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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G06F
管理番号 1088131
異議申立番号 異議2003-71420  
総通号数 49 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2000-10-13 
種別 異議の決定 
異議申立日 2003-05-27 
確定日 2003-12-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第3352972号「タッチパネル入力装置」の請求項1に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第3352972号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 1.本件発明
本件特許第3352972号(平成11年3月30日出願、平成14年9月20日設定登録)の請求項1に係る発明は、特許明細書及び図面の記載からみて、次の事項により特定されるとおりのものである。
「互いの対向面が導電体層(4)(5)で覆われた可動側透明板(2)及び固定側透明板(3)と、
2枚の透明板(2)(3)に、導電体層(4)(5)の周囲で密着し、導電体層(4)(5)間をわずかな間隙dを隔てて平行に支持するシール部(10)と、
シール部(10)により密封された2枚の透明板(2)(3)間に注入される透明な絶縁性液体(11)とを備え、
可動側透明板(2)を押圧して接触する導電体層(4)(5)間の接触位置から、押圧位置を検出するタッチパネル入力装置において、
固定側透明板(3)は、可動側透明板(2)との対向面を、ケミカル腐蝕法を用いて凹凸面(3a)としたソーダライムガラスであり、
ソーダライムガラスの凹凸面(3a)と、インジウム・スズ酸化物からなる導電体層(5)の間に、シリカのアンダーコートが施されていることを特徴とするタッチパネル入力装置。」
なお、請求項1には「酸化シリカのアンダーコートが施されている」と記載されているが、「酸化シリカ」と称せられる物質は存在せず、明細書の段落【0034】の「酸化シリカ(SiO2)によるアンダーコート(図示せず)が施されている。」の記載からみて、前記「酸化シリカ」は「シリカ」(「二酸化珪素」の別称)の誤記と認め、本件請求項1に係る発明(以下、本件発明という)を上記のように認定した。

2.申立ての理由の概要
申立人は、本件発明は、甲第1号証(特開平8-286812号公報)、甲第2号証(実公平8-2896号公報)及び甲第3号証(特開平8-64067号公報)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許がなされたものであり、したがって、本件特許の請求項1に係る特許は取り消されるべきである旨主張している。

3.取消理由通知で引用した刊行物
刊行物1;特開平8-286812号公報(申立人の提出した甲第1号証)には、以下の事項が記載されている。
・「絶縁性基板の片面に透明電極が形成された一対の透明電極付基板を、それぞれの透明電極が対向するように所定間隔離間して配置してなる透明描画タブレットにおいて、
少なくとも一方の前記透明電極付基板の透明電極が、その表面に複数の導電性突起を有し、かつ前記透明電極間に透明絶縁性液体層が形成されていることを特徴とする透明描画タブレット。」(請求項1)
・「前記導電性突起が、透明基板上に突起を形成し、次いで該突起形成面に透明電極を形成することにより得られた導電性突起であることを特徴とする請求項1に記載の透明描画タブレット。」(請求項2)
・「上記のように透明基板2aが可撓性を有する場合、透明基板2bは、可撓性を有する透明基板であっても、ガラス基板などのような剛直な透明基板であってもよい。
透明基板2a、2bの片面には、それぞれITOなどの導電性被膜からなる透明電極3a、3bが形成されており、この透明電極3a、3bの少なくとも一方に固定されたスペーサ5を介して透明基板2a、2bが配置されている。」(段落【0014】〜【0015】)
・「本発明によれば、透明電極間に形成された透明絶縁性液体層、および必要に応じて透明絶縁性液体層に含有される屈折率調整物質により透明電極間の屈折率差を小さくして透明描画タブレットに光が透過する際に生じる光散乱を抑止することができ、この結果、透明描画タブレットを画像表示装置の前面板上に付設し、透明描画タブレットを通して画像表示装置の表示画面に表示された画像を観察した場合に表示画面に表示された微細な文字、細線等がはっきりと読み取れる透明描画タブレットが提供される。
また、本発明によれば、少なくとも一方の透明基板の電極側に透明電極間距離よりも低い導電性突起が点在して形成されているので、このような導電性突起が形成されていない従来の透明描画タブレットに比較して文字、図形などの画像を入力する際の必要筆記入力荷重を低減することができる。
さらに、本発明によれば、
イ)筆記跡がすぐに消滅する(直ちに元の状態に復元する)透明描画タブレット
ロ)入力側基板に誤って手や指が触れて押圧したとき上下に導通が生ずる最低荷重(お手付荷重)とペン等での入力に必要な最低荷重(必要入力荷重)の差が大きく、このため、誤入力が防止できる透明描画タブレット
ハ)ペンで多数回入力をくり返しても透明電極が損傷することがなく、耐久性に優れている透明描画タブレットなどが提供可能である。」(段落【0037】〜【0039】)
・「透明絶縁性液体の注入口を除く基板2-2の電極面周縁部に紫外線硬化樹脂((株)スリーボンド製紫外線硬化樹脂スリーボンド3025)をスクリーン印刷した後、この基板2-2と基板1-1とをそれぞれの基板の電極面が対向するように重ね合わせ、紫外線照射によって上記紫外線硬化樹脂を硬化させることにより、透明絶縁性液体の注入口を除く基板2-2と基板1-1との周縁部を接合した。前記注入口から基板2-2の透明電極と基板1-1の透明電極との間を減圧しながら、この透明電極間に透明絶縁性液体としてシリコーンオイル(信越化学工業(株)製シリコーンオイルKPN-3504)を充填した後、前記注入口を紫外線硬化樹脂〔(株)スリーボンド製紫外線硬化樹脂スリーボンド3026〕で密閉し、次いで70℃で30分熱処理することにより、透明描画タブレットを製造した。」(段落【0050】〜【0051】)
これらの記載によれば、刊行物1には以下の発明が記載されている。
「互いの対向面が導電体層で覆われた可動側透明板及び固定側透明板と、
2枚の透明板に、導電体層の周囲で密着し、導電体層間をわずかな間隙を隔てて平行に支持するシール部と、
シール部により密封された2枚の透明板間に注入される透明な絶縁性液体とを備え、
可動側透明板を押圧して接触する導電体層間の接触位置から、押圧位置を検出するタッチパネル入力装置において、
固定側透明板は、可動側透明板との対向面に複数の突起を形成したガラス基板であり、
突起を形成したガラス基板にITO(インジウム・スズ酸化物)からなる導電体層が形成されていることを特徴とするタッチパネル入力装置。」

刊行物2;実公平8-2896号公報(申立人の提出した甲第2号証)は、「タッチスイッチ及びタッチスイッチ付ディスプレイ」に係るものであり、以下の点が記載されている。
・「本考案では、タッチスイッチの一対の透明電極付基板の、少なくとも一方の透明電極付基板の電極側の表面に、その高さが基板間隔よりも小さい微細な凹凸を形成しているので、基板間隙が微細な状態では大きく変動していることになり、光の干渉縞はほとんど発生しない。」(公報第3欄第29〜33行)
・「この微細な凹凸を基板自体に形成する場合には、化学的または物理的に基板を加工すればよく、例えば、ガラス基板をフッ酸で処理したり、微細な粒子による表面の傷形成をしたりすればよい。」(公報第4欄第21〜24行)

刊行物3;特開平8-64067号公報(申立人の提出した甲第3号証)は、「ペン入力タッチパネル」に係るものであり、以下の点が記載されている。
・「酸化珪素薄膜層は、二酸化珪素及び一酸化珪素を主成分とする化合物であり、具体的には、SiOx、特にxの値が1.5〜2.0のもの、より好ましくは、1.7〜2.0のものがより高い透明性を有することから好ましい。」(段落【0012】)
・「非押圧側の基板は透明ガラス基板からなり、その上に酸化珪素薄膜層を設け、更にインジウムスズ酸化物薄膜層を設けた透明薄膜電極基板からなるが、これは特に制限されるものでなく、通常市販されているアルカリガラス基板に酸化珪素薄膜層、インジウムスズ酸化物薄膜層を順次積層し、透明性の良い、透明薄膜電極の寿命の良い透明導電性ガラス基板としたものである。」(段落【0016】)
・「押圧側の基板に、プラスチックフィルム上に所定の厚さの酸化珪素薄膜層と所定の表面抵抗値をもつITO膜層とを設けた透明導電性フィルムを用いることにより、高い透明性と熱安定性に優れ、且つペン入力の摺動耐久性に優れると共に低消費電力で耐ノイズ性の良いペン入力タッチパネルが得られた。これは、酸化珪素薄膜層がITO膜層のインジウムの拡散を防ぎ、更に、プラスチックフイルムとITO膜層との密着性の改善の役目を果たした為だと考えられる。
更に、特定寸法の絶縁性スペーサと、透明性が良く、透明薄膜電極の寿命の長い透明導電性ガラス基板と組み合わせることにより、より透明性の良い、よりペン入力の摺動耐久性に優れたペン入力タッチパネルが得られた。」(段落【0017】の【作用】の欄)

さらに、取消理由通知においては、特開平7-244872号公報(以下、刊行物4という)、特開平9-244008号公報(以下、刊行物5という)、特開平10-3646号公報(以下、刊行物6という)を引用しているが、刊行物4には、光ディスク原盤の表面形状の劣化を防止するため、SiO2を主成分とする金属溶出防止膜をガラス表面に形成することが、刊行物5には、ガラス基板上に形成した回折格子用の凹凸部に液晶を充填した光変調素子の、液晶の配向特性へ悪影響が及ばないように、凹凸部の表面にSiO2のバリアコートを設けることが、刊行物6には、ガラス磁気ディスクのガラス中からアルカリ成分が溶出して磁気膜が劣化しないように、ガラス表面にシリカ層を付すことが、それぞれ記載されている。

4.対比・判断
本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載された発明において、固定側透明板面に複数の突起を形成することにより凹凸面が形成されているといえるから、両者は、
「互いの対向面が導電体層で覆われた可動側透明板及び固定側透明板と、
2枚の透明板に、導電体層の周囲で密着し、導電体層間をわずかな間隙を隔てて平行に支持するシール部と、
シール部により密封された2枚の透明板間に注入される透明な絶縁性液体とを備え、
可動側透明板を押圧して接触する導電体層間の接触位置から、押圧位置を検出するタッチパネル入力装置において、
固定側透明板は、可動側透明板との対向面を凹凸面としたガラス基板であり、
ガラス基板にインジウム・スズ酸化物からなる導電体層が形成されていることを特徴とするタッチパネル入力装置。」
で一致し、以下の点で相違する。
a.ガラス基板について、本件発明がソーダライムガラスと特定しているのに対し、刊行物1に記載された発明においては、特定していない点、
b.本件発明が、ケミカル腐蝕法を用いて凹凸面を形成しているのに対し、刊行物1に記載された発明においては、複数の突起を形成することにより凹凸面としている点
c.本件発明においては、ガラス凹凸面とインジウム・スズ酸化物からなる導電体層の間に、シリカのアンダーコートが施されているのに対し、刊行物1に記載された発明においては、ガラス凹凸面に直接インジウム・スズ酸化物からなる導電体層が形成され、アンダーコート層を施していない点

相違点につき検討する。
刊行物1に記載された複数の突起を形成することにより凹凸面とした面表面の形状と、本件発明におけるケミカル腐蝕により凹凸面とした面表面の形状とは、特に、本件特許明細書の【発明が解決しようとする課題】の欄に記載されているようにタッチパネルを傾斜させた場合、透明板間に注入されている絶縁性液体がどのように移動するかを考慮すると、同様の作用効果を奏するものとは認められない。タッチスイッチを構成するガラス表面にケミカル腐蝕法を用いて凹凸面を形成することは刊行物2に記載されているが、刊行物2は、2枚の透明板間に透明な絶縁性液体を注入したものではなく、干渉縞の発生の防止のために微細な凹凸を基板に形成したものであり、これを、絶縁性液体が透明板間に注入されているタッチパネルを傾斜させた場合について何ら配慮されていない刊行物1に記載された発明に転用することが、当業者の容易に想到し得るところと認めることはできない。また、タッチパネルを構成するアルカリガラス基板に酸化珪素薄膜層、インジウムスズ酸化物薄膜層を順次積層することは刊行物3に、ガラス板表面にシリカ層を設けることによりガラス板からのアルカリ成分の溶出を防止することは刊行物4ないし刊行物6に、それぞれ記載されているが、これら刊行物3ないし6は、いずれも2枚の透明板間に透明な絶縁性液体を注入したものではなく、刊行物4ないし刊行物6は導電層さえも形成されていないので、前記刊行物2に記載された事項を刊行物1に記載された発明に転用することの困難性を併せ考慮すると、本件発明が刊行物1ないし刊行物6に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。

5.むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては本件請求項1に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2003-11-13 
出願番号 特願平11-88371
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G06F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保田 昌晴前田 仁  
特許庁審判長 下野 和行
特許庁審判官 内田 正和
治田 義孝
登録日 2002-09-20 
登録番号 特許第3352972号(P3352972)
権利者 SMK株式会社
発明の名称 タッチパネル入力装置  
代理人 早崎 修  

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