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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K
管理番号 1089731
審判番号 不服2000-15343  
総通号数 50 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1993-05-14 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2000-09-27 
確定日 2004-01-09 
事件の表示 平成3年特許願第309975号「冷熱蓄熱材」拒絶査定に対する審判事件[平成5年5月14日出願公開、特開平5-117639]について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成3年10月28日の出願であって、本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成11年11月2日付けの手続補正書により補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものであるところ、請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載された次のとおりのものである。
「【請求項1】
10℃以下の融点を有する炭化水素系蓄熱成分と、熱可塑性エラストマー成分とが機械的手段にて強制的に混合されてなる冷熱蓄熱材。」
2.引用例
引用例1:特開平3-66788号公報
引用例2:特開平2-209986号公報
引用例1には、
a.蓄熱材に係る発明として、
「(1)パラフィン類及び熱可塑性エラストマーを主成分として成ることを特徴とする蓄熱材。
(2)パラフィン類100重量部に対し熱可塑性エラストマーが5〜30重量部である第1請求項に記載の蓄熱材。
(3)形状がシート状もしくは板状である第1請求項または第2請求項に記載の蓄熱材。」(特許請求の範囲)、
b.上記パラフィン類について、
「本発明に於いて使用されるパラフィン類としては、JIS K 7121(プラスチックの転移温度測定方法)に従って測定したTmaxが使用温度、即ち室温〜100℃好ましくは室温〜80℃前後の温度域にある有機化合物が使用される。但しこの際の室温とは、本発明の蓄熱材がその稼働中に遭遇する最低温度を意味する。パラフィン類の好ましい具体例としては、各種パラフィン、ロウ、ワックスをはじめ、・・・ポリエチレングリコール等のアルコール類を例示することが出来、これ等1種が単独で、または2種以上の混合物として使用される。上記した使用温度において、パラフィン類のあるものは唯1つの結晶転移温度を有し(この場合はその温度がTmaxとなる。)、またあるものは2以上の多数の結晶転移温度を有する。2種以上のパラフィン類の混合物も2以上の多数の結晶転移温度を有する場合が多い。それらの場合においては、最高の結晶転移温度がTmaxに該当する。本発明で使用するパラフィン類は、必ずしも明確な融点(全体が固体から液体に相変化する温度)を示すものに限定しないが、多くのパラフィン類については、一般にTmaxが融点に該当する。使用温度において、2以上の多数の結晶転移温度を有するパラフィン類の場合、それら全ての結晶転移温度を蓄熱に利用することが出来る。」(第2頁右下欄7行〜第3頁左上欄13行)、
c.熱可塑性エラストマーについて、
「本発明に於いて使用される熱可塑性エラストマーとしては、ゴム並びにプラスチックスの分野で「熱可塑性エラストマー」として知られている、あるいは知られ得るもののうち、少なくとも前記した室温以上で且つ使用したパラフィン類のTmax+10℃の温度域では、好ましくは少なくとも室温以上で且つTmax+20℃の温度域では、ゴム弾性を有するものが使用される。勿論、Tmax+20℃より高温度でもゴム弾性を持続するものも使用出来る。具体的にはスチレン系、オレフィン系、ウレタン系、エステル系等の各種の従来公知の熱可塑性エラストマーのなかから上記条件に適合したものが適宜に選択して使用される。好ましい具体例としては、スチレン系ブロック共重合体エラストマー及びオレフィン系エラストマーである。この際のスチレン系ブロック共重合体エラストマーとしては、たとえばA-B-A(但しAはポリスチレン、Bはポリブタジエン、ポリイソプレン、またはこれ等に水素を付加したエチレン・ブチレン等を示す)を例示出来る。またオレフィン系熱可塑性エラストマーとしては、たとえばエチレン-プロピレン共重合体やエチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体にポリエチレンまたはポリプロピレンが混合された混合物、エチレン-プロピレン共重合体やエチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体にエチレンまたはプロピレンがグラフト重合されたもの等を例示することが出来る。本発明に於いてはパラフィン類100重量部に対し、熱可塑性エラストマーを5〜30重量部配合する。この際5重量部に達しない場合には形態を保つのに不充分であって、このためパラフィン類のTmax以上に於いては溶融、滴下、液体のブリードが生じ易く、一方、Tmax以下では脆く割れやすくなる。また30重量部を超えると単位体積当たりの蓄熱量が低下することとなり好ましくない。」(第3頁左上欄14行〜同左下欄10行)、
d.蓄熱材の成形方法について、
「本発明蓄熱材の成形方法としては、特に限定され(「れ」は脱字)ないが好ましい方法を例示すると以下の通りである。即ち2本ロール、押出機、2軸混練押出機、撹拌式混合機等の通常の混合・撹拌機を使用してまずパラフィン類と熱可塑性エラストマーを主成分とした組成物を調製する。撹拌機を使用する場合には溶融状態にあるパラフィン類に熱可塑性エラストマー及び他の成分を加えて撹拌する。この際、熱可塑性エラストマーはペレット状や粒状としておいてから加えると作業性が向上する。添加温度は熱可塑性エラストマーの熱可塑化域であることが好ましく、通常100〜200℃ある。」(第3頁右下欄2〜13行)、
e.実施例として、
「以下に実施例を示して本発明を詳しく説明する。
実施例1〜5、比較例1〜4
第1表に示す組成(割合は全て重量部)について、まずパラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ステアリン酸等のパラフィン類を容器中で130℃〜180℃に昇温、溶融しておき、他の熱可塑性エラストマー、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体ゴム(EPDM)、ポリエチレン等を加え約60〜120分間撹拌混合した。これを型に流し込んで空冷させ、130mm×110mm×2mm厚の板状の実施例1〜5、比較例1〜4の蓄熱材を得た。
・・・
測定結果を第1表に示すが、本発明の実施例1〜5の蓄熱材はいずれも35kcal/kg以上の蓄熱量を有し、実用的に必要な他の特性も満足するものであった。一方比較例は蓄熱量が不足であるか又は他の特性が不充分であった。」(第4頁左上欄18行〜同左下欄20行、第5頁第1表参照)、特に、第1表の蓄熱材組成の欄に「スチレン系熱可塑性エラストマー(注3);(注3)スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体、シェル化学社製商品名クレイトンG1650」(第1表抜粋)、
f.発明の効果について、
「本発明の蓄熱材は、30kcal/kg以上、好ましくは35kcal/kg以上の高レベルの潜熱を有し、しかも使用したパラフィン類のTmaxまたは融点以上においても溶融、滴下、相分離、液体のブリード等がなく、しかも融点以下でも脆くなく、シート状に成形しても割れることがなく適度な柔軟性を有する。以上により本発明の蓄熱材は、深夜電力を利用する蓄熱式床暖房に好適であり、床暖房用以外にも同様な用途に使用し得る。」(第5頁左下欄20行〜同右下欄8行)と記載されている。

引用例2には、
g.冷熱用蓄熱材に係る発明として、
「1.炭素数10〜20のα-オレフィンを水素添加して得られ、かつ、1〜20℃の融点を有する炭化水素化合物からなる冷熱用蓄熱材。
2.炭素数10〜20のα-オレフィンを水素添加して得られ、炭素数の異なる炭化水素化合物の混合物からなり、かつ、1〜20℃の融点を有する冷熱用蓄熱材。」(特許請求の範囲)、
h.発明の効果について、
「本発明による冷熱用蓄熱材を使用することにより、吸収式冷凍機等の約0℃〜10数℃の温度領域に関して効率的な蓄熱が可能となり、総エネルギーの高効率化が実現できる。」(第4頁右上欄13〜16行)と記載されている。
3.対比
本願発明を分節すると、
A.10℃以下の融点を有する炭化水素系蓄熱成分と、
B.熱可塑性エラストマー成分とが
C.機械的手段にて強制的に混合されてなる
D.冷熱蓄熱材
となる。
そして、発明の詳細な説明をみると、
A.10℃以下の融点を有する炭化水素系蓄熱成分は、
「【0014】
2〜10℃の融点を有するもの。
例えば下記の如くである。
成分名 融点(℃)
シクロヘキサン 6.5
トランス2デカロン 6
デシルアルコール 7
テトラデカン 5.5
ペンタデカン 9.7
この成分は特に冷房用蓄熱材として好適である。
【0015】
・・・-2〜-20℃の融点を有するもので、・・・
好ましい具体例は以下の通り。
成分名 融点(℃)
ノニルアルコール -5
トリデカン -5.5
ドデカン(「トデカン」は誤記)-12
ジブチルケトン -6
シクロヘプタン -12
オクチルアルコール -14
グリコール -11
ジエチレングリコール -10.5
【0016】
・・・成分はまた1種又は2種以上で使用され、その混合によってあるいは他の成分との混合によって融点を調整することもできる。」であり、
B.熱可塑性エラストマー成分は、
「【0018】
ゴム並びにプラスチックスの分野で「可塑性エラストマー」として知られている、或いは知られ得るもののうち、少なくとも前記した室温以上で、且つ使用したパラフィン類のTmax+10℃の温度域では、好ましくは少なくとも室温以上で且つTmax+20℃の温度域では、ゴム弾性を有するものが使用される。勿論Tmax+20℃より高温度でもゴム弾性を持続する物も使用できる。
【0019】
具体的には、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、エステル系等の各種の従来公知の熱可塑性エラストマーが例示できる。」、
「【0036】【表1】
熱可塑性エラストマー(注1)
【0034】
注1.シェル化学社型 「クレイトンG1650」」であり、
C.機械的手段にて強制的に混合するとは、
「【0025】
機械的手段にての混合とは、炭化水素系蓄熱成分と熱可塑性エラストマーの双方中の少なくとも1成分の溶融物に残余の成分が少なくとも膨潤、好ましくは溶解することにより、或いは高温度により、混合対象となるいずれの成分も外力にて流動変形しうる状態において撹拌、混合、或いは混練する行為を意味する。例えば常温〜200℃に保持された炭化水素系蓄熱成分に熱可塑性エラストマーを溶解し、得られる溶液を撹拌混合する態様、混合各成分が軟化する温度、例えば常温〜200℃で2本ロール、バンバリーミキサー、押出機、2軸混練押出機等の通常の混練機を使用して混練混合する態様が例示される。」であり、
D.冷熱蓄熱材とは、
「【0037】
本発明の冷熱蓄熱材は、蓄熱温度以下では硬化、固体であるのはもちろん、蓄熱温度以上の温度でも液化せず、固体状態を保持し、かつ、炭化水素系蓄熱成分が分離、あるいはブリード(滲み出す)することがないので冷房、冷蔵用途に有効に使用できる。」である。
そこで、本願発明と引用例1に記載された発明とを対比すると、
本願発明のB.熱可塑性エラストマー成分と引用例1記載のc.熱可塑性エラストマーとは、両者の実施例(B.e.参照)で、シェル化学社型 「クレイトンG1650」を共通して用いていることからみて一致するし、
C.機械的手段にて強制的に混合されてなる点も引用例1記載のd.と相違するところはないが、
(1)本願発明では、「A.10℃以下の融点を有する炭化水素系蓄熱成分」であるのに対し、引用例1には、パラフィン類(炭化水素系蓄熱成分)との記載はあるが、融点については、摘示b.に「Tmax(融点の最高値)が使用温度、即ち室温〜100℃好ましくは室温〜80℃前後の温度域にある有機化合物が使用される。但しこの際の室温とは、本発明の蓄熱材がその稼働中に遭遇する最低温度を意味する。」と記載されるにとどまるし、また(2)本願発明では、D.冷熱蓄熱材であるのに対し、引用例1の発明は、蓄熱材である点で相違する。
4.判断
それらの相違する点について検討する。
相違点(2)について
本願発明の冷熱蓄熱材と引用例1記載の蓄熱材とは、蓄熱温度(蓄熱材の融点)が異なるものであり、それぞれの蓄熱温度を、冷熱蓄熱材は10℃以下に、蓄熱材は室温以上に設定したものである。
そして、本願発明の冷熱蓄熱材及び引用例1記載の蓄熱材は、蓄熱温度付近での相変化に伴う蓄熱-放熱を利用するという共通する熱的性質を利用する技術である点で、実質的に同一の技術分野に属するものといえるから、上記(2)のD.冷熱蓄熱材であるか蓄熱材であるかの相違は、格別の相違ではない。
相違点(1)について
引用例2には、炭素数10〜20のα-オレフィンを水素添加して得られ、かつ、1〜20℃の融点を有する炭化水素化合物を冷熱用蓄熱材として適用することが記載されているが、炭素数10〜20のα-オレフィンを水素添加して得られる炭化水素化合物は、本願発明の「A.10℃以下の融点を有する炭化水素系蓄熱成分」に相当するものである。
そして、相違点(2)の判断で述べたとおり、蓄熱温度を室温以上と設定することも、10℃以下と設定することも、所望により随意になし得る設定的事項である。
してみれば、引用例1記載の発明において、蓄熱温度の設定を下げることを考慮して、融点が室温以上のパラフィン類蓄熱材にかえて、引用例2記載の融点が10℃以下のパラフィン類に包含される蓄熱材を適用するようにすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。
そして、効果をみても、本願発明では、「【0037】本発明の冷熱蓄熱材は、蓄熱温度以下では硬化、固体であるのはもちろん、蓄熱温度以上の温度でも液化せず、固体状態を保持し、かつ、炭化水素系蓄熱成分が分離、あるいはブリード(滲み出す)することがない。」との効果を奏するのに対し、引用例1記載のものは、「本発明の蓄熱材は、使用したパラフィン類のTmaxまたは融点以上においても溶融、滴下、相分離、液体のブリード等がなく、しかも融点以下でも脆くなく」であり、両者の効果は同等であるといえ、格別なものは認められない。
ところで、請求人は、常温で液体の冷熱蓄熱成分を、たとえ樹脂やゴムのベース基材に混合して一旦一体組成化しても、使用時(蓄熱、吸熱をした場合)には、ベース材から大量の液体の冷熱蓄熱成分が出て来ることが容易に予想できたから、常温で液体の冷熱蓄熱成分を用いた冷熱蓄熱材と常温で固体である蓄熱成分を用いた蓄熱材を同様に取り扱うことが可能なことは、予期し得ない旨(請求の理由の(5)〜(7))主張している。
その点を検討すると、引用例1記載の発明のものでは、使用温度の液体状態(Tmax+20℃)で蓄熱成分が滲み出し(ブリード)を起こさないものであるから、本願発明においても、該使用温度に相当する常温で、液体状態で冷熱蓄熱成分が滲み出し(ブリード)を起こさないと推認するのが自然であるといえるから、冷熱蓄熱成分の使用により、ベース材から大量の液体の冷熱蓄熱成分が出て来ることが容易に予想できたことを根拠とする請求人の上記主張は採用できない。
したがって、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
5.むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、他の請求項である請求項2ないし3に係る発明について検討するまでもなく、本願は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2003-10-29 
結審通知日 2003-11-04 
審決日 2003-11-18 
出願番号 特願平3-309975
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡辺 陽子  
特許庁審判長 板橋 一隆
特許庁審判官 鈴木 紀子
佐藤 修
発明の名称 冷熱蓄熱材  

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