれる。
【0015】
入力手段14は、初期脈波伝播時間変動分閾値△TSおよび初期循環動態変動分閾値△HRs、r1s、r2sが入力される。この場合、△HRsは心拍数の変動分に相当する値であり、r1sは末梢血管の脈波の振幅の変動率に相当する値であり、r2sは末梢血管の脈波の直流分の変動率に相当する値である。キー15は、手動操作でカフ2を用いた血圧測定を行なう場合に押される。
CPU1は、A/D変換器7、9、12、13、キー15から与えられた信号に基づいて処理プログラムを実行し、必要な制御信号を排気弁3、加圧ポンプ4などに出力するとともに処理結果を表示器16に供給する。このCPU1に接続されるROM17には処理プログラムが格納されている。またRAM18には各種レジスタが設定されるとともに、血圧測定データを記憶するデータ領域が設定される。
【0016】
ここで、レジスタとしては以下に示すものが設定される。
RT1:脈波伝播時間T1を格納するレジスタ
RT2:脈波伝播時間T2を格納するレジスタ
RHR1:心拍数HR1を格納するレジシタ
RHR2:心拍数HR2を格納するレジシタ
RAC1:末梢血管の脈波の振幅AC1を格納するレジスタ
RAC2:末梢血管の脈波の振幅AC2を格納するレジスタ
RDC1:末梢血管の脈波の直流分DC1を格納するレジスタ
RDC2:末梢血管の脈波の直流分DC2を格納するレジスタ
【0017】
上記カフ2、排気弁3、加圧ポンプ4、圧力センサ5、カフ圧検出部6及びA/D変換器7は血圧測定手段を構成する。また、RAM18は記憶手段に対応する。また、時間間隔検出時点基準点検出部8、A/D変換器9及びCPU1は脈波伝搬時間計測手段を構成する。また、光電脈波センサ10、脈波検出部11、A/D変換器12、13及びCPU1は循環動態計測手段を構成する。また、CPU1は制御手段に対応する。
【0018】
B.血圧監視装置の動作
次に、上記構成による血圧監視装置の動作について説明する。
図2は血圧測定装置の動作を示すフローチャートである。
まず、ステップS1において入力手段14から脈波伝播時間変動分閾値△TSおよび初期循環動態変動分閾値△HRs、r1s、r2sが入力され、RAM18に書き込まれる。なお、これら閾値△TS、△HRs、r1s、r2sは被験者の体重、身長等によって予め決められている。
各閾値のRAM18への書き込みが行なわれた後、ステップS2でキー15の入力があったか否かが判定され、キー入力が有れば、ステップS3において排気弁3と加圧ポンプ4がCPU1により制御され、カフ2を用いて被験者の血圧測定が行なわれる。このときA/D変換器7から取り込まれたデータがCPU1の内部で処理され、オシロメトリック法で測定された血圧値BPがRAM18に書き込まれる。
【0019】
血圧値BPの書き込みが行なわれた後、ステップS4でレジスタRT2に格納されている脈波伝播時間T2がレジスタRT1に移され、レジスタRHR2に格納されている心拍数HR2がレジスタRHR1に移され、レジスタRAC2に格納されている脈波振幅AC2がレジスタRAC1に移され、レジスタRDC2に格納されている脈波直流分DC2がレジスタRDC1に移される。この場合、脈波伝播時間T2の計測処理が行なわれていなければ、レジスタRT1、RHR1、RAC1およびRDC1へのデータの移動は実質上行なわれない。このレジスタ間のデータ移動処理が行なわれた後、ステップS5で先に測定した血圧値BPが表示器16に表示され、ステップS2に戻る。
【0020】
上記ステップS2では、再びキー入力の有無が判定され、キー入力がなければ、ステップS6においてA/D変換器9、12からのデータに基づき、心電図のR波の発生と略同時に大動脈圧がボトム値となる時点から末梢血管側で脈波がボトム値になるまでの時間に相当する脈波伝播時間T2が測定されて、その値がRAM18のレジスタRT2に格納される。またさらに心拍数、末梢血管の脈波の振幅および直流分が測定されて、各値がRAM18のレジスタRHR2、RAC2、RDC2に格納される。
【0021】
続いて、ステップS7で、脈波伝播時間T1のデータがあるか否かが判定され、該データがあれば、ステップS8において、脈波伝播時間変動分△T、心拍数変動分△HR、脈波振幅変動率r1および脈波直流分変動率r2が算出される。即ち、脈波伝播時間変動分△Tは次式により算出される。
△T=|T2-T1|
また、心拍数変動分△HR、脈波振幅変動率r1および脈波直流分変動率r2は次式により算出される。
△HR=|HR2-HR1|
r1=|(AC2-AC1)/AC1|
r2=|(DC2-DC1)/DC1|
【0022】
脈波伝播時間変動分△T、循環動態変動分△HR、r1およびr2をそれぞれ算出した後、ステップS9において、ステップS8で求めた脈波伝播時間変動分△Tが予め入力されている脈波伝播時間変動分閾値△TSを超えているか否か、またはステップS8で求めた心拍数変動分△HRが予め入力されている心拍数の変動分に相当する値△HRSを超えているか否か、またはステップS8で求めた脈波振幅変動率r1が予め入力されている末梢血管の脈波の振幅の変動率に相当する値r1Sを超えているか否か、またはステップS8で求めた脈波直流分変動率r2が予め入力されている末梢血管の脈波の直流分の変動率に相当する値r2Sを超えているか否かが判定される。即ち、△T>△TS、△HR>△HRS、r1>r1S、r2>r2Sの式を満たすか否かが判定され、いずれも満たさなければステップS2に戻り、一連の処理が再び繰り返される。
【0023】
これに対して、△T>△TS、△HR>△HRS、r1>r1S、r2>r2Sの式のうちの一つでも満たせば、被験者の血圧変動にショックなどによる急変があったとみなされ、ステップS3に処理が移行する。ステップS3では、被験者の血圧変動の急変に対応するため、カフ2を用いた血圧測定が行なわれ、その測定値BPがRAM18のデータ領域に書き込まれる。続いて、ステップS4において再びレジスタRT2に格納されている脈波伝播時間T2がレジスタRT1に移され、レジスタRHR2に格納されている心拍数HR2がレジスタRHR1に移され、レジスタRAC2に格納されている脈波振幅AC2がレジスタRAC1に移され、レジスタRDC2に格納されている脈波直流分DC2がレジスタRDC1に移される。次いで、ステップS5では、ステップS3で測定した血圧値BPが表示器16に表示され、その後ステップS2に戻る。
【0024】
このようにこの実施例では、脈波伝播時間を常時測定し、脈波伝播時間変動分△Tが脈波伝播時間変動分閾値△TSを超えたか否かを判定するとともに、循環動態変動分である△HR、r1、r2がそれぞれの閾値△HRS、r1S、r2Sを超えたか否かを判定することで、被験者の血圧変動の急変を監視し、一つでも閾値を超える場合にはカフ2を用いた血圧測定を正確に行なうようにしているので、従来与えていた被験者への負担を大幅に軽減でき、更に脈波伝播時間変動分では検出できない僅かな血圧変動を循環動態変動分で検出できるので、被験者の血圧変動の急変をより正確に監視することができる。
なお、脈波伝播時間計測処理は一拍ごとに行なってもよいし、一定時間ごとあるいは一定拍数ごとに行って平均値を求めるようにしてもよい。平均値を求めることで、不規則に発生するノイズの影響をなくし精度のよい測定が可能となる。
【0025】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1乃至5に記載の血圧監視装置によれば、従来与えていた被験者への負担を大幅に軽減でき、さらに脈波伝搬時間変動分では検出できない僅かな血圧変動を循環動態変動分で検出できるので、被験者の血圧変動の急変をより正確に監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明に係る血圧監視装置の一実施例の構成を示すブロック図である。
【図2】
同実施例の血圧監視装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】
脈波伝播時間を説明するための波形図である。
【符号の説明】
1 CPU
2 カフ
3 排気弁
4 加圧ポンプ
5 圧力センサ
6 カフ圧検出部
7、9、12、13 A/D変換器
8 時間間隔件検出基準点検出部
10 光電脈波センサ
11 脈波検出部
14 入力手段
15 キー
16 表示器
17 ROM
18 RAM
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2003-08-18 
出願番号 特願平7-285669
審決分類 P 1 651・ 121- ZD (A61B)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 居島 一仁山本 春樹神谷 直慈  
特許庁審判長 渡部 利行
特許庁審判官 水垣 親房
河原 正
登録日 2001-12-14 
登録番号 特許第3259082号(P3259082)
権利者 日本光電工業株式会社
発明の名称 血圧監視装置  

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