• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C03B
管理番号 1088091
異議申立番号 異議2003-72157  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1995-01-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-08-25 
確定日 2003-11-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第3381309号「ガラス微粒子堆積体の製造方法」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3381309号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次に示すとおりのものである(以下、「本件発明」という)。
「【請求項1】自らの軸を回転軸として回転している実質的に円柱状もしくは円筒状の出発材の片端近傍から該出発材の外周部上にガラス微粒子合成用バーナの火炎内にガラス原料を供給することにより生成させたガラス微粒子を堆積させ始め、該バーナを該出発材の軸と平行に相対的に移動させていくことによりガラス微粒子堆積体を該出発材の外周部に形成していく方法において、ガラス原料投入開始後定常状態に達するまでの移行段階においてはガラス原料ガスの流量を漸次増加してゆき且つ該ガラス原料ガスの流量変化率を初期では小さくその後より大きくなるように変化させると同時に原料ガスに混合する水素ガスまたはヘリウムガスの流量を漸次減少させてガラス微粒子の合成を行なうことを特徴とするガラス微粒子堆積体の製造方法。」
2.特許異議申立てについて
2-1.特許異議の申立ての理由の概要
特許異議申立人は、証拠方法として甲第1、2号証を提出して、請求項1に係る発明は甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る発明の特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり取り消されるべきものであると主張している。
2-2.甲各号証の記載内容
(1)甲第1号証:特開昭62-182132号公報:特許異議申立人の甲第1号証
(a)「自らの軸を回転軸として回転している実質的に円柱状もしくは円筒状の出発材の片端近傍から、該出発材の外周部上にガラス微粒子合成用バーナの火炎内にガラス原料を供給することにより生成させたガラス微粒子を堆積させ始め、該バーナを該出発材の軸と平行に相対的に移動させていくことにより、ガラス微粒子の堆積体を出発材の外周部に軸方向に形成していく方法に於いて、ガラス微粒子を堆積させ始める初期の段階において、上記ガラス原料の流量をガラス微粒子堆積状態が定常の際の流量よりも少ない流量に設定してガラス微粒子を堆積させ始め、ガラス微粒子の堆積状態が定常になるまでの間に、上記ガラス原料流量を上記定常時流量まで増量する、ことを特徴とするガラス微粒子堆積体の製造方法。」(特許請求の範囲第1項)
(b)「ガラス微粒子の出発材外周への初期堆積においては、第3図(a),(b)に示す如く、ガラス微粒子の定常堆積時第3図(c)の場合と比べて、著しくガラス微粒子の堆積面が小さくなっている。このため.ガラス微粒子合成用バーナにより合成されたガラス微粒子が、上記堆積面に付着する機会は非常に小さく、ガラス原料堆積効率は堆積開始初期の期間は定常時に比べて、小さくなってしまう。」(第2頁右上欄12〜20行)
(c)「したがって、この初期期間の間通常時のガラス原料流量をそのままガラス微粒子合成用バーナに投入した場合、低い収率のために、出発材に付着せずに廃棄される量は多量となり、ガラス原料の有効利用ができない。」(第2頁左下欄6行〜11行)
(d)「一方、ガラス微粒子堆積の初期の段階においては、出発材が過熱され、出発材回転軸と出発材の中心軸がずれる変形、いわゆる“ふれまわり”が生ずる場合があり、この対策として燃料流量を最初は定常時よりも少ない流量に設定して堆積を開始し、その後定常値まで燃料流量を増量させて上記の過熱を防止しふれまわりを抑えることができる。」(第3頁右上欄17行〜左下欄4行)
(e)第4頁第2図(b)には、横軸は時間、縦軸はガラス原料流量のグラフにおいて、定常ガラス微粒子堆積時の流量になるまで凹形の曲線であるグラフが図示されている。
(2)甲第2号証:特開平2-164734号公報:特許異議申立人の甲第2号証
(a)「多重管バーナから酸素ガス、水素ガス、パージガス及びガラス原料ガスを放出し、酸素・水素火炎中で前記ガラス原料ガスを加水分解してガラス微粒子を形成し、該ガラス微粒子を種棒に付着・堆積させて石英ガラススートを軸方向に成長させる石英ガラススートの製造方法において、少なくとも前記多重管バーナから前記酸素ガス及び水素ガスが放出される前に、該酸素ガス又は該水素ガスのいずれか一方又は双方に不活性ガスを混合することにより、形成中の前記石英ガラススートの成長端温度を調整することを特徴とする石英ガラススートの製造方法。」(請求項1)
(b)「このスート形成段階で、スート成長端は多重管バーナの酸素・水素火炎によって熱せられるが、スート成長端近傍の温度分布はスート密度に影響し、熱処理工程ての脱水性やプリフオームの半径方向ドーパント温度分布に重大な影響を及ぼす。」(第1頁右欄15行〜19行)
(c)「従来のスート成長端温度の調整は、多重管バーナの酸素流量又は水素流量のいずれか一方又は双方を調整することにより行なっていた。」(第1頁右欄20行〜第2頁左上欄2行)
(d)「石英製5重管バーナ2は、同心状5層のバーナであって、最内層の1層目にSiCl4.GeCl4混合ガス(キャリヤーガスはAr)、2層目にSiCl4ガス(キャリヤーガスはAr)、3層目にH2ガス、4層目にArガス1.5l/分、5層目にO2ガス15l/分を流した。3層目のH2ガス流量は10l/分とし、5層目のO2ガス15l/分にArガスを混合し、該混合Arガスの流量を0〜5l/分の間で変化させた場合、」(第2頁左下欄第2〜10行)
(e)「実施例2では、3層目のH2ガス流量を9l/分とし、この3層目にArガスを混合し、この混合Arガスの流量を0〜6l/分の間に不活性ガスを混合することにより」(第2頁左下欄第18行〜右下欄第1行)
(f)「なお、実施例1,2では、酸素・水素ガスの混合ガスとしてアルゴンガスを使用したが、窒素ガス、ヘリウムガス等の不活性ガスであればいずれを混合ガスとして用いてもよい。」(第3頁左上欄1行〜4)
2-3.対比・判断
甲第1号証の上記(1)(a)には「自らの軸を回転軸として回転している実質的に円柱状もしくは円筒状の出発材の片端近傍から、該出発材の外周部上にガラス微粒子合成用バーナの火炎内にガラス原料を供給することにより生成させたガラス微粒子を堆積させ始め、該バーナを該出発材の軸と平行に相対的に移動させていくことにより、ガラス微粒子の堆積体を出発材の外周部に軸方向に形成していく方法に於いて、ガラス微粒子を堆積させ始める初期の段階において、上記ガラス原料の流量をガラス微粒子堆積状態が定常の際の流量よりも少ない流量に設定してガラス微粒子を堆積させ始め、ガラス微粒子の堆積状態が定常になるまでの間に、上記ガラス原料流量を上記定常時流量まで増量するガラス微粒子堆積体の製造方法」が記載されている。
ここで「ガラス微粒子の堆積状態が定常になるまでの間に、ガラス原料流量を定常時流量まで増量」する点については、上記(1)(e)から「定常ガラス微粒子堆積時の流量になるまで凹形の曲線であるように増量する」ことが云えるから、刊行物1には「自らの軸を回転軸として回転している実質的に円柱状もしくは円筒状の出発材の片端近傍から、該出発材の外周部上にガラス微粒子合成用バーナの火炎内にガラス原料を供給することにより生成させたガラス微粒子を堆積させ始め、該バーナを該出発材の軸と平行に相対的に移動させていくことにより、ガラス微粒子の堆積体を出発材の外周部に軸方向に形成していく方法に於いて、ガラス微粒子を堆積させ始める初期の段階において、上記ガラス原料の流量をガラス微粒子堆積状態が定常の際の流量よりも少ない流量に設定してガラス微粒子を堆積させ始め、ガラス微粒子の堆積状態が定常になるまでの間に、上記ガラス原料流量を上記定常時流量まで凹形の曲線であるように増量するガラス微粒子堆積体の製造方法」という発明(以下、「甲1発明」という)が記載されていると云える。
そこで本件発明と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「ガラス原料流量を定常時流量まで凹形の曲線であるように増量する」点は、本件発明の「ガラス原料ガスの流量変化率を初期では小さくその後より大きくなるように変化させる」点に相当するから、両者は「自らの軸を回転軸として回転している実質的に円柱状もしくは円筒状の出発材の片端近傍から該出発材の外周部上にガラス微粒子合成用バーナの火炎内にガラス原料を供給することにより生成させたガラス微粒子を堆積させ始め、該バーナを該出発材の軸と平行に相対的に移動させていくことによりガラス微粒子堆積体を該出発材の外周部に形成していく方法において、ガラス原料投入開始後定常状態に達するまでの移行段階においてはガラス原料ガスの流量を漸次増加してゆき且つガラス原料ガスの流量変化率を初期では小さくその後より大きくなるように変化させガラス微粒子の合成を行なうガラス微粒子堆積体の製造方法」という点で一致し、次の点で相違していると云える。
相違点:本件発明では、「原料ガスに混合する水素ガスまたはヘリウムガスの流量を漸次減少させ」るのに対して、甲1発明ではそうしていない点
次にこの相違点を検討すると、
甲第2号証には、「多重管バーナから酸素ガス及び水素ガスが放出される前に、酸素ガス又は水素ガスのいずれか一方又は双方に不活性ガスを混合することにより、形成中の石英ガラススートの成長端温度を調整する」ことは記載されているが、この場合の不活性ガスを混合する「酸素ガス」、「水素ガス」は上記(2)(d)(e)から明らかなとおり、多重管の外層の「酸素ガス」、「水素ガス」であり、そこには「原料ガス」が存在せず、むしろ「原料ガス」が存在している最内層や2層目でのArの流量は変化していないのである。
してみると、甲第2号証には、「原料ガスに混合する水素ガスまたはヘリウムガスの流量を漸次減少させ」る点は示唆されていないものと云える。
なお、特許異議申立人は、甲第1号証の上記(1)(d)の記載を根拠に、堆積面が小さい初期には混合ガスの流量を多くし堆積面が増大するにつれ流量を漸減する旨主張しているが(特許異議申立書第6頁第25行〜第7頁第3行)、上記(1)(d)の記載から云えることは燃料流量を増量していくと云うことであって、このことは本件発明でも実施例で行っていることであり(本件特許掲載公報第3頁第5欄第35〜38行、第6欄第35〜39行)、この記載をもって、上記相違点が示唆されているとは云えない。
そして、上記相違点により、明細書記載の「ガラス微粒子堆積体製造初期における堆積面の変形を抑える」(本件特許掲載公報第3頁第6欄第48〜49行)という効果を奏すると云える。
してみると、上記相違点は当業者が容易に想到し得るものであるとすることはできない。
したがって、本件発明は、甲第1、2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。
3.むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠方法によっては、本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
したがって、本件請求項1に係る発明の特許は拒絶の査定をしなければならない特許出願に対してされたものと認めない。
よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14条の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令第205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-10-27 
出願番号 特願平5-168959
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C03B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 塩見 篤史  
特許庁審判長 石井 良夫
特許庁審判官 米田 健志
野田 直人
登録日 2002-12-20 
登録番号 特許第3381309号(P3381309)
権利者 住友電気工業株式会社
発明の名称 ガラス微粒子堆積体の製造方法  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ