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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B32B 審判 全部申し立て 2項進歩性 B32B |
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管理番号 | 1088078 |
異議申立番号 | 異議2002-71365 |
総通号数 | 49 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1999-04-06 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2002-05-28 |
確定日 | 2003-11-25 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3235055号「プロピレン系ランダム共重合体の多層フィルム」の請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3235055号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 本件特許第3235055号は、平成9年9月18日に特許出願され、平成13年9月28日に特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、その後、その特許について、平成14年5月28日付けで、特許異議申立人 田中圭子(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがされ、さらに、特許権者に対して審尋を行ったところ、平成15年7月29日付けで回答書が提出されたものである。 2.特許異議の申立ての概要 申立人は、以下の甲第1〜4号証を提出して、本件特許の請求項1〜3に係る発明は、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(主張1)旨、及び、本件明細書の発明の詳細な説明の記載には不備があるから、本件特許は特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(主張2)旨、を主張している。 甲第1号証:特開平9-208629号公報 甲第1号証の2:特開平10-152531号公報 甲第2号証:特開平9-59321号公報 甲第3号証:特開昭58-138721号公報 甲第4号証:特公平2-14899号公報 なお、申立人は、参考資料1:技術報告書「プロピレン・エチレンランダム共重合体のモノマー連鎖」を証拠方法の(6)として提出しているが、作成者や作成日も記載がないから書証として採用することはできず、特許異議の申立て理由の説明資料として取り扱うこととする。 3.本件発明 本件特許の請求項1〜3に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明3」という。)はそれぞれ、特許査定時の明細書の請求項1〜3に記載された以下の事項により特定されるものである。 「【請求項1】下記のプロピレン系ランダム共重合体(A)からなる基材層の少なくとも片面に下記のプロピレン系ランダム共重合体(B)からなる表層を有することを特徴とするプロピレン系ランダム共重合体の多層フィルム。 〔プロピレン系ランダム共重合体(A)〕 下記の(A-1)〜(A-6)を満足するプロピレン系ランダム共重合体(A) (A-1)共重合体中のエチレン単位の含有量[χa(wt%)]が0.2〜4wt%である (A-2)共重合体のメルトインデックス[MIa(g/10min)]が4 〜12g/10minである (A-3)沸騰ジエチルエーテル抽出量[Ea(wt%)]とχaが式(1)の関係を満たす Ea≦0.25χa+1.1 (1) (A-4)示差走査型熱量計で測定した融点[Tma(℃)]とχaが式(2)の関係を満たす Tma≦165-5χa (2) (A-5)13C-NMRで測定したPPP連鎖部のアイソタクチックトライアッド分率[mm分率a(mol%)]が98mol%以上である (A-6)共重合体のメルトインデックス[MIa(g/10min)]と周波数分散測定により得られる周波数ω0=100rad/secにおける緩和時間τ(sec) が式(8)の関係を満たす τ≦0.65-0.025MIa (8) 〔プロピレン系ランダム共重合体(B)〕 下記の(B-1)〜(B-6)を満足するプロピレン系ランダム共重合体(B) (B-1)共重合体中のエチレン単位の含有量[χb(wt%)]が0.2〜15wt%である (B-2)共重合体のメルトインデックス[MIb(g/10min)]が0.1〜15g/10minである (B-3)沸騰ジエチルエーテル抽出量[Eb(wt%)]とχbが式(3)又は式(4)の関係を満たす Eb ≦0.2χb+1.0(0.2≦χb< 5) (3) Eb ≦2.0 ( 5≦χb≦15) (4) (B-4)示差走査型熱量計で測定した融点[Tmb(℃)]とχb が式(5)又は(6) の関係を満たす Tmb≦140 (0.2≦χb< 4) (5) Tmb≦160-5χb ( 4≦χb≦15) (6) (B-5)13C-NMRで測定したPPP連鎖部のアイソタクチックトライアッド分率[mm分率b(mol%)]が90mol%以上である (B-6)13C-NMRで測定したPEP連鎖部の割合[R(mol%)]とχbが式(7)の関係を満たす R≧0.5χb+1.0 (7) 【請求項2】プロピレン系ランダム共重合体(A)が以下の(A-7)を満足する請求項1記載のプロピレン系ランダム共重合体の多層フィルム。 (A-7)共重合体中のエチレン単位の含有量[χa(wt%)]が1〜4wt%である 【請求項3】プロピレン系ランダム共重合体(B)からなる表層とプロピレン系ランダム共重合体(A)からなる基材層の厚み比(表層/基材層)が0.005〜0.5の範囲にある請求項1又は2に記載のプロピレン系ランダム共重合体の多層フィルム。」 4.甲号各証の記載 甲第1号証には、以下の記載がある。 ア:「【請求項1】 プロピレンとエチレンの共重合体であって、下記の○1〜○5を満足するプロピレン系共重合体。 ○1 共重合体中のエチレン単位の含有量(χ(wt%))が、3〜10wt%である。 ○2 共重合体のメルトインデックス(MI(g/10min))が、4〜12g/10minである。 ○3 沸騰ジエチルエーテル抽出量(E(wt%))とχが、式(I)または(II)の関係を満たす。 E≦0.25χ+1.1 (χ=3〜 6wt%)・・・(I) E≦2.6 (χ=6〜10wt%)・・・(II) ○4 示差走査型熱量計で測定した融点(Tm(℃))とχが式(III)または(IV)の関係を満たす。 Tm≦140 (χ=3〜 5wt%)・・・(III) Tm≦165-5χ (χ=5〜10wt%)・・・(IV) ○5 13C-NMRで測定したPPP連鎖部のアイソタクチックトライアッド分率(mm(mol%))が、98.0mol%以上である。 【請求項2】 請求項1に記載のポリプロピレン系共重合体を用いてなるフィルム。」(特許請求の範囲の1、2) (なお、本決定において、「○1」は、○の中に数字「1」が包まれた丸数字を意味する。「○2」〜「○6」も同趣旨である。) イ:「【発明の属する技術分野】 本発明は、プロピレン系共重合体及びそれからなるフィルムに関するものである。さらに詳しくは、プロピレンとエチレンの二元ランダム共重合体及びそれを成形したフィルムに関するものであり、このフィルムは特にラミネートや共押出した積層フィルムのシーラント層として好適に用いられる。」(段落0001) ウ:「〔実施例1〕 (1) マグネシウム化合物の調整… (2) 固体触媒成分の調整 …攪拌機付き反応槽(内容積500リットル)に、前記マグネシウム化合物(粉砕していないもの)30kg、精製ヘプタン(n-ヘプタン)150リットル、四塩化ケイ素4.5リットル、及びフタル酸ジ-n-ブチル5.4リットルを加えた。系内を90℃に保ち、攪拌しながら四塩化チタン144リットルを投入して110℃で2時間反応させた後、固体成分を分離して80℃の精製ヘプタンで洗浄した。さらに、四塩化チタン228リットルを加え110℃で2時間反応させた後、精製ヘプタンで充分に洗浄し、固体触媒成分を得た。 (3) 前処理 内容積500リットルの攪拌機付き反応槽に精製ヘプタン230リットルを投入し、前記の固体触媒成分を25kg、トリエチルアルミニウムを固体触媒成分中のチタン原子に対して1.0mol/mol、ジシクロペンチルジメトキシシランを1.8mol/molの割合で供給した。その後、プロピレンをプロピレン分圧で0.3kg/cm2Gになるまで導入し、25℃で4時間反応させた。反応終了後、固体触媒成分を精製ヘプタンで数回洗浄し、更に二酸化炭素を供給し24時間攪拌した。 (4) 重合 内容積200リットルの攪拌機付き重合装置に前記処理済の固体触媒成分を成分中のチタン原子換算で3 m mol/hrで、トリエチルアルミニウムを4 m mol/kg-PPで、ジシクロペンチルジメトキシシランを1 m mol/kg-PPでそれぞれ供給し、重合温度80℃、重合圧力(全圧)28kg/cm2Gでプロピレンとエチレンを反応させた。この時、重合装置内のエチレン濃度を、2.9mol%、水素濃度を、5.6mol%とし、所望のエチレン含有量及び分子量となるようにした。」(段落0025) エ:「〔実施例2〜4〕重合時のエチレン濃度及び水素濃度を表1のように設定して、エチレン含量及び分子量を調節した以外は全て実施例1と同様にして行なった。結果を表2に示す。」(段落0038) オ:「表1」として、「実施例-2」〜「実施例-4」における「エチレン濃度」(mol%)及び「水素濃度(mol%)」が、それぞれ「2.0」及び「5.3」、「2.4」及び「5.5」、「2.8」及び「5.6」であること、が記載されている。(段落0039) カ:「表2」として、「実施例-1」〜「実施例-4」における「ペレット」についての「C2”含量wt%」、「MI g/10min」、「沸騰ジエチルエーテル抽出量」、「融点℃」及び「アイソタクチックトライアッド分率 mol%」、「フィルム」についての「C2”含量wt%」、「ΔH120 J/g」及び「アイソタクチックトライアッド分率 mol%」、並びに、「フィルム品質」についての「ヒートシール温度 ℃」、「引張弾性率 MPa」、「アンチブロッキング性 N/m2 条件-1」「条件-2」、「スリップ性 tanθ」、「ヘイズ %」及び「フィルムインパクト KJ/m」のそれぞれの値が記載されている。(段落0040) キ:「【発明の効果】 ポリプロピレンのフィルムが本来有する好ましい特性を損なうことなく、ヒートシール性、剛性、アンチブロッキング性、スリップ性、透明性に優れ、かつ製膜速度を高速化してもフィルム品質の低下が極めて小さい。そのため特にラミネートや共押出した積層フィルムのシーラント層として好適に使用できる。上記のような好ましい特性を有することから積層フィルムの基材層や単層フィルムとしても使用できる。」(段落0042) 甲第1号証の2には、以下の記載がある。 ク:「【請求項1】プロピレンとエチレンのランダム共重合体であって、下記の○1〜○5を満足するプロピレン系ランダム共重合体。 ○1 共重合体中のエチレン単位の含有量(χ(wt%))が、0.2〜10wt%である ○2 共重合体のメルトインデックス(MI(g/10min))が、0.1〜4g/10minである ○3 沸騰ジエチルエーテル抽出量(E(wt%))とχが、式(3)の関係を満たす E≦0.25χ+1.1 (0.2≦χ< 6)・・・(1) E≦2.6 ( 6≦χ≦10)・・・(2) ○4 示差走査型熱量計で測定した融点(Tm(℃))とχが式(3)の関係を満たす Tm≦165-5χ ・・・(3) ○5 13C-NMRで測定したPPP連鎖部のアイソタクチックトライアッド分率(mm(mol%))が、98mol%以上である 【請求項2】 下記の○6を満足する請求項1に記載のプロピレン系ランダム共重合体。」 ○6 共重合体のメルトインデックス(MI(g/10min))と周波数分散測定により得られる周波数ω0=100rad/secにおける緩和時間τ(sec)が式(4)の関係を満たす τ≧0.523-0.077log MI ・・・(4)」(特許請求の範囲の請求項1、2) ケ:「τ≧0.523-0.077 log MI ・・・(4) 緩和時間τがこの範囲よりも小さいと成形不良、特に延伸成形時の成形不良が発生しやすくなる。好ましくは、 τ≧0.540-0.077 log MI ・・・(4) ’ である。上記のプロピレン系ランダム共重合体は、ポリプロピレンのフィルムが本来有する好ましい特性をできるだけ損なうことなく、優れた低温ヒートシール性、良好な剛性、アンチブロッキング性、スリップ性等を有するフィルムを提供できるものであり、また良好な延伸特性を有することから、延伸フィルムの製造に好適に用いることができる。」(段落0014) コ:「…本発明のプロピレン系ランダム共重合体及びその組成物は、公知のTダイキャスト製膜法又はインフレーション製膜法等により製膜することで、一般的なフィルムとして供することもできるが、特に以下に示す延伸フィルムや多層延伸フィルム用に好ましく用いることができるものである。… 本発明のプロピレン系ランダム共重合体又はその組成物を製膜し、かつ延伸してなる延伸フィルムは、公知の溶融押出成形法により延伸用フィルム原反を製膜し、これを縦横二方向に延伸することで得られるものである。… 次いで、この延伸用フィルム原反は、通常Tダイキャスト製膜法で製膜したものはテンター法で、インフレーション製膜法で製膜したものはチューブラー法により縦横二方向にそれぞれ 1.5〜20倍、好ましくは、2〜15倍延伸することで延伸フィルムとする。テンター法では、同時に縦横二方向に延伸してもよいし、縦方向に延伸した後、横方向に延伸してもよいし、その逆であってもよい。 延伸時の加熱条件、延伸速度等の諸条件は、プロピレン系ランダム共重合体のエチレン含量、MI等、その組成物においてはポリオレフィンの種類、配合割合又はMI等に応じて、また延伸用フィルム原反の厚みと延伸倍率等に応じて適宜調製すればよい。さらに、本発明のプロピレン系ランダム共重合体又はその組成物を少なくとも1層とした多層フィルムを製膜し、かつ延伸してなる多層延伸フィルムは、公知の溶融押出成形法により多層延伸用フィルム原反を製膜し、これを縦横二方向に延伸することで得られるものである。」(段落0034〜0036) 甲第2号証には以下の記載がある。 サ:「メルトフローレイトが0.1〜30g/10分、エチレンに基づく単量体単位が0.1〜15モル%、プロピレンに基づく単量体単位が85〜99.9モル%であるプロピレン系ランダム共重合体であって、13C-NMRで測定される連続する2つの単量体単位のモル分率[PP]、[PE]及び[EE]が下記式、 4×[PP]×[EE]/[PE]2≦1.6 を満足し、且つ含有されるチタン原子が3ppm以下、塩素原子が30ppm以下であることを特徴とするプロピレン系ランダム共重合体。」(特許請求の範囲の請求項1) シ:「本発明のランダム共重合体では、上記のプロピレン(P)-プロピレン(P)、プロピレン(P)-エチレン(E)及びエチレン(E)-エチレン(E)よりなる連続する2つの単量体単位が特定の配列割合を有することで、得られるフィルムの耐ブロッキング性を満足させながらより低温でのヒートシール性を達成させることができる」(段落0020) ス:「本発明のランダム共重合体は、13C-NMRで測定される2つの連続した単量耐単位が特定の配列割合を有し、且つ重合体中に残存する触媒残渣が少ないために、フィルムに成形された際の低温ヒートシール性、耐衝撃性、耐ブロッキング性に優れている。…従って、本発明のランダム共重合体は、各種延伸フィルム、無延伸フィルム、シート等の材料として好適に用いることができる。」(段落0054〜0055) 甲第3号証には以下の記載がある。 セ:「(A) 全エチレン含有量が3〜12モル%、 (B) 孤立エチレン含有量(Eモル%)が2.0ないし10.0モル%、 (C) デカン可溶部量(D重量%)が(0.6E+2.0)ないし(0.6E+6.0)重量%、 (D) デカリン中、135℃で測定した極限粘度[η]が1.0ないし4.0dl/gで、且つ (E) 上記デカン可溶部のデカリン中、135℃で測定した極限粘度[η]Dが0.5ないし3.0dl/g であることを特徴とするプロピレン・エチレンランダム共重合体。」(特許請求の範囲の1) ソ:「同じエチレン含有率あるいは同じ融点を有する従来実用に供されてきたプロピレン・エチレンランダム共重合体に比較して、透明性、ヒートシール性、剛性、引張強度などの優れた且つ衝撃強度の改善された優れた物理的特性を有するランダム共重合体を見出すに至つた。」(第2ページ左上欄第4〜10行) タ:「孤立エチレン含有量が上記範囲より少ないものは、透明性やヒートシール性に劣り、また孤立エチレン含有量が上記範囲より多いものは、耐熱性、剛性等に劣るので好ましくない。本発明に於て、孤立エチレン含有量は、C13NMRにより測定決定された値である。」(第2ページ左下欄第4〜10行) 甲第4号証には以下の記載がある。 チ:「結晶性ポリプロピレンを含む層と、その少なくとも片面に接合された下記特性(イ)〜(ニ)を有するプロピレン-エチレンランダム共重合体樹脂層とから成るポリプロピレン系複合フィルム。 (イ)C13-NMR法で求めたエチレン含量:10〜17モル% (ロ)C13-NMR法で算出した本文中で定義したブロツク指数:1.1以下 (ハ)… (ニ)…MLMFI/MFI:10〜16」(特許請求の範囲の1) ツ:「上に示したような含量のエチレンが共重合体の中でより均一に分布していることがヒートシールフィルムとしては好ましく、エチレンがブロツク的に入ったいわゆるプロピレン-エチレンブロツク共重合体はヒートシールフィルムとしては不適当である。 共重合体中のエチレンの分布を判断する手段として、前に定義したブロツク指数を測定して用いた。C13-NMRのトリアドで見て、エチレンを含む全トリアドの分率の総和に対するエチレンがブロツク的に入たトリアドの分率の比は低エチレン含量(3モル%以下)ではほとんど0に近く、エチレン含量の増加に従って値が大きくなる。 従って、ブロツク指数は共重合しているエチレン分布のブロツク性を表現するものであり、本発明においては、この指数が1.1以下であることが必要である。」(第3ページ第5欄第11〜27行) 5.当審の判断 5-1.主張1(特許法第29条第2項違反)について 5-1-1.本件発明1について 5-1-1-1.本件発明1と甲第1号証に記載された発明の対比 甲第1号証には、摘示ア、イ、キからみて、摘示アにおける○1〜○5を満足するポリプロピレン系ランダム共重合体を、基材層又はシーラント層とする積層フィルムが記載されているものと認められるから、該ポリプロピレン系ランダム共重合体を、基材層及びシーラント層とする積層フィルムが記載されているものと認められる。 本件発明1(以下、「前者」という。)と甲第1号証に記載された発明(以下、「後者」という。)を対比すると、後者におけるシーラント層は、前者における表面層に相当すると認められるから、 両者は、「プロピレンとエチレンの共重合体であるプロピレン系ランダム共重合体からなる基材層の少なくとも片面に、プロピレンとエチレンの共重合体であるプロピレン系ランダム共重合体からなる表層を有することを特徴とするプロピレン系ランダム共重合体の多層フィルム」である点で一致し、 前者が、(i)基材層であるプロピレン系ランダム共重合体が、上記(A-1)〜(A-6)を満足すると特定した点、及び、(ii)表層であるプロピレン系ランダム共重合体が、上記(B-1)〜(B-6)を満足すると特定した点、において相違している。 5-1-1-2.相違点(ii)について 表層のプロピレン系ランダム共重合体が満足する(B-1)〜(B-6)について、それぞれ検討する。 (a)後者における「○1 共重合体中のエチレン単位の含有量(χ(wt%))が、3〜10wt%である。」は、前者における「(B-1)共重合体中のエチレン単位の含有量[χb(wt%)]が0.2〜15wt%である」と、エチレン含有量が3〜10wt%の範囲において重複する。 (b)後者における「○2 共重合体のメルトインデックス(MI(g/10min))が、4〜12g/10minである。」は、前者における「(B-2)共重合体のメルトインデックス[MIb(g/10min)]が0.1〜15g/10minである」と、メルトインデックス(MI(g/10min))が、4〜12g/10minの範囲において重複する。 (c)後者における「○3 沸騰ジエチルエーテル抽出量(E(wt%))とχが、式(I)または(II)の関係を満たす。 E≦0.25χ+1.1 (χ=3〜 6wt%)・・・(I) E≦2.6 (χ=6〜10wt%)・・・(II)」が、先に(a)で指摘したエチレン単位の含有量が3〜10の範囲のすべてにおいて、前者における「(B-3)沸騰ジエチルエーテル抽出量[Eb(wt%)]とχbが式(3)又は式(4)の関係を満たす Eb ≦0.2χb+1.0(0.2≦χb< 5) (3) Eb ≦2.0 ( 5≦χb≦15) (4)」を包含していることは明らかである。 (d)後者における「○4 示差走査型熱量計で測定した融点(Tm(℃))とχが式(III)または(IV)の関係を満たす。 Tm≦140 (χ=3〜 5wt%)・・・(III) Tm≦165-5χ (χ=5〜10wt%)・・・(IV)」が、前者における「(B-4)示差走査型熱量計で測定した融点[Tmb(℃)]とχb が式(5)又は(6) の関係を満たす Tmb≦140 (0.2≦χb< 4) (5) Tmb≦160-5χb ( 4≦χb≦15) (6)」を包含することは明らかである。 (e)後者における「○5 13C-NMRで測定したPPP連鎖部のアイソタクチックトライアッド分率(mm(mol%))が、98.0mol%以上である。」が、前者における「(B-5)13C-NMRで測定したPPP連鎖部のアイソタクチックトライアッド分率[mm分率b(mol%)]が90mol%以上である」に包含されることは明らかである。 (f)後者においては、前者における「(B-6)13C-NMRで測定したPEP連鎖部の割合[R(mol%)]とχbが式(7)の関係を満たす R≧0.5χb+1.0 (7)」を満足するかどうかは不明である。 この点申立人は、甲第2〜4号証の記載を摘示して、シーラント層に要求される低温シール性の観点から、特性(B-1)〜(B-5)を有するとともに、特性(B-6)を有するプロピレン系ランダム共重合体を選択することは当業者にとって容易である旨を主張している(特許異議申立書第20ページ参照)ので、その主張の当否について検討する。 甲第2号証には、摘示サからみて、「メルトフローレイトが0.1〜30g/10分、エチレンに基づく単量体単位が0.1〜15モル%であるプロピレン系ランダム共重合体」が記載され、摘示シ、スからみて、この共重合体がフィルムに成形された際の低温ヒートシール性等に優れていることが記載されているが、(B-6)についての記載はない。 申立人は、摘示サに記載の式は、[PE]が大であることが低温ヒートシール性の観点から好ましいことを示し、したがって、エチレンが、プロピレンに挟まれる形で孤立して存在する方が低温シール性に優れると主張するとともに、参考資料1を提示して、摘示サ記載の式と本件発明1における(B-6)に記載の式は、重複範囲があることを主張している。 しかしながら、仮に申立人が主張するように低温ヒートシール性と[PE]に何らかの定性的な関係があるとしても、参考資料1の摘示テのとおり、[PE]は[PEP]以外のトライアッド分率の値にも依存するから、甲第2号証に本件発明1における(B-6)についての具体的示唆があると認めることはできない。さらに、甲第2号証は、本件発明1における(B-1)〜(B-5)の要件の組合せを備えるプロピレン系ランダム共重合体を示唆するものでもないから、甲第2号証の記載に基いて、当業者が(B-6)を想到することが容易であるということはできない。 次に、甲第3号証には、摘示セ〜タの記載からみて、全エチレン含有量が3〜12モル%で、C13NMR、すなわち、13C-NMRにより決定された孤立エチレン含有量が2.0〜10.0モル%のプロピレン・エチレンランダム共重合体がヒートシール性に優れたものであることが記載されているが、「13C-NMRで測定したPEP連鎖部の割合[R(mol%)]とχbが、R≧0.5χb+1.0」であるという本件発明を特定するための事項(B-6)については記載がない。 申立人は、甲第3号証に記載された「孤立エチレン含有量」と本件発明における「PEP連鎖部の割合」が全く同一の概念であるから、それらの範囲は重複し、また甲第3号証に記載された実施例で得られたフィルムの全エチレン含量と孤立エチレン含量は本件発明1における(B-6)を充足する、と主張しているが、甲第3号証には、孤立エチレン含有量及び全エチレン含有量に加えて、デカン可溶部量(D重量%)デカリン中、135℃で測定した極限粘度[η]、及び、デカン可溶部のデカリン中、135℃で測定した極限粘度[η]が特定されたプロピレン・エチレンランダム共重合体(摘示セ)についての記載があるだけで、本件発明における(B-1)〜(B-5)の要件の組合せを備えるプロピレン系ランダム共重合体は記載も示唆も認められず、したがって、甲第1号証に記載されたプロピレン系ランダム共重合体の示唆もないから、別異のプロピレン系ランダム共重合体である甲第1号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明を組み合わせて、当業者が(B-6)を想到することが容易であるということはできない。 続いて、甲第4号証には、摘示チ、ツから、C13-NMR法、すなわち、13C-NMR法で求めたエチレン含量が10〜17モル%、C13-NMR法、すなわち、13C-NMR法で算出した本文中で定義したブロツク指数が1.1以下であるプロピレン-エチレンランダム共重合体樹脂層を有するポリプロピレン系複合フィルムが、ヒートシールフィルムとして好ましいものであることが記載されており、先に(a)として指摘した「エチレン含有量が3〜10wt%」の範囲という本件発明1と甲第1号証記載の発明におけるエチレン含量の共通する範囲とは1点において重複するが、「13C-NMRで測定したPEP連鎖部の割合[R(mol%)]とχbが、R≧0.5χb+1.0」である(B-6)という本件発明を特定するための事項については記載がない。 申立人は、甲第4号証に記載のブロック指数は、甲第3号証に記載される孤立エチレン含量とは反対の概念であるから、甲第4号証には、エチレン単位のランダム性が高いことがヒートシールフィルムとして好ましいことが記載されているのであり、さらに、ブロツク指数が1.1以下という範囲は、本件発明1における(B-6)の範囲と重複する旨を主張しているが、甲第4号証には、本件発明における(B-1)〜(B-5)の要件の組合せを備えるプロピレン系ランダム共重合体は記載も示唆も認めらず、したがって、甲第1号証に記載されたプロピレン系ランダム共重合体の示唆もないから、別異のプロピレン系ランダム共重合体である甲第1号証に記載された発明と甲第4号証に記載された発明を組み合わせて、当業者が(B-6)を想到することが容易であるということはできない。 してみると、甲第1号証の記載と、甲第2〜4号証のいずれの記載を組み合わせても、特性(B-1)〜(B-5)を有するとともに、特性(B-6)を有するプロピレン系ランダム共重合体を選択することが当業者にとって容易であるということはできないから、先の申立人の主張は採用できない。すなわち、(B-1)〜(B-6)をすべて満足する表層のプロピレン系ランダム共重合体を想到することは当業者にとって容易であるということはできない。 5-1-1-3.本件発明1についてのまとめ したがって、本件発明1を特定するための要件である、先の相違点(ii)を想到することは当業者にとって容易でなく、かつ、本件発明1は、相違点(ii)を発明を特定するための事項とすることにより、明細書に記載の顕著な効果を奏するものと認められる。 よって、相違点(i)について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 5-1-2.本件発明2、3について 本件発明2、3は、発明を特定するための事項として、本件発明1を特定するための事項をすべて備えるとともに、共重合体中のエチレン含有量の範囲を更に限定し(本件発明2)、又は、表層と基材層の厚み比を特定する(本件発明3)ものであるから、5-1-3で述べたとおり、本件発明1が甲第1〜4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえない以上、本件発明2、3は、甲第1〜4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 5-2.主張2(特許法第36条第4項違反)について 5-2-1.発明の詳細な説明の記載不備に関する申立人の主張点a〜e 本件明細書の発明の詳細な説明の記載が不備であるとする申立人の主張は、以下の趣旨のものと認められる。 a.本願明細書には、(A-1)、(A-3)、(A-5)、(B-3)及び(B-6)が満足されない場合に所望の効果が得られないことを示した比較例が記載されているのみであり、これだけでは、本件各発明の課題とその解決手段との関係を理解することができない。 b.(A-3)、(A-4)、(A-6)、(B-3)、(B-4)及び(B-6)の特性値については、MIa、MIb、χa、χbを固定して、これらを制御する手段について開示がないから、実施可能要件を欠く。 c.実施例以外の触媒系を使用して本件各発明のプロピレン系ランダム共重合体を得ることは、当業者に過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするから、実施可能要件を欠く。 d.PEP連鎖部の割合[R(mol%)]についての13C-NMRによる測定方法については、測定領域が不明である、及び、吸収ピークとPEP連鎖部との対応関係が不明であるから、実施可能要件を欠く。 e.IR方法によるエチレン含量の測定については、前提となるベースラインの取り方が不明である不備がある。 5-2-2.主張点a〜eについての検討 5-2-2-1.主張点aについて (A-1)〜(A-6)、(A-7)及び(B-1)〜(B-6)については、段落0009〜0027にそれぞれの要件の意義及び数値限定の意義が記載されており、さらに、段落0049〜0060に、これら要件に係る特性の測定方法と導出方法が記載され、段落0063〜0068に、多層フィルムの品質評価方法が記載されている。そして、実施例には、(A-1)〜(A-6)、(A-7)及び(B-1)〜(B-6)をすべて満足する多層フィルムが所期の効果を奏することが、また比較例には、(A-1)〜(A-6)及び(B-1)〜(B-6)の一部を満足しない多層フィルムが所期の効果を奏しないことが、具体的に示されており、これら記載の間に矛盾もない。 したがって、発明の詳細な説明の記載では、発明が解決しようとする課題及びその解決手段が不明であるとも、当業者が発明の技術上の意義を理解することができないともいうことはできないから、主張点aは採用しない。 5-2-2-2.主張点bについて (A-3)、(A-4)、(A-6)、(B-3)、(B-4)及び(B-6)の特性値は、MIa、MIb、χa又はχbを含む不等式で特定されるものであるが、各式の左辺に記載される特性、すなわち、沸騰ジエチルエーテル抽出量((A-3)、(B-3)に関連)、示差走査型熱量計で測定した融点[((A-4)、(B-4)に関連)、緩和時間((A-6)に関連)、及び、13C-NMRで測定したPEP連鎖部の割合((B-6)に関連)が、MIa、MIb、χa又はχbにより一義的に定まるものとは認められず、例えば、エチレン単位の含有量及びメルトインデックスが同一であっても、分子量分布が異なり、高分子量成分と低分子量成分との比率が変われば、沸騰ジエチルエーテル抽出量や示差走査型熱量計で測定した融点、緩和時間及び13C-NMRで測定したPEP連鎖部の割合が変わることは当業者に明らかな技術的事項であると認められ、さらに分子量分布を変更する方法として触媒系の変化などの手段があることも当業者に周知のことと認められる。 してみれば、(A-3)、(A-4)、(A-6)、(B-3)、(B-4)及び(B-6)の特性値について、MIa、MIb、χa、χbを固定して、これらを制御する手段について明細書に具体的な記載がないからといって、当業者が本件各発明を実施することができないとまでいうことはできない。 したがって、主張点bは採用しない。 5-2-2-3.主張点cについて 本件発明1〜3は、「プロピレン系ランダム共重合体の多層フィルム」という物の発明であるから、発明の詳細な説明には、当業者が、その物を作れることが記載されていることが求められるところ、先に5-2-2-1で述べたとおり、実施例として、(A-1)〜(A-6)、(A-7)及び(B-1)〜(B-6)をすべて満足する多層フィルムが記載されており、その際使用する触媒組成についても具体的記載があるから、発明の詳細な説明には、当業者が、その物を作れることが記載されているものと認められる。 しかも、本件各発明の多層フィルムの製造に使用できる触媒として、段落0029〜0044に、固体触媒成分、有機アルミニウム化合物、有機ケイ素化合物の成分ごとに、化合物名、成分組成、配合量などが具体的に記載されているから、当業者であれば、列記された組合せの中から最適と想定されるいくつかの組合せを選択して、効果を確認することが格別過度の試行錯誤や複雑高度の実験を求めるものであるとまでいうことはできない。 したがって、発明の詳細な説明の記載では、当業者が発明を実施することができないということはできないから、主張点cは採用しない。 5-2-2-4.主張点dについて プロピレン・エチレンランダム共重合体のダイアッドやトリアッドの連鎖分布を13C-NMRによって測定することは、当業者に周知であって、例えば、社団法人日本分析化学会編「新版高分子分析ハンドブック」(1995年1月12日、株式会社紀伊国屋書店発行)第615〜618ページなどに記載されており、PEP連鎖は、PPP、PPE、EPEと並んで通常決定が求められるものである(先の文献の第616ページ)ところ、本件明細書の段落0052〜0059には、13C-NMRの測定機器、及び具体的なPPP、PPE、EPE連鎖構造の決定方法が記載されているから、主張点dは採用しない。 5-2-2-5.主張点eについて プロピレン・エチレンランダム共重合体のエチレン含量をIRスペクトルの測定により決定することは当業者に周知であって、本件明細書段落0049に測定機器、波数、算出方法が記載されている。本件各発明においては、IRスペクトル解析における通常の方法を採用しているものと解することができるから、明細書の記載に格別の不備があるとは認められず、主張点eは採用しない。 5-2-3.主張2についてのまとめ 主張点a〜eはいずれも採用できないから、本件明細書の発明の詳細な説明に不備があるということはできない。 6.むすび 以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜3に係る特許を取り消すことができない。 また、他に本件発明1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2003-11-05 |
出願番号 | 特願平9-253208 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B32B)
P 1 651・ 536- Y (B32B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 平井 裕彰 |
特許庁審判長 |
高梨 操 |
特許庁審判官 |
石井 淑久 野村 康秀 |
登録日 | 2001-09-28 |
登録番号 | 特許第3235055号(P3235055) |
権利者 | 出光石油化学株式会社 |
発明の名称 | プロピレン系ランダム共重合体の多層フィルム |
代理人 | 大谷 保 |
代理人 | 片岡 誠 |